●リプレイ本文
通遼空港上空で空中戦の幕が上がる――。
クラリッサ・メディスン(
ga0853)のシュテルンがK02ミサイルでタロスをロックオンする。
全弾ミサイルを放出。500発のミサイルがタロスに向かって襲い掛かる。
ミサイルが次々と着弾。凄まじい爆炎が空中で炸裂する。
「全弾命中しました――タロスは健在。反撃が予想されます」
イビルアイズに乗るナンナ・オンスロート(
gb5838)は、いつでもロックオンキャンセラーを発動できる準備はしていた。
「よお、まだ終わっちゃいないぜ。舞踏会の始まりには、うってつけの大花火だ。受け取れ!」
雑賀幸輔(
ga6073)のディスタンが爆炎に向かってミサイルを全弾発射する。
「俺からもプレゼントだ。受け取ってくれ」
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)もアグレッシブファングを乗せて、UK−10AAMミサイルを叩き込む。
ナンナがレーダーを操作して、敵機タロスをナンバリングする。
「各機、ロッテを形成して攻撃を開始せよ。‥‥敵は新型です。警戒しつつ攻撃に当たって下さい」
「ラジャー」×9
鳴神伊織(
ga0421)は紅アリカ(
ga8708)とロッテを形成すると、タロスに向かって突撃を開始する。
「敵の増援の阻止ですか、厳しい依頼ですけど‥‥ここで果てる積りもありませんからね。まあ‥‥いつも通りに事を運ぶ事にしましょう。相手が新型と言えど、やる事は変わらないのですから」
爆炎を割って悠然と浮かび上がってくるタロス。
「‥‥これがタロス‥‥、どこまで食らいつく事ができるかしら。行くわよ、「黒鳥(ブラックバード)」‥‥」
アリカは漆黒のシュテルンを加速させると、タロスに近接する。
ぶうん‥‥と、この未知のゴーレムは加速した。
アリカはアハトレーザーを連射するが、タロスは高速慣性飛行で回避する。
「‥‥速いわね‥‥」
反撃のプロトン砲が飛んでくる。伊織は直撃を食らったが、アリカはかわした。
「ふふ、我が軍の新兵器の恐ろしさをとくと味わうが良い‥‥」
すると、タロスの動きが急激に加速する。
アリカのアハトレーザー、伊織のスラスターライフルが半分近くかわされる。
「このスピードは‥‥一体」
伊織はスラスターライフルを叩き込んだが、今度は全てよけられた。
「こんなものではないぞ。タロスの力はな‥‥!」
ほとばしるプロトン砲の閃光がアリカと伊織の機体を捕らえると、爆発が起こって、二人とも目が眩んだ。
「‥‥やるわね‥‥」
「アリカさん、このタロス、簡単に倒れてくれる相手ではなさそうですね」
「‥‥ええ、何とか食らいつくしかないわね‥‥ウイングで攻撃すれば‥‥」
アリカと伊織は高い機動力を見せるタロスにライフルを打ち込みながらバレルロールで突撃し、スロットルを吹かせるとソードウイングで切り込んだ。
「ちいっ!」
タロスの動きが急激に落ちる。能力が上がるのはそれほど長い時間では無いようだ。
シュテルンのウイングがタロスを捉える――装甲と生体の胴体を切り裂き、タロスは大爆発を起こした。
「おのれい‥‥だが戦いはこれからよ! タロスの基本性能、この程度では無いわ!」
強化人間の怒号が回線に流れる。見ると、タロスの生体部分が見る見る回復していく。
「‥‥そちらが攻撃を受けても再生するなら、こちらはそれを上回る攻撃をすればいいだけ。無限に再生し続けるだけの力はないはずだからね‥‥」
アリカは目前のタロスを見据えると、操縦桿を傾けた。
クラリッサとナンナのロッテはタロスを一機相手にしていた。
ナンナはクラリッサを支援しながらレーダーの光点を見つめていた。
友軍はタロスと互角の戦いを見せている様子だ。ぐるぐると動き回る光点を見やりつつ、ナンナは仲間達に戦況の様子を伝えている。
「友軍各機へ、敵は未知の新型ではありますが、こちらの攻撃も確実にヒットしています。冷静に行きましょう。時折変則機動が見られますが、捕らえきれないことはありません」
「よおナンナ。ナビゲートご苦労さんだな。帰ったらみんなで美味いもんでも食いにいこうぜ」
回線から流れてくるのはナンナの友人アレックス(
gb3735)の声。幾多の死線をともに越えてきた絆は固い。
「アレックスさん――今回の任務から私が生きて帰ることが出来る確率は恐らく80パーセントですね。私が生きて帰ることが出来たらご一緒しましょう」
「お前なあ‥‥生きて帰るに決まってんだろうが」
「お二人さん。その話は後にした方がいいわね。‥‥まあそれにしたって80パーセントと言うのは悲観しすぎじゃないかしらね」
クラリッサはタロスに向かってライフルを打ち込みながら回線にお邪魔する。
「クラリッサ、ナンナをよろしく頼むぜ」
「任せておきなさい。ナンナさんには指一本触れさせないわ」
クラリッサは無線を切ると、眼前のタロスに向かう。
背後からはナンナの支援攻撃が行われる。ナンナは適度に距離を保ち、最大射程の外からさらに離れて威嚇射撃を行っている。
「新兵器といえど、すでに戦場では仲間の傭兵の手で倒されている以上、必要以上に恐れる必要など皆無ですわ。我々の手できっちり始末を付けて、後に続く人々の負担を少しでも削って差し上げませんといけませんわね」
クラリッサは呟くと、タロスにライフルを叩き込む。
「はは、こざかしいわ‥‥!」
ぶうん‥‥とタロスが加速する。プロトン砲を5連射する。うち三発が直撃する。
「くっ‥‥何ですって」
連打を食らったクラリッサは揺れるコクピットで操縦桿を懸命に操作する。
「見たか! タロスの力を!」
「やるわね‥‥新型機か‥‥」
クラリッサは距離を保ってミサイル攻撃に切り替える。
「ふははは! そんな鈍重なミサイルなど、タロスにはかすりもせん!」
ミサイルを素早く回避するタロス。反撃のプロトン砲が嵐のように飛んでくる。
クラリッサは必死の操縦で何とか攻撃をかわすが、何発かが命中する。
「クラリッサさん!」
ナンナのジャミングも効いているはずだが、タロスの秘めたる力はそれ以上か。
やがて、異常な機体能力の上昇が切れると、タロスの動きはがくりと落ちた。
クラリッサは突進すると、ミサイルを叩き込み、ライフルを叩きつけた。
「さっきまでのが嘘みたいね‥‥」
クラリッサの攻撃が当たり前のように命中する。タロスは銃撃を受けて装甲や生体にダメージを受けると、例のごとく再生能力でそれを回復していく。
「タロスの力はお前達のナイトフォーゲルなど、易々と越えているのだ!」
強化人間はコクピットで牙をむき出して襲い掛かってくる。
ディスタンのイクシード・コーティングを発動させる雑賀幸輔(
ga6073)。僚機のアンジェラ・ディック(
gb3967)のSESエンハンサーがアハトレーザーでタロスの装甲を貫通する。雑賀はショルダーキャノンを叩き込み、一気に加速してソードウイングで切り付ける。
「当てられるつもりならついて来い! 先に当てたらキャンディをやるぜ!」
大爆発するタロス。雑賀のディスタンはタロスの反撃を軽々とかわし、後退しながらキャノンを打ち込んでいく。
「ナンナ機、ナビゲートを頼むぜ。アンジェラ機に負担を掛けたくない。うまくクロスファイヤポイントを割り出してくれ」
「しばらくお待ち下さい」
無線の向こうで、ナンナはイビルアイズのコンソールを操作する。
「お伝えします。雑賀さんは南へ200メートル、アンジェラさんは北東へ500メートルのポイントへ移動して下さい。挟撃ポイントになります」
「助かったぜ。行くぜアンジェラ」
「了解」
雑賀とアンジェラはタロスを牽制しながらポイントに着く。アンジェラはエンハンサー起動でG放電ミサイル、雑賀はショルダーキャノンを連打した。
十字砲火を浴びて爆発炎上するタロス、だが、それも束の間のこと。タロスの機動力が増大して加速する。
「驚くのはこれからだ人間どもよ!」
「速い――!」
アンジェラは急速で離脱、雑賀はアンジェラとタロスの間に割って入った。
「死ね! これがタロスの力だ!」
タロス二体からプロトン砲がほとばしって10連射の怪光線が襲い来る。
「ちいっ! これでも――!」
雑賀は跳ねる様にディスタンを操り、プロトン砲を全弾回避する。
「何! かわした!」
雑賀は驚く強化人間に逃げる隙を与えず、近接してソードウイングで切りかかった。が、今度はタロスがウイングをかわした。
「かわしたって!」
「甘いわ! このタロスにナイトフォーゲルの格闘攻撃など効かぬわ! 死ぬがいい!」
飛び交うタロスの至近距離からプロトン砲が嵐のように飛んでくるが、雑賀はかわした。
「雑賀殿!」
「来るなアンジェラ! こいつの化け物じみた動き、きみのアンジェリカじゃ蜂の巣だ!」
「だけど‥‥ワタシも黙って見てはいられないわね」
アンジェラは距離を保ちながら、アハトレーザーで威嚇射撃で支援した。
「ふふ‥‥我らと戦えるのは限られた機体のみか! 脆弱な機体に搭乗する傭兵から落としてくれるわ!」
二機のタロスは旋回すると、アンジェラの機体に猛進した。
「アンジェラ――! 貴様ら! お前達の相手はこっちだ!」
「ふははは! 無駄なあがきよ! 撃墜してくれる!」
タロスのプロトン砲がアンジェラの機体を貫通して大爆発を起こす。
「くっ‥‥! 速い――!」
アンジェラは一瞬死を覚悟した。コクピットが閃光に包まれ何も見えなくなる。激しく揺れるコクピットの一部がスパークして爆発した。操縦桿ががっちり固定されたように言うことをきかない。フラッシュが開けた時には、タロスの一機が悠然と狙いを定めていた。
「――!」
アンジェラはとっさに操縦桿を傾けた。機体がようやく加速する。
「無駄だ! 堕ちるがいい!」
「――そうはさせません!」
「何!」
ブースターで突進してきたのは、伊織とアリカのシュテルンだ。超音速で突進してきた二機のシュテルンは、タロスに襲い掛かってソードウイングで切りつけた。大爆発を起こして傾くタロス。
「あれはアリカ殿、伊織殿か‥‥」
「アンジェラさん、大丈夫ですか。ナンナさんのナビゲートであなたが攻撃されていることを知らせてくれたんです」
「そう‥‥貸しが出来たわね伊織殿」
「礼ならアリカさんに言って下さい。私たちが相手にしていた二機のタロスを撤退に追い込んだのは彼女のシュテルンのおかげですから」
「‥‥戦いはまだ終わっていないわ‥‥喜ぶのは‥‥任務を無事に終えてからにしましょう‥‥」
アリカはほとんど行動不能に陥っているタロスを見据えると、機体の体勢を整える。
「‥‥これで終わらせるわ。この翼の刃で三枚に下ろしてあげる!」
シュテルンが加速して、タロスを貫通、真っ二つに切り裂いた。
強化人間の悲鳴が爆発とともに消失する。
K02ミサイルの攻撃後、マイクロブースターで加速した澄野・絣(
gb3855)は、愛機ロビン――赫映(かぐや)をタロスに急速接近させる。カラーリングは白を基調に縁の部分が桜色、コックピット部分が紅という赫映。
照準先のタロスを見据え、オメガレイを放つ。240mmレーザーガンの光条が空を貫き、タロスに命中する。強力なオメガレイがタロスの装甲を貫通して生体部分をも貫いた。
そこへユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)がミサイルを叩き込む。
タロス二機の反撃はプロトン砲。機体能力を上げてプロトン砲の10連打を浴びせてくる。
澄野は直撃を受けた。ロビンが激しく爆発する。操縦は目一杯。コクピットからじっとタロスを見つめる。
「これがタロスの力なのね」
「絣! 俺がカバーする! 支援攻撃に回ってくれ!」
澄野はロビンを後退させると、ユーリの機体の後方1ブロックに下がった。
「やはり手こずっているようね」
「クラリッサ」
「タロスはかなりの難敵のようだわ。何とか撤退に追い込んだけど。厄介な能力を備えているようね」
「ああ、急激に機体の性能が上がるみたいだな」
「むらはあるようだけどね。澄野さん、大丈夫」
「私は大丈夫よ」
「タロス、接近してきますよ」
ナンナのイビルアイズがロックオンキャンセラーを発動させる。
「四対二なら勝ち目はあるかな」
ユーリとクラリッサはタロスに正面から立ち向かった。ナンナと澄野は遊撃の位置に付いた。
「‥‥タロスを撤退に追い込むとは、一部にせよ、人類の兵器がここまで強化されているとはな」
強化人間たちはここまでの戦況を見て、苦虫を噛み潰していた。
「このまま敗退しては司令官に申し開きが立たん。奴らの一機でも落さないと」
タロスはプロトン砲を叩きつける。
クラリッサとユーリはローリングしながら回避すると、ライフルや機関砲を打ち込んだ。
タロスの機体性能の上昇は時間制限付きである。とは言え驚異的な上昇を示すことも実際あった。
クラリッサとユーリは苦心の末にタロスを撤退に追い込ぬことに成功する。
「おのれ! 覚えておれ! 瀋陽でこの借りは返させて貰うぞ!」
強化人間はタロスが行動不能になる前に逃走する。
レイヴァー(
gb0805)の骸龍はほとんど装甲が無い。まさに紙切れのような装甲である。一撃食らえば終わりかも知れないと思える装甲の薄さ。だが回避性能は尋常ではない。
機体能力を使ったタロスのプロトン砲を易々とかわしてしまうだけの性能を持っていた。タロスの目の前を飛び交い、僚機のアレックスの援護を行っている。
「先程、何方か『あっという間に粉微塵』等と仰られた記憶が御座いますが‥‥あれから何秒経過致しましたか? まさか、バグアの強化人間は『あっ』と言うのに何分もおかけになられるので?」
レイヴァーの挑発に強化人間は怒り狂っていた。
「我々が本気を出せば、貴様らなどあーーっと言う間に倒してやるわ!」
「ほう‥‥その本気はいつになったら見られるのでしょうか」
「やってやれレイヴァー、と言っても、可能なら、増援が来る前になんとかしちまいたい所だけどな」
アレックスはそう言って、レイヴァーが隙を作り出したところへソードウイングで切り付ける。
タロスは後退してプロトン砲を叩き込んで来る。
レイヴァーがバルカンで牽制する間にバレルロールで突撃したアレックスのシラヌイSがウイングで切り掛かる。超伝導アクチュエータVer2を起動して突撃。
直撃を受けたタロスは後退して機体能力で性能を上げると、高い機動力でアレックスに襲い掛かってくる。
「――速い!?」
アレックスはプロトン砲の直撃を受けて後退する。逆に支援のレイヴァーに助けられることになる。
タロスの性能が上昇している間はアレックスは逃げ回った。確かにタロスは強かった。アリカや伊織ら援軍が来るまで、アレックスのシラヌイはタロスを撃退することが出来なかったのだ。
そうしてタロス撃退後、傭兵たちは目的の通遼空港を爆撃して撤退するのだった。辛勝であった。