●リプレイ本文
ズウウウウウウウン‥‥と、巨人キメラ、ガルガが市街地に向かって悠然と歩いていた。目の前に立ちはだかる傭兵たちを見やると、残酷な笑みを浮かべ、天に向かって咆哮した。
びりびりと震える大気が、終夜・無月(
ga3084)の肌をざわりと撫でる。
「ふむ‥‥改良型ガルガですか‥‥確かに、並外れたものを持っていますね」
「市街地には行かせませんよ! 真夜の命に代えても、ここは通せんぼなのです! 私の屍を越えて行けなのです!」
相澤真夜(
gb8203)は言って、無月のやや後ろからガルガを睨みつけた。
三島玲奈(
ga3848)は長大なアンチマテリアルライフルをずしん! と置く。
「ま、た、ビアダルか!」
玲奈の心に火をつけたのは先ごろ行われた中津市での戦闘の影響。両親の牧場に危機が迫ったので、親には無理やりラストホープに疎開してもらった。
「判らん。バグアに地球の食文化は判らん。だから、去れ」
玲奈は怒りを叩きつけた。
「耶麻渓に親の牧場があったねん。豊後牛の仇を取るで」
傭兵たちが戦闘態勢を整えると、ガルガの赤い眼光が光った。
「グ‥‥グウウウウウウウウ‥‥グガアアアアア!」
ドン! と大気が振動して、ガルガの巨体が弾けた。
「速い――!」
真夜は超機械の箱を開けると、ガルガに電磁波を叩きつける。
無月は超機械ブラックホールを連射した。
玲奈もAMライフルを連射する。
もの凄い攻撃で、並みのキメラな粉々になっているところだが、ガルガはものともせずに突撃してくる。
「オオオオオオオ‥‥アアアアアアアアア!」
傭兵たちの遠距離攻撃を受けながら、驀進してくるガルガ。巨体に似合わぬ敏捷さで飛び上がると、上空から腕を振り下ろして光弾を撃ち込んで来る。
ズキュウウウウウウン!×5 と傭兵たちを撃つ弾丸。無月と真夜は飛びのいてかわす。
着地したガルガは、無月と真夜に突進する。
「ガルガ‥‥!」
無月はガルガの突進に身構える。
ドゴオオオオオオオオ――! とガルガの拳を受け止める。無月は片手でガルガの剛腕を受け止めると、ぐぐっと押し返す。
「ガアアアア‥‥!?」
「無月さんになんてことするんですか!」
真夜は超機械で攻撃。電磁波がガルガを撃つも、その巨体は小揺るぎもしない。
「これが全力ならば‥‥」
無月は剣に持ち替えると、一閃した。――ドズバアアアアアア! とガルガの肉体が切り裂かれる。しかし、ガルガは怯む様子はない。
コオオオオオオオオオ‥‥とガルガの口から粒子が収束すると、無月を至近距離から破壊光弾が撃った。
ズッキュウウウウウウウウン! と無月を直撃する破壊光弾の閃光。しかし、無月は耐える。
「無月さん!」
真夜の叫びは、続いて放たれた破壊光弾の閃光にかき消される。閃光が真夜を貫通して真夜は崩れ落ちた。
「く‥‥何て‥‥威力なの」
「真夜さん!」
玲奈は駆け寄り、救急セットで回復する。
「サイエンティストがいないのが辛いところですが」
「ありがとう玲奈さん。この〜、ガルガ〜、ただでは帰さないのです!」
格闘戦を続ける無月をサポートに回って、ブレーメンで攻撃する。
「ビアダルの置き土産なんぞに‥‥故郷を踏みにじられてたまるか!」
玲奈はAMライフルに駆け寄ると、攻撃を再開。
ドウ! ドウ! ドウ! ドウ! ドウ! ドウ! とライフルが火を噴き、凄まじい反動を押さえながら玲奈はガルガを撃った。ライフルはガルガの肉体を貫通するが、致命傷には至らない。
無月はこの不死身とも思えるガルガの肉体に、何度も剣を撃ち込んだ。ガルガの肉体は確実に破壊されていくが、中々動きを止めるには至らない。
ガルガの反撃は無月にとってはかすり傷程度だが、油断は出来ない。
「不死身ですかこのキメラ‥‥しかし、無限の生命力などありえぬことです」
無月は裂ぱくの気合とともに剣を叩き込んだ。
「――歩、あまり無茶はするなよ?」
麻宮光(
ga9696)は義理の妹である星月歩(
gb9056)に呼び掛ける。
「はい、お兄ちゃん。私も、何とか足手まといにならないように頑張りますね」
「敵さんがおいでなすったぞ」
軍属傭兵がファイターが剣を構える。
「良し、攻撃開始だ」
軍属傭兵スナイパーが銃を持ち上げ、合図を送る。
麻宮と星月、ファイターはガルガに接近していく。まずは銃撃でガルガの体力奪う。巨人キメラに撃ち込まれる銃弾の嵐。
ガルガのフォースフィールドを貫通して、銃弾はこの巨人の肉体を打ち砕いた。
「オオオオオオオ‥‥オオオオオオオ‥‥」
ガルガはぐぐっと腰を落とすと、直後に突進してきた。
「速いな――来るぞ!」
麻宮は正面からガルガに向かって行った。
ガルガの口が閃光を放ったかと思うと、光の弾丸が飛んできた。破壊光弾である。
麻宮は体をひねって光弾の連射をかわすと、銃を撃ち込みながら刀で切りかかった。
ファイターも側面からガルガに打ち掛かる。
星月もまた側面から切り掛かった。
ドドドドドドドドオオオオオオ! と傭兵たちの猛烈な攻撃が叩き込まれるが、ガルガは耐えしのいだ。フォースフィールドは貫通しているが、ガルガの生命力は尋常ではない。
「グウウウウウ‥‥オオオオオオオ!」
ファイターと星月を吹き飛ばすと、凄まじい速さの手刀を麻宮に撃ち込んできた。麻宮はすれすれのところでかわした。
歩は立ち上がると、くらくらする頭を押さえた。
「もの凄い力ですね‥‥とてもキメラとは思えません。こんなものが市街地に入ったら‥‥」
ガルガと互角以上の格闘戦を繰り広げる麻宮を見やりつつ、歩は再びガルガに向かう。
「大丈夫かお嬢ちゃん」
ファイターの言葉に、歩は頷く。
「私は大丈夫ですが‥‥そちらこそ」
「何とかな。しかし化け物じみたパワーだ。骨がいかれたかも知れん」
「気をつけていきましょう」
「ああ、行くぞ」
戦線に復帰する二人。
「歩! 大丈夫か!」
「はい、お兄ちゃん。お兄ちゃんこそ」
「俺は大丈夫。ガルガの攻撃は確かに速いが‥‥注意していれば何とか」
「おい、まだまだ来るぞ。タフな野郎だ」
ガルガは雄たけびを上げて、突進してくる。
鉄壁のサイエンティスト国谷真彼(
ga2331)は、盾を構えながらガルガの射程に踏み込む。
光弾が嵐のように飛んでくるが、盾で受け止める。反撃のエネルギーガンは超威力。ガルガのフォースフィールドを貫通して肉体を焼き尽くす。
「丸裸にしてやりましょう。別に、化け物を脱がす趣味はありませんがね」
ガルガの挙動を探る国谷。トランシーバーで敵の攻撃能力について味方に送る。
「みなさん、ガルガの攻撃能力は熟練傭兵を越えています。実際注意が必要でしょう。光弾の威力も高いものを持っています。並みの傭兵なら焼き尽くされてしまうでしょう。みなさん、警戒して下さい」
言いつつ、シールドの影からエネルギーガンを撃ち込む。
「俺の全力を‥‥受けてみるか? ガルガよ」
ヒューイ・焔(
ga8434)は突進した。もの凄い速さで、二刀流の剣を叩き込む。
「食らえ‥‥重破斬!」
カミツレの凄まじい一撃がフォースフィールドを貫通。ガルガの肉体を次々と切り裂いていく。
瞬く間に血まみれになるガルガ。だが、底知れぬ生命力を持つこの巨人キメラは、全く怯む様子を見せずに、雄たけびを上げて突撃してくる。
しかしヒューイの実力はケタはずれである。ガルガは確かに強いが、ヒューイの実力はさらに遥か上を行く。
「甘いな。俺の隊長はもっと凄いがね‥‥裂剣!」
ハミングバードでガルガの防御を弾き飛ばすと、カミツレを叩き込んだ。ドズバアアアアアア! と切り裂かれるガルガ。
「オオオオオオオ‥‥グウウウウウウアアアアアアアアア!」
ガルガは怒りの咆哮を上げてヒューイに襲い掛かるが、無駄なあがきか。
ドラグーンの姫咲翼(
gb2014)は、竜機剣『神喰』(ゴッド・イーター)でガルガに切り掛かる。
「強化型だろうが何だろうが斬る! 食い殺せ『神喰』!」
竜機剣がガルガに叩きつけられる。――ガキイイイイイイイン! と刃が弾き返された。
「な、何だと!」
ぶうん! とガルガの反撃が来る。ドゴオオオオオオオオ! と直撃を食らった翼のアーマーが砕け散る。
「野郎! 何てパワーだ‥‥尋常じゃねえ! んならこれでどうだ!」
ヒューイが攻撃を加える間に、側面に回り込んだ翼は、竜の咆哮を撃ち込んだ。凄まじい衝撃がガルガを直撃して、吹き飛ばした。
「食らええええ! 竜の爪!」
次の瞬間、竜の翼で光弾を放たれた跡を突っ切り、光弾により生まれた土煙を利用し、ガルガへ距離を詰める。
「うぉおおお! 喰い殺せ! 『神喰』!!」
ガルガの胴体を大剣と竜の爪で横に一閃。砂煙からでた姫咲の髪が銀髪に変わる。
ガキイイイイイイン! と剣が激突して、ガルガの胴体を直撃するも、剣がガルガにめり込む。
「グガアアアアアア!」
ドッゴオオオオオオ! と吹き飛ばされる翼。ざざーっと踏みとどまりながらも衝撃に堪える。
「無理はするな翼。こいつは並みのキメラじゃないぜ」
ヒューイは果敢に攻める翼のアーマーをこつこつと叩いた。
‥‥大型のキメラ、このような相手を生身で相手にするのは初めてだけど「的が大きくてやりやすい」と前向きに考えるべきかしら‥‥。
澄野・絣(
gb3855)は内心で呟きながら、基本的には黙々と弓を撃っていた。覚醒の影響で口数が少なくなるのだ。
「こちら澄野。敵ガルガ、確実に打撃は与えているようだけど、沈まないわ。しぶとい」
澄野はトランシーバーで呼び掛けると、仲間たちからも声が届く。
「こちら第四小隊。確かにしぶとい。半端じゃない、このキメラの体力は」
言ったのは無月である。
「単体でここまで生き残る奴はあまり記憶にないですね。油断はできません」
「こちら第三小隊。麻宮です。ガルガ、頑丈ですね。攻撃が本当に効いているのか、信じられないタフさです」
「攻撃を続行するわ」
澄野は無線を置くと、ガルガを狙い、支援攻撃を繰り返す。
国谷、ヒューイ、翼が確実に打撃は与えているはずだ。まさか不死身ではあるまい。
重体のエリザ(
gb3560)は後方にあって、戦況をモニターしていた。
「各チームへ、ガルガは依然として健在。仲間たちは持ちこたえているけれど、ガルガは驚くべき強さです。戦闘能力では勝っていますが、ガルガのタフさは尋常ではないようですね。各チームとも最後まで気を抜かずに。第一小隊と第二小隊はやや消耗しているようですから、支援が必要ですね」
「了解エリザ。何とかしてみる」
「頼みますよ皆さん、頑張って下さい」
「‥‥何て頑丈なキメラですか本当に」
玲奈はライフルを叩き込みながら、吐息する。戦闘開始から、どれくらいの時間が経過しただろうか。単体のキメラとては異常なまでの頑丈さであるが――。
「無月さん! そっちへ!」
真夜はブレーメンで支援しながら、ガルガの背後に回る。
「いい加減に、手応えが欲しいところですが‥‥」
スキル全開で撃ち込んだ無月の一撃が、凄絶なまでにガルガを切り裂いた。遂にその剛腕が飛んだ。
「ガアアアアアアアア――!?」
「やった! 無月さん!」
「ようやくダメージが入りましたか」
ガルガの抵抗を粉砕して、次々と致命傷を与えていく無月。
ガルガは急激に勢いが落ちていく。無月はガルガの頭部を粉砕した。
ブレーメンの電磁波がガルガの腕を打ち砕き、玲奈のライフルがガルガの肉体に穴を開ける。
「オオオオオオオ‥‥オオオオオオオオオ!」
だがしかし、ガルガの胸や腹に第二の目や口が開き、そこから破壊光弾を吐き出す。
「最後のあがきですか‥‥幾らなんでも」
無月は裂ぱくの気合とともにスキル全開でガルガの胴体を両断した。
麻宮、歩たちも、ガルガの最後の抵抗を撃破する。腕を吹き飛ばされ、異様な外見となったガルガに連打を浴びせる。
「ようやくこいつに止めを‥‥さすがにこれ以上の変身は無いでしょうね」
「お兄ちゃん、これがガルガの力なんですか‥‥」
麻宮は刀をガルガの胸に突き立てた。鮮血が爆発して、ガルガの上体が切り裂かれる。
ヒューイが、翼が、澄野が、国谷が集中攻撃を浴びせかけ、遂にガルガが崩れる。この巨人キメラは凄まじい生命力を見せつけたが、最後は倒されることになる。
「乗って、急ぐわよ」
澄野はジーザリオのエンジンを吹かせると、苦戦している軍属傭兵たちのもとへ向かう。
ラストホープの傭兵たちは軍属傭兵の支援に駆けつける。
最後のガルガを撃破したところで、軍属傭兵たちはUPC軍に連絡を入れる。
「こちら傭兵部隊だ。地上部隊へ。巨人キメラは撃破した。何とかガルガの脅威は取り除かれた。引き続き、小キメラの迎撃に当たって欲しい‥‥」
その時である。
戦場に、バグアスーツをまとった人物が姿を見せる。
「んん? お、おい‥‥! 奴が‥‥! ダム・ダル(gz0119)が!」
ダム・ダルは悠然と歩みを進めてくる。
「データの収集は完了だ。ふむ、どうやら、ガルガには改良の余地がまだまだ残されているようだな」
無月やヒューイは仲間を制して警戒しつつ後退する。エースクラスをこれだけの傭兵で迎撃するのは危険だと悟っていた。
だが、軍属傭兵たちには異なる思いがあった。ダム・ダルを戦場で倒せば、それは北九州戦線をひっくり返すことが出来るという千載一遇の好機でもあると。
軍属傭兵たちは、散開すると、ダム・ダルを包囲する。
「のこのこと出てきたな。こんなチャンスはないぜ。ここでお前を倒せば、北九州は取り戻したも同然!」
「ほう」
ダム・ダルは興味深げに傭兵たちを見渡した。
「よせ! バグアのエースは半端じゃない! これはイレギュラー、引き下がるんだ!」
無月は呼び掛けるが、軍属傭兵は一か八かに掛ける。
「ここでダムを倒して‥‥戦況を変えるんだ!」
軍属傭兵たちは一斉に攻撃を開始した。
果たして――。
ダム・ダルは軍属傭兵の攻撃を全て回避して、ふわりと舞い上がった。
くるりと一回転して、ダム・ダルは軍属ファイターが突き出した剣先にぴたりと着地した。
「何――!?」
「なるほど、どうも、その意気は買うが、まだまだデータは足りん。データはいくらあっても足りないということはないからな」
「やかましい!」
そこでダム・ダルのもとへ通信が入る。
「――分かった。すぐに春日基地へ戻る」
そして次の瞬間、ダム・ダルは瞬間移動で消えた。
「畜生‥‥」
歯噛みする軍属傭兵たちを、無月やヒューイはたしなめた。
「あんたらなあ、生きているだけでも奇跡だぜ。相手はエースなんだからな。ロシアでのバークレーやアスレードの報告を忘れたのか?」
ヒューイの言葉に、軍属傭兵たちは吐息する。
ここでダムを倒すことが出来れば‥‥と軍属たちは肩を落とす。