タイトル:【DR】奇襲モンゴルへマスター:安原太一

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 15 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2009/03/20 07:32

●オープニング本文


●魔女の婆さんの鍋の中
 廊下に響く靴音。一歩一歩進む毎に、ロングコートの裾がなびく。
 上層部において決した作戦の概要を思い出し、ミハイル中佐は思わず顎鬚に手をやった。諜報部が真面目に仕事をしている、という事なら歓迎すべき自体だ。だが、これまで思うような成果のあがらなかった情報戦で、突然優位に立ったとは考え辛い。
 ――とはいえ。
「考えても詮無い事だな」
 その裏に何らかの意図があろうと、無かろうと、そんな事はどうでも良い。
 彼自身、軍人は政治に口を差し挟むべきではないと考えている。それに、この偵察作戦そのものが、この情報の真偽を確かめる為のものだ。要は、作戦を成功させればそれで良い。権限以上の事に思いを馳せるべきではない。
(余計な事は忘れろ。まずは、この作戦に集中しなければ‥‥)
 ドアを開く。
「総員起立!」
 副官の鋭い言葉が飛んだ。
「敬礼!」
「構わん、楽にしてくれ」
「ハ‥‥着席!」
 作戦に集まった傭兵達を前にして、ミハイルは小さく敬礼を返した。
 彼等は、この偵察作戦を成功させる為にかき集められた。その数、数十名にも及ぶ。
「志願戴き、感謝する。それでは、さっそく作戦の概要を説明させてもらう」
 彼がそう切り出すと、副官が部屋の明かりを落とし、映写機の電源を入れた。
 画面に映し出されたのはシベリア、サハ共和国首都ヤクーツクを中心とした地図。北部からヤクーツクまではレナ川が流れており、南東にはオホーツク海が広がっている。南西のバイカル湖はバグアの勢力圏内に、南方のハバロフスクから北東のコリマ鉱山周辺は人類の勢力圏だ。
 そして、ヤクーツク北西、ウダーチヌイが地図上に表示された。
「作戦目標、ウダーチヌイ」
 ミハイルの言葉に、作戦室が静まり返る。
 ウダーチヌイにはウダーチナヤ・パイプと呼ばれる、直径1km、深さ600mにも及ぶ露天掘り鉱山があり、この鉱山施設を中心に複合軍事施設の建設が進んでいる――諜報部の得た情報を元とし、上層部が出したこの予測が正しければ、バグアは、このシベリアを中心に侵攻作戦を企てている事となる。
 問題は、その情報が果たして正しいのかどうかだ。
 これがもしブラフで、人類が大戦力を投じた結果何も無かった等と言うお粗末な結果に終わった場合、戦力が引き抜かれて手薄になった戦線に対し、バグアは嬉々として攻撃を開始するだろう。
「確証が必要なのだ。でなければ、貴重な戦力を振り向ける事はできない」
 事実であれば、敵の迎撃は苛烈を極めるであろう。
 まさしく、魔女の婆さんの鍋の中へ自ら飛び込む事になる。副官が作戦計画書を取り出し、ミハイルへと手渡す。
「では、各種作戦の説明に移る。まずは――」

 作戦名、ダイヤモンドリング――。
 極東シベリアにおける大規模作戦が始まろうとしていた。ウダーチヌイにおいて建設中であるというバグア軍の基地。本命の偵察部隊がウダーチヌイに向けて出立するのに先駆けて、ウランバートル方面への攻撃が実施されることとなった。
 ウランバートルにはアジア・オセアニア方面の重要基地があり、ここからの援軍がウダーチヌイ偵察隊の退路を断ってしまう可能性や、帰投すべきヤクーツク基地へ奇襲してくることも考えられる。
 求められるのはウランバートルへの迅速な奇襲。本命の偵察部隊を援護するべく、敵の中枢へ飛び込みバグア軍の戦力を叩けと言う。この作戦がかつて無い規模であることは明らかだろう。失敗すれば敵の大部隊と真正面からぶつかることになる。
 極東を部隊に、激戦の幕は静かに上がろうとしていた。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
神崎・子虎(ga0513
15歳・♂・DF
ミア・エルミナール(ga0741
20歳・♀・FT
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
金城 エンタ(ga4154
14歳・♂・FC
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
菱美 雫(ga7479
20歳・♀・ER
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
Mk(ga8785
21歳・♂・DF
麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN

●リプレイ本文

 夜が明ける。地平から昇る太陽が音速で駆け抜ける十五機のナイトフォーゲルを照らし出す。
 競合地域を通過し、能力者たちは低空でモンゴル上空を三方向よりウランバートルへと向かっていた‥‥。

 ゴオオオオオオ‥‥。
 エンジンが爆音を上げて咆哮している。
 榊兵衛(ga0388)は僚機のきらめく機体に目を向けた。三方向からウランバートルへ向かう能力者たちは五機一組で編隊を組んでいる。
 本命偵察を助けるため陽動だが、何であれバグアに一泡吹かせてやれるなら望むところである。
 モンゴルと来れば相撲、航空力士の暴れ巡業と雷電の機体を操るのは三島玲奈(ga3848)。自称従軍漫談師で顔に酷い火傷痕あり、ド迫力マジ半分ねた半分のインパクトある芸風が売りだそうが、今回は受け狙いもギャグも封印しての真剣勝負だ。
 各機ともロッテを組んで上空を行く。神崎・子虎(ga0513)は金城エンタ(ga4154)の後方について飛んでいる。
「この数でウランバートル基地を強襲してこい、ですか‥‥相変わらず、UPCの要求水準は高くて参りますな」
 飯島修司(ga7951)は夜明けのウランバートル強襲に吐息した。だが、必ず成功させる‥‥何としてもバグアの極東進出は止めなくてはならない。今はただ、一人の傭兵として作戦の成功に全力を傾けるのみ。
 間もなくウランバートル‥‥と、その時だ、レーダーに無数の光点が浮かび上がった。

「バグア‥‥何としてもあいつらに復讐してやるぞ‥‥」
 菱美雫(ga7479)の瞳はぎらぎらしていた。覚醒すると普段心の奥にひた隠しにしているバグアに家族を殺された憎しみと怒りが吹き出してくるらしい。
 ピッ‥‥ピッ‥‥ピッ‥‥ピッ‥‥ピッ‥‥。
 菱美はレーダーに目を落とした。無数の光点が次々と出現している。
「発見されましたか‥‥」
 僚機の鳴神伊織(ga0421)は操縦桿を握る手に力を込めた。
 ウランバートルはアジア最大のバグアの要塞都市。おまけに回りは競合地域に囲まれている。目立つKVが最前線を飛び越えて敵の本拠地に飛び込むのは実際不可能に近い。もっとも能力者たちはUPCの戦闘機ならとっくに撃墜されていてもおかしくないところまで接近している。
 ピッ‥‥ピッ‥‥ピッ‥‥ピッ‥‥ピッ‥‥。
「うわあ‥‥もの凄い数の敵が出てきましたの〜どうしますか〜?」
 平坂桃香(ga1831)は通信回線を開いて仲間達に呼びかけた。
「どうもこうも無い。しゃれにならんぞ、作戦は失敗だ。逃げる」
 KV戦初出動が大規模戦となったMk(ga8785)だが、無謀な突撃を敢行するつもりは無かった。
「他の仲間達は無事だろうか‥‥」
 アルヴァイム(ga5051)は苦虫を噛み潰したような表情であった。

「敵――ワーム編隊、二十‥‥いや、二十五‥‥三十か」
 UNKNOWN(ga4276)は煙草を吹かしながら微笑を浮かべていた。だが瞳は笑っていない。
「ALL、一撃離脱だ。敵の出鼻を挫いて逃げるとしよう」
 UNKNOWNの声が回線に響く。ウランバートルの警戒網には一分の隙も無かった。三つに分かれた能力者たち全てに大規模な迎撃が差し向けられたようである。
「なめていたわけではないが‥‥ウランバートルに辿り着くことも出来ないとは‥‥無念だ」
 カルマ・シュタット(ga6302)の言葉にミア・エルミナール(ga0741)は吐息した。
「参ったなあ、陸戦やる気満々で来たのになあ‥‥ま、こういうこともあるか」
「ウランバートルから飛び立つ敵を落とすことに専念した方が良かったのかも知れない。と言って作戦自体がウランバートルへの攻撃だったからね‥‥今さら言っても仕方の無いことだけど」
 麻宮光(ga9696)はお守りのペンダントを握りしめる。
「やられたな、さすがに敵の本拠地だけあるわ」
 陸戦主体を目指していた藤村瑠亥(ga3862)はぼやきながら頭をくしゃくしゃとかき回す。アジア最大の要塞都市ウランバートルは能力者の侵入すら許さなかった。藤村は胸元の十字架リングを弄んだ。
「ここまで来れただけで御の字かねえ‥‥」
 バグアの勝ち誇った笑みが浮かんできそうだ。
「来るぞALL、迎撃用意。地獄の門をこじ開けて帰ろう」
「地獄の門って‥‥やばいじゃん」
 UNKNOWNのジョークにミアは思わず突っ込んだ。ダンディズムのUNKNOWNと熱血・気合いど根性のミア、何かと対照的な二人である。

 ドガガガガガガガ!
 スラスターライフルをHWに叩き込む榊。榊機の強力な攻撃を受けて爆発するHW。
「脆い‥‥この間とはえらい違いだな‥‥」
「こっちもがっぷり四つに組むでえ!」
 三島は前方に捉えたHWにレーザーガトリングを叩き込む。攻撃を受けて急速旋回するHW、全くスピードが落ちない。
「逃がさへん‥‥! て、速い!」
「ミサイル発射〜♪ ‥‥と、あまり前に出すぎると危険だね」
 ストレイキャッツを放って距離をとる神埼。
 周りを見渡せば何十機というHWが飛び交っている。ロックオンアラートはほとんど鳴りっ放しだ。
「く、流石にロングボウじゃこれ以上は厳しいかな? でも、弾を持って離脱はしないよ。全弾持っていけ〜!」
 HWにミサイル全弾叩きつけて神崎は離脱する。
「数では圧倒敵に不利ですね‥‥HWの攻撃力は大したものではありませんが‥‥」
 プロトン砲の直撃を立て続けに食らって揺れるコクピット、金城は目の前のHWを追って旋回する。が、HWの加速力は半端なものではない。引き離される。
「数の暴力ですなこれは‥‥早々に逃げるが勝ちと言うものです」
 飯島はHWにスナイパーライフルを叩き込んで旋回する。
 と、ワームを追撃していた金城のKVを強烈な衝撃が襲う。
 ズズン‥‥! ズズン‥‥!
「何‥‥!?」
 金城機にプロトン砲を叩き込んだHWはあっと言う間に距離を詰めて体当たり――フィールドアタックをぶちかましてきた。
「くっ、この感じ‥‥エース級ですか?」
「金城、援護する」
 榊がHWのエース機に照準を定めてスラスターライフルの発射ボタンに指を置く――が、次の瞬間には、KVには不可能な直角飛行でエース機は金城機から離れた。
「ちっ、逃げられたか」
 ロックオンアラートが鳴り響く。榊の機体にプロトン砲が容赦なく叩きつけられる。揺れる機体。
「悔しいが、作戦は完全に失敗だな」
「まあ、敵の戦力を引きつけたという点では完全な失敗とは言えないかも知れませんが‥‥」
「ウダーチヌイ方面への影響が気がかりやなあ‥‥ここで一機でも多く敵を落とせばええかも知れへんけど」
 とは言え、これほどの大軍とまともにやり合うのは改造機を有する能力者たちでも不安はある。
 圧倒的なHWの大軍を前に、能力者たちは反撃もそこそこに離脱を開始する。

 ズズン‥‥! ズズン‥‥!
 プロトン砲が菱美の機体を撃ち叩く。敵の大軍を前にロッテも何もあったものではない。SF映画のエイリアンの大軍さながらだ。
 菱美たちは逃げたが、HWの大軍は執拗に追いかけて攻撃してくる。
「落ちろバグア!」
 菱美はレーザー砲をHWに叩き込む。小さな爆発がHWの装甲を吹っ飛ばすが――。
 別の敵機が菱美を追い立てプロトン砲を叩き込んでくる。
 ズズン‥‥! ズズン‥‥!
「ちっ、しつこい‥‥!」
「雫!」
 Mkのイビルアイズが援護射撃を行う。HWは菱美機から離れて飛び去っていく。
「すまんマーク」
「ああ、しかし、敵さんもしつこい」
 Mkはそれだけ言って、操縦桿を傾ける。止まっているとすぐさまロックされてしまう。
「みなさん大丈夫ですか‥‥!」
 鳴神は飛び交うHWの大軍に舌打ちしながら味方の無事を確認していた。鳴神機は高い性能を持つが、これだけの大軍相手に持ち堪えられるかは不明だ。
 きりもみ旋回して上昇する鳴神。HWの追撃を何とか振り切ろうとするが――。プロトン砲の連射が機体を揺るがす。
「くっ‥‥!」
 機動力ではHWが格段に上だ。何とかKVの防御力で跳ね返しているが。
 Mkは始めてのKV戦で手痛い攻撃を食らうことになる。菱美機を救ったはいいが、今度は自分が追われることになる。
「速い‥‥! でたらめなスピードだな」
 追いかけてくるHW数機を何とか引っぺがそうと加速するが、ワームは瞬く間に追いついてプロトン砲を叩き込んでくる。
「ちいっ! これでもか!」
「マーク、今行く!」
 平坂機が突進してきてソードウイングでHWに切りつける。爆発するHW。強烈な破壊力だ。
「すまん」
「援護します、菱美機とともに離脱して下さい」
「ああ。そうした方が良さそうだな。雫――聞こえるか」
「ええ」
「平坂が援護してくれる。一足先に離脱しよう」
「‥‥仕方ないようね。まだやれるけど」
「行って下さい二人とも」
「ああ」
 菱美とMkは離脱を図る。菱美は置き土産に煙幕弾を発射。
 二人の射線に入った平坂は、追撃してくるHWにK−02小型ホーミングミサイルを全弾発射した。千発のミサイルが流れるような軌道でHWの集団に襲い掛かる。
 ドドドドドドゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオ‥‥!
 炸裂する火球が空中を鮮やかに彩った。轟沈するHW。
 菱美とMkはブーストで一気に離脱した。
 炎を突っ切って再びHWの大軍の中に入った平坂。残されたのはソードウイングだけだ。飛び交うHWからプロトン砲の掃射が平坂を襲う。
 揺れる機体の中で、吐息する平坂。
「ごめんなさい、弾切れ」
「俺と鳴神で援護する。ブーストで離脱しろ」
 アルヴァイムの申し出に平坂は礼を言う。
「平坂さん、後は任せて下さい」
「ごめんなさいね、二人とも」
「任せろ‥‥基地で会おう」
「ええ‥‥それじゃお先に」
 平坂はブーストで離脱する。
「俺たちは‥‥生きて帰れるか?」
「ここは逃げの一手しかありません。とにかく、味方の制空権まで帰ればワームも追っては来ないでしょう」
「そこまで持つかな‥‥確かに逃げの一手しかないがね」
 鳴神とアルヴァイムは、旋回して進路を定めると、HWの追撃を受けながら逃げることになる。

「見事に私の目論見をつぶしてくれたがね‥‥今回は負けを認めよう」
 UNKNOWNはウランバートルに乗り込んでの陸戦を想定して兵装も整えていたのだった。他のミア、麻宮、カルマ、藤村も同様で、彼らは本来なら陸戦部隊としてウランバートルの軍事施設などを叩くつもりであった。
 だが作戦は失敗に終わった。ウランバートルへの直接攻撃はならず、大規模な迎撃部隊の応酬を受けることになってしまった。
 そんなわけで一撃離脱してから逃げる――その方針通り、彼らはHWに正面からぶつかっていった。
 カルマ機のレーザー砲がすれ違いざまにHWに叩きつけられる。爆発するHW。
「負けは負けだってさ! えい悔しいけどこれでも食らえ−!」
 ミアはガドリング砲をHWに叩き込む。
 だが正面からぶつかってくる能力者のKVにプロトン砲を叩きつけるHWの集団。
 ズズン‥‥! ズズン‥‥! ズズズズズン‥‥!
「ちっ、さすがに数が違いすぎる‥‥」
 揺れる機体の中で、麻宮はガトリング砲を放ったが焼け石に水だ。
「洒落にならんぞ‥‥たとえ小型HWでもこれだけ集まると‥‥」
 藤村はスラスターライフルの引き金を引きながら飛びすぎていくHWの集団を見送った。
「敵機旋回して戻ってくるぞ」
「‥‥相手にするな。このまま逃げよう」
「はいはーい、賛成賛成いー、こんなの相手にしてたら命が幾つあっても足りませーん」
 UNKNOWNの提案にミアは諸手を上げて賛同した。
「俺は殿を務めよう」
 カルマが言うと、
「私も同じくだ。みな先に行くんだ」
 UNKNOWNもそう言って僚機の後ろに付いた。
「それじゃ、先に行かせてもらう」
 麻宮は殿の二人に手を振って、ブーストで離脱する。
「今回は貸しだな。この礼はまたいつかさせてもらう。じゃな」
 藤村もブーストで離脱。
「二人とも、無事に戻って来るんだよ。基地で待ってるから」
 ミアは最後に心配そうな表情でUNKNOWNとカルマを見送り、ブースト離脱する。
 残ったカルマ機とUNKNOWN機にHWの大軍が襲い掛かってくる‥‥!
「さて‥‥正直ぞっとしない展開だが‥‥」
「ああ‥‥全くだ。こういうやばい展開はさっさとおさらばするに限る」
 両機ともに背後から飛んでくるプロトン砲を回避しながら加速する。
 かくして、敗退した能力者たちはそれぞれにHWの追撃を振り切って基地に帰還することになるのだった。