●リプレイ本文
「こんな‥‥こんなことって‥‥」
熊谷真帆(
ga3826)は茫然自失としていた。この耶馬渓は自身の故郷。それが今、無残にバグアの手によって破壊されていた。
余りに過酷な現実は、真帆の心に影を落とす。
「両親と、牛の仇は討ちます」
それが真帆の決意だった。それから軍属傭兵と作戦の相談に入った。
「でかくてタフで、おまけに強い、ですか。厄介は厄介ですが‥‥まぁ、スタートダッシュで一気に流れを掴みましょうか」
言ったのは宗太郎=シルエイト(
ga4261)。覚醒すると、褐色肌に金髪碧眼に身体変化が現れる。
「俺達なら、それだけの一手が撃てる。んで、すぐに潰せる自信もある! 頼りにしてるぜ、矛盾の二人!」
宗太郎はにかっと笑うと、牙を剥いた。覚醒で人格に変化が現れる。
「矛盾の二人」は、アレックス(
gb3735)と霧島和哉(
gb1893)。アレックスが矛、霧島が盾。
「任せてくれよ先輩。先輩の足を引っ張らないように、思い切り行かせてもらうぜ。なあカズヤ」
「‥‥うん。今回、は‥‥僕も‥‥見栄、張って見る‥‥よ?」
くすりと笑う霧島。
宗太郎とアレックスのコンビは、大量の弾頭矢を槍に括りつけて敵にスキル全開で攻撃を仕掛ける必殺技を持っていた。実際凄まじい威力で、並みのキメラなら一撃で吹き飛ぶ破壊力を持っていた。
「敵か。よう、悪いがちっと付き合ってくれないか」
夜十字・信人(
ga8235)は軍属ファイター・スナイパー・サイエンティスト・グラップラー一人づつに声をかける。
事前にフォルトゥナに貫通弾を込め、ガンホルダーに。
そして、民間人の子供に板チョコを渡した。
「はい、どーぞ。皆で仲良く食べてね。本当はもっと持って来たかったのだが、おやつは300円までだそうだ」
信人は正規軍の指揮官を避難がましい目で見る。
「おやつを配るのは後にしておけ。今は時間がないからな。一刻も早くここから離れないといかん」
指揮官は迷言を振りまく信人に真面目なリアクションだった。実際に時間がなかった。
信人は適当な軍属傭兵の肩を叩き、メットとマスクを着用する。
「さて、さっさと片付けるか。今日はコイツの誕生日だからな」
さっとメットとマスクを装着し、クルシフィクスを抜く。
周囲の緊張を解す為にやってるっぽいが、あまり効果はない。
「俺は誕生日じゃないけど」
真面目に返答する軍属傭兵の肩を二度、三度叩いて、信人は最前線に目を向ける。覚醒して、黒髪の少女の幻影が浮かび上がる。
「行くぞ」
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)は、鹿島綾(
gb4549)と軍属ファイター、エクセレンター、スナイパーとコンビを組む。
「今度のガルガは2タイプ、か。だんだん厄介になってくるな。何にしても、被害が出る前に倒さないと」
「何て嫌なモノを‥‥。ダム・ダルの奴、本当に性格が悪いよ」
「全く、次から次へとご苦労なことだね」
「ヨリシロになってから本当に憎たらしい奴になったからな‥‥あのバグア人」
「何でも聞くところによると、バグア人は何万年も宇宙をさすらっていたそうだ」
軍属傭兵が思い出したように言う。
「幾つもの星を旅し、侵略し、そのたびにその星の文明を吸収していった‥‥と推測されるそうだな。だがここまでの戦争を見れば、奴らはいわばイナゴじゃないか? 異文明を食べ尽くして移動を続ける。奴らが移動した後には何も残らないんじゃないだろうか?」
「では‥‥地球も最後には食べつくされて捨てられると言うのか?」
「俺はそんな気がしてならん。最後には、地球は滅びるのじゃないかと‥‥夢にも出てくるぐらいでな」
「それは悲観しすぎだろう。これまでの戦いで、バグアも決して盤石ではないことが少しずつ分かっている。俺たちがやってきたことは無駄じゃない。短期間でステアーやシェイドを撃退してきたのは、バグアだって予想していないことだろう」
「それはそうかも知れんが‥‥」
鹿島の強い言葉に、軍属傭兵は気圧された。それで不安が消え去るわけではないが‥‥。
「まぁ戦闘中は俺の事より自分の心配な? ちゃんと怪我しない様に注意するんだぞ?」
心配そうな歩の頭を撫でてそう声をかけておく麻宮光(
ga9696)
「気を付けてね‥‥お兄ちゃんこそ‥‥」
星月歩(
gb9056)は自分の事で手がいっぱいだが、光のことが心配なので一言ちゃんと声かけておく。
麻宮と星月のチームは、他に軍属スナイパー、グラップラー・サイエンティストで構成される。グラップラー型ガルガを担当する。
「‥‥新型ね。どれほどの物か見せてもらおうか‥‥」
麻宮は言って、銃と刀の具合を確かめた。
「むう、しぶとい強敵が相手か。自分は接近戦しかできん。手ごたえを感じた時も気を緩めてはいかんな」
鳳凰天子(
gb8131)は言って気を引き締めた。同じチームには熊谷と、サイエンティスト、ファイター、グラップラーがいる。
「熊谷殿、よろしく頼む。おぬしには辛い戦いになりそうじゃが、拙者から慰めの言葉をかけても仕方あるまいな」
「いえ‥‥鳳凰さん、この戦い、私にとって特別なものですが、北九州の一つの戦いでもあります。必ず勝って、人々を少しでも中津市の北へ避難させないと。ダム・ダルには、いつかこの借りを返します」
「そうか‥‥そのような機会が来るといいのじゃが」
鳳凰は言って、西方に目を向ける。
程なくして、およそ人外の咆哮が鳴り響いてくる。
無線機から流れてくる傭兵の声。
「ガルガ、村に進入しつつあり! 避難は急げよ! 時間がないぞ!」
「来たか‥‥では行くぞ皆の衆。村民が逃げ切るまで、ガルガを最悪でも足止めする。油断するな、奴は不死身のような肉体を持っている‥‥行くぞ!」
軍属傭兵の指揮官は、一同にはっぱをかけると、走り出した。
五体のガルガは、腕からレーザーガンを乱射して村を破壊しながら進軍してきた。グロテスクな人型クリーチャーのような外見で、うち三体が体格のごついファイター型、二体が細身でしなやかな筋肉を持ったグラップラー型であった。
「オオオオオオオオ‥‥オオオオオオオ‥‥オオオオオオオオオ!」
ガルガの咆哮が空を切り裂き、びりびりと大気を震わせた。
各チームは、それぞれ目標を絞り込むとガルガに突進して迎撃する。
熊谷と鳳凰チームはガルガファイター型に突進する。
軍属傭兵たちが最初に三方向から攻撃する。射程間際から陽動攻撃。
直後に熊谷が大口径ガドリングで別方向から奇襲を仕掛ける。
鳳凰は機械剣を構えて様子を図る。
ガルガは苛立たしげに咆哮すると、レーザーを撃ち返してくる。傭兵たちの手前に着弾してレーザーが爆発する。
「射程約80メートル。砲数は5‥‥ふむ判った。みんな勘は掴めた?」
「ラジャー」
「軍人さんは3方向からランダムに一撃離脱しつつ後退。敵の陽動をお願い」
熊谷の要望を受けて、軍属傭兵たちは陽動攻撃を仕掛ける。
真帆はガトリングで群れの連携を分断していく。
「やりおるのう」
鳳凰は間合いを計りながら後退する。
やがてガルガ一体を切り離すことに成功する。
「支援攻撃頼みます」
軍属たちに射撃を依頼。Vの字でガルガを「摘む」様に両翼から撃ってもらう。
「ここで背後を突いたら敵の思う壺よね。後ろの目でやられちゃう」
そこでV字の側面から豪破斬撃。丁度ガルガの体側を切る様に奇襲する。
ガルガも猛烈な反撃を見せる。その間隙を縫って、熊谷は豪破斬撃を叩き込んだ。片腕を切り落せたら良いけど‥‥!
ガキイイイイン! とガルガの腕は真帆の一撃を受け止めた。
「――にっ!?」
「グオオオオオ!」
ガルガの高速パンチが飛んでくる。ドッゴオオオオオ! と熊谷を吹き飛ばした。
「やる‥‥!」
「熊谷殿! それ以上はやらせん!」
鳳凰は側面から切り掛かった。レーザーブレードが貫通するが、ガルガはびくともせずに鳳凰を吹き飛ばした。
「この怪物!」
軍属傭兵たちが飛びかかってガルガの手数を封じる。
集中攻撃を浴びせる熊谷ら。
再び間合いを取って、遠距離射撃で陽動、弾幕で奇襲、迂回した軍人が銃後から接近。
傭兵が飛び退くと同時に軍人が接近戦で畳み掛けて砲口を潰す。傭兵が別方向から弾幕で敵の注意を引き軍人脱出を助ける。これらを繰り返してガルガを衰弱させる。
サイエンティストは治療と練成強化に専念した。
だがファイターガルガの格闘戦力は尋常ではない。軍属傭兵たちを次々と吹き飛ばしていく。
「行くよ‥‥擁霧」
霧島は、二つの盾を構えながらガルガに接近していく。
コオッ! コオッ! コオッ! コオッ! とガルガのレーザーガンが炸裂するが、ひたすら耐える。
「さぁて、頼りにしてるぜ相棒。矛盾コンビの真髄、見せてやろう」
アレックスは霧島の背中をこつこつと叩いた。
霧島の後ろから接近するアレックスと宗太郎。
軍人たちは側面に回り込んで支援攻撃を行う。
ガルガへの初撃――。
霧島の背後から飛び出した宗太郎とアレックスは、二人ともありったけの弾頭矢を括りつけたランスを構えていた。
「センパイ、一気にアレで片付けようぜ!」
アレックスは全スキル使用、「竜の翼」の突進力を利用した必殺狙いの全力の一撃を、同時に叩き込む。
他の口が開いて銃などで反撃してこようと、その口ごと貫き潰す!
「リミッター解除‥‥ランス『エクスプロード』、Wイグニッション!!」
宗太郎もアレックスと同時に、左右に分かれてランスチャージ。スキル全開で全身全霊の一撃。
自身はインパクトの瞬間に槍を捻りこみ、刺突性能向上も図る。
「よっしゃ! 派手にぶちかまそうぜアレックス!」
「「食らえ――Wイグニッション!!」」
ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ――! と大爆発が起こって、ガルガを吹き飛ばした――!
「よっしゃあ! 決まったあ! これで終わりだぜ!」
アレックスは手応え十分であった。
「‥‥待てアレックス」
宗太郎は爆炎の中に浮かび上がる影を確認して、槍を構える。
「オオオオオオオオ‥‥」
ガルガは生きていた。ありったけの弾頭矢と二人のランスチャージを受けてなお立っていた。前進が焼け焦げているが、それでも肉体は健在であった。
「グオオオオオオ!」
加速するガルガはアレックスに襲い掛かった。
ガキイイイイイイ! とアレックスはガルガのパンチを槍で受け止めた。
ずず‥‥と衝撃で吹き飛びそうになる。
「こいつ‥‥並外れたパワーを持っていやがる。それに不死身か!」
そこへ霧島が突進して竜の咆哮でガルガを吹き飛ばした。
「やるね‥‥仕切り直しだよ」
「この野郎‥‥こうなったら肉片の塊も残さねえ!」
「スナイパー君はサイエンティスト君とセットで、支援射撃を頼む。敵の射線に入るなよ。回復の優先順位は俺は最後で良い」
信人は軍属にそう告げると、加速した。開戦の挨拶として、両断剣を発動したソニックブームで初撃を放つ。ドズバアアアアア! と切り裂かれるガルガ。反撃のレーザーガンをかいくぐって接近する。
「グラップラー君とファイター君は側面から回りこめ。正面は引き受けた」
ちゃっかり仕切る信人。正面から突入する。
小刻みなステップで右へ左へ飛び、牽制しつつ、重量・遠心力を乗せた斬撃で削る。
軍属傭兵たちと挟み撃ちで、格闘戦を挑む。尋常ならざるガルガのパワーが傭兵たちを吹き飛ばす。
「注意を逸らしてくれ。何とか奴の腕の一本でも叩き斬る」
軍属グラップラーとファイターは信人の反対方向から攻撃、合わせて支援攻撃に、注意がそれたところら、剣を脚部に突き刺し、そのまま楔にする。
即座に拳銃を抜いて、両断剣発動。損傷個所やレーザー口のダメージが通り易い場所に近距離射撃。
ドッゴオオオオオオ! と貫通弾の銃弾がガルガの腕を貫通する。
「今日が貴様の、逆ハッピーバースデイだ」
反動で楔の剣が抜けて信人は吹っ飛んだ。
だが、ガルガの腕を一本吹き飛ばした。
ユーリと綾、軍属のファイター・エクセレンター・スナイパーの五人はグラップラー型ガルガ格闘戦に突入する。
「速い――!」
ユーリはでたらめなガルガの格闘戦能力に驚く。高速の一撃がユーリを捕える。ズウウウウウン! と受け止めるユーリ。剣と機械剣を叩き込む。手ごたえはどちらも似たようなもの。
「ならば威力の大きい機械剣で行くぞ」
頭よりも胸や腹の方が視界が狭まるだろう。そこでまずは頭を落とす事を狙ってみる。
がガルガも速い。ユーリの攻撃を見切って反撃の蹴りや拳が飛んでくる。
軍属傭兵らもまとめて吹き飛ばしたガルガ。ユーリは「あいたた‥‥」と頭をさすって起き上がった。
ガルガは残酷な笑みを浮かべて爪を揺らしている。
「タロスと同じだ。動かなくなるまで、徹底的に潰す!」
綾は初手に脚部に対して二段撃×3からのラッシュを行使、転倒を狙う。ドドドドドド! と連打がガルガの足に叩き込まれるが、ガルガの頑丈な脚は折れない。
「何を――!」
反撃の拳の連打を綾は剣で捌いた。
動きの基点となるであろうガルガの腰と足の動きに着目。目標の選び方や動きの癖と合わせ、攻撃方法と目標を見定め仲間へ警告する。
飛んできた回し蹴りをガルガの死角に回り込むように回避する。
ユーリは距離を保つと、SMGに持ち換えて弾幕で動きを封じる手に出た。
「この怪物‥‥崩れろ!」
綾の渾身の一撃がヒットして、ガルガの首を切り飛ばした。
すると、胸にぎろりと第二の目が開いて、腹には第二の口が開いて咆哮した。
ドウドウドウドウ――! とガルガの連続攻撃を受ける星月。
「くっ‥‥速い‥‥!」
サイエンティストが回復に当たる。
星月は果敢に正面からガルガに打ち掛かっていき、いつかチャンスが来ることを待っていた。星月の正面からの攻撃で、麻宮と軍属グラップラーはガルガの隙を見出す。
麻宮は随時疾風脚を発動して、刀を叩き込む。疾風脚でようやく追いつくガルガのスピード。
ガルガも挟み撃ちを受けて逃げを打つ。風のように囲みを脱して傭兵たちを本能的に各個撃破に掛かるが、麻宮とグラップラーは瞬天速で追い付く。
ラグエルをスナイパーの射撃に合わせて撃ち込むが、ガルガは残像を残す猛スピードで回避する。
傭兵たちは全力で疾風のようにガルガを取り囲むと、再度集中攻撃を浴びせかける。
星月はチャンスを狙って剣を振るっていたが、遂に最後まで機会は来なかった。
麻宮と軍属グラップラーの猛攻を受けて、ガルガは最後には西方の森の中へ逃走した。
――かくして全てのガルガは倒れる前に逃走する。
「こちらB班の宗太郎。ガルガの撤退を確認した。残念ながら逃がした」
「こちらE班ユーリ。こっちもだ。結局ガルガは逃げたよ」
各班で状況を確認する。この日、ガルガを撃破した傭兵はいなかった。傭兵たちは、改良型ガルガの並み外れたタフさを確認する。