●リプレイ本文
レーダーの光点に目を落としながら、傭兵たちは戦闘隊形を取って行く。
「ダム・ダル(gz0119)か‥‥懐かしいね‥‥ヨリシロにされてからは以前の様な“らしさ”がなくなったらしいが‥‥まぁ今は任務をこなすとするか」
ダム・ダルが強化人間だった頃、漸王零(
ga2930)はしばしば矛を交えたものである。過去の大規模作戦でも戦い、ヨーロッパ攻防戦の後にはダムに撃墜されると言う苦い経験もしている。
「こちらは同一機体との編隊には関わることなく進みましょう。それに固執すると目標を失います。バグアの猿真似は、そこまで考慮していないものと思いますね」
戦場の風紀委員こと熊谷真帆(
ga3826)はそう言うと、鋭い眼差しを空に向ける。
「さて‥‥我には我の出来ることから。自滅する気は無いからな」
シリウス・ガーランド(
ga5113)は、冷静な瞳を前方に向ける。
「こちら旭(
ga6764)です。いよいよ戦闘ですが、さて、敵の反応はどんなものですかね。十分に注意して行きませんと」
旭は言って、フェイルノートの操縦桿を傾けた。
「昔どこかのとある飛行機乗りがこう言ってたぜ‥‥、僚機が落される時点で戦術として終わっている、ってな」
言ったのはヒューイ・焔(
ga8434)。その言葉は自戒を込めて言ったのか、それともバグアを揶揄して言ったものか。
「バグアがロッテやシュヴァルムかあ‥‥学習能力があるって厄介だよな。嫌だなぁ‥‥やりにくいなぁ‥‥」
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)は回線を開いて、半分バグアに聞かせるつもりで、愚痴をこぼした。
「こっちでの戦闘は久しぶりだし空を飛ぶのも久しぶりな気がするな‥‥相手が相手だ、気を引き締めていこうか」
阿修羅乗りの麻宮光(
ga9696)は、コクピットに置いてあるあしゅらのぬいぐるみをぽんと叩いた。
「相手はエースクラスのHWにタロス、それにFRだからな。まずはここを守る事だけ考えていこうか‥‥今まで通りならFRは余程の事がない限りあまり積極的に前には出てこないはず‥‥ただ戦域いる以上は警戒しておこう。俺だけじゃなくて全員が」
「これ以上は南へ進めるわけにはいかないし、ここで止めないとね。敵の思惑がどうあれ‥‥」
澄野・絣(
gb3855)は愛騎ロビンの赫映を操る。
「奴さんもまた豪華な面子を揃えて来たわねえ」
冴城アスカ(
gb4188)はシュテルンを操りながら、鋭い瞳を空に投げかける。故郷の九州をバグアの侵攻から守り抜くため、今日もアスカは戦う。
「今回のバグアってひょっとしたら、ただ単に演習したいだけだったりしてね」
リア・フローレンス(
gb4312)は言って、イビルアイズのコンソールを操作する。
「まぁ、生かして返さなければこちらとしてはどっちでもいいんでしょうけど」
友軍各機と情報をリンクさせていく。
「それじゃ、ミッションスタートって事で!!」
「バグアの物真似っぷりも、ここまで来ると筋金入りだね。それだけ本気って事かもしれないけどさ」
鹿島綾(
gb4549)は言って肩をすくめる。
「ガッハッハ! さて、第二ラウンドと行こうか兄弟!」
孫六兼元(
gb5331)は愛騎のミカガミ「フツノミタマ」に気合を入れる。
「ロッテにシュヴァルムかぁ、いつもよりタフな高速戦闘見せてあげるよ」
ソーニャ(
gb5824)は愛騎のエルシアンの操縦桿を傾ける。
「頭はよくないけど、認識力じゃぁ負けないんだから」
レーダーに目を落とし、敵機の動きを確認して頭に叩き込む。
たまたま日本に来ていた所を駆り出されたグロウランス(
gb6145)。
やれやれ、まだ師の墓参りも済ませていないというに。だが‥‥。
「腑に堕ちんな‥‥、ただの趣味ならそれまでだが」
バグアの技術なら、こちらに通信を傍受させぬ事など造作もあるまいに。あからさまに自分達の編成を明かす、その意図が見えん。余裕か、驕りか、それとも欺瞞か。
「‥‥まぁ、こちらのバグアについては知らんからな。警戒だけはしておくか」
ジャック・ジェリア(
gc0672)は思案顔でバイパーを操る。
「ロッテなんか組んでくるということは、慣性制御を生かした一撃離脱か?」
実際慣性飛行を用いれば、圧倒的な機動性を誇るワームがロッテを組む意味があるのか、と思えなくもないが。
傭兵たちはバグア軍の出方に対応できるように警戒しつつ、戦闘隊形にはこだわらず、柔軟に動くつもりであった。
対ヘルメットワームに王零、熊谷、シリウス、旭、ヒューイ、ユーリ、フローレンス、ソーニャ、ジャック。
対タロスに麻宮、澄野、アスカ、鹿島、孫六、グロウランスが当たる。
「ファームライドの動きが気になるが‥‥確実に敵機を仕留めていこう」
「全機エンゲージに備えて下さいね」
整然と戦列を整える傭兵たち。
「それじゃ、行くわよ。真似真似で勝てると思わないことね」
「ガッハッハ! ワシのブレードの錆にしてくれるわ!」
「全機ドッグファイトに備える」
そして、傭兵たちは、スロットルを吹かせると、ナイトフォーゲルを加速させた。15機のKVは音速の壁を突破してワームに突進していく。
――ナイトフォーゲルとワームの集団から銃撃やプロトン砲の応射が交わされ、二つの集団はドッグファイトに移行する。どちらの集団も統制された戦闘隊形を組み、流れるように会敵する。
「行くぞ熊谷、支援を頼む」
「了解」
王零と熊谷はロッテを組むと、敵のHWに接近する。
王零がスラスターライフルをばらまく後方に熊谷は付いて、ガトリングで支援する。
「まずは軽く挨拶代わりだ。受け取れ」
「行きますよ、食らえ」
シリウスは旭とロッテを組むと、二人ともHWにミサイルを叩き込んだ。流れる軌跡を描いて、ミサイルは着弾して爆発炎上する。
旋回したHWは、シリウスと旭の後方に付かんと加速する。
ヒューイとユーリは旋回する赤いヘルメットワームを確認する。迎撃のライフルとバルカンでやり過ごして僚機を連れて飛んでいく赤いワーム。
「指揮官機か」
「高橋麗奈かな」
フローレンスは赤いHWをマークすると、仲間たちに高橋機の所在を送る。
「後ろに着くつもりだろうが、そうはさせない。行くぜユーリ」
「ああ。エースとは言え、後れを取るつもりは無い」
ヒューイとユーリも旋回する。
「行けー! エルシアン! ツインブースト!」
ソーニャはマイクロブーストを起動させると、バレルロールで突進した。プロトン砲の応射をかいくぐって、AAMEミサイルを撃ち込み、レーザーを叩き込む。ワームを打ち抜き、そのまま加速して離脱。
「あのロビンを追撃する。旋回して追うぞ」
回線に強化人間の冷たい声が響き渡る。
「そうはさせないぜ」
ジャックが割り込んだ。バイパーを前進させ、ショルダーキャノンとピアッシングキャノンをHWに撃ち込む。
「俺はただの傭兵でケンカは弱いんでね。状況を作るのが仕事なのさ」
キャノンを避けるように、HWはぐるりと旋回すると、プロトン砲で応戦しながら傭兵たちの隙を窺う。
「行きますよ澄野さん。あのタロスに――」
「了解光、同時攻撃を仕掛けるわよ」
麻宮の阿修羅と澄野のロビンがタロスの側面から回り込んでいく。
「来るぞ、迎撃」
強化人間の無機的な声が雑音の中に鳴り響き、タロスもまた旋回する。
麻宮はトリガーを引いてスラスターライフルを撃ち込み、澄野はプラズマライフルを叩き込んだ。
タロスも流れるように旋回しながらプロトン砲を応射してくる。麻宮と澄野は操縦桿を傾け、阿修羅とロビンはプロトン砲から逃れる。
「行くわよ綾」
「承知」
アスカのシュテルンと鹿島のディアブロが加速してタロスに接近する。
シュテルンから放たれる重機関砲。旋回するタロスからプロトン砲が飛んでくるが、それらをやり過ごしながら、鹿島は十六式螺旋弾頭ミサイルを撃ち込んだ。
弾頭ミサイルが赤いタロスを貫通して爆発を起こす。
「態勢を立て直す! 援護しろ!」
強化人間のキーラーはプロトン砲をばら撒きながら突進して突き抜ける。ロッテを組むタロスもプロトン砲を連射してくる。
シュテルンとディアブロは直撃を受けて傾く。
「畜生! 何なのよこいつら! 無茶苦茶な動きじゃない!」
「一気に片付けてやるぜ! ロッテ戦術を試すいい機会だ! 慣性飛行とのミックスで死角は無い!」
キーラーの耳障りな声が鳴り響く。
「貴様がタロスの頭か! 銀の鬼、孫六兼元が相手仕る!!」
「行け孫六。援護してやる」
グロウランスがロケットを撃ち込み、孫六が加速する。
「ガッハッハ! 貰った!」
「ぬ――!」
僚機と切り離されたキーラーの赤いタロスに孫六のウイングが切りつける。衝撃と爆発が赤いタロスを吹き飛ばした。
「こちらには傭兵六機か‥‥」
キーラーはコクピットで不敵な笑みを浮かべていた。
「タロス隊! ナイトフォーゲルを引きつけろ! 高橋に反撃の時間を与えてやろう!」
「言ってくれるな」
高橋の赤いHWを追撃していた王零は、帯電加速粒子砲を撃ち込むと旋回した。赤いHWが大爆発を起こす。
「キーラーめ‥‥調子に乗るなよ。各機、数ではこちらが勝っている。傭兵たちを各個撃破せよ」
高橋は態勢を立て直して王零の雷電に部下を差し向ける。
「反撃が来ます」
熊谷は反転すると、接近してくるヘルメットワームにブリューナクを撃ち込んだ。試作レールガンがHWを貫通する。
巧みな旋回で距離を図りながら、HWはプロトン砲を撃ち込み接近してくる。
熊谷は直撃を受けるが、ブリューナクを叩きつける。
「ワームがロッテ戦術とは、本気だったか」
シリウスはレーザーガトリングを撃ち込みながら加速した。直撃を受けるHWが爆発する。が、ロックオンアラートが鳴り響き、別のワームに背後に付かれる。
「逃げて下さいシリウスさん、援護します」
旭はミサイルを連射して、HWを後退させる。
散開するヘルメットワームはまた旋回して距離を保ってプロトン砲を撃ち込んでくる。
連打を食らった旭のフェイルノートが爆発炎上する。揺れるコクピットで、旭は操縦桿を立て直した。
「敵機の態勢全く崩れる気配なし」
フローレンスは言いつつ、ロックオンキャンセラーを起動させていたが、どうしたものかと戦況を見つめていた。意外なまでの敵軍のしぶとさに戦況は膠着状態に陥っていた。
「どうも、押され気味か。思い切って攻勢に転じる必要がありそうだな」
「そうかも知れない。ロッテに手こずるとは思わなかったけど」
ヒューイは加速すると、バルカンを叩き込んでソードウイングで切りつけた。
ユーリも機関砲を叩き込みながらアグレッシブファングを起動、ソードウイングを叩き込む。
「――ぬ!」
直撃を受けたHWが大爆発を起こして傾く。
「力押しとは芸が無いが‥‥な!」
ヒューイはさらにもう一撃切りつけた。
凄まじい衝撃にフォースフィールドを貫通する一撃は、HWを吹き飛ばした。
「2番機、右ロール回避、4番機、2番機後ろのHW狙って、5番機フォロー、2、4、5、そのままワゴンホィールに、後ろHW処理」
ソーニャの指示で、王零、熊谷、シリウス、ジャックが動く。ワゴンホイール誘い込まれたHWに、王零がエネルギー集積砲を叩き込み、熊谷がブリューナクを、シリウスがミサイルを撃ち込んだ。
「何だ!?」
ワゴンホイールにはまり込んだHWはジャックを追いかけていたが、集中攻撃を浴びて爆発四散する。
「一機撃墜。わざわざこっちに来てくれるとはありがたいことで。しばらく遊んで行くといいんじゃないか」
ジャックのからかうような声が回線に響く。
「一機ロストしました」
「やられたか‥‥深追いするな」
「2−4、5−3でロッテ組み換え」
ソーニャの指示で、王零とシリウスが、熊谷と旭がロッテを組み直す。
「こっちも負けていられませんね。タロスを落とさないと」
麻宮と澄野は、アスカと鹿島とともに二機のタロス編隊に攻撃を加える。
麻宮はスラスターライフルとホーミングミサイルを叩きつければ、澄野はマイクロブースト起動でオメガレイを撃ち込んだ。
突進してくるタロスに、アスカはマニューバ機動で失速、一気に背後に付く。
「もう駄目、落ちる‥‥なんて言うと思った? 残念、落ちるのはあなたの方よ♪」
スラスターライフルを撃ち込み、ありったけのロケットを叩き込んだ。
直撃を受けて爆発炎上するタロスに、鹿島は背後からソードウイングで切り掛かった。翼の刃がフォースフィールドを貫通、タロスの装甲を吹き飛ばした。
「何をしているか! 強化型タロスに乗っていて!」
キーラーの苛立たしげな声が回線に響いた。
「強化型、か」
グロウランスはロケットを撃ち込み、孫六を援護する。
「ガッハッハ! キーラーとやら! ここで果てるが貴様の命運よ!」
「やかましい!」
切り掛かる孫六のウイングを跳ね返し、キーラーはミカガミをプロトン砲で叩いた。
「ダム司令、援護を頼みます。あなたの力が必要です」
高橋麗奈は回線に呼び掛けた。すると――。
フローレンスは後方に突如出現した大きな反応に目を落とす。
「後方に敵機出現しました!」
出現したファームライドは突進してくると、プロトン砲の連射でフローレンスのイビルアイズをあっという間に行動不能に追い込んだ。
「そのFR‥‥ダル・ダムか‥‥今はヨリシロになったらしいな‥‥聞いた話では臆病ものになったらしいが‥‥昔の約束の為に付き合ってもらうぞ」
王零はFRにライフルを撃ち込んだが、全弾跳ね返される。反撃のプロトン砲が直撃する。
「さて‥‥どんなものかな」
ダム・ダル(gz0119)は呟くと、熊谷の雷電に目を向ける。
ジャックが煙幕弾を撃った。FRは煙幕の中に突進して熊谷の機体とすれ違う。
「そのFR、置いて行けよ」
ソーニャはアリスシステムとマイクロブーストを起動させて突入、G放電ミサイルを撃ち込んだ。FRは流れるようにやり過ごす。
ユーリは王零を援護してFRに立ち向かう。
「王零、奴の光学迷彩を潰してやれ」
だが、FRの機動力は強化ワームをさらに上回る。傭兵たちの攻撃は全てアクロバットにかわされた。
麻宮と澄野は一撃だけ攻撃を試みて、後はFRに近づかない。
「あなたとワルツを踊りたいのは山々だけど今日はそういう気分じゃないの 悪いわね」
アスカそう言ってFRとは距離を取った。
鹿島は残りの弾頭ミサイルを撃ち込んだがこれも跳ね返される。
「良いとこなんだ。邪魔するなよ?」
「ふむ。この辺りが潮時か。テストケースとしては十分だな。高橋、キーラー、兵を引くぞ」
「司令、ここまでですか」
「そう言うことだ。春日へ戻るぞ」
「了解しました。傭兵たちよ、命拾いしたな! 次に会う時は殲滅する!」
キーラーは咆哮して赤いタロスを反転させる。高橋麗奈はこの展開を予測していた。
そうして、HWとタロスの集団は超音速で北へ飛び去ったのである。