●リプレイ本文
みやこ町――。
「フゥン、面白い冗談だねぇ‥‥キメラが(神話の)キメラになりました‥‥か、差し詰め僕らはコリントスの英雄かな?」
既に覚醒している右目を瞑った秋月九蔵(
gb1711)は、おどけた調子で言った。覚醒すると軽口を叩くらしい。コリントスとは古代ギリシアの都市である。
「南米で“キマイラ”と戦った事はあるが‥‥面倒そうな敵だな。抜かせはしないがな」
黄金の光に包まれた白鐘剣一郎(
ga0184)はチーム一の攻撃力を持つ古流剣術「天都神影流」の達人だ。
「せっかく九州に来たのにやることはばけもの狩りかよ。仕事とはいえたりぃなぁ‥‥。しゃーねーな。終わったらからしれんこんとかラーメンとか明太子とか食いに行くか」
ぼやく風見トウマ(
gb0908)を横目に麻宮光(
ga9696)は苦笑して肩をすくめる。お調子者らしいトウマの口ぶりだが、やる時はやる男、腕は確かである。
傭兵達は高速艇から降りると、UPC軍に合流する。兵士は一つ敬礼して傭兵達を出迎える。
「援軍に感謝するが‥‥」
「状況は」
アグレアーブル(
ga0095)は淡々と尋ねる。
覚醒した傭兵達のある意味異様な姿に、兵士は空恐ろしいものを感じた様子で立ち尽くしている。
「すまない、噂には聞いていたが、傭兵を見たのは初めてなので‥‥」
「‥‥私たちも元は人間よ。驚くのも無理もないでしょうけど」
蒼い炎のような陽炎をまとった紅アリカ(
ga8708)の表情に感情らしきものは見えない。
「ふむ‥‥まあいい、では状況を説明しよう。と言っても相手はでたらめな戦闘力を持つ怪物だからな、防衛線を維持するだけで精一杯なのだが」
兵士は傭兵たちを戦闘地域まで案内すると、みやこ町の地図を広げた。現在戦闘が行われているのは町の防衛線の一つで、周囲は民家などの建物が主だ。
「我々が今いるのがここだ‥‥抜かれると敵の前進を許すことになる」
ドドオオオオオン‥‥!
すぐ近くで重火器がキメラ目がけて発射されている。
「民間人がいるそうだな。避難を頼めるか」
アグレアーブルの口調は相変わらず淡々としている。
「援護はいらないか」
「必要ない。むしろ我々が囮になる」
「ふむ‥‥」
兵士は若い傭兵達を見渡し、頷いた。
「では頼む、軍は民間人の避難を進めるとしよう」
兵士は無線で傭兵達が囮となる旨連絡すると、民間人の避難を開始する。
「よし行こう、予定通りツーマンセルで」
「終わったらすぐに駆けつける。それまで頼む」
秋月とペアを組む寿源次(
ga3427)は前衛の八人に言葉をかける。
「民間人の避難を援護する。もしもの時は任せて欲しい」
「何があっても絶対キメラは近づけないぜ。ま、敵さんのことは俺たちに任せてくれ」
源次と秋月は兵士たちにも言葉をかけると、後衛の配置に付く。
前衛の八人は家屋の残骸を踏み越えて戦闘地域に進入する。
ガルルルル‥‥猛獣キメラたちは家屋の上や壁を乗り越えて姿を見せる。
「直視するなよ、行くぞ!」
剣一郎の合図で、傭兵達は閃光手榴弾を投げ込んだ。
ピカッ! と眩い光が爆発し、束の間キメラを怯ませる。
疾走する傭兵達。
ドウッ! ドウッ! ドウッ! ドウッ!
麻宮は拳銃と小銃をぶっ放しながら突進する。
「今までの中で一番厳しい状況かもしれない‥‥キマイラ10体が襲撃中なんて聞いたこと無い‥‥まあ、だからと言って誰も死なせるつもりは無いですけど、ね!」
ロジャー・ハイマン(
ga7073)は突撃しながらキメラの四肢目がけてアーミーナイフを投擲した。
キメラの太い足にナイフが突き立つ。キメラは微かに怯んだ様子で小さく鳴いた。が、直後には立ち直り、接近するロジャーにキメラの口から光の束が叩きつけられる。
反射的に盾を構えるロジャー。光線は盾にぶつかって反射した。
「ブレスですか‥‥麻宮さん援護をお願いしますよ!」
「任せろ」
キメラの側面に回りこんだ麻宮は銃を連射。
突っ込むロジャー。キメラの牙を盾で跳ね返して直刀月詠を振り下ろす。月詠の刃がキメラの肉体をえぐる。血飛沫が舞い、キメラは咆哮した。
「羽根の生えたライオンか。虎に翼とはいうが獅子に翼とか新しいな、てか飛べんの? アレ」
トウマは両手剣を構えて突撃、剣一郎も月詠を構えて突進。
「飛ぶ前にけりをつけるさ!」
ガオオオッ! キメラは咆哮して冷気のブレスを叩きつける。
盾で防ぐ剣一郎、トウマはブレスを食らって顔をしかめる。
「痛え〜っ、やってくれるな!」
二人ともキメラを挟み撃ちにすると、一気に畳み掛けた。
「一気に倒しきれなくても、動きさえ止めれば後は何とでも出来る‥‥天都神影流・斬鋼閃」
剣一郎の強烈な一撃がキメラの足を切り裂いた。
ガオオオ!
反撃を受け止めさらに一撃を叩き込む。
「さっきの借りは返させてもらうぜ!」
トウマはキメラの側面から剣ごとぶち当たった。剣がキメラの肉体に突き刺さる。
キメラは尻尾を一振りして牽制すると飛び上がった。
「うわ、本当に飛びやがった。じゃあ叩き落とす!」
「逃がさん! 天都神影流、虚空閃・波斬っ!」
二人のソニックブームがキメラに命中、キメラは苦悶の叫びを上げて墜落した。
ドウッ! ドウッ! ドウッ! ドウッ!
アリカは後退しながら近距離から拳銃をキメラの頭部狙って叩き込む。
ドウッ! ドウッ! ドウッ! ドウッ!
キメラは身をよじって弾丸の嵐に耐えると、炎のブレスを吐いた。
「くっ‥‥」
灼熱の息にアリカの表情が険しくなる。
「でやああああ! これでも食らえ!」
荒巻美琴(
ga4863)はファングを装備した拳を振るってキメラの脇腹に連打を浴びせる。
ぶん! とキメラの尻尾がうなりを上げて美琴を襲う。
「ちいっ‥‥!」
尻尾が腕に絡みついて、美琴は引きずり倒された。美琴の方に向き直るキメラ。
「‥‥怪物、敵はこっちよ」
アリカは直刀ガラティーンを構えてキメラの真正面から突っ込んだ――キメラの太い首にガラティーンが突き刺さる。キメラは美琴を振りほどくと咆哮してアリカに体当たり。アリカはよけながら拳銃を叩き込む。
「‥‥しぶといわね‥‥」
「こいつ、何て固い‥‥確かに並外れた体力ね。アリカさんごめん」
「‥‥礼はいいわ、まだ来るわよ」
アリカの言葉どおり、キメラは巨体を揺らして突進してくる。
アリカは刀を構え、美琴はキメラの側面に回りこむ。
バン! バン! バン! バン!
拳銃を連射してキメラに接近するアグレアーブル。
その側面から萩野樹(
gb4907)が突進する。
――オペレーターのお姉さん、悲しそうな顔してた。
笑ってる顔を、見てみたい、な。
今度の依頼、がんばらないと――。
戦い前にはふとそんなことを考えた萩野。このキメラを倒し、あの人の笑顔を取り戻すことが出来るだろうか‥‥。
ドラグーンのアーマーをまとって疾走する萩野。
アグレアーブルが銃で援護するのに合わせて、別方向から切り込む。二刀小太刀を構えてキメラに突進。
「行っけえええ!」
刀身がキメラの肉体を切り裂く、竜の翼で竜騎兵のように駆け抜ける萩野。キメラは苛立たしげな咆哮を上げる。
直後、アグレアーブルのガトリングがキメラに襲い掛かった。
ドガガガガガガガガガ‥‥!
のた打ち回るキメラ。
――リロード。
「‥‥‥‥」
アグレアーブルの瞳に静かな金色の光が閃く。
グルルルル‥‥立ち上がったキメラはかっと口を開くと、電撃ブレスを吐き出した。
直撃を受けたアグレアーブルは顔をしかめて手をかざした。
「大丈夫か、アグレアーブルさん」
「何とか」
「もう一撃行く、アグレアーブルさん、援護をよろしく!」
萩野は再び突撃する。
「気をつけて」
アグレアーブルは援護射撃のガトリングを打ちまくった。
「向こうも心配だが‥‥いざと言う時の為の自分等だ。宜しくな」
「ええ‥‥UPCの後退はまだかな」
激しい戦闘の銃撃が響いてくる中、源次と秋月は後退するUPC軍を援護していた。
「頑丈な体力にブレスと厄介な相手だ、みんなが心配ではあるけれど」
秋月はUPC軍の方を見やり、そして戦場の方をみやった。
とその時、前線を抜け出してやって来たキメラが悠然と巨体を揺らして姿を見せた。
グルルルルル‥‥。唸るキメラが回り込んでくる。
「くっ、こんな時に‥‥だが近付かせる訳にもいかん!」
「撤退が済むまではね」
源次は超機械トルネードを発動。竜巻がキメラを包み込みダメージを与える。絶叫するキメラ。すさまじい超機械の一撃だ。
ドウッ! ドウッ! ドウッ! ドウッ!
秋月は両手のクルメタルを連発。キメラは身を縮こまるようにして耐える。
ガオオオオッ! だが突進してくるキメラ。
ドウッ! ドウッ! ドウッ! ドウッ!
秋月は後退しながら銃を撃ちまくった。
「堅いな‥‥」
源次は再度超機械の一撃を叩き込む。
それでもキメラは突進して――空に舞い上がった。
「これでも落ちないか‥‥!」
キメラを目で追いかける秋月はクルメタルを撃ちながらキメラの体力に驚いていた。
飛んだキメラは戦闘地域の方に飛んで逃げた。
「何とか‥‥やり過ごしたか‥‥」
源次は吐息する。そこでUPCから避難完了の連絡が入ってきた。
「よし」
秋月は銃の具合を確かめながら戦場に目を向ける。
「避難完了! そっちの手は足りるか? すぐに行くぞ!」
源次は無線機に問いかけながら走り出した。秋月も源次を追う。
「――てめぇら! ライオンの癖にブレス吐いてんじゃねぇ!」
トウマはブレスを浴びながら舌打ちしていた。ブレスは意外に強力である。
そこへ源次と秋月が到着する。
「みんな大丈夫か」
「待ってたぜサイエンティスト、回復を頼む!」
トウマは剣を構えながら源次に呼びかける。
「‥‥こっちも頼むわ」
アリカも武器を構えながら回復を要請する。
「ははっ、こりゃ仕事のし甲斐があるな! 怪我は大丈夫か?」
源次の練成治療で生命力を回復させる能力者たち。
この時点でキメラを倒しているのは剣一郎とトウマのペアが一体だけだった。
「何てしぶとい連中だ‥‥だが、負けるものか!」
ロジャーは麻宮の援護を受けながら刀を振るい続ける。刃は確実にダメージを与えているはずだ。
ドウッ! ドウッ! ドウッ! ドウッ!
麻宮は飛び交い、襲い来るキメラの牙をかわしながら銃弾を叩き込む。
「ちいっ! 速い!」
ドウッ! ドウッ! ドウッ! ドウッ!
麻宮は嵐のように弾丸を撃った。
「ここは抜かせないと言った!」
キメラの牙を跳ね返し、剣一郎は刃を叩き込む。
ガオオオオッ!
「突っ込んできたか! なら闘牛士も真っ青な技見せてやらぁ!」
トウマは突進してくるキメラに何と飛び乗ると、たてがみをつかんで馬乗りになった。あるいはこんな真似をした能力者は初めてかも知れない。
「アディオス! アミーゴ!」
トウマはあたかも操っているかのようにキメラを乗りこなした。その状態で刀を突き立てるトウマだが、暴れるキメラにさすがに振り落とされる。
アリカは武器を二刀に持ち替え、近接戦闘。襲い来るキメラの体当たりと牙をかわしつつ敵の頭部を狙って刀を振るう。
「くうっ! 鋭い!」
キメラの牙がかすめた美琴の腕から血が流れる。間一髪かわした。当たれば大きい。
怯んだところでキメラ三体が美琴に集中攻撃を仕掛けてくる。
「荒巻、下がれ!」
源次は超機械で援護する。
すると一体のキメラが空に舞い上がり、上空からブレスを叩き込んでくる。
「最大火力だ、トリガーハッピーに行こうじゃないか」
ドウッ! ドウッ! ドウッ! ドウッ!
秋月は走りながら上空のキメラを狙い打つ。だがキメラは落ちない。
アグレアーブルと萩野の前にいたキメラは美琴とロジャーの方へ向かっている。
「このみやこ町をお前達の手には渡さない!」
ロジャーは迫り来るキメラを相手に気を吐いた。
ドガガガガガガ‥‥!
アグレアーブルはガトリングで美琴を援護し、萩野は竜の翼で一撃離脱を試みる。
アーマーの脚部がスパークして駆け抜ける萩野。切り付けた後は地面を滑るように旋回して敵との距離を取る。
「だが、何てしぶといんだ‥‥」
萩野はアーマーの中から強力なキメラたちを見つめる。
ガアアアアア‥‥。
また一体、トウマの前にキメラが苦悶の声を上げて倒れた。これで二体目。
ドウッ! ドウッ! ドウッ! ドウッ!
激しい銃撃がキメラを打ち抜き、傭兵達の剣がキメラを切り裂く。
だがキメラの反撃に源次は味方の回復に追われることになる。
さらに剣一郎とアリカが二体のキメラを倒したところで、敵は後退し始める。
家屋の残骸を飛び越え、猛獣キメラたちは尻尾を巻いて逃げ出したのだった。
‥‥戦闘終結後。
ロジャーは市民の避難を手伝っていた。
「何とか勝ったか‥‥」
兵士の言葉にロジャーは首を振る。
「いいえ、完勝とはいきませんでしたからね。反撃が来るかも知れませんよ」
「むう‥‥」
「束の間の休息かも知れんが、避難に間に合ったのは幸運だったな」
剣一郎の言葉に兵士は肩をすくめるのみだった。
「何とか、敵を完全に潰したかったが、無念だ」
源次は憮然としつつ呟いた。
「‥‥何とかなったみたいだな。よし、おいお前ら! 九州名物食いに行こうぜ!」
そこへやって来たトウマは、戦いの緊張感などどこ吹く風、飄々としたものであった。
その後、ラストホープへ帰還後、フローラ・ワイズマン(gz0213)のもとを訪れた萩野は、笑顔のフローラから「お疲れ様」と言われたそうである。