●リプレイ本文
出撃前――。
「ダル司令も遠路はるばるご苦労な事ね。それでは地中海の新名物、HW料理ショーと行きますか」
藤田あやこ(
ga0204)は言って、ダム・ダル(gz0119)もご苦労なことだと皮肉を言う。北九州の宿敵が今回は出張とはね‥‥。
「イタリア、か。‥‥今頃は彼女も同じ空を見ているのかな」
遠い空の下にいる、乙女座の『彼女』に思い馳せる御影・朔夜(
ga0240)。今回は動く気配のないゾディアック乙女座のイネース・サイフェル。
「先の戦闘ではダム司令に一杯食わされましたからね。今回は‥‥気を引き締めてかかりますよ」
レギオンバスターのソード(
ga6675)は、言って蒼い愛機フレイアを見上げる。
九州の御大将が態々地中海まで出張とは大変ご苦労な事だよ。僕達の負担が重くなる意味でね。そろそろ進攻が始まるので、とっと帰って貰えると有り難いのだがね‥‥。
「まあ、待望のペインブラッド――『ヨルムンガルド』を手に入れた事だし、ささやかなデビューの試運転を飾るとするかね」
本部の女性士官を口説いていた錦織・長郎(
ga8268)は、遅ればせながらやってきて、初出撃のペインブラッドを見上げると不敵な笑みを浮かべる。
「いよいよアフリカか‥‥ダムとは九州で何度もやり合ってるけど、ここまで出張ってくるとはね。何はともあれ油断はできませんね。あの無敵のステルス、光学迷彩を狡猾に使いこなすのは奴の十八番ですからね」
言ったのは麻宮 光(
ga9696)。ヨリシロのダム・ダルとはかれこれ一年以上の因縁になる。
「ガッハッハ! まだダム・ダルは居座っとるのか! ワシが追い出してくれるわ!」
孫六 兼元(
gb5331)は、牙を剥いて腕組みしながらかの春日基地司令官の顔を思い出す。すでに何度となく戦ってきた相手だ。そしてそのたびに孫六の前に立ち塞がって来た。加えて言うなら良い思い出はない相手だ。
「機動性アップ、間に合ったね。みんなありがとう」
ソーニャ(
gb5824)は礼を言うと、孫六が「ガッハッハ!」と笑う。
「それはそうとソーニャ氏、今回は行かないのか」
「え、今回はダムに絡まないのかって? うーん、HWを抑えるのもかなり重要。数も多いし、手強くなってる。それに、小細工だけじゃないよ、正攻法の編隊戦術だって得意なんだ。個人技量じゃかなわないから、その分ね」
「わしには退く道はないがな! もののふたる者、剣で勝負よ! ワシが機体に神剣の名を冠している通りだ!」
「でもFRを捕捉する為にはなにか小細工、奇策が必要な気もするんだよね」
「うむ。それは後ろの連中に任せるぞ!」
‥‥ここで食い止めねば‥‥進行作戦に支障が出ます‥‥これ以上脅威は増やせません。
奏歌 アルブレヒト(
gb9003)は胸の内に呟くと、孫六に声を掛ける。
「師匠、支援は任せて下さいね。敵がダム・ダルだろうと、師匠の後ろは必ず支えて見せます。これまでもそうでしたように、師匠は奏歌の誇りですからねっ」
「ガッハッハ! 奏歌氏、たまには饒舌だな、うむ。わしは突貫するのでな、後ろは頼むぞ!」
元ゾディアックの一員‥‥成る程、踏み超えるべき壁として不足は無ぇ! 相手して貰うぜダム公!
気合十分なCHAOS(
gb9428)。前回のダムの報告書を思い出す。
「エネルギー切れを装っての奇襲‥‥か‥‥」
噂にたがわぬ狡猾な相手だ。毎回こちらの予測の上を行く。あるいは卑劣卑怯な手段をいとわぬ相手とも言う。
「倶利伽羅、一緒に頑張ろうね。皆も一緒だから怖くないから‥‥」
愛機のディアブロを見上げるCHAOSの瞳は、優しげなストライクフェアリーだ。
「え、えーっと、私、私もまた結構危険な任務を引き受けてしましましたね‥‥大丈夫でしょうか」
人の目が見れないというエヴリン・フィル(
gc1479)は、目隠ししていた。
「でも、ここで敵を止めないと、作戦の緒戦に影響が出ますし‥‥もしも地中海を行く艦隊などが襲われたら、被害は無視できませんし‥‥兵士のみなさんへの犠牲を少しでも食い止めないと‥‥」
「エヴリン、まあ落ちつけよ」
御影は軽くエヴリンの肩を叩くと、いたずらっぽく笑った。
「まずは深呼吸して、気分を落ちつけろよ。ほら、息を吸って、吐いて‥‥」
「は、はい‥‥深呼吸‥‥」
エヴリンは言われるままに深呼吸すると、最後に吐息する。
「で、でも、もしも、私達が突破されたら、イタリア方面軍に影響が‥‥」
「まーまー」
エヴリンをなだめつつ、御影は仲間たちを見やる。
「さて、イタリアのダム・ダルが、どう動くかだが‥‥」
「何としても、ここで食い止めないと‥‥」
「間もなくアフリカ侵攻作戦が始まります。今は、目の前の敵に集中することを考えましょう‥‥」
そうして、傭兵たちは出撃して行った。
――地中海上空で敵機と遭遇する傭兵たち。
「ファームライドは動かず。敵ワーム20、南から突進してきます」
「行きますよ――!」
傭兵たちは操縦桿を傾けると、南へ向かって加速する。
ほどなくして、ワームからのジャミングがレーダーを乱す。
ソードは前進すると、まずはフレイアお馴染みの必殺の一撃を繰り出す。
「兵装2、3、4、5発射準備完了。PRMをAモードで起動。マルチロックオン開始、ブースト作動」
コンソールを操作して行くソード。
「ロックオン、全て完了!」
ソードは持てるK02ミサイルを全弾放出する。
「『レギオンバスター』、――――発射ッ!!」
フレイアの機体から、2000発のミサイルが放出される。見る者を圧倒するミサイル群がワームに向かって飛んでいく。
回避行動を取るHWに、次々とミサイルが命中して行く。爆炎が巻き起こり、空を紅蓮の炎で染め上げる。
「ちい――! 何と言う威力だ! これがKVなのか、信じられん!」
敵パイロットの声がジャミングの雑音に混じって流れてくる。
「くくく‥‥行きますよブラックハーツ」
ペインブラッドの機体能力を使って、前進する錦織。エヴリンが後方について支援に当たる。
錦織はプラズマリボルバーのトリガーを引くと、HWに弾丸を叩き込んだ。
「あ、当れ‥‥当って!お願いですから‥‥」
エヴリンはミサイルを放り込む。ミサイルが命中して、炸裂する。
「も‥‥もう、心臓がどきどき煩いっ、少し静かにしていて下さい!」
と、敵機の反撃が来る。プロトン砲が空を貫き、ペインブラッドとディスタンを直撃する。
「くく、やってくれますね‥‥」
「ファームライド対応班には行かせない! お前たちの相手は俺がする!」
麻宮は阿修羅を加速させると、バレルロールで突進した。ライフルを撃ち込みながら突撃する。プロトン砲をかわしながらHWを打ち貫く。
「支援しますよ、光さん」
ソードのフレイアがロッテを組む。支援攻撃のエニセイを叩きつけると、HWが吹っ飛び粉々になって行く。
「よし、さすがですね! これで――!」
麻宮はホーミングミサイルを叩き込んだ。ミサイルが命中し、HWが爆発四散する。
「まずはライフルで下ごしらえ! レーザーとSESエンハンサで丸焼き! リボルバはお好みで!」
あやこはソーニャとロッテを組みつつ、後方に付いて敵の配置を確認しておく。
「まずはライフル、下ごしらえはいかがかしら」
あやこはいたずらっぽく笑みを浮かべると、D2ライフルをばら撒いた。HWの動きを牽制して、ソーニャを支援する。
「ソーニャ機、右翼突破攻撃、分断します。左翼フォロー来る前に波状攻撃よろしく」
ソーニャは前進すると、アリスシステムとマイクロブーストで加速する。バレルロールで突撃しながら高分子レーザーを撃ち込む。
反撃のプロトン砲をかいくぐり、回転する視界の中で敵機を捕まえた。
「後ろHW、ソード機前へ誘導します」
「ラジャー、迎撃に当たります」
ソーニャはHWを連れてソードの前に飛び出すと、ついてきたHWをソードが一気に攻勢をかけた。
「1番3番機、互いの後ろのHW狙って」
「エンハンサー起動! レーザーで丸焼きよ!」
あやこはエンハンサーでレーザーを撃ち込み、ソーニャと連携して敵機を沈める。
レーダーに目を落としていた錦織。
「エヴリン君、少し無茶をするのでサポートよろしく」
「は、はいっ?」
錦織はブースターを起動させて突進した。
『ロキ・クリーク(魔狼突撃)』
ブラックハーツ+剣翼+ブースト+バレルロール。複数の敵機が縦に並んでて剣翼複数突撃可能な場合起動。複数強化効果により多数撃破を促す。
「所謂必殺技だね、くっくっくっ‥‥」
散開するHWを何機かまとめて切り裂いた。
「い、いっきまっす!」
続いて加速しながらスピードに乗ってミサイルを放出するエヴリン。ミサイル群がHWを捕え、爆炎を巻き上げる。
接近したエヴリンは、マシンガンを叩きつけると、一気に加速した。連弾を浴びて吹き飛ぶHWが、閃光とともに爆発して四散した。
「や‥やった‥‥。何とか一つ!」
「お見事だよエヴリン君」
錦織は言いつつ、機体を旋回させれば、プロトン砲をかわしながらD2ライフルで反撃した。
御影、CHAOS、孫六、奏歌たちもHWの迎撃に当たり、敵機を確実に減らしていく。
と、御影はレーダーに目を落として、眉をひそめた。
「動き出した」
イタリア東部に滞空していたFRと思しき反応が急接近してくる。
「FRが接近してくる。各機、警戒せよ」
「いよいよか、あんたほどの人と共闘できるとは光栄だな、黒狼」
「ガッハッハ! 来よるぞ! 行くぞ奏歌氏!」
「師匠、後ろは守ります」
「FR、来るぞ――!」
超音速で駆け抜ける赤い機体が、傭兵たちの視界をかすめて行く。
FRは戦闘態勢を整えると、整然と攻撃の位置に着いた。
FR対応の御影、CHAOS、孫六、奏歌たちは、ロッテを組むと前進した。
「――今は此処で退場して貰うぞ。ブースト起動、超限界稼働――コード『フラフナグズ』‥‥!」
ブースト&超限界稼働。
御影は接近して8.8高分子レーザーアハトを叩き込んだ。超限界で高められた破暁の機体能力が、FRを補足した。
初撃のアハトがFRを捕える。爆発がFRを包み込む。
「‥‥気に入らないな。あぁ、気に入らないとも」
御影は加速して、続いてプラズマライフルを撃ち込んだ。
「この地の空を、乙女座の『彼女』以外が我が物顔で駆ける事など‥‥!」
乙女座のイネースとの間にある因縁と確執から。この空で、彼女以外の敵は認めないと。
最初の一撃を受けても、ダムは平静を保っていた。続く御影の攻撃を、FRは急加速して回避する。
そしてそれはあっという間の出来事だった。反転したFRは御影の破暁にプロトン砲を連打した。
「何‥‥だと‥‥っ!」
凄まじい破壊力のプロトン砲が破暁を瞬く間に行動不能に追い込んでいく。
「‥‥っ! 最初の反撃で‥‥! やられた! 離脱する!」
御影はやむなく離脱する。
「まじかよ! 黒狼を一瞬で‥‥!」
「ダム・ダル! 簡単に行くと思うな! 先のようには行かんぞ!」
「師匠――」
「行くぞ奏歌氏! CHAOS氏! 怯むな!」
「‥‥ダム・ダルですか‥‥師匠からお話は伺っています‥‥遠路遥々といった所ですが‥‥早々にお帰り願いましょうか」
奏歌は孫六の背後に着くと、レーザーキャノンを叩き込む。
FRはアクロバットに回避すると、孫六の突撃に備える。
「ダム・ダルよ! 此処は退いてもらうぞ!」
孫六は牙を剥いた。
「そろそろ、その機体を此方に帰して貰えんか?」
真上より急降下し、ブーストを掛けて刃翼で斬る!
「KV兵法・隼鷹!」
直撃するが――FRは微動だにしない。
「ぬう!」
そのままブーストで後方に斬り抜け、180度旋回し射撃!
「KV兵法・貫空!」
レーザーは高速スライドで回避するFR。
反撃のプロトン砲がミカガミを貫通する。
「ぬおおおおおお!」
孫六は怯むことなく突進した。
FRの機体が赤い光に包まれる。
――激突!
「――!」
FRと孫六のミカガミは、真正面からぶつかっていた。ミカガミは赤いフォースフィールドに阻まれて固まっていた。
「バリアーかっ」
「その通りだ」
ダムの静かな声が響くと、孫六の機体をプロトン砲で撃ち落とした。
炎と煙に包まれて、落下して行くミカガミ。孫六は海に不時着することになる。
コクピットを開けて、ごほごほとせき込みながら、孫六は空を見上げた。
「全く、あの赤い機体は不死身か」
孫六は救難信号を出して、海上の機体の上で腕組みして座り込んだ。
CHAOSと奏歌は、早々と二機の美影と孫六が撃墜されて、FRの周囲を警戒しながら飛ぶ。
「師匠と御影が撃墜されました。残念ですが、奏歌とCHAOSだけではFRの迎撃は不可能です」
奏歌は淡々と状況を伝える。
「ダム・ダル、答えてほしい。分からない‥‥君が見てるモノ‥‥それとも、まだ『此処』には無いのかな?」
CHAOSは通信を投げかけた。意外にもそれに対しては答えがあった。
「少なくともその問いへの答えは灰色だな。俺が何を見ているか、当ててみろ。あるいはその答えを見つけることが出来れば、俺を倒すことが出来るかも知れんぞ。興味深いな、俺を倒せるかな。問い続けるのだな。その答えはどこかにあるだろう」
CHAOSはそれを挑発と受け止めた。
「酔狂な男だ‥‥気に入ったぞ! テメェの首が地べたに転がる日が待ち遠しい程にな!」
果たして、奏歌とCHAOSはFRの周りを周回しながらレーダーに目を落とした。
友軍はHWを撃破しつつあるが、数の上ではまだ不利は拭えない。
「消えないなら、俺が行きましょう。踊ってもらいましょうか」
ソードがフレイアを加速させる。
奏歌とCHAOSが中距離から支援攻撃を行い、ソードがエニセイを撃ち込んだ。
FRは真正面からソードと打ち合い、ドッグファイトを演じる。
やがて――戦闘が収束に向かい、HWが撃退されていくと、ダム・ダルは最高速で戦場を離脱した。
――戦闘終結から数日。
ソーニャはアフリカ侵攻作戦を間近に控え、イタリア某市にいた。市場に立ち寄る。
市場をぶらつき、トマトを買って食べる。
と、どこかで見たような顔の人がいたので話しかける。
「あの、こんにちは」
「――?」
男性は振り返ると、「何だい」と言葉を返す。
「トマト食べます?」
ソーニャはトマトを食べる。カプッ。
「市場って活気があっていいですね。自分が取り残されてるって感じが素敵」
ソーニャの言葉に、男性は不思議そうに見つめる。ソーニャはにこっと笑って男性を見上げた。
「生活の活気、人間らしい生活ってあこがれますね」
「この町はまだ平和だ。バグアに占領された町がどうなったか、君も知っているだろう? この町にいることを幸運に思うべきなんだ」
と、そこで男性の腕時計がピピピッと鳴る――。
「こちら春日基地です、司令、応答願います」
男性はソーニャに笑顔を向けると、その頭を軽く撫でた。
「君、元気でね。行かなきゃ」
男性はそう言って、ソーニャの前から立ち去った。