●リプレイ本文
整然と戦列を整えて滞空するワームの大軍。
ダム・ダル(gz0119)は、接近してくるKVの編隊を確認した。
「司令――KVの出撃を確認しました。予定通り、ジャミングを切ります」
「よろしい、では、続いて電波ジャックに移れ」
「はっ‥‥しかし、これには何か意味があるのでしょうか?」
「九州全域に散っているスパイへの信号だ。熊本基地の目は、こちらに釘付けになっている。人類が良く使う囮作戦だろう。声東撃西と言う奴だ」
「は‥‥」
「電波ジャックは目くらましにすぎん。無論、我々はこちらで派手にUPCを迎撃する。では行くぞ。電波ジャックの開始とともに攻撃を開始する」
ダム・ダルは至って真面目に部下達に命令を下した。
――傭兵たちは、いつもと異なる静寂に、首をかしげた。
「間もなく敵軍との交戦地域に入る。‥‥しかし、何だこの静けさは? こんなに接近していると言うのにジャミングが全くないが」
ブロンズ(
gb9972)は眉をひそめる。
「何ですかね‥‥でも、敵も動き出していますが」
イリアス・ニーベルング(
ga6358)は言って、小首を傾けた。
と、その時である。UPCの回線に大音量の音楽が突然として鳴り響いた。
「何ですか? これ‥‥クラシック音楽?」
ソード(
ga6675)は耳を傾けて、思わず空を見渡した。
戦場に鳴り響いたのは、ベートーベンの交響曲第5番「運命」である。
「何よこれ‥‥?」
ケイ・リヒャルト(
ga0598)は問い返しつつも、レーダーに目を落とす。
「惑わされるな。何の目的か分からないが多分電波ジャックだ。敵機が来る、エンゲージに備えるんだ」
カルマ・シュタット(
ga6302)は言って、操縦桿を傾ける。
「随分とふざけた真似をしてくれるものだな‥‥が、ただの電波ジャックとも思えんが」
フラウ(
gb4316)は右翼後衛に付くと、攻撃の準備を整えて行く。
ワームの集団は整然とした戦列を組んで急加速してくる。
「兵装2、3、4、5発射準備完了。PRM『アインス』Aモード起動。マルチロックオン開始、ブースト作動――
ロックオン、全て完了! 『レギオンバスター』、――――発射ッ!!」
ソードのシュテルンから、必殺のレギオンバスターが放出される。2000発のカプロイアミサイルがHWに襲い掛かる。
「今回は‥‥戦場に出て来てもらうわよ‥‥ダム!」
ケイもK02ミサイルを放出する。
「FOX2」
「電波ジャックがふざけんなよ! 行け! FOX2!」
軍属傭兵たちもミサイルを撃ち込む。
ミサイルは流れるようにワームに飛ぶ。
「行くぞUPC! これが我々の返礼だ! 受け取れ!」
バグア軍から罵声が轟き、めくるめくプロトン砲の応射がKVを薙ぎ払う。
「先の借りを返すまではやられてたまるか」
ブロンズはシラヌイの機体をバレルロールで回転させながら突進、タロスとすれ違いながらキャノンを叩き込んだ。
「物理と知覚、どちらが効くかな、とりあえず落とせばわかる、ってことで落ちな!」
タロスは直撃を受けつつもアクロバットに反転してプロトン砲を撃ち返してくる。
「さすがにこれだけの数は仲間がいないと無理でした‥‥」
イリアスはペインブラッドを加速させると、マニューバでHWの側面に食らいつき、レーザーを叩き込んだ。HWは直撃を受けて爆発を起こしながらも反転する。
「――!」
と、別方向からプロトン砲が飛んで来てペインブラッドを打ち抜く。HWはそのまま急加速して、フォースフィールドを利用した体当たり、フィールドアタックを見舞う。
イリアスは冷や汗をかきつつ、機体を反転させるようにHWの突進をかわす。
「ベートーベンで撹乱とは意表を突いてくれますが‥‥何か思惑があろうと、今はあなた方を打ち落とさせてもらいますよ」
ソードはフレイアを操りながら、HWを照準先に捕える。普段にこやかなソードの糸目がすっと開かれ、エニセイの連射がHWに叩きつけられる。破壊的な連打がHWを打ち貫き、かわし切れずにワームは遂に爆発四散する。
「行くわよ、ここから本番よ。何を企んでいるのか知らないけれどね!」
ケイは瞬く間に混沌としていく戦場にフェニックスで飛び込み、ブースターを起動させてライフルとレーザーのコンボをタロスに浴びせかける。
逃げるタロスを追い、また別方向からの攻撃を受けて舌打ちする。HWからのプロトン砲が直撃して、ケイはフェニックスを旋回させる。
「ちい‥‥!」
HWを振り払うように逃げるケイ。
「リヒャルト、援護する。振り切れ」
軍属のフェニックスが支援に入って、ケイをサポートする。
「感謝するわ」
ケイはHWを振り切って逆襲に転じる。
「一期一会であろうとも、仲間を死なせるものか」
フラウは後衛にあって、ロケットを撃ち込みながら管制に当たっていた。
「恐らく少数の反応がある不明のHWが指揮官機だろう」
フラウは友軍各機に、指揮官機の所在を伝えながら、ウーフーとロッテを組み、戦況の把握に努める。
「ファームライドは今のところ見えないか‥‥あれだけ派手な演説をしておいて、姿をくらますとは、ダム・ダルとは用心深いバグアだな」
フラウは眉をひそめたが、レーダーにFRの反応はない。
ダム・ダルはこの時すでに、光学迷彩で姿を消すと、戦場を迂回していつでもKVを打ち落とせる位置に付いていたが、沈黙を保ったまま、戦況を観察していた。
「空と陸、大掛かりな2面作戦。制空権の意味は大きい。失えば、北九州まるごともっていかれかねない。ここは決して引くことは出来ない。しかし、それはダム・ダルも同じ」
ソーニャ(
gb5824)はバレルロールで突貫すると、速度を維持したままHWの側面から後背に回り込んでいく。
ロビンの愛称エルシアン、蒼いロビンが空を駆け抜ける。ミサイルを叩き込み、そのままバレルロールで突進するとレーザーを撃ち込んだ。爆発炎上するHWが、逃げつつ旋回する。
「追いつけエルシアン」
ソーニャは操縦桿を傾けると、加速してHWに食らいつく。
が、背後から別のHWが急加速してくる。プロトン砲がかすめるのを、ロールしながら回避する。逃げるソーニャに、黄色のHWはしぶとく追いすがってくる。
プロトン砲の連射をかわしつつ、エルシアンは黄色のHWをどうにか振り切る。
「ダム・ダルの奴‥‥また何か小細工を仕掛けているかな‥‥あいつも策士策に溺れるってことがないのかな」
カルマは言いつつ、目の前の紫色のHWとドッグファイトを繰り広げていた。
エース機は慣性飛行ででたらめな機動を見せるが、カルマのシュテルン、ウシンディも食らいついてレーザーを撃ち込んだ。
空中をぐるぐる旋回しつつ、エース機の反撃を跳ね返して、確実に敵機にダメージを与えて行く。
エース機の反撃もしばしばカルマの機体を捕えるが、ウシンディの装甲で受け止めて、反撃のレーザーを撃ち込む。
エース機は徐々にぼろぼろになって行き、カルマの前から逃げるように後退する。
と、群がってくるHWに、カルマも操縦桿を傾ける。複数機を相手に正面からぶつかるほどカルマも過信してはいない。
「こちらフラウ。敵右翼と、友軍は五分と五分だ。状況は混沌としているが、各機ともに各個撃破に専念せよ」
「了解フラウ機」
「ラジャー、各個撃破に専念する」
左翼に回っている霞澄 セラフィエル(
ga0495)、澄野・絣(
gb3855)、熊谷真帆(
ga3826)。
「戦場の風紀委員真帆ちゃん参上です! 減らず口のダムは今日で叩き落とすです!」
いつものように気迫を見せる熊谷。味方と緊密なロッテを組んで敵機に対する。友軍のミカガミ乗りが熊谷に声を掛ける。
「熊谷機、行くぞ。敵さんをフライパンで焼いてやろう」
バンクサインを交換して突入する。プロトン砲が飛び交う中、リロード兵器をばら撒いて敵機に接近する。
熊谷の雷電が敵HWの行動を封じる間にミカガミが突撃する。D2ライフルを撃ち込んだ。
敵ワームも二体のHWが素早くロッテを組んで対応する。打ち合う真帆。知覚攻撃する味方をリロード兵器で援護射撃する。弾幕で攻撃を滞らせない。
左翼の前に出て、味方の前途を切り開く。前進してくるワームの編隊にリロード兵器を叩きつける。
二機のHWは弾丸のように突っ込んで来ると、プロトン砲を撃ち込んで来る。熊谷は操縦桿を傾けると、バレルロールでかいくぐった。ブリューナクを一撃。
霞澄と澄野も突進する。真帆は敵機に牽制射撃を撃ち込み、仲間たちの侵入を援護する。
「気をつけろ熊谷、敵さんも殺到してくるぞ。距離を保て」
「ラジャー」
雷電を後退させ、旋回する。
「迅速に! そして確実に!」
霞澄はアンジェリカを操り、強化タロスと打ち合う。愛称に自身の名を冠した愛機セラフィエルを駆り、敵指揮官機と互角の戦いを見せる。
カラーリングされた黒いタロスは、急加速すると、8.8アハトレーザーをかいくぐってプロトン砲を連射してくる。
「速い――!」
霞澄は黒いタロスの急加速に虚を突かれて直撃を受けた。プロトン砲の連打がセラフィエルを打ちのめして、爆発と衝撃がコクピットに伝わってくる。
霞澄は言うことを聞かない操縦桿を強引に傾け、旋回して、マニューバ機動でタロスを引きはがす。
左翼も状況は混沌としていて、すでに空中で乱戦に突入する。両軍合わせて100機を越える集団戦である。
「ロッテを崩さず、確実に敵機を撃退して行きましょう。天使は生き残った人に微笑むものです」
霞澄は態勢を立て直して、仲間たちに言葉を投げかける。
「霞澄さん! 天使の加護があらんことをって!」
軍属傭兵たちが、意気盛んに返答し、敵ワームに立ち向かっていく。
「行くわよ赫映っ」
澄野は愛騎を加速させると、タロス、HWの集団の中へと飛び込んでいく。
プラズマライフルを撃ち込みながら突入して行く。友軍と連携して、ロッテを組んでドッグファイトに移行する。
照準先のHWを捕えると、プラズマライフルのトリガーを引いた。エネルギー弾がワームを直撃する。
「マイクロブースター起動」
加速する赫映、オメガレイを叩き込んだ。被弾したHWは後退して、タロスが反撃に出てくる。
「澄野機、援護するぜ!」
味方の雷電が前に出る。
「行くぜ! 超電導アクチュエータ!」
ミサイルをばら撒きながら、雷電が突進して行く。
澄野は雷電の後から突進して、レーザーキャノンを撃ち込む。
と、次の瞬間、凄まじい衝撃が赫映のコクピットを襲う。
「澄野機、警戒せよ、敵エースと思しきタロスが接近しています」
「‥‥‥‥」
澄野は赫映を立て直すと、友軍とロッテを組み直して距離を保った。
見れば緑色のタロスが滞空して、プロトン砲を周囲に連射している。
「行けるか澄野機」
「行けるわ」
加速する赫映。ブースト+マイクロブースターにより一気に接近してオメガレイを叩き込む。
「強いのをを落とせば、多少は楽になるわっ」
エースタロスは攻撃を受け止めつつスライドする。
澄野は僚機とともにエースタロスにレーザーを叩き込んだ。
緑のタロスはプロトン砲で応戦しながら、じりじりと後退する。
「混戦になって来ました。餌は沢山ですが喜んでもいられません」
熊谷はタロスにライフルを叩き込み、友軍のサポートに回る。味方が格闘中は背中合わせに射撃したり味方の肩越しに敵を撃ったり死角を塞ぐ。
――と、傭兵たちの後方に突如としてファームライドの反応が出現する。
「ファームライド――出ました、が、真後ろ‥‥!」
後ろの方でFRに気を遣っていたセシリアは、忽然と出現したファームライドの反応に思わず後ろを振り返った。
次の瞬間、正確なプロトン砲の連射を浴びて、シュテルンは爆発炎上墜落して行った。
「出たなリベンジ!」
ブロンズは侵入してくるFRに囮のドゥオーモミサイルを叩き込み。続いて螺旋弾頭ミサイルを撃ち込んだ。
「避けられるのも想定の範囲内、こっちが本命だ!」
しかし、FRは高速で回避してシラヌイの懐へ飛び込むと、ライフル数発でブロンズを沈めた。
「ぐ‥‥何だと!」
煙を上げて不時着を試みるブロンズ。
「ブロンズさん!」
イリアスの悲鳴。
「今回は逃がしませんよ! PRM『ツヴァイ』Bモード起動!」
ソードが突進するのに、イリアスはブリューナクで支援する。
フレイアからエニセイの連射がファームライドを確実に捕える。しかし、確実にヒットしているはずの攻撃にFRは微動だにしない。
ケイはブーストで突撃すると、スキル全開でミサイルにライフル、レーザーを叩き込んだ。
「また会ったわね‥‥ダム。貴方が覚えているかは分からないけれど‥‥」
FRは全弾回避する。
と、上方からソーニャのエルシアンがブーストで突貫。
「ダム、今日ばかりは早々に引き上げるわけには行かないはず。待ってなさい」
Mブースター、アリスからAAEM。
「ダムならかわす、しかし――まだまだぁ」
すれ違いざまブースト再起動で180度旋回、レーザー、G放電。
「がんばれ、エルシアン、負けるなぁ」
しかし、それでもFRは全弾かわした。
「ダム・ダル‥‥今回は少しでもダメージを追ってもらわないとな」
カルマは接近すると、PRMシステムを使ってK−02ミサイルを発射。流れるミサイル群がFRを捕えた――!
「行くぞウシンディ」
炎の中から現れたFRは、無傷でゆっくり旋回する。
「切り札のG放電を受けなさい、ダム・ダル」
霞澄は放電ミサイルを連射した。FRは回避。
ソード、カルマ、ケイ、ソーニャ、霞澄はFRを包囲して連打を浴びせるが、FRは猛攻を凌いで乱戦の中へ紛れ込む。打撃は与えたが、確実にFRを捕まえる機会はなかった。
その後、UPC軍のKVの大半が練力切れとなり、傭兵たちも後退を余儀なくされる。
バグア軍も消耗していったん兵を引く。かくして、戦況は膠着して幕を閉じる。
‥‥戦闘終結後。ソーニャは筑後市のバグア軍占領地域に踏み込んだ。
森を抜けて、小高い丘から学校を見下ろしている。
「動くな」
監視されていた。ソーニャは振り返った。
ワイシャツにスラックスを着たダム・ダルがいる。端末を持っていて、ダムは首をかしげる。
「また合えたね」
ソーニャは言った。イタリアで確かに会った記憶が蘇る。ダムが覚えているかは定かではない。
「ねぇ、苺、食べます?」
苺を食べる。かぷっ。
「あまい――
人と人はわかりあえない。
だから一緒にいられるんだよ。
わからないから尊重しあい、譲歩する。
そうすると分かり合えてるという幻想を抱けるんだ。
それはとても気持ちがいい。
違いに優劣をつけると傷つけあうよ」
ダムは手を下して、肩をすくめる。
「何が言いたいのか分からんが、我々も一人で生きているわけではない」
「‥‥それもそうだね」
「‥‥ところで、お前は死にに来たのか?」
ダムの問いに、ソーニャは微かに震えた。
「行け、戦闘でなかったことが幸運だぞ」
ダム・ダルはそう言うと、踵を返して立ち去った。