●リプレイ本文
「サンダーヘッドより全機へ――」
長瀬 怜奈(
gc0691)は、上空から斉天大聖で索敵に専念する。
「こちらの指示は報告と要請で過剰に重要視しないようにお願いします。また管制機が撃破されても状況を崩さないよう留意願います」
長瀬は各小隊長や仲間たちと連絡を取った。「了解」との声が返ってくる。
長瀬の機体に積まれた【OR】管制支援システム【サンダーヘッド】は、貴重なシステムで、味方の索敵情報、位置情報を受信し合成表示。強力な通信機が必要で背面にレドームが追加されるという特別なものである。
長瀬は交戦に先だって、サンダーヘッドの管制内容について説明しておく、
【受信・索敵】
・各KV位置、索敵情報自動受信
・友軍(UPC傭兵隊)と交信し、位置、現状況を把握
・ジャミング元探知
・通信内容から指揮官機、FRをマーク
・長距離砲撃機への着弾観測支援
以上【OR】サンダーヘッドで統合、レーダー動画配信
【配信・警告】
・全戦域機を対象に、友軍電子戦機と連携して情報網を構築
・戦況実況中継、穴情報、敵・友軍撃破報告
・突出・剥離機に警告し、必要なら援護要請を
・エース機接近警告
・戦況を予測し、東西の戦力と陣形を調整
・標的機・援護機へ個別に誘導
・死角注意を勧告
【要請】
・東西の移動
・援護
・敵誘導と挟撃
・防衛網穴へのカバー
「――以上、よろしくお願いします」
「了解サンダーヘッド。頼りにしていますよ‥‥」
終夜・無月(
ga3084)は、西部方面に機体を進めながら、軽く空を見上げた。
ミカガミを前進させながら、レーダーに目を落とす。多数の光点が南下してくる。ファームライドの反応以外にも、タロス、ゴーレム多数。
「ダム・ダル(gz0119)、今回はクールに行くから前回のようには行かないよ?」
にっ、と口許を緩めて見せるキョーコ・クルック(
ga4770)。アフリカ侵攻作戦ではファームライドに軽くあしらわれた。
「各機赤外線探査を要警戒。敵はあのダム・ダルだ。よろしく頼むよ」
「行くぞディープブルー、俺たちの力を見せる時だ」
ブロンズ(
gb9972)は、コクピットの中で呼吸を整えながら、ダム・ダルの顔を思い出していた。何度となく撃墜された相手である。
「――サンダーヘッドより。西部部隊、敵との距離約10キロ。予想会敵時間は約10分」
「了解サンダーヘッド。迎撃態勢を取りつつ前進する」
「これまた大量に動員してきやがったな。東西両面からの侵攻かよ‥‥相変わらずやることがいやらしい‥‥」
神撫(
gb0167)は、長瀬から配信される情報に目を落としながら、シラヌイのコクピットで呟く。
「こちら東部‥‥第10小隊‥‥ポイント02を通過‥‥敵軍との距離は約10キロ。予想会敵時間は約9分」
そうする間にも、UPC軍属傭兵たちは三つの部隊に分かれて前進する。それは美空(
gb1906)からの献策であった。
「陸戦はこちらの思惑にどんだけ奴らを乗せられるかが勝負なのであります」
【配置】
東軍72機の正規兵KVを中央軍30、左翼20、右翼20の三軍に分割。傭兵は各部隊に適宜配置。
【目的】
敵軍を分断し敵司令官への道を開く。
【概要】
敵がこちらの3軍に対応し、自軍を割るように誘う。
両軍激突寸前に、傭兵KVを分離、部隊間にできた間隙をついて敵指揮官機を急襲、集中攻撃でこれをせん滅する。
【戦術】
1:味方KVを三軍にわけたことを敵に存分に見せつける。
2:先に左翼と右翼をあげて迂回して後背を取るように見せる。
3:敵が対応してそれぞれの軍に対応する場合、一気に全軍にて突撃開始。(とにかく敵にあまり考える時間を与えないようにする)
4:激突直前に傭兵KVは各軍を離脱。部隊間の間隙を抜けて防備の薄くなった指揮官機を強襲。集中連携攻撃で一気呵成に撃破。敗走させる。(正規軍機はある意味囮。愚かにも数少ない防衛軍機を割って見せ、油断を誘う)
5:誘いに乗らない場合はそのまま両翼で回り込んで敵を包囲殲滅する。
6:敵指揮官機が撤退しようとしたら挑発。足止めする
「サンダーヘッドより、東部部隊、作戦行動に対し、敵軍も散開。部隊を三つに分けて前進。敵指揮官機は中央に位置――会敵まで約8分」
「了解サンダーヘッド。このまま敵を包囲すると見せかけ、予定通り敵指揮官機を狙う」
「今回は陸戦がメインか。なら、空戦とは違った戦い方ができるね」
アーク・ウイング(
gb4432)は呟き、シュテルンを前進させる。
「アーちゃんも指揮官機を狙いますね。軍属傭兵のみなさんとの連携は欠かせません」
「了解アーク機。本命は任せるが、外すなよ」
「あ、空が遠い。ボクまで地上に降りてくるなんてね」
ソーニャ(
gb5824)は言って、空を見上げる。
「南部の山の稜線を利用して防衛線を引くのが効果的ね。地の利はKV戦になっても孫子の時代から変わらないね。高所に利がある」
ソーニャの言葉に、軍属傭兵たちはレーダーに目を落としていた。
「突撃前には、稜線を確保する。ポイント04から08に展開。美空の策を基本に、一斉攻撃の後に突撃を敢行する」
「こちら紅月 風斗(
gb9076)、美空の案を基本に、敵指揮官機を狙う」
「う〜ん、なぜか西より東の方が嫌な胸騒ぎを覚えるのだろうか?」
世史元 兄(
gc0520)は言うと、愛機のペインブラッドを前進させる。
「サンダーヘッドより各機へ。ポイント04から08へ展開しつつ前進せよ。敵部隊は通常歩行で接近中と思われます。会敵まで5分。戦闘に備えて下さい」
「ラジャー。こちら第12小隊。ポイント07の稜線を確保。後続の部隊を待つ」
「了解第12小隊、そのまま待機して下さい。後続の部隊は順次稜線を確保して待機。迎撃準備に入れ」
東部、西部で徐々に敵との距離が縮まっていき、間もなく、戦闘が始まろうとしていた。
「‥‥目標を補足。攻撃に移ります」
無月は飛び交うプロトン砲の中で、機関砲を構えると、トリガーを引いた。
凄絶な破壊力の銃撃がゴーレムを瞬く間に鉄クズに変えて行く。
それでも、数で勝るバグア軍は距離を保ってプロトン砲を撃ち込んで来る。超改造の無月の機体と言えども、プロトン砲の長射程を埋めることは出来ない。
無数の光線の中をかいくぐって前進する。光線の直撃がコクピットを微かに揺るがす。ミカガミの超装甲はそれでもプロトン砲を弾き返す。
「さすがに‥‥単騎での突進は難しいですね」
集中攻撃に無月の足が止まる。
「無月だけじゃ無理でしょうが! 兵隊さんたち、行くよ!」
「撃ち合いじゃ敵さんに分があるか? 行くしかないぞ。突撃だ!」
ブロンズにキョーコが兵士たちに呼び掛ける。
「サンダーヘッドより西部各機へ。ファームライドは後方に待機しています。他、タロスにゴーレムは攻勢に転じてきます」
「望むところ! 正面からぶつかるなら負けないからね!」
キョーコは加速すると、高分子レーザーを叩き込んだ。
閃光がバグア軍を打ち抜き、焼き尽くしていく。
「ダム・ダルの奴は‥‥また消える気かな」
ブロンズはライフルを撃ち込みながら突撃する。
「行くぞ! 一斉攻撃! 全機戦闘隊形を組みつつ突撃せよ!」
「突撃!」
軍属傭兵たちも一気に攻勢に転じると、戦場はロボット兵器が蹂躙する巨人の戦いと化して行く。
「ファームライドが前進してきます! 気を付けて!」
「‥‥来ますか?」
槍でタロスの頭を粉砕した無月は、レーダーに目を落とした。
確かに、戦場にあの赤い機体が出現する。ファームライドは加速すると、手近なKVを大剣で切り裂いた。
無月は機関砲を撃ち込んだが、FRはスライドしてかわす。
「見つけたよダム・ダル! イタリアの借り返させてもらう!」
キョーコはペイント弾を撃ち込んだが、ダムは全弾かわすと向きを変えた。
FRから放たれたプロトン砲がアンジェリカを直撃する。激しく揺れるコクピットでキョーコは歯を食いしばった。
「これしきで!」
切り札の粒子砲もアクロバットにかわす。
「いいかげんしつこいんだよダム・ダル! 援護しろ!」
その側面から、ブロンズのシラヌイが突っ込んだ。
軍属傭兵たちの支援とともにブロンズは仕掛けた。スラスターライフルを撃ち込みながら走る。
「超伝導アクチュエータVer.2発動!」
ほとばしるプロトン砲を試作型AECと試作型レーザーシールドを同時展開して防ぐ。
「っく、同時展開なら!」
「しぶとい奴だな、シラヌイ乗り。無謀だぞ」
ダム・ダルの声が回線に響いて、ブロンズは驚いた。
その時、長瀬から、東部の戦場で敵指揮官機を討ち取ったと言う知らせが入る。
「来たぜ! いい加減‥‥お前は落ちろ!」
ブロンズはFRに近接戦を挑む。
「言ったはずだ、無謀だとな」
ダムはブロンズを適度にあしらいながら距離を保つ。
「ダム・ダル‥‥逃がしはしません」
「あんたにはあたしに付きあってもらうよ!」
無月とキョーコはスキル全開で粒子砲を撃ち込んだ。さすがのFRが一撃だけ直撃を受けて傾く。
だがそこまでだった。ダムは無理はしない。FRは束の間戦場に姿を残して、後退する。東部の川上優子が敗退したことで、ダムは兵を引いたのだった。
東部山岳地帯――。
稜線に展開するKVは、迫りくるバグアの大軍に向かって銃撃を開始した。
バグア軍からもプロトン砲の応射が来る。敵は数では勝る。
高地に陣取った傭兵たちではあるが、プロトン砲の長射程が容赦なく打ち掛かってくる。
「サンダーヘッドより。敵指揮官機、前に出てきます! 敵ゴーレムとタロス、前進します!」
「よし、予定通り3部隊による包囲攻撃を仕掛ける。斉射三連の後に突撃するぞ――!」
「了解」
「放て!」
「――行くぞ! 突撃!」
KVの集団は稜線から雪崩を打って突撃して行く。荒れ地をものともせずに踏破して行く。
打ち合いから、乱戦に突入して行くと、傭兵たちは混戦に紛れて離脱、敵の指揮官であある川上優子を狙いに行く。
ただ一人、ソーニャは違った。
「高橋麗奈なら消耗もかまわず、むりやり突破かな。それもひとつの正解。意外に効果的。しかし、敵の指揮官が麗奈を意識し、差を見せ付けたいと考えるなら防衛線の裏に少数で奇襲をかける。相手の布陣が瓦解していく様は印象的だ」
小数で、自分を含め、防衛線のさらに裏に伏兵した。だがこれは深読みに過ぎた。レーダーに目を落としても敵の一隊が側面を抜けてくる様子はない。
「深読みに過ぎたかな。それはそれで仕方ないか」
ソーニャは長瀬と連絡を取り合うと、仲間たちとの合流を決断する。
神撫はシラヌイを加速させると、仲間たちと敵陣に切り込んだ。
「動き続けろ! 足を止めたらそこで終わりだ!」
ライフルを撃って撃って撃ちまくる。
反撃のプロトン砲が飛び交う。敵エース機の攻撃を受けて、神撫は回避行動を取る。
「そうはいくか」
かわしつつライフルを連打した。
美空の破暁はゴーレムを切り伏せると、周囲を見渡す。味方は思い通りに動いてくれている。そして敵も、思惑どおりに動いている。後は指揮官機を撃ち果たすことが出来れば‥‥。
「敵も中々しぶといね。こっちも春日の精鋭かな」
アークはランチャーを撃ち込み、ライフルを叩き込んだ。
「ダムの新しい手足‥‥候補? これ以上増やす訳にはいかないわね。今でも手に負えないのに。退路絶って‥‥殺す」
前線に立つソーニャは刀でタロスと切り結んだ。敵の罵声が回線に流れ込んで来るが、ソーニャは険しい顔でタロスを切り裂いた。
反撃の一撃が来るが確実にかわす。
「まだまだ!」
「アンタたちの思い通りに行くと思うなよ」
紅月はアテナを振りかざしてエース機に打ち掛かっていく。
敵の挑発を無視して、紅月は打ち掛かった。一撃、二撃と弾かれる。
「ならば‥‥」
ガトリングナックルを放って距離を保つ。不意を突かれて敵エースは傾く。
再度踏みこんで一撃を撃ち込む。槍がエース機の胴体を貫通する。
が、それでもエースタロスはプロトン砲を撃ちながら後退する。
世史元のペインブラッドはリボルバーを撃ち込みながら、仲間たちとともに敵指揮官機へ接近していく。
「鬼鷺の実戦準備はこれで万端だな‥‥さて、暴力的な力を求めてきたけど‥‥」
世史元はゴーレムを打ち抜き、レーダーに目を落とす。敵の大軍が分裂して、敵の指揮官機を剥きだしにしていた。
やがて、友軍との連携をうまく図った傭兵たちは、流れの中で川上優子を射程に捕えることに成功する。
「あれは‥‥?」
「白銀色のタロス‥‥あれが指揮官機か」
「行くぞ!」
傭兵たちは白銀のタロスに接近して行く。
「何だ貴様らは‥‥いや、聞くまでもないか。私を討ちに来たのだな」
川上優子は、コクピットの中で氷のような瞳を向けていた。
「私の名は川上優子。高橋麗奈を越える者だ。お前たちはあの高橋に手こずっているようだが、私がティターンに乗っていれば、お前たちは確実に死んでいた」
「言わせおけばいいさ強化人間。みな、援護する」
神撫はライフルを撃ち込んで牽制する。
白銀のタロスは軽やかにかわすと、突進してくる。
「私は高橋のように甘くはないぞ‥‥!」
プロトン砲の応射がシラヌイを撃つ。
「一気に決めるのであります!」
「高橋を越えるって? どうやらそうはならないみたいね」
美空、アーク、ソーニャ、紅月、世史元は散開して川上機を半包囲する。
「こっちは支援するぞ!」
神撫はライフルをばら撒き、五人は白銀のタロスに打ち掛かっていく。
美空の一撃を弾き返すと、アークの一刀も跳ね返し、反撃のレーザーブレードを撃ち込んできた。爆発する破暁とシュテルン。
しかし――その背後から、ソーニャの雪村が貫通する。
「‥‥!」
川上は驚いたように反転してエルシアンを切り裂いた。
続いて、アークもPRMシステムで知覚を上げると、雪村を抜いた。レーザーブレードが白銀のタロスを切り裂く。
「このタロスに打撃を‥‥やる」
川上は冷静にもう一刀の実体剣でアークを叩きのめすと、後退する。
そこへ世史元が練爪セクメトを撃ち込んだ。続いて、紅月のアテナイが放出され、アテナで殴りかかった。
連続攻撃を耐える川上は、それでも強気だった。
「私は高橋とは違う。無駄に逃げたりはせん。我が軍は兵力では勝るのだ。何を恐れることがあろうか」
反撃してくる川上を、傭兵たちは押さえこんだ。
「これでも‥‥食らえ!」
世史元の雪村が、白銀のタロスの胴体を貫通する。それはコクピットの川上の肉体を焼き尽くした――。
致命傷を負った川上は血を吐きながら、初めて感情を表に出した。
「私は‥‥高橋には負けん!」
手近なワームが川上を救いに来たが、その足が止まる。
「私は死ぬだろう‥‥だが、兵を損なうわけにはいかん。春日へ戻り、ダム司令に私の最後を伝えてくれ‥‥」
白銀のタロスはペインブラッドに掴みかかると、そのまま自爆した。
こうして川上は死に、バグア軍は兵を引いたのだった。