●リプレイ本文
福岡南で最後のブリーフィングを行う傭兵たち――。
「大人は頑張れ負けるなとか子供を激励する癖に都合が悪いと諦めろと言うです! 真帆は全然判りません、戦争も受験も諦めたらおしまいなのです」
熊谷真帆(
ga3826)は言って、胸の内を吐露した。
「でも我武者羅はダメです、犬死のもとです。勉強も戦いも効率が肝心です! 無人機より要の有人機を責めるです」
年上の傭兵たちは肩をすくめる。元より能力者となってから、受験などとは無縁の人生を送っていた。彼らもまた、若い日々をバグアとの戦いに費やしたのだ。年上と言っても十代か二十歳前後がほとんどなのだが。
「ラストホープ組にはそれで良いだろう。有人機、敵エースの撃墜に尽力してもらおう」
福岡南は陥落か‥‥。カルマ・シュタット(
ga6302)は吐息した。頑張ってきたのに陥落するのは残念だけど、最後まで抵抗させてもらおうかな‥‥。
「何もかもダム・ダルの思い通りにはさせないさ」
「そうですね」
ソード(
ga6675)も応じた。
「俺もここ最近の情勢には思うところはありますが、最後の最後まであがいてやりますよ。今回俺は陸戦になりそうですが‥‥まあ陸戦向きの機体ではないですが、やれるだけやってやります」
「ついに福岡陥落か。が、ここまでだ! 熊本へは通さねえぜ!」
ヒューイ・焔(
ga8434)は言って、パンチと掌を打ち合わせた。
「これ以上はバグアの侵入を許すわけにはいかん。熊本基地への攻撃などという事態を招かぬためにも、ワームはここで止める」
「後ろは人類地域だ。辺境と言っても、人里との境界線だぜ。抜かせるわけにはいかねえわな」
「今回で撤退は確定、か‥‥残念だけど仕方ないな。それならそれで、少しでも多く削って行こう」
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)の言葉に、軍の兵士たちは重く頷いた。
「無念だな。俺たちがどれだけあがいても、これ以上は無理だと本部が判断した。仕方ない」
「ここで敵を食い止めないと総崩れになるおそれがあるから、意地でも抜かせるわけにはいかないね」
アーク・ウイング(
gb4432)は呟き、ぐぐっと拳を握りしめた。
「アーちゃんもよく頑張ってくれたよな。みんなまだ諦めてないから、アーちゃんも元気出してくれよな」
「はい」
アークは目頭が熱くなってきて、涙をぬぐった。
「俺たちはここで後退することになるが、ただ黙ってやられるつもりはねえ。せめて、敵の指揮官機を落としてやる。出来ればあのティターンを」
ブロンズ(
gb9972)は言って、思案顔で地図上のマークに目を落とした。敵にはあの赤いティターン、高橋麗奈がいた。
長瀬 怜奈(
gc0691)は兵士たちの前に出ると、管制官として自分の役割を伝える。
「こちらの指示は報告と要請です。無理に従わないで下さい。また管制機が撃破されても状況を崩さないように」
長瀬の機体は【OR】管制支援システム【サンダーヘッド】を搭載する特殊な機体である。レドームが追加された斉天大聖は、強力な電子戦を可能にする。
【受信・索敵】
・各KV位置、索敵情報自動受信
・正規隊管制、指揮官機と交信し連携を図る
・ジャミング元探知
・通信内容から指揮官機、FRをマーク
・長距離砲撃機への着弾観測支援
以上【OR】サンダーヘッドで統合、レーダー動画配信
【配信・警告】
・全戦域機を対象に、電子戦機と連携して情報網を構築
・戦況実況中継、穴情報、敵・友軍撃破報告
・突出・剥離機に警告し、早めの援護要請を
・エース対応に集中できるよう取巻き攻撃連携を正規軍に要請
・戦況を予測し、戦力と陣形を調整
・目標機・援護機へ個別に誘導
・フレア弾投下等攻撃前に警告
・死角注意を勧告
「牡牛座とその一派‥‥話に聞く能力、どれ程か‥‥」
ラナ・ヴェクサー(
gc1748)は言って、思案顔で卓上の地図に目を落とす。これほどの激戦に身を投じるのは大規模戦以来となろうか。
「皆も私も、無事に帰れるか‥‥な」
愛する人から貰ったコインネックレスを握り祈る。
「今回はいよいよ持って状況は最悪だ」
秋月 愁矢(
gc1971)は言って、拳を打ち合わせた。
「だがこのままでは終われない、福岡を撤退する事になってもせめて一矢報いてやる」
ラストホープを発つ前のフローラの顔が脳裏をよぎる。フローラは感情を押し殺すように「武運を祈っています」と言って、秋月を敬礼で送りだした。
「フローラさん、微妙な顔しないで笑顔で戦場へ送ってくれ。今回ばかりは運も‥‥いや、貴方は笑顔の方がずっといい」
秋月はそんなことを言ってみたが、フローラは至って真面目に「生きて帰って下さい」と答えた。
「頭を潰せば、味方は楽になるはずだ」
実力不足は百も承知。でも、やるしかない。護りたい人達を護るために。
その力を得る為に。
「実力以上にやるだけだ、やれるさ」
秋月は自らを奮い立たせるように言葉に力を込める。
「我々が為すべきことは、バグアの侵攻を封じ込めることにある。諸君の善戦に期待するや切である。ここで止めないと、後がない」
「では、全機出撃! 死ぬなよ! 生きて帰ろう!」
「出撃!」
そして、傭兵たちは福岡と熊本との県境に向かった。
「オーカ・ニエーバより全機へ。間もなく接敵します。エンゲージに備えよ」
「了解オーカ・ニエーバ、距離400でミサイル攻撃に移る」
レーダーに目を落とす傭兵たち、無数の敵機が接近してくる。
傭兵たちは緊迫した面持ちで、ミサイルのボタンに手を置く。
「距離400――全機ミサイル攻撃開始」
「FOX2」
「FOX2、ミサイル発射」
「ミサイル発射」
何百というミサイルが放出され、ワームへ向かって飛ぶ。
「全機前進せよ――プロトン砲発射!」
「プロトン砲一斉攻撃!」
バグア軍からも凄まじい数のプロトン砲が飛んでくる。
爆発と閃光が両軍を包み込む。
「オーカ・ニエーバより、全機ドッグファイトに備えよ。データを送ります」
「了解オーカ・ニエーバ」
ヒューイは操縦桿を傾けると、スロットルを吹かせた。
ハヤブサが駆け抜け、まずはバルカンを叩き込みながらバレルロールで突撃、ソードウイングで切り掛かった。
「見えないファームライドが気になるけど‥‥まずは高橋麗奈に集中するぞ」
ユーリは言って、機関砲を叩き込む。飛び交うプロトン砲をかいくぐってトリガーを引く。
「ディープブルー、俺とお前なら出来ると信じてる」
ブロンズはライフルを撃ち込みつつ、長瀬から送られてくる情報に目を落としていた。操縦桿を傾け、タロスの背後に付くと、ライフルを叩き込む。
「食らえっ」
ライフル回避しつつ、タロスはアクロバットな機動で離脱を試みる。
「すばしこい――おっと」
接近してくるヘルメットワームと距離を保ち、友軍とロッテを組んで対応する。
「邪魔だ!」
タロスへ果敢に打ち掛かっていく秋月。ロッテを組みつつ、支援攻撃を受けてライフルを叩き込む。
「出て来い高橋! ここがお前の墓場だ!」
「オーカ・ニエーバより秋月機へ、ティターンが移動を開始しています、警戒して下さい」
「来るのか‥‥?」
秋月はレーダーに目を落とした。ティターンは戦場を迂回してくる。
ラナは雷電を中心に30機程度の集団とともに、ワームの迎撃に当たっていた。
「行きますよ、狙いタロス」
ライフルを叩き込む。
「一斉攻撃、回復させるな」
「了解! 撃て!」
連打を食らって吹き飛ぶタロス。
ヘルメットワームが増援に出てくる。
「動きのいいエース級以外は分隊を二つに分けたロッテで攻撃するぞ。エースには分隊での対応徹底。武器は出し惜しみするな」
「こちらオーカ・ニエーバ、ラナ、エース機が行きますよ」
「了解。行きますよ!」
ヘルメットワームの集団とドッグファイトに移行するラナ達。
飛び交うプロトン砲と銃撃。音速の戦い、ワームもKVも空気の壁を蹴って、跳ねるように飛ぶ。
「エースには容赦なく掛かれ」
「行くぞ!」
ミサイルを続けて撃ち込む傭兵たち。敵エースを捕える。閃光に包まれるヘルメットワーム。爆発四散して崩壊する。
「オーカ・ニエーバ、敵エースの撃墜を確認。友軍各機、ティターンの動きに警戒せよ」
「来るぞ。おいでなすったか」
ヒューイはバルカンでワームを牽制しつつ、ティターンの前進を確認する。
「私は高橋麗奈だ。さすがにしぶといなUPC。だが、福岡での戦いはひとまず決着だ」
高橋の鋭い声が回線に流れ込んで来る。
「その自信だけは、打ち砕いてやるぜ」
ヒューイはブースターを起動させると突撃した。バレルロールでバルカンをばら撒き、ウイングで突貫する。
「ハヤブサか――」
ティターンは高速で回避しつつライフルをハヤブサに叩き込む。
「ちい!」
「高橋――お前だけでも倒していくぞ」
ユーリ、ブロンズ、秋月が加速する。
ユーリはパンテオンを放出して突撃、機関砲を叩き込む――。
ティターンは残像を残してアクロバットに回避する。
「何の! 食らえ!」
ブロンズが立て続けにミサイルを放出する。ここで一気に攻勢に移る。
「超伝導アクチュエータVer.2 起動!
ロングボウ――頼むぜ! こいつを捕まえてくれ!
せめてこいつだけは落とすんだ!」
「了解! ミサイル誘導システム起動! 全機赤いティターンを撃て!」
「ミサイル発射!」
「行くぜ!」
ブロンズもドゥオーモとUK10AAEMを発射する。
圧倒的なミサイル群を次々と回避して行くティターン。
「こいつ‥‥! だが、まだだ! 体勢を立て直す間を与えるな! 一斉に叩け!」
十六式螺旋弾頭ミサイルから試作スラライで襲い掛かる。
秋月はその瞬間を待っていた。高橋との実力差を埋めるには味方との連携、それと絶対的な隙に最大火力攻撃をするより無い。絶対的な隙が発生する瞬間、それは攻撃を行うその瞬間である。自分の防御は残念だが捨てるしか無い。コックピット直撃だけ避けれればそれでいい。自身が攻撃される瞬間に、PRMSモード2・ブーストを使用、全兵装全弾発射。
「乗るか反るか、微妙な所だがやってみる価値はある。勝機は常に死線の上にあるのだから‥‥行くぞ!」
ティターンが友軍の攻撃を回避したところへさらに畳み掛けるようにPRMシステムで火力を上げてミサイルを叩き込んだ。
「‥‥ここだ! 落ちろおおおお!」
ティターンはそれもまた回避する。
「ここまでだ小僧」
高橋は燃え上がる瞳に秋月のシュテルンを捕えると、ライフルを連射した。
爆発炎上するシュテルン。
「秋月離脱しろ、援護するぜ!」
ヒューイはティターンに切り掛かっていく。
「くそ!」
「高橋――!」
ユーリとブロンズが攻撃するが、ティターンは最後まで魔王のように立ちはだかった。
陸戦――。
「オーカ・ニエーバより地上の各機へ、間もなく会敵します。心してかかって下さい」
そうして、両軍が射程内に入るっと、プロトン砲と銃撃の応射がかわされる。
「行きますよ、戦場の風紀委員として臨んだのは過去かも知れませんが、今でもあたしは負けたとは思っていません! いつか、きっと故郷をとりもどして見せるです!」
真帆はライフルを撃ち込みながら進撃する。まずは敵の足を止める、友軍と協力する。
北九州には平和だったころの思い出が沢山ある。バグアによって蹂躙された耶馬渓の牧場‥‥真帆は忘れはしない。ダム・ダルの悪魔のような笑顔も。
「今に見ていろ‥‥ダム・ダル!」
沸騰するような怒りをどうにか抑えながら、真帆は戦場に突入して行く。
ランスを振り上げ、ゴーレムを串刺しにして激突した。
だが、戦場は真帆の一人の感情など嵐の中の小舟のように飲み込みかき消していく。
「せめて、敵将の首でも持って帰りたいところだな」
カルマは、前進すると、シュテルンのロンゴミニアトをゴーレムに叩き込んだ。貫通する機槍。そのまま槍を振り下ろしてゴーレムを両断した。
「さて、目下売り出し中の中川和樹とやらの実力がいかほどか、見せてもらいましょう、蒼いタロス」
ソードはアテナイとダブルリボルバーを叩き込みながら道を切り開いて行く。もの凄い火力を誇るフレイアは、ゴーレムを瞬く間に鉄クズに変えていく。
「アーちゃんにも出来ることがあります。せめて、一機でも敵を減らしていきます」
プラズマライフルを下したアークは、ハンマーに持ち変えると、タロスをぶん殴った。
タロスは弾き返して、バルカンを撃ち込んで来る。
アークは操縦桿を傾けて、銃撃を逸らした。
「オーカ・ニエーバより地上の各機へ、敵指揮官機、突進してきますよ。警戒願います」
「UPC軍よ! とうとうこの日が来たな! お前たちが福岡を追われる日がやってきたのだ! 北九州はもらったも同然だ! このまま勢い蹴散らしてやる!」
中川和樹が登場する青いタロスは、果敢に最前線に出てくると、手近なKVを機刀で叩き斬った。
「行け! 勝利は我らのものだ! 傭兵どもを蹴散らしてやれ!」
加速する青いタロス。
その前に立ち塞がるアーク。アークは青いタロスを確認すると、言葉を投げてみる。
「中川、この前、威勢よく出てきた割にすごすごと引き下がったから、てっきり粛清か左遷でもされたと思っていたけど、まだ指揮官をしているんだ。バグアでも無能人事がまかり通るんだね」
「‥‥‥‥」
しばしの沈黙ののち、怒声が回線に鳴り響いた。
「良く言ってくれるな雑魚め! この俺を無能だと! 先の戦いでは後れを取っが、俺の力はダム司令も御認めになっている!」
「本当にそうかな。ダム・ダルの気紛れじゃないのかな、君が生きているのは」
「ならば、ここで貴様を殺してダム司令への手土産にしてくれる!」
「へえ、君は勇者だね、ただし石器時代の」
「何だと!」
中川は怒り狂って突撃してきた。
アークは後退しながら青いタロスを引き付ける。
「ふむ、高橋とは雲泥の差ですね‥‥」
これを待ちうけていたソードとカルマが青いタロスに襲い掛かる。
背後に回り込んだソードはフレイアの必殺技『女神舞踏』(仮)で攻撃を仕掛ける。ブーストとPRMを使用しアテナイとダブルリボルバーによる手数と高火力を兼ね合わせた攻撃。その動きは舞を舞っているかように華麗。
青いタロスは紛れもなく蜂の巣になった。
カルマもPRMシステムで攻撃を上げると、側面からロンゴミニアトを叩き込んだ。槍が貫通する。
「ぐ‥‥おおおおお‥‥!」
もがく青いタロスに、アークは向き直った。
「ささやかだけど、君だけでも狩り取らせてもらうからね」
アークは兵装を練剣「白雪」に変更すると、蒼いタロスに突き入れた。
レーザーブレードはコクピットの中川を貫通した。
かくして青いタロスはロストしたが、それを見計らったように地上にファームライドが出現する。FRは暴風のように前線でKVを撃墜して行く。
「ここまでかっ――だが、熊本へは通さん!」
傭兵たちも死力を尽くし、熊本への被害を最小に抑えて後退するのだった。