●リプレイ本文
空――。
「――全機エンゲージに備えてくれ」
ヒューイが壊滅的なレーダーに目を落としながら言った。キューブワームのジャミングで、レーダーは壊滅的な打撃を受けている。
「距離400で全機ブースト加速、初撃でキューブを叩く」
ユーリも、友軍をナビゲートしながら、イビルアイズの操縦桿を傾けた。
「距離400に到達、全機ブースト作動。加速します」
「ブースター起動、一気にキューブを叩くぞ!」
里見・さやか(
ga0153)率いるS−01 が15機、マリオン・コーダンテ(
ga8411)が率いるS−01が10機ウイスキー中隊、ソーニャ(
gb5824)が率いるシュテルンとロビン、グロウランス(
gb6145)が率いるS−01が5機とアンジェリカが5機、杉村 太一(
gc4196)が率いるロングボウ・ハヤブサ・岩龍各5機の編隊は、全機ブースト加速して突入する。
「FOX2」
「FOX2! くたばれキューブ!」
「各員、一気に迫り、敵‥‥分かるようでしたら、メイズリフレクターを中心に攻撃してください。撃墜を恐れてはなりません。行きますよ!」
予想外の傭兵たちの突進にバグア軍のヘルメットワームは前進してくるが、遅れた。
ミサイルは次々とキューブワームに命中して、ジャミングを発生させる邪魔なワームの群れはあっと言う間に掃討される。
「油断するな馬鹿者! 反応が遅い!」
バグア軍の指揮官のさやかは、部下達の出足の鈍さに激怒した。
「さやか様! ここからです! まだ我々には敵に倍する戦力があります!」
「敵に倍する戦力があって、いまだにダム司令ですらUPCを退けることは出来ないのよ! せっかく前回の戦闘で奴らに有効な打撃を与えたのに!」
雑音の中で敵の声を聞き、傭兵たちは敵将さやかが苛立つのにそれぞれに反応して言葉を交わした。
「さやかね‥‥随分とヒステリックになってるじゃないの」
「凶暴な性格なんでしょう、見かけによらず。多分洗脳の影響もあるんでしょうけど」
そこでソーニャは敵との回線を開いた。
「ダムの配下の強化人間たちは士気高い。自己犠牲的な事を言ってたりもするわ。だから気になった。強化人間も理想とかあるの? 平穏な生活とか望むの? でもさやか、あなたに興味がわかない。嫌い。捕虜をいたぶるなんて下品ね。あなたの思い通りになんかさせないんだから」
「な、何だ? UPCの傭兵か」
タロスを操縦しながら、さやかはソーニャの言葉にますます苛立ちを覚える。
「貴様らと我々とは所詮相容れない存在よ! 私から見たら、人間なんて獣同然なんだから! 犬に罵倒されたら腹立つわよね!」
「何を、あんたこそダムの犬じゃないの」
「何ですって! お前‥‥ロビン乗りね! 殺してやるから覚悟なさい!」
杉村はおっかなびっくりしながらソーニャに言葉を掛けた。
「恐ろしいですね。敵エースを怒らせてしまいました」
「望むところよ。洗練された思考の持ち主でもない相手、感情も湧かないわ。ボクが叩き落としてあげるよ」
「私と同じ名の敵‥‥。捕虜に酷くするなんて許せません。敵将さやか‥‥。あなたに中津は落とさせない!」
里見・さやかも気合を入れて、回復したレーダーに目を落とす。
「敵ワーム編隊、急速前進してくるぜ、各員ドッグファイトに備えてくれよ、敵さんお怒りのようだからな、気をつけろ」
「ウイスキー中隊行くわよ! 生き残って帰ったら、あたしのキスをあげるからね!」
「オーケーマリオン、今日は俺たちの戦女神だな」
「寡兵で以て大勢を迎え撃つ現時点で、戦略面での敗北は明らか。後は戦術面でどれだけ覆せるか‥‥分の悪い勝負、だな」
「ヘルメットを相手しながらも、常に周囲に気を配り、撃ち漏らしを探すのです。見つけ次第、仕留めてください。あ、そうだ。ヘルメットは必ず多対一で当たること。オーバー」
「行くぞ――!」
「敵指揮官機、前進してきます」
里見は言って、護衛機とともに後退する。
「ウイスキー中隊、敵が二時方向と下から接近してきます。ソーニャ中隊、敵集団、12時方向より向かってきます。グロウランス中隊、10時方向と上方より敵集団が接近、杉村中隊、11方向と1時方向から敵集団が向かってきます。各中隊は、敵の数に惑わされることなく各個撃破に専念して下さい」
「了解里見、各機各個撃破に専念する」
「よろしくお願いします」
マリオンは操縦桿を傾けた。
「ウイスキー1から10、散開して迎撃よ、ゴー!」
「行くぜ!」
散開するマリオンたち。HWとドッグファイトに入る。
飛び交うプロトン砲をかいくぐって、マリオンたちは銃撃を浴びせる。
「食らえ! 大佐殿の仇だ!」
軍属傭兵はトリガーに怒りを込めて、ライフルを叩き込んだ。連打を浴びて吹き飛ぶHW。
そこへタロスが踊り込んで来る。
「UPC! 貴様らの敗北は自明ではないか。そこまでして抵抗する意味がどこにある。もはや福岡は失ったのだ!」
「ウイスキー4! タロスを弾き出して!」
「了解! FOX2!」
S−01からミサイルが放出され、タロスに命中する。
「ウイスキー中隊、敵さんをそっちへ追い込むぞ」
グロウランスたちは巧みな操縦捌きでHWを叩きだすと、マリオン隊は流れるように旋回する。
「グロウランス、お疲れ様。あんたがウイスキー中隊じゃなくて残念だわ」
「言ってくれるな、さあ行ったぞ。叩き落とせ」
「行くわよみんな! 餌に向かって集中攻撃!」
「ラジャー!」
飛び込んできたHWの集団に銃撃を浴びせかけるマリオン隊。
「ちい!」
HWに搭乗する強化人間は苛立たしげにプロトン砲で応戦する。
「砲火を集中、炉心を潰せ。地に叩き落すだけでも構わん」
グロウランスは友軍各機に言って、目潰しの時限信管ロケットを叩き込む。
「タダでは通さんよ」
「ミサイルをぶち込め!」
「奴ら、後悔させてやるぞ! バグア兵に改造洗脳された連中だ! 情けはいらん!」
「戦術作成など、本来柄ではないのだがな‥‥(瞑目」
グロウランスは編隊を組んでショルダーキャノンとバルカンを叩き込む。爆発四散するHW。
「傭兵ども‥‥やってくれる。さやか様への生贄としくれるわ」
タロスが突進してくると、プロトン砲を撃ち込んで来る。直撃を受けて炎上するグロウランス隊。
「タロスか‥‥一斉攻撃で沈めるぞ」
「小隊1、右へ回り込め!」
「こっちは正面から行く!」
タロスを挟撃するグロウランスたち。銃撃とミサイルをタロスに叩き込む。
「その程度、甘い」
タロスはアクロバットに旋回すると上方から襲い掛かってくる。
杉村隊もまた激しいドッグファイトの中にあった。
「ロングボウ、ミサイルで支援攻撃を願います! ハヤブサと俺で切り込みますよ! 岩龍はそのままサポートに回って下さい!」
「気をつけろよ杉村。強化HWはそれなりに堅いし速い」
「皆さんには後で夕飯を奢らないといけませんね」
「夕飯はなくても、勝てればいいさ。行くぞ――!」
打ち掛かっていく杉村と軍傭兵たち。
「ミサイル発射、落ちろよワーム!」
ロングボウからミサイルが放出され、次々と命中したミサイルが爆発炎上する。
爆炎の中から姿を見せたHWは加速するとプロトン砲を撃ち込んで来る。
「回避行動」
杉村とハヤブサはバレルロールで突撃すると、マシンガンとソードウイングを叩き込んだ。
ソーニャ達は確実にHWを撃墜していく。
「明らかに戦力は向こうが上。敵を分断して各個撃破に持ち込むのよ。深追いなしね。数が減ると味方が危ないわ。落とされてはだめよ。そして確実に数を減らす」
ソーニャ機のエルシアンは軍KVよりも圧倒的に速い、自ら囮になり、隙を作りだす。
「エルシアンに続け、誘導されるHWを撃て!」
「頼むよみんな。ここでボクたちは落ちるわけにはいかないんだよ」
バレルロールで突貫、HWをレーザーで打ち抜きながら加速する。
その時である――。
「敵指揮官機、さやかと思われるエースタロスが前進してきます」
里見がレーダーを確認して、自身も護衛機を率いて加速する。
「私も出ます。みなさん、行きますよ。敵エース、何としても落としましょう」
「敵指揮官機が‥‥友軍各機へ、エース対応班以外は敵の足止めに専念するぞ」
グロウランスは言って、友軍に呼び掛ける。
ソーニャと里見らは、さやかのエースタロスに向かって加速する。
「さやかとか言ったわね‥‥。むざむざ落とされに来るなんてね、下がっていれば死なずに済むよ」
「ロビン乗り! ようやく貴様と会えた! 覚悟するのだな!」
「甘いよ。その焦りが失敗のもとだよ」
「里見さん、ソーニャさん! 無茶はいけません。名前が気に入らないのは分かりますが‥‥。俺が、隙を作ります。その間に、なんとしても攻撃を!」
杉村が急きょ援護に出撃する。
さやかのタロスはオレンジ色に塗装されており、派手な金色のエンブレムが胸に描かれていた。
杉村が打ち掛かると、ソーニャはフォーメーションチェンジ。ロビン隊とシュテルン隊に編成を変える。
「貴様らごときに私は倒せないわよ!」
タロスの集団が小機のようにさやかのオレンジタロスを取り囲む。
飛び交うプロトン砲と銃撃。
「高性能ラージフレア投下」
里見はフレアを投下して重力波を乱すと、アハトレーザーを撃ち込む。
ソーニャと里見、杉村たちがさやからとドッグファイトを演じる。
「逃がさないわよ、フォーメーション!」
ロビンがブースト、Mブースターの高速起動攻撃で立て直す隙を与えず、シュテルンのコンボオフェンスの集中攻撃をさやかに浴びせる。
爆発炎上するオレンジタロス、さやかの悲鳴が響く。
さやかは傭兵たちの実力を見誤っていたのかもしれない。
「今よ――!」
ソーニャが加速して、ミサイルを撃ち込む。KV各機から最後のミサイルが叩きつけられる。爆発炎上するオレンジタロスに。
「後悔するのも最後よ、さやか」
ソーニャがレーザーを撃ち込んだ。貫通する。
そして――さやかの機体は、閃光に包まれて爆発、吹き飛んだ。
「さやか機、ロストした」
淡々としたバグア兵の声が響くと、
「UPC、中々やる。ダム司令にも残念な報告をしなければな。だが、さやかももう少し出来るかと思ったが、こんなものか?」
「短慮だったな。敵も人間であることを忘れた。何れにしろ、ひとまず兵を退くぞ」
そうして、空からワームの影が引いて行く。
陸――。
「対KV用キメラGガルガ‥‥か。嫌な物作ってくれるねぇ、しかも数が多いと来てる」
ゲシュペンスト(
ga5579)は言って、レーダーに目を落とす。
敵と正面から対峙する正面軍と敵の側面を攻撃する左翼軍と右翼軍を編成。正面軍が中距離から射撃をしかけつつ前進し敵軍と正面から激突し受止める。ある程度戦闘したら敗走を装って後退し敵の突出を誘い敵陣形を崩す。その隙に左翼軍と右翼軍が両翼から層の薄くなった側面を攻撃し同時に正面も再び転進・突撃して敵を包囲殲滅する。
「まずは正面から受けて立つ‥‥その為に硬さが採り得の編成にしたが、それでもしんどくなりそうだ。釣り野伏せ‥‥難しいがやるしかないか」
「生身でガルガは殲滅できなかったでありますが、KVでは勝手が違うということを思い知らせてやるのでありす」
生身でボスガルガ、スーパーガルガと戦いついに倒せなかったことで臍を噛んでいた美空(
gb1906)だったが、今度はKVサイズのガルガが出現したことでガルガ最強伝説を更新させないためにも何としてでも全滅させる意気込みで戦闘にのぞむのであります。
ゲシュペンストと美空は中央隊。ゲシュペンストは雷電、ディスタン、S01Hを率いる。美空はR01を10機預かる。
「Gガルガとはな! 笑えん冗談だな!」
孫六 兼元(
gb5331)は言って、牙を剥いた。右翼、ミカガミと阿修羅を率いる。
「追い詰められてきているけど、このまま黙ってやられる気はないからね。バグアに目にもの見せてやる」
気合をいれるアーク・ウイング(
gb4432)は左翼。R01を10機率いる。
「皆さん、よろしくお願いします」
殺(
gc0726)は五機のディアブロに言ってから、拳を打ち合わせた。
「あの時とは違う‥‥手には力が入る‥‥足は地に立っている‥‥守る為の鎧が、戦う為の武器がある。何よりも戦う意思がある!! さあ来い!!」
「中央隊、気合を入れて行くぞ!」
「右翼、左翼、タイミングを図って出るぞ! Gガルガだと、ふざけた相手だがここで潰す!」
「全機攻撃開始!」
KV隊は前進しつつ銃撃をガルガに叩きつける。
反撃のレーザー、ミサイル、銃撃がくる。
「何とも‥‥威圧的な相手だが、Gガルガ、生身では無敵だったが、KVではそうもいかんぞ」
Gガルガの攻撃を受け止めつつ、KV中央隊は前進する。
「まだ斃そうとしなくていい。まずはこちらに注意を惹き付けて相手を誘い出す。攻めに転じるのは両翼の部隊が攻撃を始めてからだ」
ゲシュペンストは友軍を押さえつつ、前進する。
両翼もじわじわと前進しながら、ガルガの群れを中央に引きずり込んでいく。
中央隊は一転、ゆっくりと後退していく。ガルガの集団は咆哮して、怒りに喚きながらレーザーを撃ち込み突進してくる。
「焦らずに行くのであります。ガルガ無敵伝説、今日こそ終わりにしてやるのであります」
美空はガルガの銃撃を跳ね返しながら、機会を窺う。
そうして、ガルガの戦列が伸び切ったところで、傭兵たちは反撃に転じる。
「今だ! 両翼部隊切り込め! 敵の側面を突く!」
「ガッハッハ! ワシに続け! 一気に潰す!」
孫六はオウガの手に逆手持ちの刀を携え、加速させる。
「牙を砥ぎ、心の中に鬼を持て‥‥。全機突撃!!」
TブーストBでガルガの戦列に進入。駆け抜けざまに双機刀で手近な敵を斬り伏せる。直ちに大般若に持ち変え、更にもう一度TブーストB発動。今度は移動せず、その場で旋回しながら囲う敵を薙倒す。逆手持ちの刀がガルガをばったばったと切り伏せて行く。
「KV抜刀・鎌鼬!!」
まさに旋風、カマイタチ。軍属KVもガルガの戦列を切り崩す。
「行くよみんな。アーちゃんに続いて!」
アークは先陣を切って突撃した。ライフルを撃ち込みながら加速して、機刀でガルガを叩き伏せる。
「よし! 全機攻撃開始! 反転してガルガを討つ! 究極ゲシュペンストキイイイイイック!」
レッグドリルがガルガを貫通する。
「攻撃開始なのであります――」
美空はルシファーズフィストでガルガの肉体を粉々にした。
KV隊はガルガの集団を押し返していくと、遂にその戦列を撃滅した。
壊走するガルガの群れを、美空は見やり、Gガルガの死体を一つ確保する。
後退したバグア軍を確認して、UPC軍は今一歩遅かったと黙していた。先の戦いで勝っていれば、築城基地を失わずに済んだ。
「‥‥‥‥」
グロウランスは遠方から戦場を暫し見つめた後、無言で背を向けて歩み去るのだった。