●リプレイ本文
熊本基地に非常サイレンが鳴り響く――。
「緊急事態発生、基地上空にファームライドが出現。待機中の傭兵の中で機体が健在な者は、直ちに離陸して、ファームライドの迎撃に向かって下さい。繰り返します――」
基地の中を走る終夜・無月(
ga3084)、ソード(
ga6675)と顔を合わせた。
「ソードさん、無事でしたか」
「ええ、どうにか。ダム・ダル(gz0119)の奴、やってくれますね。まさか一機で奇襲攻撃を仕掛けてくるとは」
「予想外ですが‥‥基地への被害が最小の内にどうにか食い止めませんと」
そこへ、周防 誠(
ga7131)が合流した。
「やあお二人さんも、待機中でしたか」
誠は言って、軽く笑みを浮かべた。
「しかしまいったね。ダム・ダルの奴、こんな形で奴と遭遇することになるなんて」
誠は、ヨリシロ化する前のダム・ダルに止めを差した一人である。
「あのバグア人‥‥何を考えているのか‥‥まさか一機でこの熊本基地を落とせるとは思っていないでしょうが‥‥」
「確かにな!」
三人の背後から、孫六 兼元(
gb5331)がやってくる。
「あ、孫六さんも無事でしたか」
「うむ! まだ死神の抱擁とは無縁でな! 全く、ダム・ダルから死の宣告を受けるなど、ぞっとせんわい! それはともかく、恐らく奴は自ら熊本基地の防備を確かめに来たのではないかな! それくらいは奴のやりそうなことではある!」
「とすると、下見がてら、てところですかね」
ソードが不快げに眉をひそめる。
「確かに、ソード氏の気持ちも分かる! 下見がてらにこれだけの被害を出されては、たまらんからな!」
「よおみんな、無事だったか」
続いて姿を見せたのはヒューイ・焔(
ga8434)と狭間 久志(
ga9021)。
「やってくれるねい、ダム・ダルの奴。だがこいつの代償は高くつくぜ」
「全くですね。ここまでやられて、ただで返すわけにはいきませんよ」
久志は眼鏡を指で持ち上げると、思案顔を見せた。
「だけど、あのダム・ダルですからね。これまでの例から見て、まともに傷ついたことがない、やっこさんのファームライドは」
「ガッハッハ! その神話も、今日限りだ! ワシのアメノオハバリが、奴を捕える!」
「たった1機で攻めてくるなんて、何を考えているのやら。まあ、一時的には複数機で攻撃できるから、損傷と練力切れで機体を乗り捨てるくらいに追い詰めることができればいいんだけど。でも、やすやすとはいかないだろうね」
と呟いていたアーク・ウイング(
gb4432)。走っていたところで仲間たちと合流する。
「良かった、みんな無事だったんですね」
「アーちゃんも無事で何よりだぜ。んだけど機体は無事かねえ‥‥」
ヒューイは言って、赤毛を軽く掻いた。
「みんな、無事のようですね」
ソーニャ(
gb5824)がやってきて、小首を傾けた。
「ダムが一人で来たって聞いて、うっそ〜って感じなんですよね。確かに効果的だけど、腰が軽いと言うか何と言うか‥‥ちょっと驚き、いえ、かなりびっくりだよ」
と、再び衝撃が来る。爆発と轟音が鳴り響いた。
「‥‥KV隊、急いで下さい。ファームライドの攻撃が続いています。KV隊、急いで下さい‥‥」
オペレータの非常事態を告げる声流れる。
「随分とやってくれるねえファームライドは」
夢守 ルキア(
gb9436)はそう言って、KVハンガーに入るところであった。
「よおルキアっちも、無事だったか」
ヒューイが言うのに、ルキアは笑顔を向けた。
「あらヒューイ君、まあね。簡単にやられはしないよ。それにしても急だったね」
「よおみんな」
スカイブルーの頭髪の青年ブロンズ(
gb9972)が姿を見せた。
「全くやってくれるぜダム・ダルの奴。うっかり昼寝もできやしねえ」
「寝てたのか」
「いや、そいつはジョークだがな。さてと、ことは緊急だが、どうするよ。まともに出て行ったら、ダム・ダルの餌食だぞ」
と、軍属傭兵たちも集まってくる。
「ラストホープ組は健在か。運が良かったな」
伍長が言って、顔をしかめた。
「忌々しい光学迷彩だ。単騎でやってきてこれだけの被害を出していくとは‥‥」
舌打ちする伍長。
「まあまずは、離陸の段取りから決めて行きましょう‥‥」
無月が提案する。
「時間もありませんし、俺たちの中のVTOL機がまず速攻で離陸、ファームライドとの交戦に入ります。それから、順次手早く離陸と言う流れで行きましょう。最初は俺たちで行きます。危険を伴いますからね。軍の方には、後に続いてもらえればと。実際、ファームライドのプロトン砲をまともに食らって、無事では済まないでしょうからね」
「ふーむ、傭兵に危険を任せるのは、酷な気もするが、行けるのか?」
「任せて下さい。ある程度の数でファームライドの動きを封じ込めることが出来れば、後は離陸する危険性は格段に減るでしょうからね」
「みなに一つ提案があるのだが!」
孫六は思案顔で進み出た。
「確か、ファームライドはフォースフィールドを使って、こちらのKVを捕縛することが出来る筈だ! いつだったか、ワシがダムより喰らった、FRの『FFでKVを捕縛する能力』をわざと使わせ、隙を誘うのだ! KVを捕縛したままでは動けんはずだ! その隙を狙い、みなには総攻撃を掛けて貰いたい!」
「それは‥‥危険が大きすぎないか?」
軍傭兵の一人が眉をひそめた。
「フォースフィールドでKVを捕縛したのは、見たわけじゃないが、ファームライドの方は自由に動けそうな気もするが」
「危険は覚悟の上だ! ワシも捨て身の戦術だ! 一筋縄でいかんなら、死中に活を見出すだけだな! 全身全霊を持って、成遂げる覚悟だ!」
孫六は詳細な手順を説明した。
1)バレルロールしながら、フェザーミサイルを発射してFRの視界を遮る
2)Tブースト/Aを使い、限界まで急減速&ホバリング。ここから友軍の火力支援を貰う。前方(頭)と下部を押さえて貰い、慣性制御での回避方向を限定させる。特に上へ誘導。
3)Tブースト/Bに切り替え、慣性制御で飛び出してきた(停止した)FRに対し、刃翼で攻撃、捕縛されに行く。
4)上手く捕縛されたら、もう一度Tブースト/Bを使い、FFに負荷を掛け続ける。
3)4)の時点で友軍に総攻撃を掛けて貰う。
「‥‥そこまで言うのなら。やってみるか」
「いいんじゃないの、やってみる価値はあるよ。ファームライドを撃墜するのに、リスクは付き物だよ」
ルキアはそう言って、孫六の意見を支持した。他にも、仲間たちの協力を取り付け、孫六の作戦は行われることとなった。
「みな感謝するぞ! ダムを撃墜出来たら、祝杯を上げるとするか!」
「では行きましょうか。まずはVTOL機で先行ですね」
ソードは言って、自身のシュテルンに向かって歩き出した。
いよいよ出撃となり、KVが出て行くのと同時に、誠はダム・ダルに向かって通信を投げた。
「お久しぶりですダムダル。といっても自分の事を覚えているかは分かりませんが」
応答はない。
「自分はヨリシロとなる前のあなたを撃墜した人間の一人でしてね」
「あの時の記憶は鮮明に覚えている。ダムダルは実に勇敢な人間だったな」
ダムダルは言って、FRを旋回させる。
「折角だから、ここでもう一回落とされていただけませんかねぇ?」
通信は先発組からFRの目を逸らさせることが目的だ。
「フレイア、出ます――」
ソードはKVハンガーから出撃すると、垂直離着陸で上昇した。
アークのシュテルン、孫六のオウガ、ルキアの骸龍が続いて上昇して行く。
が、上空からファームライドの応射が来て、傭兵たちの機体は爆発炎上した。
「く‥‥ブースター起動!」
ソードは一気に加速すると、機体を上昇させる。
「行くぞアメノオハバリ! ダム・ダル! 貴様を刃で討つ!」
孫六も上昇して行く。
「行くよ」
アークも上昇、ルキアは煙幕弾を放って後続の支援を行う。
「行きますよダムダル!」
ソードは加速して、ファームライドに突撃していく。
「PRMシステムアインス、Cモード起動!」
Cモードは抵抗を上げるフレイアの防御システム。
「来るか、ようやく上がってきたところで、俺を捕まえることは出来ん」
ファームライドのプロトン砲がフレイアを直撃する。
「ダム・ダル、今日は覚悟してもらいますよ」
ソードは加速すると、エニセイを撃ち込んだ。
ファームライドはブッ、ブッ、ブッと右に左にスライドして弾丸を回避する。
「何て動き‥‥さすがだけどね」
アークもライフルを撃ち込んだが、全弾回避される。
だが、続々と友軍の機体が上昇してくる。
「終夜無月‥‥ミカガミ、出ます」
「狭間 久志、ハヤブサ出ますよ」
「ヒューイ・焔、ハヤブサ行くぜえ!」
三機のKVが次々と煙幕の中、滑走路から飛び立っていく。
ソーニャのロビン、エルシアン。ハンガーの中でフルタキシング。ハンガーの中で影響の出ない程度で加速すると、ハンガーを出て同時に最大加速、Mブースター。続いてハンガーに影響を与えない所で通常ブースト。即、滑走脚を収納、機首を上げわずかに上昇。さらに機首を上げ、大気圏離脱ロケットの様に天空を目指す。
エルシアンは飛び出した。横目でちらりとFR確認するソーニャ。
「いけー、エルシアン!」
旋回して、状況を確認する。
「みんな無事?」
ファームライドに向かって、複数機のKVが攻撃を開始している。
「周防 誠、ワイバーン出ます」
「ブロンズだ、シラヌイS型出るぞ」
続いて二人の傭兵が出撃する。
「ふむ‥‥出撃を許したか。さすがに完璧に封じ込めることは出来んか」
ダム・ダルは続々と舞い上がって来るKVを確認して、FRを旋回させる。
「行くぞ! 傭兵に続け! 各機、空が持ち堪えている間にどうにか飛び立つんだ!」
「ラジャー!」
軍属傭兵たちも徐々に飛び立っていく。
飛び交うKVとFR――。
ファームライドは凄まじい機動力で傭兵たちの攻撃を回避していた。
状況を確認した孫六は、操縦桿を傾けると、友軍各機に合図を送った。
「全機、ワシが仕掛ける!」
オウガが加速すると、傭兵たちも旋回して配置についた。
バレルロールしながら、フェザーミサイルを発射。FRの視界を遮る。
「何だ、何をする気だ孫六‥‥」
ダム・ダルは微かに目を細めた。傭兵たちの動きに目を配る。
「Tブースト/A!」
孫六は限界まで急減速してホバリングする。
「全機孫六を支援しろ、銃撃開始!」
「撃て!」
「孫六さん‥‥支援しますよ」
ソードはエニセイで攻撃し、FRを上方へ追いやる。
「弾幕形成!」
ルキアは言って、味方と一斉銃撃を開始する。
「何だ?」
ダム・ダルは慣性制御で瞬時に上に移動した。
その瞬間を待っていた孫六――。
「Tブースト/B! 行くぞダム・ダル!」
慣性制御で飛び出してきたFRに対し、刃翼で攻撃する。
「ぬっ――!」
不意を突かれたダム・ダルはバリアーを張った。
オウガがシールドに激突する。
「もらった!」
孫六はTブースト/Bを使い、バリアーに負荷を掛け続ける。
「ダムよ! 死神と踊った事はあるか!!」
「何?」
「覚えておけ、此れが武士だ!」
「今だ! 一斉攻撃!」
「FOX2!」
「孫六に当てるなよ!」
「やりますね孫六‥‥見事」
無月はブースターで突撃して粒子砲を撃ち込んだ。
ソードはエニセイを連射、誠はソードウイングで切り掛かる、アークは螺旋弾頭ミサイルを叩き込む、久志もG放電を叩き込む。友軍各機の一斉攻撃。
FRは動けない――そう思われた瞬間、FRは瞬時に加速して信じ難い機動で宙返りするように反転、後方にジャンプして傭兵たちの攻撃を回避した。
「囮作戦か――孫六、見事だが、最後だ」
「ぬう!」
FRからプロトン砲がほとばしって、オウガを貫いた。爆発炎上する孫六機。
「孫六さん!」
「孫六さん、離脱して! 1番機、2番機、3番機! FRへ全弾攻撃!」
ソーニャがマイクロブーストで加速してFRへG放電を撃ち込む。
「FRの運動性は半端じゃないよ。常に仲間の位置と射角を意識して。来るって思ったら迷わずフルブーストで逃げて。2、3番にもくるよ、十分気をつけて!」
「邪魔が入った、エルシアン、ソーニャか」
FRはアクロバットに回避すると、ソーニャらをプロトン砲で迎撃する。
孫六は不時着して激しく叩きつけられた。
ソーニャの機体も爆発炎上する。
「無月! もう待てないぜ!」
ブロンズはシラヌイS型を加速させると、終夜とともにドゥオーモを叩き込んだ。友軍の雷電などにもミサイル同時攻撃を要請する。
「ダムの態勢が一瞬でも乱れたチャンスは今しかない、一斉に放て!」
ミサイル群と共に久志とヒューイが突撃する。
「201発目‥‥僕が本命だ!」
「行くぜ久っち!」
ミサイルを追う様にして加速し、ソードウイングで遠距離兵器の信管毎FRに突撃する。
「やる――が」
FRを直撃するミサイル群とハヤブサ二機のウイング。
駆け抜けたヒューイと久志。反転してFRの位置を確認し、ミサイルやバルカンを叩き込む。
FRは高速スライドしてかわすと、久志のハヤブサにプロトン砲で大打撃を与える。
「く、やられたか――離脱する!」
「久っち!」
「何て‥‥友軍各機! 弾幕で壁を作ってくれ、後はこっちでなんとかする!」
ブロンズは友軍に呼び掛けると、照準先のFRに十六式を発射する。
「ここだ! 今まで何度お前の動きを見てきたと思ってる、ただ落とされてるだけじゃないんだよ!」
「シラヌイS型、ブロンズ。しぶとい奴だ」
ダム・ダルはバレルロールでブロンズに加速すると、プロトン砲を叩き込んだ。爆発炎上するシラヌイS型。
「ブロンズ機、離脱して下さい‥‥」
無月とソードが打ち掛かる。不時着するブロンズ。
FRはスライドして無月とソードの攻撃を回避すると、反撃のライフルを叩き込んで来る。
「さすがに――」
無月はロールしてFRの銃撃をかわすが、数発命中する。
「やりますね‥‥」
誠とアーク、ルキアもまた、友軍各機と攻撃を続ける。
ダム・ダルは切れていた。鋭いという意味で確かに切れていた。
ヒューイのハヤブサを照準先に捕えると、背後からプロトン砲でハヤブサを撃ち落とした。さらに軍属KVが撃墜されて行く。
「強い‥‥こんなに強かったのか」
アークはFRの推進装置と思しき場所を狙っていたが、ミサイルは全て外れていた。
「あの時とは桁違いだな‥‥ダム・ダル。やってくれるぜ」
誠はFRの銃撃をかわしながら苦虫を噛み潰していた。
「FRかぁ、整備したい。自分も、味方も敵も大好きだケド! 戦わないのとは別」
ルキアは言って、操縦桿を傾ける。
「‥‥そろそろ頃合いか。熊本の防備は確かめた。次にここで会う時には、大勢が決まっているだろう」
ダム・ダルはそう言うと、光学迷彩で姿を消した。
「FR、ロストした」
それが最後だった。FRは戦場を離脱したのだった。