●リプレイ本文
「あーあー、みんな準備はいい? 知っている人は知っているー、ショタっ子ルキアだよ! さーてもうすぐエンゲージに備えて」
管制を行う夢守 ルキア(
gb9436)の声に、傭兵たちはコクピットでヘルメットを小突いた。
「了解ルキア、私はショタっ子だって気にしませんよ」
アルヴァイム(
ga5051)の言葉にシリウス・ガーランド(
ga5113)は軽く笑う。
「ああ、ショタっ子だからって気にするな。ショタっ子だからって気にするようなボーイフレンドとは別れるべきだ」
「あのー」
ルキアの声を待たずに次が入る。
「でもシリウスさん、世の中がショタっ子で埋め尽くされたら恐ろしいことになりますよきっと」
言ったのはソード(
ga6675)。
「そうか? そう思うかソード。だとしても、ショタっ子たちは今にも世界を征服しようとしている。その現実を、我々は認めるべきだ」
「まいったねシリウスさん。シリウスさんの話を聞いていると、自分は現実から逃避したくなってきますよ」
周防 誠(
ga7131)が言うと、ヒューイ・焔(
ga8434)がからからと笑った。
「シリウスの話は本当だぜ誠。お前さんもそろそろ観念した方がいいな。あり得なかった現実が今そこまで猛スピードで接近してるってことによ」
「みんな乗り乗りだねー、活発な声が上がるのはいいことだよね。そう思わないソーニャ(
gb5824)ちゃん」
依神 隼瀬(
gb2747)の問いに、ソーニャは至って真面目に答えた。
「これは真剣に議論されるべき問題だよ。いよいよ世の中が征服されようとしているならボクたちはそれとまっすぐに向き合わないと‥‥」
「ちょっとちょっとみんな何言ってんの! もうすぐ戦闘だよ! 管制始めるよ!」
ルキアの声に、仲間たちから笑声が上がる。
「まあそう焦るなよルキア。知っている人は知っているんだからさー」
ヒューイは笑って応答する。シリウスは肩をすくめて笑みを浮かべた。
「これが傭兵流のリラックス方法だ。少しいじられて気分も昂ぶってきただろう」
「あのね」
「汝ルキア、来ますよ。いよいよ本番開始です」
アルヴァイムの言葉に、ルキアはコンソールを操作して各機とデータリンクを図る。
「オッケー、データリンクを開始。これより管制を開始するからね。よろしく!」
彼らのやり取りに、軍傭兵たちは呆れた様子であった。
「だがこの連中が北京で奇跡を起こそうとしているんだぜ?」
「今に始まったことじゃないだろう。バグアと最も戦うラスホプの連中が冗談でもなく本当に強いことは、事実だからな」
「その通りだがなあ‥‥」
傭兵たちは編成を組むと、敵ワームに向かって前進する。
「間もなく九州北部海上。全機エンゲージに備えて――」
●傭兵たちの布陣
・先発
ソード
ヒューイ
依神
ソーニャ
雷電×10
ロビン×10
・後発
シリウス
夢守
シュテルン×10
・対指揮官
アルヴァイム
周防
バグア軍ではカスタムタロスの中で指揮官の水風が傭兵たちの動きを探っていた。
「ふふん‥‥奴ら驚くぞ。ダム司令がいなくとも、俺たちが十分に戦えることを思い知らせてやる」
「水風指揮官――UPC軍、三編成に分かれて来ます」
「よし、ロッテを形成しつつ前進! ドッグファイトで負けるな! 二機一組みで敵を各個撃破しろ!」
「了解――」
ルキアは仲間たちをナビゲートする。
「初手で大きな打撃を当てた後、右翼から先に潰す‥‥きっと敵の目的に気付くだろうから固まって、弾幕は積極的に使って」
偵察用カメラ起動、特殊電子波長装置γで、ジャミング源確認、目視。シュテルンの中にいて、管制を重視。
「ん、敵の布陣は南に多い、予定戦力通り」
傭兵たちの先発チームの集団は加速すると、バグア軍の右翼へ急速前進した。
「プロトン砲に気をつけて、行きますよ!」
ソードが先陣切って突進する。
バグア軍の中央と左翼が半包囲するように陣容を変えて行く。
「兵装1、3、4、5発射準備完了。PRM『アインス』Aモード起動。マルチロックオン開始、ブースト作動」
ソードはコンソールを操作して行くと、標的を収めて行く。
「ロックオン、全て完了!」
ソードは敵の前衛をまとめてロックすると、ミサイルを放出する。
「『レギオンバスター』、――――発射ッ!!」
必殺のレギオンバスターが放たれると、2000発を越えるミサイルが敵ワーム目がけて飛ぶ。
反撃のプロトン砲が来る中、傭兵たちもミサイルを撃ち込む。
「FOX2」
「ミサイル発射」
「食らえ! 発射!」
HWを次々と直撃するミサイル群。爆発の炎が空を染め上げる。
「では我々も参りましょうか」
「了解です」
アルヴァイムと誠は高高度からのブーストダイブで突入する。目標は敵カスタムタロス。恐らく配置からしても集団の指揮官と思われた。
加速するワイバーンとロジーナが落下して行く。
「ん?」
バグア指揮官の水風は、上空からの接近に当然気付く。
「ブーストダイブ。俺を狙ってくるつもりか」
水風はタロスを持ち上げると、プロトン砲の照準を定めた。
「食らえ!」
水風はプロトン砲を発射。
アルヴァイムはその直撃を受け止めつつ、ライフルを連射する。
続いて誠はK02ミサイルを放出してバレルロールで突撃する。
「さて、行きますよ!」
エニセイを叩き込みつつ突進する。
「ちい! 改造機体か!」
水風は、アルヴァイムのロジーナのデータを拾いつつ、旋回した。
「逃がしはしませんよ」
アルヴァイムは突貫してすれ違うと、ブースターで反転した。ライフルで水風のカスタムタロスを狙う。凄まじい銃撃がカスタムタロスを直撃するが、水風も機体を立て直すと銃撃を叩き込む。
銃撃と銃撃が交錯して、ロジーナに衝撃が走る。
カスタムタロスも正面から銃撃を弾き飛ばしつつ回頭しつつロジーナをやり過ごした。
「攻撃の手は休めない、どんどん行きますよ!」
誠もエニセイを叩き込み、アルヴァイムと入れ替わる。
「マイクロブースト起動! 今度は自分と遊んでもらいましょうか!」
ソードウイングで切り掛かる誠。
「文字通り遊んでやるわ!」
水風はタロスの腕部分のブレードを構えると、加速した。
ワイバーンとカスタムタロスが激しく打ち合う。刃と刃が激突して、火花を散らした。
「改造機が‥‥あの捕獲機ならば‥‥!」
「何ですって?」
誠は眉をひそめると、さらに一撃切り掛かった。ウイングがタロスの胴体を激しく切り裂く。
「どこまでもしぶとい‥‥傭兵ども」
水風はタロスの再生能力でダメージを回復させつつ、後退する。
「シリウス君にみんな、そろそろ私たちの出番かな。行くよー。右翼に集中している敵軍に向かって攻撃開始」
「了解した」
「行くぞ!」
後発組のルキアとシリウス、シュテルン×10は加速した。
「FOX2!」
「まずはこれでも受け取りたまえ」
ミサイル攻撃と連動して、シリウスはゴーストの四連カノン砲を叩き込む。直撃を受けて爆散するHW。
「現在敵指揮官は黒子君と誠君が足止め中――先発部隊、これから合流するよ」
「了解しました。待っていましたよ」
ソードはタロスを連続攻撃で撃退すると、次いでHWに当たる。
「フレイアに死角なし、とは言いませんけどね」
ソードは全体の動きを見て、いわゆるネームドの存在の大きさを確認する。
「一機でも洋子か高橋でもいたら、戦況はまるで別の世界ですかね。尤も、容赦するつもりはありませんが」
ソードはHWを撃墜すると、カスタムタロスに接近した。誠とアルヴァイムとドッグファイトを演じている。この二機を相手取るだけでも大したものだとソードは思ったが、ネームドほどの力はなさそうだ。
加速すると、カスタムタロスにエニセイを叩き込んだ。
「ここは戦場なんですよ。こういう事にも気をつけて下さいね。もっとも次があればですが」
不意打ちに水風は反転した。
「傭兵! フレイア――ソードか!」
「おや、名前を御存じとは」
「洋子が撃墜したなら俺にも撃墜出来るわ!」
その瞬間、ソーニャのエルシアンが突進した。レーザーを叩き込む。連撃が直撃するも、水風は反転してプロトン砲でエルシアンを追撃する。
「お手並み拝見」
「またしてもエルシアン、ソーニャ傭兵。しぶとく生き残っているな! なぜああまでバグアにこだわる!」
「ボクが何故、強化人間やバグアにこだわるかって? ボクに興味を持ってくれるの?」
ソーニャは回線の向こうの水風に呼び掛けた。
「そうだね、その一つはボクは空と引き換えに戦争をしている。それでも、殺し合いの相手でも幸せを求めるものであって欲しい。そうでないと悲しすぎるからね。そうでなければ、ボクたちはどちらかが滅びるまで戦い続けなければならないから。おかしい? 正義と悪の戦いじゃぁ悪が勝っちゃたら救われないじゃない。正義と正義の戦いの方が絶対いいよ。大丈夫。戦場だったら、望むもの、求めるものがあれば、躊躇なく殺し合える。戦場でなかったら? きっと楽しくお茶をのんでお話が出来るよ。それぞれの別の未来についてお話をしよう」
「‥‥ソーニャ傭兵、俺たちは相互理解には程遠い。バグアに世界を支配された人間と、そうでない人間、俺たちは対極の世界に立っている。バグアは宇宙を旅して幾つもの星々を滅ぼしてきたという。今回もバグアは人間を滅ぼすだろう。俺たちはどちらかが滅びるまで戦うしかないのだよ。俺はちっぽけな鍵だ。尤も、お前が理解を求めているとは思わんが」
「お喋りはその辺にしてもらいましょうか」
アルヴァイムと誠が攻撃を再開する。
「覚えておくがいいUPC。俺は水風・牙龍。今は春日基地の司令官代行だ。春日の強化人間の上級戦闘員。俺は最後まで、お前たちの前に立ちはだかった。俺が死んだところで、まだ春日には上級戦闘員が残っている。春日は難攻不落。俺たちは、最後までUPCに抵抗する‥‥」
連続攻撃を浴びて炎上するカスタムタロス。集中攻撃を浴びて、最後には爆発して四散した。
「次は無い、か」
ソーニャは消滅した水風の跡をしばし見つめていた。
「指揮官は倒したよ、反撃に転じよう」
ルキアの声が流れると、ヒューイは勢いを増してハヤブサを駆る。
「ひゃっふ〜! こいつはいてえぞお! おらおらおらおらあ!」
ウイングで切り掛かって、次々とHWを撃墜して行く。
「ブースター起動! 逃がさねえ!」
加速するハヤブサからロケットが放出され、肉薄してはバルカンで畳み掛け、ウイングで突撃する。
「そっちへ! 中型を狙いに行くよ!」
依神は友軍機とともに中型HWを包囲する。
「隼瀬っち! 俺も加勢してやるぜい!」
「焔さん、サンクス――行くよ」
ヒューイを加えて、隼瀬と友軍機は中型HWを狙い撃つ。
中型HWの巨体から反撃のプロトン砲が来る。KVに比べればかなり大きい。
「意外に速いが‥‥!」
「中々やる!」
「UPC! 水風が落ちた程度で我々の戦力に何の支障もないわ! 所詮ここで死ぬ程度の器だった! 奴が司令官代行だったのはただの偶然に過ぎん!」
中型HWのパイロットは怒声を発してミサイルを放出した。
「何の〜!」
ヒューイはバレルロールで突撃した。
「合わせて! 一斉射撃!」
隼瀬はレーザーを撃ち込みつつ、友軍と連携を取る。
「おらおらあ!」
ヒューイのソードウイングが中型HWを貫通した。
「ぐ‥‥お! 何だと!」
「今だ!」
隼瀬たちが続けてレーザーを叩き込む。
沈黙した中型HWは、制御を失って墜落して、海に没した。
「やったね! 海に落とした! 後は爆発しなければオケー」
ルキアは幸運のメダルを握りしめた。
傭兵たちはそのままHWとタロスの集団を狩り取って行き、バグア軍を撤退させることに成功した。
‥‥戦闘終結後、UPC佐世保基地から水中用KVの一団が出発する。中型HWの水没地点を傭兵たちがナビゲートした。
「ここが中型HWの水没地点だよ」
ルキアは低空飛行で旋回し、水面に浮かんでいる友軍に呼び掛ける。
「よし、後は水中に敵さんが来ていないことを祈るだけだ」
「うまくいくかな」
隼瀬はレーダーに目を落とし、北九州方面に動きが無いことを確認する。
「電光石火の奪取作戦でいかないと」
それから時間が流れる。傭兵たちは待った。そして――。
友軍の一機が水中から顔を覗かせた。
「捜索部隊より、上空の傭兵どうぞ」
「こちら傭兵部隊だよ」
やや間があって、捜索隊の水中KVに搭乗する傭兵から明るい声が届いた。
「破損した中型HWを発見した、機体は無事だ。恐らく慣性制御装置は生きていると思われる。本部へ連絡してくれ、俺たちはこれから中型HWを曳航する。敵に気付かれる前に」
「了解。本部へ連絡するよ!」
そうして、UPC軍に生きた慣性制御装置を持った中型HWが運び込まれることになるのだった。
佐世保基地は予期せぬ収穫に、歓喜に沸いた。
‥‥それから傭兵たちはラストホープへ戻った。シリウスが一杯やらないかと言って仲間たちを誘った。店内はクリスマスのデコレーションがされていたが客はまばらだった。
「勝利に乾杯」
「乾杯」
「かんぱーい」
「仕事の後の一杯に」
ルキアとソーニャはジュースで乾杯するが、後の面子は好みの酒が入ったグラスを傾けた。
「北九州は中々厳しい戦いが続いているし、今回のような勝利は余り少なかったしね〜」
「それでも、どうにか春日への道のりは付き始めているし、この戦いも何とか終わらせることが出来るかも知れない」
「あそこにはあのバグア人もいれば、ネームドクラスの強化人間もいるし、簡単には行かないでしょうがね」
「それにしても、長かったですね。ここまで来るのに二年以上かかったわけですから」
「彼は、どこまでも抵抗するのかな。北京へ行くのかとも思っていたけれど、春日と運命を共にする気だろうか」
「あのバグア人か‥‥」
そこで、店内に新たな客が入ってきた。
「おや」
アルヴァイムはその姿に目を止めた。
オペレータのフローラ・ワイズマン(gz0213)であった。オペレータ服ではなく、トレーナーにジャンパー、ジーンズという普段着であった。
「あらみなさん」
フローラが少し驚いた様子で傭兵たちを見やる。
「フローラ嬢、お疲れ様です。珍しいところで会いましたね」
「お疲れ様ですね」
「確か、飲めないんでしたよね?」
アルヴァイムの言葉に、フローラは肩をすくめた。
「そうですけど、ここの料理が好きで」
「そうなんですか。もしかして‥‥誰かと待ち合わせですか?」
「だと良いんですけど、あいにく」
「じゃ、こっちでどうです」
アルヴァイムの言葉にフローラは肩をすくめると、「お邪魔じゃなければ」と言って席に着いた。
「ソーニャさんルキアさん、怪我は大丈夫ですか?」
「まあどうにか乗り越えたよ。危なかったけどね」
「フローラさんは何にします?」
「ええと、レモンスカッシュで」
そうして、傭兵たちは、束の間の休息にしばし歓談して時を過ごすのだった。