●リプレイ本文
三瀬峠上空――。
「ユーリ君支援よろしく。管制を開始。全機エンゲージに備えて」
夢守 ルキア(
gb9436)の言葉に、傭兵たちは操縦桿を傾ける。
「ダム・ダル(gz0119)、か‥‥話には聞いていたけれど、直接相対するのは初めてだね」
柳凪 蓮夢(
gb8883)は思案顔で頷いた。
「歴戦の兵、大量の有人機、そしてFR、か‥‥厄介、だな。だが‥‥墜ちない、墜とさせない。それが私と紅弁慶の『誓い』だ
相手が誰であろうと関係ない。守護者の名、そして守護の意味を持つ紅弁慶の名にかけて‥‥私は全力で護るだけ、さ」
「UPC優勢か‥‥。だが敵も、ダムを始めエースは健在。油断は出来ん!」
孫六 兼元(
gb5331)は牙を剥いた。
「射程圏内、攻撃開始」
「了解、ミサイル発射」
「FOX2!」
「ファイア!」
傭兵たちのKVからミサイルが放出される。
蓮夢は電磁砲を中型HWに叩きつけた。
ミサイル着弾、爆炎が炸裂してフォースフィールドを突き破る。
直後、HWの戦列から閃光がほとばしり、プロトン砲がKVを薙ぎ払う。
「電子戦機は長く戦場に留まるコトが、一番の支援さっ!」
ルキアはコンソールを操作しつつ、ユーリと支援体制を確立する。
「ダム・ダル、聞いてるかなー? きみがこの間言ったこと。絆かぁ、それはそれで面白いね。ベッタリ仲良しがー、絆じゃないケド。私達のコト、そー見える?」
ダム・ダルはFRのコクピットの中で微かに肩をすくめた。
「夢守ルキア、絆などどうでもいい。この間はお前をたぶらかそうとしただけだ。気にするな」
「あ、そう‥‥タフなのは信じてるもん、自分もKVも思うままに、生きる、それが生きてるって感じるから」
「そのようだな。尤も、ここでは思うがままとは行くまい。私がお前たちを皆殺しにする可能性もあるからな」
「その可能性は逆もあるとして、きみは戦って、楽しい? 私は楽しいし好き、好きに理由なんてイラナイ」
「楽しいかどうか‥‥もはやそんなことを言っていられる状況でもなくなってきた。実際、私たちはこのままでは春日を枕に討ち死にだ」
「随分古めかしいことを言うんだね」
「行くぞ夢守ルキア。お前との関わりも今日が最後だ」
FRが突進してくる。
「ルキア氏! 気をつけろ! 奴が来るぞ! ――ダム! 来い! ワシが相手だ!」
「孫六兼元、久しぶりに声を聞いたな。では貴様から撃ち落としてやろう」
「ガッハッハ! 今までワシ等を追い詰めて来たお前が、逆に追い詰められて、今どんな気分だ?」
「追いつめられるのは慣れてないのでな、正直右往左往しているよ」
「ガッハッハ! 春日基地どころか、地球からも追い出してやるからな!」
孫六はオウガを加速させる。
FRは姿を見せると、オウガに向かって発砲した。
「実は右往左往していると言うのは嘘だ」
「そんなところだろうが!」
孫六はバレルロールで加速すると、プロトン砲をかいくぐって、FRにブレードで切り掛かった。
「春日基地では、お前の首はブラックリストに乗っている。要注意人物だ孫六。部下達もお前を狙うだろう。戦場では上下左右に気をつけろ。どこから攻撃が来るか知れんぞ」
言いつつ、ダム・ダルはFRをアクロバットに操り、孫六の斬撃を回避していく。
「お得意の心理作戦か! 相変わらず食えん奴だな!」
マシンガンを撃ち込めば、FRはスライドして回避して、ライフルを撃ち返してきた。
凄まじい衝撃が来る。オウガの装甲がばらばらに吹き飛んで行く。
「今日は止めを差す、孫六」
「そうはいかない」
蓮夢がツングースカを叩き込む。銃撃がFRの姿を捉えかけたが、ダム・ダルは反転して回避する。
「ダム・ダルか‥‥戦場で相対するのは初めてだが。記録は見させてもらったぞ」
「お前は‥‥柳凪 蓮夢か。ここへ来るのは初めてのようだな」
蓮夢は眉をひそめた。
「なぜ‥‥」
名前を知っているのかとは聞かなかった。蓮夢は加速すると、ツングースカをばら撒いた。
アクロバットに回避するFR。
「ガッハッハ! 蓮夢氏! 今だ!」
「む‥‥!」
ダム・ダルの視線が微かに下に向いた。
突撃するオウガの翼刃が、FRの装甲を切り裂いた。
「孫六、貴様、死に体で――!」
「油断したかダム・ダル! 貴様らしくもない!」
孫六はさらに一撃切りつけた。ブレードが炸裂する。FRは爆炎に包まれた。
「ちっ‥‥どこまでもしぶとい奴だ」
「孫六気をつけろ」
蓮夢は機関砲を連射するも、ダム・ダルはそれらを弾き返して、オウガに体当たりをぶちかます。
「ぬう!」
「孫六、ゲームオーバーだ」
ダム・ダルはそのままプロトン砲を連射すると、オウガを撃墜した。
「兼元君離脱! 生きてる!?」
「(ガガー‥‥)ワシ‥‥(ガガー)無事‥‥(ガガー)地上で待機‥‥(ザザー)」
孫六はどうにか不時着する。
「全機、FRを自由にさせないで! ダム君は本気で暴れ出すと厄介だよ!」
「夢守、後ろへ。出過ぎるな」
「蓮夢君もね。ダム君のFRは並みの機体じゃない。単騎で行くと確実に落とされるからね」
「そのようだな」
「夢守ルキア、UPC軍に伝えておけ。春日へ入るつもりなら、相応の試練が待ち受けているだろうとな。私たちも無傷で貴様等を帰すつもりはない。覚悟するのだな」
「ダム君、私たちはいつだって必死だよ。でも春日へ入ることになったら、その時は君も終わりが近いのかな」
「その時が来れば分かること。差し当たり、私は春日から動けないのだ。北九州は譲らん――」
脊振山上空――。
「この前は無様に撃墜されたけど、今回は目にもの見せてやるもんね」
アーク・ウイング(
gb4432)は気合を入れていた。
「高橋麗奈‥‥思えば何て長い付き合いだ。初めて会った時はただの雑魚かと思ってたけど。今度こそ落ちてもらうぜ」
ヒューイ・焔(
ga8434)は言って、操縦桿を傾けた。
「敵ワームとの空戦距離に入ります。全機空対空ミサイルを発射せよ」
「了解した。ミサイル発射」
「FOX2」
「K02――発射!」
傭兵たちのKVからミサイルが放出されると、HWは回避行動を取りつつ、プロトン砲で反撃してくる。
着弾――。爆発の炎が飛び散る。
「全弾命中、敵戦力は健在、ドッグファイトに移行せよ」
「待ってましたあ!」
ヒューイは加速すると、バレルロールで突撃して、バルカンを叩き込んだ。爆発四散するHW。
「まずは一機! 下で回収できればなおよし!」
「さすがヒューイさんです!」
アークは加速すると、HWに食らいつき、ライフルを叩き込んだ。HWは吹き飛び、態勢を崩されるも、持ち直して反撃してくる。炸裂するプロトン砲がアークのシュテルンを直撃。
「何の!」
「アーちゃん、援護するぜ」
「ありがとうございますっ」
ヒューイは加速すると、ロケットを撃ち込んだ。直撃がHWを吹き飛ばし、アークはプラズマライフルを連射した。HWは連打を食らって炎上し、爆発四散した。
「相変わらず暴走しているなラスホプ組が」
回線に響いたのは、鋭い女性の声。高橋麗奈である。
「ティターンが前進してきます! 各機警戒せよ!」
管制官の声が飛ぶ。
「高橋麗奈、今日はアーちゃんが目にもの見せてあげるよ」
「まさか、アーちゃんにはやられたくないものだ」
ティターンが加速する。
「高橋、今日はお前の最後の日だぜ!」
「何? もう一回言ってみろヒューイ・焔」
「全機攻撃目標ティターン。HWには構うな。ティターンを撃退するまで攻撃を続行せよ!」
「了解、各機目標はティターン」
傭兵たちは全機ティターンに向かう。
「そう簡単に行くと思うな傭兵ども!」
HWのパイロットたちは加速すると、KVに突撃して行く。
「持ち堪えろ! ティターンに一斉攻撃!」
「FOX2!」
「ミサイル発射!」
全KVから放たれるミサイルを、次々と受け止める赤いティターン。爆発がティターンを包み込む。果たして――ティターンは魔王のように空中に静止していた。
「ティターンを守れ!」
強化人間たちはKVへ襲い掛かって行く。HWを放置して簡単に総攻撃には至らない。
ヒューイはブースターで加速すると、ウイングで切り掛かった。
「高橋! 受け取れ! 花束代わりのウイングだ!」
「そんな茶番に付き合うかヒューイ・焔、私とティターンを甘く見るなよ」
高橋はアクロバットにウイングを回避すると、プロトン砲を連射する。
「よおっと! 俺に気が無い振りをするのもいいが、そのうち振り向くことになるぜ高橋麗奈よ!」
「お前に気が無いとは言ってない。むしろ、手に入れて、私の手駒に加えてやりたいくらいだヒューイ」
「はは! そいつはご免こうむるがねえ! お前を生かす方法があれば、ダムと命運を共にする必要は無いんだぜ?」
「私をおちょくると後悔するぞ」
次の瞬間、ティターンに衝撃が走る。アークが隙を突いて、螺旋弾頭ミサイルを叩き込んでいた。
「アーちゃんしてやったり!」
「ちっ! アーク・ウイング!」
「落ちてもらうぜ高橋! 強化人間と戯れるのはここまでだ!」
バルカンを撃ち込み、剣翼で突撃する。
「ヒューイ・焔――!」
ハヤブサがティターンを直撃する――かに見えた瞬間、高橋は紙一重でハヤブサをやり過ごし、回避しながらヒューイの背後からプロトン砲を叩き込んだ。爆発炎上するハヤブサ。
「ここでけりを付けてやるわ!」
ティターンは加速してハヤブサの背後に着くと、プロトン砲を連射する。
「わわっ! こいつはやばい――!」
ヒューイはブースターを起動すると、一気に逃げた。
「ヒューイさん!」
アークが突進して、ティターンにライフルを叩き込む。
「ヒューイ、運のいい奴。次は逃がさん――」
小郡市上空――。
「兵装1、3、4、5発射準備完了。PRM『アインス』Aモード起動。マルチロックオン開始、ブースト作動」
ソード(
ga6675)はコンソールを操作して行くと、例によってミサイルの発射準備を整えて行く。
「ロックオン、全て完了!」
そしてソードは2000発を越えるミサイルを放出する。
「『レギオンバスター』、――――発射ッ!!」
「いよいよ佳境と言った感じでしょうか。ここまで来たのです、負ける訳には参りません!」
櫻小路・なでしこ(
ga3607)もドゥオーモミサイルを放出する。
「いつもあと一歩が遠い‥‥今回は大成功と行きたいところだが」
カルマ・シュタット(
ga6302)もK02を発射。
「全機空対空ミサイルを発射せよ」
「ミサイル発射!」
「FOX2!」
「食らえバグアども!」
何千発ものミサイルがHWに襲い掛かる。しかしHWからもプロトン砲がほとばしる。KVもHWも回避行動を取りつつ、だがお互いに直撃を受ける。
「早速ティターンが前進してくる。全機警戒せよ」
ソードは回線を開くと、ティターンの搭乗者である洋子に呼び掛けた。
「久しぶりですね、洋子。この前の戦闘には参加できませんでしたが、今日はたっぷりとこの前の分も含めて相手をしてもらいましょうか?」
「ソード傭兵ですか‥‥あなたの機体は春日でも人気が高いですよ。またもう一度頂きましょうか」
「そう何度もやられるわけにはいきません、洋子」
「行くぞ、洋子」
カルマは煙幕弾を発射。弾頭が炸裂すると、ティターンは煙幕に包まれた。
「よし‥‥まずはK02を食らえ!」
カルマはミサイルを放出した。
煙幕の中のティターンは、ミサイルの直撃を受けて爆発炎上する。それでも、ティターンは小揺るぎもせずに煙の中から出現する。
「行きますよ‥‥傭兵たち!」
ティターンが加速する。炸裂するプロトン砲。
ソードの機体が爆発炎上する。
衝撃に耐えながら、ソードは操縦桿を引いた。
「さすが‥‥一度はフレイアを落としたものですが」
反撃のエニセイを叩き込めば、ティターンは直撃を受け止めつつミサイルを放出した。
なでしこ、カルマ、ソード各機にミサイルが襲い掛かる。
「く‥‥逃げ切れない!」
なでしこは接近するミサイルを確認して額から汗が噴き出してきた。
直撃――! なでしこのマリアンデールは爆発に包まれた。
カルマとソードも直撃を受けた。
ティターンは上方に舞い上がると、プロトン砲を連射する。
「これでも‥‥!」
なでしこは機体を立て直すと、ファルコンスナイプ改で帯電粒子加速砲を叩き込んだ。
ビームの光条がティターンを貫く。ティターンからもプロトン砲が来る。後退するなでしこ。
「こっちだ洋子!」
カルマは前進してツングースカを叩き込んだ。ソードも前進してエニセイを撃ち込む。
なでしこは後退して退避、レーザーで牽制しつつ後衛に回る。
「ラスホプ組は相変わらず邪魔をする‥‥さすがと言いたいところですが‥‥」
洋子は正面からカルマ機とソード機と撃ち合う。
なでしこは、後衛から高出力荷電粒子砲で援護する。
「洋子、今日は何としてもあなたを落としていく!」
洋子はアクロバットに回避しつつ、プロトン砲を連射する。
「洋子、まだ出会ってわずかですが、あなたは好敵手でしたよ。別れるのが寂しくはありますね」
ソードの言葉に、洋子は肩をすくめる。
「私も寂しいですね、あなたと別れると思うと、ソード傭兵」
「倒れるのはあなたです、洋子、最後には」
「それは分かりませんよ。確かに、北京では人類が優勢にことを運んだようですが‥‥」
「必ず、地球からバグアを一掃してやるよ、いずれ決着をつける」
カルマはアグニを叩き込み、バレルロールで加速する。
ティターンは弾丸を受け止めつつ高速で後退し、ジグザグ慣性飛行で距離を保つ。爆発炎上するティターン。
「全機攻勢に出ますよ、このまま洋子を倒します」
ソードの声に、カルマとなでしこは加速した。
洋子を三方向から包囲し、スキル全開で攻撃する。
連続攻撃にさらされた洋子は、さすがに後退する。
「まだ私たちは敗れたわけではありません‥‥傭兵たち、北九州はまだ終わってない。春日の総力を上げて、あなたたちを迎え撃つ。まだ終わりじゃない‥‥」
そして洋子は撤退する。
その後、バグア軍は各所でHWが撃退され、ダム・ダルが撤退命令を出す。バグア軍は後退した。
‥‥地上にて、孫六は無線機片手に戦場を移動していた。
「あそこに落ちたはずだが」
孫六はそこへ近づいて行く。大破したHWが煙を上げて、横たわっていた。コクピットは開いていて、中の強化人間はこと切れていた。
「こちら孫六兼元だ、待機中の地上部隊応答せよ」
「こちら地上部隊。何か」
「自爆に失敗した小型HWを発見。至急現場へ来てほしい。座標は三瀬峠の‥‥だ」
「了解した。直ちに地上部隊を派遣する。貴官は直ちに退避しろ。援護を行かせる」
「了解した」
そうして、孫六はその場から離れた。
UPC軍は、小型HWの慣性制御装置を一個確保する。