●リプレイ本文
四機一組みでワゴンホイールを形成する傭兵たち。ダム・ダル(gz0119)のティターンを前に戦闘態勢を整える。
「この機体の名はウシンディ‥‥お前に言わなくても分かっているだろうが‥‥この名にかけてお前には負けられない」
カルマ・シュタット(
ga6302)の言葉に、ダム・ダルは過去を思い出す。かつてダム・ダルと言う男が強化人間であった頃、その最後にカルマ・シュタットのシュテルンに「ウシンディ」と言う機体名を与えたのだった。
「お前とは長い付き合いだなカルマ・シュタット。どう思う。これが終わりだと思うか? これが、私とお前の決着のつき方か」
「終わりだダム・ダル。お前に逃げる場所は無い」
「あなたには、随分としてやられました。洋子には俺の機体も奪われた」
「ソード(
ga6675)か。久しいな。お前もまた、私をしばしば脅かした記憶すべき相手であった」
「良く言う。脅かされたのはこちらですがね。今日ここで、あなたとの決着、つけさせてもらいますよ」
「それはお前たち次第であろう」
「よお、て‥‥このままやりあってもそっちの負けは見えてんだ、降参してくんねぇか?」
言ったのはヒューイ・焔(
ga8434)。
「降伏か。私が降伏すると思うかヒューイ・焔」
「まぁ、ダメだよなァ」
「降伏する前に、お前たちはみな倒れていることだろうな」
「何だそれ」
「牡牛座、相手にとって不足は無い。お前の最後、図らずも見届けることになりそうだ」
リヴァル・クロウ(
gb2337)の言葉に、ダム・ダルは手持ちのデータと照合する。
「お前はリヴァル・クロウか。牡牛座とは‥‥随分古い話だが。私の最後を見届ける気か。望み通りになるとは限らん。私にはまだ力が残されている」
「本当か。そう言い切れるのか、この状況で。お前はもう最後の最後まで追い詰められている。お前一人の力で戦況を変えることが出来るとは思わない」
「そうかも知れんな。だとしても、お前の望み通りにはならないかもしれない」
「ダムよ、輪廻の道をやり直し、次は地球人として生まれて来い! そして、その時は‥‥。その時は『友達になろう!』」
孫六 兼元(
gb5331)は満面の笑顔で言った。まぁ、ダムは甘いと笑うかもしれんが、ワシはダムと言う男は嫌いでは無い。これは、本心からそう思う。そして表情を引き締める。
「だが『今は』敵だ! ゾディアックの牡牛座、お前を倒す! この戦いは全力で掛かる! それがお前に対する、最大の敬意と信じるからな!」
「孫六兼元、輪廻の道と言う言葉の意味を、今であれば分かる。お前と友になれるかどうかは分からんが、お前の敬意は受け取った。私もお前に敬意を払おう。戦場にて相見える者同士、だから私も言葉ではなく剣で立ち向かおう」
「ダム、色々なことがあった。それは一言では言い表せないけど、君はボクの中で生き続けるよ」
ソーニャ(
gb5824)の言葉に、ダム・ダルは軽く笑った。
「ソーニャか、お前はしばしば私を驚かせたものだ。お前の言葉は人間であればきっと感情を揺さぶられるものであったのだろう」
「‥‥奏歌は師匠の戦いを見届けさせてもらいます‥‥ダム・ダル‥‥あなたには残念ですが‥‥論理的に考えてみれば‥‥これは予測されました‥‥いつか‥‥長い戦いにも終わる時は来るのですから‥‥」
奏歌 アルブレヒト(
gb9003)の言葉を聞いたダム・ダル。思案顔で言葉を返す。
「奏歌 アルブレヒト、もはや論理など‥‥この期に及んで論理など意味を為さない。ここに私がおり、お前たちは辿りついた。それだけのことだ。ここから先には論理では片付かん」
「‥‥そうでしょうか‥‥これまでの経験と推測から論理的に考えて‥‥あなたの死は近いように思えますが‥‥」
「私の死が近い? どうかな。私が何を考えているか、お前の経験と推測では思いもつかぬだろう」
「何ごちゃごちゃ言ってるんだダム・ダル。そろそろ決着付けないかい」
ブロンズ(
gb9972)が言うと、ダム・ダルは肩をすくめる。
「お前とも長い付き合いだったなブロンズ。決着は着く。見ての通りだ。北九州はお終いだ。お前たちは勝つだろう」
「ああ、お前を倒して、この戦い終わらせてやるさ。覚悟するんだな」
「ダム‥‥俺達が勝てば鹵獲機の在り処を話し返す約束をして頂きたい‥‥」
無月の言葉に、ダム・ダルは首を振った。
「そんなことは出来ん終夜・無月。捕獲機はすでにここにはない」
「全機警戒しろよ。ダムの奴来るぞ」
ユーリの言葉に、夢守の声が続いた。
「ダム、私に伝わったのは、命令されたから此処で戦う。逃げたくても逃げられない、そんな恨みの声だね」
「夢守ルキア、こんなことを言っても意味を為さないが、私に悔いは無いと言っておこう。ここで死ぬならそれが私の寿命であったと言うことだ」
そうして、ダム・ダルはティターンを加速させた。
「行くぞ傭兵たち――」
「ダム・ダル、あんたが相手なら出し惜しみはなしだ。ハナから全力で行くぜ!」
ダム・ダルは突進してくると、アクロバットな機動で傭兵たちの銃撃をかいくぐり、ワゴンホイールの内側から急旋回して襲い掛かって来る。
「さすがに‥‥速い――!」
カルマはシュテルンを旋回させつつ、リヴァルとともにダム・ダルを引き付ける。
「シュタット、行け」
「リヴァルさん、こっちだ!」
カルマとリヴァルは加速して、ダム・ダルの追撃をかわす。
プロトン砲が飛んでくると、数発が命中して二人のシュテルンが爆発する。
「カルマ氏! 持ち堪えろよ! ダム・ダル――!」
孫六は加速すると、目の前に現れたティターンをマシンガンで撃ちまくった。
直撃を受けるティターンはアクロバットな機動で回避を試みる。
「‥‥師匠‥‥そのまま‥‥こちらも行きます‥‥」
奏歌はGP−7ミサイルを放出した。ミサイル群がティターンを襲う。
ティターンはアクロバットに回避しつつ、直撃を受けつつ、態勢を崩しながらも逃げる。
傭兵たちはティターンを包囲しつつ、巧みに位置取りを変えて行く。
「今だ。全機ミサイル発射――」
ソードはコンソールを操作して行く。
「兵装1、3、4、5発射準備完了。PRM『アインス』Aモード起動。マルチロックオン開始、ブースト作動――ロックオン、全て完了!」
「合わせますソードさん」
カルマはK02ミサイルの放出準備を整えると、リヴァルも同じくK02を発射態勢に入る。
「さすがにフレイアは速い。けど‥‥エルシアンもMブースターの増速分でついていけるよ。だから、思いっきり行っていいよ」
ソーニャは言いつつ、ティターンをロックした。
「‥‥奏歌も準備完了です‥‥GP−7ミサイルをロック‥‥」
「ダム・ダル、長かったあんたとの因縁にもそろそろ決着を付けないとな。FRは破壊され高橋も落ちた、あんたもそろそろ潮時だ、せめて最後は俺の手で沈めてやるよ。それが今まで戦ってきた俺からのせめてもの情けだ、この役目だけは誰にもやらねえ!! 行くぜ!!」
ブロンズもレギオンバスターに合わせてK−02とドゥオーモを発射準備。
「レギオンバスター程じゃねえが、くらいな!」
そして――。
「『レギオンバスター』、――――発射ッ!!」
傭兵たちはありったけのミサイルを叩き込んだ。数千発の凄まじい数のミサイル群がダム・ダル一機を狙って包囲網の中心に向かって飛ぶ。
「ぬう――」
ダム・ダルはよけきれないと悟っていた。それでも、アクロバットな機動で僅かな隙間をこじ開けるようにティターンを操り、ミサイルをかわしていく。
そこへ数十発が被弾する。態勢を崩したティターンに次々とミサイルが命中して行く。
爆炎が炸裂して、空中に飛び散った。
「白魔、超伝導ブースト!」
ヒューイが加速する。今ここで、決着を付ける!
「川上優子、さやか、牙龍、‥‥ボクが見取った敵。洋子にはボクは負けっぱなしだったね。高橋とはあまり戦う機会はなかったけど、あの鮮やかな緋色は忘れない」
ソーニャも突進する。
「そしてダム、ボクに君を刻め、君にボクを刻む。君が何者だったのか、君が成したことのこれからをボクが見る。君だけじゃない。ボクと共に戦い逝った仲間、そして敵、みんなボクの中においで。ボクは死なない。君達がなにを成し、どんな未来につなげたのか、このボクが見届ける――行けーエルシアン!! フルブースト! ロール&テールスライド、スリップ、シュート!!」
G放電からAAEMからレーザからロール離脱。
孫六はダムの上へ回り込み死角に入る。真上より『隼鷹』を仕掛ける。
KV兵法・隼鷹――敵真上の死角より、OGRE/Bを発動しつつ急降下。降下の加速も上乗せして、刃翼で斬り裂く!
「ワシの刃は、明日を切り開く刃だっっ!!」
「‥‥あなたが死ぬのは‥‥論理的なことです‥‥ダム・ダル‥‥」
奏歌はAAEMを連射した。
ヒューイのウイングが切り裂き、孫六のブレードが直撃する。
「これではもたないか‥‥もはや‥‥」
ダム・ダルは言いつつ、ティターンの中で傭兵たちの攻撃を受け止めていた。
さらに、リヴァルとカルマが接近する。
「頼むぞシュタット――」
「勢い仕掛けましょうリヴァルさん」
PRM攻撃100、ブースト使用。ツングースカで弾幕、剣翼で突撃、そこからさらに接触時、リニア砲身を当ててリニア接射する。
「‥‥吶喊する。隙が出来た段階で俺ごとで構わない。仕掛けろ、シュタット」
――直撃!
「長い砲身にはこの様な使い方も‥‥ある!」
ティターンの一部が吹っ飛んだ。
カルマは残りのK−02を使用。PRMを攻撃に100使用。リヴァルの剣翼突撃のタイミングでアグニを準備。
「ありがとうリヴァルさん‥‥これで終わらせる!」
アグニを叩き込んだ! 弾丸が貫通して、ティターンの装甲に穴が開いた。
さらにヒューイと孫六、ソードの連続攻撃を受けて、ティターンは傾く。
「カルマ・シュタット、終わりだな。私はもはや、これ以上の交戦は不可能だろう」
「何? 何が言いたい」
「何も、私はありのままを言ったまでだ。結末とは呆気ないものだな。いとも容易く、最後はやってくる。お前との長い戦いが簡単ではなかった。それは一言では言い表せないが、それも終わりが近いと言うことか」
「降伏するのか。それならば、最後は派手に吹き飛ばしてやろう。俺たちの思いを込めて、みんなの分を、俺たちが代わってお前を討ち果たす」
「どうだソード、長い戦いだった。北九州はやがて落ち着くだろうが、戦いは続く。ともあれ、お前たちは勝利を手に入れる」
「あなたを倒して、ようやく俺たちの心も休まると言うものです。ここは小さな戦場でしたが、俺にとってもあなたとの関わりは記憶に残るものになるでしょう。あなたは憎むべき敵で、侮れない相手だった。あなたを倒すことが出来るのは、この上ない殊勲となりましょう」
ヒューイは言葉を掛けた。
「負けを認めるのかダム・ダル。どうするつもりだ。まだ戦うのか。お終いだぜお前さんも」
「その通りだなヒューイ・焔。どうやら、私の戦いにも、潮時が来たらしい。お前もまた最高のハヤブサ乗りだった。地上戦の記録には、確実に残されているだろう。気を付けることだなヒューイ・焔。最高のハヤブサ乗りには、敵も多いだろう」
リヴァルは、吐息して、炎上するティターンを見つめていた。
「牡牛座よ、最後は見届けてやる。この北九州で戦った多くの仲間たちに代わって、お前の最後を、見届けよう」
「リヴァル・クロウ。見届けるがいい。だが、まだ、続きがあるぞ」
「続きとは?」
「すぐに分かる。UPCは春日制圧に乗り出してくるはずだ。最後の幕切れには、相応しい舞台だな」
「何を仕掛けるつもりだ」
「すぐに分かる。私が証明する」
「ダムよ! いよいよ最後か! 何をするつもりだ! 最後にだんまりはなしだろう!」
「孫六、お前には敬意を払うと言った。その通りだよ。我々は剣でしか分かりあえない。最後もまた、私の剣は折れ砕けてはいない。私にはまだ、剣が残されている。だがそれを使うことになるとは、バグアにとって実に屈辱的なことであると知れ」
「何の話をしている。屈辱だと?」
「そうだ。人間よりもはるかに長く生きて来たバグア人にとって、この手段を使うことになるのは、普通ありえんのだ」
「それは‥‥」
孫六たちは薄々言葉の意味に気付き始めていたが、それを実際目にした時、それがどれほどのものか、想像は出来なかった。それに対する実例も数少ない。
「ダム。君は死のうとしてるの?」
「その問いには答えられないソーニャ。私の最後に出会えるかどうかは、分からない。その時が来れば、私はUPCに対して、最後の剣を振りかざすだろう」
「ボクはもう十分に君を見届けた。君はボクに君を刻んだ」
「それが答えと言うことなのだろう。続きはお前自身がこれから見届けろ」
「そうするつもりだよ」
「ダム・ダル‥‥あなたの戦い‥‥見届けさせてもらいました‥‥論理など不要と言いましたね‥‥これでもまだ‥‥論理は不要ですか‥‥」
「奏歌アルブレヒト、お前も少なからず北九州を見届けて来た。私の最後は論理にかなっていると言うことなのだろう」
「‥‥あなたが何をしようと‥‥それは論理的ではない‥‥あなたは多くの仲間を殺し多くの犠牲を出してきた本人です‥‥私たちがあなたを倒すこと‥‥それが唯一の答えなのですから‥‥」
「ではそうしろ。お前は自らが最善と思う答えを得る」
「実に、なるようになったなダム・ダル」
ブロンズは言った。
「収まるべきところへ収まった。お前さんは春日と命運を共にし、最後を迎えるのか」
「ブロンズよ、今更バグア人の論理を振りかざすつもりは無い。人間は確かに研究対象であったが、私にとっての人類は、もはや研究などと言える存在ではなくなった。現に私をここまで追い詰め、私を崩壊させようとしているお前たちを、何と呼んでいいか、私には言葉が無い。能力者は単に地球からバグアを後退させるだけでなく、バグアにとっては脅威になりつつあるのだからな」
「それで、何が起こる」
「ここから先はその目で確かめろ」
ダム・ダルはそう言うと、ぼろぼろのティターンで突進してくると、プロトン砲を連射して反撃してきた。
「全機集中攻撃――ティターンを撃て!」
傭兵たちは銃撃にレーザー、ミサイルをティターンに叩き込んだ。
そしてティターンは崩壊して行き、限界を迎えた。地上に墜落して行くと、木っ端みじんに爆発して吹き飛んだ――。
戦闘終結後――。
ソーニャはかつて占領されていた場所へ向かった。ダム・ダルを最後に見た山。この地であった事をかみしめるにはいい所だ。
「君達の輝き。ボクはもう2度と忘れない。そして一緒に飛ぼう、ねぇ――」
ソーニャは言うと、空を見上げた。