●リプレイ本文
早朝、カンパネラ学園の食堂に参加者の一部が集まってお弁当を作っていた。お弁当作りもイベントのうちなのであろう、集まった傭兵達は談笑しながら料理にいそしんでいた。
柚井ソラ(
ga0187)は梅干しやおかか、鮭を海苔や薄焼き卵で巻いておにぎりを作っている。
「ソラ君のおにぎりおいしそ〜ですね」
クラウディア・マリウス(
ga6559)の言葉に笑みを浮かべるソラ。クラウディアはと言うと、パニーノ(サンドイッチ)を作っている。実家のイタリア産のオリーブをふんだんに使い、ツナとオリーブ、生ハムとチーズとオリーブ、レタスとトマトとチーズなどをサンドする。
「ほら、海。たこさんウィンナーの切り込みはこうやってだな」
リュウセイ(
ga8181)は橘川海(
gb4179)に兄として? 甲斐甲斐しく器用な包丁捌きでたこさんウインナーを仕上げていく。
某所でフタマタとかいわれたので、海との関係についてちょっと考えてみる。
(妹? うーん、あっているようなそうでもないような)
リュウセイは海の笑顔に胸の内で自問自答するが答えが出るわけでもない。
海はリュウセイに兄の面影を見ている。兄のような人への仄かな想い、進みそうで進まない関係に海は――。
「誰にいわれても、悩む必要はありませんよ?」
え? とリュウセイは海の顔に視線を向ける。
「気にしているんでしょう? みんなから言われたこと。顔に出てます」
「気になんかしてねえよ」
リュウセイはそう言うと海の頭をくしゃくしゃと撫でた。照れているのか? よく分からないリアクションに海も困惑した。
「仲がいいですねお二人とも。羨ましい」
澄野・絣(
gb3855)はそう言ってにっこり笑う。
「ほら、澄野が誤解するだろ」
リュウセイは言って海を小突いたが――。
海は澄野の和風料理に目を落としてため息を漏らした。
「わ〜絣さん本格的ですね」
「味の保証はしませんけどね」
澄野はにっこり笑いながらおかずを盛り付けていく。
萩野樹(
gb4907)もみんなと一緒に弁当を作っていた。仲間達の手伝いをしながら、ウインナーで狼っぽいものを作ってみる。
「樹さん何ですかそれ」
「狼を作ってみました、似てませんかね」
「可愛いですね〜」
海は言いながらたこさんウインナーを作っていく。
ベジタリアンの雪待月(
gb5235)はお菓子作りに専念していた。桜餅、鶯餅、苺大福、三色団子、みたらしだんごなど‥‥。あくまでデザートで、と思いつつも甘い物が好きな参加者もいると聞いていたので、気持ち多めに作ってみる。
「おいしい〜月ちゃんのデザート。きっとみんな喜びますね」
クラウディアは雪待のお菓子を味見して微笑んだ。
‥‥その頃自宅でオードブルを作っていたのはソフィリア・エクセル(
gb4220)。
ローストビーフ、フィッシュオブチップス、フライドチキン、フライドポテト、ミートローフ、生ハムのマリネ、ボイルソーセージ、スモークチーズ、エビフライと、多彩な献立を用意した。
バスケットに黙々と料理を詰め込んでいく。人数分の取り皿とフォークも用意して。
「みんな喜んでくれるかしら‥‥」
東青龍牙(
gb5019)もみんなとは別にお弁当を作っていた。
おにぎりと唐揚げ、玉子焼きとゆでたまご、それにサンドイッチを用意する。
おにぎりの具材は鮭5つに梅5つ、塩5つ。サンドイッチはイチゴジャム、サラダ、ツナ、ピーナツを6個づつ。
何とか仕上がる頃には出発の時間が迫っていた。
用意を整えると、龍牙はリュウナ・セルフィン(
gb4746)を起こしに行く。
「リュウナ様、お時間ですよ。今日は花見の約束が‥‥」
リュウナのもとを訪れた龍牙だったが、リュウナはすでに準備万端であった。
「お目覚めでしたか」
「お花見♪ お花見♪ ランランル〜♪ ニャハハハハ♪」
二人の関係は一見主と侍従のように見えるが謎である。
「さあ出発〜♪」
陽が昇り、天気は快晴。UPCから届けられた桜は暖かな日差しを受けて揺れていた。
集まった傭兵たちは談笑しながら朝早くに作ってきたお弁当を広げている。
「あっ!?」
龍牙はお弁当箱を開けると、無くなっているおかずに上ずった声を出した。
「リュウナ様!」
「何〜?」
「あれほどつまみ食いはさせませんと言ったのに‥‥いつの間に?」
「あ、ばれた? ニャハハハハ! 食べちゃった‥‥」
「全くしようのないお方ですね」
龍牙に見つめられてリュウナは白い歯を見せた。愛想を振りまいているつもりか、龍牙は肩をすくめて西島百白(
ga2123)と天道桃華(
gb0097)にお弁当を勧める。
「桜‥‥か‥‥本とかでしか見たことないが‥‥」
西島はこれと言って感動した様子もなく桜を見上げる。UPCもご苦労なことだが‥‥西島の瞳には感情らしきものは見えないが。
「ッてあなた誰、とらちゃんはどこ!?」
桃華は生身の西島を見るのは初めてだという。西島は普段トラの着ぐるみ着用なのか‥‥?
「‥‥でかいな‥‥」
龍牙が差し出したサンドイッチを西島は頬張った。龍牙はほっとした様子で西島を見つめている。良かった、食べてくれた‥‥。
「にゃ〜にゃ〜、ねこねこ♪ ほら、餌あげるわよっ」
桃華は連れて来た猫に猫缶を取り出して餌をやっていた。リュウナと猫をモフモフしながらのんびり桜を見上げる桃華。
「綺麗だね〜、これで戦争中じゃなかったら言う事なかったわ。でもまぁ、そのおかげで色んな人達に会えてるからいいかっ。こういうのはポジティブに考えるのが大切だものね!」
言って巨大なサッカーボール大のおにぎりを取り出す。一応海苔を張ってサッカーボールに見立てているらしい。
「よく作りましたねこんな大きな‥‥」
「ちょっと‥‥おっきかったかな〜」
「ニャハハハハ♪ お花見♪ お花見♪ ニャハハハハ♪」
雪待はみんなに料理の取り皿や飲み物コップを配って回っていた。
「クラウさんの、とっても美味しいです。それに、雪待さんのデザートも美味しい」
普段の激務から解放されて、ソラの顔に十七歳の少年らしい笑顔が浮かぶ。本当なら学校に通って年相応の生活を送っているはずだ‥‥。今この一時、舞い散る桜を見上げるソラは戦いのことを忘れた。
「わっ!」
須佐武流(
ga1461)が突然ソラの背後に現れた。はげカツラに鼻眼鏡をしている。
「須佐さん、何ですかそれ?」
「少しは驚けよ、リアクションの薄い奴だ」
武流は照れくさそうにソラのもとを離れると、カツラをモヒカンやちょんまげに取り替えて他の仲間達のリアクションを確かめている。だが意外に受けているようだ。
普段の黒子姿からラフな服装で桜を眺めるアルヴァイム(
ga5051)。その傍らには恋人の百地・悠季(
ga8270)が。悠季は現在負傷中で、少し疲れ気味だった。アルヴァイムに寄りかかって、ぼうっと桜を眺めている。
「悠季、また怪我したのっ?! もう、無茶はだめだよっ?」
海の言葉に悠季は微笑するのみだった。
「悠季、大丈夫か」
「ええ‥‥」
アルヴァイムの言葉の端に恋人を思う気持ちが伝わってくる。悠季は嬉しかったが心配をかけていることが辛くもあった。
アルヴァイムは瞳を桜に戻すと、悠季の肩に手を回して、煙草を吹かしている。
「はわ、やっぱり綺麗です‥‥」
クラウディアは桜を見上げてほうっと吐息する。
「桜は、日本人の心、でしたっけ?」
と、友人達に尋ねる。
「よくわかんないけど、桜を見るとスタートラインに立つ気分になります」
ソラはそう言ってクラウディアに微笑みかける。出会いと別れの季節の象徴だから‥‥はらはたこぼれる桜はとても綺麗で‥‥。
クラウディアはお弁当に視線を戻すと、
「はいっ、ソラ君、どうぞっ」
とバスケットを持って勧める。海、絣、悠季ら友人たちがバスケットのサンドイッチに手を伸ばす。
「えへへ、どうです?」
「俺のおにぎりもどうぞ」
「ほわ、おいしいー、絣ちゃんも‥‥上手ですっ」
ソラが目をやると、リュウセイが腹芸を披露している。
器用なことをするものだと、若い傭兵達は可笑しそうにリュウセイを見つめている。後ほどリュウセイの呼びかけで王様ゲームが行われることになる。
‥‥思えば去年の今頃はエミタ移植直後で自棄になった状況が更に悪化してて、周りを省みる余裕も無く。それに比べれば今はある意味満ち足りていたりして‥‥。
かくり、と悠季の頭がアルヴァイムの膝に落ちた。
「このまま寝落ちて良い?」
「たまにはこういうのもいいだろう?」
「アル‥‥」
悠季はそのまま眠ってしまった。アルヴァイムは悠季の髪を撫でると、杯を上げた。
「一杯は名も無き兵士、もう一杯は救えなかった無辜の民に」
ピンク色の鳥の着ぐるみに身を包んでいるのは火絵楓(
gb0095)。会場のピンク色の飾りつけ、会場を取り巻く謎の恐い顔の警備員などは楓が手配したものである。
美環響(
gb2863)、美環玲(
gb5471)の二人は同姓だがどういう関係なのかは不明である。
「秘密です」
響は海から問われて、人差し指を唇に当ててウインクした。男装の麗人のような響、実際のところ響は男なのだが、中性的な容姿が女性にも見える。海はなぜか耳が熱くなった。
「A secret make a woman woman」
女性の玲は流し目を送って微笑している。
海や澄野らと談笑していた響はトランプを取り出すと、ちょっと運試しをして見ましょうと言ってカードを並べる。
「桜のカードが出たら、最高の運勢です」
「桜のカード?」
海や澄野、クラウディア、ソラは顔を見合わせる。
「一枚どうぞ」
響の言葉に従って海が一枚カードを引く。カードはハートの10であった。
「どうですか?」
海は肩をすくめてカードを見せる。
「ハートの10、なるほどいい数字です。‥‥では、海さん、カードを持っていて下さい」
「はい」
「では‥‥」
響はカードの上に手をかざすと、念じるように目をつむると、はいっ! とカードに手を置いた。響が手をどけると、何とハートのマークが桜のように真ん中に集まって花びらのように咲いている。これが桜のカードなのだろう。
「わ、すごーい」
響の奇術に驚く傭兵たち。
玲はと言うとタロットカードを取り出して恋占い。
滑らかな手つきでカードを操る玲。占いの結果に女性陣の黄色い声がはしゃいだ。
と――。
「リュウナ・セルフィン!『答えを求め』歌います♪」
武流が用意したマイクスタンドに立ったリュウナが突然歌い出したので、みんなが注目する。
「えー、あー、ごほごほ‥‥」
リュウナはマイクの調子を確かめると、歌い出した。
「争いの先に何が有るの? その答えはだれも解らない。
答えを求めて、人は、地を踏み進む。
例えどんな、壁が立ち塞がろうと、歩みを止めない。
そこで止まってしまったら、全てを失ってしまう気がする。
だから私は、歩き続ける答えを求める為だけに‥‥」
沈黙が訪れるが、やがてパチパチと拍手が起こる。リュウナはいきなり西島の膝に飛び乗った。
「疲れたんだにゃー!」
「‥‥‥‥」
西島は何も言わずにリュウナを乗せている。
一人、ジュースを飲みながら桜をスケッチしているのは萩野。と、前からフローラ・ワイズマン(gz0213)がやってきた。オペレータの制服ではなくラフな格好をしている。
「こんにちは、萩野さん」
「フローラさん、来ていたんですか、ただいまを言いたくて」
萩野は眠い目をこすりながら笑った。
「お疲れの方もおられるようですが(にこっ 皆さん楽しんでいるようで何よりです」
フローラはそう言うと萩野の横に腰掛けた。
しばらく談笑する萩野とフローラ。やがて、萩野は寝落ちてフローラの肩に寄りかかってしまった。激戦で疲れているのだろう‥‥フローラはそのまま萩野を寝かせてあげた。
ようやく自分もお弁当に手をつける雪待。お弁当を用意してくれた傭兵たちに礼を言いながら仲間達の空いている皿に料理を取ったり、忙しく動いていた。
龍牙は誰彼なく突っ込んでツッコミ役に徹していた。
「ツッコミ役がいないと、カオスになります!」
さて、午後になるとバーベキューが始まった。誰に言われるともなく、フローラは忙しく焼き網の上に食材を並べていた。
「フローラもお疲れだな」
相変わらずカツラを被っている武流は肉を頬張りながらギターをかき鳴らした。
「そんなに大した腕じゃないんだがね‥‥」
言って武流はギターを引き始める。傭兵達は武流のギターをBGMに料理に舌鼓を打った。
「‥‥どうした?」
バーベキュー用に用意していた魚を並べる西島は龍牙や桃華、リュウナの視線に気付いて首を傾ける。
「平和ですね〜」
「‥‥‥‥」
西島はまた網の方に向き直ると、黙々と魚を並べていく。
「はわわ、あつひ‥‥けど、美味しいー」
クラウディアは熱々の肉を頬張ってソラに笑顔を向ける。
「ほらほらみんな焼けたよ〜ジャンジャン食べてね〜♪」
楓は男性陣に興奮剤入りの特性ソースを渡す。
「ん〜何だこのソース、不思議な味がするぞ。何入れたんだ楓」
リュウセイは眉をひそめてソースの瓶を持ち上げる。
「気にしない気にしない♪ 楽しくなってくるから♪」
「怪しいな‥‥」
「燃えろ〜燃えろ〜」
と炭をガンガンくべているのは桃華。
「そんなに火を焚いたら焦げちゃいますよ」
フローラは火加減を調節しながら桃華を止める。
「だって早く食べたいんだもん〜」
焼けた肉の串を持ち上げると、桃華はあっという間に平らげてしまった。
それからこたつむりを着用する桃華。暖かい日差しを受けながらごろんと横になる。
「こたつむりですか(にこっ)
「い、いいじゃない、こたつ好きなんだも〜ん」
「懐かしいですね‥‥昔を思い出します。家族とよく花見に出かけたものです」
桜の真下で見上げる響と玲。
「故郷を思い出しますね。日本が懐かしい‥‥あ、響さん、バーベキューが出来上がってるみたいですよ! みんなのところへ行きましょう」
響は後ろ髪引かれる思いで桜を見上げ、仲間達のところへ戻った。
「このソースは絶品だな」
リュウセイはソフィリアが持ってきたバーベキューソースを手に持っていた。
「隠し味に霜切りのシャンピニオンを入れてみました」
「シャンピニオンねえ‥‥あのオードブルも美味かったぜ」
リュウセイはソフィリアの頭をぽんと撫でた。ソフィリアはにっこり微笑んだが笑顔は十秒と持たなかった。
「お肉食べるにゃー!」
リュウナは旺盛な食欲で肉を平らげていく。
「リュウナ様! お肉ばかりでは無く、野菜も食べないとダメですよ?」
龍牙は忠告するが、リュウナはお構い無しに肉を口に運んでいく。
「はいどうぞ」
雪待は仲間達に料理を取り分けてあげる。
「ありがとうございます」
目を覚ましてやってきた萩野はお辞儀してお皿を受け取る。
いつの間にかみんなのもとを離れた西島は仲間達の様子を眩しそうに見つめていた。
「‥‥ここに有る‥‥確かな‥‥『平和』‥‥か」
ジュースを口もとに運んで目を細める。
「‥‥面倒は‥‥嫌いなんだがな‥‥」
「西島さん!」
西島の方へ龍牙が歩いてやってくる。
「やっぱり逃げ出しましたね。アナタが良くても、私が心配なんです! さあ、戻りましょう」
「‥‥‥‥」
西島は表情を変えることなく立ち上がると、ぱらぱらと草を払った。
「さあ行きましょう」
龍牙に付き添われ、西島は仲間達のもとへ戻っていく。
バーベキューのあとは傭兵達はのんびりまったり時間を過ごした。そうこうする間に陽も落ちて、花見は夜桜見物へと入った。
楓は女の子達の体に無駄にボディタッチを繰り返している。
「う〜んツルツル〜ウフフ〜コッチはどうかな〜」
危険? いやいや単なる同性好きだと言うが、深く追求はしないでおこう。
「なんか、綺麗だけど、シンミリした感じですね。少し、怖いくらい‥‥」
クラウディアはライトアップされた夜桜を見つめる。
そういえば、大規模作戦中。生身で危険な所に向う友人達が心配。
ソラの袖をひっぱり、「気をつけてね」と。
「クラウさんこそ気を付けてくださいね」
裾を掴むクラウディアの手に自分の手を重ねて、安心させるようににこりと笑みを浮かべる。
「俺よりみんなの方が心配です。無茶する人多いから‥‥」
よく重体になる友の顔を思い浮かべ一瞬顔曇らせるソラだが、クラウディアに悟られる前にすぐ笑顔に戻っていた。
――と、夜の桜をバックに立ったのは澄野。横笛「千日紅」を持っている。
笛の音に乗せて歌うのはソフィリア。ソフィリアはマイクスタンドの前に立つと、集まった傭兵たちに呼びかけた。
楓のビラ配りが功を奏して、夜桜見物に他にも傭兵たちが集まっていた。
「これからも傭兵として、そしてIMPのアイドルとしても頑張りますので応援してくださいませ♪」
ソフィリアの声が響くと、楓は横断幕を張った。
『I・LOVE・ソフィリア』
『I・LOVE・絣』
と書かれている。
「ソフィリア〜!! かすり〜〜〜ん!! 愛してる〜〜〜〜!!」
「お〜、頑張れよ〜」
武流もソフィリアに声援を送った。
そして――澄野の横笛が夜空に響き渡ると、1‥‥2‥‥3‥‥4‥‥ソフィリアは美しい声で歌い始めた。
(作詞:SOFFY 作曲・アレンジ:澄野・絣)
咲かせてみましょ♪
桃色の精霊を♪
ゆらりゆらりと♪
夢うつつな時 刻みます♪
希望の花は満開に♪
愛と幸せも咲かせます♪
魅せてくれます 桜・色♪
散りゆきながら♪
舞ってる花びらを♪
ひらりひらりと♪
悠久の夢 届けます♪
優しい風で花吹雪♪
夢と希望も届けます♪
和みの吐息 桜・色♪
雪待は少しは慣れた場所から歌を鑑賞していた。萩野は仲間達に混じって、歌声に耳を澄ませた。
優しい笛の音色を聞きながら、海はうとうとしてリュウセイの肩に頭を乗せる。
リュウセイは苦笑する。今日は朝から頑張ったことだし、海も疲れているだろう‥‥。
桜が散るのを見ながら、死んでいった家族や仲間のことも思い出す。
「楽しいことが多くて忘れかけていたけど、俺には家族っていないんだよな‥‥薄情ものかもしれねーな」
ぐいっと酒を飲んで、肩を貸して眠る海にそんなこと思ってみるのだった。
「ありがとう」
歌い終わったソフィリアに喝采が送られる。澄野も微笑を浮かべてお辞儀する。
「これからもIMPを宜しくお願いします♪」
そこで海は目を覚ました。
「‥‥あ、寝てた、かな?」
一寸遅れてリュウセイにもたれかかっていることに気付く。
「わ、わわ! ご、ごめんなさいっ?!」
「はは〜ん? なになに? 二人はどう言う関係なのかおねえさんに教えてよ〜♪」
いつの間に現れたのか、楓が二人の間に割って入る。
「海は、妹みたいなもんだ。‥‥多分」
「リュウセイさんは、お兄さんみたいなものですから」
「ふ〜ん」
にやにやする楓は唐突に真顔になって、桜を見上げる。
「桜ってさあんなにキレイなのは‥‥イヤ‥‥言わない方がイイかな?」
不思議そうに楓を見つめる海とリュウセイ。
「何ちゃって!」
楓は海にべたっと抱きついた。
「やめんかこの抱きつき魔」
「そんな怒んないでよ〜」
楓はリュウセイの喝に怯んで退散した。
‥‥こうして花見の一日は終わったのである。
「さーて、終わった終わった、撤収撤収! 撤収は素早くな! ほらみんな、早く後片付けだ」
武流は手を叩いて仲間達を促す。
「さぁ、リュウナ様帰りましょうって‥‥寝てる? やれやれ」
龍牙は寝息を立てて熟睡しているリュウナに吐息した。
「今は‥‥寝かせておこう‥‥そこにある『確実な平和』を‥‥邪魔したくは‥‥無い‥‥からな‥‥」
西島はリュウナを抱き上げて隅っこに運ぶ。後で兵舎まで運んでやろうと。
アルヴァイムも悠季に一声かけて片付けに向かう。
「さあみなさん、公園はみんなの場所、綺麗にして帰りましょう」
ソフィリアも率先しててきぱきと片付けを行っていく。
「たまにはこういう日があってもいいでしょう‥‥」
龍牙は片付けながら、束の間の休息にほっと吐息するのだった。
そして――。
「片付け完了! みんなご苦労さん! んじゃ、撤収!」
武流の一声で、傭兵達は解散した。
あとには、美しい夜桜がたたずんで去り行く傭兵たちを見送っているのだった。