タイトル:狙われた半ズボンマスター:愉縁

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/06/14 18:52

●オープニング本文


 宇宙(そら)では大規模な戦いが始まり、見上げた空に、時折、光の弾が灯っては消えていく。人類もバグアも、多くの戦力が宇宙に投入されているようで、地上・グリーンランドへ移転したカンパネラ学園も、いつもより人の数が少ない。しかしそれでも、変わらず授業が行われていた。
 無論、戦争に勝つことは重要だ。だが、その先には、バグアに勝つことよりも難しい課題が山積している。食料プラントによって、生きる為の最低条件は満たしてはいるものの、長きに渡る戦争経済が、確実に人々の生活を蝕み、また、住む場所を失った人々は今なお、仮の住まいで、不安な日々を過ごしている。
 やがて、壊し倒す力よりも、作り育てる力が必要になる日がきっと来るだろう。宇宙へ飛び出していった要塞カンパネラを剣とするのならば、能力者の養成を主とする地上の学園は、盾となる場所なのである。

 鐘の音が午前の授業が終わりを告げ、静まり返っていたラウンジに、少しずつ人が集まってきた。そんな中に、金髪碧眼の美少年、オズワルド・ウェッバーの姿。今日は、いつものオペレーター服ではなく、カンパネラ学園の制服に身を包んでいる。指定の制服ではあるが、下はしっかりと半ズボン姿で、元気に除かせた生足が、過ぎ行く人の視線を集めた。

 眉目秀麗‥‥いや、どちらかといえば、容姿端麗なオズワルドは、生物学上は男ではあるが、その男離れした風貌故に度々男性として扱ってもらえず、同性の友達が少ないのが悩みの種だった。‥‥かといって、男であることを大事にする彼は、女性のグループに混ざることに抵抗があり、大体いつも一人で食事をしている事が多い。しかし今日は、その隣に緩やかにウェーブのかかった金髪の美女が座り、仲睦まじそうに談笑をしている。

 これは珍しい事もあるものだと、彼を知る能力者が話し掛けた。オズワルドに、その人がステディな関係の人かを訊ねると、彼は一瞬キョトンとして、それで一度、女性の顔を見た後、此方を向いて、軽く首を左右に振った。

「ああこの人は、僕のか――」
「カーラです。カーラ・ビアズリー。よしなに」
 オズワルドが言い終わるより早く、カーラと名乗った女性が、柔らかい物腰で答えた。見た目17、8歳くらいのその女性は、若干、スカートや袖にフリルをあしらってはいるが、カンパネラ学園の制服に身を包んでおり、どこか上品で、落ち着いた物腰をしている。

「えっ」
 何言ってるの? という表情で、女性へ向いたオズワルドの左右の頬を、カーラは片手でがっしり掴み、もう片方の手で、無理やりペットボトルに入った得体の知れない液体を、彼の口へ、グイグイと流し込んだ。
「はい? そう、喉が渇いたのですね。はい、貴方の好きなドクダミ茶。ホラお飲みなさい」
「うぶぇっ!? 苦ッ、クサッ!?」
 独特の風味が周囲に広がる。もがき苦しむオズワルドと、顔を顰める周囲の人達。その光景を見守っていた能力者は、思わず苦笑した。

「それはそうと、あっちのテーブルが騒がしいですね」
 カーラが視線を向けた向こうに、女子が密集しているテーブルがあり、テーブルの上のものを囲み、身を乗り出すようにして、キャーキャー騒いでいる。
 カーラは気になったのか、こっそりと後ろの方から覗き込み、そしてその正体を知って、直ぐに目を丸くした。その様子を見て、オズワルドも続いて、カーラの肩越しにテーブルを覗く。

「――な、な、な、なんですか、コレェ!!??」
 人を掻き分け、テーブルの上に広げられていた写真の束から見慣れた人物が写る一枚を拾い、まじまじと見詰める。‥‥そこに写っていたのは、紛れも無く、オズワルド本人の写真であった。
 隠し撮り、であろうか。見れば、オズワルドだけではない。美少年、美男子の生写真がテーブルいっぱいに並び、中には殆ど裸の写真もある。いつも温厚なオズワルドも、流石にこれには表情を曇らせ、サッと騒いでいた女子達へと視線を向けたが、女子達は一斉に明後日へと視線を泳がせた。その隣で、深く溜息をつく、カーラ。
「まさか、こんな畜生にも劣る下賎の輩がいるなんて‥‥、ああ怖い! やはり、貴方のカンパネラ入学は間違いだったようですね! ――さぁ、今すぐ身支度を。私と一緒にイギリスに戻りましょう」
 ギンッとした眼差しを向け、肩をガッツリ掴んだカーラの手を、オズワルドは振り解いた。
「ちょっ、かぁs――」
「あっ! オズくんたらもう、ほっぺたに米粒が!!」

 ぎゅむぅ。

「いったぁぁッ!? ていうか僕、スパゲッティしか食べてないよ!?」
「あ。今度は、オズくんの股間にカレーの染みが‥‥」
「ゴメンナサイ、口答えは今後一切いたしません」

 平伏するオズワルドを一瞥して、カーラは宙を眺め、小さく息を吐いた。
「そうですね。では、一週間の猶予を与えましょう。それまでに、盗撮犯を捕まえてごらんなさい。見事犯人を見つけ出し、逮捕できたら、学園に留まる事を認めます」

 未だにこの二人が、どういう間柄なのか分かりかねるが、力関係は、カーラの方が強いようだ。反論は無意味だと悟り、諦め半分にぐすんと涙目を浮かべ、そして助けを求めるように、オズワルドは能力者へ、雨の中に捨てられた子犬のような眼差しを向けた。

●参加者一覧

神崎・子虎(ga0513
15歳・♂・DF
弓亜・優乃(ga0708
18歳・♀・FT
宵藍(gb4961
16歳・♂・AA
祈宮 沙紅良(gc6714
18歳・♀・HA
リコリス・ベイヤール(gc7049
13歳・♀・GP
アリーチェ・ガスコ(gc7453
17歳・♀・DG

●リプレイ本文



●交渉材料

「ベニッッシモッ!(非常に良しッ!)」
 興奮気味にやや上ずったアリーチェ・ガスコ(gc7453)の声が、『使用中』との札が掛けられた多目的室から響き渡る。まずは交渉材料として、神崎・子虎(ga0513)や宵藍(gb4961)の生写真が、アリーチェと祈宮 沙紅良(gc6714)の手によって撮られていた。

「アリーチェさん、こんな感じでいいのかな? 半ズボンなんて久しぶりなのだ♪」
 潜入用に借用した学園制服の裾を掴みながら、子虎はクルッと軽やかにステップを踏み、洗礼されたカメラ目線でピシィーっと、ポーズを決めた。上は普通の学園制服ながら、下はきゅるんと半ズボン。そこからすらりと伸びる生足が、とても艶かしい。
「いえ、もっと普通の感じでお願いします。腐女子の幻想とは、何気ない場所からこそ生まれるものです。大体、最初からエロイものをエロく妄想して、何が面白いんですか」
 手の平を突き出して、アリーチェは急に真顔になって言った。カメラを意識しない等身大(ありのまま)の中からこそ、素晴らしく腐ったものが生まれるのだと、彼女は後に述懐している。

 ノリノリで、まるでアイドルの撮影会かのように写真に納まる子虎とは打って変わり、宵藍は焦点の合わない瞳で、沙紅良の突き出した衣装を、呆然と眺めていた。
「さあ、宵藍さんこれを。さあさあ」
 柔らかく微笑みながら、ぐいぐいと胸に押し当ててくる半ズボンに、実年齢が27歳の宵藍は苦笑いを通り越して、意識が軽く飛んでいた。
「‥‥どうして俺まで制服が半ズボンなんだ」
 セピア色の眼差しを、沙紅良へ送る宵藍。抵抗するというより、懇願するような眼差しだった。
「まだ、半ズボンでも、いけると思いますの」
 沙紅良の表情は変わらず、春の日差しのように柔らかかったが、内側から鬼気迫るものがチラチラと見え隠れしている。今の彼女ならばきっと、目的の為ならば手段を選ばない。宵藍は観念して、半ズボンを受け取った。こうなった彼女はもう、梃子でも動かないのだ。
 まぁ、オズワルドの写真をピンポイントでトレードするのならば、同カテゴリーのほうが好ましいし、既にターゲットにされているその趣向を真似ることで、自らもターゲットになり易いかもしれない。――と、もう家庭をもっていてもおかしくない歳で、半ズボンを穿かされる自分に、言い聞かせた。
「まぁ、犯人にどんな利益があるのかわからないけど、オズの強制帰国だけは、絶対に阻止しないとな」
 意気込む宵藍に、沙紅良が深く頷く。
「ええ。盗撮犯、必ず捕まえますわ。捕まえて、その後は‥‥」

 ‥‥にこーり。

 微笑むいつもの沙紅良の表情が、いつも以上に怖い。宵藍はちょっと涙目になった。

「オズくんだったかしら? 何だか可哀想だし、此処は真面目に調査と行きましょう」
 壁に背を持たれて静かに撮影を眺めていた、学園制服に身を包んだ弓亜・優乃(ga0708)が、ゆっくりと身を起こした。不意に子虎と視線が交わり、慌てて視線を反らす。そんな様子に子虎は首を傾げたが、仔猫のようになつっこく優乃に近付いて、
「しっかり囮するから、優乃さんは犯人探しよろしくなのだ☆」
 と、元気一杯に笑顔を浮かべた。その屈託の無い笑顔に、優乃は頬が緩みそうになり、それで、それを抑えようと堪えて、ちょっと変な顔に歪む。
 一部始終を見ていたアリーチェの持つ乙女の嗅覚が働き、スススーっと、こっそりと優乃の隣に近付いてきた。
「弓亜さん。神崎さんの写真、あとで焼き増しますね」
 アリーチェが、涼しい顔でこっそりと耳打ちしたが、優乃は顔を赤くして、慌てて首を振った。
「しゃ、写真?! うん、私は後で落着いた時に貰えれば‥‥い、いや、そのあの‥‥」
「優乃さん、僕の写真が欲しいのかな?」
「えっ、えっ!?」
 アリーチェと両脇を挟み込むように顔を出した子虎。顔から煙の立つ優乃が、目をぐるぐるに回しながら慌てふためく彼女の姿からは、もうすっかり普段の冷静な雰囲気は失われている。

(そ、そりゃぁ、子虎くんのが欲しいけど、直接言えるわけないじゃないっ!?)

「う‥‥えっ、と‥‥。さ、‥‥さぁ、写真が撮れたなら、早速仕事にかかろう!」
 油の切れたブリキ人形のようにぎこちなく一歩、また一歩と踏み出し、教室の外へ向かう優乃。突き出される手と足が同じ辺り、動揺の大きさを物語っている。
「弓亜さん、歩き方が変ですよ」
「優乃さん、歩き方が変なのだ」


●迷子と囮

 能力者のための学び舎、カンパネラ学園。カンパネラ学園島が宇宙要塞として浮上した後、その機能はグリーンランドに移転されたが、構造は以前のものと同等、マンモス校と呼ばれるに相応しい規模を誇っている。
 そんな巨大な校舎の中を行くリコリス・ベイヤール(gc7049)は、もうすっかりオズワルドの生写真という単語を聞いただけで、舞い上がっていた。

(オズにゃんの生写真‥‥だとっ!? なにそれ欲しいっ!!)
 と、本心では思ってみるものの、口には出さない。リコリスもまた、沙紅良の笑顔の奥に偲ばされた激情を知る者。触らぬ神に祟りなし。それに触れて、命を危険にさらしたくは無い。
 一先ずは写真の件は置いておいて、まずは盗撮被害にあった、カッコイイor可愛い男の子達から情報収集を行う事にする。広大な学園でうっかり迷子になって困っている可愛い子を装い、声を掛けてきたイケメン達から情報を引き出す‥‥迷子の美少女大作戦だ。
(っていうか私、たぶんきっとめいびー方向音痴だし仕方ないね、どじっ娘な私可愛い)
 むふふと頬を緩ませるリコリス。コソコソするより、逆に堂々とした方が怪しまれないだろうし、男なら迷子の美少女が困っていたら、十中八九‥‥いいや、百発百中、話し掛けてくるだろう。間違いない。それできっと、廊下ですれ違った男の子に「あれ、今の子可愛くない?」とか言われちゃうんだよ〜♪ 私ってば、マジ天使だしねっ☆

「あれ、今の子――」

(‥‥ほらきた!)
 ワザと気付かないフリして、駆けていくリコリス。だが、耳は指向性マイクのように研ぎ澄まし――

「――面白い寝癖立ってるぜ」

 ずべしゃぁと、何も無いところで躓き、盛大に廊下を滑り転ぶリコリス。転んだ先に、きゅるんとした生足。見上げると、眼鏡を掛け、少し長めの後ろ髪を束ねた、いつもとは違う、学園仕様のオズワルドが、心配そうに見下ろしていた。

「何しているの? リコ‥‥」
 半分くらい、同情の眼差し。リコリスは無言でムクリと起き上がり、ふいっと、明後日を見上げた。本人を前に、調査ついでに彼の弱味を握るつもりだったとは、言えない。

「どうしたんだ、オズ」
 声がして振り向くと、半ズボン姿の宵藍。特に違和感無く着こなしているように見える。が、その隣に更に半ズボン姿の子虎が居て、半ズボントリオが結成されていた。突き刺さるような視線が痛い。
「もしかしなくても、全員で半ズボンを穿いたのは失敗だったのだ?」
 依頼を受けた傭兵とバレないように、学園制服に着替えたのは良かったが、犯人の趣向を重視して、半ズボンで3カードを作ってしまった為、かなり目立つ有様。オマケに全員童顔な上、女装すれば性別なんていくらでも誤魔化せる容姿。これで、目立たないわけがない。リコリスはガックリと項垂れた。

『もう、お前達の勝ちでいいよ』‥‥リコリスからは、そんな空気が滲み出ている。

「こういう学園生活も久しぶりだねー。たまには面白いけど」
 子虎の言葉に、宵藍が頷いた。普通に授業を受けながら、さり気無く肌蹴てみたり、無駄にじゃれ合ってみて、ボーイズなラブ空間を演出してみたりと、少々過剰な演出ではあったが、そのかいあって、腐った視線を十二分に集めていた。勿論、この間にも隠しカメラはないか、不審人物はいないかのチェックも欠かさない。
「まさか、BL舞台の経験が役に立つ日がくるとは‥‥」
 セピア色の遠い目をした宵藍の手を、オズワルドが引いた。
「次、LL教室だって。子虎さんも、はやくいこっ」
 友達の少ないオズワルドはもう、盗撮犯のことなんて頭の隅にしかなくて、同性の友人と並んで廊下を歩くだけで、心が躍っていたが、不意に鳴り出した携帯に宵藍が出れば、沙紅良が低くゆっくりとした口調で、『宵藍さん? くっつき、 過 ぎ ですわ‥‥』と返ってきたりしてもうなんというか、盗撮犯の視線よりも、沙紅良の監視の方が怖かった。何処から見ているのか分からないのが、更に恐怖を煽る。

 動物的本能が察したのか、リコリスはちゃっかりと姿を消していた。



●真実への追求

 写真トレードの場に遭遇する事自体は難しくなかった。流石に男子がその輪の中に飛び込むには、相当の勇気が必要になるが、アイドルの話をするように、話題と写真の一つや二つを携えて話し掛ければ、嫌な顔をする女子はいない。むしろ、トレードの写真を持って現れたことで、罪の意識を共有する仲間だと思われたのか、快く迎えられた。
 沙紅良とアリーチェは涼しい顔で言葉を交わし、優乃は少し、難しそうな顔をした。

「弓亜さん、怪しまれますよ。もっと興味のあるように‥‥」
 こそっと耳打ちをするアリーチェに、優乃は小さく頷く。見ればもう、沙紅良などは、バーゲンセール品を買い漁る主婦が如く輪の中を突き進み、オズワルドの映った写真を片っ端から漁っていた。
「そ、そうね。うん、あ、あくまで調査が目的だし、じっくりと眺めるのは別に、変なことじゃないよね」
 言い聞かせながら、もじもじ恥ずかしがりながら、しかし実のところ嫌いでもないので、見るところはしっかり見てしまう優乃。
(別に今後のためにとか、別世界をちょっと覗いてみたいとか、そういう心は決して‥‥)

 背景には特に怪しい部分は無さそうに見える。アングルは様々で、撮影の技術もバラバラ。1人で全部撮っているとは考え難かった。

「‥‥これは、もしかすると」
 アリーチェが、撮影の技術、同様の手口で撮られたと思しきものを分けていく。すると、特徴的な手法で撮影されている写真が何枚か出てきた。その全てがドラグーンで、必ず1人で映る綺麗な生足をした、似た体格の少年ばかり。少し猟奇的なものを感じ、流石のアリーチェも眉を顰めた。

「このお写真は‥‥?」
 その足が、オズワルドのものだといち早く見破った沙紅良が、近くの女生徒にキッと、写真を突きつける。
「――その写真は、一番最初に出回った写真だよ。数も多い」
 戸惑い言葉に詰まった女生徒に代わり、気の強そうな女の子が答えた。アリーチェが、考えるように顎に手を置く。
「成る程。このやり方なら、数枚写真を撮って、それをばら撒き交換していけば、多くの盗撮写真を集められます。現に私達は、新しい写真を交換条件に用意しているわけですし‥‥」
「‥‥トレード方式にしたのは、より多くの写真を収集する為?」
 優乃の言葉に、アリーチェは頷く。
「また、犯人も特定し難い。盗撮する回数が少なければ、それだけリスクも少ないわけですから。‥‥もしかすると、中には、祈宮さんのように、写真の回収が目的で、別の写真を持ってくる人もいたのでは?」
 視線を沙紅良へと向けると、桜色の少女は気まずそうな表情を浮かべ、それでようやく目が覚めたように、今度は静かに、いつもの落ち着いた口調で、女生徒達に問いかけた。
「この写真、どなたがお持ちになったものか、ご存知の方は?」

 口を開いたのは、先程の気の強そうな女生徒。
「多分聴講生だと思う。聴講生自体は珍しいことじゃないし、顔や名前を覚えている人は、あまりいなんじゃないかな。ただ、うん、そうだね‥‥。黒髪のツインテールが特徴的な、女の子だった」
「黒い、ツインテール‥‥」
 沙紅良は何か思い当たったように、小さく復唱する。

 刹那の沈黙の後、静まり返った空気を裂いて、携帯電話が鳴り響いた。


●事件解決?

「はい、僕の写真上げるのだ♪」
 不意に優乃へ、子虎から写真が手渡された。互い気になる仲の二人。優乃もまた、彼の写真を欲しいと思ってはいたが‥‥。
「でも‥‥優乃さんになら、生で全て見せてあげてもいいよ☆」
 とか、両手で写真の縁を掴んで写真を見詰める優乃に、子虎が囁いたものだから、優乃はもう、どうしていいのかわからず、耳まで赤く染まって、顔からボッシュウと勢いよく蒸気を吐き出した。


「熱を上げるのはわかるけど、傍から見れば迷惑な代物なんだからさ」
 宵藍に諭され、少女達は反省の色を浮かべ、俯く。
 暫く囮捜査を行ってみた結果、出るわ出るわ盗撮犯のバーゲンセールかという程に出てくる犯人達。中には恋人を利用して撮影させていた女子もいた。
 集団心理というよりは集団催眠の類か、ほんの小さな好奇心から始まり、同じ罪を犯すものが増えるに従って、罪の意識も少しずつ消えていく。‥‥このまま放置していたら、洒落にならない事態を引き起こしていた可能性も高い。
 結局、首謀者は特定できなかったが、恐らくはバグアが一枚噛んでいると思われ、今回の一件は学園へと一旦預けられる事になった。同時に、オズワルドの強制帰国の件も無くなり、一先ずは一件落着となる。

「あの‥‥これを」
 沙紅良が、カーラへ集めた写真を差し出した。隠し撮りではあるが、カメラを意識しない、自然体のオズワルドがそこには居る。沙紅良と視線を交わすカーラ。
「何故?」
「その、少しでも‥‥慰めになれば、と」
 沙紅良は、彼女がオズワルドの母親であると気付いていた。小学生にしか見えない17歳の童顔オズワルドの母親。それに、27歳なのに、ローティーンな外見を持つ友人もいる。感覚が麻痺しているのは明らかだったが、可能性は十分にあることだった。
「‥‥お話はオズさんから伺っております故、お寂しいとは思いますの。それでもオズさんと共にありたく‥‥。申し訳御座いません」
 丁寧に頭を下げる沙紅良に、カーラは手を横に軽く振った。
「久々に学生気分も味わえましたし。オズ君の様子も分かりましたし、収穫でしたわ」
「‥‥学生気分って」
 それで名前を偽っていたのか‥‥と、オズワルドは遠い目をした。
「悪い虫がついていたら、問答無用で連れ帰るところでしたが、その心配も無さそうですしね?」
 にこっと爽やかな笑みを浮かべ、オズワルドをぐいーっと引き寄せるカーラ。何かに気付いての挑発行為。沙紅良の頬の端が、僅かにピクリと跳ねた。


「わー。オズにゃん、大変だね♪」
「人の不幸を‥‥って、リコ、今まで何処にいたのさ」
「うん、いや、ちゃんと捜査したんだよ? でも途中で、誰が被害者かってのを知らないことに気付いてね〜♪ でもほら、折角だし、その辺で話しかけた学園生と、好きな食べ物とか近況とか、嫌いな教師とか、まぁ大体、そんな話を」

「リコ」
「うん?」
「ごめん、掛ける言葉が見つからない‥‥」