タイトル:【AC】熱砂に往く背徳者マスター:ユキ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/07 16:13

●オープニング本文


 アフリカ大陸北部。アルジェリアとチュニジアを結ぶべく、人類によって奪還された街――テベサ。

 戦火に見舞われた街に今、再び砲火が迫っていた‥‥




 けたたましく鳴り響くサイレンが、急な出撃要請を知らせる。

「まだ整備はおわらねぇのかよ!」

「じゃかぁしい! 元はといえばおまえらが大事に扱わんからだろ! おい、8番にありったけの弾薬もってこい!!」

 アフリカ北部。
 前線から離れた後方に位置するとある拠点、そこに設けられたドッグは緊迫していた。
 北東に位置する都市、テベサへの敵襲来。
 その最初の知らせを受けたのは、1週間前のこと。
 
【Operation of Africa Conquest】
 アフリカを賭けた抗戦の中、こちらも、あちらも、大規模な勢力を前線以外に動かすことは難しい戦況。
 それでも、各地に点在するバグア軍。要所をなんとか抑える人類軍。
 勢力図を守ろうと、あるいは塗り替えようと、大規模作戦の影で、各地での小競り合いは日々続いていた。

 ピエトロ・バリウス要塞にも近いテベサは、人類にとっても重要な要所。
 1週間前、その要所が敵の襲撃を受けた。

 だが、それはもちろん予見できたこと。
 もちろん、軍も無策ではない。敵襲を予見していた軍はテベサに、”ある”大火力兵器を設置していた。
 それだけではない。軍による空港の防備に加え、傭兵とともに住民を巻き込み、街の防衛体制も整えていた。

 迎撃体制を整えたテベサ。傭兵たちが「ゴリッパ・サマー」と呼んだ大火力兵器も用い、敵に大きな打撃を与え、一応の迎撃に成功した。
 しかし、敵の物量に軍の被害も少なくはなく、両者痛みわけのまま、睨み合いの膠着状態となっていた。

 それから一週間。アフリカ情勢に変化が生じた。バグアエジプト軍とアフリカ軍を分断するかのように、人類軍がチャド湖を落としたのだ。
 変化は、行動を起こすきっかけとなりうる。敵が動くか、こちらが動くか。
 どちらにせよ、備えが必要だ。

 有事に備え、後方拠点での周辺警戒の任にあたっていた傭兵たち。
 そこに、不測の知らせが届いたのはほんの数刻前。


『我が名はブライトン。我はユダ。汝らに審判と正しき道を示す者である』


 すでに数度、人類の前に姿を見せたユダ。けれどかのユダは、そのいずれもが見せたことのない恐ろしい様を人類に見せ付けた。

 ――分裂。

 ブライトンのユダより分かれたその影からは、明らかな意思は感じられず、その場に留まるもの、四方へと飛び去るもの、様々だった。
 だが、そのうちの一群がある方角へと飛び去るのを、先行偵察を行った部隊が確認した。それは北東。

 ‥‥そう、テベサが。ピエトロバリウス要塞がある方角。
 現在、北側に陣取ったバグアの敵戦力とにらみ合いを続けるテベサの街。
 その背後に、アフリカ大陸を縦断するユダが、静かに、確実に迫る。


 整備を終えた傭兵たちは、再び空へと飛び立つ。
 急がねばならない。
 アフリカの友の背を守るためにも。

●参加者一覧

智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
神撫(gb0167
27歳・♂・AA
番場論子(gb4628
28歳・♀・HD
孫六 兼元(gb5331
38歳・♂・AA
セツナ・オオトリ(gb9539
10歳・♂・SF
殺(gc0726
26歳・♂・FC
ハンフリー(gc3092
23歳・♂・ER
カグヤ(gc4333
10歳・♀・ER

●リプレイ本文

「この不意の状況下は敵味方どちらも振り回されてますね」
 突然現れたユダ。そしてその増殖体。番場論子(gb4628)の言うとおり、新たな存在の介入によって、アフリカの情勢はめまぐるしく動いていた。
(気にし過ぎだとは、思うけど)
 スカイセイバーに乗る殺(gc0726)は、この中で唯一ユダの増殖体との戦闘を経験している。だからこそ、その危険性を知り、軍に戦闘域周囲の警戒を打診していた。しかし、それは叶わなかった。理由は単純。戦力が足りない。それだけだ。
「あの、ボクみたいな子供だと不安になるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう」
 通信の声にも、どこか幼さの残る。セツナ・オオトリ(gb9539)は、ユダの増殖体の進行方向にある都市、テベサにいるはずの兄のためと、操縦桿を握る手に力を込める。
「クロウ1、了解した。こちらこそよろしく頼むよ」
 同行する軍人たちのリーダーだろう青年は、セツナに好意的に応える。
「ほう、烏か! ワシの国では烏は神の遣いなんていわれているぞ。これは頼りになるな! ガッハッハ!」
 通信越しでも五月蝿いほどに豪快な笑いの孫六 兼元(gb5331)の言葉に、皆の緊張が少し和らぐ。
「烏合の衆、なんていわれないようにしないとな」
 彼と同郷と思われる軍人の一人が、冗談まじりに応える。
 傭兵と軍人。立場を違う両者だが、戦いを前にした雰囲気は、悪いものではない。

 と、通信越しに何かを知らせるアラートが、全てのコックピットに響く。
 ついで、周辺を警戒していたカグヤ(gc4333)の声が告げる。
「ユダ、発見したの」
 遠く地平線を望めば、いくつかの点。
 その大小まではわからないが、報告どおり10の影が、おそらくこちらにも気づいたのだろう。仄かに赤い輝きを増し、まっすぐにこちらへと向かってくる。
「あれが分裂体とやらか。興味を惹かれぬこともないが、ここで速やかに退場してもらおうか」
 未知への好奇心を行動源とするハンフリー(gc3092)にとっても、コレは自身の求めるモノとは違う。
 面白くもないモノには早々に消えてもらおうと、敵を見定める。 
「空戦はあまり得意ではないのだけれど、そうも言ってられないわね」
 テベサ。軍と共に、市民も戦っている街。背にする彼らがつかみ始めた希望を失わせないため。
 智久 百合歌(ga4980)もまた、モニター越しに映る遠くの影を見据える。
「空戦で組むのは初めてですね。まぁいつもどおりの感じで行きましょう。‥‥さて、ユダの分身とはどんなもんかな?」
 そんな智久に声をかけるのは、かつて彼女と小隊を共にしたこともある神撫(gb0167)。
 その発言にはどこか余裕も感じられる。けれど、頭の中ではすでにユダの分析を開始している。
「無理に落としにかかることはない。抜かせなければ俺達の勝ちだ」

 徐々に大きさを増し、その形を露にする影。
 接敵まで、もう間もなく。





 開戦の口火を切ったのは、敵のプロトン砲だった。
 だが、いかに射程と威力を有する脅威であったとしても、既知の兵器であれば、対策も立てられるもの。
 砲撃に備え散開していたKVたちは初撃をかわすと、それぞれが発射のスイッチに手をかける。

「さあコンサートの開演よ。前奏からアパッシオナートで」
「3機‥‥7機‥‥10機ロック、Fire!」
 それは、盛大を通り越して、もはや周辺から音が消えるほどの爆発だった。
 増殖体をレーダーに捉えた傭兵たち。6人が放つ実体弾と放電ミサイルが入り乱れ、嵐の如く同時に10体の増殖体を包み込む。
 凄まじい閃光。たちどころに広がる爆煙。爆発の振動が空気を揺らし、計器を乱す。

 しばしの沈黙。
 それにいち早く気づいたのは、やはりカグヤだった。
 大量の爆発に備え事前に切り替えていたレーダーが、それを知らせる。
「‥‥熱源反応! プロトン砲がくるの!!」
 カグヤが皆に知らせるのと、どちらが早かったか。
 煙の中で一瞬、赤い輝きが収束したかと思うと、光は煙を裂き、四方へと走った。
 攻撃のため距離を近づけていた傭兵たちへと襲い掛かる砲火。
 咄嗟、回避行動をとる。初撃で落とせないことも、予想の範疇。
 傭兵たちの反応は消して悪くない。
 後方に待機していた軍人たちもまた、距離をおき回避に備えていたため、その多くは砲火を逃れることに成功する。
 しかし、不運にも何機かは重なった斜線に逃れるすべなく、被弾してしまった。
「クロウ3! クロウ4! 無事か!?」
 隊長機からの言葉に、S−01COPとR−01COPのパイロットは、応と答える。
 一撃はもらったが、まだやれる。

「回避もせず、強引に‥‥突破優先のAIだな」
 神撫の見立てどおり、うっすらと晴れ行く煙の中から、先ほどまでと変わらぬ姿のまま、進路も、速度も変えることなく、増殖体はこちらへとまっすぐに向かってくる。
 砲火のタイミングを合わせたことで、回避を許さなかった。
 損傷は確かに与えた。
 だが、多すぎる弾幕は互いに相殺し合う。
 増殖体はいまだその勢いを失ってはいない。
「仲間を危険に晒す訳にはイカン! 此処で全て、食い止める!!
 孫六の号令と共に、各自散開するKVたち。

 止めるか、抜かれるか。街を守るための死闘。その第2ラウンドの幕開けだ。





 爆煙を抜け進行する増殖体。その前に立ちふさがり、突破を阻止せんとするKVたち。
 中型の2体を神撫と智久、孫六と殺が連携を組み食い止める間、残りの4名とクロウ小隊6名、計10機で小型を処理する作戦をとった傭兵たち。
 カグヤがクロウ6ウーフーとリンク、敵機をナンバリングし、抜けのないよう連絡をとる。
 初動は成功。大きな問題もなくオウル小隊は各自1対1で小型の増殖体へと対峙し、牽制を試みる。
 残るは2体。4人の傭兵は手近な僚機とペアを組み撃破へと向かう。
 
 ハンフリーと共に1体の増殖体へと向かうセツナ。
「がんばれよ。落ちないことを最優先な?」
 無線越しに、兄の友人の神撫がセツナへ声をかける。
 セツナはそれに丁寧に礼を返すと、目の前の増殖体を睨み付ける。
「ボクにだってこれぐらい!」
 自身を鼓舞するようなその言葉。だが、操縦桿を握るその手に震えや迷いはない。
 進路を変えることなく直進する増殖体。
 ハンフリーのクノスペが突破を阻止すべく、PCB−01で牽制をしかける。
 それにタイミングを合わせるように、セツナのグロームのミサイルポッドから小型のミサイルが群れを成し、増殖体へと降り注ぐ。
 増殖体は最低限の回避行動をとるのみで、進路を大きく変えようとはせず、周囲を飛び交う邪魔なKVへと紫色の光を乱射する。
 距離をとるハンフリー機。反対に、バレルロールで光の軌跡をかわしながら接近、すり抜け際にバルカンを放つセツナ機。
 小型の増殖体に対し、二人は終始優位な展開を続けた。

 番場とカグヤの2人もまた、その優位性を明白にしていた。
 運動性では劣るものの、カグヤが駈る「一分一秒でも長く戦場に留まる」をコンセプトとした電子戦機、サヴァー。
 可動盾を用いて、増殖体が放つフェザー砲に耐え、逆にバルカンでその足を鈍らせる。
 番場は調整を施したストームブリンガーBを発動し、高まった運動性を持って、足の鈍った敵に迫る。
 ミサイルを放ち、慣性機動の隙を狭めたところへ、ツングースカを叩きこむ。
 進路を大きく変えない増殖体を止めるためには、接近せざるを得ない。接近すれば、フェザー砲の弾幕が放たれる。
 番場機とカグヤ機は互いに牽制・撹乱を行い、最低限の被弾に抑えながら、確実に敵の動きを抑えていた。

 しかし、誤算だった。
 小型であってもユダの増殖体。傭兵が思う以上にその性能は高かった。
 初撃の弾幕で少なくないダメージを与え、終始有利な交戦を展開した傭兵たち。
 しかし、2機ではその動きを完全に止めるのに、少なくない時間を要してしまった。
 動きの鈍った敵へとハンフリーの荷電粒子砲が、番場のソードウィングが煌き、空中に2つの花火が散る。
 残りは6体。次を。と、飛び込む通信。
「クロウ3、クロウ6の援護を頼む!」
 突出を図る1体に食い下がるクロウ1、フェニックスCOPからだ。
 クロウ3は接敵前のプロトン砲を受け、被弾している。

 返事よりも早く、セツナ&ハンフリー、番場&カグヤはそれぞれすでにかなりの被弾を受け損傷している2機の援護に入る。
 損傷しているとはいえ、3対1。
 傭兵機と交代で距離を置き援護に徹するオウル小隊機。
 その援護を受け、それぞれに先ほど同様、息のあった連携を見せる。
 すでに1体を屠った傭兵たち。相手のAIも把握している。
 時間をかけず、さらに2体の増殖体にとどめをさすことに成功した。

 だが、それが限界だった。
「クロウ2!クロウ4!」
 ウーフーのパイロットの叫びに、カグヤがすぐさまレーダーを確認する。
 だが、既に周辺空域にクロウ2、クロウ4を確認することはできない。
 フリーとなった2体の増殖体が、速度を落とすことなく北の空へと向かっていく。
「クロウ3、クロウ6はクロウ5を援護しろ! 俺はまだ大丈夫だ。頼む、止めてくれ!」
 すでにかなりの損傷を受けているクロウ1。だが、躊躇している暇はない。
 傭兵たちはブーストを発動、戦闘空域から飛び去ろうとする2体の敵へと追いすがる。
 クロウ3、クロウ6もまた、急いでクロウ5の援護へと向かう。
 だがその前で、無情にもクロウ5のエンジンから火の手があがり、そのコックピットを、紫色の業火が貫いた。

 損傷は少ない。だが、練力は消耗している。弾薬もだ。
 それでも、傭兵たちのKVと、彼らの経験、操縦技術は、小型の増殖体に劣るものではない。
 しかし、1人で落とすには力及ばず、2人で落とすには、時間を要した。
 結果、彼らが突破した2体への追撃に成功、撃破に達成した時。
 最後まで1人で、COP機では考えられないほどの粘りで食い下がっていたクロウ1の機体が爆散する光景が、傭兵たちの視界の隅に映った。
 また、クロウ5の援護に向かったクロウ3は、フェザー砲を交わしきれず損傷した翼で、増殖体へと体当たりを敢行し、煙と共に地に落ちていった。
 それを見たクロウ3は、最後に傭兵の指摘で積んでいたミサイルを全て増殖体へと放つと、
 「すまない」という言葉を残して、静かにその傷つきいつ折れるとも知れない翼を休めんと、戦域を離脱した。

 飛び去り、小さくなる2つの影。
 すでに消耗したKVで追うことは、難しい。
 なにより、まだ終わりではない。
 セツナは唇をかみ締め、機首を反転させた。
 これ以上の脅威を、街へと向かわせないために。





 慣れない空とはいえ、元隊長と副隊長。
 ツガイの如く飛び交う2機に、増殖体も翻弄される。 
 HWやBF、敵機との交戦は1度や2度ではない。
 その攻め所を、神撫は心得ている。
 正面から対艦ミサイルを連射し、爆破に常時ブーストで接近すると、
 ツングースカでそのブースターや慣性制御装置と思われる箇所を重点的に狙う。
 もちろん、邪魔な蝿を落とそうと、増殖体もフェザー砲を幾重にも放つ。
 だが、智久機の遠距離からのスナイプが、増殖体の注意を引く。
 新たな小蝿に目を向ければ、それはすでに得意の移動力を持って自身にまとわりつき、神撫が一時離脱した箇所へとレーザーを放つ。
 ついては放れ、上を向けば下へ。

 飛び交う蝿は、いつしか爪を持つ猛禽類へと変貌を遂げ、増殖体の命を削る。だが、すぐには落ちない。
 2人の機体にも消耗が見えたころ、小型の増殖体へ対応していたセツナとハンフリーが援護に加わった。
 セツナが残りのミサイルを一斉に放ち、ハンフリーが荷電粒子砲で敵の装甲を穿つ。
「百合歌さん、今だ」
 神撫が合図と共に、残していた大量のマルチロックミサイルを放つ。
 再び巻き起こる爆煙。傾く影。
 その眼前に、煙を切り裂き、ブーストでその速度を増した青の刃が迫る。
「奏でましょう、プレスティッシモ!」
 ソードウィングが、増殖体の命を断ち切った。


 孫六と殺の元にも、番場とカグヤの援護が到着した。
 すでに強化型G放電装置を使いきり、弾薬の乏しい殺機だが、敵も所々から煙を上げ、その速度は大きく落ちている。
 殺機の援護を受けながら、孫六は終始分裂体へと、まさに斬りかかっていた。
 20kmはあろうかという、自身よりも大きな敵。
 一歩間違えば衝突。操縦を誤れば翼を持っていかれ、地上へとまっさかさま。
 翼を武器にする全ての者が負うリスク。
 けれどそれは、「武士は刃を交えてこそ本道」とする孫六にとって、些細なこと。
 リスクなど、常に背負っている。この刃と共に。
 
 こちらに増援が来た今が好機。
「殺氏、アレを仕掛けるぞ!」
 孫六の言葉に、殺機は残りのGP−7を放つと、そのまま高度を上げる。
 放電の余波に乗じて孫六機が接近し、その能力をフルに発動する。
 急制動で横滑りする機体は、敵機を中心に円を描く。
 敵を中心にMM−20を放ち、弾幕を張る孫六。
 すでに大きなダメージを受けている増殖体。たまらず、その動きが鈍る。
 対峙するのは2度目。そこを逃す殺ではなかった。
 上空で変形したスカイセイバーもまた余力を全て、手にする獅子王へと込める。
 輝きを増した剣は、勢いをそのままに、増殖体の核を貫いた。
「此れぞ雷神が砕き、風神が斬るが如し!」




 傭兵たちはすぐに状況を共有する。
 手傷を与えたとはいえ、小型の増殖体2体に突破を許した。今から追ったのでは間に合わない。
「そうだ、兄さんたちに伝えなきゃ‥‥!」
 セツナが慌てて通信を飛ばすが、その通信は届かない。ジャミングが強いのか、通信を受けられる状況ではないのか。
 悔しさに、コンソールを叩く。

 地上へと不時着したクロウ6のもとへと降り立つ傭兵たち。
「戦力を分散しすぎた、かしら。小型へ戦力を集中させて、貴方たちの負担を軽くするべきだったかもしれない、ですね」
 番場は冷静に、今回の戦果を分析し、口にする。
「すまない、君たちを守れなかった‥‥」
「いや、君たちはよくやってくれた。ありがとう」
 神撫の言葉に、軍人は静かに答える。
「‥‥あの時、どうして退いたんだ? いや、ただの私の好奇心なんだが」
 ハンフリーは1つの疑問を投げかける。
 それは、ウーフーを駆る彼だけが、翼を折られる前に身を引いたこと。
「俺の機体では、あれ以上の追撃はできなかったんだ」
「‥‥それだけ、かしら?」
 智久の言葉に、軍人は一度、大きく息を吐くと、空を見上げる。仲間が散っていった空を。
「‥‥誰かが残らないと。あいつらを連れて帰る奴が、いなくなっちまうから、さ」
「‥‥生きてくれて、ありがと」
 カグヤの言葉に、軍人はふっと、笑みをこぼした。どこか、寂しげな笑みを。