●リプレイ本文
「この不意の状況下は敵味方どちらも振り回されてますね」
突然現れたユダ。そしてその増殖体。番場論子(
gb4628)の言うとおり、新たな存在の介入によって、アフリカの情勢はめまぐるしく動いていた。
(気にし過ぎだとは、思うけど)
スカイセイバーに乗る殺(
gc0726)は、この中で唯一ユダの増殖体との戦闘を経験している。だからこそ、その危険性を知り、軍に戦闘域周囲の警戒を打診していた。しかし、それは叶わなかった。理由は単純。戦力が足りない。それだけだ。
「あの、ボクみたいな子供だと不安になるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう」
通信の声にも、どこか幼さの残る。セツナ・オオトリ(
gb9539)は、ユダの増殖体の進行方向にある都市、テベサにいるはずの兄のためと、操縦桿を握る手に力を込める。
「クロウ1、了解した。こちらこそよろしく頼むよ」
同行する軍人たちのリーダーだろう青年は、セツナに好意的に応える。
「ほう、烏か! ワシの国では烏は神の遣いなんていわれているぞ。これは頼りになるな! ガッハッハ!」
通信越しでも五月蝿いほどに豪快な笑いの孫六 兼元(
gb5331)の言葉に、皆の緊張が少し和らぐ。
「烏合の衆、なんていわれないようにしないとな」
彼と同郷と思われる軍人の一人が、冗談まじりに応える。
傭兵と軍人。立場を違う両者だが、戦いを前にした雰囲気は、悪いものではない。
と、通信越しに何かを知らせるアラートが、全てのコックピットに響く。
ついで、周辺を警戒していたカグヤ(
gc4333)の声が告げる。
「ユダ、発見したの」
遠く地平線を望めば、いくつかの点。
その大小まではわからないが、報告どおり10の影が、おそらくこちらにも気づいたのだろう。仄かに赤い輝きを増し、まっすぐにこちらへと向かってくる。
「あれが分裂体とやらか。興味を惹かれぬこともないが、ここで速やかに退場してもらおうか」
未知への好奇心を行動源とするハンフリー(
gc3092)にとっても、コレは自身の求めるモノとは違う。
面白くもないモノには早々に消えてもらおうと、敵を見定める。
「空戦はあまり得意ではないのだけれど、そうも言ってられないわね」
テベサ。軍と共に、市民も戦っている街。背にする彼らがつかみ始めた希望を失わせないため。
智久 百合歌(
ga4980)もまた、モニター越しに映る遠くの影を見据える。
「空戦で組むのは初めてですね。まぁいつもどおりの感じで行きましょう。‥‥さて、ユダの分身とはどんなもんかな?」
そんな智久に声をかけるのは、かつて彼女と小隊を共にしたこともある神撫(
gb0167)。
その発言にはどこか余裕も感じられる。けれど、頭の中ではすでにユダの分析を開始している。
「無理に落としにかかることはない。抜かせなければ俺達の勝ちだ」
徐々に大きさを増し、その形を露にする影。
接敵まで、もう間もなく。
●
開戦の口火を切ったのは、敵のプロトン砲だった。
だが、いかに射程と威力を有する脅威であったとしても、既知の兵器であれば、対策も立てられるもの。
砲撃に備え散開していたKVたちは初撃をかわすと、それぞれが発射のスイッチに手をかける。
「さあコンサートの開演よ。前奏からアパッシオナートで」
「3機‥‥7機‥‥10機ロック、Fire!」
それは、盛大を通り越して、もはや周辺から音が消えるほどの爆発だった。
増殖体をレーダーに捉えた傭兵たち。6人が放つ実体弾と放電ミサイルが入り乱れ、嵐の如く同時に10体の増殖体を包み込む。
凄まじい閃光。たちどころに広がる爆煙。爆発の振動が空気を揺らし、計器を乱す。
しばしの沈黙。
それにいち早く気づいたのは、やはりカグヤだった。
大量の爆発に備え事前に切り替えていたレーダーが、それを知らせる。
「‥‥熱源反応! プロトン砲がくるの!!」
カグヤが皆に知らせるのと、どちらが早かったか。
煙の中で一瞬、赤い輝きが収束したかと思うと、光は煙を裂き、四方へと走った。
攻撃のため距離を近づけていた傭兵たちへと襲い掛かる砲火。
咄嗟、回避行動をとる。初撃で落とせないことも、予想の範疇。
傭兵たちの反応は消して悪くない。
後方に待機していた軍人たちもまた、距離をおき回避に備えていたため、その多くは砲火を逃れることに成功する。
しかし、不運にも何機かは重なった斜線に逃れるすべなく、被弾してしまった。
「クロウ3! クロウ4! 無事か!?」
隊長機からの言葉に、S−01COPとR−01COPのパイロットは、応と答える。
一撃はもらったが、まだやれる。
「回避もせず、強引に‥‥突破優先のAIだな」
神撫の見立てどおり、うっすらと晴れ行く煙の中から、先ほどまでと変わらぬ姿のまま、進路も、速度も変えることなく、増殖体はこちらへとまっすぐに向かってくる。
砲火のタイミングを合わせたことで、回避を許さなかった。
損傷は確かに与えた。
だが、多すぎる弾幕は互いに相殺し合う。
増殖体はいまだその勢いを失ってはいない。
「仲間を危険に晒す訳にはイカン! 此処で全て、食い止める!!
孫六の号令と共に、各自散開するKVたち。
止めるか、抜かれるか。街を守るための死闘。その第2ラウンドの幕開けだ。
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爆煙を抜け進行する増殖体。その前に立ちふさがり、突破を阻止せんとするKVたち。
中型の2体を神撫と智久、孫六と殺が連携を組み食い止める間、残りの4名とクロウ小隊6名、計10機で小型を処理する作戦をとった傭兵たち。
カグヤがクロウ6ウーフーとリンク、敵機をナンバリングし、抜けのないよう連絡をとる。
初動は成功。大きな問題もなくオウル小隊は各自1対1で小型の増殖体へと対峙し、牽制を試みる。
残るは2体。4人の傭兵は手近な僚機とペアを組み撃破へと向かう。
ハンフリーと共に1体の増殖体へと向かうセツナ。
「がんばれよ。落ちないことを最優先な?」
無線越しに、兄の友人の神撫がセツナへ声をかける。
セツナはそれに丁寧に礼を返すと、目の前の増殖体を睨み付ける。
「ボクにだってこれぐらい!」
自身を鼓舞するようなその言葉。だが、操縦桿を握るその手に震えや迷いはない。
進路を変えることなく直進する増殖体。
ハンフリーのクノスペが突破を阻止すべく、PCB−01で牽制をしかける。
それにタイミングを合わせるように、セツナのグロームのミサイルポッドから小型のミサイルが群れを成し、増殖体へと降り注ぐ。
増殖体は最低限の回避行動をとるのみで、進路を大きく変えようとはせず、周囲を飛び交う邪魔なKVへと紫色の光を乱射する。
距離をとるハンフリー機。反対に、バレルロールで光の軌跡をかわしながら接近、すり抜け際にバルカンを放つセツナ機。
小型の増殖体に対し、二人は終始優位な展開を続けた。
番場とカグヤの2人もまた、その優位性を明白にしていた。
運動性では劣るものの、カグヤが駈る「一分一秒でも長く戦場に留まる」をコンセプトとした電子戦機、サヴァー。
可動盾を用いて、増殖体が放つフェザー砲に耐え、逆にバルカンでその足を鈍らせる。
番場は調整を施したストームブリンガーBを発動し、高まった運動性を持って、足の鈍った敵に迫る。
ミサイルを放ち、慣性機動の隙を狭めたところへ、ツングースカを叩きこむ。
進路を大きく変えない増殖体を止めるためには、接近せざるを得ない。接近すれば、フェザー砲の弾幕が放たれる。
番場機とカグヤ機は互いに牽制・撹乱を行い、最低限の被弾に抑えながら、確実に敵の動きを抑えていた。
しかし、誤算だった。
小型であってもユダの増殖体。傭兵が思う以上にその性能は高かった。
初撃の弾幕で少なくないダメージを与え、終始有利な交戦を展開した傭兵たち。
しかし、2機ではその動きを完全に止めるのに、少なくない時間を要してしまった。
動きの鈍った敵へとハンフリーの荷電粒子砲が、番場のソードウィングが煌き、空中に2つの花火が散る。
残りは6体。次を。と、飛び込む通信。
「クロウ3、クロウ6の援護を頼む!」
突出を図る1体に食い下がるクロウ1、フェニックスCOPからだ。
クロウ3は接敵前のプロトン砲を受け、被弾している。
返事よりも早く、セツナ&ハンフリー、番場&カグヤはそれぞれすでにかなりの被弾を受け損傷している2機の援護に入る。
損傷しているとはいえ、3対1。
傭兵機と交代で距離を置き援護に徹するオウル小隊機。
その援護を受け、それぞれに先ほど同様、息のあった連携を見せる。
すでに1体を屠った傭兵たち。相手のAIも把握している。
時間をかけず、さらに2体の増殖体にとどめをさすことに成功した。
だが、それが限界だった。
「クロウ2!クロウ4!」
ウーフーのパイロットの叫びに、カグヤがすぐさまレーダーを確認する。
だが、既に周辺空域にクロウ2、クロウ4を確認することはできない。
フリーとなった2体の増殖体が、速度を落とすことなく北の空へと向かっていく。
「クロウ3、クロウ6はクロウ5を援護しろ! 俺はまだ大丈夫だ。頼む、止めてくれ!」
すでにかなりの損傷を受けているクロウ1。だが、躊躇している暇はない。
傭兵たちはブーストを発動、戦闘空域から飛び去ろうとする2体の敵へと追いすがる。
クロウ3、クロウ6もまた、急いでクロウ5の援護へと向かう。
だがその前で、無情にもクロウ5のエンジンから火の手があがり、そのコックピットを、紫色の業火が貫いた。
損傷は少ない。だが、練力は消耗している。弾薬もだ。
それでも、傭兵たちのKVと、彼らの経験、操縦技術は、小型の増殖体に劣るものではない。
しかし、1人で落とすには力及ばず、2人で落とすには、時間を要した。
結果、彼らが突破した2体への追撃に成功、撃破に達成した時。
最後まで1人で、COP機では考えられないほどの粘りで食い下がっていたクロウ1の機体が爆散する光景が、傭兵たちの視界の隅に映った。
また、クロウ5の援護に向かったクロウ3は、フェザー砲を交わしきれず損傷した翼で、増殖体へと体当たりを敢行し、煙と共に地に落ちていった。
それを見たクロウ3は、最後に傭兵の指摘で積んでいたミサイルを全て増殖体へと放つと、
「すまない」という言葉を残して、静かにその傷つきいつ折れるとも知れない翼を休めんと、戦域を離脱した。
飛び去り、小さくなる2つの影。
すでに消耗したKVで追うことは、難しい。
なにより、まだ終わりではない。
セツナは唇をかみ締め、機首を反転させた。
これ以上の脅威を、街へと向かわせないために。
●
慣れない空とはいえ、元隊長と副隊長。
ツガイの如く飛び交う2機に、増殖体も翻弄される。
HWやBF、敵機との交戦は1度や2度ではない。
その攻め所を、神撫は心得ている。
正面から対艦ミサイルを連射し、爆破に常時ブーストで接近すると、
ツングースカでそのブースターや慣性制御装置と思われる箇所を重点的に狙う。
もちろん、邪魔な蝿を落とそうと、増殖体もフェザー砲を幾重にも放つ。
だが、智久機の遠距離からのスナイプが、増殖体の注意を引く。
新たな小蝿に目を向ければ、それはすでに得意の移動力を持って自身にまとわりつき、神撫が一時離脱した箇所へとレーザーを放つ。
ついては放れ、上を向けば下へ。
飛び交う蝿は、いつしか爪を持つ猛禽類へと変貌を遂げ、増殖体の命を削る。だが、すぐには落ちない。
2人の機体にも消耗が見えたころ、小型の増殖体へ対応していたセツナとハンフリーが援護に加わった。
セツナが残りのミサイルを一斉に放ち、ハンフリーが荷電粒子砲で敵の装甲を穿つ。
「百合歌さん、今だ」
神撫が合図と共に、残していた大量のマルチロックミサイルを放つ。
再び巻き起こる爆煙。傾く影。
その眼前に、煙を切り裂き、ブーストでその速度を増した青の刃が迫る。
「奏でましょう、プレスティッシモ!」
ソードウィングが、増殖体の命を断ち切った。
孫六と殺の元にも、番場とカグヤの援護が到着した。
すでに強化型G放電装置を使いきり、弾薬の乏しい殺機だが、敵も所々から煙を上げ、その速度は大きく落ちている。
殺機の援護を受けながら、孫六は終始分裂体へと、まさに斬りかかっていた。
20kmはあろうかという、自身よりも大きな敵。
一歩間違えば衝突。操縦を誤れば翼を持っていかれ、地上へとまっさかさま。
翼を武器にする全ての者が負うリスク。
けれどそれは、「武士は刃を交えてこそ本道」とする孫六にとって、些細なこと。
リスクなど、常に背負っている。この刃と共に。
こちらに増援が来た今が好機。
「殺氏、アレを仕掛けるぞ!」
孫六の言葉に、殺機は残りのGP−7を放つと、そのまま高度を上げる。
放電の余波に乗じて孫六機が接近し、その能力をフルに発動する。
急制動で横滑りする機体は、敵機を中心に円を描く。
敵を中心にMM−20を放ち、弾幕を張る孫六。
すでに大きなダメージを受けている増殖体。たまらず、その動きが鈍る。
対峙するのは2度目。そこを逃す殺ではなかった。
上空で変形したスカイセイバーもまた余力を全て、手にする獅子王へと込める。
輝きを増した剣は、勢いをそのままに、増殖体の核を貫いた。
「此れぞ雷神が砕き、風神が斬るが如し!」
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傭兵たちはすぐに状況を共有する。
手傷を与えたとはいえ、小型の増殖体2体に突破を許した。今から追ったのでは間に合わない。
「そうだ、兄さんたちに伝えなきゃ‥‥!」
セツナが慌てて通信を飛ばすが、その通信は届かない。ジャミングが強いのか、通信を受けられる状況ではないのか。
悔しさに、コンソールを叩く。
地上へと不時着したクロウ6のもとへと降り立つ傭兵たち。
「戦力を分散しすぎた、かしら。小型へ戦力を集中させて、貴方たちの負担を軽くするべきだったかもしれない、ですね」
番場は冷静に、今回の戦果を分析し、口にする。
「すまない、君たちを守れなかった‥‥」
「いや、君たちはよくやってくれた。ありがとう」
神撫の言葉に、軍人は静かに答える。
「‥‥あの時、どうして退いたんだ? いや、ただの私の好奇心なんだが」
ハンフリーは1つの疑問を投げかける。
それは、ウーフーを駆る彼だけが、翼を折られる前に身を引いたこと。
「俺の機体では、あれ以上の追撃はできなかったんだ」
「‥‥それだけ、かしら?」
智久の言葉に、軍人は一度、大きく息を吐くと、空を見上げる。仲間が散っていった空を。
「‥‥誰かが残らないと。あいつらを連れて帰る奴が、いなくなっちまうから、さ」
「‥‥生きてくれて、ありがと」
カグヤの言葉に、軍人はふっと、笑みをこぼした。どこか、寂しげな笑みを。