●リプレイ本文
●黄昏の決戦!、
「探知装置の設置が上手く行かなかったらしい? となると、大幅に予定を変更せにゃならなくなるが」
風羽・シン(
ga8190)が部隊長からの無線連絡を仲間に伝えた。
陣地の地下格納庫に待機していた傭兵たちに、動揺が走る。
「では作戦Bでいきましょう。岩龍班は支援を、陣地班は各員持ち場について敵の掃討をお願いします。煮え湯を飲まされた傭兵仲間の敵討ち、とは申しませんが好きに暴れた代償は支払って頂きましょう」
作戦を指揮する飯島 修司(
ga7951)はこのような事態を予測していたのか、すぐさま奇襲から待ち伏せへ切り替えた。
傭兵たちも戦闘経験豊富な者はこういった緊急事態に慣れているようだ。動揺せずに早速自分のKVの元に向かった。
「‥‥大規模作戦以外で‥‥KVに乗るのは初めてです。死ぬ気で頑張ります」
しかし今回が初の依頼参加である憐(
gb0172)は不測の事態に不安を隠せないようだった。
「ボクの名前は荒巻 美琴(
ga4863)。クラスはグラップラーだよ♪ 大丈夫、誰だって初依頼のときは緊張するんだから」
「うんうん、それと死ぬ気で頑張る、じゃなくて、傭兵は絶対生き残る気で頑張るんだよ!」
荒巻と月森 花(
ga0053)が憐を勇気づけた。
「まさか、ルミィと並んで支援とは‥‥岩龍に乗って以来初めてだな」
「ふむ、そう言えばいつぶりかのぅ? ぬしと肩を並べて戦うのは。ふふっ、危なくなったら、また護ってくりゃれ?」
作戦の中核を担う岩龍に乗るのは、レーヴェ・ウッド(
ga6249)とルミナス(
ga6516)の二人。微笑みとともに拳と拳を触れ合わせる。戦場において相棒と呼べる仲間が共にいること以上に心強いことはない。
『ふむ‥‥今までドリルを使って長いですが、このような戦いは初めてですね』
『大ドリル団、出撃といった所ですね』
鋼 蒼志(
ga0165)と井出 一真(
ga6977)は互いの機体を向き合わせて、武器の動作確認をする。攻撃の要となるであろうレッグドリルが正常に機能するか、変形させて確かめた。
『‥‥そういや大規模作戦以外で機体使うのってこれが初めてなのよね』
螺旋愚連隊隊長銀野 すばる(
ga0472)は、前回の雪辱を晴らすべく、ツインドリルを回転させる。その瞳には一点の曇りもない。自分の武器への誇りと信頼が彼女の中にあった。
飯島が全員KVに搭乗したのを確認すると、ちょうど地下の入り口に夕日が差し込んできた。サングラスを外して、夕日を肉眼で眺める。
『黄昏の決戦、というわけですか。夕日が落ちるまでに、決着をつけてやりましょう。‥‥作戦、開始!』
『ラジャ!』
●螺旋小隊!
岩龍班のルミナス、レーヴェ、憐の3人はダム近辺の山地に陣取っていた。
『こちら岩龍機、これより管制に入る』
機体を岩陰に隠したレーヴェとルミナスの二人は、すぐさま設置されている探知機とのデータリンクに取り掛かる。
『起動確認できた探知機は西、北、北東、南東と、新しく設置した北西の一つだ。今からデータを各機に送る』
岩龍の電子戦機としての機能をフル活用し、探知機のデータを観測、解析。探知機の性能を引き上げる。
『ふむ、探知機は大丈夫のようじゃな。もし破壊されたらわっちが下に降りて直に聴くから、その間ここはぬしに任せるでありんす』
『そうならないことを願う。憐も気づいたことがあったら連絡をくれ』
『‥‥はい』
憐のディアブロは、大きめの岩に隠れてスナイパーライフルを構えていた。緊張で表情が強張っていた。操縦桿を握る手に汗がにじみ出てくる。
『緊張しておるようじゃな、憐。じゃが、戦闘はまだ始まってはおらん。深呼吸して、リラックスしてくりゃれ?』
「‥‥スーー‥‥ハァァ‥‥スーー‥‥ハァァ」
目を閉じ、言われたように深呼吸すると、煩いほど鼓膜に響いていた心臓の音も落ち着いてきた。
『‥‥大丈夫です』
『よし、陣地班の合図を待とう』
東側の森の中に、風羽のディアブロと井出の阿修羅が展開していた。
『‥‥しかし、よくもまぁこのタイミングで売り出されたもんだぜ』
風羽は出発前に大急ぎで改造してきた地殻変化計測器を設置する。KVから槍型の探知機が射出され、地表に上手く突き刺さった。
『アースクエイクには正規軍もかなり苦戦してるみたいですから、ULTも開発に力を注いでたんじゃないですかね』
『なるほど。岩龍班、こちらウィンドフェザー。東に探知機を新設した、データリンク頼む』
『了解』
機体には敵にばれぬよう、迷彩ネットが張られていた。ヘルメットワーム相手では熱探知ですぐにばれてしまうが、キメラ相手には有効だろう。
『鳥が』
『どうした?』
『鳥がいないですね、この森。他の動物も‥‥』
井出に言われて、風羽も気がつく。集音マイクで森の木々のざわめきまで聞こえるが、鳥のさえずりや動物の声の一つも聞き取れない。
『動物の危険察知能力は、最新機器より高性能ってことだろ』
『人間が進化の過程で失ってきた能力、か。なんだか皮肉ですね』
『仕方がないさ。俺たちは生まれたときに配られたカードで、人生というゲームに勝たなきゃならない』
二人は静まり返った森の中で、静寂が破られる時を待った。
月森と飯島の二人は、陣地西の川の中にKVを配置して待機していた。
コックピットを開き、外の音を聞き取れるようにしながら周囲を警戒する。
月森は胸元の熊型のロケットを開く。孤児院の頃からの宝物であったクマに似た、彼からのプレゼントだ。中にある思い人との写真を見詰めていた。
「必ず無事に戻るから、ね」
飯島は機体を降りて新たに計測器を新設していた。無線機で岩龍班へ通信を入れる。
『西側に新たに設置、データリンク頼む』
『了解、確認した』
ふう、と夕日で染まった大地と輝く水面を見ながら一息つく。
「試作品から実用化されたとはいえ、今回が実戦登用初だからな。うまく機能するといいが」
双眼鏡を取り出し、草原の向こうを見つめる。黄昏色の草原は幻想的な美しさで、こんなときではなかったら夕日が落ちるまで眺めていたい気分になる。
だがそんな光景も、後5分もしないうちに血と死と破壊の戦場へと変わると思うと、自分の心に悲しみの小さなトゲが刺さるのを感じた。
『こちらBicorn、南に計測器を新設しました。確認お願いします』
『了解、こちらでも確認した。これで大体の敵の位置はカバーできるだろう』
南側にいるのは鋼、銀野、荒巻の3機。近接戦で最前線防衛ラインを組む。
鋼と銀野がまず突撃、荒巻は陣地に残り、射撃による掩護。
その後は誰かがEQに突撃する際は他の誰かが掩護するように、連携をシュミレーションしていた。
『フォローは任せて!』
『頼りにしていますよ。世界の異物たちに制裁を加えてやりましょう』
『今回はドリルで穴掘ってもいいのよね、ね?』
『大規模作戦のときの雪辱、晴らすとしましょう』
『ええ! 早くいらっしゃい、アースクエイクちゃん。あたしが貫いて穿って穴だらけにしてあげる!』
『銀野さん、やる気まんまんですねー。ボクも頑張ろう!』
ささやかだった振動が、次第に大きさを増していく。レーヴェとルミナスの画面に、強力な地殻の振動が探知された。
『振紋照合! 来るぞ、アースクエイクじゃっ!』
傭兵たちの間に緊張が走った。操縦桿を握りなおし、兵器の起動確認をする。
『システムオールグリーン、いつでも着やがれってんだ!』
『文字通り『背水の陣』だな‥‥負けられないぞ‥‥っ!』
山にかかった夕日を隠すように、空に何かが飛んできた。鳥‥‥ではない。
『敵確認、飛行型キメラだ! 鳥タイプ十数体、ドラゴンタイプ十数体』
『ちぃ、雑魚のお出ましか。オードブルにはちょうどいい』
『ひきつけて撃ち落そう! ボクの射撃スキルを見せてあげるよ』
『皆、落ち着け。事を急くと機を失う』
『待機だ‥‥待機‥‥堪えろ‥‥まだだ‥‥』
地響きが酷くなる。もう少しで、EQが探知装置の効果範囲に入る、その瞬間を待つ。
『GO!』
飯島の号令と、レーヴェ、ルミナスの二人のスナイパーライフルから銃弾が吐き出されるのはほぼ同時だった。
『狩りはわっちの得意じゃ、外しはせぬ。どうじゃ、レーヴェ、憐。誰が多く撃ち落すか、勝負せぬか? わっちが勝ったら、旨い酒を飲ませてくりゃれ?』
ショットリロードショットリロードショット、ヒットヒットヒット。翼を高速回転する鋼鉄の弾で撃たれた鳥キメラが、羽ばたけなくなって地表に落ちる。リロード。
『面白い。受けてたつよ』
ショットリロード、ヘッドヒット。レーヴェの銃弾はドラゴンの頭に当たり、脳と血をぶちまける。
『負けないにゃーー! アースクエイクのどてっぱらに穴を開けてやるにゃーーっ! ‥‥アースクエイクのお腹って、何処?』
覚醒し攻撃的になったた憐も、負けじとトリガーを引く。撃つ、装填、着弾、撃破。
『おいおい、こっちにも獲物をまわしてくれよ? 探知もしっかり頼む』
『わかってる。アースクエイクと思われる振動が南西から1、南から2、東から1体接近。データリンク』
もはやKVの中にまで振動が響き渡る。地面に亀裂が走った。
各機のモニターに実際の映像に探知機の振動の位置と深度が重なる。
『お前たちなぞ、位置さえ分かればどうとでもなる!』
鋼は地中のEQの頭上を飛び越え、体のある位置に。バイパーの腕がドリルへと変形し、地面を穿つ。
EQによって緩んだ地盤は、容易くドリルの侵入を許した。地中ならば安全と、フォースフィールドを展開していなかったのか、そのままEQの身体に損傷を与えた。
怒りと思われる咆哮とともに、EQが地表に姿を現す。体を蠢かせて鋼を退けようとしたところを、荒巻のミサイルが着弾。ダメージは当たらなかったが、EQを大きく仰け反らせた。
『当たった〜! 位置さえわかればもぐらたたきとおんなじだね!』
さらに側面から近づいた銀野が、渾身の一撃を放つ。
『あたしの‥‥いえ、あたし達のドリルは全てを貫くドリルなんだぁぁぁ!』
気勢の乗った一撃が、FFを貫く。ドリルの回転がEQの肉を食い破った。
『こっちもおっぱじめようぜ!』
『了解! この辺りか!』
風羽と井出の二機も、レッグドリルで地中のEQを攻撃開始。
EQは地表に顔を出すと、口から液体を出して反撃してきた。
素早い動きで周り込み、井出の阿修羅が地を蹴る。
『ソードウイング、アクティブ! 往くぞ、阿修羅!!』
側面から展開されたソードウイングが、EQの腹を切り裂く。そのまま敵の攻撃範囲を走りぬけ、反転して攻撃。ヒットアンドアウェイ。
井出の阿修羅に気をとられているうちに、風羽が傷口に高分子レーザー砲の銃口を突っ込んた。
『いくら図体がデカかろうが、中身をミンチにされりゃ少しは堪えるだろうがよっ!』
「ォォォォオォオオオオ!!」
レーザー砲により肉を焼き消され、EQが苦痛の叫びを上げた。
『ここ掘れワンワン‥‥じゃないけど、大物釣れるかな?』
月森のレッグドリルが裏の畑ではなく穴を掘る。
『奴の体内で10mの花火を打ち上げてみましょうか』
飯島は機槍ロンゴミニアトを構えて、EQが釣られるのを待った。
レッグドリルが地中のEQを捉えた。しかし、そのまま傷も気にせず、ダムのほうへと近づいていく。
『無視していく気みたい』
『では、水攻めといきましょう』
飯島はツインドリルに持ち変えると、川から月森の掘った穴へと地面に溝を掘る。
水は勢いよく穴の中に流れ込み、EQの体を包み込んだ。ミミズと同じく、酸素を失ったEQは堪らず土から顔を出した。
横へ飛んで回避した月森をカバーし、飯島がロンゴミニアトでFFと肉壁を貫き、爆散させる。さらに追い討ちとばかりに、グレネードランチャーを打ち込んだ。
体を震わせ、口から酸を吐き出しつつ悶えるEQに向かって、月森が狙いを定めた。
『餌の時間だよ‥‥口をあけな』
試作型リニア砲がEQの口へ吸い込まれる。肉を焼かれたEQの牙が、地表に落下して突き刺さった。
『お見事』
初めの5分間、戦闘は傭兵たちの優勢だった。空中のキメラはレーヴェとルミナス、憐の3人が撃退し、他の皆がEQに集中できるようにする。
探知機で位置がわかればドリルで地中のEQに攻撃をしかけ、反撃を交わす。
しかし、長くは続かなかった。
恐るべきはEQの生命力だ。ミミズと同じく、切られただけでは死なず、二つに分かれてもそのまま攻撃を仕掛けてくる。
さらに、体の中にも微量の酸が含まれているのか、ドリルがじょじょに劣化していった。地表を砕き、EQの身体も貫かなくてはならず、回転と摩擦による熱でオーバーロードする。
掩護射撃も、銃弾が尽きると途切れた。リザードマンや狼人といったキメラも集まり始め、防戦へと変わっていく。
『くそっ、しぶてー野郎だ。とっととくたばりやがれ!』
風羽が愚痴りながら、ぶつ切りになったEQにとどめを加える。
『このままじゃ‥‥!』
井出は阿修羅に取り付いてくる狼人たちを振り払いつつ、ソードウイングで切り裂いていた。二人とも機体が血と肉と油で染まっている。
『‥‥レーザー砲も打ち止めだ。近接戦へ切り替える』
『うーん、わっちも弾切れ‥‥。正規軍のやつらはなにをしておるのじゃ?』
『皆、頑張って! きっともうすぐ援軍が来るわ!』
回転数の減ったドリルで何とか応戦している銀野たちだったが、すでに体力の限界に近づいていた。あと5分も持たないだろう。
『ち‥‥沈むんじゃない』
飯島の言葉にも聞く耳持たず、太陽はその体を山の向こうへと隠した。
大地を闇が覆う。傭兵たちの中に絶望が漂い始めた。
その時、空に一発の照明弾が打ち上げられた。
光が再び、傭兵たちを照らす。
草原の向こうに、数十体のKVの影が映し出される。援軍が来た。
『遅いぜ、大将!』
『すまん、こちら側でも敵に阻まれてな。よく持ちこたえてくれた。後は任せろ!』
『今までの借り、返してやるぜ!』
『傭兵ってのはミミズ以上にしぶといんだな』
『戦友を死なせるな!』
無線から正規軍のパイロットの声が届く。
形勢は逆転した。防衛戦から掃討戦へと切り替わり、正規軍とともにアースクエイクを片付けていく。
決着は、ついた。人類の勝利だ。
機体から降りた傭兵たちは、互いの無事を確認しながら笑いあった。
「レーヴェ、約束通り酒を奢ってくりゃれ♪」
「撃破数は俺のほうが上だ。‥‥まあ、ラストホープに帰ったら、祝杯をあげよう」
「‥‥とーぶん、ミミズは見たくないにゃーー」
「ドリルも、ですねえ」
「皆かなり消耗しているが、無事で何よりだ」
飯島が完全に闇に包まれた空を見上げた。他の傭兵たちも、釣られて顔を上げた。
風が雲を追いやる。
満点の星空だ。小さな光が、まだ闇の中にあり、世界を照らしていた。