タイトル:【前線】包囲を耐え抜けマスター:遊紙改晴

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/11 10:50

●オープニング本文


●ある日、どこかの前線で‥‥

「走れ!」
 大尉の怒声が響く。追手はゴブリンと狼。左右から迫る敵に追いつかれれば、そのまま退路を断たれて包囲されてしまう。
「こっちだ」
 工兵ウォン・ミンテイと狙撃手セドナが傭兵たちを先導し、救護兵マークとジョージ隊長が殿となり敵を牽制しながら退く。
 林を抜けると、煙と血の匂いがまず鼻をついた。
 陣地周辺に設置された地雷が作動した跡と、キメラと仲間の兵士たちの死体がところどころに転がっている。
『こちらチームレッド、11時の方向より陣地に進入する。誤射するな』
「着いて来い」
 地雷原をかいくぐりながら最短距離で歩くウォンの後に続く傭兵たち。両側から追ってきた敵が罠にかかったらしい、横薙ぎの爆風が彼らの肌を焼いた。
 仮設前線基地には他のチームの兵士や傭兵が集まっていた。しかしその半分は負傷しており、身動きがとれずにいる。
 ジョージたちは塹壕に滑り込むと、すぐさま敵に応戦しつつ互いの状況を確認。
「司令部へ援軍の要請は?」
「既にしました、5分前に援軍と回収用ヘリが発進、到着予定は30分後です」
(「KVの援護はなしか、30分も持ちこたえられるか‥‥?」)
 苦虫を噛み潰した顔になったジョージの手を、負傷兵の一人が掴んだ。
「ジョー、ここでは30分も持たん‥‥。南側の崖をワイヤーで降りて、第二回収ポイントに向かえ!」
 ジョージはその手を握り返すと、負傷兵の傷口を自分で抑えさせた。
「生憎だがロビン、仲間を見捨てる訳にはいかない。話せるようなら自分で止血しろ」
 塹壕から顔を出し、敵を確認する。どうやらキメラたちは、地雷とこちらの合流に勢いを削がれたようだ。
 殺気はうんざりするほど放っているが、射程距離内に近づいてこようとはしない。
「馬鹿な、この状況を理解できないお前ではないだろう、このままでは全滅するぞ!」
「軍と傭兵の連携を目的としたこの作戦、失敗に終われば今後の作戦にも大きく影響がでる。退けはしない」
 ジョージはポケットから煙草を取り出すと、負傷兵の口に咥えさせた。
「それでも吸って黙ってろ。次に眼を覚ましたら病院のベッドで美人の看護婦さんが相手してくれる」
 負傷兵の怒声を背に、塹壕の中を駆ける。負傷者と傭兵を励ましながら、セドナに近づいた。
「敵の数は?」
「増えてる。ゴブリン14、狼18、いや19」
 周囲から狼の遠吠えが響き渡る。それに呼応して、四方八方からも遠吠えがあがった。
「ちっ、数を集めて一気に潰しにくるつもりか‥‥」
「一難去ってまた一難、ってやつですね。ラッキー・ジョーの名前がまた広まりそうですよ」
 この状況下でも笑顔と軽口を忘れないマークに、ジョージは大きくため息をついた。
 気を取り直して、残っていた傭兵たちに顔を向ける。
「この状況だ。逃げても誰も文句は言わない。この前線基地の南は崖になっているが、ワイヤーで降りられる高さだ。逃げたいなら逃げてくれ。救助は30分後に到着する‥‥予定だ。作戦前に説明された非常時の第二回収地点で待っていればいい。俺たちが時間を稼ぐ」
 だが、傭兵たちは退くつもりなどなかった。各自自分の獲物を握り締める。形式だけの合同訓練より、実戦ができて嬉しそうにしているものもいた。
「‥‥全く、命知らずな奴等だな」
「それを隊長が言うかなぁ。ほら、足を出してください。手榴弾の破片が刺さったままですよ」
 マークの声に再びため息をつきそうになり、とっさに深呼吸へと換える。ため息をつくと一つ、幸運が逃げるのだ。
「‥‥幸運の女神の微笑みに、また賭けることになりそうだな」

 援軍が到着するまで、包囲している敵から前線基地を維持せよ。

 作戦、開始。

●参加者一覧

緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
柚井 ソラ(ga0187
18歳・♂・JG
藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
クラウディア・マリウス(ga6559
17歳・♀・ER
優(ga8480
23歳・♀・DF
鬼非鬼 ふー(gb3760
14歳・♀・JG
ハミル・ジャウザール(gb4773
22歳・♂・HG
フィルト=リンク(gb5706
23歳・♀・HD
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
伊達 士(gb8462
20歳・♀・DG
伊鷹 旋風(gb9730
17歳・♂・DG

●リプレイ本文

●陽はまだ昇らず

 轟。轟轟。轟轟轟。
 空気が震えていた。皮膚を突き刺すような緊張感。押しつぶされそうな重圧。
 北側塹壕に潜む藤村 瑠亥(ga3862)は強い死臭を感じ取っていた。思わず胸のポケットに手を伸ばすが、そこに煙草がないのを思い出して息を吐く。
「なんとまあハードな状況だねこれは」
「やれやれ、ひさしぶりの依頼がこの調子とはねえ。ま、地獄の戦場が傭兵にはよく似合うとかいわれそうだけどね」
 伊鷹 旋風(gb9730)と緑川 安則(ga0157)は口で言うのとは裏腹に、瞳と言葉に絶望の色はない。
「任務は完遂する―――どんな手段を使ってもな」
 最悪な状況下でも、月城 紗夜(gb6417)は淡々と言葉を紡ぎながら、その身に纏うリンドヴルムの動作確認と、双眼鏡での状況判断を怠らなかった。
「そうや。耐えるときには耐えてこそ、ドラグーンってもんやろ?」
 同じくリンドヴルムを操る伊達 士(gb8462)も愛機を操作して月城と情報をリンクさせる。二人で鋼の拳をあわせた。
「30分‥‥ですね‥‥うん、何とか‥‥頑張りましょう‥‥!」
 ハミル・ジャウザール(gb4773)は真デヴァステイターとエナジーガンをすぐ抜けるように安全装置をはずし、無線がオープンになっていることを確認する。
『撃って散らせば良いだけでしょう? さ。面倒なことは早く片付けて、帰りましょう』
 無線から西側のフィルト=リンク(gb5706)の声が届いてくる。
『大神の名を持ちながらキメラにされるなんて哀れだね。貴族で鬼族、この鬼非鬼 ふー(gb3760)が地獄へ案内してあげよう』
 小さな身体に似合わぬ大口径ガトリング砲を手に、キメラたちを鬼籍に入れる気満々である。
『頼もしいですね。でも仲間との連携が勝利の鍵ですよ』
 東側を守る優(ga8480)はその名の通り優しい声で答えた。月詠を握る手に光る、プロミスリングが雨の中で微かに温もりを保っていた。
「やれやれ、傭兵というのは俺たちに劣らず命知らずばかりみたいだな。早死にするぞ」
「命知らず‥‥な、つもりはないんですけどね」
 ジョージ隊長の言葉に、柚井 ソラ(ga0187)は端整な顔を苦笑で歪めた。優に続いて塹壕へ入ろうとするソラの手を、クラウディア・マリウス(ga6559)が掴んだ。
「ソラ君‥‥。気をつけて、ね」
 クラウディアの手がそっとソラの腕輪に触れる。もう片方の手は星のペンダントを。
「はい。皆でならきっと大丈夫。怪我されてる方のこと、お願いします」
「無理しないでね」
 視線を交わし、頷きあい、二人はそれぞれの持ち場へ戻っていく。
「いやー。若いっていいねぇ」
「‥‥違います」
 塹壕に飛び込んできたソラをちゃかすように、マークが笑顔で言う。ソラはマークのわき腹に軽くパンチを入れて返した。
 中央ではクラウディアと藤田あやこ(ga0204)が負傷兵の手当てを担っていた。
「眠ったら死ぬわよ。病院じゃなくここで美人のナースさんが看護してア・ゲ・ル」
「へへっ‥‥最近のナースさんは、戦場まで出張ってくれるのか‥‥」
「そうよー。治療費上乗せしておくから、きっちり払い終わるまで死んじゃだめよ」
 激痛で苦悶する兵士の頬に、祝福とばかりにキスを贈ると、頭を赤子のように撫でる。
「ふふ、大丈夫、大丈夫。絶対に助かりますから」
 クラウディアも太陽のように輝く笑顔で、暗く沈んだ負傷兵を励ましながら治療していった。

●獣の咆哮、人の銃口
『ウォオオオォォォォーー!』
 北から、東、西へと、いくつもの遠吠えが冬空を裂いてあがる。
 狼たちの背にゴブリンが乗り、雄叫びに似た奇声を上げはじめた。
 唸り声とともに、地に伏すほど頭を垂れ、鼻息荒く、爪を地に埋め、牙と殺意を剥き出し、眼を貪欲に光らせ、そして――駆け出した。
「来たか。悪いが、ここから先は命という高い通行税を取らせてもらおう」

『‥‥攻撃開始、ですね』
『まだよ、もっと引き付けて』
 怒涛となって押し寄せるキメラ。磐石の守りとなって待ち受ける人間。
 決戦の火蓋は爆音で落とされた。
 感圧式地雷が作動、空中に飛び上がった爆弾が全方位に飛び散る。あるいは、700粒の鉄球が扇形に飛散し、キメラたちに直撃する。
『ってぇぇええええ!』
 号令は銃声ですぐさまかき消された。曳光弾が闇と獣の中に吸い込まれていく。
 撃てば当たる、狙いも定めぬフルオートでの一斉射撃。
 だが止まらない。
 転げ落ちたゴブリンを弾き飛ばし、足を失った狼を踏みにじり、傷ついた『仲間』を踏み台に。
 止まらず、襲い来る。
『リローディング!』
「いっくでぇ!」
 装填の合間に塹壕から伊達と月城が飛び出した。2機のリンドヴルムは悪路をものともせずに加速し、敵に接近した。
 伊達の竜の爪を乗せたファングが閃き、狼を三枚に卸す。その勢いを殺さずに地面に手を突き刺すと、そのままウィンドミルで周りのゴブリンを薙ぎ払った。
 しかし体勢が崩れた隙を見逃さず、新たな狼が伊達に飛び掛った。
 刹那、光の糸が走ったかと思うと、狼たちの身体が爆散する。
「油断するな、伊達」
 リンドヴルムによる加速を乗せた、蛍火による神速の一閃。
 二人に怯んだ敵は、方向を変えて攻めようとした。
「行かせるわけにもいかないのでな‥‥」
 その前に、藤村が立ちはだかった。疾風と迅雷の二刀を抜くと、敵の攻撃を舞うように回避しながら、すれ違い様に急所に一撃叩き込む。
 数秒した後、敵は自分の出血で斬られたことに気がついたのだ。
 ならば、と思ったのか、藤村を3匹の狼が囲みこみ、同時に飛び掛ってくる。
「釣られたな、やれ緑川。食い放題だ」
「腕のいい囮役がいてくれると狙撃屋は楽でいいよ」
 土嚢で守られた銃座で、緑川はプローンポジション――伏せ撃ちの姿勢で待っていた。
 SMGをフルオート、15発の弾丸が敵の命を奪う。

「いくよ、ウェンディゴ」
 ミカエルと呼応した伊鷹も、3人の前衛を抜いた敵を逃さず、竜の瞳で狙い撃つ。
 的確に頭蓋に銃弾を叩き込まれた狼はどうとその場に倒れこみ、その勢いで放り出されたゴブリンは鋼の拳で粉砕された。
「負けてられませんね」
 ジャウザールも真デヴァステイターとエナジーガンを使い分け、ヒット&アウェイで敵を翻弄する。無論、戦いながらも無線の情報を聞き取ることを忘れない。
『ガガフガガァガガイガガヤーガガ!』
 鬼非鬼の声と友にガトリング砲の発射音が鳴り響く。改造を施された銃身から飛び出した銃弾は、敵の血肉を吹き飛ばすと同時に燃え上がらせた。
 撃ち抜かれた狼たちは蜂の巣というより、失敗したステーキのようだ。
「リロード!」
 150発を撃ち切った鬼非鬼が塹壕に引っ込むと同時に、リンクが銃座につく。
 両手に持ったスコールが火を噴くと、30発の弾丸が弾幕を貼る。
 近づけないとふんだゴブリンたちは弓を引き絞り放つ。
 風を切って飛んできた矢を、リンドヴルムの装甲で逸らす。すぐさま反撃とばかりに、改造を施した小銃ルナで弓兵を狙い撃った。
「狼は任せて、弓兵を狙って」
 兵士たちに指示を出すとハンドサインで返事が返ってくる。再装填し終えた鬼非鬼も加わり、銃弾の雨が再び降り注いだ。
「こっちもおっぱじめましょうや」
 FNMAGを取り出したマークに、柚井は頷きながらM−121を構えた。
 ジョージのM4A1に取り付けられたグレネードが発射される。爆発に足を止めた敵たちに、二人の掃射が打ち込まれる。
「瑠亥さんに負けていられませんね」
 クルメタルで敵を撃ち落していた優は、リロードのタイミングを計って塹壕から飛び出す。
 月詠を抜刀し、闇を切り裂くように一閃。眼に見えぬ一撃は空気をも割り、真空波がキメラたちに襲い掛かる。
「逃しません」
 優の太刀を避けようとしたところを、柚井の銃弾が逃さずに狙い撃つ。
「無理は、しすぎないでくださいね‥‥」
 近くの敵を一掃すると、援護を受けながら再び塹壕へ戻る。この繰り返しで敵を撃退していった。
「さて、ナースから戦女神にジョブチェンジする頃合ね。皆おねいさんと頑張るのよ!」
 ガトリング砲を構え覚醒した藤田は、北側の弾幕の手薄な場所へ加勢する。
「包囲網阻止は私の十八番だよ」
 横射で迫り来る敵を薙倒す藤田の姿は、戦女神と言うよりアマゾネスという言葉があっていた。
 傭兵たちの活躍で包囲は辛うじて免れていた。その間にクラウは治療に専念する。
「治療を頼む、すぐに戻らないといかんのでな」
「はい、‥‥癒しの光よ」
 胸のペンダントに触れて覚醒し、藤村に超機械を向けて練成治癒を施す。
「クラウディア、こっちも!」
「はい!」
 今度は西側の鬼非鬼の近くへと走り治療、次は東の柚井へと、息つく暇もなく動き回って治療する姿はまさに救護兵の鏡だ。

「リロード!」
『フラッシュ!』
『東側に主力が移動した、援護可能な者は向かって!』
『西側にも5匹増援。対処しきれないわ、増援よろしく』
『負傷したら早めに中央へ戻ってきてください!』
 無線と叫び声、銃声と爆音が交錯する。
 瞬間最大火力では、完全に勝っている。だが、敵の数は一向に減らない。
 傭兵たちの心に生まれた不安は、着々と大きくなりつつあった。

●残弾0、残るは魂のみ

「皆さん、固まってください!」
 クラウディアの悲鳴に近い声が上がる。傭兵たちはじりじりと、しかし確実に追い詰められていた。
 弾薬が切れ、疲労で動きが鈍りはじめる。刃は血と油で斬ることもままならず、拳は上手く開くこともできずに握ったままになっていく。
「はぁあああああ!」
 リンクの竜の咆哮を乗せたリジェクションの一撃が、近づいてくる狼とゴブリンをまとめて吹き飛ばした。後続の敵を巻き込んで転がっていく。
「スタングレネードを使う! 対策してくれ!!」
 緑川が叫ぶとともに、皆塹壕へ身を隠し、耳を塞ぐ。閃光と轟音がキメラたちの三半規管と網膜を焼ききり、吐き気を起こす。ひるんだところを伊達、月城、伊鷹のドラグーン3人が拳で頭を潰していく。
「こちらも弾切れです‥‥」
 ジャウザールはクロックギアソードに持ち替えて、力任せに振り下ろした。
 藤村も肩で息をしながら、既に切れ味を失った疾風迅雷を離さぬよう、包帯で握力のなくなった腕に縛り付ける。背中を合わせて優も月詠を握る手の振るえを抑えた。
「爆風防御!」
 ウォンの声と共に、仕掛けた最後のC4がキメラたちの中で爆破した。
 煙が視界を奪う。やったか、という淡い期待は、すぐさまそこから飛び出してきた新手の姿でかき消された。セドナの最後の銃弾がその命を奪う。
「救助は?」
「まだだ‥‥」
 いまや完全に180度キメラに囲まれてしまっていた。誰か一人が倒れてもそこから全員がやられてしまう、そんな危うい状況。
「見てられないな‥‥」
 震える声で呟いたのは、瀕死の傷で横たわっていた負傷兵たちだ。各々手にはスコップやらナイフを持って、互いを支えあうようにして立ち上がる。
「無茶です、その身体じゃ」
「立てるなら戦える、戦わずして食われるくらいなら、1匹でも地獄へ道連れだ」
「女神様たちにゃ‥‥手をださせない、ぜ」
 最後の命の炎を燃え上がらせる彼らに、傭兵たちも再び士気を上げた。
「首だけになっても動くのが鬼よ‥‥まだまだ動くこの五体、動かなくなるまで戦ってやる」
 最後の閃光手榴弾を投げると、鬼非鬼はゴブリンを掴んで振り回し、周りの敵を薙倒す。
「このまま終わらせるんやったら、あかんねぇ。ラストホープに戻ってこそ、意味あるんと思わな」
 気力を振り絞りながらの伊達の言葉に、柚井も強く頷いた。
「最後の大博打といくか」
「ま、いつもそれで勝ってますからね」
 窮地に立っても軽口は減らないのは、軍人も傭兵も同じかもしれない。
 死力を振り絞り、死中に活を求め続ける。それはこの小さな戦場でも、人間とバグアの戦いでも同じことだ。
 諦めるわけには、いかない。

 そのとき、雲の合間から光が差し込んできた。
「‥‥朝日か?」
 呟いて空を見上げた月城の眼に、確かに映った。太陽の輝きの中に、浮かぶ数個の影。
 すぐさま照明銃を取り出して空へと打ち上げた。
『目標確認。周辺のキメラへ攻撃開始します』
 武装ヘリから地対空ミサイルが発射され、林の中のキメラたちを消し飛ばす。
 鼓膜が破れそうなほどの機銃の掃射音が、これほど心地よく聞えるのは初めてだった。
 血飛沫となって散乱していく仲間を見て、狼もゴブリンも我先にと雲の子を散らすように逃げていった。
『ジョージ大尉、傭兵の諸君、お迎えに上がりました』
「よし、負傷者を先に!」
 護衛ヘリから別チームが降下し、残った敵を殲滅していく。それを見て傭兵たちはその場に崩れ落ちた。
 誰からかわからない、笑い声が上がる。乗り越えたのだ、この地獄を。
「あは、だから言ったでしょ? 大丈夫。って」
 クラウディアがヘリに乗せられていく兵士に笑顔で言った。兵士も顔を歪めて、親指を立てて返す。
「ほら、皆乗った乗った! もたもたすると撃つわよ」
 鬼非鬼の声で、皆重い腰を上げる。援軍にきた兵士に肩を貸されてヘリへ乗り込むと、すぐさまヘリはその場を離れた。
「なかなかに厳しかったが‥‥悪運は切れてなかったようだな」
 手を縛った包帯を救護兵に解いてもらいながら、藤村は深く息を吐いた。
「もう二度と包囲戦なんて御免ですね」
 ミカエルをやっとの思いで脱ぎ去った伊鷹はため息交じりに呟いた。
 前線基地が完全に視界から消えると、ジョージは傭兵たちに視線を移して言った。
「皆、よくやってくれた。帰ったら一杯奢ろう」
「ありがたいけど、何より熱いシャワーが先」
「丸一日まともな飯食べてないんだ。腹いっぱい食わせろ〜!」
「後清潔でふわふわなベッドもな」
 傭兵たちの要求に苦笑いしながら、ジョージは外を指差した。
「わかったわかった。‥‥見ろ、いいものが見えるぞ」
 太陽が大地を照らしていく。
 一昼夜続いた戦闘。助けられた仲間。失った仲間。地獄のような戦場。
 それでも、傭兵たちの瞳に映った朝日は、ただただ美しかった。
「ありがとうよ、戦友たち」
 それは傭兵たちへの言葉だったのか、それとも散っていった者たちへの言葉だったのか。
 ただ、傭兵と兵士の間に少なからず絆が生まれたことは疑いようがなかった。

 任務、完了。