●リプレイ本文
●2008年2月3日 AM12:00
●玄関
田中家上空をヘリが旋回する。決戦の火蓋は切って落とされた。
「ゴーゴーゴー!」
暁軍曹の号令とともに傭兵たちはヘリから降下する。
「おっしゃぁ! 思う存分豆投げまくってやるぜ!」
「やるからには本気で楽しむぜ♪」
蓮沼千影(
ga4090)と緋沼 京夜(
ga6138)の沼沼コンビは玄関から堂々と侵入を試みる。
トラップも気にしない覚悟で蓮沼が勢いよくドアノブを掴むと、そのままノブごと取れてしまった。
「へっ?」
気勢を削がれ、気の抜けた声が思わず蓮沼の口から漏れた瞬間、ドアノブに結ばれた紐が切れ、お笑いの基本である金ダライが頭を直撃する。
「後ろの正面だーれだっ!!」
さらに二人の背後を庭に隠れていた後の鬼が、スポンジの金棒を振り回し襲い掛かってきた。
「鬼さん、みっけ♪ 豆ガン連射連射連射ぁ!!!」
ぽかぽかと鬼に殴られながらも、緋沼は豆鉄砲を抜き連射した。
「甘い。 秘技、背壁の陣」
沢村がくるりと向きを変えると、背負った戸板が緋沼の豆弾を弾いた。
「か、壁を背にして戦えとはよく言うけど、戸板を背負って戦うなんて‥‥」
二人が呆れている間に後の鬼は庭へと退避してしまった。
●屋上
「ふはははは! 節分戦隊福神ファイブ参上!」
玄関先で豆弾が飛び交う頃、屋上に暁と新条 拓那(
ga1294)、ヴォルク・ホルス(
ga5761)の3人が降下した。
「うぉっ!?」
だが、すぐさま足元を掬われる。屋上には先日の雪を利用したすべる罠が張られていた。
「気をつけろ、相手は武装の差をトラップで埋めるつもりだ」
「了解、ってこっちも!?」
屋根を登り子供部屋へ侵入しようとした新条だったが、屋根にはサラダ油が敷かれていた。
ホルスが開錠を試みようとしたドアノブにも整髪料が塗りたくられている。
「こりゃ鬼は後片付けに難儀しそうだな」
ギターを奏でる繊細な手つきで何とか開錠し、3人は二階へと侵入した。
「うお、なんだこりゃ」
新条が驚くのも無理はない。階段にはワックスやガムテープの罠がこれでもかと仕掛けられていた。
『くっくっく、かかったな』
どこからともなく聞こえてくる邪悪な声とともに、三人の足元にビー球が撒かれる。
「くそっ」
足を取られてホルスが階段の手すりを思わず掴むと、油が塗られていてさらに態勢を崩し、運悪く階段を転げ落ちてしまう。
だが落下しながらも階段の天井に潜んでいた黒鬼へ豆弾を浴びせる。
「上か!」
態勢を立て直した新条と暁が黒鬼を狙うが、扉を開け子供部屋へと逃げ込んでしまった。
開錠して子供部屋へと入ったときには、すでに黒鬼の姿はない。
『福さんこちら、手の鳴る方へ♪』
代わりにどこからともなく、可愛い声が聞こえてくる。声はどうやら押入れの中から聞こえてきていた。
「そこか!」
新条が忍び足で押入れに近づき、戸を引いた。途端に目の前を真っ白なクッションで覆われる。
「あははは、かかった〜♪」
押入れに隠れていた鬼っ娘がクッションの下敷きになった新条を踏みつけて出てくる。
「逃がすか!」
暁軍曹が鬼っ娘を狙って豆を撃とうとした瞬間、部屋のクローゼットに潜んでいた黒鬼が飛び出してくる。
「ちっ」
「悪い子だ、人の部屋に勝手に入るとは」
暁を羽交い絞めにし、クッションの上へ押し倒した。
●トイレ
「よし、開いた」
畑側からトイレへ近づいたラシード・アル・ラハル(
ga6190)は開錠に成功した。
流石の鬼もトイレには罠を仕掛けなかったらしく、抵抗もなくすんなりと中へ入ることができた。
気配を消し、トラップの危険性のある床・天井・扉に注意を払いつつ、ワックスとガムテープのある廊下を進み仏間へと入る。
仏様の前では鬼も避けて通るのか、ここにも罠は設置されていなかった。
仲間への支援へ向かおうとしたとき、背後に気配を感じ、振り向きざま二丁の拳銃を抜きはなった。
そこへ交差するようにスポンジの金棒が振り下ろされる。
「容易く背後を取られるとは、甘いぞ小僧」
ラシードを襲ったのは、運悪いことに山崎軍曹だった。ラシードの眉間に金棒が、山崎軍曹の胸に銃口が突きつけられる。
寸止めされた金棒に力はない。零距離射撃の可能なラシードのほうが圧倒的な有利のはずだ。
だが、山崎軍曹の鬼の形相と鋭い殺気が、ラシードの心を恐怖させた。
「仏間には鬼も近づかない、とでも思ったか?」
「お‥‥おには、そとぉぉぉ!」
膠着に耐え切れず、ラシードはトリガーを引き絞る。が、それより先に山崎軍曹はさらに前進し、ラシードの重心を崩した。
崩れた重心を直そうとする自然の動きに合わせ、合気道の「転換」と呼ばれる体捌きで射線をはずし、さらに腕を捻りあげ銃を奪う。
一瞬で窮地へ追い込まれたラシードの目に涙が浮かぶ。瞳を潤ませ上目使いで山崎軍曹を見ると、軍曹は眉間に皺を寄せた。
「四つのタマを持ってるなら、そんな真似するな。‥‥訓練も実戦経験も足りていない。単独行動するにはまだ早い、信頼できる相棒を見つけるんだな」
言葉とともに、奪った銃が見る見る間に分解される。復元ができないように一部の部品を残して、全てバラバラにされてしまった。
もう片方の銃も分解されてしまうかもしれないという思いで、再び狙うことができなかった。
「実弾なら、負けないんだけどなぁ‥‥」
「実弾なら背後をとられた時点で死んでいる」
その時、二階から大きな音と振動が伝わってきた。山崎軍曹はラシードを置いて窓を開くと、塀を足場に二階のベランダへと飛んで消えた。
「なんでこんな目に遭ってるの僕?」
●一階
「いつつ‥‥」
階段にぶつかった部分をさすりながら、ホルスは立ち上がった。周囲を確認すると、廊下にはバナナの皮が散乱している。
「いくらなんでもこんな罠にかかるわけが‥‥」
ない、と言おうとした時、ホルスの視界にあるものが入ってきた。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ‥‥」
くすくすと微笑んでマヨネーズを握っている、鬼姫がいた。
「え、ああああ‥‥!」
好意を抱く鬼姫の出現に烈しく動揺したホルスは、後ずさりして思わずバナナの皮を踏んでしまう。
天地が逆転し、再び廊下に倒れたホルスに、鬼姫は笑顔でマヨネーズを噴射した。
「隙あり、ですよ♪」
玄関から侵入に成功した蓮沼と緋沼は、罠にかかりつつも居間にたどり着いた。
「ホルスがやられてるけど」
「‥‥助けなくていいんじゃないか?」
二人の目には、顔はマヨネーズだらけになり、特製青汁を口と鼻から流し込まれても、やられているホルスはどこか幸せそうに見えた。
「他の鬼を見つけよう、緋沼、洗面所のほうを頼む。俺は台所を調べる」
「了解」
緋沼は洗面所の奥へ、油を染みこませた足拭きマットをどかして進む。洗面所には黒鬼の罠で水の代わりに酢が張られていたのを、匂いで気づいた。
「特に異常は‥‥」
ない、といいながら風呂場を調べようと扉の前に立ったのが、運の尽きだった。
突然風呂場の扉が開き、四本の腕で中へと引き込まれる。
「え!?」
「HaHa! やっとミーたちの出番だな!」
「YEAH! ブラザー緋沼! ようこそ鬼の湯へ」
風呂場の中には鬼の面に赤褌の赤鬼と白褌の白鬼二人組み。緋沼は羽交い絞めにされて身動きとれなくなってしまった。
「おい!? なんでこんなところに」
「ソーリィ、緋沼。これも仕事だ。恨むなよ?」
にやりと笑みを浮かべると、水を染みこませて重くなったスポンジ金棒を握り締めながら近づいてくる。
「や、やめろって‥‥それはキツイ」
おびえながら豆銃を乱射するが、二人とも身体にボディシャンプーを塗ってあり、弾が滑ってしまう。
「ちょ、まて‥‥アーッ!!」
「あっ」
台所の戸を開けた瞬間、蓮沼と、戸棚の前に立っていた鬼っ娘の目があった。
「‥‥」
「‥‥」
二人の間にしばし沈黙の時が流れる。どちらも相手の目を見て、動きがとれずにいた。
蓮沼の視線が鬼っ娘の手に移った。しなやかで繊細な指の先に、餡子ともち米で作られた日本伝統の食物、おはぎが握られていた。
視線の動きに気づいたのだろうか。先に動いたのは鬼っ娘のほうだった。
「福さんこちら、手の鳴る方へ♪」
挑発とともに素早く身を翻し、書斎へと逃げ込む。
「待て!」
捕まえようと書斎に踏み込もうとしたとき、今までの自分の行動が脳裏に浮かんだ。このまま追えば、また相手の仕掛けた罠にかかることになる。
「そう何度も同じ手を食らってたまるか」
それより気になったのは、鬼っ娘の持っていたおはぎだ。おはぎを食べようとしていた所を見られた、気まずそうな鬼っ娘の顔。
罠を警戒しつつ戸棚を見ると、大皿に山盛りになった、美味そうなおはぎがあった。
脇に置いてある紙にはこう書いてあった。
『傭兵の皆さん豆撒きありがとうございます。豆撒きと掃除が終わったら皆さんで召し上がってください。田中」
鬼っ娘の表情はつまみ食いがばれたためだったのか。小さな疑問が解決すると、腹の虫がないた。そういえばもうお昼過ぎだ。
「鬼に食べられる前におはぎをちゃんと確保しておくのも、福の役割だよな。あの娘も食べてたし、一個くらい大丈夫だろう」
一口サイズのおはぎを手にとり、口の中に投げ込んだ。
口の中に餡子の素朴な甘みが‥‥?
「辛〜〜!」
甘みの代わりに広がったのは、強烈な痛みと燃えるような辛さ。
それもそのはず。これは鬼姫と鬼っ娘が作った激辛おはぎだったのだ。餡子の中身は唐辛子とわさびの塊。
わざわざ手紙まで偽装して一芝居うち、蓮沼はまんまとその罠に嵌ってしまったというわけだ。
「水、みずぅ」
すぐさま流しの蛇口を回すが、いくらまわしても求める水は一滴も垂れてこない。
口の中の激痛に耐えながら洗面所へと向かう。そして‥‥。
「そんなに水が欲しいデスカ〜?」
「欲しい、って、うわあああ」
鬼の湯の犠牲者がまた1人。
●二階
黒鬼がワイン色のネクタイを片手で緩める。
もう片方の手で暁の両手首を掴んで自由を奪い、馬乗りになって動けないように。
「軍曹殿はどんな声で歌ってくれるのかな‥‥?」
一言で女性を酔わせるような美声で囁きかける。普通の女性なら心がぐらりと揺らぐところだ。
だが、相手が悪かった。
「生憎だったな。私は煙草を吸う男が、大嫌いなんだ」
刹那、黒鬼の体が宙を舞った。丹田から腰へ力を出して、黒鬼の体を浮かせる。合気道の『呼吸法』の一種だ。
さらに浮かび上がった黒鬼の股間に膝蹴りを叩きこみ、巴投げの変型でそのまま投げたのだ。
「私を押し倒したかったら、単機でシェイドを堕としてから来るんだな」
「言っただろ、女だからと言って甘く見るな、と」
暁が振り返ると、ベランダの窓を開けて山崎軍曹が部屋の中へと入ってくるところだった。
「訓練所のときから少しはましになったようだな、暁」
「山崎軍曹‥‥いや、山崎。このときをどれだけ待ち望んだか。合法的にお前と戦える、このときを!」
二丁の豆銃が豆を吹いた。片方は頭と心臓の急所を狙って。もう片方は弾幕を張るように。
スポンジの金棒が空を裂いた。打ち出された豆弾を打ち返し、同時に飛来する豆弾を防御するように。
狭い室内にかかわらず、縦横無尽に駆け、跳ね、舞う。まるで映画のガンアクションを見ているようだ。
「‥‥手出しは無用、といったところか?」
「とりあえず、どいて」
クッションの上に倒れる黒鬼と、下に埋まる新条には、ただのいい迷惑だった。
●庭
気を取り直して銃を構えるラシード。仏間から客室へと移動し、ふと庭に視線を移動させた。
同時に、自分の目を疑う。庭に蠢くでっかい戸板。
『危ない! 後ろだ!』と墨で書かれた文字に、先ほどの不意打ちを思い出し、つい後ろを振り返ってしまう。
背後に誰もいないことを確認し、ほっと胸をなでおろした。
「うわっ!?」
振り向くと、戸板が目前へと近づいていた。
「秘儀第四段、最終式迫り来る壁」
戸板の裏で冷淡な声の呟きが聞こえた。素早く近寄ってくる戸板は確かにそれなりの迫力がある。
『ガンッ』
問題は、後ろ歩きしかできないこと。ガラス戸を開けられず縁側の段差にぶつかってしまった。
バランスが崩れた隙を逃さず、ラシードはガラス戸を開けて戸板を踏みつけた。
「く、しまった、身動きがとれん」
頭から足までカバーできる戸板は、倒れると簡単には立つことができない。
無防備に仰向けになった後の鬼目掛けて、軍曹にやられた鬱憤を込めて。
「鬼はそとぉぉぉぉお!」
豆銃から22発と替えのマガジン2本分の豆弾が乱射される。
「こんなところでやられるとは‥‥無念。ぐふっ」
後の鬼が芝居かかった台詞を吐いてがくっと倒れる。ラシードは小さく自然な笑みをつくった。
「鬼、倒したぞ〜!」
小さな勝利の雄たけびが庭であがった。
その後は、泥沼試合だった。
初めこそどんどん罠を見つけていこう、という方針から罠に翻弄されていた福たちだったが、一度罠が作動してしまえば二度かかることはない。
さらにビー球やバナナの皮、福の撒いた豆がそこら中に散乱し、身動き取れなくなる。
風呂場では束縛から逃れた蓮沼と緋沼が、贈り物の石鹸一箱使って風呂場の赤鬼と白尾にに反撃を開始。
ホルスは鬼姫についに激辛おはぎを食べさせられて手作りの料理を食べられた嬉しさと辛さから涙し。
新条は黒鬼と一戦交えるが、山崎と暁のバトルの流れ弾を食らって。
結局雌雄を決せずに作戦終了時刻の13:00に近づきつつあった。
「潮時だな」
山崎軍曹がそういって金棒をおろした。
「何のつもりだ?」
間髪いれずに暁が山崎の胸に銃口が突きつける。
「十分楽しんだだろ。『鬼部隊、作戦C。引き上げだ』」
山崎の無線に答えて、鬼たちは田中家から出て行く。
「貴様、逃げるつもりか」
「鬼は外、福は内。『任務を忘れるな』そう教えたはずだ、暁」
山崎は暁に背を向け、ベランダへと出る。暁は銃を背中へ狙いすまし、構えたままだ。
手すりに手をかけて飛び越え、そのまま家の塀を越えて外へでた。
「緊迫したけど面白かったぜ! いい汗流せたし、な!」
蓮沼が豆を数えながら口へ運ぶ。まだ口の中がひりひりするが、豆の味をかみ締める。
「お疲れさん‥‥なかなか楽しめたな」
ある意味一番楽しんでいたホルスが、微笑を浮かべながら答えた。
「楽しかった‥‥また、やりたいな」
ラシードも満足したようにつぶやいた。
その後、暁軍曹の提案で福も掃除を手伝うことになった。
地方によっては、豆撒きの掛け声が違う。
「福は内、鬼も内」
と、鬼も福も内へ入れて無病息災を祈ることもあるのだ。
素敵な福と鬼たちに、今年一年の健康を。