タイトル:アヴェンジャーズマスター:夕陽 紅

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/25 21:39

●オープニング本文


『ソレ』は、潜んでいた。
 ただし、暗闇にではない。物陰でもない。それが潜むのは、ただ、人混みの中であった。
 何故なら、『ソレ』は人であったからだ。少なくとも、ヒトガタはしていたし、人混みに紛れるに足る知能も持ち合わせていた。獣のように唸ることもなく、狂人のように騒ぐこともなく、『ソレ』はひたすらに待っていた。
 何を。
 敵を、そして機会をである。
『ソレ』は飢えていた。
 しかし、その飢えを満たせば、己の命が最早長くは続かないことも理解していた。
 しかしいらない。
 永らえる必要などない。
 全てはあっという間にケリがつく。
 目の前の命を、頂くだけ。
 出てきた。あいつがいい。人混みに紛れるように、『ソレ』はするすると獲物に近付く。六十絡みの、いかにも裕福そうで、いかにも幸福そうで、いかにも人好きしそうな笑みを浮かべた初老の男。『ソレ』が無造作にふらっと近寄っても何も怖がらない。『ソレ』は殺気を押し殺す術は心得ていたし、人が多いこの街では、多少見慣れない顔であっても不審に思われることはない。
 懐からナイフを取り出す。やや大振りだが刃物を扱う店ならどこでも買えるアーミーナイフだ。
 叫ぶこともしない。戦意はいらない。
 これは作業だ、と『ソレ』は静かに思った。あえて無造作に近付き、後ろから、其処だ、ナイフを、突き立てる。
 獲物は叫び声を上げた。血の塊を口から吐き出して、多分胃にも傷が付いたんだな。煩い。刃を抉って傷口を広げて、肝臓をめちゃめちゃにしてやった。やってやった。惨状に気付いて辺りは騒然となる。煩い。別に取り押さえようと襲い掛かってきたところで物の数ではないが、もっと厄介な存在が来るかもしれない。だめだ、それは今では駄目なのだ。
 永らえる必要はないが、まだまだ残っている。こいつらを、獲物を狩るまで。
 騒ぐ群衆を尻目に、『ソレ』は、姿を消した。否、消えたと思う程の早さで20mほどの距離を移動したのだ。そしてもう一度地面を蹴ると現場から完全に姿を消し、そして何食わぬ顔で返り血を浴びた服を着替えると、再び群集に溶け込んだ。 ‥‥安物のアーミーナイフは、刃が欠けてしまったので駄目だ。違う武器を調達しないと。
 携帯電話を取り出す。勿論番号はいわゆるトバシだ、足は付かないし、そもそも『ソレ』、いや、私には付く足などない。
 ふ、と一息付くと、私は電話をかける。仲間の首尾はどうなのだろうか。

「‥‥マイブラザー、首尾はどう?」
『上々だよ、マイシスター。ついさっき頭を吹っ飛ばしてやった。あいつらの行動なんてすぐにわかる』
「そうね、マイブラザー。でも、くれぐれも気をつけて」
『わかってるよ、マイシスター。でも、君も気をつけてね。それじゃ、愛してるよ』

 首尾は上々、だったようだ。仕方がない。それこそ何年も、私達は傍で眺めてきたのだ。彼らの動向、警備や警戒の隙など、探ればいくらでもある。
 
 さて、とはいえ、ただ獲物を狩るだけではダメだ。それだけでは、私達の目的は達成できない。
 古典的だが、新聞を切り抜いて怪文章を作り上げた。

『現代のプロメテウスよ、死すべきときが来た。 次の襲撃は○月×日』

 これでいい。
 ただ襲うのでは足りない。もっと先が必要なのだ。
 これも証拠になるか、と私は手のひらに少しだけ残る血糊を、手紙に擦り付けた。
 さぁ、こちらは2人、残りも2人。丁度良い。私達の絶望的な旅路にはピッタリだ。獲物達よ、せいぜい怯えて待っていろ。

●参加者一覧

如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
ティム・ウェンライト(gb4274
18歳・♂・GD
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER
鳳 勇(gc4096
24歳・♂・GD
天野 天魔(gc4365
23歳・♂・ER

●リプレイ本文

●社長の姿

「それでは皆さん、今日はよろしくお願いします。いや、何とも恐ろしい‥‥」
 ハンカチで汗を拭きつつ傭兵達に向かうのは、白髪の老紳士だった。腰も低く一会社の社長らしからぬ態度だが、卑屈という印象は無い。
「お任せください。一先ず、今日のスケジュールを妨げない範囲での行動案は提示させて頂きます」
 そうやって社長と握手を交わす終夜・無月(ga3084)は、前日に予め予定と照らし合わせた行動を取り、一つ一つ不安要素を確認し潰していた。その旨を伝えると、社長はやや安心したように溜息を吐くと、仕事に就こうと歩き出す。
「社長、今日は俺‥‥こほん、私が秘書の振りをしてボディガードに当たらせて頂きますね。宜しくお願いします」
 そう言いながらティム・ウェンライト(gb4274)は、歩く社長に随伴する。彼はその有り余る女の子らしい顔を利用して、秘書として振舞うらしい。女性らしい膨らみを作ることを利用して武器や防具を隠すことも出来、実に理に適っているようだ。
「‥‥くっ、これも仕事の為。我慢、我慢」
 ただ一つ、男である彼のプライドをいたく傷つけることを除いては、だが。
 社長室に到着して後、社長は黙々と作業を続けていた。見ている限りにおいて不審な点は無い。社長自身も特に傭兵達の動きを制限することはなく、一見温和な紳士といった風情。
 とはいえ。
「‥‥やはり、状況を見る限りでは裏がありそうだ。どうしようかね」
「さて、何かキナ臭さは感じるが‥‥企業に何か、後ろめたい事でもあるのかね?」
 入り口の傍に立つ2人、天野 天魔(gc4365)とアレックス(gb3735)は、小声で話し合う。天魔は事前に怪文書の指紋の捜査を願い出たが、結果が出るには時間がかかるとの連絡を受けた。モンタージュについても同様である。
 疑いは深まるが、さりとて確たる証左があるわけでもない。社長が判を押す書類に関しては、かれこれ1時間程アレックスが隙を伺っているものの、席を外すこともなく手を出せずにいる。
 他の面子も行動の模索はしているようだが‥‥
「あぁっ、すみません! つい手がっ!」
 どがしゃーん、とわざと手を滑らせた美人秘書ティム、拾い集めようと慌ててかがもうとするのを制して自分で書類を拾う社長は、怒っていませんよ、と言いながらも不審げな眼差しを向けていた。
「‥‥何をやっているんですか」
 無月が頭を振って溜息を吐く。
 護衛任務は、まだまだ難航しそうである。


●主任の姿

 一方此方は、開発主任の護衛である。
「今回、護衛の任を受けた傭兵だ。今日一日宜しく頼む」
「ん? あーハイハイ、傭兵さんネ! ヨロシクヨロシク。あ、先に言っとくけど研究室のものには指一本触らないよーニ!」
 鳳 勇(gc4096)の挨拶に対して握手で応じた主任は、長い髪を適当に括って丸縁眼鏡をかけたとっぽい男。彼はそれきり傭兵達に興味を失ったようにあっちに行ったりこっちに行ったりとせわしなく働き始めた。
「‥‥まるきり典型的な、研究第一の人みたいですね」
 呆れたように肩を竦めたのは春夏秋冬 立花(gc3009)だ。彼女が見取り図の申請をした所、主任はといえばイーヨイーヨ持ってきなヨ100枚でも200枚でも、といった感じ。見られて困るものはないということなのか、見られても良いという自信なのか彼女には判断がつかなかった。
「ですが、襲撃者が送りつけてきた怪文書‥‥現代のプロメテウス。有名なフランケンシュタインの副題ですね。火のないところに煙は立たぬと言いますし」
「ええ。精々、彼の護衛ついでに真相は解き明かしたいところです」
 如月・由梨(ga1805)と辰巳 空(ga4698)は、互いに疑いの目を持って研究室を眺めている。由梨は、前日に全ルートを洗って護衛に関しての下準備は完璧にこなして来た。空はその正体について考えをある程度纏めていたが、確証が無い以上おいそれと口には出来ない。今の時点では、双方手詰まりである。
「――医療というと、人の体の研究なのか?」
 不意に口を開いたのは、勇。その研究に興味を持った調子で主任に軽く話しかける。
「ン? そうだねェ。勿論そう、人の体とは実に面白いものダ。今、中でも僕が一等興味があるのハ」
 と、ここで口を切ると彼は急にぐるりと首だけ振り向き、実に厭な笑みを浮かべた。
「君たち能力者の体なんだがネ」
「‥‥光栄ですね」
 答えつつも、由梨はおぞましいと感じるのを止める事が出来なかった。そして恐らく、その思いはその部屋の傭兵全員が共有したものだろう。
 事実はどうであれ、この男の精神は間違いなく、フランケンシュタイン博士となり得るものだと。


●研究施設にて

 午前のスケジュールを消化し、社長と主任は合流。能力者達は一同に会し、情報共有を終えた所だった。その面持ちは、一様に神妙なものだった。その理由は、立花が護衛の補強の為と語り行った隠密行動の結果。
 持ち場を離れることの出来た時間は15分程。時間のせいで出来た事は立証に十分とは言えないが、疑いを確信に変える材料を彼女は集めてきた。
「お待たせ致しました。それでは移動致しましょう‥‥いかが致しました?」
 突き刺さる能力者達の視線に戸惑う社長。
「――襲撃者に心当たりはありますか?」
 無月が尋ねるのに対し、さて、と首を傾げる社長。
「それが判れば対処法も増えたのですが、残念ながらお力添えできることを私は知りませんな」
「ほぅ、襲撃者は君の孤児院の関係者と警察から聞いたんだが、勘違いだったかな?」
 カマをかけようとしたのか、天魔がそう尋ねた。その瞬間、すっと社長と主任の目が細まる。
「おや、私はそんなことを伺っていませんが。憶測だとしたら、警察も杜撰な仕事をしますね」
 とりつく島も無く答えると、移動の準備をして下さいネ、と主任が言う。食い下がる訳にもいかず仕事に取り掛かる傭兵達を尻目に、社長が部下に何かの指示を出している姿が見えた。


●主任襲撃

 襲撃は、唐突だった。
 勇が、普段主任が使う車を運転し、会社の車庫に車を入れようとしたその時のこと。突然ガラス越しに一発の銃弾が叩き込まれた。
「襲撃‥‥!」
 幸いSES兵器での一撃ではなかったらしい。仲間にすかさず連絡を入れると扉を蹴って外に出る。
 今の一撃は、近い場所からの一撃だった。隠密潜行を使われたらしいととっさに当たりをつける。合流した由梨を始めとする3人は、当たりをつけた狙撃ポイントへと急行した。両名の探査の目と事前の下調べの成果である。
 辿り着いたのはとあるビルの一室。ライフルを抱えたまま、疲労困憊した様子で壁にもたれかかるのは黒髪の少年だった。年の頃は13歳ほど。
「あなたが狙撃手、ですか?」
「そうだよ‥‥やれやれ、君達ったらほんと優秀なんだもの。狙撃ポイント、片っ端から潰されちゃってさ。しょうがないから最後の一発にかけたら、ニセモノなんだもの。やんなっちゃう」
 問いかける空に億劫そうに頷き、少年はそのまま立って銃を構えようとする。
「闘うことは私にとって吝かではありませんけど、投降していただけませんか?」
 そう問いかける由梨に対し、ゆっくり首を振る。
「僕は見定めなくちゃいけないからね。君達が真実に辿り着いてくれるかどうか」
「貴方達には『理由』があるのでしょう? それを話していただければ、私たちにできることがあるかもしれません」
「そうかもね、でも君達にそれが出来ないなら、やっぱり僕はここで復讐を果たしたいのさ。無謀でも君達を倒して、誰か一人の体にあいつの居場所を聞く」
「証拠の一端は、掴んであるよ」
 それに対し答える立花。嘘を言っている様子が見えないことから、少年は軽く目を開く。
「‥‥驚いたなぁ。無茶するんだね、一歩間違えばどうなってたか」
「でも、気になったから。――貴方も生き証人なの。ねえ、それで納得して、こんな形の復讐は止めてよ」
 懇願する立花。しかし、少年は少し顔を歪めて唸った。
「納得? 僕等が受けたこの痛みは、僕等があいつらに返してやるしか道はないんだよ。君も同じ痛みを味わってみるといい、そうすれば判るから」
「そうは言っても、とてもそれが可能なようには見えないがな。悪いがお前らの為にも、今は大人しくして貰う」
 勇の言葉に‥‥まぁ、そうだね、とそう呟くと、一先ず答えを得たとばかりに再び崩れ落ちる。
「‥‥信じるよ、君達のこと。だから、僕と愛しい妹のことは任せる。‥‥あぁ、出来ればなるべく早く、『エミタ』のメンテナンスを受けさせてくれると嬉しいかな」
 最後にそう呟くと、緊張の糸が切れた少年は気絶した。


●社長襲撃

 主任襲撃の報を受けた30分後。社長は庭で子供達と戯れていた。
 アレックスと天魔は子供達から聞き込みを行っていたが、孤児院であれば養子に貰われていく子供がいるのは無い話ではない。研究を孤児院でする筈もなく、結局、子供からの証言のみでは証拠は得られなかった。
 傭兵達に護られながら社長は子供達と語らう、その輪にふらりと近付く一人の少女がいる。社長が少女に手招きしたその瞬間、高らかにクラクションが鳴り響いた。アレックスが予めしかけておいた不眠の機龍だ。即席の警報装置が捉えたのは、やはり情報通り13歳程の少女だった。
 とっさに身構える傭兵、少女は舌打ちをするとナイフを取り出し瞬天速を使用、襲い掛かろうとする。
「わたしから殺せば社長も怖がるわよ!かかってきなさい!」
「煩い、邪魔よ!」
 その叫びは、ティムの仁王咆哮だった。とっさにその声に釣られ標的を変えてしまう。そのまま突撃をかけるも、不壊の盾に阻まれ距離を取らざるを得ない。
 尚も戦おうとする少女だが、ティムが稼いだ時間を利用し前後を挟む二つの影が現れた。使うのは双方奇しくも同じ竜の翼。抉るような突きを燃える拳でアレックスが払うと、そのまま無月が少女を地面に引き倒し、取り押さえた。豪力発現によって得た力は元々の能力と相俟って凄まじく、少女は身動きが取れない。
「離しなさいッ!」
「そうは行かないな」
 答えるのは天魔だ。
「ただの襲撃ならまだしも、怪文書を送ったりと他にも目的がありそうだな、少女。狙いはなんだい?」
「それを貴方達に言う必要があるの?」
 それは元々の気質の違いか。先だって捕まった兄よりも、彼女は激しく憎悪を顔に現していた。
「あぁ。もし、これが何かの復讐だってンなら、俺はそれを止める! だが、違うなら‥‥答えろ、お前らは復讐がしたいのか?」
「そうね。でも、それだけじゃない。私達はね、護らなきゃいけないの。何が、なんて今は説明できないけど。どれだけ落ちぶれて、使い物にならなくなったって私達は」
「‥‥傭兵だから?」
 何故それを、と驚く彼女に、アレックスは皆が調査で得た精一杯の情報を彼女に伝えた。
「連中の悪事は、俺達が白日の下に晒してみせる。だから、馬鹿な事はやめて大人しくしてくれ」
「‥‥そう、期待して待って、‥‥っ」
 と語りかけたところで、少女は大きく喀血、そのまま二、三度咳き込むと意識を失った。
「死んではいません」
 押さえ込んでいた無月が呼吸を確認し一息吐く。とはいえ、なるべく早く搬送する必要がある。
「――これで、襲撃者は2人ですか。護衛の任務、果たしていただけて何よりです」
 急な事態に咄嗟に対応している傭兵達に、後ろから話しかける人間が居た。社長である。
「何やらこの少女は錯乱したことを言っていたようですな‥‥そしてどうやら、貴方達も残念ながら錯乱しているようだ。貴方達が語ったような事実は存在しない、そう、存在しないのです。『もはや』ね」
 好々爺じみた口調はそのままにそう社長が話す。どうやら、捜査中の一連の行動で警戒させすぎてしまったらしい。彼は言外に、既に手は打ってあると語っていた。
「どうも、この度は危険な襲撃者から私達をお守り頂き、誠にありがとうございました‥‥あぁ、主任の護衛をして下さっている方々にもそう伝えてくださいね。

「それと、もう一言、老婆心から忠告させて頂きますね。好奇心は猫をも、という言葉が御座います。人は分相応が一番幸せなのですよ」
 そうして老人は悠々と踵を返すと、引き続きビルまで彼らに護衛の任を任せたのだった。
 打つ手がないと屈辱に歯噛みをし、それでも絶対に暴くことを心に誓い、傭兵達は無事に任務を終えた。
 

●リザルト:一時停戦
「それで、彼らの様子は?」
 無月が訊く。
 依頼が終わってから数日、関係者は一同に集まり、話を聞いていた。
「まだ絶対安静、ですね。エミタの調整不備に加え、体の中もあちこち弄り回されています」
 自らも医者であるという空は、自分の見解も加えて話す。
「それにしても‥‥やっぱり、ULTの傭兵でしたね」
 そう呟くのは、立花。彼女が集めることができたのは主任の研究手記の一部と、いくつかの資料。そこに記されていたのは、能力者とエミタの身体リンクに関しての考察と実験の記録、いくつかの実験施設の在り処、読んでいるだけで胸焼けがしそうな代物だった。
 実験の内容は、未来研を介さない独自の能力者の開発。確かに能力者を生み出すノウハウが手に入れば、それは莫大な『商品』になるだろう。その資料はそう告げていた。そして、その成功するかも判らない実験の為に消費される命があることも。
 件の襲撃者の身元は、LHに着いて程なく判明した。半年前に失踪したと言う双子の傭兵だった。
「失踪前に、依頼を受けて出向し、死亡したという記録があるが‥‥十中八九、偽装だな」
 アレックスが拳を手のひらに打ち付ける。あの後兄が一度だけ目を覚まして語ったところによると、あの双子はサンプルとして色々な実験を課されていたらしい。その内容を思い出す度、義憤に打ち震える。
「とはいえ、違法に手に入れた書類である以上はこれを証拠にする訳にもいかないか」
 天魔は顎に手を当てて思案する。
「でも、これを足がかりにすれば‥‥悪事は全て暴けるかも知れないね」
 ティムが補足する。確かに、この情報を元に正規の手段で証拠を集められれば、事態は大きく進展するはずだ。
「その為にも、彼らには早く目を覚ましてもらう必要があるな」
 勇は呟く。突発的に湧き出たこの事案の生き証人。あの双子なら、何かを知っているかも知れない。
「ただでは、終わらせられませんね」
 由梨が、静かに決意する。今は悪意の手のひらで踊らされたまま、しかし反撃の手段を手に入れ、傭兵達は一先ずの幕を下ろした。