タイトル:欧州文化の旅・第一夜マスター:夕陽 紅

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/10 17:48

●オープニング本文


●発足は唐突に
「おう、こないだの番組、反響はなかなかだったみたいじゃないか」
「はぁ、どーもッス‥‥まぁ、ちょっと局のせいでドラマティックにされすぎた感じはありますけど、そこはそれ! ワタクシとしては、ひとつ夢の足がかりを作ることが出来ましてナニヨリナニヨリ」

 手をぱたぱたと振ると私ことユーリ・ハネカワ20歳独身は、しかしそれほどでもありますが! とばかりに手を振ってお茶目さをアピールするしがないテレビマンでございます。
 えー、以前はですね。傭兵の皆さんのご協力によりとっても素敵な番組を撮らせていただきまして。その甲斐あって企画者のわたくしにもお仕事がぼちぼち、回ってくるようになりました。今回もその打ち合わせということで、ですね。

「それでディレクター。伺ったところですと、とっても素敵な企画があるとのことで、こうしてワタシことユーリ・ハネカワは取るものも取らずすっ飛んで来た訳なのですけれどもっ」
 だからこそ私、今の姿すんげーてきとーです。ぶっちゃけジャージッス。失礼かな、とは思いましたが。今すぐ来いと言われたのではもう、着の身着のまま行かざるを得ないですよ。ペーペーの辛いとこです、はい。
「うむ、その企画なんだがな」
「ええ、はい」
「その企画なんだがな」
「はい、お聞かせください?」
「‥‥企画なんだがな」
「‥‥あの、でれくたー?」

 あの、気のせいでしょうか。目がらんらんと光ってるんですけど。

「実はな、今回も有志の傭兵を募ってだな? 立場や状況に縛られることのない素の状態の彼等の映像を取りたいと思っているんだ」
「はぁ、そらよござんす。それで?」
「番組名は『ラスホプどうですか』って感じでな。まぁ何だ、彼ら傭兵諸君には、まずヨーロッパに飛んでもらう」
「ほうほう‥‥それで?」
「レンタカーを用意して、2泊3日で出来る限りヨーロッパの観光名所を見てまわって貰おうと思うんだよ」
「あらまぁ、それまた楽しそうな!」
「行き先は全部サイコロを振って決めてもらう」
「‥‥それまた辛そうな」
 そんなの、うっかり離れたところが出ようものならひどい距離を急いで移動することになりますやね。
「ははぁ、傭兵の皆さんも災難ッスよねぇ、そんな企画に付き合わされて! あっはっはー」
「あっはっはー‥‥ん? 何を言ってるんだいハネカワくん。キミも勿論行くんだよぉ」
「‥‥はっ? えっ、でもちょっと、着替えとか色々準備とか」
「まぁまぁまぁまぁ」
「まぁまぁじゃないよアンタ?!」
「じゃじゃじゃ、とりあえずね、向こう行ってから考えようか」
「ちょ、待って、えっ、ほんとに僕帰らせてもらえないんスか?!」
「まぁまぁまぁ、ね? とりあえずほら」
「大体パスポートとかどうするんスか、俺のパスポート今家に」
「大丈夫ここにあるから」
「誰か警察呼んでっ!!」
「いいから、ほら、移動だって。次キミが何か企画した時、渡り付けたげるからさぁ」
「‥‥マジッスね? それ、ほんと忘れないで下さいよ?」
「大丈夫、大丈夫。さ、行こうか!!」
「‥‥先行き、不安だなぁ」

●参加者一覧

植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
セラン・カシス(gb4370
19歳・♀・DF
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
桂木穣治(gb5595
37歳・♂・ER
ゼクス=マキナ(gc5121
15歳・♂・SF
菜々山 蒔菜(gc6463
17歳・♀・ER

●リプレイ本文

●How Do You Like 『Last Hope』07:30 フランス パリ 凱旋門前

「はーい、オハヨーゴザイマス!」
 手を上げてやけくそ気味に叫ぶのは、今回の犠牲者一号、ユーリ・ハネカワである。そんなユーリが傭兵を巻き込んで立ち上がったこの企画、予め内容を知っていた者は覚悟を決めていた為にそれほどの騒ぎでもなかった。ただ、彼の口からその内容を聞かされた時、そうでない者達は非難轟々だったのは言うまでも無い。
「帰っても良いですか? ‥‥ダメですよね? そうですか、ハァ‥‥」
 がっくりと肩を落とすのはセラン・カシス(gb4370)だ。どうか諦めて欲しい。旅は既に始まっているのだ。
「俺はよく喋る人型キメラ退治って聞いてきたんだが‥‥」
 桂木穣治(gb5595)はと言えば、苦笑した雰囲気で、あまり怒っているという雰囲気ではない。
「まあよく意図はわからないけど折角だから、楽しむとするかね」
 その余裕がいつまで続くか楽しみなものである。
「俺は、日光にさえ気をつければ後は‥‥何ということもないな」
 ゼクス=マキナ(gc5121)、こちらは本当に余裕のようである。
 しかし、中でも大変だったのはこの人のようだ。
「ちょちょちょ、ちょっと待って下さいよォー! 俺、知り合いの料理人にパイ生地練って貰ってるんスけど?!」
 叫ぶヤンキー、植松・カルマ(ga8288)。知らない人に説明すると、パイ生地とは生ものなのだ。保存する術のないまま放置すれば、当然、腐る。
「まぁまぁまぁ、諦めてクダサイ。俺も諦めたんで?」
 ヤケっぽい笑みを互いに浮かべあうユーリとカルマ。なんか悲壮な絵面だ。
「‥‥がんばれば、いいこと、あります、から」
 打ちひしがれる彼らの肩を、ぽむ、と叩く小さな手があった。ルノア・アラバスター(gb5133)の精一杯の慰めである。
「‥‥不幸だ」
 がっくり項垂れたのは、そう思っていた全員であった。


●第一の選択

 「はいっ、というわけで!」
 ぱん、と手を打ってユーリが促す。この企画の趣旨を忘れてはいけないのだ。
 即ち、サイコロである。ちなみに、このサイコロの出目には何も工作がないことをここにお伝えしておこう。
「えーと、フリップはこれか?」
 菜々山 蒔菜(gc6463)がユーリの荷物からごそごそとボードを取り出す。そこにはこう書かれていた。

1、イタリア コロッセオ
2、ベルギー ノートルダム大聖堂
3、ウィーン プラーター公園
4、イギリス ロンドン塔
5、ドイツ  アーヘン大聖堂
6、イタリア サン・マルコ広場

 運命のダイスロールを行うのは、セランだ。彼女はキャラメルの空き箱で作られたサイコロという何とも頼りないものを不安そうに眺め、
「私、基本的にツイてないといいますか、不幸といいますか‥‥ですから、あんまり期待はしないでくださいね」
 何が出るかな、何が出るかな、それはサイコロ任せ‥‥と呟きながら、えいっ、と振った。
 ひゅーん、ぺし、ころろ‥‥と軽い音を立てて転がるダイスの行方を眺める一行。やがて止まった立方体の上面には、ふたつの目がくっきりと並んでいた。
「おー、ベルギー‥‥」
 ルノアが軽く首を傾げて、それからつと何かを思い出したように顔を上げて、こう提案した。
「そういえば‥‥運転が、ありました‥‥。最初は、私が、やりますね‥‥」
 そのありがたい申し出に、断る者が居ようはずもない。各々はレンタカーに乗り込み、欧州での楽しい旅路を想像して思い思いに談笑を始めた。


●移動中 フランス〜ベルギー ノール高速道路

「あー眩しいなオイ、太陽の光が眩しいなァ〜!」
 非情に気まずい。それが皆の素直な感想だったに違いない。
 何しろ移動初っ端、参加者の皆が延々と聞かされているのはひたすらにエンジンの音とカルマの愚痴なのだ。げんなりしない方がおかしい。
「おぉいあんちゃん、いい加減諦めろって。それより楽しもうじゃん?」
 蒔菜が足を組んでけたけた笑いながらカルマの頭をばしばし叩く。あしらわれながらも不機嫌そうに体を崩してパイ生地の入ったビニール袋をべしべしとシートに叩きつける彼のその姿は、勿論怖いのだが‥‥何というか、哀愁も感じられたのは気のせいではないはずだ。
「あんたらの家行ってな、これ食わしてやるッスよ。どーも奥さん、知ってるでしょう? 植松・カルマでございます。おいパイ食わねぇか?!」
「‥‥家族には手を出すなよ」
 ゼクスがぼそりと呟く。
「運転、不快じゃありませんか?」
 そんな様子に、一応聞くルノア。後ろから帰ってきた返事は先述の彼らの他に
「‥‥きもちわるいです」
 窓から顔を出して青い顔をする、絶賛車酔い中のセランと
「‥‥Zzz」
「‥‥おーい。おっさん、寝てんよ」
 蒔菜のチクリによって発覚した、早くも寝落ちかけている穣治の寝息だった。その安らかな寝顔を見て額に青筋を浮かべた金髪ヤンキーは、手に持ったパイ生地をそのひげ面に叩き付けたのだった。
「ぶふぁ?!」
「‥‥うぇぇぇ、きもちわる‥‥」
「‥‥前途多難、ですね」
 ため息を吐くルノアであった。


●11:00 ベルギー アントワープ ノートルダム大聖堂

 ノートルダム大聖堂と言えば、最も有名なものはパリのそれであるが、こちらベルギーのものも、荘厳さでは引けを取るものではない。
 美しい教会建築を目にして、セランは酔いが一発で吹っ飛んだようだ。輝く目を湛えて、感じ入ったように見上げている。
「だがしかし、そうは問屋が降ろさないらしいッスよ?」
 ひょこ、と大聖堂を眺める面々の間に割って入ったのはユーリだ。その手にはフリップ。
 ダイスロールのお時間らしい。テレビの企画でこそあれ、だからこそ原則には忠実に。
 観光するかどうかすら、ダイスロールで決められてしまうようだ。フリップを覗き込むと、皆の顔が途端に曇る。

1、イタリア トレヴィの泉
2、ベルギー ノートルダム大聖堂観光
3、ウィーン プラーター公園
4、フランス ベルサイユ宮殿
5、ドイツ  エルベ渓谷
6、イタリア サン・マルコ広場

「‥‥1と3と6は絶対出しちゃ駄目ッスよ?」
 カルマが呻く。何せこの3箇所、このベルギーからの移動ならば軽く10時間はかかることになる。レンタカーということを考えると、ちょっと勘弁してほしい距離だ。
「ほんじゃ一発、私が振ってみようかっ! 運命のダイスロール!」
 気合一閃、オラァッ! と蒔菜がサイコロを振る。手から離れたキャラメル箱は綺麗な放物線を描き――ころ、ころ、ぴた。

 出た目は‥‥

「‥‥3」
 ゼクスがぽつりと呟いた。
「‥‥えーと。今の所カットで」
 額から汗を垂らしながら、蒔菜が両手の指をちょきちょき、とやってる。だがどれだけ辛かろうと、目は絶対なのだ。
「大聖堂‥‥」
 がっくりと、セランがうなだれた。
 まぁ、目的地が見られただけ良いとしてほしい。何しろ、次の目的地までは‥‥
「えーと、大体‥‥10時間?」
「やだぁ!! 絶対ぇやだ!!」
 ユーリの一言に逃げ出そうとするカルマ‥‥だったが、後ろから追いすがった穣治に捕まり一緒に転げまわっている。死なば諸共。
「あ、あはは。とりあえず、私が運転すっからさ‥‥」
 乾いた笑いと共に、ひとまず場を濁そうと蒔菜が車のドアに手をかけた。
 事件が起きたのは、その時。いや、ゼロ時間は更に前だったのだろう。ともあれ、その議論に意味はない。大事なのは、ただひとつ。
「‥‥あれ、ドアが開かない?」
 蒔菜が首を傾げる。
「そういえば、エンジン、かかってないか‥‥?」
 車の中を覗き込むゼクス。鍵は確かに車に刺さっているのだ。
「‥‥まさか」
 全員がばばっ、と視線を1点へと向ける。その視線から逃げるように、目をすごい速さでずばっとそらす1人の少女がいた。
「‥‥すみま、せん、でした‥‥」
 そう、到着までの道のりで運転手を担っていたルノア・アラバスターその人である。
「‥‥イン、キー‥‥です」
 まさかのキー閉じ込み。
 傭兵ともあろうものが。
 あまりの事態におろおろする少女、その肩に置かれる手があった。それは、子供を守る大人の大きな手。穣治が後ろから優しい笑みを浮かべて首を振った。
「まぁ、任せろ。俺を誰だと思っているんだ。この程度の鍵はちょちょいっと‥‥」
 やにわ覚醒する彼は、エレクトロリンカーのスキル『電子魔術師』で開錠しようと言うのだ。自信満々にスキルを発動、余裕を持ってドアに手をかける――しかし、なぜだ。押せども引けども扉が開かない。
「‥‥まっ、まさか、アナログ錠‥‥?!」
 がふっと咳き込んで穣治が膝を地についた。いかなエレクトロリンカーでも、電子的に操作できないものを電子魔術師で操作することは出来ない。
 どや顔をして出てきても、大人とは脆いものなのである。
「‥‥鍵屋が来るまで、せめてワッフルでも食べて待ちましょか」
 ユーリは生暖かい笑顔で残念な表情の穣治の肩をぽむ、と叩くのだった。

 ロスタイム、30分。


●移動中 ベルギー〜オーストリア シュヴァルツバルト通過中

 一日目、疲れを感じる面々は早くもぐったりしていた。
 何しろ、肉体的にはともかく、精神的な疲労がまずい。狭いレンタカーに押し込められて何時間も移動した挙句、大したことも出来ずにすぐに移動する羽目になったのだ。徒労感は推して図るべし。
「‥‥そういえば、パイ生地は、どうしましたか‥‥?」
 ぺし、と生気なくルノアがトランプを一枚シートに置く。後部座席はトランプ中のようだ。
「とうとうヤバ気だったもんで、途中のSAでサヨナラしてきたッスよ‥‥」
 ぺし、カルマ。知り合いに対し申し訳ないという顔のようだ。
「あー、そりゃかわいそうになぁ‥‥つっても、そろそろ慣れてきた頃だろ。私もそーだ」
 車を転がす蒔菜。最初の頃は何処の豆腐屋だと問いたくなるような無謀運転だったのだが、さすがに疲れてきたのかトランプが出来る程度には大人しいようだ。
「しかし、俺は平気だが、皆は辛いだろう‥‥ダウトだ」
 ゼクスが平然とした顔でトランプをカルマの方にざざーと寄せる。不動心とでも言うのだろうか。
「‥‥死ぬ、しにます、なまつばが‥‥」
「先生、セランさんがまた酔ってます」
 相変わらず真っ青な顔なのはセラン、ダウトの傍ら窓から顔を出す彼女の背中をユーリがさすり
「‥‥Zzz」
 またも気持ちよさそうに寝こける穣治の襟首をカルマが掴み、ちょっと危険な無表情で見つめている。例えば、俺がこんな辛いのにこいつだけ寝てるなんて許せないという表情。
 LHでは有数の、ちょっとパネェ威力を持った平手が黒いオーラを放ち、今まさに放たれようとしているのを、当の穣治が気付けるわけもなかった。


●21:30 オーストリア ウィーン プラーター公園

「到着‥‥っ!」
 一様に、疲れた様子だった。ほとんどノンストップでの行程であれば無理も無い。
 さすがに満場一致での宿泊が提案され、そうと決まればと一行はルノアの提案でシュヴァイツァーハウスで食事をしながら、今日の旅を振り返る運びとなった。ちなみに、さすがに休みが無さすぎた為に、翌日はプラーター公園を少し観光してからの出発となるらしい。
「‥‥しかし、俺は、今日は当初狙っていたところには行けなかったな」
 ゼクスが呟く。ユーリは苦笑しながら頭を掻いて、すんません、と謝った。
「んでも、ひゃくぱーダイスって意味では不公平ナシッスよ。めげずに明日も行き先提案してくださいネ?」
「わぅ‥‥鍵、インキー、すみませんでした‥‥」
 しょんもりしているルノア。よほど堪えたらしい。しかし番組的には大いにアリ、だったのでよしとしよう。
「気にすんなって。あ、そいや、ホテル代はもち、番組持ちだよな? いっちゃん豪華なとこにしよーぜ!」
 蒔菜、わりとポジティブかつ元気である。この気力は素晴らしいムードメーカーぶりである。でもあんまり高いところは勘弁です。
「‥‥なぁカルマ。俺の顔、なんか腫れてないか?」
「気のせいじゃないッスか?」
 不思議そうに晴れ上がった頬を摩る穣治。カルマはややげんなりした様子だった。パネェビンタ2発でやっと起きるその実力は侮り難しと言えよう。
「あはは、皆さん、なんだかんだで楽しんでいただけて何より‥‥あれ。ところで、何か忘れてません?」
 ユーリが首を傾げると、他の全員も首を傾げ、しかしふと、いやな予感に思い至った。
 6人。
 そう、この場にいるのは6人なのだ。
 つまりは‥‥
 そのことに思い至った全員が慌ててシュヴァイツァーハウスから出た後に捜索すること30分。
 セランは、半べそをかきながら皆の名前を呼んで彷徨っているところを保護されたのであった。


22:15 ホテル アルトシュタット チェックイン


一日目・終了