タイトル:欧州文化の旅・第三夜マスター:夕陽 紅

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/16 01:49

●オープニング本文


前回のリプレイを見る


〜前回のあらすじ〜

ト:ここでダイジェスト動画放送

 欧州の文化遺産を巡るサイコロの旅に巻き込まれた傭兵の面々。
 第一回目の選択肢は、ノイシュヴァンシュタイン城。観光の時間を見事ゲットした傭兵の面々は、ここでやっと旅行らしい旅行が出来た。
 続く第二回目の選択肢はモン・サン=ミシェル。なんと都合1200kmもの大移動をこなした傭兵達。到着する頃にはなんと日付が変わっていた。道々で観光を行いつつもへろへろになりながらこの日の行程を終え、宿を取ることになる。

ト:ユーリ・ハネカワ、横から滑り込みフェードイン。ヨーロッパの地図をバックに。

「おはよーございます! 『ラストホープどうですか』のお時間でございます。
 さてさて、前回の放送ではなんと恐ろしい。時間のほとんどが移動でございました。どうなるんだろう‥‥」

 ト:ぴしぴしと地図を叩く

「さて、初回はここパリは凱旋門からアントワープウィーン、更にドイツのフュッセン地方からモン・サン=ミシェルと長距離移動をこなした、その距離2日で既に3200km! ‥‥大丈夫でしょうか。僕ら、生きて帰れるんでしょうか。では、どうぞご覧下さい」

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
セラン・カシス(gb4370
19歳・♀・DF
ジリオン・L・C(gc1321
24歳・♂・CA
ゼクス=マキナ(gc5121
15歳・♂・SF
宇加美 煉(gc6845
28歳・♀・HD
綾世 真仁(gc7350
15歳・♂・DF

●リプレイ本文

●AM 7:00 フランス モン・サン=ミシェル
「はいどもー、おはよーございまーす‥‥」
 いやぁっと手を上げて気合一閃! ‥‥とでも行くと思ったかい?
 ユーリ・ハネカワは一般人である。
 体力云々ではなく、精神に切々と訴えかけるただただ単純な移動の日々に早くも“やられて”いるのは無理もないだろう。
 前日からの参加者達は既にモン・サン=ミシェルの観光を終え、最終日のロケが今まさに始まったのだ。
「やあ。いい朝だ」
 そんな中、UNKNOWN(ga4276)はしれっと手を上げてカメラに声をかける。前日の移動で疲れているはずなのだが、ダンディズムの沽券にかけて絶対に顔には出さない。ロイヤルブラックの艶無しフロックコートにウェストコートとズボン。兎皮の黒帽子。コードバンの黒皮靴と共皮の革手袋にパールホワイトの立襟カフスシャツ。スカーレットのタイとチーフを差し色に古美術品なカフとタイピンと、身に着けるものへのこだわりはハンパない。どうせ移動しかしないのにね。
「最終日、ずっと散々でしたけど、きっと最後に良い事があります」
 ぐっと握りこぶしを作るセラン・カシス(gb4370)。初日から通しの参加で散々な目に遭い続けた彼女も、最後だけあって気合十分だ!
「あるような気がします」
「いや、うん、ね? あるよ? ありますよ?」
「あると良いな‥‥あって欲しいです」
 ユーリのフォローも虚しく、だんだんしょげていく。
「あっても良いよね?」
 最後は上目遣いの涙目。うん、大丈夫。いいことあるよ。無言でうんうんと頷くユーリだった。
「ゼクス=マキナだ。最後もよろしく」
 もうお馴染みマスクのおん方、ゼクス=マキナ(gc5121)も疲れは見せない。顔の下半分は隠れているにも関わらずどこか爽やかな印象を受けるのは、どちらかというと今日で旅が終わるという事実に対しての爽快感だろうか。とはいえクールさに翳りはない。
「依頼扱いで旅行が出来ると聞いてぇ」
 一方ここからはぽややんと笑うのは宇加美 煉(gc6845)だ。うん、確かに旅行は旅行だけど、楽しい旅行かと言えば全力でNOと言わざるを得ない状況だということを先に謝らせていただきたい。
「ぐぁー‥‥こんなの、俺は聞いてねぇー」
 綾世 真仁(gc7350)は、早々にやられていた。思えば何かがおかしかったのだ。観光させてくれるなんて太っ腹だなー、闘牛とかしてみてぇなー、とか思い呑気に構えていたら、1人でモン・サン=ミシェルに向かわされ、飛行機はエコノミー、バスは4人掛け。その大きな体をぎゅうぎゅうに押し込めての長時間移動に、すでに彼は疲労困憊だったのだ。
「片道しかチケットが無かった時点で気付くべきだった‥‥」
 大きな体からは今にも空気が抜けそうだった。これからが思いやられる。もっとせまいし。
 そうして全員の紹介を終えたか、という時に、奴はやってきた。
「おー、ここが欧州の地かー!」
 どさっと荷物を降ろしてむふんと胸を張るのはジリオン・L・C(gc1321)。ちなみにこの野郎が遅れたせいでロケの時間が押していたりするのは内緒だ。
「忙しい俺様だ、さぞスケジュールを抑えるのは大変だった事だろう。さぁ、俺様に相応しい最高のスタッフと‥‥」
 と、そこでジリオンがきょろりと辺りを見渡す。スタッフはカメラマン兼ディレクターとタレントだけ。
「美女軍団が‥‥」
 可愛い女性達はいるものの、コンパニオンじゃない。
 そして、最後にその不自然に爛々と光る目が留まったのは、2日間酷使した、レンタカー――
「なん、だと‥‥」
 ジリオンの霊圧が消えた。

「さ、それでは気を取り直してサイコロ振って参りましょう!!」
 空元気でフリップを取り出すユーリ。でん、とカメラの前に差し出したのは、こーんな選択肢。

1.モン・サン=ミシェル観光
2.とにかく近場
3.サグラダ・ファミリア
4.バルセロナで闘牛観賞
5.美女がいるとこ
6.ヴェネツィア

「‥‥何だ、この選択肢」
 特に5番。ゼクスが溜息を吐いた。ツッコミ役としてはもはや定着した感がある。
「美女だ美女! 俺様に相応しい美女をっ! 選定するっ! まずはそこだっ!」
 鼻息荒いジリオンは手をぶんぶん振り回している。モチベーションが上がったのはいいがやや落ち着きがないのが気になります。
「で、とにかく近場ってぇ‥‥」
 煉がたずねる。もはや具体的ではない行き先が2つも含まれていることに戸惑うのも無理はないだろう。
「俺だ。とりあえず休みたい」
 進み出たのは憔悴が顔にありありと表れている真仁だ。まぁ、温情でサイコロに入れたげます。出るかとうかはワカラナイケドネ。
「で、この現地観光は‥‥」
「私ですっ!」
 UNKNOWNの問いにふふんっ、と胸を張ったのはセランだ。
「ふふ、指定はズバリ、『ココ』です。設定の盲点を突いた渾身のアイデアです」
 どやぁぁ。
 しかし、大事なことがひとつ。
 肝心のサイコロでこの目が出ないと渾身の策も意味が無いということに気付いているのだろうか、この少女は。
 ともあれ、まずはダイスを振らなければ始まらない。たまにはとキャラメルの空き箱を持たされたUNKNOWNが、ひゅん、と空に運命の正六面体を打ち上げる――

出た目は‥‥5。
「美女だーーーっ!!」
 ひゃっほう! と飛び上がるジリオン。しかし肝心のコレ、一体どこにしたものか。全員が考え込む。
 ふと、煉が声をかけた。
「ねぇ。今って、フランスにいるんですよねぇ?」
「‥‥ん? えっと、そッスけど」
「‥‥フランスの女の子は、可愛いと聞くよな?」
 真仁が顔を上げた。ユーリとちらりと目が合う。
「‥‥で、ですよね? フランスのマドモワゼル、素晴らしい」
「‥‥まさか君等」
 ゼクスが厭な予感に目を細めた。
「何デスカ。僕はタダサイコロの目に従ってるダケデスヨ」
 眼を逸らしてぴーぷーんと口笛を吹く。地図をがさごそと取り出すと、とある都市にばばんとピンを押し付けた!
「‥‥えっと、パリですか?」
 セランの顔がぱっと輝いた。少しかかるとはいえ、ここからは4時間ちょっと。今までに比べれば格段に楽になるはずだ。
「よし。そうと決まれば今回はあれだ。警察の車を奪ってだな‥‥」
 しゅぼっと煙草に火を点けながらUNKNOWNがそう嘯く。ちょっと待てと。
「却ーーーっ下!!」
「いや、任せてくれ。偽装工作は‥‥」
「あんた前回もおんなじこと言ってたよなぁ?!」
 遊ばれているユーリであった。

 ラスホプどうですかは良い子のための番組です。

●AM8:15 車中
「いや、しかしこの季節になると涼しくもなってきたなぁ」
 手馴れたハンドル捌きで車を転がしてUNKNOWNが独りごちる。フェートンは運悪く借りられなかったものの、例えば日本あたりで乗ればそれなりに値の張る高級車をそこそこの値段で借りられるのは、さすが現地クオリティといったところだろう。
「しかし、この耐久旅行も終わりと思うとなにやら感慨深いものがあるな」
 金属製のマスクを指でとんとんと叩きながら、ゼクスは満足な調子。何だかんだと、辛い思いもしたが終わるとなれば寂しいものなのだ。そう思っていた。この時までは。
「くー‥‥」
「おい、この人寝てる」
 一方で、真仁の憮然とした声にカメラが振り向くと、煉女史。早くも眠りこけている。やることがないとはいえ一応テレビなのに‥‥でも一方で、この傭兵諸氏の自由奔放さのおかげでいい絵が撮れているのも事実だ。
「なんだろうなー‥‥この、通り過ぎて行く俺様を、むしろ風景の方が寂しがっているような‥‥」
 ぼーと口を半開きにしていたジリオン。早くもグロッキー。虫かごに閉じ込められたちょうちょかお前は。カメラを向けられると、必死に高笑いなどするのだが虚しい。
「で、あのう。セランさんは今日は大丈夫すか?」
 おそるおそるユーリが話かけるのは、車酔いの常連さん。彼女がまたぞろ死にそうな顔を始めたらどうしよう、とちらっと見る。
「だ、大丈夫‥‥です。今日はまだ、酔い止めが‥‥」
 うわごとのように呟いて、うふふ、何て笑っている。一体どんな夢を見ているんだろうか。慌ててユーリが背中を擦ると、ぱつっという手ごたえがあった。奇跡のブラホック外れ、セランとユーリは2人で顔を赤くしたり青くしたり。
 そんな風に、そこそこ穏やかな時間を過ごしながら、一路パリを目指す。最終日はよい日になりそうだ。‥‥そう思っていた時期が、私にもありました。とセランは後に語った。

●AM 11:00 フランス パリ
「ヤー! 戻ってきましたパリ!」
「うーん、4時間でもきついなぁ‥‥」
 両手を叩いてバンザーイしているユーリをよそに、真仁は唸っていた。
「折角だから、1時間の休憩にしましょっか。最終日ですし! 日程には余裕ありますし!」
 今日は何だかやたらとゆるい采配のユーリ。最終日だしまーいいだろう、露骨な油断が見えた。
 やめときゃよかったのに。

 一行はUNKNOWNの先導により、1時間で回れるようなパリの名所に食事と楽しんでいる。見所が多いというのは移動に時間をかけず一通りのことが出来るという利点もあり、みな概ね満足の様子。
「ほう、こいつは大したものだな」
 ここは凱旋門前。シャルル・ド・ゴール広場に悠然と佇む白亜の門を見上げて、ゼクスが溜息をつく。思えば、ここから全てが始まったのだと、そう感慨に耽っていた。
「噂では、パリジェンヌは勇敢は男‥‥つまり勇者を好むらしいよ?」
 そんな最中、黒ずくめの男が痛‥‥いや、いたいけな青年に何か悪いことを吹き込んでいる。いやいや、騙されねーだろと思うわけだ、普通。ところがどっこい、自称勇者様は格が違った。
「俺様、金ならあるのだ! なぁ美しいお嬢さん、パイでも喰おうぞ!」
 一瞬目を離した隙にすたこらさっさとナンパを始めていたジリオンに、だぁー! と叫びながらユーリが駆け寄る。
「そのっ金はどこから出てくるんスかっ!」
「勿論制作費だな!!」
「却下!!」
 はぁ、と溜息をつく。傭兵って破天荒ね。そんなことを思いながら他所を向くと
「あらぁ、親切な人ですねぇ」
 何ていいながら、現地の男性の手をするりと躱してはまた別の人から食べ物を貰う何て煉の姿もあり。そこは愛多きパリジャンのこと、アプローチも多いなぁなんて関心しながら見ている傭兵の面々。
「おい、俺様が出る番組にはカタルシスがいるんではないか! 悪役を雇って俺様が勇者にだな‥‥」
 無言のまま、ぱちんと指を鳴らすユーリ。のっそりと、筋骨隆々としたバトルマニアがぺきりぽきりと指を鳴らしながら進み出た。
 観光、終了。

●PM12:00 フランス パリ 凱旋門
「さてっ、ではサイコロを振りましょう!」
 ここからは巻き進行。次の予定は詰っているのです。

1.ロバニエミ サンタクロース村
2.サグラダ・ファミリア
3.リスボン
4.セビリア
5.ヴェネツィア
6.スペイン

「‥‥危険な選択肢があるぞ」
 ゼクスが、ぽつりと呟いた。
 気付いていましたとも。この場の全員が。ただ1人、書いた張本人だけはきょとんとしていますが。
 協議の結果、その手にサイコロを乗せられたのはセラン。1日目から辛い目に遭ってきました。それでも何とか耐えてきました。そんな長い旅の締めくくりを、綺麗に落とすことが出来るのか。運命のサイコロが、ひゅんっと宙を舞い――
 出た目は、1。
「やった、ロバニエミ‥‥! 行ってみたかったんです」
 小さくガッツポーズを取る。艱難辛苦を耐え忍び、やっと掴み取った結末をその目にし‥‥彼女を見る傭兵達の顔は、はっきり言ってヤバかった。一言で言って、どんよりしている。
「あ、あれ‥‥」
「時にお嬢さん、ロバニエミが何処にあるか知っているのかね?」
 煙草に火を点けて紫煙をひとつ、長ぁく吐き出すとUNKNOWNは静かに問いかけた。それがどういうことか解っているのかと言外に辟易とした思いを漂わせている。
「フィンランド、ですねぇ」
 煉が言う。もう寝る気なのが伝わってくるが、果たしてどれだけ寝ていられるのか。フィンランドまで、どれだけかかるのか。ぺらり、と地図をめくる。概算で、だいたい‥‥
「32時間ッスね」
「お疲れ様でしたぁ!!」
 ダっと真仁が駆け出した。逃がすかとばかりにUNKNOWNが足をひっかけると煉とゼクスが上にどっかと乗る。離せぇ! 俺は帰る! と叫んでいるが、聞く耳持たず。しなばもろとも。
「き、貴様は、何だ!! さ、さいころの悪魔に魅入られているのか!」
 半狂乱のジリオンが喚く。容赦なく糾弾されてセランさん、ちょっと泣きそうだ。
 さもありなん。サイコロだけならまだしも、実際にこの行き先を考えたのが彼女自身なのだから。
 そして聞いてほしい。この番組に一切やらせはないのだということを。
 製作サイドというか中の人すら予想だにしなかったこの結末は、一体どうしてくれればいいのだろう。
 傭兵一行、パリからロバニエミへ。3012kmの荒行の、開始である。

●某月某日 フィンランド ロバニエミ
「‥‥‥‥‥‥」
 一行は、死んだ顔をしていた。
「‥‥些か、疲れたな」
 ゼクスがぼそりと呟く。
「辛い事の後に、少しだけ楽しい事があって、また辛い事が続いて‥‥。挙句、これ‥‥あれ、涙が止まらない」
 セランは泣いていた。
 しかも、皆様。驚くことなかれ。
 番組の尺が足りなくなってしまったのだ。
「えー、というわけで、帰還を待つことなくここでエンディングです」
 目の下に隈を浮かべてユーリがカメラに笑った。
 長かった旅もこれでおしまい。
 何はともあれこれでおしまいなのだ。喜んでほしい。
 余談だが、この番組の悲惨さは視聴者の大きな笑いと、もう少しヤラセしてもいいんじゃねえかというガチのサイコロ任せにより、深夜枠なのに大いに視聴率を稼いだのだが、今はそんなことはどうでもいい。ただ帰りたい。
「はぁーっはっはっは! 俺様の勇者街道はまだまだ続」
 最後に飛び出した勇者様の高笑いが途中でぶつっと切れて(容量オーバー)、長きに渡る傭兵達の戦いにようやく幕が下ろされたのだった。


総走行距離 4670km
所要日数 5日(結局オーバー)


3日目(?) 終了

ラスホプどうですか 欧州文化の旅。これにて終幕