タイトル:私の大事なお薬‥‥3マスター:優すけ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/05/14 23:57

●オープニング本文


●OP本文
「あ、あの〜‥‥こちらではどんな薬も作ってくれると伺って来たのですが‥‥‥!!??」

 桜も散り、GWも過ぎ去ったある春の日。ここ【何でも作り屋 リアナ】を訪れたのは、まだ中学生ぐらいかと思われる一人の少女であった。相変わらず【少しだけ】個性的なドアを開けて中を覗き込む彼女の顔は、目の前ににっこり現れた牛キメラ(ミイラ状態)のお出迎えによって完全無欠に凍りついた。

「あらあら〜、いらっしゃいませ〜♪ 何かご入用ですか〜?」
「あんた‥‥あの表情を見て、どうしてごく普通に応対出来るのよ‥‥」

 カウンターの横にある椅子に腰掛けたままにこにこと微笑みかけるリアナの横で、同じく椅子に座っていたマリーが深く深くため息をつきながら、凍りついた彼女の元へ歩いていった。昔からの親友であるマリーですらたまに意識を投げ出したくなるような商品のラインナップなのに、初めて訪れた無垢な少女に対して見せるにはあまりに酷というより他は無い。‥‥まあそんな中で平気にお茶を飲んでいるリアナの精神は、きっと縄文杉で出来た大黒柱で出来ているのであろう。

「ほら、ちょっと大丈夫? まったくもう‥‥リアナ〜!! とりあえずこの子の意識を戻す薬とか無いの〜!?」
「う〜ん、意識を戻す薬ですか〜‥‥【ちょっと副作用がある薬】と【少し気分がハイになる薬】ならありますけど〜?」
「‥‥冷たい麦茶でも持ってきて頂戴‥‥」

 こうして数分後、二人の介抱により(主にマリー)意識を現世に戻した少女は改めて自己紹介した。少女の名はハルカ。近くの中学校に通う2年生という事らしい。この店の事は普段からクラス内で噂になっているらしく(主にマイナス方向で)、場所だけなら誰でも知っているが入ろうとする無謀者は誰もいなかったのだという。理由としては、

・店の売り文句が【どんな薬でも作ります】となかなか良い言葉ながらも、中へ客が入るのを見た人が誰もいない。
・ショーウィンドウから顔を覗かせているのは見た事の無い牙や骸骨、そしてキメラの剥製。
・立地条件の悪さ(主に路地裏が原因)
・時々中から不気味な音が聞こえてくる(大掛かりな薬を作成するときの機械音)

 となれば、中学生達にとって立派な【怪奇スポット】と認識されるのも仕方の無い事であろう。

「‥‥だってさ、リアナ。どうやら知名度はあるみたいだから、場所は仕方なくてもショーウィンドウや店の外観を変えるだけで集客が見込めるんじゃ‥‥」
「ふふふ、つまりもっと個性的な商品を揃えれば大丈夫と言う事ですわね〜♪」
「あんた今までの話を聞いてたの!?」
「あ、あの‥‥そろそろ続きをお話しても‥‥良いでしょうか‥‥?」

 二人のお決まりの会話を見ながら少し汗をかいているハルカだが、とりあえず続きを話し始めた。彼女はまだ2年生になったばかりなのだが、もうすぐ最初の実力試験があるのだという。しかし最大の難点が‥‥

「私‥‥昔からとっても勉強が苦手なんです。教科書を開いただけで気付いたら1時間は寝ていたり、先生の言う事が全く理解できなかったり‥‥」
「あらあら〜、それは大変ですわね〜。そういえば私も色々と昔は苦労しましたわ〜‥‥気付いたらノートに薬のレシピを書いていたり、空を飛ぶ鳥さんを眺めていたら授業が終わっていたり‥‥」
「それで成績が常に学年首位だったんだから嫌味よね‥‥」
「だから、ここならそんな私でも頭が良くなる薬を作ってくれるんじゃないかと思って‥‥」

 少女の依頼とは、【頭が良くなる薬】を作って欲しいと言う事らしい。とりあえず後で結果を伝えると言うことでハルカには帰ってもらったのだが、流石にマリーも若干呆れ気味だった。まだ中学生の時点で勉強を薬に頼ろうとするなんて、決して褒められた考えでは無い。

「それで、リアナはどうするの? 正直私は断ったほうが良いと思うんだけ、ど‥‥」
「え〜と〜、脳の神経を活性化させるにはまずこの材料と薬を混ぜ合わせて‥‥あら〜? 今何か仰いましたか〜?」
「‥‥ホント、あんたって奴は‥‥まあ良いわ。確かに最初から断ってばかりじゃ看板に偽りありってなっちゃうもんね。カンニングじゃ無いだけマシと考えましょうか」

 完全に作る気満々のリアナを見て、ため息をつきながらも苦笑いするマリー。昔っから彼女は【無理】という言葉を使わないのだ。そんな彼女だからこそ、マリーも出来る限りのことをしてあげたいと思うのだろう。

「それで、私は何を手伝えば良いの? 流石に材料集めを一人でするには厳しいでしょ?」
「そうですわね〜、それじゃあ一緒に町外れの川まで行きましょうか〜。以前その川でカニさんを見かけた覚えがあるのですが、その殻が材料になるのです〜♪」
「カニさんって‥‥またキメラ退治になってしまうのね‥‥」

 深々とため息をつくマリーだが、親友の為にしっかり頑張ろうと能力者達への連絡先を調べ始めるのであった‥‥。

●参加者一覧

シン・サギヤ(gb7742
22歳・♂・EL
八尾師 命(gb9785
18歳・♀・ER
赤槻 空也(gc2336
18歳・♂・AA
火霧里 星威(gc3597
10歳・♂・HA
ジュナス・フォリッド(gc5583
19歳・♂・SF
蒼 零奈(gc6291
19歳・♀・PN
常木 明(gc6409
21歳・♀・JG
ミティシア(gc7179
11歳・♀・HD

●リプレイ本文

●川のほとりにて
 さらさらと流れる川の岸辺‥‥すでに戦闘準備万全の能力者達が集結していた。少し離れた場所では、赤槻 空也(gc2336)が何やら小さな声でぶつぶつと呟いていた。遠目には神妙そうに考え込む横顔にも見えるが、その目は種が弾けたパイロットのように虚ろな目をしている。
「‥‥次ぁ何だ、フクロか? フクロ叩きか? ‥‥それともよ‥‥」
「う〜ん、今回の赤槻さんは何だか緊張しているようですわね〜。何かあったのでしょうか〜?」
「さぁ‥‥まあ、とにかく怪我だけには気をつけて欲しいわ」
「‥‥問題ない。赤槻氏はもうすでに手遅れだ」
 ひょこっと首を傾げたリアナとマリーの後ろで、ただ淡々と道具の手入れを施しているシン・サギヤ(gb7742)が呟く。前回はすぐに帰宅して一緒に風呂に入らなかった為に、リアナはその時起こった【惨劇】を知らない。
「あらあら〜、一体何があったのでしょうか? 私で出来る事があれば‥‥」
「‥‥いや、あんたは何もしない方が‥‥」
「リアナおね〜さん〜!! ちょっといいかな〜!!」
 ぼそっと呟いたシンの声を遮る様に、遠くから走って近寄ってくるのは火霧里 星威(gc3597)であった。今日も元気一杯な彼だが、彼が歩く場所には大抵何かが起こる(主に赤槻を巻き込んで)。
「あのねあのね〜、以前お願いしておいた【おクスリ】、持ってきてくれた〜?」
「えぇ、確か赤槻さんの為に必要なんでしたわよね〜? ちょうどお話していた所だったんですよ♪」
「‥‥全く、最近やけに生き生きと何か作っていると思えば‥‥」
「‥‥‥」
 にっこり微笑みながら火霧里に怪しげな【薬】を渡すリアナを見ながら、マリーとシンは軽くため息をつくのだった。



「頭がよくなる薬ですか〜。市場に流通したら間違いなく有名人になれますね〜」
「まあ上手く成功したら、だけどねぇ〜。‥‥何だかヤーな予感」
 リアナに負けず劣らずのおおらかぶりを示している八尾師 命(gb9785)の横では、常木 明(gc6409)がぶるっと体を震わせていた。
「あら〜、あの方ならきっと上手く成功させるかと思いますけど〜?」
「う〜ん、そういう予感とはちょっと違うんだけど〜‥‥」
「か〜わのち〜かくで蟹退治〜♪ 覗きの人と〜、蟹退治〜♪」
 不思議そうに八尾師が首を傾げている近くでは、きっと当人が聞いたら涙を流しそうな歌を歌っているミティシア(gc7179)がいた。にこにこと歌を歌っている彼女もまた、前回で【不可抗力ながら】赤槻に身体を見られた一人でもある。道中ぷんぷんと無視を決め込んでいた彼女だが‥‥果たして、今回はいかに。
「今回もまた嫌な予感しかしないが‥‥だが、気を引き締めていかなくちゃな」
「そ〜だねぇ。それじゃ私は一応リアナさんに一声かけてくるよ〜」
 少し離れた場所ではジュナス・フォリッド(gc5583)と、刃霧零奈(gc6291)がお互いの行動を話し合っていた。いざとなれば身を挺して守るつもりだが、それ以前に下手に動き回らないでくれると嬉しい‥‥それが二人の本心であろう。

 こうして、それぞれの思いを秘めた能力者達は蟹退治に挑む‥‥果たして、無事に素材をゲット出来るのだろうか?



●ぴんとハサミを打ち振り上げて〜♪
 攻撃班のメンバーが川の近くで見張りを続けていると、何といきなり大きなカニが川から浮上してきた!! ‥‥川の向こう側で。
「い、いきなり向こう岸かぁ〜。川の中にキメラがいなければいいんだけど」
「仕方ないよー。一応依頼書にもそういう旨が書かれていた訳だしー」
 ぶつぶつ話しながら川の中をゆっくり進んでいる刃霧と常木の身体は、お互い負けず劣らずの豊満ぶりを主張している。それが川の水によってたぷたぷと揺れ動く様は、その服になりたいと願望せざるをえまい。
「全く〜、ジュナス達は真っ先に行ってしまうし〜」
「まー、先行して次に上陸するあちき達の安全を確保するのも大事だしねー」
 こんな調子で雑談をしながら後追いしている二人だったが、先行していたジュナスとシンは一足早く戦闘を開始していた。
「くぅ!! 大人しく調理されてくれよ!!」
「‥‥その隙は逃さん!!」
 流石に硬い殻に覆われているだけあって、普通に戦っていては長引くだけである。事前情報を得ていた彼らはそれぞれの知覚武器を持って攻撃を仕掛けていた。振り下ろす鋏を掻い潜って機械剣を打ち込むジュナスに、上手く背後から奇襲をかけようと回り込むシン‥‥しかしカニも黙ってやられてばかりなほどお人よし、いやおカニよしでは無い。うろちょろと動き回る足を止めようと、口から泡を吹きながら横歩きで器用に追い詰めていく。
「カニカニ〜〜!!」
「ちぃ!! だがその攻撃、見切った!!」
 相殺は無理かとジュナスがすかさずその場を離れた背後には‥‥ようやく川から上がった刃霧と常木が待っていた。当然その泡は二人に頭から降り注ぐ事となり、どろどろとした白濁泡が髪やら顔やら所々穴が開いた白い肌やらにコーティングされていく。
「‥‥やっぱこーなるかー」
「ま、またぁ!? で、でも今は気にしないっ!!」
 そう、今は戦闘中なのだ。羞恥心などに捕らわれていては命のほうが危ない‥‥事にしておけば遠慮なくその神々しい裸体を拝見出来るだろう(ぇ
「っっ!! と、とにかく今はさっさと片付ける!」
 かつて自身が受けた行動を、まさか今度は自分がしてしまう羽目になってしまうとは‥‥あわれジュナス。しかし、逆にそのお陰で素早く戦闘を終わらせようとする力が増したのか、一気に攻撃の勢いが上がった。
「うぉ〜〜〜!! 一分でも、一秒でも早く終わらせてやる〜〜!!」
「‥‥何だか誰かに似てきているぞ」
 その間も休まず攻撃を仕掛けていたシンがぽつりと呟いていたが、幸いかジュナスには聞こえていなかったようだ。
「関節部分は脆い筈だよっ!! いっけぇ〜!!」
「甲殻類の癖に〜、生意気だぞ〜!!」
 そして大きく揺れる胸を隠さずに突撃していく刃霧と、いくらか申し訳程度に胸部分を隠した常木の攻撃の前にようやくカニは活動を止めたようだった。





●活きのいいのが気に入った〜♪
 攻撃班が戦いを始めた数分後‥‥川のこちら側でもまた、一匹のカニが横歩きでこちらへ向かってくる所だった。早速護衛班が戦闘準備を開始するのだったが‥‥おや? 赤槻の様子がおかしいぞ?
「‥‥あれもこれもそれも‥‥」
「? 空にぃ、ど〜かしたの〜?」
「こンのクソキメラぁ〜!! テメェらが居る所為だぁッ!! 星威!! 今回ぁしっかりサポートしろよッ!!」
「わっ!! なんか空にぃキアイ入ってるぅ!?」
 何かが弾けたのか、今回の赤槻は気合が違っていた。そう、まるで今までの鬱憤を全て晴らすかのごとく‥‥そして、自身の尊厳・名誉を取り戻す為、漢は走る!!
「あら〜、なんだか気合十分ですね〜。それでは私達も頑張りましょうか〜?」
「うん♪ 今回はお姉さん達のポロリなんてさせないんだから〜♪」
 その気概に背中を押されたのか、八尾師とミティシアもやる気をみせて武器を構える。早速攻撃を仕掛けていったのは‥‥やはり赤槻であった。無駄に大きな拳【アフェランドラ】を装着し、勢いのまま殻の上から振り下ろす。
「このカニ野郎〜!! 死ねや〜!!」
「カ、カニ〜〜!?」
 その殺気に押されたのか、無属性の物理攻撃が効き難いはずの殻に衝撃が伝わった瞬間、カニが後ずさっていく。その様子を眺めていたリアナがぼんやりと微笑んでいた。
「あらあら〜、やっぱり赤槻さんって凄いんですわね〜♪」
「いや、あれは何だか怨念じみた物を感じるんだけど‥‥」
 ぽつりとマリーが呟いた瞬間、よろめいたカニに向かって練成弱体を使う八尾師。本来は先に放てば楽になったのだが、流石にあの勢いより先んじて打てる速さ(度胸?)は持ち合わせていなかった。
「少しは脆くなってくれると助かるのですが〜」
「今度はボクの番だね〜!! ‥‥にんぽーっ!! 雷神イッケ〜!」
 火霧里の声に反応した機械巻物から強力な電磁波が放たれ、カニの動きが鈍くなっていく。しかし伊達や酔狂で相手もカニをやっているわけでは無い。自分に攻撃を放ってくる敵に対して、防衛本能から一気に泡を噴出していく。そして至近距離にいた赤槻が直撃を受けるが、意に返さず攻撃を続けている。
「たまにゃ俺だって男らしいとこ見せねェとなァ!!」
 一瞬で持ち替えたホーリーナックルでの急所突きに、またもやよろめくカニキメラ。そして追撃をかけるミティシア(飛び火した泡のせいで、所々穴が開いてほんのりとした胸と可愛い下着がこんにちわ)の錫杖から電磁波が放たれる。そして同時に八尾師(こちらは上手くシールドで防げた様子‥‥残念)が機械本で攻撃。
「急所は前に食べた蟹を思い出して‥‥!!」
「いい加減諦めてください〜‥‥これでもどうぞ〜!!」
 流石に耐久力も限界になったのか、大きな音を立てて後ろに倒れこむカニキメラ。こうなればもう動きをする事は不可能だろう。どうやら今回も無事に済んだようだった‥‥



●温泉、そして‥‥
「はふぅ〜、たまにはのんびり温泉も良いものですわね〜♪」
「ホント、こう疲れが身体から染み出すって言うか‥‥」
 本当は怪我も無かったリアナとマリーはすぐに戻る予定だったのだが、刃霧の誘いによって一緒に公衆温泉に来たのであった。ここは前回と同じ公衆温泉【さらさの湯】。リーズナブルな値段と風景の良さで、街の人達からも人気の場所である。
「それにしても今日は胸の大きな人が多いわよね〜。リアナも常木さんも大きいし‥‥刃霧さんは言うまでも無いし」
 マリーが皆の様子を眺めながら呟いていると、身体を洗い終えたのか噂の常木が湯船に浸かり始めた。少し粘性のある温泉湯がねっとりと肩から豊かな胸部分へと滴り落ち、その谷間へ溜まっている様子は何ともエロチックである。
「んー、やっぱり皆でこういう場所へ入るのが最高だねー♪」
「そうそう、やっぱりお風呂は大人数でしゃべりながら入るのが最高だよ!」
 その後ろから前を全く隠そうともせずに入ってきた刃霧のメロンは、やはり今日もたわわに実っていた。洗った直後だからか、髪を下ろしたその姿はしっとりとした大人らしさをかもし出している。ゆっくりと湯船に入れていく足先、そして太ももにまで流れるラインは見事にむっちりとしており、それでいて筋肉質でない身体はまさに芸術と言っても過言ではないだろう。
「こ、今回は流石に‥‥何も無いよ、ね?」
 いつも元気一杯のミティシアだが、流石に今は顔を緊張させていた。まあこの場所はつい先日事件が起こった現場なだけに、つい何かを思い出してしまったようである。湯船に浸かるその小さな身体も少し震え気味だ。
「そんなに気にしなくても大丈夫ですよ〜? ちゃ〜んと事前に注意しておきましたから〜♪」
「そ、それなら良いんだけど‥‥はふ‥‥」
 おっとりした声を出しながら優しく背後から抱きしめた八尾師の声を聞いて、少し安心したように身を預けるミティシア。そんなリラックスしている彼女達にまさかあんな事が起こるとは‥‥今はまだ秘密である。



「‥‥こっからだな‥‥俺の予想的にゃこっからが本当の戦いだぜ‥‥」
「一体どうしたんだ、赤槻の奴? 何だかやけに気合が入っているが‥‥」
「‥‥‥今はそっとしてやれ」
 ここは公衆温泉の男子更衣室。幸いゆっくりと湯に浸かって疲れを取る事が出来た四人だったが、その中でただ一人、恐らくキメラを前にした以上に緊張している男がいた。腰にタオルを巻いたまま首を傾げているジュナスだが、前回の件を知っているシンは目を逸らして体をバスタオルでふき取っている。そして、その中へ風雲を巻き込む存在が一人‥‥
「み〜んな〜!! 牛乳やジュースを持ってきたよ〜!!」
 ドアを思いっきり開けて飛び込んできたのは、まだ風呂上りの余韻もさめないまま顔を赤くしている火霧里である。その手には蓋の開いた牛乳瓶が4本。中身はコーヒー牛乳やミックスジュースなど様々だ。
「はい!! 空にぃ!!」
「お、おう‥‥すまねえな。たまには気が利くことするじゃねえか」
「えへへ〜。はい、ジュナスにいちゃんやシンにいちゃんも♪」
「ああ‥‥ありがとうな」
「‥‥‥」
 赤槻が緊張していた顔を綻ばせてコーヒー牛乳を一気飲みしていく様子を眺めながら、ジュナスが一緒に飲もうとしたその時、ぐっとその手をシンに掴まれた。
「な、なんだ? どうしたんだシン?」
「‥‥待て。今は飲むな」
 ジュナスがまた首を傾げたその時、ドサッと音を立てて更衣室の床に前のめりに倒れこむ赤槻の姿があった。目を丸くして手のフルーツ牛乳を見つめるジュナスの横で、にこにこと火霧里が笑っている。
「‥‥う、ぐッ‥‥? 星威‥‥何、しやがった‥‥」
「う〜んとねぇ、最近空にぃが元気無さそうだったから〜、リアナおねぇちゃんに頼んで【元気の出る薬】をもらったんだ〜♪ ど〜、元気でた〜?」
「お‥‥お・ま・え・と・い・う・や・つ・は‥‥」
 ぴくぴくと震える赤槻を見ながら、ジュナスが戦慄に身を震わせていた。
「い、一体何が起きたんだ!? も、もしかしてこの中にも!?」
「‥‥‥」
 黙って頷くシンを見て、改めて火霧里の天然さを感じたジュナス。しかしリアナの薬がこの程度で済むはずが無い。
「う、うぉ〜〜!! 何だか体が燃えてきたぜ〜〜!! 今なら何でも出来る気がするぜ〜〜!!」
「やった〜!! 空にぃが元気でた〜♪」
 バネの様に飛び上がった赤槻の姿を見て無邪気に喜ぶ火霧里。しかし彼の目がまるで某学校日々のヒロインのような目をしている事には気付いていなかった。勢いよく更衣室から温泉場へ飛び込み、彼が風呂場を走り始めた直後、【偶然】転がっていた石鹸に足を滑らせて、男湯と女湯とを隔てる竹壁に頭から激突。そのまま身体ごと開いた穴から飛び込んでしまったのであった‥‥



「あらあら〜、何の音でしょうか‥‥?」
「ちょ、ちょっといきなり何かが飛び込んできたわよ!? ‥‥え?」
 リアナとマリーが湯煙から飛び込んできた影を見つけたのと、その影が湯に飛び込んだのはほぼ同時の事だった。そしてその物体がばしゃっと顔を上げて周囲を見回したのと、女性陣が一斉に武器を手にしたのもまた同時の事であったという‥‥合掌

「きゃ、きゃ〜〜!! 痴漢変態スケベ〜〜!!」
「うぅ、また見られた‥‥クスン」
「覗いたら駄目ですって、あれだけ言いましたのに〜」
「自分から突撃してくるなんてー、そんな人にはお仕置きだよー!!」
「あ、あれ‥‥どうして俺はこんな場所に‥‥って何故こんな状況うんぎゃ〜〜!!」

‥‥‥‥
‥‥‥
‥‥

「‥‥あはっ♪ またやっちゃった☆」
「お、おいシン。もしかして、以前言ってた事件って‥‥」
「‥‥あんたの想像通り、だな」