●リプレイ本文
●戦う前には準備を夜露死苦
「それでは〜、みなさん耳栓はちゃんと用意してきましたか〜?」
の〜んびりとした声で皆に声をかけるのは、魔術師風の怪しげな衣服を着込んだノエル・アーカレイド(
gb9437)。彼女は皆を見回しながら持ち物確認をしていた‥‥というのも、今回のターゲットは非常に特殊なキメラと聞いていたからだ。そのキメラとは‥‥
「神社に仏像‥‥それにギター‥‥。何かを間違って‥‥ここに来たとしか‥‥思えない‥」
淡々とした声で呟きながら耳栓を取り出しているのは幡多野 克(
ga0444)である。今回のキメラは仏像の形をしており、巫女たちが言うにはリーゼントでギターを持って、騒音を鳴らしながら境内を闊歩しているのだという。何を書いてるか分からないかもしれないが、あくまでありのままの事実である。
「何だか罰当たりないでたちですね‥‥。駄目です、私達で何とかしませんと‥‥」
「カタツムリに火焔巨人で、仏像ねぇ‥‥。硬いキメラにホント縁があるなぁ、にはは」
自身が巫女の服装をしているせいか、非常に場所と雰囲気がマッチしている石動 小夜子(
ga0121)と、ノエルと同じ魔術師風の衣装を身に纏った(ただ身体の一部分は大きく違っているが)刃霧零奈(
gc6291)がお互いに思いの丈を呟いている。それぞれ思うところがあるようだが、とにかく自分達までこんな騒音に巻き込まれては敵わないと耳栓はしっかり準備していた。
「とりあえず耳が聞こえない場所での戦いになるんだから、手信号でも決めておきたいな〜」
「そうやな〜。後はあらかじめ先回りして罠でもしかけとかんと、真正面からやと危ないしな〜」
カチャカチャと自分の銃の点検をしながら皆に声をかけたアメリア・カーラシア(
gc6366)の言葉に同調したのは、チャイナドレスで身を包み、少し離れた場所で穴を掘っている佐賀 剛鉄(
gb6897)である。彼女達は少し開けた場所で、もうすぐ近づいてくるそのキメラを退治するために行動準備を行っていた。流石にまともに戦っては神社に被害が出かねない、そう考えた彼女達は、あらかじめ進行方向に罠を仕掛けてかかったところを集中攻撃する作戦を立てていた。なおかつ耳が聞こえないならお互いの行動も考えなくてはならない。そこで簡単に手信号を決めて、いざという時に備えていかねば‥‥そんな思い思いに皆が準備をしている中で、実に個性的な思いを持った参加者が二人。
「くそ‥‥頭がガンガンする‥‥はた迷惑な奴め‥‥三枚におろしてくれる‥‥」
「巫女さんにチャイナちゃん、そして魔女っ子(×2)に、あのジャケットの下は恐らくシスター‥‥くくっ、今回は可愛い女の子がいっぱいだね‥‥」
新年のお参りに来ていたのだから‥‥という理由(?)で獅子舞を着ながら呪詛を呟いている龍零鳳(
ga2816)と、ニヤニヤと参加者達を見回して幸せそうな顔をしているリル・ミュー(
gc6434)。自身の欲望にとても忠実な彼らは、あくまでマイペース(隙あれば酒を飲んだり、女の子達をじっくり観察したり)に自分達の出撃準備を進めているようだ‥‥と、そうこうしている内に騒音が段々大きくなってくる。銃の点検を終えたアメリアが、穴を掘っている佐賀にひょいと声をかけた。そろそろ耳栓をしておかないと、近寄ってからでは遅い。
「よ〜し、そっちは準備出来きた〜?」
「ほんま、罰当たりな敵やでまったく‥‥っと、これで穴の大きさは十分やな。出来たで〜!!」
「あ、それじゃあ俺は報告を受けていた例のお姉さんを助けにいってくるよ〜。見つからないように遠回りで行かなくちゃいけないし」
手をひょいと上げて、ごく真面目な顔で皆に声をかけるリル。リルはあらじめ別行動を取ると決めており、最初に被害を受けたという大学生を救出に行くようだった。一番近くで、それも恐らく長時間騒がれていたのだろうから、一刻も早く助け出さないと‥‥と考えているに違いない。‥‥恐らく。そんな彼の後ろから幡多野が、ころころと耳栓を転がしながら変わらず淡々とした調子で声をかける。
「‥‥十分気をつける。終わったら‥‥皆で初詣‥‥」
「あら〜、それは良い提案ですね〜。でしたら〜、怪我などしないよう気をつけませんと〜♪」
「ぬぅ、ならば我も参加せねばな‥‥こういう場ではお神酒や甘酒を飲むべきと相場が決まっておる」
ノエルと龍が嬉しそうに同意をしたところで、ついに視認出来る位置にまで仏像が接近して来た。リルが一足早く遠回りで大学生を助けに行き、他の皆がそれぞれの位置へ立つ‥‥さあ、戦闘開始である。
●とことん喧嘩上等だぜベイベー!!
「ほらほら〜、こっちこっち〜♪」
「穴まで3メートル‥‥2メートル‥‥1メートル‥‥今です!!」
「よっしゃ、ウチの出番やな〜!!よいしょ〜!!」
刃霧が挑発するようにキメラを引き付け、石動が軍師のごとく合図を出す。そして佐賀が仕掛けを引っ張るという連携が実に上手く働き、ただでさえ重たいキメラは完全にずぼっと穴に落ち込んでしまった。たとえお互いの声が聞こえなくても、手信号のやりとりを強化したお陰で皆の意思疎通は上手く働いているようだった。そしてキメラはというと、何とか出ようともがいているのだが‥‥重たい体が災いしてますますめり込んでいく有様である。しかしそれでもずりずりと前進を続けようとする為、メインの主通路に大きな溝が生まれようとしていた。
「これ以上好きに動かさせはしませんよ〜。覚悟して下さいね〜?」
「ふふ、神に懺悔なさい‥‥な〜んて、ね!!」
境内をこれ以上傷つけてはならないとばかりに、かっこよく脱ぎ捨てたコートを省みず(一瞬だけ遠くからリルの強烈な視線が走った気配が‥‥)スキルを使って射撃を続けるアメリアと、後方から超機械で援護攻撃を仕掛けるノエルの前に段々と押されていく仏像。しかし‥‥それだけであっさり終わらないのが今回のキメラ。何と錫杖を使って、棒高跳びの要領で穴を抜き出たのだった。
「‥‥なん‥‥だと!?」
「ちょっとちょっと〜!! どうしてあんな体のキメラがオリンピック選手みたいな動きをするのよ〜!?」
思わぬ動きに幡多野と刃霧が気を取られた瞬間、キメラは周囲の能力者達をオーディエンスと見なしたのか、ギターから出る音量をより一層大きくかき鳴らし始めた。その音波は並の大きさでは無く、耳栓を付けていても皆の行動を遅らせるには十分なものであった。これでもし付けていなかったらどうなっていた事か‥‥想像するだけで頭が痛くなる。しかしそんな音波の中で、あくまでマイペースに怒りを滾らせる男がいた。
「ぬぅ‥‥頭に響きおる‥‥ヒック‥‥ぎゃんぎゃん‥‥やかましいわ!!」
酔っていたのかどうかは分からないが、龍にとってこの音波は少し大きめの雑音にしか感じなかったのだろう‥‥憤怒の表情で接近していくと、頭のリーゼント部分を狙って大包丁を振り下ろす。獅子舞の格好で包丁を持っている姿はまるでナマハゲを彷彿とさせるが‥‥深く気にしたら負けである。とにかく、流石に石製のリーゼントを砕くには若干力が足りなかったが、それでも音量を下げることには成功し、その隙を狙って石動が皆に号令の合図を送る。
「音が、小さくなりました‥‥皆さん、今です!!」
「いくら硬いといっても、集中攻撃したら砕けるはずだよっ!!いっけ〜〜!!」
「全ての力を注ぎ込み、確実に破壊する…!」
刃霧の連続炎拳に、幡多野の急所を狙った月詠が確実に仏像の体を削り取っていく。そしてついにその体が大きく崩れる時が来た。その一瞬に佐賀の一撃が仏像の胴体部分に直撃した。
「神罰覿面 無に帰るべし!! とどめじゃあああ!! 悶絶昇天百裂撃!!」
「コトシモブッチギリデヨロシク〜〜〜〜〜〜!!」
謎の断末魔を最後に崩れ去るリーゼント仏像キメラ。何とか道に出来た大きな溝と落とし穴以外に、境内に損害が出ずにすんだようだ。ふ〜っと安堵の息を吐いて銃を収めるアメリアが、ふと気付いて皆に声をかけた。
「ホント、色々と大変な相手だったわね〜‥‥あ、そういえばリルさんは大丈夫なのかしら?無事に学生さん達を避難させてくれてたら良いんだけど‥‥」
「ええと‥‥あ、確か戦闘中にちらっと見かけましたよ?ちゃんと被害を受けた巫女さんを背負いながら歩いていました。‥‥ちょっとだけ顔が変でしたけど」
同じく乱れた黒髪を整えながら石動が呟く。リルが一体何を考えていたのかは全く分からない(としておこう)が、とにかく無事に皆を非難させてくれたのは間違いないようだ。安心した能力者達は、戦闘後の穴やキメラがつけた溝を修復した後で、リル達が待つ本殿の方へ結果報告をするべくにこやかに歩いていった。
●今年も平和に愛羅武勇
「う〜ん、う〜ん‥‥えい!! ‥‥やったね、大吉〜!!」
「さっすが零奈さん!! 俺もその運気にあやかりたいな〜!! ‥‥本当に、ね‥‥くく」
「‥‥‥‥小吉」
遅まきながら初詣をしている刃霧の横で、一緒に横でリルと幡多野がおみくじを引いて楽しんでいた。大吉が出たらしく大喜びしている刃霧と、若干不満げにくじを見ている播多野‥‥若干リルの視線が揺れる胸元辺りに向かってるのは、男であれば誰でも当たり前の事だと声を大にして言いたい。
「う〜〜い‥‥やっぱ良いとこのお酒は違うわな〜‥‥ヒック」
「ほらほら〜、そんな一気に飲んだら後でしんどくなるで〜? ほどほどにせんと〜」
流石に獅子舞をつけて酒は飲めないと分かっていたのか、部屋の脇にどかっと置いて(顔がこっちを向いているので若干怖いが)満面の笑みで酒を煽っている龍を、少しあきれながらも一緒に甘酒を飲んでる佐賀。その横にはすでに何本もの空き瓶が転がっており、それをノエルがにこにこと片付けていた。彼女にとってはこういう片付けもきっと楽しい作業の一つなのだろう‥‥実に良い人である。
「ふふ、皆さん本当に楽しそうですね〜。何だか見ている私まで楽しくなってしまいます〜♪」
「まあこういうのが依頼の楽しみでもあるんだし、私達も一緒に楽しみましょうか、ね?」
「わしゃ〜〜いつまででも〜〜現役じゃぞ〜い!!‥‥‥‥新年から眼福じゃ」
同じように甘酒を飲んで少し頬を赤くしているアメリアが、ノエルに声をかけながらにっこり杯を差し出し、神主は相変わらずぼけぼけ〜っと(?)している‥‥こんなにこやかな風景の中で、若干一名の姿が見えなかった。
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥
‥‥
「え、ええと〜、私はここの巫女では無いのですけど‥‥」
「ほらほら、次の参拝客が参られたわよ!? もたもたしないの!!」
「だ、だからええと〜〜〜!?」
「ほら顔が固い!!あくまでにこやかに対応しつつ、心では常にお客は金だと考える!!そうすれば自然と笑顔になれるわ!!」
何故か助けた巫女達に混ざって、あたわたと破魔矢などを販売している石動の姿があったという‥‥合掌。