タイトル:戦闘機墜落マスター:柚木薫

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/20 20:48

●オープニング本文


●離陸
 九州、宮崎県宮崎市から上方に位置する基地、西都市にある新田原基地から今晴天の空にナイトフォーゲルの二機編隊が一つ、F-15J戦闘機二機編隊が一つ、合計四機が飛び立った。
 ナイトフォーゲルの編隊は飛び立つと同時に北西に向けて進路を変え、F-15J編隊は西の方角に進路を定めた。
 現在は東アジア軍日本本部所属空軍となってるが、金欠組織であるUPCより、激戦を極め、北九州奪還を目指すこの地域は兵力も物資もどんどん疲弊している状態で残存する兵力は使えるものは使えるだけ使うという形だった。
 兵力が圧倒的に足らず、全土防衛に手が回らないこの軍がF-15Jなどの疲弊した兵器を実戦投入するのは必然だ。
「こちらガルーダ隊より本部、進路クリア、これより任務を開始する」
 F-15J編隊の一方のパイロットが、年期の入った声でそう本部へ無線で連絡するとすぐに返事が帰ってきた。
「こちら本部、了解。そのまま進路を維持してください。これより通信を封鎖します。幸運を」
 バグアが万が一通信を傍受するかもしれないということも考えて、軍間での長距離通信も作戦地域まではある程度規制されている。
「今回は九州山地の哨戒か。この骨董品の飛行機でバグアに遭遇したらかなわんというのに。何を考えているんだか上層部は」
 そう愚痴をいうのは先ほど本部に連絡を入れた長谷部大尉だった。このガルーダ隊隊長機を勤め、一方の僚機であるガルーダツーをサポートする。そのガルーダツーから若い声が無線でかかる。
「兵力が少なくなっているのはどこも同じでしょう。北九州でもまずい戦いが続いて防戦一方のようですし」
 そう部下の橋本少尉が取り直した。まだ士官学校を出たばかりの新人だが、実力もあるということですでに実地に配備させている冷静な長谷部の部下だ。
「別働でさきほど熊本にいったナイトフォーゲルは司令部のある北熊本に行くはずだったよな。そこまで兵力がないのなら、もっと徴兵してあの最新鋭機を量産すればいいものを」
「現実はそこまで簡単ではありませんよ大尉」
 自分が所属する軍の愚痴を言い合いながら退屈な任務になりそうだと戦闘機二機編隊は西に進んでいった。

●突然の墜落
 戦闘機二機が山地上空まで差し掛かったころ、橋本少尉のレーダーが異変を捉えた。
「大尉、レーダーに反応があります。距離30キロ、綾南ダム湖の北沿岸の上空です」
 九州山地は河の水源が多く、多数のダムが作られていた。そのダムの上での異変。
「反応? ただの鳥じゃないか? いやレーダーに鳥が映るわけもないしな‥‥。湖周辺の湖岸に多数のキメラは目視できるが、空はまったくなにもない‥‥」
 レーダーはバグアのみならず、対空用に戦闘機や飛行機などある程度の質量、又は大きさを持ったものしか映しだされないようになっている。鳥のような小動物が映るわけがなかった。
「哨戒だしな。一応確認してみるか。本部、こちらガルーダ隊、作戦飛行中にアンノウン(未確認飛行物体)に遭遇。これより調査に移る」
 返答の連絡を待つ間に二機はダム湖上空に入り、本部からの連絡が入る
「本部了解。支援機は串間の高畑山分屯基地からだすことはできますが、今は出払っているのでバックアップはありません。注意して調査に当たってください」
「ガルーダツー了解」
「了解、通信を封鎖する」
 二機が湖上を疾走していくがレーダーに映し出された機影のようなものはふらふらと湖の沿岸を固まって移動していた。
「おう!?」
 長谷部大尉が突然驚きの声を上げた。200メートルの低空飛行をしていた編隊の前に大量の鳥が飛び立ったのだ。二機とも少し高度を上げる。どうやら海鳥らしいその鳥の群れは反対側にむかって圧倒的な数で移動していく。
「当たらずに済んでよかった。今は鳥の産卵時期ですしね。この周辺は今多い、大尉!」
「何だ」
「機影が消えました! すぐ目の前でです!」
「消えただと!? 飛行機が消えてたまるか! 今どこだ!」
「じ、自分の目の前です!」
 数百メートル離れていた長谷部が橋本の機体を振り返って緊張しながら肉眼で確認する。しかし数秒後。
「と、通り抜けた? レーダーに反応がありますが自分の機体を素通りしました。どういうことだ」
 そう疑問を口にしたとき、ズドンッ!っと鈍い音が機体後部から聞こえてきた。
「どうした!」
「エンジンがやられました!」
「撃たれたのか! 被弾したんだな!?」
「わかりません、すぐにベイルアウト(緊急脱出)します!」
 そういうと橋本の機体の風防から爆発ボルトが弾け飛びシートが高く飛び出してパラシュートが開くのを確認する。視認した限りではぎりぎり湖岸に着陸しそうだが、乗り捨てた機体は湖に着水してしまいそうだ。長谷部大尉は舌打ちをして本部に緊急連絡をとる。
「メイデーメイデー! こちらガルーダ隊! 僚機にエマージェンシー! エンジンが爆発後パイロットが脱出! 至急救援を請う!」
「了解。地元警察と陸軍に救援を伝達します。確認しますがバグアとの戦闘で撃墜されたわけではないのですね?」
 本部オペレータは冷静な声で問う。
「わからない。撃たれたかもしれないし、そうではないかもしれない。未確認の飛行機はすでにレーダーに映らない。キメラは湖岸に分布しているが関係しているとも考えにくい。墜落機は湖西岸付近に着水した」
「わかりました。バグアがいることも想定してこちらで調査の者を派遣します。キメラは湖岸のどの程度分布していますか?」
「水のみ場でもあるのか数は多いが、南岸はほぼいない」
「わかりました。ガルーダ隊は至急基地へ帰投して下さい」
 長谷部はそれを聞いて、煙を出しながらも西岸付近湖上に浮かぶ墜落機を一瞥すると基地へと戻っていった。

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
鳳 湊(ga0109
20歳・♀・SN
藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
ラン 桐生(ga0382
25歳・♀・SN
霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
大山田 敬(ga1759
27歳・♂・SN
亜鍬 九朗(ga3324
18歳・♂・FT
遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN

●リプレイ本文

●山間の湖
 今日の九州南部の山々は晴天に恵まれていた。その九州山地にある綾南ダム湖の南岸に、朝日を浴びながらUPCの高速移動艇が着陸する。
 そこから墜落した戦闘機の調査依頼をうけた能力者八人が出ると、早々に高速移動艇は飛び去っていってしまった。
「ここか。こんなに綺麗な鳥と湖なのに」
 遠石 一千風(ga3970)は空を飛んでいる数羽の水鳥を見て呟く。
「‥‥どうにもいやな予感もしますが、さて、本当に何もなければ、いきなり堕ちることもないですからね‥‥予感は杞憂であってほしいものですが」
 思案げに口元に手を当てて目の前の湖を見るリディス(ga0022)が言う。
「しかし、ここまでオンナに偏ってるチームだとなんか調子が狂うがガマンガマン。あ、あんたもスナイパーだったな。今日はよろしくな」
 大山田 敬(ga1759)が最初の部分だけ呟くように言ってから、横にいたアーチェリーボウを背中に掛けている霞澄 セラフィエル(ga0495)に軽く声をかけた。
「初めまして、宜しくお願いします。まだまだ慣れませんが、出来る限り頑張りますね」
 そういってセラフィエルは白銀の綺麗な髪を揺らしながら、笑顔で丁寧にもお辞儀をする。
 そんな二人をしり目にもう一人の男性、亜鍬 九朗(ga3324)は刀を下げた腰に手をあて、自然の湖を一瞥する。
「突如謎の墜落をした戦闘機の調査と回収か‥‥。しかし、戦闘機の回収となるとそれなりの装備が必要になると思うがほとんど貸し出してもらえなかったな‥‥」
 不満を露わにから貸し出し手もらった古いデジタルカメラを亜鍬が見る。
「まったく、本当だわ。こんな機材だけじゃ機体回収なんてできないわよ」
 亜鍬の言葉を受け取ってか、藤田あやこ(ga0204)がぼやく。チームの自己紹介があらかた終わった後、藤田が調査に必要と様々な機器の貸し出しをUPCに申請したがことごとく却下。高価すぎる物、または希少な機材はUPCは貸し出せない常に金欠に悩まされている組織では当然だった。
「しょうがありませんよ。これだけなら部分的にも回収は可能だと思います」
 そう冷静に鳳 湊(ga0109)が肩に下げたこれまた古めかしい望遠の一眼レフを見せる。
「そうだねえ。これならま、調査はできるっしょ」
 ラン 桐生(ga0382)がそう軽くいって、借りれた装備品の中でもマシなほうであるダイビング用品一式を背中に掛けている。
「そうかもね。バラバラにしてあとは軍に任せるのも手だわ。調査は私がやるわね」
 藤田は他にもかろうじて借りれた簡易ゴムボートと戦闘機のチタン合金を切り裂き、ばらすならこれぐらいだ、と渡された短刀ほどの電磁カッター。そして各種サンプルを保管するためのビン状のカプセル。この近辺のマップと人数分の無線機はすでに高速移動艇内で渡していた。
「うん、だったらその護衛と調査助手は自分がやるよ。ダイビング用具もあるしね。でもキメラ次第じゃ、断念も考えなくちゃ」
 桐生が藤田に応じて肩をすくめて応じる。
「あと、問題は原因ね。ジェットエンジンの空気空乳口、エアインテークから水鳥が入って事故を起こしたバードストライクの線が濃いけど、キメラの可能も捨てきれないわ」
 藤田が眼鏡を直しながら熟考する仕草をする。
「とりあえず墜落機がある西岸に移動しよう。戦闘機を攻撃したのがキメラだとしたら脅威だ。まずはその存在を確認したい」
 遠石はそう促し、誰もが頷いて同意を示した。チームは前衛をリディスと桐生、セラフィエル。それ以外は後衛として警戒しながら西岸へと湖岸沿いに進んでいった。
「それよりも藤田さん。あんたなんで黒ビキニなんだ?」
 大山田がライフルで周囲を警戒しながら目のやり場に困るように言う。
「あら、大山田さん、目がハートになってない?」
 その質問に藤田は微笑みながら返す。

●西岸到着
「あれが墜落機か‥‥」
 遠石が双眼鏡で確認しながら呟く。
「情報通りにキメラが多いな。しかもどれもこれも獰猛な奴ばかりだ。知っていると思うが刺激しないように岸まで行こう。人間とわかればすぐに攻撃してくる」
 亜鍬が刀に手を掛けながら言った。
「その前に機体の全景をとっておきますね」
 鳳は望遠一眼レフを構えると、ここからでは米粒ほどの大きさの墜落機の写真を数枚撮る。そしてとり終えた時、一つ気づいたように全員に報告する。
「あ、岸の一部ですが、なぜかキメラがいない一定の範囲があります。そこをめざしたほうがいいですね」
 空を警戒し、地上の唸り声を上げるキメラ達を避けながらなぜかキメラが寄り付いていないその岸付近にたどり着いた。そして、その辺に立ち込める悪臭に全員が鼻を覆う。
「なんだこりゃ! ガソリン‥‥か?」
 大山田が顔をしかめていう。よく見れば岸一帯に濁った液体が流れついていて、それはどうやら墜落機に繋がっているようだった。藤田は顔をしかめながら水辺によって液体を見る。
「ジェットエンジンの混合燃料ね、おそらく。キメラはこれが嫌いなのかしら? 聞いたことないけど」
「しかし、よく爆発しなかったものだ。よくわからないが運がいい。とにかく調査を開始しよう。俺はこの岸に残って周辺の調査の護衛をしよう」
 亜鍬はそう言って、デジカメを取り出した。
「湖上で水鳥が休んでいる所をみると水性キメラの危険はなさそうですね。私は空を監視します」
 そうセラフィエルが視認してアーチェリーボウを警戒のために手に持つ。
「それじゃあ、私と桐生さんで機体の直接調査ね。護衛のほうよろしく」
「ああ、まかせといてー。自分は対空警戒も得意だからね」
 桐生はさっさとダイビング用具を装着、しかし藤田はシュノーケルだけでいいと言って、
「寒いからさっさと覚醒するね」
 いきなりその場で覚醒した。耳が尖り、翼に似たオーラが見える。そして簡易ボートをそうそうに膨らませ、電磁カッターを腰につける。
「藤田さん‥‥それ寒くない? ま、自分は好きだけどそれ」
 桐生の言葉に黒ビキニ姿の藤田は微笑む。
「私は覚醒すると体温があるのよ。岸のほうの調査はみなさん、お願いね」
 そう言うと藤田と桐生は湖に飛び込んでいった。

●西岸調査組み
「機体は二人に任せるとして私達は周辺調査をしましょう。キメラと戦闘になったら調査は中断、ですね」
 水辺を調べ始めるリディス。サンプル用にエンジンの燃料を含んだ水をカプセルに納める。
 その横で亜鍬はデジカメで周辺を撮影。遠石はいつでも助けにいけるよう、湖上の調査にいった二人を双眼鏡で観察していた。後ろでは少し離れて大山田とセラフィエルが上空の警戒に辺り、特に頻繁に周りを飛んでいる水鳥を観察していた。鳳も水辺を調べていた。
「燃料と一緒に大分機体部品が流れ着いていますね」
 部品には大なり小なり、様々なものがあり、一番大きなものはコックピットの周りを覆っている風防だった。脱出時に飛んでここまで流されたのだろう。それも撮影しようとして、異変に気づいた。
「これは‥‥虫?」
 鳳は風防になにか、生物が潰れて付着しているのを見つけた。しかしただの虫ではない。それは超小型の虫形状のキメラ、ブラインドビートルの潰れた死骸だった。鳳はすぐに無線で全員に報告する。
「こちら鳳。岸に流れ着いていた風防にブラインドビートルの潰れた死骸を発見。この様子だと戦闘機が高速で飛行中のビートルにぶつかったようです」

●機体調査組み
「これが機体か。これならコックピットも調査できる」
 持ってきた無線機を主翼の上に置く。桐生は周囲を警戒しながら、
「水中にキメラはいないね。水鳥も普通の鳥だし。ガス状キメラの線はないかな」
「そうね。まずはみんなの意見が多かったバードストライクの線を調査しましょう、その前に」
 コックピットにいくとなにやらごそごそと作業を数分するとオレンジ色の二つのボックスを取り出し簡易ゴムボートの乗せた。
「それってフライトレコーダー?」
「そう。これだけでも収穫ね。機体の切り出しは後回しにして調べましょうか」
 藤田の言葉に同意して桐生はエアインテークの前部、藤田は爆発したジェットエンジンのほうへと回る。しかし調べ始め桐生はすぐに異変に気づいた。
(これは‥‥キメラ?)
 エアインテークの中には死骸が散乱し詰まっており機体の表面にはいくつも潰れて死んでいるビートルが確認できた。
 エンジンノズルから電磁カッターで易々と切り裂いていた藤田はやはりすぐに桐生と同じくビートルの大量の死骸を見つけた。そこには大量の焦げ死んだブラインドビートルを目の前にしていた。藤田はこげ死んだ死骸とまだかすかに生きているビートルをカプセルに納めると水上に出た。先に水上に出ていた桐生は言う。
「前のほうにブラインドビートの死骸がいっぱい。これは‥‥」
「ええ、原因は明らかね。虫キメラが多数エンジンに入ってクラッシュしたことと原因。バードストライクじゃなくてインセクトストライクかしら。ガス状キメラじゃなくて拍子抜けだわ」
 そういって二人で笑いあったとき、岸の調査をしていた鳳から無線の連絡が入った。桐生が大よその原因を伝えるとこれから機体の切り出しにかかると伝えて無線を切る。藤田は考えるように、
「さて。フラップやラダーの損傷具合、欠陥もみようかしら」
「うん、自分は空を警戒してるよ」

●西岸調査組みの異変
「やはりこの虫型のキメラが原因ですか。でもなぜ機影に映ったかがまだ謎ですね」
 風防のビートルの死骸をリディスが採取する。その時、双眼鏡でずっと空を監視していたセラフィエル飛んでいる水鳥の群れに妙な所を発見した。
「おかしいですね‥‥。飛び方がばらついているように見えます。すみませんが、みなさん、試しに一羽だけ、私の弓で落として確認してもいいですか?」
「群れの先頭を飛んでるそいつを撃つしかないぜ」
 大山田が目を細めて空を見ながら言う。機体側の報告もあるからもしかしたら寄生されているかもしれない。そう全員の意見はすぐに一致し、それをセラフィエルは確認するとアーチェリーボウの矢をのせて弦を引く。狙いを定め、鋭角狙撃を放った。シュンッ、っという風きり音を残して見事に群れの先頭を飛んでいた鳥を落とした。周囲を警戒しつつ、西岸からかなり離れた場所に落ちたその水鳥を確認すると、
「まずいぞこれは‥‥」
 遠石が苦虫を潰したような顔しながら死骸を見る。死骸にはブラインドビートルが多数張り付いていた。刺さっている矢だけではなく。体の多数の場所が食いやぶやれている。
「この鳥たちはただ大量に飛び回っていたわけじゃない、ブラインドビートルから逃げ回っていたのか」
 その遠石言葉に全員が空を飛ぶ水鳥を見た。確かに飛んではいるが、群れごとにに飛び方がおかしく、そして別の群れが来るとその群れの飛び方がおかしくなる。
「あれは‥‥!」
一眼レフでその鳥を撮影していた鳳が声を上げる。数百メートル離れていては見えないが、その二十センチ程度の虫、ブラインドビートルの群集が水鳥の群れごとに飛びながら渡り歩いていた。別の群れがその取り付かれた群れを通り過ぎるとビートルは散開。また群集に戻って鳥を襲う、そのパターン行動を見て、亜鍬は全員が思っていることを口に出す。
「レーダーに映ったのはこの大量のブラインドビートルで、そこに先行の長谷部の戦闘機の突風で散会。しかし残った少数のキメラが戦闘機と激突。残りは再び水鳥を追うためにまた群集を作り、のちに消えた。そういうことか」
 全ての符号は一致したが。亜鍬はその場で覚醒した。髪は黒髪から真紅に染まり、瞳はアイスブルーに染まる。体からは赤いオーラが噴出し、刀を構えた。
「ただでは帰してくれないようだな」
 先ほどの攻撃のためか、水鳥の群れからビートルの群れが空中で待機し、こちらに急速に接近してきた。遠石も覚醒し全身に不思議な紋様を刻みつけ臨戦態勢になり、リディスも髪を漆黒にして覚醒し、
「鳳、大山田、セラフィエルの後衛組みは連携を取りながら攻撃しろ! 私たち前衛はなるべくそちらに虫を溢さずにする! 撤退しながら叩いていくぞ」
 覚醒前の冷静な物腰とは打って変わったリディスに三人は頷きながら後方に回る。
「鳳さん、私は大山田さんと遠方のビートルをやります! 取りこぼしたのをハンドガンでお願いします!」
 覚醒したセラフィエルはオーラで背中から短い三対の白い翼が見えていた。鋭角狙撃でビートルを確実に落としていく。
「何匹いるんだ。虫じゃ弾頭矢なんか使えないな。やっかいだ」
 ライフルから矢に持ち替えた大山田は据わった目で虫を睨みながら確実に落としていく。
「これはキリがありませんね‥‥」
 ハンドガンで真直に迫ったビートルを打ち落としていく鳳。
「ぐっ!」
 前衛でファングを振るっていた遠石がブラインドビートルの体当たりに声を上げる。すぐさま叩き落す。
「これじゃあ、消耗戦だ!」
「はあっ!」
 亜鍬が豪破斬撃を乗せた一撃を放つ。しかし、目の前のビートルを切り伏せるのが精一杯で上空からまだ別のビートルが現れる。リディスはそれを見て叫ぶ。
「これじゃもたん! 全員全力で離脱するぞ!」
「こちら西岸! 大量のブラインドビートルに襲われています! 機体回収を中止してそこから南岸まで泳いで戻ってください。今西岸に戻るのは危険です! 南岸で合流しましょう」
 後方のセラフィエルが機体回収に行った二人に無線で撤退することを伝えた。

●機体回収の中止、南岸へ
「おや、おかしいな」
 そういって桐生が西岸の様子を見たときだった。西岸組から攻撃を受けている、作業中止の上、南岸まで泳ぐようにと無線が入った。
「どうやら、部分回収だけになりそうね」
 藤田が横を見ると、簡易ボートにはフライトレコーダーなど重要部品だけが乗せてある。ふと、西岸をみていた桐生が藤田に、
「とっと逃げたほうがいいようだよ」
 西岸から虫のような今細かい群れがこちらにゆっくりくるのが見えた。
「‥‥南岸まで遠泳ね。結構疲れるのよ」
 そう愚痴を溢すと藤田と桐生は簡易ボートを引っ張りながら南岸目指して全速で泳ぎ始めた。


●合流
「くう。結構やられましたね。応急セットでとりあえず傷をふさぎますか」
 リディスをそう言って地面に腰をつける。すでに全員覚醒を解いていて、着地点である南岸に到着していた。先に以外にも到着していた桐生と藤田には事の顛末を話している。
「結局はあの虫のキメラが原因か。軍にはここの一掃とフライトのコースをずらすことを提案しよう」
 そういって遠石は自分の傷を見ながら呟く。
「とりあえず、高速移動艇がつくまで休んでましょう。軍にはインセクトストライクと報告しておきましょうね」
 そういってセラフィエルが微笑むと全員が同じように無線機で報告しようとしてそれに含み笑いを溢した。
<了>