タイトル:戦士の居場所2マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/05 08:02

●オープニング本文


「あっ」
「‥‥ああ」
 LHの街中でばった顔を合わせた斬子とマクシム。男は欠伸をしながら挨拶するが、少女はただ睨みを効かせるだけだ。
 頭を掻きながら考える中年男。まあ確かに、そりゃあそうだろう。自分はどう考えても、この少女には好かれていない。
「あー‥‥。いい天気だな」
 苦し紛れに声をかけてみるが、無視である。斬子はマクシムの横を素通りし、風に髪を靡かせながら去っていく。
 振り返り目を向ける。背筋をしゃんとして歩いているのに、どうにもがっくりと肩を落として見えた。
「――そりゃあ、若い女の子はおじさんが嫌いだからじゃないかしら?」
 ネストリングの事務所に戻ったマクシムはコーヒーを飲みながらマリスに先程の出来事を話していた。マクシム的には結構真面目に話をしたつもりだったのだが、気だるそうな口調も相まってマリスには茶化されてしまった。
「でも珍しいわね〜、貴方が他人の事を、それも女の子の事を気にするなんて」
「それもそうだな。何故だろうか」
 首を傾げるマクシム。思えば斬子と組んで行動するのが当たり前になり、何度も戦場で苦楽を共にしてきた。
 いや、考え直すと苦楽は共にしていない。何せ二人の間にある価値観は圧倒的に違うのだ。同じ事柄見ているのに、想いはまるで違ってしまう。
「でも斬子ちゃん、最近疲れてるみたいねぇ。依頼に出る度おかしくなってくんだもの、可愛いわ〜」
「下種め」
「あら、心に揺らぎがあるという事は素敵な事よ〜? こういう仕事に慣れてしまったら、もう戻れなくなるもの」
 コーヒーにミルクをたっぷり入れながら微笑むマリス。一度馴染んでしまった黒と白は、二度と切り離す事は出来ないだろう。
「おつかれー‥‥って、二人で何してるの?」
 事務所に入ってくるなり訝しげな視線を向けるドミニカ。まあこの二人に限って何かあるって事もないだろうが。
「マクシムが〜、斬子ちゃんを気にしてるって話よ〜」
「げぇっ!? おっさん、身の程を弁えたら‥‥? 幾らなんでもあんたらはつりあわないわよ」
 呆然とするマクシム。異論を挟むのも面倒なので、黙ってやり過ごす。
「まあ冗談はさて置き、九頭竜さんがなんだって?」
「最近なんかげっそりしてるじゃない〜」
「そうなの? マクシムが何かしたんじゃなくて?」
 首を横に振るマクシム。が、全く何もしてないとも言い切れない。
「あの調子では、任務に支障も出かねん‥‥何か思いつかないか、ドミニカ」
「はいは〜い! 私、ちょっといい考えがあるんだけど〜!」
「お前に若い女子の気持ちはわからんだろう」
 手を上げて笑うマリスに言い放つマクシム。マリスは素早く銃を抜き、引き金を引いた。
 吹っ飛ぶ事務所の壁。マクシムは両手を挙げて話を続ける。
「見ての通りだ。ドミニカ、どうだ? やはり女は花だろうか?」
「花って‥‥あんたに花束贈られても気持ち悪いと思うけど」
 腕を組みしれっと言う。ちょっとおっさんは俯いている。
「っていってもね、あたしもあんまり女の子らしい事してるわけじゃないし‥‥素直に誰かに聞いてみたら? オオガミさんとか」
「あれは‥‥‥‥アテにならんだろう」
 暫し考え込むドミニカ。まあ確かに、アテにはならない。
「ま、その辺も込みで考えてみる? あたし暇だし、付き合ってあげるわよ」
「いいのか?」
「ええ。正直、ネストリングの連中にそんな事する奴がいるなんて思ってなかったし‥‥あ、新人の子達は別よ?」
 けらけらと笑うドミニカ。そうしているとドタバタと足音が近づき、扉が開いた。
「マリス、また貴方ですね!! 室内でSES搭載の銃を発砲するなと何度も言っているでしょう!?」
「壁は壊れたら直せばいいでしょ〜?」
「お金がかかるんです! それに万が一流れ弾が誰かに当たったらどうするんですか!?」
「え〜、加減してるし〜‥‥」
「そういう問題じゃないでしょう!?」
 事務所の主とマリスが騒いでいるので離脱するマクシムとドミニカ。雑居ビルを出て街を歩き出す。
「それにしてもマクシム、九頭竜さんに情でも移ったの?」
「さあな。ただ、戦場には俺達の様な人間だけが居ればいい。あいつは傭兵に向いてないんだ」
「女の子だから?」
「それもあるが‥‥他人の為に一々涙なんて流す馬鹿は、向いてない。そういう奴は命を奪う仕事ではなく、命を救う仕事でもしていればいい。どこか戦場とは遠い幸せな場所で、な」」
 そっぽを向いて歩く猫背のおっさん。ドミニカはその姿に苦笑する。
「おっさんのツンデレってぶっちゃけキモいわよ」
 背中をばしばし叩きながら歩く。そんなとある日の午後であった。

●参加者一覧

上杉・浩一(ga8766
40歳・♂・AA
張 天莉(gc3344
20歳・♂・GD
巳沢 涼(gc3648
23歳・♂・HD
イスネグ・サエレ(gc4810
20歳・♂・ER
茅ヶ崎 ニア(gc6296
17歳・♀・ER
坂上 透(gc8191
10歳・♀・FC

●リプレイ本文

「こりゃまた色々と厄介な依頼だなぁ」
 LHの広場に集まった一行。イスネグ・サエレ(gc4810)は頬を掻きつつのほほんと口を開いた。
「何か悪いわねー、こんな面白‥‥面倒な事に巻き込んじゃって」
 腕を組み言い直すドミニカ。茅ヶ崎 ニア(gc6296)は徐に模造紙を取り出し、マクシムへ突き出した。
「じゃじゃーん! ドキッ☆中年だらけのナンパ作戦!」
 静まり返る空気。坂上 透(gc8191)は溜息を漏らし、一歩前に出る。
「全く‥‥良く見ろ、中年は二人しかおらんではないか!」
「いや、そこなのか!?」
 どや顔の透に驚く巳沢 涼(gc3648)。上杉・浩一(ga8766)とマクシムはベンチに横一列に座り、焦点の合わない目で虚空を眺めている。
「それは兎も角、その作戦とは?」
「良くぞ聞いてくれました。まず真ん中に斬子の名前を書きます。でもってこの周りにマクシムさんが斬子に持っているイメージをどんどん書いていって下さい」
 イスネグの一声で話を進めるニア。中心に斬子と書いた紙をマクシムへ手渡す。
「へぇ、案外まともじゃない。それならマクシムにも出来るわよね」
 優しく微笑むドミニカ。浩一はその横顔を意外そうにまじまじ見つめる。
「なんというか、意外だ。思ったより親身に話を聞いているんだな‥‥うん」
「意外って何? これでも結構面倒見はいいんだけど」
「ところで依頼書に『美少女』と書かれておるがこれは何かのー? 『女』の間違いじゃないかと思うが‥‥第一お主歳は幾つじゃ」
「ギリギリ少女じゃ! まだ十代よ、十代!」
 透に襲い掛かり頬を左右に引くドミニカ。透がもがいている様に苦笑しつつ、張 天莉(gc3344)はマクシムに声をかける。
「でも、マクシムさんも斬子さんを心配していたんですね。私達と同じだと知って、安心しました♪」
「ああ‥‥心配というか、相手は子供だしな。俺に言わせれば、お前も戦場は似合ってないよ」
 頭をぼりぼり掻きながら呟くマクシム。覚醒中は分らなかったが、今見ると照れくさそうにも思える。
「マクシムさんも根は悪い人じゃなさそうだし、斬子ちゃんと案外相性いいと思うんだよな」
「誤解されがちな人ですから‥‥斬子さんに真意が伝われば、或いは」
 ひそひそと話す涼と天莉。マクシムは紙を眺め、それをニアに返す。
「なになに‥‥『子供』って、他にないんですか? 何でも良いんですよ。ゴス女、人間凶器、ツンデレ、縦ロール最近元気がない、むちむちぷりん、百合? さぁさ、ドミンゴも一緒に」
「誰がドミンゴじゃ! ていうな何、あいつ百合なの‥‥怖っ」
 ハリセンでニアの頭を強打するドミニカ。天莉は咳払い一つ、話を纏める。
「問題点の一つは、マクシムさんが何を考えてるか解らない事だと思うんです‥‥って、ごめんなさい。これじゃ言葉が悪いですね」
「いや、その通りだ。俺は他人に意思表示する努力を怠っていたのかもしれないな」
 意外と素直な反応にきょとんとする一同。
「えーと‥‥つまり、回りくどくない素直な言葉で気持ちを話して欲しいなと。マクシムさん、要するに私達に戦って欲しくないんですよね?」
 紙を見つめ黙り込むマクシム。イスネグはそこへ声をかける。
「そういやマクシムさんや自称美少女のドミニカさんは何故ネストリングに?」
「いい加減引きちぎるわよその後ろ髪」
 束ねた髪を引かれ冷や汗を流しつつも笑顔のイスネグ。マクシムは顔を上げた。
「理由はない。ただ、ブラッドは俺に戦場をくれる。他の生き方が出来ない俺にとって、奴の存在は有り難い」
 戦争が出来れば何でもいい。戦士で居られるのなら他は些細な事。男はそう語った。
「私はヒイロ先輩を守る為にネストリングに入りました。今から一年以上前、あの日私は先輩のお祖母ちゃんを守れなかったのです」
 口を閉じたまま聞き入る浩一。涼は腕を組み、空を見上げている。
「それはお前の所為じゃない。戦争だったなら、仕方ない事だ」
「そうかもしれません。でも、せめてお祖母ちゃんとの約束だけは守りたいのです」
「何よあんた、意外といい奴じゃない」
 イスネグの頬をぐりぐりするドミニカ。マクシムは立ち上がりイスネグの前に立った。
「俺にも家族が居た。嫁も娘も死んだが、もし生きていれば娘はお前達くらいになる。戦争は人間のやる事じゃない。人でなしが人でなし同士でやればいい。今、この世界は狂っている」
 未成年の、何の経験も訓練も受けない少年少女が容易く戦場に送られ、重い責任を負わされる。そんな事が歴史上あっただろうか?
「お前達が戦わなければならないのは大人が不甲斐ないからだ。そのツケでそんな思いをしているお前達には、本当に申し訳なく思う」
 ばつの悪そうな顔のマクシム。涼はその肩を叩く。
「俺たちゃ仲間なんだしよ、仲良くしようや。それこそ、あんたの所為じゃないだろ?」
「気持ちはわかる。なんとなく、似たようなものを感じるな。頬って置けない、気になる子が出来るというのは‥‥」
 聞きに徹していた浩一が呟く。それから集中する視線に言い放った。
「‥‥ロリコンとかそういうのではないぞ?」
 さっと透を隠すドミニカ。浩一はスルーして立ち上がる。
「九頭竜さんは何でも自分で背負って守らないといけないと考えている節がある。悪い事とは言わんが‥‥潰されなければいいが」
 頷くマクシム。透は物陰から飛び出し、一行の中心に躍り出る。
「まったく、冴えない顔で難しい話をしおって。そんなんだからだめだめなのじゃ」
 その場でくるりと回り、ポーズを取る透。
「しかーし! 恋のキューピット、マジカルとおるん♪ にまかせておれば、どんな歳の差カップルであれアツアツモリモリ間違いなしじゃ。必ず両人を幸せにしてやろうぞ!」
 静まり返る場。こうしておっさんを斬子にぶつける戦いが始まるのであった。



「‥‥で、またこのパターンか」
 物陰から様子を伺い呟く浩一。視線の先、広場に呼び出した斬子とドミニカが対峙している。
「公園のベンチに二人で座り、静かに語り合う‥‥という雰囲気ではありませんね」
「何故あの斬子というのは最初から殺気丸出しなのじゃ?」
 冷や汗を流す天莉。透も斬子の仏頂面に首を傾げている。
「いや、斬子ちゃんはツンデレの可能性があるからまだわからないぜ‥‥!」
「どちらかというと病んでおらんか、あの目は」
 握り拳の涼に呟く透。と、マクシムは花束を取り出し斬子に差し出している。
「やっぱりドン引きじゃない!」
「‥‥花じゃダメだったのか」
 笑うドミニカ。浩一はしょんぼりと肩を落としている。
「マクシムさん、飯に誘うんだ! 先ずは警戒心を解くんだ!」
 無線機に語りかける涼。マクシムの耳にはイヤホンがついており、声が聞こえる仕組みだ。ちなみにニア持参である。
「‥‥斬子さん、思い切り後退してますね」
「怯むな! 斬子に四十男のハートをぶつけるのよ! 年の差がありすぎるとか戦うしか能のない男だからなんて気にしちゃダメダメ! 戦ってるときと同じ要領で斬子の乙女回路に言霊を撃ち込むのです!」
 緊迫した様子のイスネグの隣、涼の手にした無線機に叫ぶニア。しかしアドバイスも虚しく斬子はどんどん後退していく。
「ていうかあんた、絶対楽しんでるでしょ」
「違います! 私も斬子の友達として放っておけないだけです!」
 胸の前で手を組み、瞳を潤ませるニア。ドミニカはその頭をハリセンで引っぱたいた。
「仕方ないのう、ここは我が一肌脱ぐとしよう」
 準備運動を始める透。一行が首を傾げていると、透はマクシムに駆け寄っていく。
「パパー!」
 そのまま棒立ちのマクシムに抱きつき、よじ登る。そうして肩車の状態になってから斬子を見下ろした。
「なんじゃそこの女は‥‥浮気現場かの?」
「ああっ! 斬子さんが見た事のない顔に‥‥!」
 頭を抱えるイスネグ。天莉は口を抑え、成り行きを見守っている。
「ふむ、パパはどうやら我よりそちらの娘の方が好みのようじゃな。そんなツンケンせずに少しぐらい付き合ってやったらどうじゃ」
 斬子は透を下ろし、それから助走をつけてマクシムの顔面を殴り抜いた。
「何かあれ、違う意味で取ってない?」
 笑いを堪えるドミニカ。涼はそんなドミニカの肩を掴む。
「ドミニカちゃん、女の子なんだしなにかいい案ないのか?」
「そう言われてもねぇ」
「何か奢るから頼むよ、このとーり!」
 合掌し頭を下げる涼。ドミニカは溜息を漏らし、帰り始めた斬子へと駆け出した。そうしてその背中に飛びつき、押し倒す。
「とりあえず捕獲ーッ!」
「‥‥な、何の解決にもなっていないような」
「いいから手伝えー!」
 困惑する天莉。ドミニカは斬子と地べたでもみ合いつつ叫ぶのであった。

 数分後‥‥。

「女子の顔面全力で殴りぬくか、普通‥‥」
 頬を抑えて膝を着くドミニカ。斬子はその様子を横目に腕を組んでいる。
「貴方達、一体どういうつもりですの? 揃いも揃って」
「えーと、これには色々と深い訳が‥‥」
 左右の手を小さく振る天莉。透は振り返り、マクシムの足をちまちま蹴る。
「面倒じゃのう。見も蓋もないが、思った事を素直に伝えるのが一番じゃと思うぞ」
「ああ‥‥」
 頷き一歩前に出るマクシム。斬子はそれを人が殺せそうな目付きで迎撃する。
「ま、まぁまぁ。ここはゲームでも‥‥」
 じろりと斬子に睨まれる涼。そのままの表情で後退していく。
「ど、どうしたら‥‥女の子の喜ぶもの‥‥スイーツとかぬいぐるみとかで機嫌を取るとか‥‥」
「冴えない発想ねー‥‥ていうかあたしの後ろに隠れんな」
 ドミニカに足を踏まれる涼。ニアは斬子とマクシムの間に立ち、咳払いを一つ。
「こうなったら模擬戦しかないわね! さあさあ、二人とも準備して!」
 こうして強制的に模擬戦をする流れになった。傭兵達は二人の対峙を遠巻きに眺めている。
「しかし文句言わずにやる所が脳筋っぽいよな」
「あんたも似たようなもんでしょ」
 ドミニカの横槍に項垂れる涼。天莉は二人の鬼気迫る様子に呟く。
「でも、戦いながら話すのも二人にとっては良いのかもしれません。元々そういう間柄ですから」
「斬子ー! ただやったんじゃつまらないし、マクシムさんが勝ったら斬子がキスするってどうー!」
「ああっ! 斬子さんがまた新しい表情に‥‥!」
 ニアが叫ぶと斬子は覚醒し斧を構える。その姿はまたイスネグにとって新鮮であった。
 こうして戦い始めた二人。その様子を眺める傭兵達に危機感が募る。
「相互理解の為に本音をぶつけ合えば友情が芽生えるかとも思ったが‥‥」
「ガチすぎない、あれ? お互い無言だし」
 焦る涼。ドミニカも二人の真剣勝負に引いている。
 結局止めに入るのも危険なので、成り行きを見守るしかない。数分間の激闘の末、勝利したのは斬子であった。
「‥‥貴方、手加減しましたわね?」
 斧を突きつけ睨む斬子。マクシムは銃を収めた。
「一応、人通りもあるからな」
 にらみ合う二人。どうなる事かと思いきや、斬子は躊躇いがちに手を差し出すのであった。
 斬子の手を借り立ち上がるマクシム。二人は先程よりは柔らかい雰囲気で見詰め合っている。
「何? 結局脳筋って事でいいの?」
「いや、あれはツンデレ同士が同時にデレたのよ!」
 近づいてきた斬子はドミニカとニアを連続して手刀で打つ。
「貴方達の企みなんて大体お見通しですわ。本当、お人好しなんだから」
 溜息混じりに笑う斬子。天莉はマクシムを一瞥し、斬子に語りかける。
「マクシムさんは、斬子さんを心配していたんですよ。ね、マクシムさん?」
 頷くマクシム。そうして口を開いた。
「‥‥そう気を落とすな。お前は状況の中で最善を尽くそうと努力してきた。だから、お前の所為じゃない」
「私も同じ意見。斬子、貴方は出来る範囲で精一杯頑張ってると思うよ。それ以上は神様にだって無理だわ」
 ニアの優しい言葉に目を反らす斬子。拳を握り締め、目を瞑る。
「それでもわたくしは、もっと多くを救いたい。一つだって仕方がなかった命なんてないのだから‥‥」
 その横顔を見つめるイスネグ。一年前のあの日から、きっと彼女もイスネグと同じ想いを背負っているのだろう。
「力不足は当然だ。お前達は経験も実力も、まだまだだからな」
 イラっとした顔の斬子。マクシムは面倒臭そうに言葉を続ける。
「お前達はまだ子供で、発展途上にある。まだまだ強くなる。経験を生かせ。そして足りない時は、大人を頼れ」
 意外な言葉に驚く斬子。沈黙が流れたが、それは先程までとは違って重苦しくは感じられなかった。
「話は纏まったかのー? あ、終わってなければおかまいなく、続けて続けて」
 声に振り返ると、透を肩車した浩一が歩いてくる。浩一はコンビニの袋を一行に差し出した。
「‥‥暖かいものはどうだ? 心が安らぐ」
「上杉さんって、やっぱりロリコン‥‥」
「違う‥‥この子が勝手に疲れたとか言って上って来ただけだ‥‥」
 ドミニカの視線に首を横に振る浩一。透はそんな事は露知らず、浩一の頭の上で肉まんを齧っている。
「話が長すぎなのじゃ。腹が減るのも仕方あるまい?」
 皆でコンビニの袋を漁る。イスネグは斬子に歩み寄り、その肩を叩いた。
「悩みがあるなら何時でも聞くよ、斬子先輩! これ遅れたけどクリスマスプレゼント」
 手渡されたメダルに微笑む斬子。そんなイスネグの背後からドミニカが飛びつき、ピザまんを齧りつつイスネグの後ろ髪を引く。
「こら、ちゃっかり綺麗に纏めんじゃないわよ」
「マ、マクシムさんにもこれ‥‥」
 ドミニカに髪を引かれつつマクシムに差し出したのはライターであった。
「このまま任務に行くのは危ないですよ。とりあえずコレを上着のポケットに入れておくと弾を防いでくれるかもしれないです」
「‥‥そうか?」
 別に普通のライターなのだが、とりあえず受け取るマクシムであった。
「斬子ちゃん、次は俺と模擬戦やろうぜ。久々に手合わせしたいしな!」
「涼、やっぱり脳筋じゃないのよ! そんなんじゃモテないわよー!」
 手を振る涼にドミニカが駆け寄り、背中をばしばし叩く。賑やかな様子を眺めるマクシム、そこへ浩一が缶コーヒーを差し出す。
 おっさん二人は並んでコーヒーを飲む。特に言葉は交わさなかったが、何と無くそれだけで分かり合えた気がした。
「ところで斬子、模擬戦実は斬子が勝ってもマクシムさんにキスする筈だったんだけど」
「それ以上言うなら貴女も参戦させますわよ」
 ニアを一瞥し、斧を握り締め微笑む斬子。こうして何と無く険悪なムードは吹き飛び、斬子にも笑顔が戻るのであった。
 楽しげな様子を眺め、しかし寂しげに笑うマクシム。その瞳にはありし日の記憶、想い出の景色が写りこんでいた――。