タイトル:失意へのリベンジマスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/30 08:25

●オープニング本文


●望まれた孤独
「歌の次は幻覚‥‥か」
 簡単な依頼のはずだった――。
 新人研修の手伝い。ちょっとしたキメラを倒して。ただ、見ているだけで良いはずだった。
 勿論、その場所がバグアとの競合地域である事は重々承知だった。だが下調べに来た時はそれ程の脅威は感じられなかったのだ。
 どこで何がズレて、それが噛み合って‥‥。不運というたった一言で片付く現実にメリーベル・エヴァンスは溜息を漏らす。
 月の綺麗な晩だった。鬱蒼と生い茂った森の中、彼女が横たわるその場所では木々が開け、空が良く見えた。
 ぼんやりとした意識のま身体の状態を確認する。武器――。最も手放してはならないそれは彼女の手元には無かった。
 続けて首、腕、身体‥‥順番に動かしてみる。ピクリと反応するが、痛みが激しく身動きは取れなかった。
 両足に至っては完全にアウトだ。傷が酷いのか、激しすぎる痛みで焼き切れてしまったように感覚が無い。
 重体――紛れも無く重体だった。死に至るかも知れない状態に置かれているというのにメリーベルの表情に焦りはなかった。
「まあ‥‥それも悪かない、か」
 やるべき事はとりあえずやった気がする。能力者なのだ、不運に死ぬ事も覚悟していた。
 心は安らかで、どこか救われたような気さえする。もしかしたらずっと自分はこうなりたかったのだろうか‥‥。少女は首をもたげた。
 視線の先、倒れた彼女を見下ろす人影があった。それは幻覚だと分かっていたのに涙が止まらなかった。
 救いを求め、少女は手を伸ばす。傷だらけの手は何も掴む事は無い。無いはずなのに――確かな温もりを覚える。
「もう、疲れちゃった‥‥。休みたいよ‥‥いいでしょ、師匠――」
 縋る様な視線の先、陽炎は何も語らない。それでも少女は嬉しそうに目を細め、やがて意識を失うのであった。

●救出作戦、再び
 カシェル・ミュラーが救出作戦への参加要請を受けたのは時計の短針も真夜中を示そうと言う頃合だった。
「新人研修って‥‥この間僕も参加したあれですか?」
 上着に袖を通しつつ通話を続けるカシェル。少年へ救出を依頼したのは彼の顔見知りであり前回依頼を押し付けてきた男だった。
「ああ。あれからも何度か新人向けの訓練依頼って事で続けられていたんだが‥‥不味い事になった。直ぐに出られるか?」
「‥‥勿論。それで、何がどうなってるんですか?」
 真っ暗な室内、ソファの上に転がって寝ている後輩を見やりカシェルは静かに、しかし急いで部屋を出た。
 移動しながら電話で聞いた概要にカシェルは思わず過去の苦い経験が蘇るのを感じていた。
 新人向けの研修依頼が行われていたのはカシェルの時と同じ、とあるバグア競合地区の山岳地帯であった。
 事前に念入りな周囲の調査を行い、研修には経験豊富な能力者が数名同行する。要するに、新米の傭兵にキメラとの戦闘を経験させようという単純な有志の企画である。
 これまでも特に何の問題も無く成功してきたその計画に則り、今回も同じように研修が行われたのだが‥‥。
「得体の知れないキメラが現れてな。新米より、むしろ経験豊富な能力者がそいつにやられちまったらしい」
「そんな事って在り得るんですか‥‥?」
 いつになく真剣な口調で語る電話の向こうの先輩傭兵に疑問を投げかけるカシェル。答えはとてもシンプルだった。
「なあカシェル。新米の傭兵になくて、熟練の傭兵にあるものって何だ?」
 答えに詰まり、足を止めるカシェル。男は困惑したような口調で答えを告げた。
「――過去の経験だよ、カシェル」
 重く響く言葉に少年の脳裏を思い出したくも無い景色が過ぎる。
 何故かとても。とても‥‥嫌な予感がした。しかし胸を締め付けるようなその感覚の正体は分からずとも、今は行くしかない。
 もう二度と、何かを守れず失う事だけは絶対にごめんだと思ったから――。

●参加者一覧

ベーオウルフ(ga3640
25歳・♂・PN
シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
キリル・シューキン(gb2765
20歳・♂・JG
篠崎 宗也(gb3875
20歳・♂・AA
ナンナ・オンスロート(gb5838
21歳・♀・HD
流叶・デュノフガリオ(gb6275
17歳・♀・PN
御闇(gc0840
30歳・♂・GP
籠島 慎一郎(gc4768
20歳・♂・ST

●リプレイ本文

●あのひのきみへ
 ――雨が降りしきる森へ、巨龍の影は落とされる。
 木々の間を炎が息吹き、どこからともなく怨嗟と無念、悲痛な声が反響する。
 見えているのが幻だと、ベーオウルフ(ga3640)は理解していた。それでも両足は動かず、相棒である屠竜刀も小刻みに震え続けている。
 雨粒を蒸発させるこの熱も、畏怖を植えつけるようなこの足音も、全ては幻‥‥。それでも恐怖を拭う事は容易ではなかった。
 清らかなベルの音が鳴り響く森でナンナ・オンスロート(gb5838)は手を引かれ走っていた。
 龍の鎧も、鍛え上げた屈強な身体もそこには無く、ただ俯瞰するような感覚と幼い自意識だけが精神を支配していた。
 手を引く人に伝えようとした。『そっちに行っては駄目だ』と。しかし世界は忠実にメモリーを再現し続ける。
 ベルの音が響く。少女の目の前には大きな瓦礫、そしてその下から伸びる白い手と地を蝕む紅い液体――。
「そこですか!」
 鈴の音に反応しシーヴ・王(ga5638)が闇の中に放ったソニックブーム。しかしそれは獲物を捉える事はなかった。
 唐突、頭上より人が落下してくる。落下の衝撃で木偶のように可笑しな形になる影から飛び散る血がシーヴの頬を濡らした。
 ゆっくりと震えながら頭上を見上げれば、崖の上には幼い少女がへたり込んでいるのが見える。
 小さく悲鳴さえ上げ、シーヴは数歩後退した。目の前に落ちてきたのが『何』だったのかなど、考えたくも無い――。
 ベーオウルフも、ナンナもシーヴも、誰もが優秀な傭兵であるはずだった。それが成す術無く苦しむ姿を籠島 慎一郎(gc4768)はやや遠巻きに眺め続ける。
 彼だけには見えていた。迫るマネキンの姿も、その奥でベルを鳴らす亡霊の姿も。
 しかし慎一郎は笑みを浮かべる。『羨ましい』とさえ思った。あの音色は如何にして、彼らの暗がりを擽っているのだろうか。
 夜明けの近い闇の中、慎一郎は空を仰ぐ。降りしきる雨にその身を溶かせば全ては幻‥‥。彼はこの森へ入る直前の事を思い出していた。

●それをせおって
「これはなんとも解り易い方ですねぇ、カシェル様は。自らを律してくれた人間に惹かれる訳ですか」
 救助開始直前――。慎一郎と対峙した時の事を探索中カシェルは何度も思い返していた。
「現在の状況、カシェル様が大切なものを失った時と状況が酷似しています。とても楽しみです――想い人の前で是非とも醜態を晒してほしいものですね」
 冷たく降りしきる雨、輸送車両のライトに照らされ慎一郎は報告書のコピーを片手に穏やかに微笑んでいた。
 仲間が止めに入らなければカシェルは彼に殴りかかっていたかもしれない。だが、どこかで思っていたのだ。
 この状況も、今自分がここに居るのも、彼の言う事も全ては現実で。逃れられない真実なのだと――。
 救出作戦はシンプルだった。
 陽動班が照明弾等の道具を使い派手にキメラを引き付ける。その間救助班がメリーベルを探すという物だ。
「陽動班と連絡が‥‥。これは拙そうですかね?」
 無線の応答が無くなり御闇(gc0840)は引き攣った笑みを浮かべる。
 だが彼らがどの辺りで戦闘になったのかは概ね把握していた。後は彼らを信じ、戦闘を避け先を急ぐだけだ。
 事前情報から崖付近を調べ、どうやらメリーベルが崖から転落したらしい事までは分かったのだ。
 遠回りし、落下地点に崩れた岩が散乱しているのを確認してからはメリーベルの血の跡を辿り彼らは走り続けた。
「待ってろよ、絶対助けだしてやるからな!」
 邪魔な草木を刈り、道を開きながら篠崎 宗也(gb3875)は雨の中声を上げる。
 やがて木々の開けた場所に出ると、そこで空を仰ぎ倒れているメリーベルを発見した。
 すぐさま流叶・デュノフガリオ(gb6275)が駆け寄り練成治療を施す。一瞬背筋が冷える程要救助者の顔色は悪い。
「大丈夫か? 安心しろ、直ぐ治療する――!」
「ご苦労様ですメリーベルさん。今の所、死者は0です」
 救急セットを開き御闇も治療に手を貸す。メリーベルは特に両足の負傷が酷く、複雑に骨折している様子だった。
「‥‥救助?」
「はい! メリーベルさん、大丈夫ですか!?」
 駆け寄り手を握り締めるカシェル。しかしメリーベルは生気のない顔で呟いた。
「別に、助けてなんて頼んでないのに‥‥」
 一瞬の間――。雨音の中、メリーベルは続ける。
「もう、ほっといて。もう‥‥あたしなんか、生きてたって――」
「そんな悲しい事言うんじゃねぇ! たった一つの命なんだぞ! 最後まで足掻いて生きろ!」
 言葉をかき消すように叫び、宗也は死なせないと言わんばかりに治療に手を貸す。
「おしおきアタック! 生きるのに疲れた‥‥? そんな台詞60年早いわ!」
 取り出した巨大ハエタタキでメリーベルの頭を小突き御闇も笑う。応急手当は迅速で、メリーベルは死ねそうにもない。少女はゆっくりと目を瞑った。
 そんな様子を流叶は複雑な心境で眺めていた。脳裏を過ぎる忘れられない言葉、しかし今はやるべき事をやらねばならない。
「――来たか」
 アサルトライフルを構えるキリル・シューキン(gb2765)。周囲を警戒していた彼の目にはこちらへ近づく人影が見えていた。
「‥‥私が食い止める。お前達は先に行け」
「キリルさん、でもっ!」
「――二度言わせるな。いいから行け」
 言葉をぐっと飲み込み、カシェルは振り返る。既に背後では宗也がメリーベルを背負っていた。
「帰り道はどっちだ!? こう暗くちゃな‥‥!」
「ご安心を。お帰りはこちらですってね」
 御闇は探索中、木にナイフで目印をつけていた。これで道には迷わないだろう。
「直ぐに戻る‥‥! 無理はするな!」
 遠ざかる流叶の声に耳を傾け、キリルは迫るマネキンへと銃を構えるのであった。

●こえをあげて
「バグア――殺す!」
 静観する慎一郎の目の前、マネキンが吹っ飛んでいく。
 次々に襲ってくるマネキンへ本能的にナンナは突撃を繰り返す。己の消耗や周囲の状況など頭の片隅にさえない。
「母様ごめんなさい‥‥シーヴの所為で、ごめんなさい‥‥」
 慎一郎が目を向けるとシーヴは己の身体を抱き崩れ落ち、ベーオウルフは肩で呼吸を繰り返し、恐怖に震えている。
 小さく息をついて微笑み、慎一郎が渋々手を出そうかと考えたその時、流叶の放った矢がマネキンを吹き飛ばしていく。
 遅れ、流叶を追い抜いて次々に救助班のメンバーが駆け寄ってくる。目の前で剣を構えたカシェルに慎一郎は片目を瞑り言った。
「『今度は』助けられると良いですねカシェル君? あの時より貴方は力を得ているでしょうから、きっと出来ますよ。『お姉様』もさぞお喜びになるでしょう」
「いちいちうるさい人だ‥‥。でも、貴方の言う通りですよ」
 大暴れしているナンナを見据えカシェルは歯軋りする。慎一郎はその隣に並び肩を竦めた。
「しかしこれではどうしようもないのでは?」
「‥‥ははは。どこを見ているんですか、慎一郎さん? ちゃんと見て下さい」
 ベーオウルフが雄叫びを上げる。傷ついた身体が彼に告げるのだ。全ては過去なのだと。
「我が名はベーオウルフ! 龍を屠る者なり!」
 生態鎧を纏い、剣を掲げて男は叫ぶ。わらわらと近寄るマネキンを真正面から剣で叩き潰し、男は声を上げた。
「自分を責め続ける方が母様は哀しむと――そう言われた、ですね」
 震えは完全に収まらずともシーヴも立ち上がる。血は戦士の矜持を、そして薬指の指輪は女の決意を取り戻す。
 愛と言えば陳腐に聞こえるだろう。だが確かに彼女はその陳腐な言葉を糧に立ち上がったのだ。確かな強さと共に。
 復帰した二人に加え、銃を連射しながらキリルが駆け寄る。御闇と宗也の二人と背中合わせに構えるとキリルは呟いた。
「待たせたか?」
「心配させないで下さいよ、全く」
 傭兵達が攻勢に出ようとすると、再びベルの音が鳴り響いた。先程の勢いはどこへやら、ぴたりとそれぞれの動きが止まってしまう。
「何故、ここにいるんだ‥‥同志」
 彼の者の前に、哀れな民兵とその統率者を。
「あの時俺に力があったら‥‥!」
 彼の者の前に、横たわる両親を。
「もう2人も見過ごして、これで死なれたら3人目だぞ? 俺はトラウマ作りに来たんじゃねぇっての‥‥」
 彼の者の前に、届かぬ景色を――。
 幻へと手を伸ばし腹を裂く痛みに苦しむ流叶を脇目に慎一郎は首を擡げる。カシェルは‥‥平然と構えていたのだ。
「しっかりして下さい! 貴方達は強い! もう、弱いままの自分じゃないんです!」
 カシェルの声が響き渡り、シーヴとベーオウルフが互いの剣を交差させるようにしてマネキンに立ちはだかる。
 ベルが鳴る。傭兵は一人、また一人と立ち上がった。ベルが鳴る。彼らは武器を手に、恐怖へと対峙する。
 マネキンを叩き潰し暴れるナンナへと駆け寄り、カシェルは彼女を全力で組み伏せた。少年の頬、暴れる龍の手が叩いても。
 あの日の彼女と同じく彼は何も言わなかった。冷静さを取り戻したナンナは顔を上げ、そして倒すべき敵を見る。
 闇の中にベルが鳴る――。
「かつてのファシストと同じバグアに与すると言うのならば躊躇う理由無し! 私の前に立とうというのならば容赦はせん! 我は赤きを貫き黒を打倒する!」
 勇ましき歌と共に過去を踏み越えるキリル。
「人のトラウマを思い出させるんじゃねぇ!」
 強い決意と共に大剣を掲げる宗也。
「もう目を逸らさない、あの人の為に戦うって、決めたんだ――!」
 涙にも似た白き羽と共に絆を思い出す流叶。
 ベルが鳴る。
「てめぇも痛みを知れです――ッ!」
 ベルが止む。シーヴの両断剣・絶の一撃を合図に反撃が始まった。
 雨が降る。彼らの上に、静まる森に――。

●せいかいはなくても
「まぁ、トラウマは自分で何とかしてください。俺、人の心に関しては苦手なので‥‥。ただ、『君なら大丈夫』です」
 キメラ殲滅後、ライターの火を使った催眠術でメリーベルのケアをする御闇の姿があった。
 ホットコーヒーを口にして目を瞑るメリーベル。御闇は何度か軽く彼女の肩を叩き自分もカップを傾けた。
「ほんと助かってよかったぜ‥‥」
 シーヴと一言二言言葉を交わし搬送されるメリーベルを見送り、宗也は深々と溜息をついた。
 彼女が死にたいと言い出した時はどうしたものかと思ったが、最後は力なく笑顔を見せてくれたのだから宗也の言葉はきっと響いたのだろう。
 雨は止んだが濡れた身体はまだ冷たい。ついでに脳裏を大量の蜂が迫ってくる映像が流れ宗也は身震いした。
「そうだ! だ、大丈夫か? 陽動大変だったろ?」
「このくらいなんて事はねぇです」
 笑顔でそう答えるシーヴと無言で腕を組み頷くベーオウルフ。シーヴは指輪を軽く撫で、暁に染まり始めた空を見上げた。
 そんな時、空にキリルの弔砲が鳴り響いた。濡れた前髪から伝う雫越しに朝焼けを臨む彼の耳に、諭すような彼女の言葉が確かに聞こえた。
「同志、私は戦う。それが弔いだと信じて‥‥」
 今は能力者の『キリル・シューキン』としてではなく、『シューキン一等兵』として黙祷を捧げる。今は亡き同志達へと――。
 疲れたように朝日を見上げる流叶へと御闇はコーヒーで満たしたカップを差し出した。
 流叶の中にはまだあの日の父の言葉が響いている。それは簡単に拭い去れるような物ではない。
 だがあの戦いの中で『小心者の自分』を抱えそれと向き合い必死になった――その経験はきっと彼女を良い方向へと導くだろう。
 光を弾く首飾りを握り締め、今の自分を支える絆を思い出す。新しい生き方は、どうやらもう見え始めているようだ。
「大変でしたね。如何にして乗り越えたのでしょうか? 良ければお聞かせ願えませんか」
 慎一郎は傷だらけのカシェルへと言葉を投げかけた。カシェルは溜息を一つ、そして黙ってナンナへと歩み寄った。
「『借り』を返しに来ました、ナンナさん」
 俯く彼女へカシェルが差し出したのは、彼女が依頼前に彼に貸し出した暗視スコープだった。
 あの日のあの判断は、明らかに私の失敗です。だから――今度は失敗しません。ナンナは擦れ違い様カシェルに呟きそれを渡したのだ。
「カシェルさん、私は‥‥」
「いいんです。これでお互い様‥‥。まだまだ貴女は遠いけど、でも‥‥ここから始めるつもりです」
 暗視ゴーグルを受け取り、ナンナは複雑な笑みを浮かべた。カシェルは照れくさそうに振り返り、慎一郎へ無邪気に笑いかけた。
「貴方のお陰ですよ、慎一郎さん。目茶目茶腹が立って――姉さんの影も、それで乗り越えました。貴方の事は大嫌いですよ。でも‥‥全部貴方のお陰です」
 傷だらけの手を差し出しカシェルは笑う。慎一郎は思いがけぬ彼の言葉に一瞬驚いた後、溜息混じりにニヒルな笑みを取り戻した。
「人とは面白い生き物ですね――本当に」
 二人は手と手を強く握り合った。気づけばもう朝、悪夢は晴れて新しい世界が始まろうとしていた。
 帰り支度の中、ベーオウルフは思う、『今日は良く眠れそうだ』、と――。
 傭兵達は帰路に着く。それぞれの道に正解は無くとも、確かに乗り越えた『今日』を背負って。