●リプレイ本文
「毎度どうも、と。いつもの馬鹿に戻ったみたいだな、きゅーちゃん。そっちの方がお前らしくて好きだよ」
敵部隊へと進軍するKV達。レインウォーカー(
gc2524)はフェニックスと並走しつつ声をかける。
「結局私は賢くないからな。馬鹿である事は美徳なのさ」
「そうかねえ。久しぶりの同伴だからかもしれないが、俺には以前より真面目というか、張り切り過ぎてる気がするんだけど」
というのは地堂球基(
ga1094)の言。それはレインウォーカーが前回感じていた事でもある。
「どちらにせよ、辻褄の合わない事だ」
思案するリヴァル・クロウ(
gb2337)。玲子の極端な行動に時折覚える不自然さ。その正体が何なのか、彼もまだ理解していない。
「‥‥九頭竜、君は一体何を隠している」
「お兄様? お兄様、聞いてますか?」
首を動かすシュテルン。やや後方、セラ・ヘイムダル(
gc6766)が声をかけていたようだ。
「すまない、考え事をしていた」
「もう、お兄様ったら‥‥今誰の事考えてたんですか?」
脹れた顔でリヴァルを見つめるセラ。彼女がここに居る理由は彼にあるのだから、ちゃんと活躍を見て貰わねば話にならない。
「お兄様のお役に立てば、やがて感謝の念が愛情へと変化し、二人の関係性も‥‥ぽっ」
頬を赤らめるセラ。一方、何ら変化を感じていない者も居る。飯島 修司(
ga7951)だ。
「宇宙でも地上でも、戦場の空気に変わりはないですな」
一ヶ月ぶりの地上戦だが、特に問題はない。彼にとって戦場こそ生き易い場所なのだから。
「南下するバグア軍が連れているのは特殊なTW‥‥。奴等の狙いがデリー攻略だとすれば、攻城用の兵器を搭載している可能性が高いな」
「折角ジャイプルを解放したのに、逆転されては困りますから‥‥ね」
煉条トヲイ(
ga0236)の声に御鑑 藍(
gc1485)が苦笑を浮かべる。それで思い出すのは前回の作戦だ。
「そういえば前回も、増援が来ましたし‥‥紅い機体、来るでしょうか」
「かもしれないね。どうも九頭竜隊とは浅からぬ因縁があるようだし」
頷く鳳覚羅(
gb3095)。これが運命なのか偶然なのか、遭遇率が高いのは事実。
「しかし乗りかかった船‥‥いや、既に乗っているか。まぁ、引き続き協力させてもらうよ」
こうして移動する傭兵達。その正面から接近する敵部隊を確認する。
「正面に目標を補足。ゴーレム6、TW4、それと更に後方から敵が接近中!」
前進するTW隊を追うようにこちらに向かって来る紅いゴーレムが二機。一気に距離を詰めて来る。
「以前見た機体だねぇ。またと言うかやっぱりと言うか。九頭竜小隊の行くところ紅ゴーレムありって所かなぁ」
肩を竦めるレインウォーカー。セラは紅い機体を見て首を傾げている。
「両方通常のゴーレムとは別格の熱量ですが‥‥あの図体の大きい方は更に異常な熱量です。これは‥‥?」
「恐らく何か仕込んでいる可能性が高い。各員、注意しろ」
仲間へ告げるリヴァル。こうして戦いの火蓋は切って落とされた。
「案の定、ゴーレム部隊が盾となるか。ならば――強行突破と行かせて貰おう!」
前進するトヲイ。正面からはTWの苛烈な砲撃に加え、行く手を阻むゴーレム隊。紅い機体も合流し、その守りは堅強だ。
リニア砲をゴーレムへ放つトヲイ。そこへ紅い機体が割り込み突っ込んで来る。
「パーティーには間に合ったみたいね。遊んでくれるかしら、ULTの傭兵さん」
両肩からフェザー砲を連射しつつ回り込むビアンカ機。盾を構えながらトヲイはその挙動を目で追う。
「そいつはこっちで引き受けるよぉ」
二丁拳銃で牽制しつつ接近するレインウォーカー。更に修司、リヴァルがビアンカ機へ向かう。
「すまない、任せる」
ビアンカをやり過ごし前に出るトヲイ。立ち塞がるゴーレムにリニア砲を当てながらTWへと近づいていく。
「――悪いが、貴様の相手をしている暇は無い‥‥!」
TW達はこれにプロトン砲と実弾の副砲で応戦。その火力は通常機より明らかに強力だ。
「攻城用TW。砲撃を一撃でも喰らえばタダでは済まんだろう‥‥。だが、絶対にデリーには近付けさせん‥‥!」
「よっと。当たらなきゃいいんだろ、要するにさ」
図太い光の一閃を滑るように回避する球基の天。それに並走する藍のシラヌイは跳躍しゴーレムの頭を踏み台に防衛ラインを突破する。
「一気に片付けたい所‥‥ですが」
正面にはもう一機、紅いゴーレムが待機している。突っ込んできたビアンカとは違い、こちらはTWから離れない。
「作戦は順調に進んでいるからね‥‥イレギュラーには速やかにお引取り願いたいかな? 側面から回り込む。正面は避けて、挟撃と行こう」
脇に逸れる覚羅。傭兵達は左右に散り、それぞれTWを挟み込むように布陣する。
「ノーマルのゴーレムは出来るだけこちらで相手をするから、TWの撃破をお願い!」
九頭竜隊のKVはそれぞれノーマルのゴーレムを一機ずつ引き止める。これでTWとゴーレムはほぼ分断出来た形だ。
「フフフ‥‥アハハ! アハハハーッ!!」
増設したブースターから炎を吐き出しながら加速する紅いゴーレム。向かう先には藍と覚羅の二人が居る。
「向かって来るのなら‥‥相手をしないわけには行きません‥‥ね」
「そういう事になるかな。余り時間はかけられないけど」
盾を構え真正面から突っ込んで来るユリアナ。これを左右に散り回避する二人。ユリアナ機は大地を削りつつUターンし、再び突っ込んで来る。
スラスターライフルで迎撃する覚羅、しかし敵は意に介さない。藍は擦れ違い様機刀で斬りつけるが、腕が弾かれ機刀の方を零してしまう。
「く‥‥っ」
再び旋回、突っ込むユリアナ。トヲイはその様子に眉を潜める。
「この声‥‥子供なのか?」
「あんまり余所見してる余裕はなさそうだぜ、と」
TWの砲撃に晒されながら接近するトヲイと球基。高威力の主砲はかわして進んでいるが、複数の副砲まで避けきる事は不可能だ。
「長くは持たないな。さっさと無力化させてもらう」
ブレストミサイルを連射し副砲を狙う球基。トヲイもプロトン砲を盾で防ぎつつ、リニア砲による攻撃を続ける。
「もう一機の紅いゴーレムにTW班が妨害されています!」
「セラ、前に出すぎだ。もう少し下がっていろ」
接近するゴーレムにマルコキアスを浴びせ撃破するリヴァル。セラを守りつつ、ゴーレムの相手を続ける。
「九頭竜小隊は?」
「ゴーレム隊と交戦中、劣勢のようです」
ノーマルのゴーレムと一対一の状況でも劣勢とは情けないが、それでも彼らにしてみれば持ち堪えている方だろう。
紅、通常共にゴーレム処理が遅れている所為でTWの撃破も進んでいない。分が悪いとまでは言わないが、このままでは消耗してしまうだろう。
「何このディアブロ‥‥」
俊敏に回避運動を取りつつフェザー砲で攻撃するビアンカだが、修司の機体に目ぼしいダメージは与えられていない。それどころか速力に特化した機体だというのに、平然と照準を定めてくる。
ふわりと舞い上がり、滑空するようにナイフで襲い掛かるビアンカ。素早い連続攻撃も修司は剣でいなしてしまう。
「成程、これじゃダビダの手に負えないワケね」
「こちらよりあちらの機体の方が厄介そうですな。宜しければ私は向こうの相手をしますが」
「ああ、そうしてくれぇ。こいつはボク達で何とかするさぁ」
入れ替わり襲い掛かるレインウォーカー。修司は背後に跳び、反転しTW隊へ向かう。
「それではご武運を」
擦れ違ったあまりのゴーレム一機を槍で瞬殺し加速するディアブロ。ビアンカは鞭を取り出しレインウォーカーへ襲い掛かる。
「あら、良かったの? あっちに行かせて」
「ボクとリストレインを舐めるなよぉ。そういう事は、ボクらを倒してから言う事だぁ」
光を帯びた鞭で打ちつけるビアンカ。レインウォーカーは二丁拳銃を十字に構え耐えるが、そこへ急接近からの蹴りが減り込む。
脚部から出現したチェーンソーがペインブラッドの装甲を削る。追加の蹴りで仰け反る機体、レインウォーカーは二丁拳銃で反撃するがビアンカの速度を追いきれない。
跳び回るビアンカ。これに接近しつつ、リヴァルはマルコキアスで攻撃を仕掛ける。
「エースを倒す。セラは下がっているんだ」
「下がれって、どこに? 今私を守れそうな人はお兄様しか居ませんよ」
眉を潜めるリヴァル。それから眉間を揉み、操縦桿を握り直した。
「‥‥無理はするな」
「はい♪」
バルカンで援護射撃するセラ。リヴァルはレインウォーカーと合流しビアンカ機へ仕掛ける。
「接近戦を仕掛ける。援護よろしくぅ」
「凡夫で申し訳ないが、相手をさせて貰う」
「いやぁん、モテモテ」
首を傾げ、肩を竦めるゴーレム。細くしなやかな指を差し出し手招きする。
一方、対TW班。トヲイと球基はTWを一機沈黙させ次の撃破に向かっていた。
「うわぁああっ!?」
TWのプロトン砲が直撃した内村機。そのまま倒れ、動かなくなる。
「あれくらい避けろよバカ!」
「ご、ごめん、俺が下手なばっかりに‥‥うわっ!?」
ダウンした内村機にゴーレムが襲い掛かる。玲子が割り込み相手をするが、劣勢は加速した。
「外山、中里! 内村機を支援!」
指示を出す玲子。九頭竜隊は四機のゴーレムから集中攻撃を受け、更にTWに攻撃されている。
「拙いな、早くTWを黙らせないと」
移動し続けるユリアナ機を撃ちつつ焦る覚羅。ユリアナの攻撃は今の所体当たりのみだが、動きが止まらないのが実に厄介だ。
「色々手はあるんだけどね。流石に正面から受け止めるのは危険すぎる」
突っ込んで来る紅ゴーレムをかわすのは難しくない。擦れ違い様に斬りつける藍だが、有効打撃は与えられていない。
TWの周囲を回りながらリニア砲で主砲を破壊するトヲイ。尚も前進を続けるTWの正面に滑り込み球基はショットガンを手に接近する。
「お前の相手はこっちだ!」
ショットガンを連射する球基。このまま進攻すれば身動きの取れない内村機が潰されてしまう。
「流石に口の中まで頑丈って事はないだろ」
正面から急接近する球基。弱点である口内を狙い銃を突きつけるが、次の瞬間球基の天は後方に激しく吹き飛ばされていた。
「しま――っ」
目を見開く覚羅。TWは一瞬で首を収め、勢い良く突き出した。それは破城用の破槌。覚羅はその存在を予期していた。
ユリアナの対応に追われなければ咄嗟に指示を出せただろうが、時既に遅し。球基の天は黒煙を巻き上げながら沈黙している。
「そんな‥‥地堂さん! 応答して下さい!」
セラの声にも天は動かない。更にTWは倒れた機体に前進し続ける。
「そのゴーレムは私が引き受けます。お二人はTWを」
盾を構え猛然と突っ込む修司。真正面からユリアナの突進を受け、逆に跳ね返す。
「‥‥お願いします!」
頷く藍。覚羅と二人でそれぞれTWへ向かう。
「止まれぇ――!」
TWの足に機槍を突き刺し吹き飛ばすトヲイ。次々に槍を突き刺しTWを黙らせていく。
赤熱した焔刃「鳳」 を突き刺し、自ら移動しながらTWを引き裂く覚羅。藍も雪村でTWの四肢を次々に両断して行く。
「装備を破壊すれば‥‥!」
跳躍し機刀を振り下ろすシラヌイ。主砲を切断し、副砲も薙ぎ払っていく。
ありったけスラスターライフルの銃弾を撃ち込む覚羅。これで全てのTWを撃破した事になる。
トヲイ、藍はすぐさまゴーレムと戦う九頭竜隊と合流。覚羅はユリアナへと踵を返す。
「あら、TWが落ちちゃった。もうあんた達に用はないけど」
ふわり舞い上がり襲い掛かるビアンカ。レインウォーカーを完全に捉え、腕の内側に仕込んだチェーンソーを起動する。
「もう少し遊んであげる」
「ちょっと我慢してくれよ、リストレイン。痛みの対価は勝利だぁ」
火花を散らし減り込む刃。しかしペインブラッドの瞳が輝き、ブラックハーツを起動する。
「この距離なら逃げられないよなぁ‥‥嗤え」
零距離からの真雷光破。爆ぜる光にビアンカは弾かれる。
「あぁん、凄いっ」
「ボクらの最大火力、防いだ後はどうなるかなぁ?」
砂煙を巻き上げ接近するリヴァルのシュテルン。軽く跳躍し剣で一閃、ビアンカを斬りつけるのであった。
動きが止まったユリアナは修司の猛攻を受けていた。剣撃は盾で防がれるが、切っ先で強引に盾を退かしショルダーキャノンを放つ。
「ウザい、ウザい、ウザい!」
盾でディアブロを突き飛ばし仰け反るゴーレム。全身に亀裂が走り、装甲が剥げると同時に胸部から巨大なプロトン砲が迫り出してくる。更に盾の表面が開き、夥しい数のフェザー砲が現れた。
「死ね‥‥死ね、死ねぇええ! アハハハーッ!」
一斉に放たれる夥しい閃光。特にプロトン砲は強烈で、大地を根こそぎ吹き飛ばしながら修司を飲み込んでいく。
「攻撃がこっちまで‥‥!」
慌てて退避するセラ。真っ直ぐに戦場を貫いた一撃に息を呑むが、見れば修司は盾を構え無事な様子だ。
「アハハ‥‥ハッ?」
「子供の遊びはここまでにして貰おうか」
背後から接近する覚羅。正面からは修司が迫る。ユリアナはそれぞれに盾を突き出し応じる。
修司はこの盾に刃を振り下ろす。すると徐々に刃は食い込み、遂にはこれを両断。機槍を突き刺し、頭部を吹き飛ばす。
更にパワーアームから繰り出す双機槍を盾で受けさせ、懐に飛び込む覚羅。パイルバンカーの一撃を脇腹に叩き込んだ。
堪らず飛び退き、砲撃しつつ下がるユリアナ。そこに片腕を切断されたビアンカ機が合流する。
「TWは殲滅した。貴様達が此処に留まる理由は既に無い筈――去れ」
藍と共に残ったゴーレムも殲滅したトヲイ。その言葉にユリアナは瞳を震わせる。
「引くわよユリアナ。残念だけど、私達の負けね」
「負けてない‥‥私は! 私は負けてないぃいいぃぃぃぃーっ!!」
加速し戦場から離脱するユリアナ。ビアンカ機は振り返り、投げキッスを残して飛び去る。
「あら、捨て台詞。それじゃあまたね、傭兵さん」
「‥‥紅いゴーレム、離脱。敵影ありません」
溜息混じりに呟くセラ。目標は達成したが、こちらの被害も少なくはない。
「すぐに内村と地堂を救助する! 手を貸してくれ!」
玲子の声が響き渡る。球基に一番近いのは藍で、直ぐに駆けつける。
「強化人間かヨリシロなのだろうが‥‥未だ幼い子供の様だった」
呟き、二機が飛び去った空を見つめるトヲイ。
「すみません‥‥手を貸して貰えますか?」
藍の声に振り返り気を取り直す。全員無事に帰還するまで作戦は終わりではないのだ。
フェニックスを飛び降り部下の下へ向かう玲子。その姿にリヴァルは目を瞑った。。
こうなってはもう他人事ではない。『決断』を下す時、それはもう間近に迫っているのかもしれない‥‥。