タイトル:ファンガレイ偵察マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/08/05 07:24

●オープニング本文


「フラヴィ・ベナール少尉です。どうぞ宜しく、九頭竜中尉」
 狭い部屋の中、握手を交わす二人。フラヴィという女の印象は只管に冷淡であった。表情からも言葉からも、一切の熱を感じさせない。
「結論から申し上げますと、今回の情報をUPC軍は信用していません」
「‥‥だろうな」
「当然です。しかし、真偽の確認も出来ませんし、そもそもこの話が事実だったとしても特に大きな問題には発展しないでしょう」
 話は約一ヶ月前、インドで草壁詠子と遭遇した時にまで遡る。
 あの時、詠子は玲子の部下である大和に情報が記録されたディスクを渡していた。それは自らの居場所を記した招待状であった。
「UPC軍全体としては、今はメトロポリタンXを初め、バグアに対し一気に攻勢に出るべき時期です。そんな時に定かではない情報に戦力を裂く事は出来ません」
 俯く玲子。彼女自身、信じているわけではなかった。フラヴィの言葉は当然の事に思えたし、これ以上引き下がるつもりはなかったのだが。
「なので、真偽の確認は貴女の隊だけでお願いしたいのです」
「‥‥何?」
「単独とは言え、傭兵を雇えばそれほど危険はないでしょう。少し行って偵察して戻ってくる、その程度の任務ですから」
 書類の束を差し出され、それを受け取る。勿論行かせてくれるのならばそれに越した事はないのだが。
「近くまでは空母でお送りします。そこからは貴女のお好きなように、中尉」
 フラヴィ・ベナール。彼女は所謂情報士官である。所属も担当地区も違う筈なのに、玲子は彼女と何度かの面識があった。
 記憶に新しいのはデリーでの戦い。あの時は彼女の指示で予定とは違う行動を取り、結果ゼオン・ジハイドの一人と当たる事になった。
「どうされました?」
「‥‥いや」
 胸の内での葛藤は、要するに自分を取るのか、仲間を取るのかという事。
 これは玲子がつけねばならない決着。これを終わらせなければ、草壁詠子を葬らなければ、玲子はどこにも進む事が出来ないだろう。
 だが、その過去の後始末に部下を付き合わせる事になる。場合によってはあの時のようにまた‥‥。それはきっと、お世辞にも正しい選択とは言えない。
「わかった。その任務、引き受けよう」
 書類を受け取り背を向ける玲子。部屋を出て行く彼女を見送り、微動だにしなかったフラヴィの頬は静かに緩むのであった。

「だから、どういう事なのだ! 何故救援は来ないのかと聞いている!」
 薄暗い部屋の中、机を叩く大男の姿があった。その机越しに椅子に座っているのは白衣を羽織った短髪に眼鏡という風貌の女性で、二人はかれこれ三十分以上同じやり取りを繰り返していた。
「だから、そんな事してる暇はないんだよ。何度も言ってるだろ」
「納得行かん! 俺に本星と連絡をさせろ! 俺が言えばきっとわかってくれる!」
「バカが。ここの指揮官は臨時とはいえ私なんだよ。お前はたまたまここに流れ着いただけの敗残兵だろうが。お前と私、どっちの言葉を重視すると思ってる」
「敗残兵? 敗残兵だと!? 俺達が人類に負けたというのか! その言葉は訂正してもらう!」
「うるせえよ筋肉バカ。人類に追い詰められてニュージーランドくんだりまで撤退しておいてよく言えたもんだ」
 みしみしと音が鳴るほど拳を握り締め、男は顔を真っ赤にして部屋を飛び出していく。漸く落ち着いた部屋の中、女はゆっくりと立ち上がった。
「悪かったね。待たせちまった」
「いや、問題ないよ。ゼプレムは今日もご立腹か」
 暗がりから姿を見せた草壁詠子は笑顔で語る。ここは白衣の女、イヒマエラの私室兼研究室。用があるのはゼプレムだけではない。
「ああ。本星にとってここはもう何の価値もない場所だからな。補給も途切れて、後はもう滅ぶだけさ」
 ここ、ニュージーランドは長らくバグアの支配下にあったが、バグアはここにそれほど重要な設備を建造する事はなく、大軍を駐留させる事もなかった。
 それ故に脅威度で言えば下の下であり、UPCもここをわざわざ攻略する事はしなかった。しかし今は少しだけ状況が違う。
「ゼプレムみたいに人類に反抗を許して行き場を失った連中が雪崩れこんできてから、すっかりここは変わっちまったよ」
 煙草に火をつけるイヒマエラ。ここはいつしか敗残兵が辿り着く逃避の島となっていた。
 本星からも見捨てられた、大して役にも立たないバグア達。彼らはここから離脱し、本星へと返り咲く事を夢見て日々溜飲を下げている。
「いい加減認めちまえば楽になるっていうのにさ。バグアはもう負けるんだよ」
「そういう発言は慎んだ方が良いよ。それに負けるのだって悪くはないさ」
「お前は変わってるね、草壁。わざわざこの地の殿を務めようだなんて、変を通り越してドMだよ」
 紫煙を吐きかけながら笑うイヒマエラ。詠子はただ静かに笑うだけだ。
「君程ではないさ。バグアの中でもすっかり諦めに浸っているのは珍しい」
「私はここで自分の研究を静かに続けたかっただけだ。そこにバカがどっと沸いて、全部オジャン。やる気もなくなるってもんさ」
「心中お察しするよ」
「そう思うならこれ以上問題が起きないように各地の警備を強化してくれ。何の価値も無いニュージーランドだが、これだけザコが群ればUPCだって気付くのは時間の問題だ」
「問題はないよ、イヒマエラ。要所には私の部下を配置してある。何かあれば直ぐに駆けつけるさ」
 窓の向こうを眺める草壁。彼女がこの地に来たのは、自分の最期を向かえる場所を探していたからだ。
 ここには敗者と無能者が集う、見捨てられた場所。実に自分におあつらえ向きな場所だと感じていた。
「綺麗な空‥‥今日は死ぬにはいい日だ」
「お前、それ毎日言ってるな」
「それはそうさ。何せ私にとって‥‥それは毎日、なんだからね――」

 ニュージーランドへ向かう空母の甲板。そこに立つ大和梢の姿があった。その背後より、フラヴィが近づいていく。
「そろそろですね。ニュージーランドに近づいたら、後は貴女の仕事です」
 長い黒髪を風に靡かせる大和。そうしてゆっくりと振り返り、片手をポケットに突っ込んだまま語る。
「わざわざついてくるなんてね。何を考えてるのかな、フラヴィ」
「特に、何も。これまで通りです。全て世は事もなし」
「私にはそうは思えないんだけどな。フラヴィはさ、九頭竜隊長を‥‥」
 フラヴィは梢の唇に人差し指を当てる。そして訪れた意味深な沈黙。二人は海の彼方へ視線を投げた。
 そんな二人の様子を物陰から伺う男が一人。音も無く踵を返し、中里はゆっくりと歩き出す。
「そろそろ潮時、か。俺も、あんた達も‥‥な」

 青い空と青い海の狭間を鋼の船が突き進む。
 過去と未来に対する決別の時は、刻一刻と迫りつつあった。

●参加者一覧

地堂球基(ga1094
25歳・♂・ER
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
皆守 京子(gc6698
28歳・♀・EP
ミルヒ(gc7084
17歳・♀・HD

●リプレイ本文

  ファンガレイ周辺で戦闘機から人型に変形し着地する傭兵達。その正面、目的地の港には数機のゴーレムが確認出来る。
「‥‥どうにも嫌な予感がするな」
 ぽつりと呟くレインウォーカー(gc2524)。そこに地堂球基(ga1094)の言葉が割り込む。
「前回わざわざ訪問してまで示したという事は、それなりの歓迎準備はしてるんだろうなあ。何が出てくるやら」
「この地にデストラクト隊もいるのか‥‥でもまずは本来の依頼を果たさないとね」
 草壁の招待状を思えばデストラクトとの衝突は避けられない。鳳覚羅(gb3095)は危険を承知し、作戦にあたる。
「ニュージーランドはただでさえ詳細の分からない土地、更にデストラクト‥‥合わせて数え役満ってとこですね」
 皆守 京子(gc6698)の上手いのか上手くないのか微妙な名言に続き。
「なるべく見つからないように行きましょう。迷子になったら寂しいです」
 ミルヒ(gc7084)はそれ以上のマイペースさで発言。ピリピリした空気が微妙に和んだ気もする。
「道化より九頭竜へ、ボクの力を貸すけど条件が一つ。お前ら全員死ぬな。それが条件だぁ」
「へっ、もうこのくらいの危険は慣れっこだぜ」
「そうですね! しまっていきましょう!」
 外山と大和の声に玲子は微笑む。それから気持ちを切り替え、操縦桿を握り締めた。
「お前達も‥‥必ず生還するぞ」
「必ず無事に帰還しましょう。私なんか今回の為に借金してるんですよ、成功報酬を当てにしてね」
「借金が倍にならないように、頑張らないといけませんね」
 京子の言葉にミルヒが真顔で返す。こうして締まりきらないまま、作戦は開始された。

 傭兵達は敵に気付かれないように慎重に接近。それぞれ高射程の遠距離攻撃で奇襲を仕掛け、崩れた所に一気に雪崩れ込む。
 更に反対側から外山と中里が突入。港のゴーレムを次々に撃破して行く。
「警戒が甘すぎますな。敵襲など想定もしていなかったのでしょう」
 ゴーレム二体を次々に薙ぎ払い、炎を背に語る飯島 修司(ga7951)。相手は有人機のようで、慌てふためく様子が手に取るようにわかる。
「‥‥どうやらこの港は無人のようだね。現地住人の類はいないみたいだ」
 ゴーレムに槍を突き立てながら周囲を眺める覚羅。彼の言う通り、この地に人間の姿はない。
「それなら遠慮をする必要はありませんね」
 ガンランチャーを構える京子。港にある無数の倉庫目掛け攻撃を開始する。
 どうやら港はバグアの物資集積場の役割も果たしていたらしく、攻撃を受けると爆発は連鎖し倉庫は見事に炎上していった。
 奇襲は成功し、港の戦力は大方撃破し終わったようだ。しかしそこへ増援が駆けつける。
「チッ、油断しすぎなんだよ素人が」
「港が燃えてる‥‥アハ!」
「警戒を怠っているからこういう事になるのだ!」
 接近する紅いゴーレムが三機。エウドラ、ユリアナ、ギルデニアの機体である。しかし増援はそれだけではない。
「馬鹿な‥‥人類の攻撃だと!? 奴らはなぜこの地に‥‥!?」
 デストラクトの反対側より接近する緑色のタロス。その背後に同じカラーリングのゴーレムを四機引き連れている。
「デストラクト以外の増援‥‥? あれも有人機か?」
 覚羅はデストラクト以外の敵についても予想していた。故に驚きは無いが、危険には変わりない。
「言わんこちゃない状況になったと‥‥やるだけやって、とりあえず出くわしたのは片付けるしかないよな」
「あの指揮官機は私が対応しましょう。それ以外は予定通りに」
 接近する緑のタロスへと向かう修司。京子は付随するゴーレムを対処する為、修司の後を追う。
「こんな所で死ねません‥‥絶対に」
 傭兵達はそれぞれ事前の打ち合わせ通りに行動。即ち‥‥。
 球基はエウドラへ。レインウォーカーはギルデニアへ。覚羅はユリアナへと向かうのであった。

 ブースト機動で大地を滑る球基機。周囲を旋回しながらアサルトライフルでエウドラを攻撃する。
「ちまちま鬱陶しい野郎め」
 僅かに浮き、滑空するように迫るエウドラ。その巨大なクローが振り下ろされた瞬間、ミルヒの機体が割り込み剣を繰り出した。
「暇になってしまったので、お手伝いします」
「そいつはどうも」
 離れる二機。球基は後退しつつスナイパーライフルを構え、エウドラを狙う。
 援護を受けたミルヒは機槍を手に突撃する。スキル発動と同時に槍が火を噴き、白いシルエットを加速させる。
 突撃を腕で受けるエウドラ。すかさず蹴りを繰り出すが、ミルヒは真横にスライドし、回転しながら剣を繰り出す。
 激突する両者の得物。そこへ球基の射撃が命中、エウドラは移動しながらプロトン砲で反撃する。
「面倒くせぇ」

「お前か、自称草壁の騎士って奴はぁ。道化の相手をしてもらうよぉ」
 二丁の拳銃とファランクスによる弾幕を張るレインウォーカー。ギルデニアは盾を手にお構いなしの突撃を仕掛ける。
「詠子様に纏わり着く塵共め! この私が一掃してくれる!」
 突撃を回避するレインウォーカー。リストレインは踊るように槍をかわし、代わりに鉛弾を叩き込んでいく。
「一人だけ楽しんでんじゃねえぞ、道化野郎!」
 側面より接近する外山機。機銃による攻撃で援護を開始する。
「雑魚が一体増えた所で何の問題もないな!」
「お前だって大した事ないじゃないかぁ。草壁と比べると物足りないねぇ」
「貴様程度が詠子様と刃を合わせる等‥‥思い上がるなよ、道化風情が!」

「アッハハァ! 死ね、死ね、死ねぇ!」
「あまり手を煩わせないで欲しいね? 君達とはそろそろ決着をつけたい所なんだけど?」
 銃撃を物ともせず突撃してくるユリアナ。覚羅は槍を構え、歪なゴーレムと衝突する。
「だったら終わらせてみれば? 終わらせられるなら‥‥ね」
 力比べになれば覚羅の不利は明確。多少の攻撃では怯みもせず突っ込んで来るユリアナから距離を取る。
「全く、周囲が港だろうがなんだろうがお構いなしか‥‥!」
「流石に一人では厳しいだろう。俺も手を貸すぞ」
 建造物の陰から機銃で攻撃する外山。ユリアナは攻撃が着弾しても首を傾げている。
「何? それで攻撃のつもり?」
「‥‥手を貸すつもりだったんだがな。うーむ」
「まあ‥‥一人よりは心強いよ?」
 苦笑を浮かべる覚羅。暴れまわるユリアナへ再び攻撃を仕掛ける‥‥。

「かかってきなさい、今日の私はひと味違いますよ」
 緑色のゴーレム隊へガンランチャーを撃ち込む京子。ゴーレム隊は斧を手に陣形を組んで突っ込んで来る。
「統率された動き‥‥無人機ではありませんね」
「近接戦に付き合う必要はない。下がりながら射撃で援護しろ」
 玲子の指示を受け、片膝を着いて射撃を開始する大和。京子はレーザーガンで足を狙い、ゴーレムの動きを阻害する。
 その間に玲子が接近、斧を掻い潜りブレードを突き立てる。更に京子が接近しつつハンドガンを打ち込み、擦れ違い様に剣で切り払った。
「玲子ちゃん、そんなに動ける人でしたっけ?」
「フ‥‥君もな」
 二機は背中合わせに構える。そこへ残り三機のゴーレムが襲い掛かった。
 京子は斧を素早く掻い潜り斬撃を繰り出す。玲子は斧を剣で弾き、ゴーレムを踏み台に跳躍した。
「残り三機、私達で仕留めるぞ!」
「わかっています。皆さんが全力で戦えるように、通常機くらいは抑えて見せますから!」

 一方、その後方で刃を打ち合わせる二機。緑のタロスと対峙するのは修司だ。
「ちぃ! 人間風情が図に乗りおって!」
 巨大な斧を自在に繰り出すタロスだが、修司はこれを剣で打ち落とす。二機の間に火花と共に何度も轟音が鳴り響いた。
「中々の腕前のようですが‥‥まだ足りませんな」
 快音と共に後退を強いられるタロス。パワータイプのカスタム機を相手にしても修司のディアブロは圧倒的であった。
「くぅぅ! この機体が万全であれば、貴様如きに遅れを取る筈が‥‥!」
 気力を振り絞り連撃を繰り出すタロス。しかしディアブロはそれを片手の剣で悉く打ち払う。
「我々はバグアだ! こんな取るに足らん星の原生生物如きに負ける筈がないのだあ!」
 最後の一撃を受け止め、強引に踏み込む修司。次の瞬間ショルダーキャノンがタロスの頭部に直撃する。
 すかさず斧を押し上げ、横薙ぎに剣を振るう修司。更に投げやりな一撃を交わし側面に回りこむと鋭く機槍を放った。
 炸裂する炎に吹き飛ばされるタロス。見るも無残な姿になると、慌ててゴーレム隊が攻撃してくる。
「ゼプレム様、お逃げ下さい!」
「貴方様は我々の希望、ここで倒れるようなお方ではありません!」
 しかしそんな事をしていれば隙だらけになる。背後から玲子がブレードを振るい、京子がガンランチャーを撃ち込む。
「お、お前達‥‥。俺は‥‥俺は、またしても‥‥ッ」
 雄叫びを上げながら逃走するタロス。修司はその見事な逃げっぷりに小さく息を吐いた。

「あのバカもうやられたのか。何しにきやがった」
 舌打ちするエウドラ。そこへミルヒと球基が迫る。
 ミルヒはファランクスと同時にショットガンを連射し牽制。球基は反撃のクローを機杖で受け、ガードの開いた所へアサルトライフルを連射する。
 すかさず後方に退避すると、ミルヒが横からディフェンダーを叩き付ける。エウドラはそれをクローで弾き、拡散フェザー砲を浴びせ返した。
「流石にしぶといな‥‥」
 防戦一方ではあるが、エウドラは二体を相手に耐えていた。それもその筈、彼は生存に優れたパイロットなのだから。
 ミルヒの素早い近接連続攻撃に対しても冷静についてくるし、隙あらば急所を狙おうと構えているのがわかる。だから仕掛け憎い。
「ま、いいさ。足止めとしては十分だろ」

 外山は果敢に近接攻撃を仕掛ける。しかしギルデニアはそれをランスと盾で次々にいなしていた。
「かませ犬め、とっとと道を開けろ!」
 シールドチャージで吹き飛ばされる外山。ギルデニアは槍を腰溜めに構え、得物を輝かせる。
「お遊びはここまでだ! 詠子様より賜りしこの聖槍の力、とくと味わえ!」
 回転するランスが光を帯び、放出される強力なエネルギー波。大地を抉り、港の建造物を粉砕しながらレインウォーカーへと迫る。
「これぞ我が――忠義の光だぁああああ!!」
「良くわからない光だなぁ。ていうか隙だらけだぞぉ?」
 光をかわしながら接近するペインブラッド。その影から光の鎌を取り出し、擦れ違い様に一撃を加える。
「もう一発‥‥嗤え」
 更に振り返り一閃。ギルデニアのゴーレムに火花が走り、爆発を起こす。
「ぐぅっ!? 詠子様から頂いた機体に傷が‥‥貴様! 貴様ぁあああ!」

「痛いの気持ちいい? ねえ、気持ちいい? いいよ‥‥いっぱい気持ちよくしてあげる!」
 全身の装甲を展開し砲身を迫り出すユリアナ。特に胸部から放たれるプロトン砲の威力は強烈だ。
 ハリネズミのように周囲に光のラインを引く制圧射撃を受ける覚羅。長期戦になれば不利になるのは覚羅の方だ。
「やれやれ‥‥一気に終わらせるしかないか」
「こちらで注意を引き付ける‥‥やれるだけな」
 動き出す外山。覚羅は槍を背後に構え、超限界稼動を発動。全身の放熱板を開放し、黒い光を放出する。
「切り札を使わせてもらうよ」
 光線を掻い潜り接近する覚羅。滑るように横面を向けて接近し双機槍を繰り出す。
 続け、機体を旋回させ繰り出す拳。ゴーレムの胸にパイルバンカーの一撃を打ち込んだ。
「なにこれ‥‥? 幼女にこんな太いの刺して喜ぶなんて‥‥ロリコン野郎」
 ぶつぶつ呟くユリアナ。そこへギルデニアの声が響く。
「止むを得まい‥‥撤退だ! 引くぞエウドラ、ユリアナ!」
「またかよ‥‥」
「ハゲのくせに命令すんなハゲデニア‥‥」
 これ以上戦闘した所で得るものはないと判断したのか、デストラクト隊は戦域を離脱していくのであった。
「また撤退されたか‥‥」
 限界稼動を解除し放熱板を格納する覚羅機。倒せなかったのは残念だが、これだけの人数であれだけの有人機を撃退したのだから上出来な戦果と言えるだろう。
「今の内にこの辺りを調べておいた方が良さそうだね」
「残された隅っこのニュージーランド‥‥何が待っているのやら楽しみだね」
 頭を掻きながら溜息を漏らす球基。こうして傭兵たちの活躍でファンガレイ港の制圧に成功するのであった。



 その後、傭兵たちは港の調査を開始した。そこから得られた情報は多くはなかったが、この戦いは無駄にはならなかった。
「港は無人でしたか。もしかしたらニュージーランドに人類は残されていないのかもしれませんね」
「というと‥‥?」
「既に全員処理された後、という可能性もありますから」
 ファンガレイを制圧した傭兵達だったが、無傷ではない。新手が現れる前に一度洋上の空母へ帰還する事になった。
 そこで軽い報告をした大和にフラヴィは告げる。人類はもう、生き残っていないかもしれない、と‥‥。
「どちらにせよ、バグアの脅威は明確です。放置出来ない以上は、本格的な制圧戦が必要になるでしょうね」

 偵察を終え引き上げる空母。遠ざかるニュージーランドを見送る玲子の傍に修司が歩み寄る。
「覚えていますかな? いつぞや中尉が私に問いかけた言葉を」
 玲子は『不出来な上官』を演じ、部下を危険から遠ざけようとしていた。その指摘をしたのは修司であった。
「中尉は自分を臆病だと言いましたがね‥‥。人間、痛みを知らねば臆病にはなりません。痛みを知って尚、前へ進む事を選べる人間を臆病だとは私は思いません。例え、その決断が紆余曲折を経たものであっても、です」
「‥‥そうか。そう言って貰えるとありがたいな」
「むしろ‥‥未だに逃げている私こそ、臆病者の謗りに相応しいかと」
「逃げたくなる事もあるさ‥‥大人になると、背負う物が増えていくからな」
 まるで少女のように無邪気に笑う玲子。そうして海の向こうを見つめる。
「私が思っていた大人と現実は違うものだがな。それでも少しずつ‥‥強くなれたら良いと思うんだ」
 腕を組み玲子の話を聞く修司。玲子は振り返り、彼の胸に軽く拳を当てた。
「君の事情はわからないが‥‥痛みや弱さを乗り越えてこそ大人というものだろう? 君ならきっと大丈夫さ‥‥なんて、年下の私が言っても説得力はないね」

 こうしてニュージーランドを巡る初戦は幕を降ろした。しかしそれはこれから続く戦いの幕開けに過ぎない。
 来るべき戦いの予感を感じながら、傭兵達は帰路に着くのであった。