タイトル:【決戦】煌きの月マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/09/07 09:04

●オープニング本文


 ユニヴァースナイト参番艦「轟竜號」。
 その巨大なる体のため、月面におかるバグアとの戦いに投入される事はなかった。
 しかし、この月面の戦いにおいて、UPC軍は永きに渡る戦いの集結を感じ取っていた。

 そして。
 ついに、轟竜號に新たなる命が下される。
 人類の希望を背負い、その巨体は空へと舞い上がる。



「‥‥という訳なんだけど、今更轟竜號について説明は必要ないわね?」
 ベネトナシュ内の会議室にてクルーを前に話を進めるウルスラ。ユニヴァースナイト参番艦を宇宙に上げ、月まで護送するのが今回の任務だ。
「轟竜號って、宇宙に来れたのね。どうやって打ち上げんの?」
「それは‥‥こう、大型のブースターとかをガンガン増設して‥‥ね」
「何それ。超無理矢理じゃないの」
「無理でも矢理でもやるのが私達の仕事よ。それに実際私達が轟竜號にしてあげられる事はそれ程ないわ」
 今回の轟竜號打ち上げ作戦は、何段階かのフェイズを踏破する事で完遂される。
「轟竜號は海上からそのままブースターで宇宙まで上がってくる。それまでに敵は何度でも攻撃が可能なわけ」
「連中も馬鹿じゃない。地上は既に人類が優勢にある‥‥これ以上宇宙の状況を悪化させたくはないだろうからな」
 腕を組んだまま目を瞑り語るシン。いよいよもって人類も最後の決戦へ向けて動き出した。この作戦もその一つ、というわけだ。
「宇宙に来るまでの間は、地上の部隊に任せるしかないわ。私達は宇宙に上がってきた轟竜號を無事崑崙まで送り届けるのが仕事ね」
「ふっ、余裕ね! 最早人類の勝ちは確定したようなもんでしょ! 残りのバグアもガツーンとやっつけて終わりよ!」
 高笑いするリェン。それをシンとウルスラは死んだ魚のような目で見ている。
「リェン、貴女‥‥そんなに急いで負けフラグを立てなくてもいいんじゃないかしら?」
「お前、その目と足をガッツリやられてんだろうが。まさか忘れたんじゃないだろうな‥‥」
「いやいや‥‥別に油断とかしてないから! ただちょっと最近人類が攻勢に出ててテンションあがってるだけだから!」
「とか言って撃墜されたらもう助けないからな‥‥」
「いや、別にシンが助けたわけじゃないでしょ!? こっちこそあんたに助けられるのなんかお断りよ!」
 喚くリェンを眺め、シンは考え込む。
 リェン・ファフォは義眼義足の兵士だ。人類が宇宙に上がる為の戦い、その緒戦で撃墜された時の傷である。
 全く良くぞ復帰してきたものだと思う。実際この根性と体力だけは評価してやってもいいと思うのだが‥‥。
「ちょっとシン、何無視してんのよ?」
「‥‥ああ。少し、考え事をしていた」
 あの時、あの場所で戦ったオービタル・ファインダーズ第二隊の中で生き残ったのはシンとリェンの二人のみ。
 正直あの戦いの最中は必死すぎて何がどうなっていたのかはっきりとは覚えていない。だが、シンの脳裏に引っ掛かっている事があった。
「まあ、いい。お前に言っても仕方の無い事だからな」
「はあ? ちょっと、何? どういう意味?」
「喧しい。絡むな」
「絡んでんのはあんたでしょーが!?」
 そんな二人の間に割って入り、ウルスラが強引に二人の顔を引き離す。
「はいはい、仲が良い事で。それより二人ともわかってるんでしょうね? 今回の作戦も失敗は許されないって事」
 人類の旗艦とも言えるユニヴァースナイト達。それが落とされるという事が、どれだけ兵士に影響を与えるか。
「落とされちゃいけない艦なのよ、あれは。そして皆の希望を引っ張りたいから空に上がってくるの。その想いを無意味にしてはダメよ」
「流石ウルスラ、ロマンチックな表現ね」
「ああ。流石キアランの妹だ」
「貴方達、たまに私を舐め腐った態度を取るけど、一応上官だって事を忘れないでくれるかしら」
「はーい、すいません少尉ー」
「悪かった少尉殿」
 二人の胸倉を無言で掴み上げるウルスラ。コジマはそんな彼らの様子を部屋の隅っこから眺め、苦笑するのであった。



 いよいよ轟竜號を巡る戦いが始まろうとしていた。
 月へと向かう彼の艦が辿るであろう航路。それは当然バグアも推測を立てている。
「ヨルク様、機体の調整は万全です。いつでも出撃可能ですよ!」
 バグアのスーツを着た整備兵が親指を立てる。バグア巡洋艦の一隻、その格納庫に一人の男が立って居る。
「ほう。確かにこれは万全と言えるだろうな。最早何なのか良くわからんよ」
「原型が無くなるくらいゴッテゴテに改造してますからね」
 一応そこにあったのはヘルメットワームなのだが、そのシャープなデザインは元々の外見をかなり捻じ曲げた結果である。
「試作機の欠点を克服し、時間と資材を費やして完成させました。この性能ならヨルク様の腕に見劣りしないかと」
「成程な。しかし、前回の試作機は欠陥機もいい所だったからな‥‥」
 腕組み真顔で過去を回想するヨルク。機体の制御が出来なくなり、彼方此方から火が噴き出しブースターが爆ぜた時は命の危険を感じたものだ。
「‥‥では、こいつの性能を試してくるとしよう。予定通り出撃する」
「ヨルク様単身で向かうのですか?」
「俺は部下の使用を好まん。足手纏いになるだけだからな。他の隊の連中がおろおろしている間に、貰えるだけ掻っ攫う」
 ヘルメットを投げ渡す部下。ヨルクはヘルメットを被り、ワームのコックピットへ飛び込んだ。
「尤も、整備兵であるお前だけは別だがな。戦域に近づかないように待機していろ」
「了解です! ヨルク様、地球人共に宇宙戦の恐ろしさを教えてやってください!」
 慌てて退避する部下。バグア艦のハッチが開き、ヨルクはヘルメットワームを発進させる。
 増設された四基のブースターが火を噴き、紅い光を纏って闇の中へと放たれる。銀色の機体は魚のように漆黒の中を泳ぎ往く。
「もう始まっているか。出遅れた分、急がねばな」
 加速する銀色の機体。その前方、二機のKVが接近してくる。
 ミサイルを放った後人型に変形、機銃で攻撃してくるラスヴィエート。ヨルクはミサイルに対し一切減速せずに突っ込み、その全てを踊るように回避する。
「いい反応だ」
 機体の左右に取り付けられた大型のユニット。これを同時に展開する。
 宇宙空間での格闘戦に対応する為のブレード・アーム。それを左右に広げ、旋回しながら二機のKVの間をすり抜ける。
 アームを収めながら飛び去るHW。その遥か後方、一瞬で両断された二機のKVが爆発するのであった‥‥。

●参加者一覧

乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
孫六 兼元(gb5331
38歳・♂・AA
不破 霞(gb8820
20歳・♀・PN
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
ハンフリー(gc3092
23歳・♂・ER
クローカ・ルイシコフ(gc7747
16歳・♂・ER

●リプレイ本文

『敵艦隊より艦載機の発進を確認。轟竜號大気圏離脱予想時間まで残り三百秒。KV隊は予定通り敵勢力の排除を』
 ベネトナシュからの通信を聞きながらバグア艦隊へと向かう傭兵達。それに並ぶようにUPC軍のKV隊が飛行し、背後からはエクスカリバー級が追従してくる。
「おいでなすったわね! そう何度も宇宙行きを邪魔させて堪るかっての!」
「私達の任務はあくまでも轟竜號を無事に送り届ける事です。その為に制宙権の確保だという事をお忘れなく」
 我先にと駆けるリェン機を追う乾 幸香(ga8460)。リェンとは何度か行動を共にしたが、すっかりお守り役が板についてしまっている。
「UK3は今の所大きな被害も無く順調にこっちへ向かってるってさ。ここでやらせちゃったら他の皆に合わせる顔がないよ」
「わかってるさ。これ以上轟竜號のダメージを増やさずに送り届ける」
 夢守 ルキア(gb9436)の言葉に力強く頷く不破 霞(gb8820)。ルキアは語りながら周囲の索敵情報を統合、レーダー上に表示させる。
「うわ、凄い数。良かったね、これなら活躍し放題だよ」
「おお、これが全て敵か! ガッハッハ、大漁大漁!」
「これを掻い潜って敵艦に取り付く、か‥‥厄介だな」
 多勢の敵にも怯まず大声で笑い飛ばす孫六 兼元(gb5331)。ハンフリー(gc3092)は対照的に冷静に状況を分析する。
「一息に飛び込んでガッとやってしまえ! こんな所で轟竜號の足を留めさせるわけにはイカンからな! 男は度胸だ!」
「‥‥そうか。私は勉強させてもらうとしよう、兼元殿」
 次々と接近する多数のHW部隊。UPCはKV隊によるミサイル攻撃、エクスカリバー級による艦砲射撃でこれを迎撃する。
「一気に突破口を切り開く。全機、俺に続いてくれ」
 戦闘機形態で宇宙を駆けるリヴァル・クロウ(gb2337)のシュテルン。敵陣のど真ん中目掛けコンテナミサイルを発射する。
 コンテナから花開くように放出される無数のミサイルが次々にHWへ直撃し撃破して行く中、兼元とハンフリーは前線を突破し敵艦へ急ぐ。
「たーまやー! ガッハッハ、派手だな!」
「だが、敵もこちらの艦隊へ向かっているぞ」
 二機が敵艦へ向かったように、HW隊もUPCの艦隊へ抜ける物がある。幸香はそこへ急行し、プラズマミサイルを放出する。
「リェン曹長。精一杯フォローをさせて貰いますから、思い切り暴れて下さいね」
「やったー! 流石幸香、愛してるー!」
 加速し、幸香が削った敵をアサルトライフルで撃破するリェン。更に人型に変形し両手に持ったライフルを連射する。
 次々にHWを攻撃するリェン。そこへ横から飛び込んで来た霞が刃を振るい、HWを両断する。
「ちょっと!? 人の獲物横取りしないでよ!」
「早い者勝ちだ。どうしても自分のだというなら、名前でも書いておいたらどうだ」
 光を帯びた剣でHWへと襲い掛かる霞。そこへ人型に変形した幸香が接近、ライフルでの支援を行なう。
「リェン曹長、逃した魚の事を思うより、新しい獲物を探すべきだと思いますが」
「むむむ‥‥それもそうね」
 眉を潜めるリェン。そこへ接近したHWがプロトン砲を放つが、ディフェンダーを構えた幸香が閃光を弾く。
「三人で協力して戦いましょう。それが一番ですよ」
「これだけの乱戦だ、孤立しては各個撃破されかねない」
「あ、あたしも今それを言おうと思ってた所よ」
 女性三人が協力しHW隊を相手にするのを横目にリヴァルはシンと共にHWの迎撃を行なっていた。
 艦隊を背に人型形態で対空砲を構えるリヴァル。近寄るHW目掛け次々に砲撃を行なう。
「シン、今だ! 敵がバランスを崩している内に!」
 刀を抜き、擦れ違い様に切り裂くシン。続け、振り返りながらアサルトライフルを放ち残りの敵を撃ち抜く。
「良い動きだ」
「あんたの方こそ」
「そういえば、まともな戦闘を見せるのは初めてか」
「ああ。『あれ』はどう考えてもまともな類じゃなかったしな」
「そうだな。ただの墜落のようなものだ。二度と御免こうむる」
 リヴァルの迎撃は的確で、シンの腕も中々のものだ。二人は連携し敵を撃墜していく。

 一方、対艦攻撃に向かった兼元とハンフリー。二人は激しい艦隊砲撃に晒されていた。
「ぬおっ!? この威力、流石は艦載砲だな!」
 真正面から敵艦に突っ込む兼元。その機体を敵の主砲がかする。フェザー砲を次々に受けながらも怯まず突撃する。
「兼元殿の思い切りの良さ、私には真似出来ないな」
 敵艦を狙い一斉に大量のミサイルを放出するハンフリー。数多のプラズマ弾の光が敵艦を覆い、敵の迎撃の勢いが落ちた。
「忝い、ハンフリー氏! ぬおおおっ!」
 人型形態に変形し、敵艦へと墜落する兼元。甲板の上にゆっくりと立ち上がった傷だらけのヴァダーナフがすらりと刀を抜く。
「刃を交えてこそ武士‥‥! 取り付いたからにはこっちのモンだ! 愛刀、一文字の冴えを見せてやろう!」
 のしのしと船の上を歩き、振り上げた刀で艦載砲を両断する。爆発を背に兼元は手当たり次第に暴れ周り武装を破壊していく。
「見たか、コレぞ艦攻めの常道! 覚えておけ、戦闘艦は自分に艦砲は撃てんのだよ!」
「十分だ。一度引くぞ、兼元殿」
 煙幕銃を使い兼元の離脱を支援するハンフリー。レーザー砲で敵艦を攻撃しつつ後退する。
「ルキア殿、今だ」
「座標、把握してるよ。エクスカリバー級の主砲が飛んでくから、ちゃんと避けてよね」
 二機の眼下を突き抜ける主砲の光。それが煙幕を貫き、バグア艦に直撃する。バグア艦は内側から爆発を起こし轟沈した。
「星の海の藻屑と消えるが良い」
「よおし! この調子でガンガン行くぞ!」
「補給に帰って来るのを忘れないでよね」
 やや呆れたルキアの声。と、そこへ真上からプロトン砲が飛来する。
「うおっ!? な、なんだ!?」
「新手か‥‥?」
 真上にレーザー砲を放つハンフリー。しかし敵はそれを容易く回避し超スピードで襲い掛かる。
「早くも艦を落とされるとはな。『やる』奴がいるようだ」
 異形のHWはブレードアームを展開。一気にハンフリーへと近づくが、そこへ攻撃が加わり回避の為にコースを外れた。
 機関砲を連射しながら二機で迫るクローカ・ルイシコフ(gc7747)とレインウォーカー(gc2524)。HWは一気に距離を取り、銀の軌跡を描きながら急上昇する。
「速いな、アイツ。まるで銀の矢‥‥いや、宇宙なら流星の方が合ってるかなぁ?」
「レイン、油断しないで。今の動き見たよね? 普通のHWの比じゃない」
「ああ。完全に不意打ちだったと思ったんだけどなぁ。管制は任せたよ、ルキア。ボクとクローカは派手に暴れてくるからさぁ。終わったら三人で食事だ、拒否はさせないよぉ」
 軽口を叩くレインウォーカー。しかしクローカの表情は険しい。
「妙な胸騒ぎがする‥‥兄さん、気をつけて」
「クローカがそこまで言うのかぁ。安心しなよ。多分、油断してる暇はないからねぇ」
 今遠ざかったと思った影は既に二機の眼前にまで迫っていた。擦れ違い様に繰り出されるブレード、二人は避けきれずに傷を受ける。
「恐ろしいほど鋭い一撃、直撃を喰らえば致命傷は必至。文句なしの強敵だねぇ。名前ぐらいは教えてくれないかなぁ?」
「‥‥フ。下等種族に語る名は無い」
「この声、まさか‥‥?」

 デタラメな起動で飛び回る銀の矢。二機が敵の精鋭と交戦を開始した頃‥‥。
『轟竜號大気圏離脱まで六十秒! 各員、護衛に備えて!』
 ベネトナシュからの通信と同時、下方に轟竜號の姿が見える。ルキアはレーザーライフルで遠くの敵を攻撃しつつ、轟竜號に合わせ移動を開始。
「UK3が上がってくるよ。目的はあくまで、UK3の護衛。皆、忘れないで」
 UPC軍のKV隊も轟竜號の護衛の準備に動き出す中、リヴァルは遠くでの敵精鋭との戦闘を見つめていた。
「このタイミングで、か‥‥。シン、奴が突破してきた場合は俺が抑えよう」
「あんた、錬力は大丈夫なのか?」
「ああ、まだ余裕がある。補給が必要な機体は今の内に済ませておくと良い」
 敵艦攻撃を続けていたハンフリーと兼元も補給に戻ってくる。特に兼元の機体は矢面に立った為損傷も激しい。
「すまない、一度補給に戻らせてもらう。もう少しだ、兼元殿」
「大暴れしてやったが、こちらも大分やられたな! ガッハッハ!」
「応急処置の準備も出来てるらしいから、早く行っちゃってよね。護衛はこっちでやるからさ」
 二機を追ってきた敵をレーザーで撃ち抜くルキア。轟竜號の頭を抑えようとするHW隊だが、そこへエクスカリバー艦隊のミサイルが炸裂する。
「作戦はこっちの優位に進んでるけど‥‥」
 不安げなルキアの視線の先、レーダー上では三つの動体が高速戦を繰り広げていた。

 超スピードで飛び回る銀のHW。その速度にレインウォーカーもクローカもまるで追いつく事が出来ない。
 二機の周囲を旋回しながらフェザー砲を乱射するHW。降り注ぐ光の雨に晒されながら、レインウォーカーは敵を追う。
「リストレインの加速力でも追いつけないか‥‥!」
 機関砲を撃ち追撃するレインウォーカー。敵は唐突に回避動作から縦に回転、一瞬で慣性を殺し反転してくる。
 敵がブレードならこちらもブレード。二機は戦闘機形態で擦れ違いながら互いのブレードを激突させ、更にもう一度交差して同じく刃をぶつけ合う。
「俺に競り合うか」
「ボクは道化なんでねぇ。酔狂な事のひとつやふたつ、やってもおかしくはないのさぁ」
 そこへ横からミサイルを放つクローカ。HWは急加速しミサイルを振り切り、回転しながらフェザー砲で的確にミサイルを撃ちぬいて行く。
「この機動‥‥そうか、しかし格闘機に鞍替えとはね」
 反転し迫るHW。クローカは人型に変形。盾を構え待ち構える。
 一瞬で飛び込んでくる相手に対しクローカは盾を投げつける。すかさず蚩尤を振るうが、既にそこにHWの姿はない。
「何‥‥っ!?」
 真横からの衝撃。スキルを使用して咄嗟に防ごうとするが、左右から繰り出される二つの刃の片方が機体の動体部分に突き刺さる。
 もう片方の攻撃は棍棒で受け止めたが、そのままの状態でクローカは高速で宇宙を吹っ飛ぶHWに押し出されるようにして宇宙を駆ける。
「クローカッ! くそ、リストレイン‥‥!」
 後を追うレインウォーカーだが、HWに追いつけない。クローカのラスヴィエートは宇宙を引き摺られながらフェザー砲の零距離射撃を受け破損していく。
「くっ、こんな所で‥‥死ぬわけにはいかない! 僕は‥‥!」
 鳴り響くアラート。クローカはかつての戦いで同志を討った時の事を思い出す。
 同志を殺し生き残った今。彼らの分までも生き、進まなければならない。ここでやられてしまっては、生き残った意味がない――しかし。
「無様だな。身の程を弁えろ、下等種族。この海は所詮、貴様らには広すぎたのだ」
 旋回しながら突き抜けるHW。腕と足を片方ずつねじ切られたラスヴィエートは火を噴きながら闇の中を回転しながら吹っ飛んでいく。
「クローカッ!!」
 叫ぶと同時にクローカーへと向かうレインウォーカー。突破したHWは後方の傭兵達へと突き進む。
「クローカ君がやられた‥‥!? 敵、凄い速度でこっちに来る!」
「俺が足を止める! シンは轟竜號へ向かえ!」
 ルキアの声に弾かれるように、戦闘機へ変形し駆け出すリヴァル。轟竜號は既に大気圏を離脱、崑崙へ移動を開始している。
「ちょっとリヴァル! 一人で大丈夫なの!?」
「今はリヴァルさんに任せましょう。私達はHWの対応を」
 リェン機の肩を掴む幸香のハヤテ。リェンは頷き、轟竜號へ向かう。
「ぬおお! まだ出撃出来んのか!?」
 ベネトナシュ内で喚く兼元を横目に発進するハンフリー。兼元の機体はまだ応急処理が終わらないようだ。
 轟竜號の守りは厚い。早期に敵艦が減った事からエクスカリバー級も守り寄りに動く事が可能になり、UPCのKV隊が迎撃に当たっているからだ。
「邪魔をするなら、全て斬る‥‥!」
 飛び交う閃光の中へ飛び込み刃を振るう霞。既に何機落としたか覚えていないが、まだ敵は残っている。
「敵の勢いが落ちてきたか。だが‥‥残念だったな。貴様らが全て落ちるまで終わらんよ!」
「ったく、刀ばっかり振り回しすぎよ霞! 突っ込んでばっかりじゃ危ないでしょ!?」
「‥‥えーっと。そ、そうですね」
 冷や汗を流す幸香。リェンと共にアサルトライフルで霞を支援、近づくHWを撃墜する。そこへシンとハンフリーが合流、攻撃に参加する。
「アンカーまでバトンが届いたか。ここで取りこぼしては格好がつかないな」
「前衛の三機を援護するぞ」
 同時にミサイルを発射する二機。補給を終えて万全のハンフリーは遠慮なく全弾を放出する。
「‥‥此処から先は俺が相手をしよう」
「お前は‥‥フッ、あの時の」
 人型に変形し剣を手にHWへ向かうリヴァル。しかし攻撃は避けられ、カウンターで一撃食らってしまう。
「あれは実に愉快な見世物だった。逃げ回るだけで必死だった貴様らがここまで来た事は、素直に評価しよう。だが‥‥」
 高速で飛び回り四方八方から襲い掛かるHW。リヴァルは一方的に連続攻撃に晒される。
「貴様らに宇宙はまだ早すぎる」
「くっ、お前は‥‥!」
 強烈なブレードの一撃でリヴァルが怯んだ隙に轟竜號へ向かうHW。UPCと傭兵達はこれを一斉に迎撃する。
 HWは弾雨を回避しながら飛び込み、機体を変形させ砲門を出現させる。そうして大型プロトン砲の一撃を放った。
 護衛についていたKV数機が巻き込まれ、エクスカリバーに砲撃が直撃。轟沈する戦艦を振り返りリェンは苦笑する。
「ちょっと、勘弁してよ!」
「その首、置いていけ。それが嫌でも‥‥消えてもらう!」
 接近し刃を振るう霞。しかし攻撃が繰り出される遥か前にHWは回避し、側面にブレードの一撃を打ち込む。
「いけない! その敵に接近戦を仕掛けては!」
 アサルトライフルで援護する幸香とリェン。しかしそれもかわされ、降り注ぐフェザー砲に撃ち抜かれる。
「絶対に通しちゃ駄目だよ! とにかく全員で撃ちまくって動きを止めて!」
 叫ぶルキア。HWは全機からの攻撃を受けながら高速移動。轟竜號を一瞥する。
「‥‥流石に単機では無理、か。この勝負、次に預けるぞ」
 反転し離脱するHW。傭兵達はそれを見送り、胸を撫で下ろすのであった。

「クローカ、無事かぁ?」
 宇宙を漂うラスヴィエートをペインブラッドが受け止める。
「僕は無事だけど、機体が駄目だ」
「無事ならよかったじゃない。元気出しなよSonare。皆待ってるからさ」
 ルキアの声に目を閉じるクローカ。レインウォーカーに支えられ、彼もまた帰路に着く。
 こうして轟竜號は無事崑崙へ到着。最終決戦へ向け準備が進められるのであった。
「新たな海へようこそ、轟竜號」