●リプレイ本文
●救出
「それじゃ、仕切り直しと行きましょうか」
外山を抱きかかえる玲子へと照準を定めるビアンカ。今正に引き金を引こうとしたその時、ビアンカのゴーレムに衝撃が走った。
「狙撃‥‥!? 馬鹿な、この場所には誰も近づかないようになっている筈‥‥?」
絶体絶命の危機に瀕した九頭竜小隊を救助する為に現れた傭兵のKV部隊。それはビアンカにとっては完全に想定外の存在であった。
生身でKVの銃撃を受ければ幾らビアンカが強化人間でも只ではすまない。苛立たしく舌打ちを残し、赤いゴーレムの中へと飛び込んでいく。
「やっぱり、ここからじゃ、当たらない‥‥」
ライフルを構えた状態から動き出すルノア・アラバスター(
gb5133)。
厳密には狙撃は成功したのだが、出来ればこの一撃でビアンカを片付けてしまいたかった。成果は120%とは行かなかったが、ビアンカを下がらせただけで効果は十分か。
「別に直撃しなくても良いのでしょう? 要は視線を釘付けにするという事ですわ!」
ビアンカ機目掛けビーム法を発射するミリハナク(
gc4008)。通過する閃光はビアンカには命中しなかったものの、玲子達から距離を取らせる事には成功した。
「ULTの傭兵部隊‥‥本当、昔っから傭兵って目障りなのよねぇ。正規軍でもない癖に出しゃばってきちゃって。エウドラ、ギルデニア、ユリアナ!」
「わかってるさ‥‥馴染みの相手だ。油断はしない」
「何度も何度も、我々の邪魔立てを‥‥決して許しはしないぞ、貴様らァ!!」
「指図すんな‥‥! 私は私の意志で、ママを助ける‥‥!」
一斉に動き出すデストラクト隊。傭兵達はそれぞれが対応すべき相手へと真っ直ぐに突っ込んでいく。
「中里さんが天笠隊所属なのは驚きですが‥‥それ以上に隠していた身分を明かす、そうしなければ護れない状況に陥っているのが‥‥!」
「玲子ちゃん、本当にUPC上層部に目をつけられていたんですね‥‥」
玲子達の救出に向かうティナ・アブソリュート(
gc4189)と皆守 京子(
gc6698)。その進路に三機のデストラクトが立ち塞がる。
「邪魔はさせんぞ人間共! 貴様らの相手はこの私だ!」
「それはこっちの台詞だぁ。お前の方こそ、邪魔しないで貰おうか」
槍を構え突撃するギルデニア。そこへレーザーバルカンを撃ちながらレインウォーカー(
gc2524)が接近する。
「ええい、また貴様か!」
「ボクの『戦友』にやってくれたなぁ。今日のボクは道化じゃなく、お前たちにとっての死神だぁ」
ギルデニアと交戦し仲間を進ませるレインウォーカー。更にその道をユリアナとエウドラが塞ぐ。
「お前らうざいんだよ‥‥ゴミクズの癖にさぁ!」
巨大な腕を伸ばすユリアナ。そこへミリハナクが放ったレーザー砲が直撃する。
左右の腕に装備した巨大な盾でそれを防ぎ、光を散らして視線を向けるユリアナ。ミリハナクは接近しながらユリアナを見つめる。
「いじめっこの皆さん、悪さばかりしているとママに言いつけますわよ?」
「はぁあ〜? 何? うざいんだけど‥‥うざいんだけどぉ! アハハハー!」
近づく傭兵を無視してミリハナクへと突っ込んでいくユリアナ。呆れた様子で背中を見送るエウドラ、そこへ飯島 修司(
ga7951)が襲い掛かる。
鋭く繰り出される槍を受け止めるエウドラ。修司の力を警戒し、大きく距離を取るように背後へと跳ぶ。
「またお前か‥‥やれやれ。俺は自分より強い奴とは戦いたくないんだがな」
「申し訳ありませんが、今回ばかりはこれまでのようには参りません。早々に片付けさせて頂きましょうか」
「フ‥‥お手柔らかに」
それぞれがデストラクトと戦闘を開始する中、京子は停止している大和へ向けて通信を飛ばす。
「大和君、聞こえますか? 返事をして下さい!」
コックピットの中、大和は完全に動転していた。頭を抱えたままぶつぶつと独り言を繰り返している。
「大和君、手を貸して! 仲間を死なせたいんですか!?」
その言葉にはっとした様子で顔を上げる大和。しかし涙を流しながら首を横に振る。
「む、無理です‥‥私、出来ません。私なんかに出来る事なんか、もう‥‥」
大和はまだまだ実戦経験の浅い新兵だ。そして立ち向かうべき相手は狂気の集団、デストラクト。
以前から大和はこの紅い敵に強い恐怖を抱いていた。それでも立ち向かえたのは仲間がいたからだ。
目の前で中里と外山が倒れた時、彼女の中で何かが挫けてしまった。頭ではわかっていても、体を動かす事が出来ない。
「だって、中里さんも‥‥死‥‥っ」
「諦めないで下さい‥‥! まだ、助けられるかもしれない!」
大和機と中里機の傍に着く御鑑 藍(
gc1485)。盾を地面に突くようにして倒れている中里機を確認する。
胸部を貫通したランスの一撃は見るからに致命的だ。細いフェニックスの胴体はねじ切られ、コックピットも衝撃で激しく歪んでいる。
藍は自らの機体のコックピットを開き、倒れている中里機へと飛び移る。そうして外部からコックッピットを開こうと試みた。
「中里さん‥‥!」
覚醒し力を込める藍。最早通常の操作は受け付けない為、力ずくでコックピットを開放するしかないのだ。
仲間を庇い倒れた中里。彼はきっとこうなる事がわかっていたのだろう。わかっていたからこそ、傭兵達に依頼を残したのだ。なのに‥‥。
「だめ‥‥開か、ない‥‥!」
破損したコックピットに藍が苦戦している頃、ビアンカ機はルノアの攻撃を回避しながらも玲子達を攻撃しようとしていた。
「玲子‥‥貴女だけはここで殺す!」
「ビアンカ‥‥くっ」
玲子は外山を抱えたまま覚醒して走り出す。次々と背後から降り注ぐフェザー砲をかわしつつ、森の中へと急いだ。
「これ以上は、やらせません!」
槍を構えてビアンカへと突進するティナ。そのまま玲子から遠ざけるようにビアンカ機を押していく。
「このおおおおっ!」
「‥‥全く、面倒臭いわね!」
飛び退くビアンカ機。それをミルヒ(
gc7084)がチェーンガンで牽制、更に注意を引き付ける。
「貴女は殺したいと思うのでしょうが、私にとっては大切なお友達ですから助けたいと行動します。離れてください、痴女さん」
「あーあ、ホント‥‥ファンが多くて嫉妬しちゃうわ」
ビアンカとの戦闘が始まったのを視界の端で確認しつつ、京子は玲子と合流する。走ってくる玲子の前でKVに膝を着かせ停止させた。
「玲子ちゃん、こっちです!」
「すまない‥‥!」
京子が伸ばしたタマモの掌の上に飛び乗る玲子。そのままコックピットへ移動させ、京子は外山の治療に移る。
胸を撃たれていた外山の服を裂き、応急処置を施していく。幸い弾は貫通していたが、出血が酷く止血が追いつかない。
「やれるだけの事はしましたが‥‥ここで出来るのは応急処置までです。早くきちんとした医療施設に連れて行かないと‥‥」
「そうか‥‥すまない、皆守‥‥」
「それより、中里さんの方は?」
手早く包帯を巻きながら視線を向ける京子。追いついたルノアが護衛に入っているが、まだコックピット開放に手間取っていた。
「‥‥コックピット、が、へこんでて‥‥開かない、みたい」
「大和君は何をしているんですか! 御鑑君を手伝ってあげて下さい! 早くっ!」
きつく目を瞑り、震えながら顔を上げる大和。そうしてコックピットを開き、藍の傍に飛び移った。
「あ、あの、私‥‥役立たずかもしれませんけど、でも‥‥っ」
何も言わずに頷く藍。二人は共にコックピットの歪みに手をかけ、慎重にこじ開けていく。
ゆっくりと軋むような音を立てながら開かれていく鉄の扉。漸くコックピットを開放した二人が見たのは、血塗れになった中里の姿であった。
「そん‥‥な」
両手で口元を抑え崩れ落ちる大和。藍は血の海になったコックピットの中へ身を乗り出す。
「中里さん、聞こえますか? しっかりしてください‥‥中里さん!」
強く呼びかけると中里はゆっくりと目を開いた。しかし状態が非常に危険であると言うことは一目瞭然である。
コックピットの中はひっくり返されたかのように滅茶苦茶になっており、両足が計器と装甲の間に潰され肉が避け、あらぬ方向に捻じ曲がり骨が突き出している。
上半身にも硝子や鉄の破片が突き刺さり、夥しく流れ出した血がむせ返るほど密室の中を満たしていた。
「来て、くれたんだな‥‥」
「喋らないで下さい、今助けます!」
「俺の事は、いい‥‥大和を、助けてやって、くれ‥‥」
「今、助けますから‥‥! だから‥‥っ!」
とはいえ、どこから手をつけたものか。両足はもう駄目だ。運び出すには切断するしかない。
治療する手段はある。だが間に合うのか? 運び出して、治療して、どれだけ早く医療施設に運び込めるだろう?
一瞬で脳裏を過ぎる様々な考えに藍の瞳が震える。中里はそんな藍を見つめ優しく微笑んだ。
「来てくれて‥‥ありがとう。それだけで‥‥十分、だ」
そうして目を瞑り、溜息混じりに呟く。
「ありがとう‥‥戦友‥‥」
「中里先輩‥‥中里先輩! いや‥‥いやぁああああっ!!」
響き渡る大和の声。傭兵達は戦いながら、その悲痛な声を耳にするのであった。
●戦友
「‥‥中里も外山も、かっこつけすぎだぁ」
泣き叫ぶ声を聞きながら目を細めるレインウォーカー。戦いの手は緩めず、仲間の事を想う。
「戦友、ですか。そう呼ばれては奮起せざるを得ませんな」
敵機と距離を置いたまま呟く修司。その耳には今も泣いている大和の声が響く。
「こういう空気、趣味じゃありませんわ。本当、やりづらくなるだけですもの」
指に毛先を巻きつけながら溜息を漏らすミリハナク。それから鋭く敵を睨み付ける。
「任せてください戦友。もう誰も死なせません」
「中里‥‥さん」
無表情に頷くミルヒ。ティナは俯き、歯を食いしばり操縦桿を握り締める。
「悲しむ必要ならないわ。どうせ全員死ぬんだから」
「――あなたはっ!」
「どちらかが死ぬまで繰り返すのが戦争でしょう?」
ティナの攻撃を回避しながら笑いビアンカ。玲子は京子のKVの掌の上に立ったまま、風を受けて背を向けている。
「玲子ちゃん‥‥」
何も応えない玲子。京子は立ち上がり、その肩を掴む。
「外山さんを連れてこの戦域を離脱して下さい。一刻も早く手術しないと‥‥」
それでも振り返らない玲子。京子は俯き、それから顔を上げ力強く語りかける。
「玲子ちゃん、貴女は指揮官でしょ! 部下の命に責任をもって! 動いて、動きなさい玲子!」
漸く振り返った玲子は泣いていなかった。ただ辛そうに目を閉じ、外山を抱える。
「わかった‥‥」
それ以上かける言葉も無い京子。と、そこへ藍の声が響き渡った。
「まだです‥‥まだ、終わってません!」
藍はまだ諦めていなかった。その両手を傷と返り血だらけにしながら中里をコックピットから救出しようと試みる。
「中里さん、ごめんなさい‥‥!」
刀を抜き、中里の足を斬りおとす藍。すかさずコックピットから引っ張り出し、止血と治療を進める。
「死んで、ないんですか‥‥?」
「まだわかりません。でも、諦めてしまったらそこで全部終わってしまいます!」
向かいのKVから聞こえる藍の声。玲子は振り返り、その懸命な姿を見つめる。
「九頭竜さん。今、貴方が守るべきは何? 過去は誰にでもある、付き纏ってくるかもしれない。でも今、貴方の傍にいる仲間と過去の亡霊、どちらが活きていかなければいけないのか。貴方は――何を守るのですか!」
ダメかもしれない。
無駄かもしれない。
助けられないかもしれない。
救えないかもしれない。
諦めた方が楽かもしれない。
逃げた方が幸せかもしれない。
それでも諦めない者が語る言葉。確かにその声が、玲子の背中を押すのだ。
「――そうだな。守ってみせるさ‥‥私の大事な仲間を。戦友達を‥‥!」
京子に頷き、颯爽と自らのKVへ向かう玲子。京子はその後姿にどこか安心しながら機体へと乗り込むのであった。
「中里さん、まだ息があったんですね」
「本当に良かった‥‥いいえ、でも、それはこれから次第です」
目元を拭いながら顔を上げるティナ。ミルヒは僅かに口元を緩め、肩を並べる。
「あははは! 本当、びっくりさせてくれるよ。でもそうだなぁ。諦めたら終わりだぁ」
笑った後、真っ直ぐな視線でギルデニアを見つめるレインウォーカー。仲間の諦めない姿勢が広がるように皆に活力を取り戻していく。
「きゅーちゃん達も色々大変なのねぇ。ただまあ、過去や黒幕は興味ありませんから、好きなお友達を助けるだけですわ。ここまで来てやっぱり死にましたーなんて、オチとしては締まらないもの」
「そうですな。一秒でも早く戦友を治療する為に‥‥この戦い、やはり早々に幕を引かせてもらいましょう」
安堵した様子で頷く修司。一対一でデストラクトを足止めしていた三人が一気に攻勢に動き出した。
「あの状態でまだ生きてるって、能力者ってタフねぇ。ま、逃がさないけど」
「あなたが露出狂でドMで痛みに快楽を覚える痴女である事は構いません。ですが‥‥玲子さん達を傷つけた事だけは許しません‥‥!」
槍を向けるティナ。ビアンカは首だけを向けて笑う。
「だったらどうするの?」
「あなたを――倒します!」
接近し槍を繰り出すティナ。しかしビアンカ機の機動力は非常に高く、攻撃が追いつかない。
「速いのは知ってます。だからこっちはこうです」
チェーンガン、ショットガン、そしてファランクス。ミルヒは兎に角射撃武器を構え、ビアンカ目掛けて撃ちまくる。
「数撃てば当たると言われています」
ミルヒの猛攻撃を回避し続けるビアンカ。その側面からティナが襲い掛かる。
「そんなに怒ると可愛い顔が台無しになっちゃうわよ?」
舞うように移動し、鞭を放つビアンカ。ティナはそれに対し槍を振るい、あえて鞭を槍に巻きつかせる。
「私は冷静です‥‥!」
鞭を引くティナ。ビアンカは至近距離でフェザー砲を連射するが、ティナはリアクティブアーマーで攻撃に耐えながら強引にビアンカ機を引き寄せる。
舌打ちしつつ鞭を放すビアンカ。そこへミルヒが射撃攻撃を命中させ、脚部を損傷させる。
「色々しますよ。負けたくありませんから」
更にそこへレーザーガンを撃ちながら接近する京子。三機でビアンカを包囲し、追撃を断つ。
「加勢に来ました。玲子君は外山さんを連れて離脱を開始しましたから」
「本当、うんざりするくらい邪魔よね‥‥貴女達」
「君達には悪いですが、私の戦友達を死なせはしませんよ」
「俺、は‥‥?」
「喋らないで下さい。ここから離脱します」
虚ろな目で藍を見つめる中里。藍は可能な限りの止血と治療を施し、自らのKVに中里を乗せ離脱を開始していた。
「空母まで戻れば輸血も手術も可能です!」
大和はフェニックスを動かし、離脱の支援を引き受ける。藍の諦めない姿勢と中里にまだ息があったという事実が何とか立ち直らせたようだ。
「安全域、まで、護衛する‥‥急いで」
ルノアと大和に守られつつ、玲子と藍は戦線離脱を開始。デストラクトはそれを妨害したいが、傭兵達は彼らを逃がさない。
「ええい、しつこいぞ! 貴様の相手をしている暇はないのだ!」
「騎士が臆したかぁ? だとしたら無様だねぇ。騎士なら挑んで見せろ、死神に」
マントをはためかせ突撃するギルデニア。その攻撃をレインウォーカーは次々に回避していく。
絡め手を出さず正面から正々堂々突撃するのがギルデニアの戦術。一対一ならば操縦ミスでもしない限り、直撃を受ける事はないだろう。
「近接戦において草壁がやった機動は効果的。ボク流にアレンジしたい所でねぇ。お前には練習台になってもらうよぉ」
「詠子様の技は神性なのだ! 貴様如きが真似するとは、盗人め!」
片手を翳し、掌からプロトン砲を放つギルデニア。レインウォーカーはその攻撃を回転しつつ、スライドするように回避する。
「やっぱり難しいねぇ。あれだけわけのわからない動きが出来る草壁の技量は相当って事かぁ」
移動しながらレーザーバルカンで攻撃するレインウォーカー。ギルデニアはマントで体を被い、その攻撃を防ぐ。
「私は貴様が憎い! 詠子様の興味の対象となった貴様が‥‥! 貴様らさえ現れなければ!」
「毎回やられて帰るだけなのが悪いんだろぉ? 騎士が笑わせるなぁ」
「ゆ、許せん‥‥貴様だけは私が始末する!」
槍を正面に構え、高速で回転させるギルデニア。紅い光の渦を纏い、大地を吹き飛ばしながらゴーレムが迫る。
「食らえ、我が忠義の一撃! 愛と怒りと嫉妬の光をぉおおおおッ!!」
「‥‥前よりわけわかんなくなってないかぁ?」
苦笑するレインウォーカー。真正面から突っ込む嵐、それを横に素早く回避する。
「まああだああまああだぁあああッ!!」
そのままUターンし再度突っ込むギルデニア。その一撃を再びかわしつつ、擦れ違い様にリビディナを振るう。
光の鎌に切り裂かれるゴーレム。その背中に知覚爪を突き立て掴み、ヴォルテックスマッシャーを展開する。
「嗤って逝け。草壁も笑ってくれるよぉ」
連続で放たれた光が爆ぜ、ギルデニアを吹き飛ばす。ゴーレムは黒煙を巻き上げながら倒れるのであった。
「ユリアナちゃん、私が貴女のお姉さんになってあげますわ。優しく見取ってあげますから、寂しい思いをしなくていいですわよ」
盾を正面に突撃するユリアナ。ミリハナクは巨大な重錬機剣を構え、それを正面から迎え撃つ。
突撃に対し剣を振り下ろすミリハナク。二機は正面から激突し、眩い光を挟んでせめぎ合う。
「お姉さんなんて要らないし‥‥私にはママだけいればいい」
「そんなにつれない事言わないで、お姉様って呼んで御覧なさい?」
「な、何だお前‥‥なんか気持ち悪い‥‥」
青ざめながら押し切るユリアナ。ミリハナクは突撃をいなし、再度剣を構え直す。
正面から激突を繰り返す二機。衝突の度互いの機体を傷つけながらも一歩も退く事は無い。
「ママだけいればいいって、それで寂しくないんですの?」
「寂しくなんかない。ママは私に居場所と意味をくれる。だから、ママの為に戦う!」
突撃からUターンし、全身から砲身を開くユリアナ。プロトン砲、フェザー砲の乱射に盾を構えて耐え、ミリハナクもレーザー砲を撃ち返す。
「いじらしくて可愛らしいですわね。いじめたくなってしまいますわ」
「うぅ‥‥こっちくんな!」
「抱き締めてあげますわ‥‥ユリアナちゃん!」
「くんなって言ってんだろ、変態‥‥ッ!!」
胸部を開き、巨大プロトン砲を迫り出すゴーレム。両腕を開き、あらゆる砲撃武装を一斉に開放する。
「消えてなくなれ‥‥私をいじめるモノ全部! 燃えろ! 燃えろ! 燃えろぉおお!」
手当たり次第に放出される大量の砲撃。ミリハナクは盾を構え、翼を広げ大地を疾走する。
「そんなに張り詰めた顔で戦って楽しいんですの? もっと楽しみなさい、ユリアナちゃん!」
口を開く竜牙。そこから放たれた閃光がゴーレムの閃光と交差し、ユリアナを襲う。
「あぅぅっ」
直撃を受け爆発する大型砲。ユリアナは怯みながらも盾を構え、ミリハナクの錬機剣による突撃を防ぐ。
「私は負けない‥‥嫌いなものは全部、消してやる!」
「『竜王殺し』が一騎、飯島修司。推して参ります」
真正面から突っ込み、エウドラに槍を繰り出す修司。エウドラはその攻撃を防ぎ、かわす事に手一杯で反撃の余地が無い。
「ちっ、これだからお前の相手は嫌だったんだ」
素早く側面に回り混み一撃を繰り出す修司。槍はエウドラ機の腕の付け根に突き刺さり、爆発と同時にそれをねじ斬る。
黒煙を突きぬけ後退するエウドラ。片手からプロトン砲を放つが、修司は剣でそれを薙ぎ払う。
「私の背中を押してくれた友の為に、仲間達の想いに応える。その義務が私にはあるのです」
「うちはそっちとは大違いでな。あいつらが連携をしてくれれば、少しはマシなんだが」
「苦労している様子ですが、同情の余地はありませんな。そろそろ終わらせて頂きましょうか」
接近し槍を繰り出す修司。あえてそれを回避させ、修司はエウドラの足元に槍を突き刺す。
次の瞬間、大地が爆発と共に派手に吹き飛んだ。舞い上がる土と砂は一瞬でエウドラの視界を覆いつくす。
「何‥‥!?」
その粉塵を突き破り姿を現した修司は盾を構えエウドラ機に体当たりをかます。
仰け反るゴーレム。そこへ修司は次々に槍を繰り出し、エウドラ機を粉砕して行く。
「くっ、機体が持たん‥‥ここまでか!」
傷だらけで舞い上がるゴーレム。修司はそれを追い跳躍する。
「言った筈です。ここで終わらせると」
ゴーレムの足にワイヤーを巻きつけ、強引に引き摺り下ろす。そうして大地に叩き付けると同時、自らの機体も空中を回転しながら剣を手に取り落下する。
ワイヤーを手繰り寄せながら繰り出される剣の一撃がゴーレムの胴体を貫く。剣を引き抜くと、修司はその場から一歩飛び退いた。
「‥‥駄目か。仕方ないな‥‥所詮、ここらが俺の器だったって事だ‥‥」
火花を散らすゴーレム。剣の一撃はコックピットを両断し、エウドラは血を吐きながら目を瞑る。
「悪いな、草壁‥‥あんたの期待には、応えられなかった‥‥よ」
内側から爆発するゴーレム。完全の炎に包まれたエウドラ機を前に修司は刃を収めるのであった。
「嘘‥‥エウドラまで」
ティナ、ミルヒ、京子の三機に囲まれ身動きが取れないビアンカ。遠くで仲間のシグナルが消えた事に驚きを隠せない。
「玲子には逃げられ‥‥全く、私は何をやってるんだか」
「エウドラ‥‥クッ! よくも!」
「私は死なない‥‥私は、死なない!」
デストラクトの志気は低下しつつあった。そこへルノアが戻り、傭兵達に告げる。
「二人は、無事、帰還した‥‥後は、私達が、倒す、だけ‥‥」
「二人とも、助かったんですか!?」
「まだ、わからない。予断を許さぬ、状況‥‥でも、助かる可能性は、ある」
ティナの質問に応じるルノア。彼女も途中で引き返し大和の報告を受けただけなので実際の所はわからないが、少なくともやれるだけの事はやった。
「もう、誰も、死なせない‥‥傷付け、させない‥‥」
ルノアが戻り戦力は強化された。一方デストラクトは一機を失い絶体絶命。このままでは全滅も有り得る‥‥と、その時。
「お遊びはそれくらいにしておかないか、ビアンカ」
優雅な声が響き渡る。しかし傭兵達が感じた印象は、背筋がぞくりとするようなものであった。
「詠子様‥‥!?」
上空から落下してくる詠子機。空中で無数のスラスターを展開し、ゆっくりとティターンが降り立つのであった。
●死神
草壁詠子の登場に驚いたのは傭兵達よりビアンカの方であった。
「ど、どうしてここに‥‥」
「お前達がいる場所くらいは把握しているさ」
生唾を飲み込むビアンカ。詠子は本当に『今来た所』なのだろうか?
本当はずっと近くにして、ずっと様子を伺っていたのではないか。詠子の裏をかき、玲子を始末するつもりだった。しかし最初から全て詠子の掌の上だったのではないか? そんな錯覚に陥る。
「クライストチャーチまで退くぞ。お前達には、決戦に参加して貰わなければな」
「申し訳御座いません、詠子様。我々はエウドラを失いました‥‥」
「そうか。それは残念だ」
驚きも何もない。感情の無い声でギルデニアに微笑む詠子。そこへ修司が襲い掛かる。
「逸るな。私は帰ると言っている」
直立したまま平行移動でかわし、刃を抜くティターン。
「聞こえなかったのか? 帰るぞ、お前達」
静かな声、しかしデストラクトに対する強制力は尋常ではない。ギルデニアもビアンカもユリアナも、大慌てで撤退の準備に入る。
「逃がすかぁ!」
しかしレインウォーカーは倒れたギルデニア機を攻撃。ミリハナクもユリアナを逃がさない。
「ふむ。自力での離脱は不可能か」
「草壁詠子‥‥危険な、相手‥‥」
接近しながらスラスターライフルで攻撃するルノア。そのまま剣で斬りかかるが、詠子は同じく剣でこれをいなす。
左右から連携して近接戦を仕掛ける修司とルノア。詠子はそれを一歩も退かず、舞い踊るように左右の剣で弾き続ける。
「何、この、動き‥‥」
一見すると無駄だらけに見えるのだが、まるで隙がない。次の挙動の予測が立たず、意外な動きで攻撃を防がれてしまう。
「流石に辛いな。仕方ない‥‥ユリアナ」
「は、はい?」
「君はここに残ってくれ。離脱するのはギルデニアとビアンカだけでいい」
「え?」
笑顔のまま固まるユリアナ。詠子は優しく穏やかな声で告げる。
「君は彼らの足止めをしてくれ。残念だが、全員助けるのは無理だ」
動きを止めるユリアナのゴーレム。詠子はルノアと修司を振りきり、異常な速度で大地を疾走する。
「ギルデニアは機体を捨てろ。手荒いが拾っていく。ビアンカは離脱急げ」
「草壁ぇ!」
吹っ飛んでくる詠子機に鎌を振るうレインウォーカー。しかし詠子はその鎌の柄を受け止め、足払いと共にペインブラッドを投げ飛ばす。
縦に回転し、頭から地面に激突するレインウォーカー。詠子はギルデニアを掌に乗せ、真っ直ぐにビアンカを目指す。
「草壁さん‥‥!」
「君達には申し訳ないが、台無しにさせてもらう」
「相手は片腕です。三機で囲めば‥‥」
と、ミルヒが言っている間に詠子は飛び込み、次々に傭兵達を斬りつけて行く。
「ビアンカ、先に行け」
加速に耐え切れず掌で気絶していたギルデニアをビアンカに託し振り返る詠子。ビアンカ機はギルデニアを乗せ、空へと舞い上がった。
「時を稼がせてもらう。君達とは知らぬ仲でもないが、遠慮なく打ち込んできたまえ」
構えるティナ、京子、ミルヒ。打ち込んで来いとは言うが、迂闊に近づけば斬られる事くらいはわかる。
一方、追撃に動き出す修司、ルノア、レインウォーカー。そこへユリアナが放ったプロトン砲が飛来する。
ユリアナはミリハナクに背を向け、追跡の妨害を最優先としていた。その動きは隙だらけだ。
「ユリアナちゃん、どういうつもりですの?」
「ママの言う事、聞かなきゃ‥‥お前達は、行かせない‥‥!」
ミリハナクを置き去りに加速するユリアナ。体当たりをかわし、ルノアはライフルで射撃を加える。
「うわぁあああっ!」
全身の砲門から光を放出しながらの突進。狙いは滅茶苦茶だが、場を引っ掻き回すには十分であった。
「ご苦労だったな、ユリアナ。もう十分だ」
ティナ達の相手を切り上げ舞い上がるティターン。それをユリアナは笑顔で見送る。
「ママ‥‥」
呆けているユリアナ機をルノアと修司が襲う。防御の姿勢も見せない機体の装甲を引き裂いていくと、やがてゴーレムは仰向けに倒れた。
この場に残されたデストラクトはユリアナのみ。その機体も無理な暴れ方をした所為で限界を迎えている。
「私‥‥いい子だよ。ママの言う事ちゃんと聞くよ。だから‥‥助けてくれるよね?」
詠子はとっくに離脱している。しかしユリアナは泣きながら微笑む。
「助けに戻ってくるよね。私いい子にしてたもん。いらない子じゃないもん。だから、戻ってきてくれるよね」
返事は無論ない。静寂の中、ユリアナは俯き、首を横に振る。
「やだぁ‥‥捨てないで‥‥傍に居てよ‥‥ママぁ‥‥っ」
草壁は笑顔で死ねと言った。それがわからない程ユリアナは子供ではなかった。
「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい‥‥いい子にするから捨てないで‥‥何でもするから‥‥ぶたないで‥‥」
「ユリアナちゃん」
一人で闇に謝り続けるユリアナ。そこへ歩み寄り、ミリハナクは剣を突き立てる。
巨大な剣で貫かれたゴーレムは動かなくなった。ゆっくりと剣を引き抜き、物言わぬ鉄の塊に告げる。
「もう謝る必要はないのよ。私が傍に、いてあげますわ」
デストラクト隊のうちユリアナとエウドラを殺し、ギルデニアのゴーレムも大破させた傭兵達。
彼らは洋上で待機している空母へと帰還を果たしていた。
「外山さんの容態は安定しているそうです。ただ、中里さんはこの艦の設備では‥‥」
体中中里の血で汚れた藍は戻って来た傭兵達に状況を伝える。
「そうですか。あれで助かる可能性があるだけ、中里さんはすごいです。普通は死んでしまいます」
ミルヒのストレートな物言いに苦笑する京子。ミリハナクは壁を背に、退屈そうに唇を尖らせている。
「それにしても、不完全燃焼も良い所でしたわね」
「あの子、草壁、に、見捨てられて‥‥泣いてた」
「それが草壁って女の恐ろしい所さぁ。助けるんだか、殺すんだか」
ぽつりと呟くルノアに続き肩を竦めるレインウォーカー。京子とミルヒは草壁の情け容赦ない判断に、なんともいえない表情を浮かべている。
「ところで‥‥大和さん。今回の一件、あなたは何か知っていたんじゃないですか?」
ティナの質問に傭兵達の視線が大和に集まる。大和はばつの悪そうな顔で、ぺこりと頭を下げた。
「ごめんなさい。それについては、もう少しだけ時間を下さい」
「大和さん‥‥」
「わかってます。ちゃんとします。だから私にチャンスを下さい。お願いします!」
「‥‥仕方ありませんね。しかし、一人の手に負えないと思った時は、直ぐに相談するのですよ」
修司の言葉に深々と頭を下げる大和。涙を拭いながら、何度も何度も頭を下げるのであった。
こうして疑惑に包まれた戦いは終わった。
その真相が何であれ、九頭竜隊が不完全な状態だとしても決戦は訪れる。
クライストチャーチでの決戦。そこで全ては明らかになり、デストラクトとの決着も迎える事になるだろう。
その時はもうすぐ目の前。戦いの終焉はすぐそこにまで近づいていた。