タイトル:ニュー・ワールドマスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/01/16 06:25

●オープニング本文


「こんにゃろー!」
 薙刀を繰り出しキメラを切り裂く一登。しかし当たりが浅かったのか、キメラは怯みながらも反撃を繰り出す。
 体当たりを防ぐ一登。その直後、側面より銃弾が飛来しキメラを撃ち抜く。続けセルマが盾を構え駆け寄り、突き飛ばすと追撃で首を刎ね飛ばした。
「風間、無事か?」
「お、おう。このくらいなんともないって」
 服の乱れを正す一登。そこへ肩にライフルをかけ、ゆっくりと歩み寄る人影が一つ。
「強がりもいいけど、もうちょっと腕を磨いたら? 君、さっきから結構危なっかしいよ」
 むっとした様子で振り返る一登。セルマは笑いながら少年の背中を叩く。
「落ち着け風間。お前の腕は上がっている。後は冷静になって訓練通りの動きをするだけだろう?」
 風間一登は終戦間際に傭兵になった少年だ。それまで武芸を嗜んでいたわけでもない、ごくごく普通の少年である。
 故に彼の戦闘経験はその程度のものであり、めきめきと腕をあげるような強敵も困難な作戦も縁がなかった。
 ネストリングという組織に入ってからは歴戦のメンバーからこつこつと稽古をつけてもらっているが、それでも実戦ではまだ硬さが残っているように見える。
「保護者つきで戦争なんていいご身分だねー」
「お前なー、なんでさっきからいちいち絡んでくるんだよ! 俺、お前に嫌われるような覚えはないぞ!」
「お前じゃなくて、キラ。私にはキラって名前があるんだから」
 結んだ銀色の髪を指先で弄りながら応じる少女。キラと名乗る彼女は、今回の依頼でたまたま一緒になった傭兵の一人だ。
 ニュージーランドでの戦いはクライストチャーチの決戦を以って一つの折り目を見たといえる。しかし今も各地に細々とした施設が残っていた。
 何せ敵本拠地までの直線を突っ切るような展開であった。今は道中にあるキメラプラントの排除とその周辺のキメラ討伐が行われていた。
 三人一組のチームを組み、幾つかのチームがそれぞれ担当地区を攻略している。一登は先輩であるセルマ、そしてこのキラという少女と行動を共にしていた。
「じゃあキラ。何か俺が気に入らない事でもしたか? それなら謝るから教えてくれよ」
「別に気に入らないってわけじゃないけど‥‥まあ、気に入らないといえば気に入らないのかな? 君みたいにお遊び感覚で戦場に居る子供を見るのは」
「お遊びって‥‥そりゃ俺は素人に毛が生えたようなもんだけど、これでも一生懸命やってるんだぞ?」
「一生懸命やってるのはわかるよ。でもね、君はやっぱり兵士って感じじゃないの。それが戦ってるっていうのが、ただ気に食わないだけ」
 首を傾げる一登。セルマに視線を向けるが、こちらも肩を竦めている。
 キラという少女は恐らく十代前半くらいだ。一登より年上ではあるだろうが、お世辞にも大人とは言い難い。
 しかし腕は確かな物で、セルマと同等といったところか。間違いなく経験は一登の上。死を覚悟するような修羅場も幾つか潜っているだろう。
「よくわかんねーけど、それってただの八つ当たりじゃないの?」
「戦わなくてもいい人が戦ってるのがおかしいってだけ。君、なんで傭兵になっちゃったのさ」
「何でって‥‥そりゃ‥‥」
 少し前までなら直ぐに理由を口に出来た。正義の味方になるためさ、と。
 でも今はそれが難しいと言う事も、口にするのも恥ずかしい事だと知っている。大声で叫びたくたって、どうにも実力が足りてないのだから。
「お、お前には関係ないだろ」
「どーせ、能力者に変な憧れを持ってなっちゃったタイプでしょ?」
「ち、ちが‥‥わないけど、俺はなぁ‥‥!」
 と、そこでセルマが手を叩く音が響いた。
「そのくらいにしないか。子供は元気が有り余っていて良いが、今は任務中だぞ」
 これにはぐうの音も出ない。キラも黙り込み、今はしれっとした様子だ。
「よし。では引き続き‥‥ん? 誰だ!」
 剣を向けながら声を上げるセルマ。木々の合間からゆらりと一人の男が姿を見せた。
 背が高く、線が細く若い男であった。両手両足に爪を装備しており、三人の近くまで来ると視線をぐるりと一周させた。
 一登、キラ、そしてセルマを見てから視線を止める。そうして口を開いた。
「すまねえが手を貸してくれるか? その‥‥味方がドジっちまってよ。うちの班の残り二人、森の中でダウンしてるんだわ」
「別働隊の一人か。仲間の状態はどうなっている?」
「ああ‥‥まあ、死ぬ程じゃねえよ。一応、安全な所に隠してる‥‥つっても、戦場に安全地帯なんてねぇから、早く連れ出さないとな」
「自力では動けないのか。わかった、手を貸そう」
 剣を収めるセルマ。すると男は言った。
「そう遠くじゃねぇし、一人居れば十分だ。二人で担いで直ぐ森を出ちまえばいい。そっちのガキ共を連れて行くほどじゃない。まあ‥‥ガキだけじゃ不安かもしれねーがな‥‥クク」
 低く笑う男。すると一登とキラは同時に眉を潜め顔を見合わせた。
「セルマねーちゃん、さっさと助けて離脱してやってくれ。残りの仕事はこっちで片付けとくよ」
「問題ないね。私一人でも十分だ。少年の背中は私が守っておくよ」
「そうか? まあ、強力な個体は発見されて居ない。これもいい経験かもしれんな。適当に近くのチームと合流し先に進んでくれ。追って状況は連絡する」
 セルマの言葉に頷く二人。男は肩を竦め、セルマに先行し森の中へ飛び込んでいく。
「こっちだ。ま、急いでくれや‥‥」
 二人の背中を見送り歩き出す二人。その間一切会話はなく只管に沈黙が続いた。
「私達の担当地区は粗方殲滅しちゃったし、このままプラントまで行ってみよう。そこが敵の守りも一番固いから、味方が苦戦してるかも」
「それもそうだな。KV使っちゃえば速いんだろうけど」
「ニュージーランドは森が多いし、その森も保護されている場所が多いの。KVで焼き払ったら、人類が取り戻した時に苦労する事になるわ」
「‥‥それはいえてるな」
 マグ・メルがあったという森は今は酷い有様だと聞く。同じ様な結末を辿らないよう、少年は考えを改めた。
「行こう。少しでも味方を助けるために」
「足を引っ張らないでよね」
「そっちこそ!」
競い合うように走る二人。その姿は森の奥深くへと吸い込まれていく‥‥。

●参加者一覧

加賀・忍(gb7519
18歳・♀・AA
南 日向(gc0526
20歳・♀・JG
ヨダカ(gc2990
12歳・♀・ER
巳沢 涼(gc3648
23歳・♂・HD
月読井草(gc4439
16歳・♀・AA
那月 ケイ(gc4469
24歳・♂・GD

●リプレイ本文

「おらおらー! キメラプラントはどこじゃー!」
 剣をぶんぶんしながら木々の間を走る月読井草(gc4439)。虫キメラとの交戦を繰り返しつつ到達した森の中腹にて彼女らは目標を発見した。
 開けた空間は恐らく人為的に作られた物であろう。大きなプラントを設置する為にはある程度のスペースは必要なのだから。
「どうやら俺達が一番乗りみたいだな。あれがキメラプラントか」
「おおう‥‥何やらぐねぐねしていて不気味ですね‥‥」
 周囲の状況を確認する那月 ケイ(gc4469)。正面には申し訳程度にカモフラージュされた緑色の物体が脈動している。
「こんなものが残ってたんじゃおちおち昼寝も出来ないじゃないか! おらおらおらー、どんどん壊してやっぞ!」
 青ざめる南 日向(gc0526)の横で小刻みに飛び跳ねる井草。ケイはその様子に苦笑しつつ得物を構える。
「そうしたいのは山々だけど、流石に敵の数が多いかな。みんなが来るまで時間を稼ぐか」
「そうかー? ここに来るまで戦った連中は雑魚ばっかりだったし、三人でもぶっ壊せそうだけどなー」
「いやあ‥‥プラントは闇雲に攻撃してもね。動力部や製造施設を破壊して機能停止させるのが上策なんだけど」
「敵はあんまり考えてる時間をくれないようですね!」
 そうこうしている間にも三人を取り囲む無数のキメラ。その中には先ほどまでは居なかった人型の甲虫、パラディンタイプも混ざっている。
「俺が前に出て注意を引きますから、二人は援護をお願いします。飛んでる奴は厄介だから早めに落としちゃって下さい」
 剣と盾を手に歩き出す那月。それを日向と井草が笑顔で見送る。
「よしケイ、囮はお前に任せた! さあ突っ込め!」
「ケイさんなら大丈夫です! ケイさんは強いですから一人でも大丈夫です!」
「信頼されてるのは嬉しいんだけど‥‥」
 微妙な表情を浮かべつつ走り出すケイ。接近してくる昆虫キメラを切り払いつつ、正面のパラディンを睨みつけた。
「さあ、お前達の相手は俺だ!」
 接近するパラディン。大きく跳躍し仲間のキメラを飛び越え、上空よりケイへと殴りかかった。
 これまでのキメラと比べると戦闘力の差は歴然。しかし重い拳をケイは難なく盾で受け流す。
「ケイさん、横からも来てます!」
 日向の声に反応し、正面からの攻撃を盾で受けたまま剣を手放し銃を抜くケイ。接近する二体目の個体を銃で牽制し動きを止める。
「ケイさん、反対側からも来てます!」
 更に日向の声。ケイは地面に刺さっていた剣を抜き、三対目の拳を剣で受け止める。
「おぉ〜!」
「あのっ、拍手してないで援護してくれます!?」
「言われなくてもソニックブーム!」
「合点承知です!」
 ケイが射撃で動きを停止させた個体へソニックブームを放つ井草。衝撃波に付随し、そのまま足の関節を斬り付ける。
 日向は二丁の銃を構え、二人に近づく昆虫キメラを撃ちぬいていく。更に上空から次々に遅い掛かる羽虫達に銃を乱射し動きを牽制した。
「間接を斬ったのに切断出来ないのか‥‥こいつ、頑丈だぞ!」
 渋い表情で飛び退く井草。反撃しようとするパラディン、そこへ側面から銃弾が直撃する。
「待たせたな! 真打登場だぜ!」
 ライフルを下ろすキラ。一登はパラディンに駆け寄り薙刀を振り下ろすが、腕で弾かれてしまう。
「かってぇ!?」
「おー。無事だったか一登。気をつけろ、そいつは固い」
「言うの遅いよ‥‥」
 井草の言葉に溜息混じりに構え直す一登。日向はそこへ手を振る。
「一登さん、間接を狙うといいそうですよ! 私はそんなみみっちい事はしませんが」
「しないのかよ!?」
「この銃散弾なんですよ」
「なんで散弾銃で来ちゃったの!?」
「いえ、こっちは普通の銃です!」
「じゃあそっちで撃てばいいんじゃ‥‥のわっ!」
 パラディンに殴られる一登。すかさず井草が治療を施す。
「お姉さんが助けに来たからにはもう安心だよ」
「え‥‥お姉さん?」
「私達と歳変わらないんじゃないの?」
 キラの言葉に溜息を一つ。井草はその肩を叩く。
「ツンツンしてて元気のいい娘だね。そういうの嫌いじゃないよ。あたし達と協力してくれるかな?」
 井草のいい笑顔に目が死んでいるキラ。
「一登さんは俺の背中をお願いします! キラさんは飛行型を優先してもらえますか!」
「君は若いけどプロだと思って頼むよ。一人でパラディン二体と戦ってるケイもああいってるし」
「別にいいけど‥‥あの人大丈夫なの?」
「ケイさんは強いから大丈夫です!」
 握り拳で語る井草と日向。キラは無言で銃を構えた。
「うおっ、那月さんがすげえ事になってるな!」
「一人であんなに相手をして‥‥羨ましいわね」
 そこに遅れて合流した加賀・忍(gb7519)、巳沢 涼(gc3648)、ヨダカ(gc2990)の班。進軍に手間取ったが大きな負傷はなく健在だ。
「うぐぐ‥‥流石にこの状態で森を進軍するのは一苦労だったのです。ご迷惑をお掛けして申し訳ないのですよ‥‥」
「いやいや。回復のお陰で無傷でここに来られたしな‥‥っと。悪いな、遅れちまったが手伝うぜ!」
 加勢する三人。涼の姿を捉え一登が視線を向ける。
「涼にーちゃん!」
「状況は把握してる! セルマさんなら大丈夫だと思うが‥‥話はこいつらを片付けた後だ!」
「あまり戦えない分、回復は任されたのですよ!」
 井草と回復をバトンタッチするヨダカ。とはいえ皆大きな負傷はないので、ゆっくりでも十二分間に合いそうだ。
「さてと‥‥一気に片付けるわよ」
 太刀を抜き駆け出す忍。那月はパラディンの拳を盾で受け、足の関節に剣を突き刺し動きを止めた。
「いいお膳立てね」
 一瞬で間合いを詰めた忍が斬撃を放つ。淡い光に包まれた忍の一撃はパラディンの腕を切断する事に成功する。
 続け、傷付いた足を薙ぎ払い、転倒した身体に刃を潜らせる。光が瞬き、パラディンの首は回転しながら空を舞った。
「うおっ、すっげぇ」
「むむ。一登、あたしの戦い方を参考にしろ! 見てろー!」
 剣を構える井草。少し離れた別のパラディンへ刃を振り下ろした。
「ソニックブーム! ソニックブーム! ソニッ!」
「なんでちょっと後退するんだ?」
「仕様だ! どりゃああー!」
 ソニックブームの連射から飛び込みパラディンの腕を切断する井草。着地し、どや顔で振り返る。
「さぁ、やってみな!」
「いや俺ソニックブーム持ってないし‥‥」
 困惑する一登。そこへ涼が飛び込み、横からパラディンを殴り飛ばした。
「カズ、あんまりぼさっとしてると危ないぜ!」
 よろけたパラディンだが、そのまま拳で反撃してくる。涼はその拳に自らの拳を合わせ叩き付けた。
「こりゃ使いやすいや、ありがてえ!」
 しかしこのキメラは殴打戦に滅法強い。打撃に対する防御性能がずば抜けているのだ。
「隙あり!」 
 背後へ回り込む一登。素早い斬撃でパラディンの足を切りつける。
「にーちゃん、間接が狙い目だ!」
「あいよ!」
 槍を取り出した涼は倒れかけたパラディンの首を突き刺す。それでもまだ死なないキメラだが、井草、一登と三人で倒れた所を総攻撃で始末するのであった。
「‥‥全く、騒々しい人達」
 ライフルを構え最後のパラディンを狙うキラ。放たれた銃弾は正確に手足の関節を貫き行動を封じる。
「おー! 狙撃がお上手ですねー!」
「君はしないの? 狙撃」
「私にはこれがありますから!」
 取り出した貫通弾を高々と掲げる日向。そして一瞬で装填を済ませ、動けぬパラディンへと狙いを定める。
「硬ければ、貫通弾だよホトドギス!」
 小銃を連射する日向。動けないパラディンは滅多打ちにされたが、それでもまだ息がある。
「うわー、頑丈ですねー‥‥誰か止め、お願いします!」
 次の瞬間パラディンの首が吹っ飛んだ。固まる日向とキラの目の前で倒れたパラディン。その影より刃を収める忍が姿を現した。
「これで粗方片付いたかしらね」

 パラディンを初めとしたプラントの防衛戦力を排除した一行。いよいよプラントを破壊する段階になろうとしていた。
「こいつがプラントか。まったく、バグアは余計な物を残して行きやがる。責任持って片付けていけよなぁ」
 腕組み溜息を漏らす涼。忍は刃に手をかけプラントを見つめている。
「どうやって始末をつけようかしら。とりあえず集中攻撃で破砕する?」
「いやっ、動力部を破壊すれば停止すると思うので、破砕する必要はないと思いますよ」
 ケイを見た後、忍は少し残念そうに後退した。
「ぎゃあー! 中はグロテスクな虫の卵みたいなのでいっぱいです!」
「虫の卵くらいで慌てすぎなのですよ。キメラは無理でしょうが、場合によっては食べられる物もあるのです」
「今はそんな話聞きたくねぇー!」
 震えながら飛び出してきた日向と一登。ヨダカも中を見たが別に気にしていない様子だ。
「那月さん、こっちの事は任せてもいいか?」
「構いませんけど、どうかしましたか?」
「いや、セルマさんと無線が通じないんでな。何もないとは思うが、ちょっと心配でよ」
 通信機を見つめる涼。先程までは確かに通じていた筈なのだが、どういうわけか無線が通じない。
「ジャミングのようなものはないんですよね。だとすると、セルマさんが自分で無線をオフにしてるとか‥‥?」
 ケイもセルマの事は気にかけていた。そもそも実際に戦ってみて実感したが、この戦場で行動不能者が続出するというのは少し妙な気もする。
 勿論ケイはかなり上手く戦っていた方だし、毒等の可能性も残されているので、一概にはなんとも言えない所だが。
「無線を常にオンにするようにってお願いしておいた筈なんですけどね。何か理由があるんでしょうか?」
「わからんが‥‥まあ、俺は心配性でね。ちょっと先に様子を見てくるよ」
「わかりました。こっちを片付けたら俺達も向かいます」
 手を振り見送る日向。涼が離脱するのを確認すると、ケイはプラント破壊の段取りを始めるのであった。



 結論から言うと、セルマには何事もなかった。
 妙な事があるとすれば、涼が駆けつけた際セルマは男と立ち話をしていた様子で、時間が経過しているにも関わらずまだ負傷者の搬送を始めていなかったことくらいだろうか。
 負傷者は涼も手伝い無事搬送。キメラプラントも機能停止が確認され、傭兵達の任務は完了となった。



「なんだか心配をかけてしまったようだな‥‥すまなかった」
「いやー、無事ならいいんだ。俺もちょっと心配しすぎだったな」
 森を出た一行は完全にプラントを解体する為にやってきたUPCの部隊と擦れ違い、帰還の準備をしていた。
「それにしても君、味方である傭兵を疑ってたって事だよね?」
 セルマと涼に割り込んで声をかけるキラ。その視線は不審そうだ。
「あ、あー‥‥いや。ちょいと特殊な依頼を受けてきたもんでな。悪気はなかったんだよ」
「ふうん。君も‥‥戦争を終わらせられていない一人なんだね」
 首を傾げる涼。キラは少し悲しげに呟くと離れていってしまった。
「あれ、キラさん?」
「どっかいっちまったなー。やー、あの二人を連れて歩くのって大変でしょ。元気があるのは良いんだけどね」
 入れ違いで近づくケイと井草。井草は白い歯を見せて笑い、セルマを凝視する。
「でもあんたなら大丈夫そうだね」
「セルマさんが無事で良かったです。確かにキラさんの言う通り、仲間を疑うなんてどうかしてましたけど‥‥」
 申し訳無さそうに苦笑するケイ。セルマはそれに笑顔を返した。
「で、その噂の爪野郎はどこいったんだ?」
「ああ。彼なら負傷者と一緒に先に帰還したようだな」
 結局あの時の話はそれっきりであった。無線を切っていた理由も、あの時何をしていたのかもセルマが話す事はなかった。
「年も明けて新しい時代が訪れたというのに‥‥世の中は未だ静まらないのね」
 どこか胸にしこりを残す結末。忍は仲間達の様子を眺めつつ、小さく溜息を漏らした。

「そうでしたか。一登さんもあれから色々あったんですね」
 仲間とは少し離れた所で肩を並べる一登と日向。二人は一登が能力者になる前からの知り合いであった。
「確かに、正義を大声で名乗るのは難しくなってしまいましたね」
「ねーちゃんも?」
「あんまり中身は変わってないように見えるかもしれませんが、あれから色々あったのですよ」
 笑いながら短く切った髪の先を指先で撫でる日向。
「私は思うんです。正義の味方とヒーローは別物だって」
「え?」
「ヒーローとは生き方です。大切な人を守る私の目指す生き方! 正義の味方とは‥‥そのまま正義に味方する人です!」
 握り拳で語り、それから苦笑を浮かべる。
「どちらが悪いとは言いません。どちらがいいかもわかりません。でも、私の目指す生き方‥‥それは私だけのヒーローなんです」
「ヒーローは生き方‥‥」
「これが偽善に近いのもわかってます。でもそれが私なんです。自分はこうだって胸を張って言えるなら、少なくとも自分は納得出来る‥‥そんな気がするんです」
 顔を叩き日向と向き合う一登。そうして日向の両手を握り締めた。
「ありがとう、ねーちゃん。俺、少し吹っ切れた気がするよ」
「そ、そうでしたか。お役に立ててよかったです!」
「俺も見つけてみるよ。自分の納得出来る生き方を!」
 日向の手を上下に振りまくる一登をヨダカは遠巻きに眺めていた。
 一登は昔とは違う。現実に打ちのめされ、戦争の凄惨さも理解しつつある。
 思い悩み、少しずつ前に進んでいく姿をヨダカはずっと見て来た。だがその胸中は複雑であった。
「一登はまだ、自分の願いを見つけられていないのですね‥‥」
 正しくありたいと、ヒーローでありたいと、誰かを助けたいという。しかしそれは漠然とした善意に過ぎない。
「願いというのは、全員分は叶わないと相場が決まっているのです」
 もし、どうしても譲れない願いを見つけた時――。
「他人を押し退けてでも叶える事が出来ますか?」



 銀色の髪を風に揺らし、少女はライフルを担いで歩く。
「‥‥やっぱり終わってないんだよ、まだ」
 バグアは去ったという。戦争は終わったという。だが‥‥それは誰の為の言葉だろう?
 俯きがちに歩く小さな背中を風が後押しする。影は次の戦場を求め、静かに揺れ続けていた。