タイトル:ニューワールドβマスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/02/11 10:55

●オープニング本文


 ラストホープの一角にあるボロい雑居ビル。そこにネストリングの事務所はあった。
 殆ど客の訪れないその事務所の扉の前に立つ一人の少女。彼女の名前はキラ。その日は彼女の初出勤日であった。
 意を決し扉を開いてみる。すると目の前に猫が飛んできて顔にへばりついた。
「はわわわわ‥‥っ! マリーさん、お客さんの顔に失礼をしてはいけないのですよーッ!」
「あんたが投げたんだろうが! 猫を投げるなっつってんでしょ!」
「猫はすっごいジャンプするから大丈夫‥‥」
 背後からドミニカに首を絞められ悶えるヒイロ。キラは猫を抱えながらその様子を見つめていた。
 彼女がネストリングの事務所に来る事になったのは色々と込み入った事情があるのだが‥‥それはさておき。
「おはようございます、社長」
「わふふーん。おはようございますなのですよー!」
 この口の端から涎を垂らしている青ざめた顔の小さいのが社長である。キラは淡々と挨拶をし、ソファの上に座った。
 まさか自分がこんなわけのわからないところで働かせる事になろうとは予想もしていなかった。やるべき事が終わればさっさと辞めたいというのが本音であり、それはヒイロにも既に伝えてあったのだが。
「キラちゃん。早速ですがお仕事をお願いします」
「はあ」
「ヒイロは一登君と一緒に天笠君の依頼に行ってきます。そのまま何件か依頼をハシゴするので、その間にお客さんの対応をしてほしいのです」
「私今日から仕事なんですけど、私でいいんですか?」
「問題ありません! 他にも傭兵に声をかけてあるのですよ!」
「じゃあ私要らないのでは」
「そんなこともありません。キラちゃんにとって大事なお仕事でもあるのですよー」
 猫を抱えたまま眉を潜めるキラ。ヒイロは扇子を広げ、何故かキラを煽ぐのであった。

 数日後。ヒイロと一登が出撃中、留守を任されたキラはドミニカと共に港へ向かっていた。
 この日ネストリングはとある客人を迎え入れる事になっていた。そしてその客人は無事に護送され、ラストホープへとやって来たのだ。
「ここがラストホープかー。やっぱり人間の町だなー。人がいっぱいだ」
 船を下りて走ってくる少女。年の頃は十代後半くらいだろうか。LHにやってくるのは初めてなのか、興味深そうにあちこちを見渡している。
「こんにちは。あなたがルリララ?」
 そこへ声をかけるドミニカ。ルリララは振り返り頷く。
「そうだよ。そういう君は?」
「私はドミニカ・オルグレン。ネストリングの社員で、ヒイロに言われて迎えに来たのよ」
「ヒイロの仲間って事? ヒイロはどうしたの?」
「それがねぇ、あの子最近天笠とつるんであっちこっちで仕事してるみたいなのよ。だから今日は代理でお迎えに来たってわけ」
 話を聞きながらキラは考えていた。ヒイロがどこで何をしているのか。
 キラはヒイロが何をしているのかを知っていた。ドミニカは知らない事だったが、ヒイロはネストリング新生後ずっと慌しく動いていたのだ。
 故に事務所に帰ると寝ている事が多かったのだが‥‥それは今は関係のない話だと思考を切り替えた。
 問題はこのルリララというのが元強化人間であり、これが強化人間社会復帰プロジェクトの大事なテストであるという事だ。
 強化人間と言えば人類の強敵として長らく立ち塞がってきた相手だ。それを救済するという動きは、本当にここ最近始まった物である。
 キラもまた傭兵として何度か強化人間と交戦してきた。その戦いはどれも壮絶なものであり、簡単には忘れられない記憶でもある。
「そっちの子は?」
「‥‥キラです。ネストリングでお世話になっています」
「そっか。ボクはルリララ! よろしくね、キラ!」
 笑顔で手を差し伸べるルリララ。キラはその手を取る事に戸惑いを感じていた。
 まだルリララが本当に安全な強化人間なのか、その判断は出来ていない。強化人間の社会復帰とはとても難しい問題なのだ。
 だからこそ、戦闘力のある能力者で取り囲み、監視をしながら生活が可能なのか否かを判断するプロセスが必要となる。
 まだ整備されきっていない強化人間の救済というシステムを構築する為に、こうした実験的な活動に協力する。それはヒイロの請け負った仕事なのだが‥‥。
「‥‥よろしくお願いします」
「うん、よろしく!」
 遅れて手を取るキラ。個人的にはそんな気にはなれなかったが、今はえり好みできる立場でもない。
「あんまりはしゃぐんじゃないよ、ルリララ。あんたは監視される立場にあるんだからね」
 遅れて歩いてきた女性が一人。サングラスを外し、ドミニカに握手を求める。
「護送を依頼されていたレイディ・ボーンという者だ。一応この書類にサインを頼めるかい?」
「はいはいっと‥‥ご苦労様」
 サインを確認すると書類を鞄に納め、レイディはルリララを見やる。
「さあて、これで私のお役目は終了なんだがね。何日かLHに滞在するから、もう暫くあの子の面倒を見ようと思ってるんだ。そっちの予定はどうなってるんだい?」
「んー、今の所ノープランねー。ま、ヒイロが手配してるって言うけど‥‥あ、宿が必要ならうちの事務所に来る?」
「そいつはありがたいね。ルリララ共々世話になるよ」
 するすると進む話の中、キラは少し離れた場所でその様子を眺めていた。
 強化人間とそれを護送してきた女傭兵。ネストリングとそこに『潜入』している自分。そしてヒイロの考えと強化人間救済計画‥‥。
「‥‥めんどくさ」
 呟いた言葉はルリララのはしゃぐ声に掻き消されてしまう。
 こうして様々な思惑の交差する、ルリララの滞在が幕を開けるのであった‥‥。

●参加者一覧

上杉・浩一(ga8766
40歳・♂・AA
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
緋桜(gb2184
20歳・♀・GD
御沙霧 茉静(gb4448
19歳・♀・FC
巳沢 涼(gc3648
23歳・♂・HD
月読井草(gc4439
16歳・♀・AA

●リプレイ本文

 一度事務所に向かい荷物を降ろしたルリララ。そこで傭兵達と合流し、ショッピングへ出かける予定になっていた。
「初めましての人は初めまして! ボクの名前はルリララ! これから暫くお世話になります!」
 元気良く挨拶するルリララ。その様子はどうにも強化人間のイメージにはそぐわないものだ。
「ようルリララ、元気だったか〜? そこのうるさい小姑にイビられたりしてないか?」
「井草‥‥あんな強そうな傭兵相手に、さすがの命知らずね」
「あたしが言ってるのはドミノの事だよ‥‥痛っ、何でぶつんだよ! 名前合ってるだろ!?」
「あってるわけあるか! ドミニカ共和国で覚えろって誰か言ってたろ!」
 月読井草(gc4439)の背後に回り込みヘッドロックするドミニカ。いつもの事である。
「君はたしか‥‥カシェルさんの彼女だっけか」
「ボクは彼女じゃないよ。ボクだってそれくらい知ってるんだから」
 上杉・浩一(ga8766)を不満げに見つめるルリララ。巳沢 涼(gc3648)はその様子を興味深そうに眺めている。
「強化人間が人間に‥‥これからはこういうケースも増えていくのかね?」
「そういう知り合いも何人か居るな。これも時代の流れなんだろ」
 腕を組み語る時枝・悠(ga8810)。そんな二人に御沙霧 茉静(gb4448)は声をかける。
「ルリララさんが人として生きる事‥‥それは私達にとっても一条の希望です」
「能力者と強化人間を取り巻く問題は別なようで同じだからね。これが戦争の本当の意味での終結の足掛かりになるかもって事さ」
 茉静の肩を叩き微笑むレイディ。二人は改めて向き合った。
「久しぶりですね‥‥また貴女に会えてとても嬉しく思います」
「フッ、私の顔を見て喜ぶ奴も珍しいもんさ。久しぶりだね」
「そういえばマグ・メルんときのおっかないオバ‥‥お姉さんだよな。まさか母親だったとは思わなかったよ。人は見かけによらないもんだなあ」
 サングラスを外し微笑むレイディ。流石の迫力に井草もセリフを訂正した。
「二人の事は顔を知っている程度だが‥‥悪い人ではないのはわかる」
「カシェル先輩達のお墨付きなら問題ないか。よろしくな、ルリララちゃん」
 ルリララと握手を交わす浩一と涼。そこでキラが手を叩いた。
「そろそろ出かけないと予定が狂ってしまいます。挨拶はそれくらいにしてください」
「お? よお、あんたもネストリングに入ったのか?」
「こないだ一登と一緒にいた娘だね。あたしはネストリング常勤猫の月読井草。改めてよろしく」
 涼と井草が同時に声をかける。が、キラは特に表情を変えず、すすっと身を引くのであった。
「では先に事務所から出ていますので」
「彼女はネストリング新入社員の方ですよね? 社員親睦会も兼ねているのでしょうか?」
 首を傾げる緋桜(gb2184)。ドミニカは頭を掻いて苦笑している。
「んー。ヒイロの奴が何考えてるのかは私にもわかんないのよねー」
「だがヒイロさんの事だ。ルリララさんのお守りに彼女を残したというからには、それなりの考えがあるのだろうな」
「成程。では、ちょっと壁のありそうな方ですが、頑張って話しかけてみますね」
 ドミニカと浩一の言葉に頷く緋桜。こうして傭兵達のLH案内が幕を開けるのであった。

「自由ってすばらしいー!」
 文字通り皆から先走るルリララ。道端で両腕を広げくるくる回っている。
「相変わらず元気ですね。ルリララ、はしゃぎすぎて迷子になっては困りますよ?」
 歩きながら声をかける緋桜。悠は頭の後ろで手を組みながらルリララを見ている。
「あの、ほっといていいんですか?」
「あー。いいんじゃないかな? 案内つっても適当で」
 困惑しているキラに悠は続ける。
「社会に溶け込むって事は説明を並べればいいってもんでもない。考えるな感じろ、ってのが必要な事もある」
「はあ。そうですか」
「とりあえず家具類は後にして、服や靴、生活必需品を買いに行くか」
 涼の提案に同意する一行。特に緋桜と茉静は密かな盛り上がりを見せている。
「ルリララさんに相応しい物を見つけてあげましょう‥‥」
「ルリララも女性ですし、やはり服は揃えませんと」
「活発な性格だから、ショートパンツとか少し男の子っぽい感じが似合うかもしれないわね‥‥」
「私も動きやすい服装が宜しいかと。和服も勧めてみたいのですが‥‥現状では着こなしていただけないでしょうからね」
「何を選ぶにせよ‥‥彼女がお洒落を楽しんでくれればいいわね」
 服の話をしている二人。そこへ回り込んだ井草が立ち塞がる。
「二人とも、一つ大事な事を忘れないでくれよな」
「何でしょうか?」
「ルリララは――胸がでかい!」
 どや顔の井草。傭兵達は一瞬停止した後、井草を置いてぞろぞろと歩いていった。
「サイズには気をつけろってんだよー! 無視すんなこらー!」

 こうしてまずは服を揃える事になった。傭兵達は特に計画は決めず、色々な店を周って品物を選んでいく。
「ルリララ、こちらは如何でしょう?」
「色違いも持って来たわ‥‥」
「そ、そんなにボク服いらないよ‥‥元々裸みたいなもんだったし!」
 試着室のカーテンがもこもこ揺れている。その様子を悠は遠巻きに眺めている。
「任せといて良さそうだな」
「男がみてもわからないからな。こういう時は女性がいると助かるぜ」
「一応私も女なわけだが‥‥そんな事より買い食いしようぜ。経費結構出たんだろ?」
「いやそういう意味では‥‥お、いいね。クレープでも買ってくるか!」
 悠と涼の話はそんな感じで纏まった。涼は担いでいた荷物を降ろし、浩一の肩を叩いた。
「ちょっと行ってくるんで荷物番お願いします!」
「あ、ああ‥‥」
 見送る浩一。そこへ買い物を終えた緋桜と茉静が大漁の荷物を抱えて戻って来た。
「上杉さん、これもお願いしますね」
「買いすぎ‥‥じゃないか?」
「持ってくださいます‥‥よね?」
 こくりと首を擡げる緋桜。浩一は無言で荷物を受け取るのであった。

 店を出た一行は広場で休憩を取っていた。涼と悠があちこちで買ってきた食べ物をそれぞれ楽しんでいる。
「ほらよ、ルリララちゃん。これ食った事あるかい? 結構イケるぜ」
 ルリララは口に入れる物は警戒していたが、慣れて来ると未知の味覚に感動していた。
「うわー! 森の中にはこんな食べ物なかったよ! これもっとないの?」
「経費はかなり有るそうですが、無計画に浪費しては後々困る事になりますよ。慌てないで本当に欲しい物を見極めないと」
「まあそう言うなよ。いきなり金の話しても面白くないだろ?」
「貴女様は買いすぎだと思いますが‥‥」
 両手に多数のクレープを持った悠に冷や汗を流す緋桜。
「とはいえ‥‥初めての買い物ですからね。ある程度は贅沢しませんと」
「話が分かる奴で良かったな、ルリララ」
 悠からクレープを受け取り頬張るルリララ。満面の笑みである。
「ほら、キラちゃんも遠慮せず食えよ」
「どうも」
 涼が差し出すクレープを受け取るキラ。小さく座ったまま端っこを齧っている。
「キラさんはどうして傭兵になったんだ?」
「え。唐突すぎませんか?」
「いや、世間話をと思って‥‥」
「別に理由なんて人に話す必要ないと思うんですけど」
 完全に拒絶された浩一が真っ白になって俯いている。その肩をそっと涼が叩いた。
「なんだろう、君を見ているとちょっと昔を思い出す‥‥ああ、いや、俺はロリコンじゃない」
「ロリコンなんですか?」
「いや、よく言われるから先に言っただけであって‥‥」
「ロリコンって私みたいな年端も行かない少女に性的興奮を覚える特殊性癖の人の事ですよね?」
 すっと離れるキラ。浩一はベンチから崩れ落ち、道端で灰になっている。
「上杉さーん!?」
「しっかりしろー! 傷は浅いぞ!」
 浩一を抱きかかえる涼と井草‥‥を完全に興味の外にやり、キラはルリララを見ていた。その視線には複雑な感情が交じり合っている。
「貴女が強化人間をどう思っているかは解からない‥‥だけど確かな事は、ルリララさんは私達能力者にとっての希望だという事‥‥」
 背後からの声に振り返るキラ。そこには茉静とレイディが立っていた。
「さっきも言ってましたね。希望って」
「貴女が彼女に向ける目、それは人々が私達に向ける目そのもの。彼女は私達の鏡‥‥だからこそ、人として幸せを得ようとする彼女の姿は、私達の姿でもあるの‥‥」
 戦争が終わった今、能力者も一人の人間に帰らねばならない時が来ている。
 だが本当の意味で能力者が解放される日はまだ遠いだろう。そしてその日が訪れるまで、能力者に対する偏見も消えはしないだろう。
「昨日まで敵だった化物を同じ人間だと考えろというのは難しい事さ。実際その警戒心は必要だ。だけどね、同時に理解する事も必要なのさ」
「レイディさんとも色々ありましたが‥‥今ではルリララさんとも仲良くなれましたしね」
「そいつはどうだか。私はただ乗りかけた船に乗り続けてるだけさ」
 笑い合う二人。そして茉静は言う。
「貴女にも彼女を見守って欲しい‥‥それが、私の願い」
 世界は変わろうとしている。それはキラにもわかっている。
 だが‥‥それを理解し納得するには、まだ時間がかかりそうだった。

「次は家具だぜ! 家具と言ったらコタツ! あれがないと冬は始まらないぜ!」
「ジャパニーズコターツね! 私も大好きよ!」
「甘いな二人とも! コタツが一番好きなのは猫さ!」
 涼、ドミニカ、井草の三人はコタツ選びに夢中になっている。一方、悠は浩一を指差し。
「これどうしちゃったの? 腰痛?」
「わかんないけど、食べ終わったらこうなってたよ」
 大漁の荷物を担いだ浩一は足をぷるぷるさせながら死んだ魚のような目をしている。
「そんなに荷物持てるなんて力持ちだね、おじさん!」
 ルリララに笑顔で言われ、更に足が震えだす浩一であった。
「大勢でする買い物というのは楽しい物ですね。何でもない事に可笑しさを覚えたり‥‥」
「いや、あれは多分なんでもない事でも笑い事でもない気がするが」
「もしやこれが‥‥青春、ですか‥‥?」
 口元に手をやりキラキラしている緋桜。悠は無表情に浩一を一瞥し――見なかった事にした。

 こうして傭兵達は無事に買い物を終え、事務所に戻‥‥。

「ちょーっと待った! まだ私の猫スポット案内が終わってないだろ!」
「猫スポットって何?」
 一行の行く道を塞ぐ井草にルリララが首を傾げる。
「よくぞ聞いてくれたな。猫スポットとはつまり地域猫の集会所や猫おばさんがいる場所の事だ。いざという時に頼りになるからね!」
「ボク、猫じゃないよ?」
 一刀両断される井草。そのままフリップを取り出す。
「じゃあ猛犬出現注意マップは?」
「ボク犬好きだよ?」
「犬をなめるなよ人間風情がー! あいつらは噛む! あと子供には近づくなよ、奴ら天使のような顔して悪魔だからな!」
「イグサも子供だよ?」
「あたしはおねーさんなの!!」
 フリップを叩き割る井草。涼は腕組みレイディを見る。
「お姉さんってのはああいうのだよな。やはりお姉さんはいいなあ」
「ちょっと涼‥‥どこ見てんのよ!」
「別にどこも見てな‥‥なんでドミニカちゃんが怒るんだよ!?」
 井草は首根っこを、涼は耳をそれぞれドミニカに掴まれ引き摺られていった。

 こうして傭兵達は無事に買い物を終え、事務所に戻って来た。
 荷物を降ろした傭兵達はとりあえずコタツを展開し、一息ついている。
「これがコタツかあ〜。あったかいね〜」
「部屋にあると自然と団欒が産まれる素敵な物なんだぜ。麻雀も出来るしな」
 ルリララと一緒にコタツに入る涼。どこからともなくいつもの麻雀セットを取り出す。
「この遊びは人間の常識、これで遊べばすぐに友達が出来るぜ!」
「嘘つけ! それはあんただけでしょこの麻雀野郎! ‥‥なんでちょっとどや顔なのよ!?」
「実際麻雀野郎だからな! じゃあドミニカちゃん遊んでくれよー」
「べっ、べ、別にいいけど‥‥ルール覚えたし‥‥」
「あ、でも四人いないと無理か。また今度だな!」
 涼の笑顔に読み込まれたルールブックの角が減り込んだ頃。
「ルリララさん、これを‥‥」
 茉静が手渡したのは犬のぬいぐるみであった。
「うわー、かわいい! もらっていいの?」
「ええ。クドリャフカさんと離れていても、あの森から遠い所にいても‥‥寂しくないように」
 ルリララはぬいぐるみを抱き締め、そして笑った。
「ありがとう。でも大丈夫だよ! ボクはきっとあの森に帰る。それに今のボクには皆がいる。だから寂しくなんかないよ!」
 ルリララの頭を撫でる茉静。その横では涼がドミニカに殴られている。そして。
「あれはどうしちゃったの?」
「はい。心と腰を両方折られたとか申されておりました」
 事務所の片隅に浩一がぐったり倒れている。悠は妙な状況に首を捻る。
「キャラが振り切れすぎだろネストリング」
「ところで、麻雀はするのですか?」
「ここでまさかの麻雀打ちます宣言?」
「いえ。普段興味のない事を体験してみるのも青春‥‥ですから」
 握り拳で答える。緋桜。悠は無言でその背中を見送るのであった。
「お、緋桜さんも参加するのか?」
「お手柔らかに」
 牌を持つ姿がやけにハマっている緋桜。背景に桜吹雪が見える。
「ボクもやるー! ルールわかんないけど!」
「よーし、じゃあ麻雀大会やるか! その後は鍋でもしようぜ!」
「最近留守番ばかりで退屈してたのよね。鍋だったって聞いたらヒイロが羨むわよー!」
「そんな僻むなよドミノ。荷物係もとい留守番も大事な仕事だよ」
「哀れむんじゃねえええ!」
 井草をコタツから引っ張り出しプロレス技をかけるドミニカ。涼は牌を混ぜ、ルリララはその牌を積み重ねてどや顔している。
「カオス」
 ぽつりと呟く悠。その隣で茉静は苦笑を浮かべるのであった。
 わいわいと明るい騒ぎが起きている中、キラは一人だけ隅っこで手帳を開き、ペンを回している。
「‥‥能天気な奴ら」
 溜息と共に手帳を閉じる音が小さく響いた。

 その日、事務所の明かりは中々消える事はなく、夜遅くまで明るい笑い声が聞こえていたという‥‥。