タイトル:【JL】閃光を追ってマスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/02 17:47

●オープニング本文


●恩返しと遊園地
「説明しよう『ジョイランド』とは――」
 部屋にやってくるなり少女は唐突に語り出した。
 ソファの上に座って本を読んでいたカシェル・ミュラー(gz0375)も、ベッドの上に転がっていたヒイロ・オオガミも、急な展開にただ目を丸くする。
「10月31日オープンの遊園地で、オープニングセレモニーと同時にハロウィンイベントをやるそうなのです」
「遊園地ですか!? メリーベルさん、ナイスです! ヒイロも遊園地行きたいですっ! 行きたいのですーっ!」
 ベッドから飛び起きるとカシェルの後輩、ヒイロは両手をばたばた振り回しながら声を上げた。しかし一方カシェルは怪訝な様子である。
「‥‥メリーベルさん、その遊園地がどうかしたんですか?」
「何かしら、その疑り深い目は? せっかくそのチケットをプレゼントしようと思ってたのに」
 腰に手を当て片手でひらひらとチケットの束を揺らすメリーベル・エヴァンス。友人であるカシェルから見て、彼女の『うまい話』には必ずウラがあるのだ。
 しかしチケットを確認するとどうにも本物にしか見えない。様々な手段で検証すればするほど、チケットの信憑性は深まる一方である。
「どういうつもりですか‥‥?」
「そこまで言われると少しイラっと来るわ。でもまあ‥‥ほら。この間の依頼のお礼って事で」
 そこで腕を組み、カシェルは先日の依頼の事を思い出した。依頼で彼女の救出を行ったカシェルだったが、別に礼がほしかったわけではない。
「それはそれ。借りを作りっぱなしは嫌だし。これで返せるとも思ってないけど‥‥ご機嫌取り?」
「‥‥そうですか。まあ、そう言う事なら有り難く。ヒイロちゃんがど〜しても行きたいみたいだし――」
 遠い目でチケットを受け取るカシェル。その足にはヒイロが先ほどからかじりついている。
「でも数が多いみたいだけど」
「ん? ああ、誘いたい人がいればテキトーに誘えば? それじゃ、あたしはこれで」
「わう〜? メリーベルさん、一緒に行かないですか?」
「うん、めんどい」
 四文字の簡潔すぎる返答を残し、メリーベルは去っていく。カシェルとヒイロは互いに顔を見合わせ苦笑するのであった。

●ハロウィン大騒動
「というわけで、ヒイロもコスプレしたのですよーっ! カシェル先輩、みてみてーっ!」
 ジョイランド、イベントステージ付近――。頭に狼男(?)の格好に仮装したヒイロが嬉しそうに飛び跳ねていた。
 仮装しなくても元々犬娘なのだが、本人が楽しそうなのでカシェルは何も言わなかった。かくいうカシェルは、頭にカボチャの着ぐるみを装備している。
「これでヒイロも立派な狼なのです!」
「狼‥‥? 犬じゃなくて?」
「!? ヒイロは犬じゃなくて狼です! ずっと前から言ってるですよ!? 犬じゃなくて狼、ここ大事ですーっ!」
「そうなんだ‥‥」
 うなり声を上げながら訂正するヒイロ。どうやら彼女の中で『犬っぽい』というのは禁句だったようだ。
「そういうカシェル先輩はなんでカボチャかぶってるですか?」
「え? ハロウィンっぽいかと思って‥‥。全身コスプレするのも嫌だから、頭だけ」
「コスプレ恥ずかしいんですか? みんなしてるのに?」
 そう、このイベントステージでは現在ハロウィンコスチュームの貸し出しが大々的に行われているのである。
 オープニングセレモニーをかねているだけあり気合の入り方は凄まじく、右を見ても左を見ても客もスタッフもコスプレ中である。
 そんな中、ひょこひょこと歩く奇妙な一団があった。カシェル同様、首から上だけカボチャな男の集団である。
 首から下はブーメランパンツ一丁で、隆々とした筋肉を手からせながら黙々と何か丸い物をステージ裏から運び出していた。
「あの人たち、カシェル先輩みたいですね〜」
 そのヒイロの一言でカシェルは無言でカボチャを脱いだ。と、その時――。
「だ、誰かそいつらを捕まえてくれ! 打ち上げ花火の火薬を盗みやがった!」
「え?」
 『そいつら』と言われても全員異常な格好なので良く分からない。しかしカシェルとヒイロには先ほどの謎の男の集団が思い浮かんでいた。
「カシェル先輩、あそこあそこ!」
「あれ火薬だったのか‥‥。やっぱり大きいなあ」
「なんでそんなに暢気ですか!? 花火がなくなっちゃうんですよ!?」
 そうしてヒイロは覚醒しマッチョな男達へ猛然と駆け寄っていく。男の一人に背後から噛み付くが、ヒイロは太い男の腕にラリアットをくらい派手に吹っ飛んでいった。
「ぎにゃ〜っ!?」
「ヒイロちゃん!? 馬鹿な、いくらあの子がアホの子でも能力者だぞ!?」
 と、ヒイロに駆け寄るカシェルが見たのは一斉に振り返った男達の顔であった。そこには花火の火薬とは別に――埋め込まれた分かりやすい形の『爆弾』が見て取れた。
「キメラ――!?」
 周囲には溢れんばかりの人、人、人――。その多くはこの異常に気づいていない。
 キメラと思しき男達はそそくさと走り出した。その背中を追い、カシェルは倒れたヒイロの首根っこを掴んで走り出す。
「追うよ、ヒイロちゃん!」
「ふえーん、ただのマッチョに負けたですー‥‥」
「いや、あれ多分キメラだから!」
 こうして遊園地のイベントステージにて、また一つの騒動が始まろうとしていた。

●参加者一覧

ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
上杉・浩一(ga8766
40歳・♂・AA
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD
南 十星(gc1722
15歳・♂・JG
巳沢 涼(gc3648
23歳・♂・HD
犬彦・ハルトゼーカー(gc3817
18歳・♀・GD
ダンテ・トスターナ(gc4409
18歳・♂・GP
イスネグ・サエレ(gc4810
20歳・♂・ER

●リプレイ本文

●夢は眩く
 追走劇の幕開けより僅かに時を遡ろう――。
「わぁ〜! カシェル先輩カシェル先輩、遊園地ですよーっ!」
「うん、どう見ても遊園地だね」
 JLの入り口付近、腕を振り回して目を輝かせるヒイロとその隣で苦笑するカシェルの姿があった。
 既にテンションが上がりすぎてウズウズしているヒイロ。そこへ近づく能力者の一団が。
「っとと‥‥いやはや、凄い人ごみですな。きちんと合流出来て良かった」
 既に一際目立っているのは米本 剛(gb0843)で、持ち込んだ武者鎧にその身を包んでいる。続いてその隣をダンテ・トスターナ(gc4409)が手を振り歩いてくる。
「二人共お久しぶりッス! 元気にしてたッスか?」
「ダンテ君! ちゃんと修行してるですか!?」
 駆け寄るヒイロとハイタッチし、ダンテは『勿論ッスよ』と笑顔で応じる。そんな二人の様子を眺めるカシェルの肩を背後から叩いたのはイスネグ・サエレ(gc4810)で、南 十星(gc1722)、巳沢 涼(gc3648)も一緒である。
「初めましてカシェルさん、今日はよろしくお願いします」
「初めましてカシェル先輩、今日はよろしくな」
 ほぼ同時にイスネグと涼が声をかけるとカシェルは驚いた様子で挨拶に応じた。
「驚いたな。ヒイロちゃん、いつの間にこんなに知り合いが増えたの?」
「‥‥さ、さあ? ヒイロも今気づいてがくぷるがくぷるしているところなのです‥‥」
 ぷるぷるしているヒイロの視線の先、十星がにこりと微笑んだ。その笑顔に何故か恐怖を感じ取り、ヒイロは剛の背後に隠れた。
「あぁ、君は確かレコーダーの‥‥」
「ええ。無事に届いたようで何よりです。今日はよろしくお願いします」
 カシェルと挨拶を交わす十星。しかしヒイロはずっとぷるぷるし続けたままであった。
「‥‥ねえねえ、ダンテ君ダンテ君?」
 皆が挨拶を交わし軽く談笑している中、ヒイロはダンテの裾を引く。
「剛君って、ずっとあの格好だったですか?」
 あの格好というのは剛の武者鎧の事だろう。ちなみに実用品でもあるので傭兵が装備していてもおかしい事は何もないのだが‥‥。
「そういえば、俺が合流した時には既に‥‥」
「‥‥がくぷる」
「いや、似合ってるッスよ? あれ」
 しかしヒイロは剛の横顔を眺め、なにやら神妙な面持ちで震え続けるのであった。
「そういえば貸衣装なんかやってるんだな」
 道行く人々の格好を眺め涼が腕を組み言う。すると話の流れでそのまま衣装を借りる為にステージに移動する事になった。
 そうして楽しげに遊んでいる一団があれば、一人でJLをフラフラしている者達も居る。
 イベントステージ付近でポップコーンの売店を預かっているのは犬彦・ハルトゼーカー(gc3817)だ。かれこれ数時間ここで豆が弾けるのを眺め続けている。
「皆が楽しそうな中、何故あえてバイトかって? こまけぇこたぁいいんだよ!」
 誰も居ない場所に語りかける犬彦。子供達にポップコーンを売りさばき、爽やかな労働の汗を光らせている。
「俺にもポップコーンを一つ」
 声の聞こえた方に目を向けると上杉・浩一(ga8766)の姿があった。犬彦はその姿をじっと見つめ、肩を叩きポップコーンを差し出す。
「‥‥元気出せ? な?」
「別に元気だが‥‥」
「男が一人で遊園地でポップコーン買っても悪い事は何もあらへん! 胸を張るんや!」
 これはサービスと言ってポップコーンにバターをかける犬彦。やや腑に落ちない善意に浩一が固まっていると、新たな客が現れた。
「すいませ〜ん、私にも一つ〜」
 ほんわかした様子でラルス・フェルセン(ga5133)は言う。既に仮装済であり、彼は今オペラ座の怪人になりきっていた――表情以外は。
 仮装しているかしていないかで遊園地への『馴染み度』というか、『楽しんでる感』は大分違う。一人でも彼は十分満喫している様子だった。
 こうしてJLではそれぞれの楽しみ方で夢の時間が流れていく。だがそれは花火泥棒を追う声で徐々におかしな方向へと進んでいくのであった。

●追跡劇
「ぎにゃ〜!?」
 ヒイロがキメラのラリアットで吹っ飛び転がっていくのを眺め浩一は逸早く緊急事態の発生に感づく。
「‥‥この人ごみの中よく泥棒なんぞ‥‥キメラ?」
「おやおやー、元気ですねー?」
 ぽりぽりとポップコーンを齧るラルス。その脇を抜けじたばたと走り回るヒイロに近づいたのは犬彦だ。
「おい、そこの犬。遊園地だからって暴れるなや。ハメを外したくなるのはわからんでもないが、周りの迷惑っちゅーのが‥‥」
「ヒ、ヒイロは犬じゃなくて狼! わんこじゃなくてウルフです!」
「犬いいやろ、犬」
「明らかに犬より狼の方がかっこい――ぎにゃっ!?」
 どこからともなく取り出したブブゼラでヒイロの頭をどつき、犬彦は眉を潜めて言う。
「犬を馬鹿にすんなや犬!」
「犬じゃないですこの犬! がるるーっ!」
 何故か睨み合う犬のような二名。浩一は心の中で『どうしてこうなった』と繰り返し考えていた。
「‥‥って、それどころじゃないか。ヒイロさん、あれはキメラなんだな!?」
「がるるー‥‥? あ、悪の幹部‥‥一人ですか?」
「今は一人とかそういう問題じゃないだろ。キメラを追うぞ!」
 見れば筋肉質なキメラは騒いでいる間に三手に別れ逃走している。能力者も同じく三班に分かれ追撃を開始する事になった。
「おやおやー、こんなところにもー、キメラ、ですか〜?」
「そうらしいな。ヒイロさん、俺達はこっちを!」
「浩一さん、私もお供します」
 ラルスとイスネグを連れて浩一は人ごみの中に消えていく。それを見て犬彦もエプロンを脱ぎ捨て振り返る。
「しゃなあい、うちも手を貸したるわ」
「おいおい、あんた仕事はいいのかよ‥‥?」
「こまけぇこたぁいいんだよ! 行くで、涼!」
「涼さん、お知り合いですか?」
「そんなようなもんだ」
 続いて犬彦を先頭に涼と十星が追撃を開始する。それらを見送り剛は苦笑を浮かべ一言。
「やれやれ‥‥楽しむにはまだ早いですか」
「ヒイロ達も早く追いかけるですよう!」
 こうして偶然にも綺麗に分かれた彼らを暫定的にA班、B班、C班と呼称する。
 まずはA班。三人は人ごみを強引に掻き分け逃げるキメラを追跡していた。
「あの導火線、風で消せないかな‥‥!」
 超機械「扇嵐」を構えるイスネグ。風はぶわりとキメラを吹き付けるが、火は消える気配がない。
 しかもスカートを抑えるような仕草までしている。イスネグは顔に手を当て哀愁を漂わせた。
「物騒なものは困るんですよね」
 と、次の瞬間――。キメラに瞬天速で近づいたラルスは導火線を切断する事に成功した。
 その動作は優雅の一言であり、くるりと刃を手の中で回しマントを翻し笑顔を振りまいてみせる。
 するとそれに呼応して周囲からは拍手と歓声があがった。流石に人の目に触れないわけにはいかないが、客は緊急事態に気づいていない様子。
「成程、『そういう』筋書きですか」
 微笑むイスネグ。背後から駆け寄った浩一はキメラに飛びつき、その巨体を押し倒そうと試みる。
「走るのも、疲れるんだぞ‥‥!」
「おっと、これは返して頂きますよ」
 手の中からこぼれた火薬を受け取りラルスはそれをイスネグに投げ渡す。キメラは浩一を跳ね除けたが、既に不安要素は解決済みだ。
「――では改めて、ショーの開幕と行きましょうか」
 両腕を広げラルスが語る。それを合図に三人は戦闘を開始した。
 その頃B班は――。
「そこのマッスルカボチャさん、園内で走り回らないで下さーい、ついでに火薬も返せタコ!」
「あれがキメラか、めっちゃ強そうだぞ‥‥」
「そうですか? きみも中々強そうですよ」
 一昔前の番長のような格好の涼に十星が微笑む。妙に似合っているのが笑いを誘ったのかもしれない。
「なるべく広い場所に誘導したいですね」
 周囲を見渡し、十星が指差したのは噴水のある広場だった。勿論無人には程遠いが、僅かな広さが今は有り難い。
 周り込むようにしてそちらへ追い込みをかけると十星は制圧射撃で行動の阻害に出る。
「お、おい!? こんな往来でぶっ放して大丈夫か!?」
「いえ、接近戦は慣れていないので」
 しれっと答える十星と同じく遠慮なく攻撃に出たのは犬彦だ。仁王咆哮で完全に動きを封じ、その隙に導火線を切断する。
「ほれ、番長も!」
 火薬を奪って一度後退する犬彦。涼はボロボロの学生帽を被りなおし、釘バットを構えた。
「しょうがねえ、肉弾戦と行くか‥‥!」
 こうして往来の中、マッチョVS番長という謎のショーが開幕するのであった。
 一方C班。ダンテが逃走中のキメラを発見し仲間にそれを伝える。
「あんな所に居たッス!」
 見るとマッチョはぬいぐるみの売店の中にそれとなく混じっていた。一瞬気まずい空気が流れた後、カシェルが剣を構える。
「あれは‥‥どういうつもりなんだ」
「全然かわいくないです‥‥」
 固まるカシェルとぷるぷるするヒイロ。その二人の前に立ち、剛が頷く。
「さてヒイロさん、ちょっとした戦いの御勉強と行きましょうか」
「お勉強ですか?」
「何事も経験と申しますし、一緒に頑張りましょう」
「米本さんと俺等だと親子みたいッスね!」
 ダンテが肩を竦めつつ笑う。するとヒイロは目を輝かせ剛に飛びついた。
「パパ!」
 一瞬の間の後カシェルがヒイロを引っぺがし、四人はキメラへと向かった。流石にバレたと思ったのか、キメラも猛然と駆け寄ってくる。
「相手が向かってきたら速さで撹乱するか‥‥更なる力で圧倒するのです!」
 がしゃりとインフェルノを構える鎧武者。近づくキメラを見据え、斧を翻した。
「我流――四縛封!」
 四肢挫きが発動しキメラが動きを停止する。ちゃんと見ていたか振り返ってヒイロを確認すると‥‥。
「なるほど、さっぱりわかんないです!」
 頭の悪そうな笑顔で剛を見ていた。
「‥‥今のは斧の刃や柄で四肢を攻撃してですね」
「わう?」
 やはり頭の悪そうな笑顔であった。
「ヒイロに本物の狼って奴を見せてやるッス!」
 瞬天速で素早くキメラの背後に回りこむダンテ。その頭には犬のような耳が生え、気分はすっかり狼男である。
「花火を奪う悪党マッスルマン! 返して貰うッス!」
 導火線を切り落とし、ダンテはヒーローを演じありがちなポーズと共に声を上げた。それを見てヒイロは目を輝かせる。
「ダンテ君、かっこいーですーっ!」
「ほら、僕らも行くよヒイロちゃん!」
 こうしてC班も戦闘を開始する。それぞれの戦闘場所では人だかりが生まれ子供達の声援が飛び交った。
 仮装している事や遊園地の中という事が重なり、本物の戦闘ではなくショーの一部だと思われたのは不幸中の幸いだろう。
 実際キメラも見た目のわりには大した事もなく、それぞれ大きな怪我も無く無事に火薬の奪還に成功するのであった。が‥‥。
「このカボチャビルダーは何がしたかったんやろ‥‥? テロリズムなんか。かっこええな。まッ、後は火薬を持ってって‥‥あー時間あらん急がんと」
 倒れたマッスルを前に犬彦が時間を確認する。それほど手間取ったわけではないが、打ち上げの時間に間に合わないのでは全て水の泡だ。
「みなさーん! サプライズヒーローショーはお楽しみいただけましたか? それでは引き続きよい時間を」
 イスネグが周囲に手を振る中、ラルスと浩一も火薬を持って急いで打ち上げ場へと走り戻る。
「うわっと、あんまり時間ないッスね‥‥! 俺、先に火薬持って戻ってるッス!」
 倒れたキメラを踏みつけ高笑いするヒイロの横、ダンテはウインクを残してステージへ戻っていく。
 こうして三班それぞれの火薬がほぼ同時に打ち上げ場に戻り、傭兵達はほっと胸を撫で下ろすのであった。

●光瞬いて
「たーまやー」
 次々と打ち上げられる花火をステージ裏の特等席で見上げ犬彦が声を上げる。
 無事に予定通りに花火は夜空を明るく照らし、キメラも後はUPCに任せて問題ないだろう。一仕事終えた後の花火はまた格別だ。
「綺麗ですね〜。皆笑顔で居られて良かったです〜」
「ええ。折角の祭が台無しにならず本当に良かった」
 ラルスと肩を並べ剛が空を見上げる。涼は色々な意味で疲れた様子で帽子を脱いで苦笑していた。
「大変だったが‥‥ま、たまにはこういうのも悪かないな」
「皆さんお疲れ様でした。うん、本当に良かった」
 苦労を労うカシェルへ歩み寄り、十星は口元に手を当て微笑み言う。
「今日はヒイロさん、悪さはしませんでしたか?」
「ああ、うん‥‥。あれでかなり懲りたみたいだよ」
 腰に手を当て笑うカシェル。二人が談笑する背後、ヒイロは神妙な面持ちでイスネグを見ていた。
「イスネグ君、そのかぼちゃ‥‥さっきのおっさんたちみたいですよ?」
 無言でそれを脱ぎ捨てイスネグは空を見上げる。色々と切ない夜だったが、最後は鮮やかに飾れたので良しとしよう。
「ヒイロ先輩、乗りますか? よく見えますよ」
 ヒイロを肩車し、頭の上ではしゃぐヒイロと共に空を見上げるイスネグ。そこへ頭の後ろで手を組んだダンテが歩いてくる。
「あ、犬彦さん、ちょっといいッスか?」
「ん、なんや?」
「さっきそこでいかつい顔のおっさんが探してたッスよ? バイトどこ行った〜って」
 腕を組み、犬彦は青ざめた様子で俯いた。果たしてきちんとバイト代は支払われるのだろうか――?
「浩一君、きれーですよう! 見て見て!」
 イスネグの上で手を振り落ちそうになっているヒイロ。浩一は苦笑し、鮮やかな夢の空を見上げて呟いた。
「全く本当に――どうしてこうなったんだか」
 多くの人が空を見上げ、閃光の消え行く様に目を奪われている。
 守られた騒々しい夜の下、彼らの楽しい時間はまだまだ始まったばかりだ――。