タイトル:傀儡の残滓マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/18 08:55

●オープニング本文


●アホの子と共に
「というわけでヒイロ、ちょっとメリーベルと一緒にお出かけしてくれないか?」
 依頼から戻ってきたばかりのヒイロの所へやってきたのはデューイ・グラジオラス先輩であった。
 カシェルのベッドの上でゴロゴロしながらお菓子を食べていたヒイロは一瞬嫌そうな顔をするが、デューイはすっと何かを取り出して見せる。
「‥‥これが秘密のミッションのデータが入っているディスクだ。ヒイロ、君に是非参加して欲しい」
「!? 秘密のミッション‥‥だと‥‥!?」
「そうだ。これは一部の優秀な能力者にだけお願いしている仕事でな。正義の味方を目指すヒイロにはうってつけだ」
 指先をぺろぺろと舐めながらヒイロはコクコクと頷きディスクを受け取る。しかしその中身の見方が分らない。
「そう思ってこっちにプリントアウトしておいた」
「流石先輩です! う? じゃあこっちの秘密のディスクはどうするですか?」
「ああ、別にいらないから捨てて良い」
「そうですか! ‥‥あれ? う?」
 小首を傾げ頭上にクエスチョンマークを並べるヒイロ。デューイは間髪入れずに話を進める。
「実は先日、カシェルとメリーベルがとある強化人間を追っていてな。まあ、その成敗には成功したんだが、研究施設の残りがあってだ」
「ヒイロはそこを潰してくればいいですか?」
「話が早くて助かる。敵は多分大した事はないんだが‥‥ここだけの話、メルのヤツが情緒不安定でな」
 二人はこそこそと部屋の隅に移動すると、周囲を確認してから顔を近づけた。カシェルの私室なので他に人がいるはずもないが。
「メルは失踪した師匠を探していて、その師匠に関係がありそうな敵を相手にすると暴走しがちなのだ」
「そ、そんな秘密をサラっと暴露して良いですか!? がくぷる、がくぷる‥‥っ」
「いやいや、そこは期待のルーキーであるヒイロだからこそ話すんだ。他の傭兵には内緒だぞ?」
 その言葉でヒイロは目を輝かせ何度も激しく頭を振った。デューイは無言でサムズアップする。
「‥‥でだ。是非ヒイロにはメルの面倒を見てやって欲しい。あいつの事だ、ただのキメラ相手でも熱くなるかもしれん」
「まったくもー、メリーベルさんはすーぐ暴走するですねー? 困ったちゃんですようー」
 胸を張り、何故か偉そうな様子のヒイロ。しめしめという様子でデューイは身体を離した。
「というわけで、俺とカシェルは別件で仕事があるからこっちはお前とメルに任せる。くれぐれもメルから離れるなよ?」
「むふふ、最近ヒイロは色々な所で大活躍している予感がするのですようっ! 心配しなくても、メリーベルさんはヒイロがちゃんと面倒見るです!」
「そうかそうか、流石は俺が見込んだ後輩だぜ! はっはっはっは!」
「わふーっ! 泥舟に乗ったつもりで待ってるですよーう!」
「はっはっは! それを言うなら大船な、大船!」
 こうして二人は部屋の中で高笑いを続けるのであった――。

●憎しみを消して
「‥‥で? なんでヒイロちゃんがついてくるの?」
 既に覚醒状態で頭に生えた耳をぴこぴこさせながら自分を見上げるヒイロ。メリーベルはダラダラと冷や汗を流していた。
 先日の一戦、傭兵が教会の地下から持ち出したデータには彼の強化人間『セプテム』の行動記録も混じっていた。
 セプテムは各所に似たようなケースのアジトを所有しており、主を失った現在もそれらのアジトは健在、キメラが守りについているらしい事が分ったのである。
 更なる情報収集の為、そして不安要素の排除の為メリーベルは続いてそれらのアジト殲滅に乗り出した‥‥のだが。
「メルちゃん、安心するですよーう! ヒイロが一緒なら、正に鬼にカナブンです!」
「‥‥そ、そう。ヒイロ、貴女戦えたの?」
「ヒイロは戦えるですよー!? 犬じゃなくて狼ですし!」
「誰もそんなことは言っていない件について」
 暫くそんな不毛なやり取りが続く頃にはメリーベルの緊張はすっかりほぐれてしまっていた。
 脳裏をジリジリと焦がすような敵意や殺意は薄まり、ほんわかとした様子のヒイロにすっかり毒されてしまっている。
「‥‥あのおっさん、狙ったな」
「う? どうかしたですか、メルちゃん?」
「別に‥‥。ヒイロ、出発の前にちゃんと準備してね」
 腕を組んだままメリーベルは歩いていく。ヒイロは小首をかしげ、ちょこちょことその後に続くのであった。

●参加者一覧

崔 南斗(ga4407
36歳・♂・JG
上杉・浩一(ga8766
40歳・♂・AA
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD
巳沢 涼(gc3648
23歳・♂・HD
犬彦・ハルトゼーカー(gc3817
18歳・♀・GD
エメルト・ヴェンツェル(gc4185
25歳・♂・DF
那月 ケイ(gc4469
24歳・♂・GD
イスネグ・サエレ(gc4810
20歳・♂・ER

●リプレイ本文

●晴天
「――全く、厄介な物を残してくれたな‥‥」
 良く晴れた静かな午後の事であった。依頼を受けた傭兵達は件の廃村の入り口付近に立ち、準備を進めている。
 ガトリング砲にペイント弾をセットしつつ呟いた崔 南斗(ga4407)はこの景色にどこか既視感を覚えていた。
 先日討伐された強化人間セプテム。今回の戦いは謂わばその後始末である。
「一刻も早くアジトへ行きたいだろうが、周りのキメラが厄介だ。掃討を済ませてからにしてくれ」
 隣で槍を片手に廃墟を見下ろすメリーベルへ南斗は声をかける。少女は目を瞑り静かに答えた。
「言われなくても分ってる。皆お節介なんだから」
 肩を竦めて皮肉を語る少女。南斗は苦笑を浮かべ自分の準備へと戻った。
「キメラ退治と情報収集か。それよりももっと面倒そうな事がありそうだな」
 二人の会話を横目に上杉・浩一(ga8766)が呟く。振り返ると即席で火炎瓶を作っている巳沢 涼(gc3648)の作業をヒイロが邪魔していた。
「ヒイロちゃん、クモの糸見っけたら触るなよ? 危ないからな」
「わかったです! それで、何してるですか? 何してるですか?」
「ちょ‥‥ちょっと離れてくれるか?」
 作業中にひっついてくるヒイロを引っぺがす涼。那月 ケイ(gc4469)はその様子に苦笑を浮かべ呟く。
「強化人間の情報が欲しくて受けたのはいいけど、こりゃ簡単に終わっちゃくれないかもなぁ」
 そこへ近づいてきたのは既に準備万端のエメルト・ヴェンツェル(gc4185)だ。彼もまた歩く心配要素達を眺め複雑な様子である。
「那月さん、サイエンティストになっての初仕事ですね。後方支援、よろしくお願いします」
「ああ、こっちこそ宜しくなルトさん。頼りにさせてもらうよ」
 軽く談笑する二人の視線の先、イスネグ・サエレ(gc4810)がヒイロに近づいていく。
「ヒイロ先輩! 最近活躍してるなぁ! 今日もバシッと決めてな〜」
「イスネグ君! ヒイロ、頑張ってるですよ!」
 そのままヒイロは何故かイスネグによじ登り、肩車させていた。以前してもらって気に入ったのだろうか。二人はそのまま暫く楽しげに走り回っている。
「‥‥ルトさん、俺何か心配になってきたよ」
「ええ‥‥自分もです。天真爛漫なのは、いい事だと思いますが‥‥」
 冷や汗を流す二人の視線の先、ヒイロはイスネグの上から落下してへこたれていた。
「メリーベルさんとは初見でしたな。初めまして、今回は宜しくお願いします」
「ん、こちらこそ」
 米本 剛(gb0843)はメリーベルと挨拶を交わし、相変わらずな様子のヒイロに気を引き締めている。
 普段から油断等してはいないのだが、今回は残忍な強化人間の根城に踏み込むのだ。あの天真爛漫さが仇とならない事を祈るばかりである。
「お近づきのしるしにLH饅頭もって来ました。よかったらどうぞー‥‥ってメリーベルさんもLHの人だったんだな、これが」
 何故かいつも初見の相手に饅頭を持ち寄るイスネグ。メリーベルはジト目でそれを受け取るが、横からヒイロが饅頭を掻っ攫っていく。
「はむはむ、はむはむ‥‥っ」
「あ、先輩が横から‥‥」
 こうして順調に準備が進み作戦開始と相成った。が、その間犬彦・ハルトゼーカー(gc3817)はというと――。
「あの犬耳‥‥確かどっかで‥‥うーむ」
 ヒイロを思い出そうと頑張っていた。

●掃討
「さて、鬼が出るか蛇が出るか‥‥」
 廃墟に立ち入るとその静けさの中に溶け込むようにしてマネキンが立って居るのが見えた。
 斧を構える剛が神妙な面持ちで呟くのだが、その背後ではヒイロを思い出した犬彦がヒイロと向かい合っていた。
「そこの犬、危ないからお家に帰りや‥‥え、能力者なん? ごめん忘れとったわ」
「がるるー! ヒイロは犬じゃなくて狼です!」
「あー、もう少し大きくなったら狼になれるかもしれへんな、よしよし」
 ヒイロと犬彦のやり取りに呆れたように溜息を漏らす一同。その後も暫く犬彦はヒイロをあしらっていたが、その声に釣られてかマネキンが集まってきてしまう。
「ほら、犬の所為で集まってきとるわ」
 息を吐き、犬彦は拳銃を構える。制圧射撃でマネキン達の動きを止めるが、次から次へと集まってくる。
「数が多すぎるでほんまに。一々相手してたら日が暮れてまうわ」
「まったく、同感だぜ」
 近づくマネキンをリンクスクローで引き裂き涼が苦笑する。そこへ近づくマネキンをケイが放った黒い光が吹き飛ばす。
「ほんと、これは多いな。フォローするからばしばし頼むよ、涼さん」
 エメルトと浩一が近づいてくるマネキンを次々に撃退する中、そこへ混じってヒイロも敵を殴りにかかる。
「!? 殴ったら意外とあっさり倒せたです。ヒイロ、強くなってるですか!」
「流石はヒイロ先輩ですね!」
 はしゃいでいるヒイロの背後から近づく敵をシャドウオーブで撃破し、イスネグが笑う。実は先程ヒイロが倒したのはエメルトが弱らせた固体だったのだがそれは内緒だ。
「ふむ、粗方片付きましたかな?」
 斧を下ろし剛が一息つく頃には近辺のマネキンは全滅していた。浩一は首を鳴らしながら一言。
「一気にくると流石にしんどいな。次からは2、3体ずつ誘き出して片付けよう」
「賛成‥‥ちょっとめんどくさい」
 メリーベルもそれに同意し溜息を一つ。こうして傭兵達は村全体を練り歩くようにして敵の掃討を開始した。
 物音に敏感なマリオネットに石を投げ浩一が誘い出し、少しずつ敵を撃破していく。時間はかかるが消耗は少なくて済む。
 こうして順調に敵を掃討、能力者達は教会へと向かうのであった。

●主無き場所で
「‥‥さて、残ったのはここだけか」
 セプテムの根城の一つであったらしい教会。南斗はそれを見上げメリーベルを見やる。
「安心して。別に一人で突っ込んだりしないから」
「‥‥そうか。さて、行くとしよう」
 扉を開き、南斗はガトリング砲を構える。中には数体のマリオネットも居たがお構い無しに引き金を引いた。
 嵐のように吐き出される弾丸は全てがペイント弾であり、それは敵を狙った物ではない。彼が銃口を上げる頃には教会内に張り巡らされていた『罠』がその正体を露にする。
 虚空についた色は全てこの教会に張り巡らされた蜘蛛の糸である。南斗は武器を持ち替えながら成果に頷く。
「那月君、君のアイデアは実に有効だったようだな。流石若い人は発想が柔軟だ」
「しかしこれだけ糸が張ってあるとはね‥‥」
 苦笑するケイの正面、まともにこの人数で戦闘出来るようなスペースはないように見える。しかしエメルトは前に出て糸をいくつか両断する。
「見えているのなら排除すればいいだけです。さあ、行きましょう」
 エメルトに続き教会内で戦闘を開始する傭兵達。しかしヒイロは入り口の所で耳をぴこぴこさせていた。
「先輩、何してるんですか?」
「え? ヒイロおっきい音が苦手なのですよぅ」
 イスネグの問いかけにヒイロはひょこひょこついてくる。『ペイント弾でも当たったら痛い』という南斗の言葉にビビっていたらしい。
 マリオネットの排除が完了し、南斗は地下へ続く階段を見やる。
「やはり、ここか‥‥」
「余程薄暗い所が好きみたいね、あの根暗女」
 歯軋りし、扉を蹴破るメリーベル。やはり糸を警戒しながら地下へと全員で進んでいくと、やはり研究施設へ行き着いた。
 暫く使われていないのか形容し難い死の匂いはしなかった物の、どちらにせよ衛生的な環境とは言い難い。
「へきちっ! ふえーきちっ!」
 埃にくしゃみが止まらないヒイロ。その声は狭い通路に響き渡り、それに反応するように別の音が近づいてくる。
「ヒイロちゃん静かに! 何か来るぞ!」
 涼の声で静まる一同。闇の中から姿を現したのは狭い通路に八本の足を突き刺すようにして移動して来る大蜘蛛の姿であった。
「皆さん下がって! ぬん!」
 近づいてくる蜘蛛を受け止め剛が叫ぶ。流石に場所が悪いので階段を上がって地上に出ると、剛に続いてキメラが狭い出入り口を砕いて飛び出してくる。
「こいつアレやろ? スト‥‥リングス‥‥。ストリングスべーた?」
 銃を構え言い辛そうな犬彦。吼えるキメラに照準を合わせ、掛け声を一つ。
「犬彦スーパーショォッット――!」
 蜘蛛の上半身部分に弾丸が命中、動きが止まった。ついでに傭兵達の空気も止まった。
「誰かつっこんでや! アホみたいやん!」
 犬彦の悲痛な叫びが響く中、傭兵達は攻撃を開始する。
「受け止めて私の思い! なんてね」
 練成超強化を施しながらイスネグもそんな事を言い出す。何故か犬彦と二人で分かり合った様子だ。
「ていうか実際みんなアホ」
 呟きながらメリーベルはキメラに槍を突き刺し、引き抜くと同時に蹴りを放つ。よろけた所へエメルトが滑り込み、擦れ違い様に足を一本奪っていく。
「全く、悪趣味な。枕元に現れないといいのですが」
 敵が傾いた所へケイとイスネグが同時にシャドウオーブから光を放つ。攻撃の直撃に悲鳴を上げるキメラ、そこへ剛が畳み掛ける。
「いざ‥‥流斧刃!」
 インフェルノの刃が深くキメラを引き裂く。敵は苦し紛れに放電してみせるが媒介となる糸がないので射程は極端に短い。
「那月さんのアイデアのお陰だな。さて、遠慮すんなよ。こいつは俺の奢りだ!」
 涼が火炎瓶を投げつけるとキメラの上半身が燃焼し始める。仲間が攻撃を続ける中、南斗は銃に貫通弾を装填し構える。
「悪いが――ここで立ち止まっている暇はないんでな」
 放たれた弾丸は真っ直ぐにキメラの胸を穿つ。止めの一撃に大蜘蛛は断末魔の声を上げ、十字架の前に頭を垂れるのであった。

●それぞれの次へ
「――那月さん、一人で何をしているんですか?」
 背後から急に声をかけられケイは手にしていた書類を落としそうになる。振り返るとそこにはエメルトの姿があった。
「な、なんだルトさんか。いや‥‥ちょっと個人的な調べ物でね」
 戦闘終了後、地下へ続く道を塞いでいた幾つかの瓦礫を取り除き調査が開始された。
 ケイにとっての目的は掃討そのものよりこの調べ物にあった。強化人間についての新しい情報、それが見つかれば御の字だったのだが‥‥。
「しかし、胸糞悪くなるような記録ばっかりだ。役立つような物は無いし、気が滅入るよ」
 埃の積もったデスクの上に腰掛けケイは項垂れる。強化人間を救いたいと考える彼だったが、ここでの実験は余りにも非道すぎた。
「‥‥自分もお手伝いしましょう」
「いや、これは俺の個人的な‥‥」
 しかしエメルトは既に書類を手に取っている。その横顔に小さく感謝の言葉を告げ、ケイは探索を再開するのであった。

「研究施設や言うぐらいやし、敵さんの役立つ情報満載なんかと思いきや‥‥案外こざっぱりしとるな」
 肩を竦め、古びたベッドが並ぶ部屋で犬彦は呟いた。長期間使われていないらしいこの場所に大きな手がかりは残っていないだろう。
 犬彦の視線の先、部屋の中を漁るメリーベルの姿があった。熱心にあちこちひっくり返しているが、やはり成果はない。
「サイエンティストだの科学者だの連中はマッドな変人ばっかりやん。うちみたいな常識人を見習ってほしいわ、ほんまに」
「あなたが常識人なら、この世の人間の九割は常識人ね」
 そんな皮肉な返答に犬彦は苦笑し、部屋を去っていく。メリーベルもこの様子なら思いつめたり暴走したりはしないだろう。
「メリーベル、こっちはどうだ?」
 入れ違いにやって来た南斗に首を横に振るメリーベル。どうやら大方調べつくしてしまったようだ。
「ねえ、あなた‥‥どうしてそんなに一生懸命なの?」
 ベッドの上に座り少女は問いかける。南斗は少し考え込み、それから目を瞑り答えた。
「煙草が吸いたいから――かもな。このままだと、禁煙に成功してしまいそうだ」

 こうして調査も終了し、傭兵達は教会の外に出た。イスネグと剛の姿が見えずケイが首を傾げていると、涼がやってきて一言。
「あの二人はヒイロちゃんについてる。地下でグロいもん見ちまって今裏で吐いてるよ‥‥」
「そ、そうか‥‥。確かにちょっとキツかったかもな」
 『自分も様子を見てきます』と走っていくエメルト。それを見送りメリーベルは空を見上げた。
「憎悪も憎しみも忘れてはいかん。忘れただけではふと思い出した時、もっと辛い事が起きる事がある」
 気づけばメリーベルの隣に浩一が座っていた。高台にある教会からは寂しい村が一望出来る。
「復讐やらも結構、憎しみも当然人にはある感情だ。それを悪いとは思わん」
 腕を組み、メリーベルは目を瞑る。
「大切なのは取捨選択。それよりも大事な物があればその為に余計な憎悪、憎しみを捨てる事ができるだろうさ」
「何? お説教でもしているつもり?」
 ゆっくりと立ち上がる浩一。少女は寂しげに微笑む。
「私にはもう、大切な物なんて何も無いわ」
「それは必ず有る」
「自信満々ね」
 浩一は少女の肩を叩き背後を指差す。そこには具合の悪そうなヒイロを背負う剛を初めとした傭兵達の姿があった。
「大切に思えるかどうかは、自分次第だな」
 こうしてキメラの討伐作戦は無事終わった。崩れかけた教会も、この村にも、ようやく静寂が訪れるだろう。
 引き上げる傭兵達に続きメリーベルは振り返った。彼らから受け取った幾つかの言葉を思い返すかのように。
 夕闇が過ぎれば夜の帳が下りるだろう。いくつかの悲しい思い出達の上にも、それは例外なく――。