●リプレイ本文
●いざ出陣
そんなわけで、怪しさ爆発の依頼を引き受けた傭兵達は現場に到着。これより班分けを行い殲滅を開始する事になった。
「集中集中‥‥よし! ヒイロさん、改めて宜しく!」
と、ヒイロと握手を交わしているのはティナ・アブソリュート(
gc4189)だ。
ちなみに既に移動中にヒイロと張 天莉(
gc3344)の雑談に混じっていたりしたのだが、文字通り改めて、である。
「こちらこそ宜しくなのですよ、ティナちゃん!」
やけにテンションの高いヒイロだが、道中何やら天莉とDVDの話で盛り上がっていた影響かもしれない。
そんなヒイロの背後に忍び寄り、彼女の犬耳を掴んだのは永遠の十七歳こと福山 珠洲(
gc4526)だ。
「ふにふに‥‥落ち着くわねー」
「珠洲ちゃん、何故いつもヒイロの耳を‥‥というか、何故メイド服ですか?」
ぷるぷるしながら振り返るヒイロの背後、珠洲は何故かメイド服着用だった。普通に着てきたので誰もツッコめなかった代物だ。
「ただのメイド服です、他意はありませんよ?」
ヒイロは口元に手を当て、珠洲と天莉を交互に見やりながら冷や汗を流していた。
「そもそも、この依頼ってULT通してるのかな? 妙に情報が少なかったり、そもそも依頼人が怪しかったりで怪しさ爆発って感じだね」
無人の街を眺めながらユリア・ミフィーラル(
gc4963)が呟く。その隣で上杉・浩一(
ga8766)はぼんやりと腕を組んでいた。
「不安要素は多々あるが‥‥いつもの事か」
情報の出揃わない依頼は特に珍しくもない。新しい力を手に入れても浩一の落ち着いた様子は変わらないようだ。
「ヒイロちゃんは強いな‥‥俺なんかよりずっと」
天莉に『男の子ですよね?』と意味不明な質問をしているヒイロを眺め、巳沢 涼(
gc3648)は浮かない様子で呟いた。
涼は以前の戦いでの事をまだ振り切れずに居た。ヒイロの祖母が命を落とした戦い、その責任は決して一人にあるものではないのだが‥‥。
「俺は単独で遊撃に当たらせてもらう。気になる事もあるしな」
一人で仲間に背を向ける須佐 武流(
ga1461)。しかし直ぐにその足は止まった。見ればヒイロが足にしがみ付いている。
「武流君‥‥! ヒイロは武流君の友達なのですよ! 何故一人になりたがるですか!?」
真剣な様子のヒイロを見下ろし困った様子の武流。片足を軽く振るが、中々はがれない。
「友達と一緒に仲良く! 仲良く‥‥浩一君何をするですか!? 武流君! 武流くーん!」
何とも言えない表情でヒイロを剥がし引きずって行く浩一。武流はその隙にその場を後にした。
そんなわけで班分けが行われ、殲滅が始まったりしたそうです。
●いい仕事
「実に興味深い生態だわ!」
と、ビルの壁に生えた植物キメラを見るなり叫んだのは茅ヶ崎 ニア(
gc6296)だ。今まで静かだったので急な発言にヒイロがびくりとしている。
「種を飛ばしたりはしないのかしら? 移動せずにどうやって栄養摂取してるのかなー」
こちらは第一班の四名。ニアは瞳を輝かせながらふらふらとキメラに接近している。
「お、おい‥‥あんまり不用意に近づくと‥‥」
片手を伸ばし制止する涼。直後ニアの身体をキメラの触手が捉え、持ち上げていく。
「おぉ! こうやって捕まえた獲物を――」
「ぎにゃー!? ニアちゃんが食べられてる!?」
「茅ヶ崎さん!? 言わんこっちゃない!」
上半身にばっくりと食いつかれるニア。足が何やらじたばたしているのが空しい。
次の瞬間、素早く壁を蹴ってキメラまで到達したティナが斬撃を放った。ニアを回収し、華麗に着地する。
「大丈夫ですか? 何が起こるか分りませんし、ここは慎重に‥‥」
振り返るティナの視線の先、今度はヒイロが別のキメラに食べられていた。
慌てて涼が救出して戻ってくると、ニアとヒイロはティナにひとしきり注意を受け、気を取り直し殲滅を再開する。
「知的好奇心が先行しすぎたけど‥‥もう目が覚めたわ」
上半身がべとべとになったからか、ニアも冷静さを取り戻したようで、植物キメラの殲滅は順調に進んでいく。
涼の提案で倒したキメラの根も焼き払っていく事になり、倒しては燃やし倒しては燃やしを繰り返していく。
ヒイロもティナの要領を真似て二人が壁のキメラを排除し、ニアもベタベタの恨みを晴らすかのように小銃を連射する。
「しかし、数が多いな‥‥」
キメラを燃やし額の汗を拭って涼が呟く。キメラの強さは大した事はないのだが‥‥手間と時間は随分とかかりそうだ。
「この辺りの殲滅は完了かな?」
銃を下ろし周囲を見渡すユリア。こちら第二班は浩一の運転するジーザリオを足に手広い範囲を殲滅中だ。
ある程度の近辺の殲滅が終わると車で移動し、降りてまた殲滅の繰り返しである。戦場が広いだけに車両は有り難い。
再び車に乗り込んだ四人は移動を開始。正面に甲虫のキメラを発見し足を止める。
「さて、やられる前にやるとするか」
刀を手に走り出す浩一。彼が向かう固体とは別に、角を向けて突っ込んで来るキメラが一体。その前には天莉が立ち塞がる。
向かってくるキメラを蹴り上げ、腹を露呈させる天莉。強固な外殻は厄介なので、脆い内側を狙うのは効果的なのだが‥‥。
「‥‥ちょっと、キモいですね」
蹴り上げるのは彼なので間近で見てしまうのも彼なのだ。そこへユリアの放つ銃弾が命中し、続けて珠洲が釘バットを叩き付ける。
何故あえて釘バットなのかわからないが、完全にひっくり返ったキメラをバットで叩きまくる珠洲さんは上機嫌そうなので良しとしよう。
一方浩一はキメラの上に飛び乗るようにして羽の合間に刃を突き立てていた。そこは言わば外殻の隙間、敵の弱点である。
突き立てた刃を振るい、内側から甲虫を引き裂いて浩一はキメラから飛び退く。刃についた体液を振るい、新しい力の手応えを感じているようだ。
こちらの班も順調にキメラを排除し、特に被害も無く進行していく。飛行してくる甲虫もユリアの射撃に加え天莉が跳躍して蹴り飛ばし、順調に対応していく。
「段々調子が出てきた‥‥今ならキメラも打ち返せる気がする」
「え‥‥と、打ち返すの?」
『目指すはホームランだ!』とか言いながらメイド服で素振りを繰り返し、珠洲はバットの先を空に向ける。白い歯を見せ笑う珠洲にユリアは苦笑を一つ。
「いや、あたしも別に止めはしないけどさー」
基本的に面白ければそれでいい性格のユリアだが、突っ込んで来る甲虫のパワーは中々だ。危険な気もする。
「珠洲さん、ホームランは難しいと思いますよ」
二人の間に天莉が割り込み、真剣な様子で口を開く。うんうんと頷くユリアの隣、天莉は拳を握り締め言った。
「バットに釘がついていたらボールは飛びませんし、そもそもどこまで飛べばホームランなんですか?」
「あ、そっちなんだ‥‥」
『あの辺かしら〜』と遠くを指差す珠洲。浩一は車に乗り込み、そんな三人に手招きするのであった。
●イレギュラー
「――こんな所で何をしている」
二つの班が順調にキメラを排除していた頃。街の中心にある高いビルの屋上に武流は立っていた。
彼の視線の先には黒いマントを羽織った男が貯水タンクの上に腰掛けており、男の視線は遠く地上の傭兵達へ向けられているようだ。
「そりゃお互い様だろ? てめえこそ一人で何してんだ。依頼内容はキメラの殲滅だろ」
男は双眼鏡を下ろすと武流の傍に降り立った。顔は目深に被ったフードで隠れており、腰に長い刀を差している。
「依頼を受けた他のチーム‥‥という訳では無さそうだな」
別行動をしていた武流だが、彼は他のチームとは遭遇しなかった。広い街とは言え、他に戦っている人間が居る気配も無い。
「やれやれ、てめえみたいなのが混じってるのは予想外だったな‥‥面倒だ」
男がそう呟いた直後、一瞬武流はその姿を見失った。何らかの能力で背後に回り混み、刃を抜いた事に気付けたのは彼の反射能力に由る所が大きい。
居合いの要領で繰り出された背後からの一閃を回避し、武流は一度間を置く。男は刃を鞘に納め、感心した様に笑った。
「避けんなよ」
「聞けない相談だ」
短いやり取りの後、再び攻防が始まった。二人は目にも留まらぬ速さで攻撃を繰り返し、同じくそれをかわしていく。
何とか仲間に連絡をつけたい武流だが、相手に隙が無くそれも難しい。油断をすれば直ぐに命を奪いに来るだろう。
「惜しいな‥‥実に惜しい。てめえも他の傭兵と仲良く一緒に居ればこんな事にはならなかったのによ」
眉を潜める武流へ男は駆け寄ってくる。二人は誰にも知られぬその場所にて互いに望まぬ戦いを強いられる事になった。
「ふぎゃうっ!?」
遠距離からの突然の攻撃でヒイロが派手に吹っ飛んだのは正にそんな頃であった。
「何だ、どこからの攻撃だ!?」
ヒイロに駆け寄る涼に再び閃光が飛来する。盾でヒイロを庇いながら涼は敵の姿を捉えていた。
廃ビルの窓から飛び降りた人影は弓のような武器を構え、こちらにそれを向けている。連続で放たれた攻撃からヒイロを守りつつ涼が声を上げた。
「ヒイロちゃんしっかりしろ! ティナさん、皆に連絡を!」
「さっきからしてるんですが‥‥須佐さんの応答が無いんです」
「こっちこっち! そこにいると狙い撃ちになる!」
ビルの中に駆け込みながら手を振るニア。涼は盾で攻撃を防ぎつつヒイロを連れてビルの中へ走っていく。
「とりあえず上杉さん達には連絡しましたが‥‥」
三人ともこの依頼の怪しさは重々承知であり、周囲への警戒は怠っていなかった。それでも気付けず奇襲を許したという所に何か引っかかる物を覚える。
しかし考えている余裕はない。敵は弓から拳銃へ持ち替えビルの中へと追ってきたのだ。
「ちょっと、レディに名乗らないなんて失礼じゃない!?」
叫ぶニアの声も聞かず敵は銃を撃ちながら近づいてくる。ティナは銃弾を左右に移動し回避し、壁を蹴って敵へと接近して行く。
銃弾は途中まで回避出来たのだが、ティナが莫邪宝剣で斬りかかろうとした瞬間、敵は銃口を下へ傾けた。
銃声が一発、二発――。床に命中し足元で兆弾してきた攻撃が避けきれずティナの足を止める。しかし追撃は間に割り込んだ涼が敵を弾き飛ばす事で阻止された。
「二人とも下がって!」
ニアが銃を連射し敵を寄せ付けない間に足を怪我したティナを連れて涼が後退する。
涼が盾になり、ティナも小銃に持ち替え銃撃戦の様相になる。そこへ別行動中だった仲間が合流した。
「これは、どうなって‥‥」
ジーザリオで急行してきた浩一が車を停めるが、敵は弓に持ち替えて問答無用に攻撃してくる。車の陰に隠れ、別働隊も一先ずヒイロ達の無事を確認したようだ。
「あたしたちは依頼でキメラの殲滅に来た傭兵で‥‥うわっ!?」
身を乗り出して叫ぶユリアだが、全く話を聞く気配が無い。
「これも訓練の一部なんでしょうか‥‥?」
「そんな生易しい感じの攻撃じゃなさそうだけど〜‥‥」
顔を見合わせる天莉と珠洲。ユリアは車体に身体を隠しつつ、射撃で応戦する。
「何で攻撃してくるのかな‥‥わかってて仕掛けて来るなら、応戦するしかないんだけど‥‥!」
そうして暫く拮抗状態が続くと、唐突に攻撃が止んだ。車体の陰で首を傾げる四人、そこへ何かが放り込まれた。
「あらあら〜」
「閃光手榴だ‥‥!?」
ユリアが呟いた直後、眩い光が四人を包み込んだ。続けて攻撃が来るかと身構えるが、気付けば先程まで居た敵の姿は見当たらない。
「なんだったの、あれ‥‥」
深々と溜息を漏らすユリア。こうして脅威は去り、二つの班は何とか合流を果たすのであった。
●謎
「はい、手当て終わりっと」
「わふ‥‥ユリアちゃん、ありがとーなのです」
謎の脅威が去った後、傭兵達は更に周囲を警戒していたが、どうやら敵はもう居ないという結論に達した。
ユリアに治療してもらったヒイロも既に元気なようで、特に被害があったというわけでもないのだが‥‥。
「ふむ‥‥俺のジーザリオが‥‥」
壁代わりにしたジーザリオが少しかわいそうな事になっているが、全員無事だったので一先ず良しとする事にした。
「しかし一体なんだったんだ、ありゃ」
「ヒイロさんが狙われたんでしょうか? 何とも言えませんけど‥‥」
苛立った様子の涼にティナが声をかける。以前の依頼の事もあり、涼はヒイロを守りたいという気持ちは人一倍強いのだ。
今回は無事だったから良かったが、何故ヒイロばかり狙われるのかと理不尽に感じる部分もあるのだろう。
「なんというか〜、聞く耳持たずって感じでしたね〜‥‥」
「怪しい所だらけでどこから突っ込んだものか‥‥って、須佐さんが帰ってきた」
ニアの言葉に全員の視線が集中する。武流は全員の無事を確認し、腕を組み小さく息を吐いた。
「武流君、無事だったですか!」
「連絡がつかなくなって心配したんですよ?」
飛びつくヒイロとほっとした様子で歩み寄るティナ。武流は自分もまた謎の敵と遭遇し戦っていた事を伝えた。
あれから武流と謎の剣士は互角の戦いを繰り広げた。向こうは直ぐに武流を倒すつもりだったようだが、そう簡単には終わらず戦いは長引いていった。
結局倒す事を諦めたのか、剣士は捨てセリフを吐いて逃げていった。その逃げ足もまた一級品という所だろうか。
「武流君、一人で敵を抑えてくれてたですか‥‥!? 大丈夫ですか? 怪我はないですか!?」
「まあ、かすり傷程度だ」
「ヒイロがぺろぺろしたほうがいいですかね!?」
「それはやめてくれ‥‥」
接近するヒイロの頭を掴んで動きを止める武流。何はともあれ全員無事で何より、という事になった。
「依頼人を問い正してやりたいけど、どうせしらばっくれるんだろうし‥‥それよりキメラの粘液でベタベタ。早くお風呂入りたいわ‥‥」
「とりあえず依頼内容は果たしたんだ、今回は大人しく引くしかないか」
うんざりした様子のニアに涼が続けて呟く。こうして撤退の準備が進む中、浩一は一人街を振り返り物思いに耽っていた。
「ふむ‥‥色々と面倒な」
色々と不審な依頼だった。そしてその不穏が晴れたわけではない以上、これからも続く可能性はある。
溜息を漏らす浩一の背後、ヒイロが武流によじ登ろうとしていた。一人頷き、浩一もジーザリオへと歩いていく。
こうして胸に僅かなしこりを残したまま、傭兵達はこの街を後にするのであった。