タイトル:停滞の戦場マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/23 11:38

●オープニング本文


「逃げ腰になる気分も分らなくはないが、何か引っかかる」
 岩陰に腰を落とした軍服姿の女は双眼鏡を下ろしながらそう呟いた。
 先の北京開放の一戦以降も中国では各地で戦闘が続いている。人類側に有利な流れが生まれたのは勿論だが、戦いが終わったわけではない。
 拡大した戦闘エリアの中を転戦する彼女の率いる小隊もまた、この緩やかな勝利後の戦場で戦いを続けていた。
「引っかかる、ですか? 自分には、ただの撤退する敵輸送部隊にしか見えませんが‥‥」
 女の隣、同じく双眼鏡を覗き込んでいた兵士が首を擡げる。二人の視線の先には荒野をゆっくりと進む幾つかの輸送車両の姿があった。
「だろうな。私にもそのようにしか見えん」
「健気に偽装して頑張って逃げてるただの小規模な補給部隊ですよ。というか九頭龍中尉、偵察に小隊長が出てこないで下さい」
「君は実にフランクに上官に意見するのだな」
「そうしろという上官の命令を守っているだけであります」
 九頭龍と呼ばれた背の高い女は部下の頭をわしわしと撫で回し、双眼鏡を引っ手繰る。
「忠実な部下を持って私は幸せだ。所で、以前もこのような補給部隊と遭遇した事があったな」
「記憶に新しいですね。最近多いですよ、逃げてく連中。別に珍しくもないのでは?」
「あの車両、人間が運転しているように見える。護衛はゴーレムだが」
「‥‥そうですね。まあそんな事もあるのでは?」
 二人がそうして小声で話している間にも車両は進んでいく。女は何も持たない手を部下へ差し出し、一言。
「通信機を貸してくれ」
「‥‥何か余計な事考えてませんか? 我々の任務は輸送物資の護送ですよ。無理にドンパチする必要ないですって」
「その通りだ。だが気になるのでな。私一人で奴らに仕掛けてみる。小隊戦力は予定通りのルートを通り、護送を完了してくれ」
 それだけ告げて引き返そうとする隊長に飛びつき、隊員は慌てて引き止めにかかる。
「何馬鹿な事言ってるんですか、止めて下さい! 任務が滅茶苦茶になる!」
「君は私の話を聞いていなかったのか? 君達は予定通りのルートを通り‥‥」
「聞いてますよアホですか! 隊長一人で行って万が一やられたらどうするんですか!?」
 女は腕を組み、『その可能性は考えていなかった』という顔で空を見上げている。
「‥‥そこまで言うなら増援を要請しましょう」
「近場に友軍がいるとは聞いていないが。それに私の勘だぞ」
「‥‥隊長、ULTって知ってますか?」
 通信機を片手にあえて馬鹿にするかのように隊員が言う。女は掌を拳でポンと叩き、頷いた。
「輸送物資護送中に敵と遭遇した、救助求む‥‥みたいな感じにしよう」
「感じってなんですか、感じって――」
 真顔で提案してくる上官。青年は深々と溜息を漏らし、通信機のスイッチを入れた。

●参加者一覧

地堂球基(ga1094
25歳・♂・ER
エヴリン・フィル(gc1479
17歳・♀・ER
功刀 元(gc2818
17歳・♂・HD
リック・オルコット(gc4548
20歳・♂・HD
追儺(gc5241
24歳・♂・PN
ベルティーユ・ロワリエ(gc6499
14歳・♀・DG

●リプレイ本文

●荒野を往く
「お、見えた見えた‥‥っと、もう始まっているのか」
 人の気配は愚か草木の姿すら見えない荒野の中、追儺(gc5241)を乗せたシラヌイ改、『鬼切』が突き進んでいる。
 小隊からの連絡を受けて現場に急行した傭兵達。突然の連絡に文句一つ言わず駆けつける彼らの視線の先では既に戦闘が始まっていた。
「やれやれ、何というか‥‥気が早いね。予想通り、突っ込みすぎというか」
 追儺のシラヌイ改の隣を進んでくる地堂球基(ga1094)は明らかに劣勢な玲子のフェニックスを見て苦笑を一つ。
「タロスやらジハイド相手にするよりは楽な仕事さ。予定通り行くぞ」
「即席の連携で上手く行くでしょうか‥‥?」
 追儺、球基とは別方向から接近するのはリック・オルコット(gc4548)とベルティーユ・ロワリエ(gc6499)の二名。
 初の依頼故か動きに緊張が残るベルティーユのアッシェンプッツェル、それをリックのグロームが先導するような形だ。
「まあ、そんなに気張らずに確実に行こうさね。心配するな、援護は任せろ」
「はい。足手まといにならぬよう、気を付けます」
 良い返事だと言わんばかりにグロームがクロスマシンガンを掲げ、二機は戦闘領域へと進んでいく。
「‥‥新しい機体‥‥。大丈夫‥‥前と変わらない‥‥!」
 一方こちらはまだ慣れないサイファーを駆るエヴリン・フィル(gc1479)。隣には同じく新たなKVに乗り換えてきた功刀 元(gc2818)が行く。
「念願のガンスリンガーを手に入れましたし、ガンスリンガー用にダブルリボルバーも育てましたー。あとは実践で切磋琢磨するだけですねー」
 新しい機体に緊張しているエヴリンとは打って変わって元は準備万端と言った様子。尤も、エヴリンの場合その緊張は恐らく性格的な物なのだが。
「九頭龍中尉! 助太刀御免ー」
「すまないな、先に始めてしまった。世話になる」
 岩陰に屈んでいる玲子のフェニックスの傍に着け、元が明るく‥‥というよりはのんびりと声をかける。玲子の方も妙に落ち着いた様子だ。
「中尉の勘で呼ばれて来た訳だし、任せてくれれば幸いてなとこだね。しかし、俺達が来るまで待てなかったの?」
 頭をぽりぽりと掻きながらの球基の問い掛け。玲子はふっと笑いながら答える。
「すまなかったな。隠れるのがどうにも下手で見つかってしまった。実はKVの操縦は苦手なものでね」
 何とも言えない空気になる傭兵達だが、容赦なくゴーレムはフェザー砲を撃ってくるし、輸送車両は進んでいる。呆れている場合ではない。
「‥‥まあ、依頼はきっちりこなすさ。気を抜かずに行こう」
 苦笑交じりにそう声をかけるリック。傭兵達は僅かな時間の打ち合わせに則り、それぞれの戦闘を開始するのであった。

●ロック・オン・ワルツ
「‥‥き、来てください‥‥。相手は私‥‥です‥‥」
 それぞれのお目当ての個体へと散開する傭兵達の中、真っ直ぐに一人で敵へと向かうのはエヴリンの『リベリオン』だ。
 中央に布陣したゴーレムへエニセイで攻撃を加え、更に進行。ターゲットとしたゴーレムは移動する輸送車両を守るようにゆっくりと後退しつつそれに応じる。
 周囲の機体の様子を確認しつつ、盾を構え前進。彼女の狙いはこの中央のゴーレムを自分に釘付けにし、仲間が戦いやすい状況を組み立てる事にある。
 あくまで退くゴーレムと睨み合うような形になるが、それは願ったり叶ったり。その間に側面から別の機体がそれぞれに攻撃を開始する。
「目標補足‥‥行くぞ、ベルティーユ」
 こちらはリックとベルティーユのペア。両者共に積極的な攻めの動きを見せており、共有したレーダー情報から目標へ突き進んでいく。
「お義兄様やお義姉様に心配をかけないためにも――!」
 リックの援護を受け、ベルティーユは機盾槍「ヴィヴィアン」を構える。
 突き出すようにヴィヴィアンを構え、数歩の助走の後にブーストをオーバーロードさせる『クリームヒルト』。
 ゴーレム目掛けて直進する機体へフェザー砲の迎撃が命中するが、リアクティブアーマーを作動させそれを強引に突き抜けていく。
「貫きますわ、クリームヒルト!」
 掛け声と共に槍はゴーレムの盾の押しのけるようにして肩口に突き刺さる。そのままよろけるゴーレムの側面に回り込むように槍を抜いたベルティーユは移動。
 屈むようにして移動したベルティーユ機。それと入れ替わりにリックのグロームがクロスマシンガンを連射しながら接近してくる。
 フェザー砲でリックを迎撃するゴーレムへナイフを繰り出すベルティーユ。しかしゴーレムは盾ごと身体を当てる様にして防ぎ、剣による反撃を繰り出す。
 打ち合う二機の側面、リックは対戦車砲へと持ち替え、ゴーレムへと近距離で砲口を突きつける。
「――風穴を開けてやろう」
 強烈な一撃がゴーレムへ命中。その隙にベルティーユも持ち直し、槍を繰り出す。二機の動きにゴーレムは何とか対応している状態だ。
「さて、輸送車両に逃げられないようちゃっちゃと片付けちゃいましょうかー」
「敵の数も少ない‥‥一気に片を付けてしまうか」
 一方こちらは元&追儺ペア。二機で一機のゴーレムを狙い、進行する。
 短期決戦を求めてか、追儺は一気に前進。音声入力で変形するレーザーライフル、WR−01Cで牽制しつつ距離を詰めていく。
「どうも小隊長の独断のようだが‥‥時に勘は馬鹿にできないしな。放っておくのも問題だ‥‥」
 射撃を行いつつ、追儺は自分達に連絡してきた軍人の事を思い返す。
 敵の殲滅、調査も当然だが、さっさとあの小隊長に元の任務に戻ってもらうのも大事な事だ。
「どう考えても副官の胃痛の種だ」
「追儺さんー援護は任せて下さいー」
「了解‥‥一気に仕掛ける」
 刀へと持ち替え、加速する追儺の『鬼切』。それを援護する様に元のガンスリンガーが続く。
 デュアルフェイスシステムを起動した機体は高機動型へシフト。ダブルリボルバーを連射する。
 主に手足を狙い挙動の妨害を狙う元。接近した追儺は刀を繰り出すが、ゴーレムの剣と衝突、打ち合いになる。
 中々決定打を出せずにてこずる追儺。そこへ元が回り込み、脚爪を備えた蹴りを放つ。狙いはゴーレムの足だ。
 重心が揺らいだ所で刀でゴーレムの剣を突き放し、そのまま刃を振り下ろす追儺。一撃はゴーレムの頭部へと鋭く刻み込まれるのであった。
「中尉、突っ込みすぎないように気をつけてね」
 玲子に声をかけつつ彼女と組んでゴーレムへ向かうのは球基だ。玲子の身を案じる球基だが、玲子は冷静な様子でこう返す。
「心遣い痛み入るが、それは聞けない相談だな。残念ながら、私は前に出るしか能が無い」
 と、悪びれた様子もなく加速するフェニックス。
「気を遣うね、どうも‥‥」
 溜息を混じりにそれに続く球基。結局彼のシュテルン・G、『一番星』が玲子のフェニックスを援護する形になってしまった。
 先行する玲子をフォローするようにアサルトライフルを連射する球基。玲子の動きは正に突撃と言った様子で、自らのダメージを気にする気配もない。
 アサルトライフルで攻撃を加えつつ、球基も前進。注意を自分へと引き付けつつ敵へ直進して行く。
 フェザー砲の狙いは球基へと向けられ、進む機体へ次々に着弾する。しかし『一番星』は怯む様子はない。
「中尉!」
「忝い――!」
 接近した玲子のフェニックスが腕に装着したブレードを繰り出す。胴体に突き刺した左腕を引き抜き、続けて機銃のついた右腕で殴りつける。
「‥‥やれやれだ。このまま一気に‥‥っ」
 至近距離で機銃を放つ玲子に続き、球基が機杖「ウアス」を繰り出す。二人は力押しでゴーレムから離れず継続して攻撃を加えて行くのであった。
 他の傭兵達がゴーレムを殲滅している頃、エヴリンは単身でゴーレムと対峙し続けていた。
 向こうも囮のつもりなのか、剣と盾を手にエヴリンへと直進してくる。じりじりとした小競り合いが終わり、エヴリンも同じく機体を進ませる。
 機体の動きを左右に振りつつ、盾を構えて進むエヴリンへフェザー砲が飛来する。その攻撃を掻い潜り、盾で弾き、機剣「白虹」を振り上げる。
 刃はゴーレムの胴体に食い込む。しかしそのまま殴り合いはせず、エヴリンは『リベリオン』を後退させる。
 距離を維持しつつ、着かず離れずの間合いでの撃ち合い。そんな時、リスクを考慮し攻め切れないエヴリンへ元の明るい声が届いた。
「エヴリンさんお待たせしました!」
「こちらも片は付いた。残りはそいつだけだ」
 続け、リックの声。二機が援護に回るのを確認し、エヴリンは『リベリオン』を前進させる。
「跳んで‥リベリオン‥耐える時間は終わりだから!」
 周囲からの攻撃に対応するゴーレムへ急接近するエヴリン。ゴーレムもそれに気付き盾を構えるが、エヴリンは自らも盾を構え強引に肉迫する。
 盾で盾を押し上げるようにして突きつけたエニセイ。これまでの鬱憤を晴らすかのようにありったけの弾丸を叩き込み、戦闘終了の合図とするのであった。
「‥‥つ、疲れた‥‥。これなら空の方が‥‥まだ楽です‥‥」
「お疲れ様です。でも、まだ終わっていませんわ」
 ベルティーユの声に振り返るエヴリン。丁度その時、未だに逃走を続けようとしていたトラックの進行方向に弾丸が穴をあけた。
「そこの輸送車両速やかに投降して下さいー」
「警告は一度だけだ。武器を捨てて、両手を頭の上に乗せて出てきな」
 ややのんびりとした声で警告する元の隣、先程の発砲の主、リックがKVの銃口を向けて告げる。
「戦っても勝ち目はない‥‥速やかに投降しろ」
 更に追儺の言葉にいよいよ観念したのか、輸送車両の搭乗員達が渋々と降りてくる。こうして本当の意味で戦闘は終了するのであった。

●謎の物資
「ボディチェックは慎重にな。ここで自爆でもされて、負傷でもしたら最悪さね」
 率先して搭乗員達を調べているのはリックだ。過去の経験からかその様子はやたらと手際が良い。
「何から何まですまないな。ULTには噂以上に優秀な人材が揃っている様だ」
 並んで待機しているKV達の中、フェニックスから降りてきた玲子が微笑みながら言う。実際、玲子がした事は殆ど何も無い。
「素直に話してくれよ? 手荒な事はしたくないが、必要ならするからな?」
「あの、あまり乱暴な事は‥‥」
 リックの言葉に少々慌てた様子のベルティーユ。玲子はそんなベルティーユを腕を組んで見つめていた。
「君達の様に可憐な少女がKVを駆り戦場を駆けるとは‥‥何て残酷な時代なんだ‥‥ッ!」
 ベルティーユとエヴリンを交互に見やり、一人で何か頷いている玲子。今にも泣き出しそうな様子だ。というか少し泣いている。
「積荷は普通に武器弾薬、食料に日用品って所ですねー」
「別段怪しい所はないな。これは中尉の勘が外れたかね?」
 車両を調べて戻ってくる元と球基。実際いくら調べてもただの輸送車両で、それ以上の何かがあるようにはどうにも思えない。
 しかしそんな中、リックだけは何かきな臭い物を感じていた。この戦いに何か裏がありそうだと感じたからこそ、ここに駆けつけたのだろう。
 だが、具体的に何が怪しいのか、何を情報として引き出すべきかは微妙な所で、リックは腕を組んだまま考え込んでいる。
 当然、彼らが自分からべらべらと何もかも喋り出すはずもなし。だんまりを貫いているが見た所は『人間らしい』ので、調べる方法はあるだろうが。
「一先ず彼らの身柄はこちらで預かろう。君達の助力に心から感謝するよ‥‥心から‥‥ッ」
 目頭が熱くなったのか、押さえながら頷く玲子。どうも少女が戦場に居るのが悲しいらしい。
「そういえば中尉、珍しい苗字だよな。どこかの報告書でも見かけた気がするから、LHにも知り合いは居るのか?」
「変な苗字と言わないでくれ‥‥子供の頃からずっとからかわれてるんだ‥‥」
 球基の質問でその場に膝を着いて項垂れる玲子。何事も無かったかの様に直ぐ復活し、答えに移る。
「もしかしたら妹かも知れんな。長年会っていないが、傭兵をしていると聞く。縁があれば宜しく言っておいてくれ」
 腕を組んで笑う玲子。何と無く和やかな空気の中、追儺が咳払いを一つ。注目を集める。
「それより、だ。俺達に連絡を寄越した副官が困っていた‥‥後で謝っておけ」
 苦笑を浮かべ、それから玲子は頷く。こうして突拍子も無い思いつきから始まった小さな戦いは、静かに幕を下ろすのであった――。