●リプレイ本文
●ジなんとかさん
「フォーッ! さぁ、どこからでもかかってくるデース!」
並んだ傭兵達の前、踊りながら道を塞ぐ男が妙に甲高い声で叫んだ。
言わずもがな緊迫した状況なのだが、どうにもシリアスになりきれない傭兵が半分。相手が何であろうとその所業に怒りを湛える傭兵が半分と言った所だろうか。どちらにせよ微妙な空気である。
「ジョニー・マクス‥‥? 何かどっかで見たような動きのヤツだな」
踊っているジョニーの様子をしげしげと眺めるアレックス(
gb3735)。その隣で宗太郎=シルエイト(
ga4261)は長大な槍を肩にかけながら首を擡げる。
「何だアレックス、知り合いか?」
「いや、あんな知り合いは居ない‥‥っと。知り合いと言えばカシェル、いつも身内が世話になってるな」
「え? あ、こちらこそお世話になってます」
アレックスに声をかけられやや萎縮した様子で頭を下げるカシェル。そこへ終夜・無月(
ga3084)が、更に続けて張 天莉(
gc3344)と和泉 恭也(
gc3978)が歩み寄っていく。
「君がカシェルですか‥‥宜しくです‥‥」
「お久し振りですカシェルさん♪」
「今回もよろしくお願い致します、カシェルさん」
三人に挨拶をされ再びぺこぺこ頭を下げるカシェル。その様子にジョニーは帽子を脱いで叫んだ。
「いつまでワタシをスルーしてるデスか!? ボーイ! ワタシより目立つのは許しまセーン!」
「いや別にそういうわけじゃ‥‥」
「シャラーップ! もう怒ったデース! そっちからこないならこっちから行くのデース!」
怒りを露に前進するジョニーと黒服達。その前に赤崎羽矢子(
gb2140)が立ち塞がる。
「あんたの名前は覚えた。墓石にその名を刻んであげるよジョーイ!」
「ノーン! ジョーイ違いマース! ジョニーデース!」
腕を組んだまま真顔で首を傾げる羽矢子。そのまま助けを求めるように振り返る。
「ジョンだっけ? ジョジョだっけ? ジョナサンだっけ‥‥あ、ジっちゃんだっけ?」
「どういう事デース!?」
「それが皆別の名で呼んでたからさ。正直よくわかんなくなってきちゃって」
「今そこの人が思いっきり『ジョニー・マクス‥‥?』って言ってたデスよ!?」
アレックスを指差し叫ぶジョニー。しかし羽矢子は抗議を無視して頷く。
「しょうがないね‥‥ちょっと待ってて。どれにするか皆で決めるから」
最早意味が分らないが律儀に腕を組んで待つジョニー。羽矢子はジョニーに背を向けつつ無線機を手に取る。
『‥‥こちらの準備は完了した。いつでも狙撃可能だ』
聞こえてきたヘイル(
gc4085)の声に頷く羽矢子。一見ふざけている様にも見えた‥‥というか恐らく半分くらいは本気でふざけていたのだが‥‥兎に角、彼女は仲間達に目配せしながら閃光手榴弾を取り出す。
「あたしの合図で一気に仕掛けるよ」
『了解。六秒後に狙撃を開始する』
手榴弾のピンを抜き頷く羽矢子。振り返りつつ彼女は告げる。
「決まった。お前の墓には全部刻んであげるよっ!」
放られた手榴弾は直後に閃光を撒き散らす。その光を合図に傭兵達はそれぞれの役割を果たす為に行動を開始した。
「キメラ達を出来るだけ引き付けて友軍が突破しやすいように動きます。カシェルさんもすみませんが手伝って頂けますか?」
「ええ、勿論。僕らが適任でしょうしね」
「では、頑張って凌ぎますか」
天莉に続きカシェル、恭也が走り出す。ガーディアンである三人の目的は友軍を突破させる為に壁となる事。その為にもまずは前に出てある程度敵を減らし、安全な道を作らねばならない。
走る三人に反応する強化人間へと羽矢子が駆け寄り刃を繰り出しその身を弾き飛ばすとその後ろに居た強化人間をヘイルの放った弾丸が襲った。
「‥‥フン。単に行く手を阻むだけでは俺達は止められんぞ」
ビルの窓から銃を突き出すように構えながらヘイルが呟く。彼と羽矢子が強化人間の初動を阻害し、閃光手榴弾の影響で一旦後退したジョニーの動きもありキメラ対応班が前に出る隙が生まれ始める。
「とりあえず、友軍の皆さんをお通しする事を優先しましょう」
走りながら刃を構えるリュドレイク(
ga8720)。そんな彼を追い抜き宗太郎が強化人間の一人へ襲い掛かった。
「何処見てやがる! てめぇの相手は俺達だぜ!」
キメラ対応班へ銃を向けていた強化人間は慌てて回避動作に入る。素早い動きで宗太郎のランスをかわした所へリュドレイクが回り込み刀を繰り出すがそれもギリギリの所で避けられてしまう。
「妙な動きをしやがるな、こいつら」
「見慣れない動作ですからね。良く動きを読まないと」
言葉を交わしながら構え直す二人。と、その視線の先で回避動作を取った強化人間を殴り飛ばしているアレックスの姿が。
「お? やるなアレックス」
「よく動きが読めましたね」
二人の言葉に微妙な表情を浮かべるアレックス。片手を軽く振りながら目を逸らした。
「やっぱりこいつらの動き、どっかで見た事ある気がするんだよな‥‥」
とは言え敵の動きが素早く独特である事に変わりは無い。それぞれの連携も見事な物で、あっという間に体勢を立て直してしまった。
「ま、そうだよな」
五人の強化人間が並んで銃を構えたその時である。やや後方で二丁拳銃を構えた崔 南斗(
ga4407)は纏まった強化人間に制圧射撃を開始する。
「またカシェルに無理をさせんようにしたいもんだが‥‥その為には!」
連射される弾丸を素早く回避する強化人間達。眉を潜める南斗の隣に並び、アレックスはガトリングガンを構える。
「手伝うぜ。まずは連携を崩さないとな」
その攻撃は命中させるというよりは牽制する意味合いが大きい。断続的に飛来する大量の弾丸から逃れる為強化人間達はバラバラになっていく。
連携が崩れ五名の強化人間がそれぞれ傭兵と一人ずつ衝突する形になる。それはジョニーとしては望ましい状況ではなかった。
「道がガラ空きデース! 何故ワタシがキメラをフォローしなければならないのデース‥‥!」
部下の戦いを眺めるジョニーは今非常に地味であった。ぶつくさ文句を言いつつ、キメラの掃討に掛かっている傭兵達へ向かおうとした――その時である。
「いやっほー! しゃるうぃー、だーんすっ!!」
聞こえた声に目を向けるジョニー。その先では相澤 真夜(
gb8203)が元気良く足を動かしていた。
否、足を動かしていたというのは彼女にとって不本意な表現だろう。何故なら彼女は今、精一杯踊っているつもりなのだから。
「あにき、みててくださいね! がんばりますからっ!」
何かじたばたしながら振り返りサムズアップしている真夜を六堂源治(
ga8154)はガーディアン達の傍でじっと見つめていた。
微妙な表情で冷や汗を流しつつ真夜を見つめながら源治はつい先程彼女と交わしたやりとりを思い出していた。
「折角の機会だってのに、ヘマしちまってすまねぇな」
まさかの重体に申し訳無さそうに笑う源治。勿論やれる事をやれる範囲で努力するつもりだが、万全なら舎弟‥‥というか妹分の真夜と連携して戦えた筈だった。
「いえ、あにきはおだいじに! あにきの分まで私ががんばります!」
「そうか。まあ、俺が居なくても何とかなるだろ。お前の力を見せ付けて来い」
真夜の肩を叩きながら頷く源治。満面の笑みで自分を見ている真夜を見ているとむず痒いようななんとも言えない気持ちになるが、まんざら悪い気もしていない。
それに先の言葉は嘘ではなく、真夜の力は源治も信頼していた。彼女なら大丈夫だ――そう思うのだが。
「何とかなる‥‥か?」
微妙に不安になる源治。真夜は奇妙な動きでジョニーの目を引き続けるのであった。
●繋ぐ為に
「まず出鼻をくじきます! これ以上の横暴は許しませんよ!」
突っ込んで来る狼の群に小銃を向け連射する望月 美汐(
gb6693)。上空から飛来する鳥キメラの爪を盾で防ぎつつ引き金を引く。
「好き勝手なことを‥‥これ以上、やらせるものですか」
こうして馬鹿なバグアに付き合っている間にも人は死んでいるし助けを求めている人が自分達を待っているのだ。何としてもここを突破しなければならない。
美汐が主に上空のキメラを銃で相手にしている間、更に向かって来る狼達にはLetia Bar(
ga6313)が銃を向ける。連射で動きを封じつつ仲間の動きをアシストする。
「こういう時のバラキエルは便利だねぇ‥‥ガンガン撃ってこうかっ」
近づく敵を次々に撃ち抜くLetia。強引に飛びついてきた狼の牙を盾で防ぎ、その脇腹に銃口を突きつけ引き金を引く。
「悪いけどね、こんな所でモタモタしてる時間はないのさ‥‥!」
引き金を引くその指には苛立ちが宿っていた。今の状況を思えばそれも止むを得ない事だろう。
これは『惨状』だ。今目に見えないだけで街の中には目を覆いたくなるようなの惨状が広がっている。
助ける為にここに来たというのに今こうしてあの売れない芸人のようなバグアに足止めを食らっている‥‥。
「全く、悪い冗談だ――!」
キメラの足止めは比較的順調であった。仮に突破を許し、護るべき一般人の方へ向かったとしてもそこには天莉と恭也が盾を構えて待ち構えている。
戦況が優勢である事もあり積極的に殲滅にも参加する二人。天莉は狼を蹴り飛ばしながら声を上げる。
「きっと突破に最適なタイミングが来るはず。それまでは友軍の皆さんへの攻撃などさせません!」
「‥‥本当は敵であっても傷つけたくはないのですけどね」
黒色のエネルギー弾を放ちながら呟く恭也。二人は互いをフォローし、万全の防御体勢で敵を迎撃する。
「恭也さん‥‥」
「いえ、大丈夫。手加減はしません。守らなくてはならないものは分かっているつもりです」
顔を上げ真っ直ぐに前を見る恭也。この道の先に助けを待っている人達が居るのだ。
「目標は全員の救出‥‥少なくともそう願い続けないと」
二人の背中を護るように構え、狼を斬り伏せるカシェル。その背後で源治は銃で味方を援護していた。
「流石ですね、六堂さん。怪我してるのに余裕すらあるんじゃないですか?」
「ま、怪我してるからと言って休んでる訳にはイカンし‥‥それにこいつのお陰ッスよ」
引き金を引き、握り締めた小銃「ルナ」 を見やる源治。
「無理はしないで下さいね。僕がちゃんとフォローしますから」
苦笑を浮かべながら頷く源治。一方彼らより更に後方、警官達に声をかけている月城 紗夜(
gb6417)の姿があった。
「おい、突っ立ってるサツと軍人! 前からキメラが来たら拳銃ぶっ放せ、弾幕作って抑えろ! 盾があれば使え、身を守って死者を出すな」
てきぱきと指示を飛ばす紗夜に慌てて従う警官やら軍人やら。正直他に頼るべき指示がないので言う事を聞くしかない。
「‥‥おい。あのパトカーは使えるか?」
ランプを点灯させたまま道端に乗り捨てられたパトカーを指差す紗夜。警官の一人が足を止めて頷く。
「あ、ああ。別に壊れちゃいないからな」
「そうか‥‥では我の言う通りにして貰おう。任務を遂行する為に必要なんだ」
「‥‥? わ、わかった」
その頃、強化人間と戦う傭兵達の脇でジョニーと睨みあっていた真夜はというと‥‥。
「らんららーっ」
「フォーッ!」
ジョニーと一緒に歌って踊っていた。
良く分らない状況だが、ジョニーをひきつける事には成功している。
ラジカセから流れる音楽に合わせて遊んでいるのか戦っているのか分らない二人。リュドレイクはその様子をじっと見つめていた。
「何でしょうね、アレ。ものすごくツッコミ入れたいです」
援護射撃をしつつ南斗は苦笑を浮かべる。一見すると微笑ましいような気がしないでもないが‥‥。
「ふと思ったのですが、あの帽子に風穴開けたり服に泥跳ねとかしたら、どんな反応をするのでしょうか」
「発想がいじめっ子だぜリュドレイク‥‥というかあの帽子に穴を空けるのはやめてくれ」
宗太郎の声に首を傾げるリュドレイク。何はともあれ、今の内に強化人間を始末したい所である。
一方キメラ対応班は順調に殲滅を続けていた。キメラは元々数が多い上に次々と追加が現れるのだがそれでも傭兵達を抑え切れない。
無月は二丁の拳銃を構え、次々に鳥キメラを撃ち落していた。落ち着いた様子で前進しつつ、追加が現れた傍から撃墜していく。
ばたばた落ちる鳥キメラに目もくれず狼の群に突っ込んでいくのは加賀・忍(
gb7519)だ。高速移動で敵と擦れ違いつつ刃を振るい、狼に囲まれながら太刀を構え直す。
「やはりこっちに来て正解だったわね」
敵の数は多く、一般人を守らなければならないという依頼の性質上ここから引き下がる事も出来ない。しかしそれは予想していた状況だ。
この都市はまるで巨大な実験場だ。中に飛び込めばそれはそれで幾らでも戦いを得る事が出来るだろう。だが彼女の趣向としてはこちらの方が望む所で。
複数の敵意に晒されているという事実に口の端を持ち上げるように笑う。狼は同時に忍へと襲いかかるが、忍は両手で構えた太刀を身体を回転させるようにして繰り出し、狼を薙ぎ払って行く。
「いいものね、この重さは‥‥」
血を振り払いながら刃を構え直し再び狼へと襲いかかる忍。その様子をミルヒ(
gc7084)は戦いながらじっと見つめていた。
ミルヒが仲間の戦いを眺めているのには理由があった。勿論最優先は後方に控える一般人を無事に街の中に送り込む事なのだが、それとは別に個人的に設定した目標があるのだが‥‥。
「皆の役に立てる行動は‥‥」
改めてキメラ対応班の様子を眺める。今回ミルヒはより強く成る為に、そして役立てる立ち回りを覚える為にやってきたのだ。
ちらりと無月を見る。役割に徹しているのか黙々と鳥キメラを撃墜している。しかし一撃で落としてしまっているので、参考になるかと言うと微妙な所だ。
ガーディアン三人組は後方に敵を通さないように連携して戦っている。この連携が強固なのは同じクラスの三人が同じ目的の為に従事しているからだろう。
そんな三人に近づく敵を銃で迎撃するLetia、鳥キメラを銃で狙う美汐‥‥そして再び視線を忍へ。
一見派手に敵に突っ込んでいるように見える忍だが、実はきちんと何かあれば味方がフォロー出来る位置で戦っている。ミルヒは機械剣を手に彼女の傍に走っていく。
背後から狼に光の剣を突き刺し、飛びついてきた敵を盾で弾いて吹き飛ばす。そのまま忍と背中合わせに構えた。
「敵を倒して、道を作ります。それが一番役に立てる事だと思いますので」
遠距離武器を持っていないわけではないが、やはりそういう事だろう。忍は目線だけで振り返り、そのまま特に気にする事もなく戦闘を継続した。
「‥‥歌は中々デスが、踊りは壊滅的デース」
一方こちらは戦場の最中奇妙な対峙を続けていた真夜とジョニー。男は人差し指を振りながら帽子を目深に被る。
「アナタに見せてあげマース。本当のミュージックという物を」
マイクスタンドを片手でくるりと回して構えるジョニー。流れる音楽に合わせ彼が歌い始めたその時である。
真夜の立っていた場所に激しい衝撃が走った。目視で範囲を認識出来なかった事、強力な威力であった事を理由に真夜は慌ててかなり距離を取って回避するが攻撃は一発だけではなかった。
衝撃波は連続で放たれ高速移動する真夜を追撃してくる。移動の軌跡を描くように衝撃波はアスファルトを砕き、次々に炸裂した。
「ふわあっ!? ちょ、ちょっと待っ‥‥!?」
衝撃波を受け派手に吹き飛ぶ真夜。その様子に一気に緊張感が高まっていく。
「――くたばれ、バグア野郎」
倒れた真夜に追撃しようとするジョニーを遠くから銃で狙うヘイル。そのまま連続して引き金を引くが、ジョニーはまるで見えていたかのように体を僅かに傾けて銃弾を回避して見せた。
「何っ!?」
「ソー、バッド。さっきそこから撃ってるのは見えたデース。もう当たりまセーン」
初動で強化人間を狙撃したヘイル。ジョニーはその際一歩身を引き狙撃地点を既に把握していた。
「後はカンで避けマース! というワケで」
強化人間と戦っている傭兵達を見やるジョニー。強化人間一人一人の回避能力が高い事もあり中々決着がつかずに居るが、ジョニーが横槍を入れてくるとなると状況は一気に不利になるだろう。
マイクを構えるジョニー、その側面から矢が飛来する。軽く回避しつつ目を向けた先、立ち上がった真夜が弓を構えていた。
「ゆーあー、そう、くーるっ! へい! 私のこーげき、うけてみろーっ」
「ソー、グッド。ステージの上に立ち続けてこそエンターテイナーというものデース」
再び衝撃波に襲われる真夜。可能なら反撃しつつと行きたい所であったが真正面から撃った所で矢は回避されるし、足を止めたら狙い撃ちにされてしまう。
「いい加減その動きも見飽きたぜ」
真夜がジョニーの気を引いている今が強化人間を倒すチャンス。アレックスは一気に前進し突きつけられた銃を左手の甲で弾き、敵の脇腹に拳を減り込ませる。
更に左の拳を振り上げ軽く跳躍しつつ顔面に振り下ろす。減り込んだ拳は強化人間の身体を大地に叩き付け、勢い余りアスファルトを粉砕する。
「アレックス!」
強化人間に突き刺したランスを引き抜きながら宗太郎が叫ぶ。二人は残りの強化人間を味方に任せジョニーへと向かう。
飛び込んできた宗太郎の攻撃から飛び退き人差し指を振るジョニー。宗太郎とアレックスは改めてジョニーと対峙する。
「ノンノン‥‥アナタ達ではワタシのステージを邪魔する事は出来まセーン」
「逆に聞くぜ、エンターテイナー。演出効果抜群の爆破特攻‥‥てめぇに扱いきれるか?」
頭上で槍を回し不敵に笑う宗太郎。と、動きを止めてジョニーに語る。
「あー、それとな‥‥オレらが勝ったらその帽子寄越せ。本当にスターになるってんなら、プレミア付いて高価になるだろ」
その言葉に楽しそうに笑った後ジョニーは言った。
「ノープロブレム。サインもつけてあげマース」
「負けたからって前言撤回するなよ!」
こうして二人はジョニーとの戦いを開始するのであった。
●囲いの先へ
「キメラ達が疎らに‥‥! ――皆さん、今です!」
天莉の合図でいよいよ待機する一般人を街の中に送り込む時がやって来た。
キメラは粗方片付いているが邪魔をされては敵わない為天莉、恭也、カシェルの三名はルートを中心に散らばり、それぞれがキメラを引き付ける。
「私の大事な子達に手は出させないよ‥‥っ!」
囮に近づく敵に銃弾をばら撒き牽制するLetiaと美汐。二人が動きを止めた所を忍とミルヒが斬り込み、順調に突破口が開かれていく。そんな時であった。
突然後方からパトカーが一台猛然と走ってくると、そのまま狼の群に突っ込んでいく。見れば運転手は座っておらず、固定されたハンドルに則り石を載せられたアクセルがここまで走らせたらしい。
「良し、今だ! 貴様らもあれに続け!」
遠くを指差しながら声を上げる紗夜。その横で警官が青ざめた表情を浮かべる。
「お、俺のパトカーが‥‥」
「任務遂行に妥協は不要、必ず完遂する」
「妥協っていうかどうするんだあれ! ああっ、爆発した!?」
「支払いはUPCへ。ほらさっさと乗って行け」
「なんかさっきからあんた微妙に俺たちに対して態度悪くないか? サツとか言うし‥‥」
「気の所為だ。いいから早く行け」
こうなりゃヤケだ! とか言いながら車両に乗り込み次々に発進する警官やら軍人やら。それらを受け入れる道を切り開く為ミルヒと忍は剣を振るう。
「無茶をしますね‥‥」
「車で跳ねるなんて面白くないわ。敵はこの手で薙ぎ払わないと」
「そういう問題、ですか‥‥」
車両が動き出した事にはジョニーも当然気付いていた。しかし彼の動きは宗太郎とアレックスに抑えられている。
開かれた道を車両は比較的余裕を持って通過して行く。Letiaと美汐の制圧射撃でそもそも近づくのも難しく、仮に近づいても天莉や恭也が弾き返してしまうのだ。
「オーマイガッ! このままではレプトンさんに怒られてしまいマース!」
困った様子で叫ぶジョニー。宗太郎とアレックスは互いをフォローするように交互に攻め込むが、ジョニーはその悉くを回避して行く。そして回避すると同時に反撃を繰り出してくるのだ。
回避動作が既に攻撃の動作の一部として組み込まれているようなその動きはダンスに良く似ている。ある程度距離を取られると衝撃波が連続で繰り出され、二人を吹き飛ばそうと襲ってくる。
「強いのに残念な性格‥‥って、何だか腹が立つんですけど」
「全くふざけた奴等だが、それだけに危険だな‥‥」
強化人間と交戦しつつリュドレイクと南斗が呟く。南斗は先程からジョニーの挙動を観察しているのだが、衝撃波の起点が歌なのかそれともポーズなのか良く分らない。
「戦闘力だけは冗談じゃないというのは、随分とやりにくいな‥‥!」
南斗の援護射撃を受け強化人間へと飛び込み刃を振るうリュドレイク。こちらも素早く身をかわし、中々止めを刺す事が出来ない。
ジョニーとの戦闘は劣勢を強いられていた。回避際に放たれた衝撃波を防ぎ押し返される宗太郎とアレックス。そこへ羽矢子が合流する。
「お待たせ。とりあえずバックダンサーは二人片付けたわ」
残る強化人間はリュドレイクと南斗が交戦している一人だけだ。三人は改めてジョニーと対峙する。
「さてと‥‥お相手いただけるかしら?」
気取った所作で胸に手を当て軽く頭を下げる羽矢子。軽く剣を振るい、一気にジョニーへ飛び込んでいく。
衝撃波を放ち迎撃するジョニーだが羽矢子は既に懐に飛び込んでいた。一瞬見失った彼女の攻撃を悉く回避するジョニーだったが、羽矢子の動きはどんどん素早くなっていく。
「どこまでついてこられるかしら」
そうこうしている間にもどんどん一般人が車両でこの場を突破し続けている。苛立ちに眉を潜めるジョニーは一度距離を離す為後退する。
「あっはっはー! こっちだよー!」
と、そこへ真夜が遠くから矢を連射しながら大声で言った。そこは彼女の弓の有効範囲ギリギリであり、先程から逃げ回っていた彼女には自分の位置まで衝撃波が届かない事が分っていた。
故に一方的に全力で矢を放つ。ジョニーはそれすら見事に片っ端から避けてみせるが、その背後にアレックスが回りこんでいた。
「センパイ、アレで行くぜ!」
「アレか‥‥! 良し、見せてやるぜ、エンターテイナー!」
握り締めたアレックスの拳が炎の様な輝きを放ち、それが青く染まっていく。繰り出された連打は数発回避されるが、ジョニーを捉える事に成功する。
「そこだ――吹っ飛べ!」
拳が輝き衝撃を奔らせる。ジョニーの吹き飛んだ先、更に回り込んだ宗太郎が槍を低く構え、回転しながら攻撃を繰り出す。
「後ろがガラ空きだぜ、色男ぉ!」
切っ先から炎を巻き上げながら地を焦がし、飛んできたジョニーを更に打ち上げる宗太郎。そのまま槍を回し両手で構え直す。
「今だアレックス、合わせるぞ! エクスプロード、オーバードライブ――ッ!」
「うおおおおッ!!」
宗太郎とアレックス、互いの得物が炎を帯びていく。二人は息を合わせ崩れた体勢のまま落下してくるジョニーへと飛び込んだ。
「「 Wイグニッション! 」」
叫びと同時に炎が重なる。挟撃を受けたジョニーが爆風で回転しながら頭から地面に落下すると二人は同時に振り返った。
「しまった、帽子どっかに吹き飛ばしちまった」
宗太郎の言葉に苦笑するアレックス。一方ジョニーはと言うと、彼方此方から血を流しながら何とか立ち上がっていた。
「こ、このくらい何て事ありまセーン‥‥」
「思いっきり膝が笑ってるけど」
羽矢子のツッコミにシャキっと持ち直すジョニー。しかしどちらにせよ状況は彼にとって望ましくない事になっていた。
「立場逆転ですね。さ、ここから先は通しませんよ?」
背後から聞こえた美汐の声に振り返るジョニー。既に車両は全てが無事に街の中へと突破し、今度は逆にジョニーを街に入れまいと傭兵達が構えていた。
「カーテン・コール。ダンスの時間は終わりですよ」
銃を向ける美汐を冷静な視線で見つめるジョニー。美汐の隣にバイクに跨ったヘイルが止まり、ジョニーへ問う。
「さて、どうする? 残りはお前一人だが」
「‥‥ワタシ一人?」
見れば強化人間はリュドレイクと南斗が撃破しており、キメラの方も一匹も残っていなかった。
「キメラは殲滅しました‥‥」
「次はあなたが相手をしてくれるのかしら?」
無月に続き忍が笑う。ジョニーとしては何とか街に戻りたい所だが、どうやらそうも行かないらしい。
「貴方を通せば、また人が死ぬことになるでしょう。それは自分が容認できるような事態ではありません」
「観念する事ですよ、ジョナサン!」
「ソレ誰デースか! ジョニーデース! さっきからずっとアナタ達失礼デスね!」
恭也と天莉の言葉に頭を抱えるジョニー。それから疲れた様子で溜息を一つ、腕時計を確認する。
「仕方ありまセーン‥‥レプトンさんとの約束にはまだ早いですが‥‥今日はお開きデース」
そう語るや否や一瞬で姿を消すジョニー。気付けば傭兵達から離れたパトカーの上でラジカセと帽子を手に佇んでいた。
「シーユーネクストアゲイン! 次はワタシの本気のエンターテイメントをお見せしマース。お楽しみに♪」
つらつらと自らの帽子にペンでサインを書き記し放り投げるジョニー。それを宗太郎が受け取った頃には既にジョニーはその姿を消していた。
「つくづくすばしっこい奴だな‥‥って、帽子焦げてるし」
「他者を殺さないでもらえるなら嫌いじゃないんですけどね」
宗太郎に続き苦笑を浮かべる恭也。状況が落ち着いた事を確認しヘイルが言う。
「任務完了か。さて、ここに居続けるのは危険だな」
「街の方でもそろそろ決着がついている頃でしょう。消耗していますし、僕らも一先ず引き上げましょう」
剣を収めながら語るカシェル。しかし宗太郎はバイクに跨りながら言う。
「向こうの様子も気になるし、一応確認してくるぜ。何か手伝える事があるかもしれないしな」
「そうか。気をつけてな、センパイ」
アレックスとハイタッチを交わし走り去る宗太郎。彼の背中を見送り、郊外での戦いは幕を下ろすのであった。
「‥‥結局なんだったんですかね、アレ」
少し疲れた様子で呟くカシェル。何と無く微妙な空気が場を包み込み、それは傭兵達の疲労をより一層増すのであった――。