●オープニング本文

　プチロフは奇妙な組織だ。ウラル周辺を中心に、旧ソビエト連邦内の多数の工場施設や研究施設が複合している連合体ゆえに仕方が無いことなのかもしれないが、その全体としての意思決定プロセスは極めて複雑で、当事者ですら責任の所在が判らなくなる事も多いという。あるいは、それが国の風土なのかもしれないが。
　その日、宇宙へと打ち上げられたＳＥＳ式Ｒ−７ロケットの総数すら、当初は不明だった。その先端に据えられていたのが有人の新型ＫＶであろう事、そして成層圏を越え、低軌道に達した付近でその全機が撃破された事は、同社ではなく世界中の天文観測施設からの光学観測の報告で、まず明らかになった。
　その意図が実験であれ、威力偵察、あるいは新型のデモンストレーションであれ、結果を見れば、明らかに失敗だ。その日、同社の内部で幾人の管理者が人知れず席を去ったのか、誰も知る事は無い。ただ、数時間後に公式の場に姿を現した同社幹部は、「前任者」の汚名を雪ぐべく情報公開に務めると共に、勇敢な死者たちを無駄にせぬよう、広く協力を呼びかける、といった。
　――墜落した残骸の多くは、同社の影響力の強くない地域に散らばっていたのだから、当然の事やも知れない。

「――と、言う訳でだ。プチロフの勇敢なる先駆者達に敬意を表しつつ話を進めたいと思う」
　手にした書類の束を指先で弾きながら吐き出された言葉はお世辞にも『敬意』という表現とは程遠く、むしろ厄介事に対する物に近かった。
　某所基地のKVハンガー前、白髪の中年男性が立って居る。彼の前には毛色の違う三名の若者がおり、三者三様の態度で言葉に耳を傾けている。
「さて諸君、まずは挨拶と行こうじゃないか。良好な人間関係は相互理解から‥‥こんな寄せ集め部隊では特にな」
　白髪をオールバックに流した男はこれから一時的に部下となる三名の若者を右から順に眺め、苦笑を浮かべる。
「まずは俺から。ハロルド・ロンベルク、階級は大尉だ。『オービタル・ファインダーズ』第二隊の隊長を任される事になった。要するにおまえ達の上官だな」
　そこまで言ってハロルドは腕を組んで思案する。それから気さくな様子で告げた。
「まあ、あまり肩書きを気にする必要は無い。勿論俺の命令には従ってもらうが、俺達は既に一蓮托生だ。物好き同士、仲良くやろうじゃないか」
「ああ、それはいい。僕も同感ですよ。どうせ長い付き合いにはならないんだ、その方がいい」
　ハロルドの言葉に共感したのは眼鏡をかけた若い男だ。ウェイブした長い金髪を揺らし、肩を竦めて笑っている。
「じゃ、次は僕ね。キアラン・ホワイト‥‥ちなみに階級は少尉です♪　そちらのお二人さんは？」
　促すようなキアランの手振りに紅一点が頷く。腰に手を当てた姿勢のまま、長い黒髪を僅かに揺らして微笑んだ。
「あたしの名前はリェン・ファフォ、階級は曹長ね。精々あたしの名前を刻んでおきなさい。人類史に残る名前よ！」
　えっへんと胸を張るリェン。当然のように場は静まり返ったが、一先ず意味不明な言動は置いておく。
　最後に残った男は何やらばつの悪そうな表情だ。暫し逡巡した挙句、顔を上げて呟く。
「隊長、自分はやはり『こういう事』は良くないかと」
「ふむ。と、言うと？」
「キアラン少尉とリェン曹長の態度はとても上官に対する物とは言い難いかと」
　名前を挙げられた二名はきょとんとしている。これまた『何言ってんだコイツ』という様相である。
「言いたい事は分るが、お前もこの部隊の性質は理解しているだろう？　肩の力を抜け軍曹。我々の戦は柔軟さが勝利の秘訣になるだろう」
　ハロルドの言葉に男は小さく返事をし、敬礼する。それも『命令』だと受け取ったのだろう。
「自分‥‥いや、俺の名前はシン・クドウ。階級は曹長であります‥‥だ。宜しく頼む」
「ヘイ、シン。そんなガチガチでKVを操縦出来るのかい？」
「いかにーも日本人って感じね。逆に気持ち悪いわ」
　キアランとリェンの言葉にシンも不満な様子で、仏頂面で目を逸らしてしまう。溜息交じりにハロルドはこのデコボコチームを見渡した。
「日本人だろうが中国人だろうが俺には同じに見えるが、リェンとシンに関してはお陰様で見分けが付きそうだ」
「日本人と中国人は全然違うわよ！」
「喧しいのが中国人、ムッツリなのが日本人だよね☆」
　左右から二人に睨まれるキアラン。ハロルドは何度か手を叩き話を仕切り直す。
「賑やかで結構だが俺はミドルスクールの引率じゃないんだ。話を戻させてもらうぞ」

　――『オービタル・ファインダーズ』。それは先のプチロフのシャトル墜落事件を切欠に発足したUPCの特殊部隊である。
　彼らの目的は至極単純。要するに『宇宙進出の礎』である。
　プチロフのシャトルが片っ端から撃墜された事は世界中に少なからぬ衝撃を齎した。そしてそれはただ痛みだけではなく、人類にとって新たな課題を明示する標となったのだ。
　バグアが宇宙からやってくる以上、彼らの脅威を完全に取り除くには宇宙への進出が必要不可欠、それは以前から明白だった事実。
　そして人類は今無数の犠牲と困難を乗り越え、その場所への第一歩を踏み出そうとしている――。

「諸君、栄誉ある任務だ。我々の仕事は単純かつ明快だよ。空の向こうの更に向こう、我々の頭を抑えている『檻』を突き破る事だ」
　バグアの迎撃網を突破する事は容易ではない。成功確率は明らかに低い。それでも彼らは集まった。自ら志願し、選抜試験を超えここに居る。
「無茶と無謀をかき集めて空に飛ばすような仕事だ。今更嫌がった所で一人も降ろしてやらんぞ。人類の為に死んでくれ」
　シニカルに笑うハロルド。彼の言葉に異論を挟む者は居なかった。『でこぼこ』だろうが『ろくでなし』だろうが、その覚悟だけは済ませている。
「でも僕は死ぬつもりはないよ。生きて帰れば英雄なんだ、もう女性にモッテモテだろうしね♪」
「少尉殿はそんな理由か」
　舌打ちして目を逸らすシン。が、目を逸らした先でわなわなと震えているリェンを見てしまう。
「来たぁああああーーーーっ！！」
　絶叫である。行き交う人々の視線が痛い。
「待ってなさい宇宙！　待ってなさい未来！　立ち塞がるは叩いて潰し、必ずあたしが辿り着いてみせるっ！」
「おまえ‥‥バカか？」
　唖然とした様子のシン。リェンは全く気にせずきらきらした笑顔を浮かべている。
「意気込み結構。早速だがこれより第二隊はULTの傭兵との模擬戦を行う。先ずはおまえ達の実力を見せてもらうぞ」
「第一隊は冴木　玲が居るんでしょ？　僕はそっちと模擬戦が良かったな。お近づきになれたかもしれないのに」
「そこにも女はいるぞ、少尉殿」
「いやあれはちょっと遠慮しとくかな☆」
　四機並んだ天に駆け寄り、愛機に頬ずりしている女が一人。男三人はその様子に苦笑を浮かべ、各々の機体へと歩き出すのであった。

●参加者一覧

●リプレイ本文

●前
　模擬戦が行われる廃墟の外、並んだ傭兵達のKVの足元に即席の待機所がある。そこへ廃墟から引っ張ってきたカメラの映像を彼らはじっと眺めていた。
　現在OF第二隊との模擬戦、その前半戦が終了した所だ。彼らと交戦したA班もOF隊補給の間にこちらで映像を確認していた。
「なんていうか、退屈しなさそうな隊ですね、軍曹」
「‥‥本当にそう思うか？」
　映像を見ていた石田　陽兵（gb5628）は肩を並べていたシンに苦笑気味に問いかける。が、シンは疲れ果てた顔をしていた。
「この調子では先が思いやられる‥‥」
　映像を撒き戻しながら溜息を一つ。陽兵はシンと共に再確認する為、映像を撒き戻すのであった。

「ＵＰＣお抱えの特殊部隊か。色々と勉強させて頂こうかな」
　廃墟の端で呟く鳳　勇（gc4096）。南側に並んだKVは四機、こちらは傭兵達の物だ。
　向かい側に当たる北側にはOF隊のKVが同じく並んでいる筈。今は戦闘開始の号令を待っている状態である。
「ＯＦ第二隊の諸君、始めまして。鳳勇だ。お手柔らかに頼むよ」
「今回はよろしく頼む。模擬戦とはいえ新型の天。本気で行かせてもらうぞ」
　勇に続き声をかける高林　楓（gc3068）。それにOF隊も応じる。
「OF隊隊長ハロルドだ。スポーツマンシップに則るかどうかは分らんが、宜しく頼む」
　挨拶もそこそこに合図と同時に動き出す両チーム。一丸となって傭兵達が行動開始する一方、OF隊は即散開という動きを取る。
「ありゃ、即散開かよ」
「OF第二隊か‥‥」
　待機所で映像を眺めるエイラ・リトヴァク（gb9458）。白鐘剣一郎（ga0184）は口元に手をやり言った。
「最近ブルーファントムの噂を聞かないと思ったら、OF一隊に冴木が配属されているとは」
　傭兵A班に対し迎撃の構えを取ったのはハロルド機のみ。ロケットランチャーを連射し傭兵達を散らす。
「ともあれ、まずは彼らのお手並みを拝見しよう」
　連続して着弾したミサイルだが傭兵を狙ったというよりはばら撒いただけと言う印象である。対処の為にある程度開けた物の傭兵達は互いの距離を維持。
「さて、色々本気出すとするねえ‥‥」
　巨砲による迎撃を行うハロルド機。地堂球基（ga1094）はビルの陰に身を隠しつつ呟き、バルカンを手に移動を開始。楓はハロルド機にショルダーキャノンを撃ち込んだ後、盾を構え正面から接近して行く。
「高林　楓、パラディンで参る‥‥！」
「真正面からとはな。お誘いは受けさせて貰う」
　対戦車砲の攻撃をその身で防ぎつつ前進する楓。そのやや後方で同じく対戦車砲を構えるクローカ・ルイシコフ（gc7747）。
「『一方ロシアは町ごと吹っ飛ばした』ってね」
　やたらと砲弾を撃ち込んでくるハロルドに通じる物を感じないでもないが、今は関係ない。砲撃支援を開始しようとしたその時‥‥。
　何処からか飛来した銃弾がクローカの機体に命中する。狙撃だと言う事は分るが、既に敵は姿を眩ましている。
「狙撃‥‥少尉か」
　ビルを背にスナイパーライフルを手に取る球基。反撃しようと試みるが相手は姿を見せない。
「全員打ち合わせと違う動きとは恐れ入った‥‥！」
　ビルの陰から盾を構え飛び出してくるシン機。ハロルド機を庇うように盾を地に刺し、砲座代わりにガトリングを構える。
「隠れていただけか？　どういう事だ？」
　見ればシン機が出てきたのは姿を消したのと同一の場所だ。呟きつつレーザーキャノンで攻撃する勇、その側面からリェン機が飛び出してくる。
「あれ、シンいないじゃない！？」
「阿呆、おまえが右からって話だろ！」
「え？　左じゃなかったっけ？」
　何て通信しつつ大型のクローを伸ばしてくる。勇は旋回気味にストライクシールドで爪を弾く。
　身を引いたリェンに対し機槍を構え一息に繰り出す勇。リェンは滑るような動きで身を捩り、繰り出された槍の柄を掴むと勇機を引き寄せる。
「そんなの刺さったら壊れちゃうでしょ！」
　アッパー気味に繰り出される爪に斬り付けられる勇機。続けリェンは球基に向かうが、煙幕銃を使用し後退。そこへクローカがマシンガンを連射する。
「もう、見えないよっ！　邪魔！」
　ビルの陰に隠れたリェン機へ対戦車砲を放つクローカ。爆風で崩れるビル、直後再び狙撃による銃弾が飛来する。
「どこからだ‥‥！？」
　狙撃手を探す球基。見れば煙幕が使用されている場所があるが、それは二箇所で使用されている。
「シン！」
　ハロルドは盾を構え前進する楓へとロケットランチャーを乱射。その着弾に続きシン機が盾と剣を手に襲い掛かる。
「とかやってる間に合流してみたり☆」
　更にシン機の後方、キアラン機が狙撃銃を構える。シンは正面から体当たりで楓のパラディンごと転倒。開いた斜線をハロルド、キアランが攻撃に利用する。
　球基、勇はこれに対しビルの陰に隠れつつ迎撃。楓はシン機に押し倒されたまま力比べの様相となる。
　リェンを見失ったままのクローカは止むを得ず味方を援護しようと振り返り‥‥直後、衝撃で機体が転倒する。
「急にどこから‥‥って、上！？」
　倒れたビルを足場に飛びついてきたリェン機に踏みつけられた、それが事の顛末。
　リェンはクローカのノーヴィ・ロジーナを片足で踏んだまま拳銃で背後から球基を攻撃。振り返り構えた得物も狙撃で弾かれてしまう。
「という状況だけど、まだやるかしら？」
　銃口を向けたまま微笑むリェン。結果、終始OF隊優勢で前半戦は決着するのであった。

「マンニュアル通りの戦闘‥‥と聞いていたんだがな」
　映像を見終わった所に楓が歩いてくる。シンは肩を落とし一言。
「俺はそうしたかった。むしろそちらの方が‥‥だったな」
　と、補給と簡単な修理が終わったと声がかる。引き続き後半戦へ向け彼らも準備に散るのであった。

●後
　後半戦、傭兵達B班の四機は前半戦と同じく肩を並べていた。
「個別には優秀‥‥だが、如何せん隊としての纏まりはまだこれからか」
「前半の動きは見てたけど、あんまりアテにはなんねぇかもな」
　剣一郎の声にエイラが続く。様子を見ていた彼らだからこそ連中の出鱈目さが良く分る。
　だが先程は運が良かっただけとも言えるだろう。連中の噛み合わない挙動が幸運に作用したと言うだけの事。
「さっきの様子だと、少尉の狙撃と曹長の奇襲に注意すれば‥‥って感じだけど」
　呟きつつ正面を見据える陽兵。そんな彼らの様子をA班は待機所で見守っていた。
「突然披露されただけで、計画的に組織された隊だと思ってたんだがな‥‥」
　腰に手を当て呟く球基。しかしこの様子ではテキトーな寄せ集め部隊である可能性が濃厚である。
「まあ、お偉いさんも上の方を早めに手を付けないと拙いという危惧なんだろうけど」
「とにかくしっかりと見せてもらおう。実際に戦って見るのと、外から見るのとでまた見えるものが違うものだしな」
　画面をじっと見つめる楓。ふと気付き、周囲を見渡す。
「ん？　クローカはどうした？」
「ああ、クローカなら‥‥」
　煙草に火を点けつつ目配せする勇。クローカは高台に膝を着いた愛機の上で戦闘開始の合図を待っていた。
「さてと‥‥」
　待機中の傭兵達の中、米本　剛（gb0843）が機体を一歩前進させ剣を掲げ語りかける。
「インファイトの天才と謳われるリェン・ファフォ曹長、一手御教授願えますか？」
「あら、決闘の申し込み？　それともデートのお誘いかしら？」
「さて、どちらでしょうな？」
　笑みで応じる剛。嫌な予感しかしないシンはリェン機の肩を叩く。
「おい‥‥まさかおまえ‥‥」
　直後、戦闘開始の合図が送られる。リェンと剛は同時に動き出し、それぞれ仲間から離れていく。
「おいバカ！　今度こそちゃんとやるんだろ！？」
　シンの悲痛な声が響くが完全に無視である。結果、互いに三対三の様相となった。
「手前勝手で申し訳ありませんが、彼女の相手は自分が勤めさせて頂きます」
「いいだろう。今回はこちらもセオリーに囚われず仕掛けてみようか」
　剛の言葉に応じ動き出す剣一郎。直後OF隊はキアランの使用した煙幕に包まれていく。
　白煙からと飛び出してきたのは無数のロケット弾。狙いは出鱈目で、牽制或いは陽動の意図が強い。
「そっちがその気なら！」
　折り畳まれていた砲身を伸ばし、ショルダーキャノンを放つ陽兵。こちらも狙いは勘である。
　爆風で煙が晴れると歪んだ盾を構えたシン機が飛び出してくる。それに応じるのはエイラのスカイセイバーだ。
「盾を構えた突撃‥‥教科書通りなんだよ！」
　シン機へ接近したエイラはソニックネイルを握りこんだ拳で殴りかかる。二機はそのまま白兵戦へと縺れ込んだ。
　ハロルド機はこの格闘を迂回しビル陰から対戦車砲を構える。それに気付いた陽兵はアサルトライフルで反撃しつつ同じく物陰に移動した。
　石田機を援護する為に動く剣一郎のシュテルン・G。その側面からキアランの狙撃が襲うが、剣一郎は機刀を振るい弾丸を切り払う。
「そっちか」
「何で防いだの？　不意打ちなんだけどな」
　気付かれた直後再び煙幕を使用、身を眩ますキアラン。剣一郎はそれに対しその場で跳躍してみせる。
　僅かに、そして一瞬だけの浮遊。しかしビル陰で屈んでいたキアランを発見する。
　落下しつつレーザーガンで攻撃し、そのままキアランを追う剣一郎。振り切れないと悟るとキアランもガトリングで迎撃の姿勢を取った。
「インファイトの天才ねぇ‥‥。どこの誰が言ったか知らないけど、悪い気はしないわね」
　一方、味方からはやや離れた大通りで対峙する剛とリェン。リェンは微かに笑い、それから問う。
「もしかしたら壊しちゃうかもしれないけど恨まないでよね。決闘ってのはそういうもんでしょ？」
　マシンガンを捨て剣を構えるオウガ。リェンは天の装甲を全て排除し同じく拳銃を放り投げた。
「じゃ、そういうわけで」
「いざ‥‥尋常に！」
　動く二機。リェンが繰り出す爪による連撃に細かく刃を振るい対応する剛。打ち合いと言うよりは互いに一撃を当てるという戦いで、繰り出される刃は互いを捉えるに至っていない。
　オウガの繰り出す剣に続き繰り出される不意打ちのソードウィング。リェンはそれも対応し回避、左右の爪でいなして対処する。
「へぇ、やるじゃない！　ったく、パワーじゃ完全に負けてるわね‥‥！」
　そう、機体の力では剛が優勢。決して彼の繰り出す攻撃は生半可ではない。リェンがそれに食いついている理由があるとすれば、それは――。
「噂通り、ですか‥‥！」
　ツインブーストを発動させ鋭く踏み込む剛。繰り出される一撃はこれまでとは違い必殺を込めた大振りだ。
「うそ、まだ早くなるの！？」
　避けられず片腕のクローで受けるリェン。しかしそれでは受けきれない。
　片腕を切り裂く刃が首に届くより早く屈み、地を滑りスピンするように足払いを繰り出す。が、剛はこれを回避。リェンが体勢を立て直す前に再び刃を繰り出すのであった。
「ちょ、無理無理無理無理！」
　というのはキアランの叫びだ。突撃してくる剣一郎に成す術もなく一瞬で組み伏せられてしまった。倒れた機体の首筋に刃を突きつけられ、コックピットでお手上げのポーズ。
「チェックメイトだ」
「いやぁ、降参☆　わけがわからないよ、あんた」
　と、同時に後方で爆炎が上がる。ロケットランチャーで燻り出された陽兵はハロルド機に向かって突き進んでいる所だ。
「こうなったら‥‥こいつを使わせてもらう！」
「む？」
　試作剣「雪村」を手にハロルドへ向かう陽兵。これにハロルドも前進、槍を繰り出し二機の攻撃は互いを引き裂いた。その結果、倒れたのは陽兵であった。
「まだだ！　まだ終わってねえ！」
　しかし振り上げた拳をコンソールに叩き付ける陽兵。するとグロームは息を吹き返した‥‥が。
「そのくらいにしておけ。どちらにせよもう決着だ」
　ハロルド機の損傷も軽くはなく、戦闘継続には支障を来たすだろう。ハロルドに助け起こされた陽兵はエイラの戦いに目を向ける。
　電撃を纏った一撃がシン機を襲い、シンは盾で受けそのまま盾を放棄。反撃の刃をエイラは爪で防ぐ。
「それでも武士かよ。そんなんじゃ読まれんぞ、堅物」
「ふん、安い挑発だ」
　更に繰り出される斬撃。エイラはこれを蹴りで弾き飛ばし爪を繰り出すが、シンはいつの間にか手にしたナイフを同時に繰り出していた。と、その時。
「もういいだろう。こちらは三機戦闘不能、我々の敗北だ」
　互いに寸止めの状態で停止するエイラとシン。結局終始冷静だった二人は大人しく刃を下げるのであった。

「あーあ。結局さぁ、終始滅茶苦茶だっただけじゃない」
　後半戦も終了した待機所。件の映像を見終わるとクローカが溜息混じりに呟いた。
「しかしまあ、この編成で目指すのは楊陸戦てなとこかな？」
　板チョコを咥えながら伸びをするクローカを横目に球基が言う。しかしハロルドは首を横に振った。
「まだそれすらわからんよ。彼の言う通り滅茶苦茶だったが、まあそれがわかっただけでもよしとするさ」
「俺もいい経験をさせて貰ったよ。自分の欠点を把握するのは必要な事だからな‥‥」
「気付いた事は纏めておいた。後で提出しておく」
　楓と勇に礼を言って頷くハロルド。一方‥‥。
「むきー！　こんな狸みたいな日本人にこのあたしが負けるなんて絶対許せないーっ！」
　リェンは剛の腹部に抱きつき頬ずりしていた。そこへシンが駆け寄りそのままリェンを蹴り倒す。
「何してんだバカ」
「慣れない天だから負けたんだからね！　そうでなかったらこのあたしが！」
　リェンは涙目で剛を叩いている。シンはその背中に告げた。
「‥‥怒っていいぞ。というか、怒ってやってくれ」
「たーーーぬーーーっ！！」
　何か叫びながらシンに引き摺られていくリェン。こうして無事‥‥？　波乱の模擬戦は終了するのであった。