タイトル:【BS】暴走列車Bマスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/10 22:05

●オープニング本文


●Runaway Train
 荒野を駆け抜ける列車。
 その先に見える同じ線路を走る列車を視界に、ライフル銃を構えた男が目を細める。
「衝突まで時間がない、何か方法は――」
 男の言う様に、2つの列車はあと少しで正面衝突する。
 残された時間は少ない。
「この先に使用されていない線路があるわ。そこに入れれば、衝突の回避ができるかもしれない!」
 男と行動を共にしていた女が叫ぶ。
 彼女は窓から身を乗り出して前を見据えた。
 その先に在るのは彼女が口にしたもう1つの線路だ。
「あ、あれ! あのレバーを撃って!」
 彼女が指差したのは、別の線路に列車を導くために使用されるレバーだ。
 アレを動かせば列車は他の線路に移動するはず。
「了解した」
 男はそう言うと、女が身を乗り出すのとは反対の窓から身を乗り出した。
 そうして構えたライフルがレバーを捉える。
「衝突まで1分を切ったわ、早く!」
「そう焦りなさんな‥‥――百発百中、一発で決める!」
 ニッと上がった口角。それと共にトリガーが引かれ――

 ガタンッ‥‥。

 目の前を物凄い勢いで列車が横切って行く。
 それを視界に留め、男はホッと息を吐くとライフル銃を下げた。
「‥‥後は、この列車を止めるだけだな」
「確か先頭車両に列車が暴走した原因があるはず。急ごう!」
 2人は窓から身を戻すと、顔を見合わせて先頭車両へと駆け出して行った。

●Director
「あーん、面白かったわぁん♪」
 テレビモニターの向こう。
 白のフリルシャツに、ピッチリの黒革パンツ。ピンクの髪を角刈りにしたガタイの良い男が、腰をくねらせて後ろを振り返った。
 そこにいるのは、体育座りをして同じモニターを眺める強化人間だ。
「あたし決めたわ。次の脚本は今の映画をモデルにするっ!」
「今の映画でありますか?」
「ありますか?」
 正反対に傾げられた首。
 まったく同じ顔で、真逆の動きをする強化人間を見ながら、彼は夢心地に手を組む。
「ええ、素晴らしいじゃないの〜♪ 荒野を駆ける2つの列車。それが間一髪のところで衝突を避けて横切る姿なんて、もうカ・イ・カ・ン(ハート)」
 確かに見た目が派手な上、演出も巧かった。
 それを考えれば彼の反応も相応と言えるだろう。
「この近辺に荒野はないから山間部を使えば行けるかしらね」
「マスター‥‥マイクは、何をすればいいのでしょう?」
「カメラは、何をすればいいのでしょう、マスター‥‥」
 再び傾げられた2つの首に、彼は人差し指を立てて見せた。
「ダ・メ・よ! あたしのことは、『ディレクター』って呼びなさい。それが嫌なら『ミス・クールビューティー』でも良いわよ♪ あら、結構いい呼び名だと思わない?」
「‥‥ディレクター、仕事をください」
「仕事をください‥‥ディレクター」
 どうやら、ミス(以下略)呼びは却下されたらしい。
 ディレクターはその反応を見ると、ふむと視線を泳がせた。
 そうして手の取ったのは愛用の万年筆だ。
 彼は400文字詰の原稿用紙数枚に話のあらすじを書くと、強化人間に差し出した。
「今回の脚本はこれよ。この通りに舞台を成功させて見せるわ!」
「了解です、ディレクター」
「ディレクター、了解です」
「ああん、想像しただけでゾクゾクしちゃう♪ 良い絵が撮れると良いわね〜♪」
 彼はそう言うと、キュッと締まったお尻を振って準備に取り掛かった。

●暴走列車B
 山岳部に敷かれた一本のレール。それを覆う小さなトンネルの上でカシェル・ミュラーは無線機を手にしていた。
 無線機の向こうでは既に列車を視認したらしい。配置についたままカシェルも担当する列車の到着を待っていた。
 今この一本しかないレールの上を二つの列車が進んでいる。問題はそれが同一方向への進行ではなく、互いに互いを目指し突き進んでいるという事だろう。
 手にした地図に目を落とすと、一本しかないレールがあるポイントで三本に分れ、それぞれ別方向へ向かっている地点がある。
 正面衝突を避けるにはこのポイントで切り替え様のレバーを操作し、別のコースに列車を進ませるしかない。
「しかしなんか‥‥ご都合主義って言うか、出来すぎてないか?」
 苦笑を浮かべつつ呟くカシェル。その時、無線機からノイズと同時に何やら軽快な音楽が流れてくる。
「あれ? キルトさん? もしもーし?」
『はぁ〜い♪ 残念‥‥あたしよ!』
 単刀直入に言うとオッサンの声であった。フランクな言い方をすればオネェ系の声だ。
「どちら様で?」
『あらん可愛い声! あたしはミス・クールビューティーこと『ディレクター』っていうの。やだもーこのやり取り二度目よ♪』
 眉間をもみもみしながら溜息を吐くカシェル。何かもう、慣れた。
『あらやだ、向こうのお兄さんもつれない感じだったけど、こっちもなのかしらん?』
「あの、ご用件は?」
『あらそうね。ぼうや、今どの辺りかしら?』
「トンネルの上で待機中ですけど」
『う〜ん、バッチリね♪ それじゃあイイコト教えたげる。ぼうやが止めようとしている列車についてよん♪』
 と、そこで漸く冗談の類ではない事に気付く。シリアスな表情でカシェルは言葉に耳を傾けた。
 話に寄れば列車は三両編成の貨物列車で、幾つかの大型のコンテナを積んでいると言う。
 そのコンテナの中には大量の爆薬が仕掛けられており、ついでに言えば線路の切り替えに成功した場合、列車は山を抜けて市街地の方に向かっていくという。
『要するに線路を切り替えるのは大前提。そこから更に列車の暴走を阻止しないと‥‥ドカン! って感じね♪』
「軽いノリで‥‥」
『でも大丈夫よ。先頭に居るキメラを倒せば列車は止まるから♪』
 素っ頓狂な声を上げ眉を潜めるカシェル。何故、それを教えてくるのだろうか?
『でもルールがあってね、運転室にいるキメラを倒すまでに三つの車両を切り離す必要があるの。それをしないで列車を止めようとすると‥‥』
「爆発ですか。どういう意図ですか、これは?」
『あたしはただ、ドラマチックなシーンが見たいだけよん♪』
 イラっとした様子のカシェル。油断すると無線機を握り潰してしまいそうだ。
『あ、そうそう。列車には二色のキメラがいるんだけど、倒していいのは片方だけよ。間違った方を倒してもやっぱり爆発するから』
「はあ!? どっちが正解なんですか!?」
『そこ教えちゃったら面白くないじゃなーい? そうねぇ、じゃあヒントを出してあげるわ♪』
 ディレクターからのヒントを必死に書き留めるカシェル。
『それと列車の中にカメラを持った強化人間がいるけど、それは倒しちゃ駄目よ? あたしの機嫌を損ねたら大変な事になっちゃうんだからね♪』
 通信が終了し、ノイズだけが聞こえるようになる。丁度列車がこちらに近づいてくるのが見えてきた。
「わけわからん」
 が、今はやるしかない。文句を言いつつもカシェルはトンネルを通過する列車へと飛び移るのであった。

●参加者一覧

遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN
猫屋敷 猫(gb4526
13歳・♀・PN
ハンフリー(gc3092
23歳・♂・ER
和泉 恭也(gc3978
16歳・♂・GD
月読井草(gc4439
16歳・♀・AA
雨宮 ひまり(gc5274
15歳・♀・JG

●リプレイ本文

●乗車
「映画の撮影‥‥わくわくするねー!」
 トンネルの上で待機する傭兵達。雨宮 ひまり(gc5274)の楽しげな声にカシェルは苦笑を浮かべる。
「いや、これは撮影じゃなくて本物の依頼なんだけど‥‥」
 話を聞いているのかいないのか、ひまりは両手で握り拳を作っている。
「しかし先程の通信、ジョニーさんと相性が良さそうな方ですね」
 というのは和泉 恭也(gc3978)の声だ。ジョニーさんについて思い出したく無いカシェルは遠い目を浮かべるだけである。
「どこかで見たシチュエーションだな。まあ、オマージュと言うことにしておいてやるか」
「映画の再現で爆弾列車を走らせるなんてふざけてるわね‥‥」
 ハンフリー(gc3092)に続き苦々しい表情で呟く遠石 一千風(ga3970)。とは言え従わざるを得ないのが現状だ。
「でも‥‥内容的に巫女さんはどうなんでしょうか?」
 先程から身なりを気にしてくるくる回っている猫屋敷 猫(gb4526)。確かに場に合わない格好ではあるが‥‥。
「あの、だからこれ撮影じゃなくて依頼なので‥‥」
「わ、分ってるですよ? 不本意ですが、ディレクターの機嫌を損ねる訳にもいかないですし!」
 少し慌てた様子で弁解する猫。カシェルが微妙な表情を浮かべていると丁度列車が迫ってきた。
 傭兵達は次々に列車に飛び移っていく。そんな中、そろりそろりと飛び降りたひまりが着地に失敗、いきなり落下しそうになる。
「ひまりさん、捕まって!」
 ひまりの腕を掴み手繰り寄せる一千風。抱き留めるようにして車両の上に転がった。
「すかさずか‥‥。カシェル殿、ひまり殿の護衛を頼めるか?」
「そうですね‥‥」
 ハンフリーの言葉に頷くカシェル。と、その時列車の進行方向上に何か居るのが見えた。
 何やら背丈の小さい少女が懸命に自転車を漕いでいる。列車の方が当然速いのでそれはぐんぐん近づいてきた。
「うぃーっす、カシェル!」
「月読さん、居ないと思ったら何やってるんですか!?」
「映画の女優さんになれるって聞いたんで急いでやって来たよ‥‥うぉうっ!?」
 自転車を列車に寄せて飛び乗ろうとする月読井草(gc4439)。しかし自転車は転倒、井草は勢い良く空に放り出された。
 それをカシェルと手を繋ぎ列車から身を乗り出した一千風が掴み、再び手繰り寄せる。
「前途多難ね‥‥」
「ですね。ところでこちらの方は?」
 恭也の声で振り返ると、車両の一番後ろにカメラを持った男が体育座りしていた。
「カメラは撮影中です‥‥お構いなく」
「なるほど、道中よろしくお願いします」
「飲み物とかいります? あっ、大丈夫ですか‥‥お仕事頑張って下さい」
 強化人間に挨拶している恭也とひまり。猫も彼へと会釈する。
「だから、撮影じゃなくて依頼ですからーッ! 先急ぎますよもうー!」
 カシェルの声が響く。こうして傭兵達は漸く戦いに本腰を入れるのであった。

●赤と青
 傭兵達の前に立ち塞がる無数のキメラ。それらはあからさまに赤と青の二色に塗り分けられている。
「列車衝突まで時間が無いわ。一気に突破しましょう」
 風で靡く髪を結い上げながら語りかける一千風。その声を受け傭兵達は武器を構える。
「倒す順番は‥‥ここは確か赤なのですよ!」
 猫の声を受けながら走る傭兵達。ディレクターのルールを護るのなら、ここで倒せるのは二色のどちらかのみ。
 一千風は赤の蜘蛛を両断。警戒はしていたが予想通り爆発は起こらない。
「このくらいの敵なら楽勝です!」
 同じくキメラを切り払う猫。しかし敵は小型で多数、うっかりすれば青のキメラも倒してしまうだろう。
 傭兵達は作戦通り必要なキメラを倒す者とそうでないキメラを抑える者に別れ、分断と殲滅を平行して行なう事に。
「しかし撮影の為だけに作ったのですか」
「ご苦労な事だな」
 盾を手に背中合わせに構える恭也とハンフリー。ハンフリーが余計なキメラを防ぎ、赤色だけを恭也に始末させる形だ。
 ハンフリーは短刀と言う取り回しのいい得物という事もあり、加減し青色キメラにもダメージを与えている。
「倒してはいけないのなら、倒さない程度に攻撃するという手もある」
「成程、確かに攻撃までは禁止されていませんしね」
 青色キメラを盾で吹き飛ばし列車から落としながらカシェルが頷く。
「今ので最後ですよ!」
「車両を切り離すわ、前の車両に移動して!」
 猫と一千風が最後のキメラを倒し前の車両へ飛び移る。車両と車両の間、連結部にはやはり二色のキメラが付着している。
「よし‥‥って、月読さん何してんの!?」
 井草は倒したキメラを片足で踏みながらカメラに向かってポーズを取っていた。
 カシェルは井草とひまりを担いで前の車両へ。恭也は振り返り腕を伸ばして叫ぶ。
「ほら、貴方も逃げないと! こっちです!」
 というのはカメラへと向けた言葉だった。強化人間も無事移動し、切り離しにかかる。
「よいしょ」
 下部にある連結部を射抜くひまり。最後尾の列車が無事に離れ、遠ざかっていく。
「『つぎはさかさま』だから‥‥今度は青です!」
 コンテナの色を指差し確認する猫。一千風は飛びついてくるキメラに刃を構える。
「行くわよ、爆発に備えて!」
 身構える仲間達を横目にキメラを両断する。一瞬緊張が走るが――爆発はしない。
「決まりだな、青だ」
 走り出すハンフリー。それに井草が続く。
「ひまり、そろそろ狙撃の準備だぞ!」
「そう焦りなさんなー。十中八九‥‥一発で決めます!」
 カメラに向かってポーズを取るひまり。井草も戻ってきてポーズを取っている。
「君達‥‥」
「撮られた映像は公開されちゃったりするのでしょうかね」
 わなわなと震えるカシェルの肩を叩く恭也。気を取り直し戦闘へ。
「そんな攻撃じゃ私を捉えることはできないのですよ! さあ、がんがん攻めるのです!」
 襲い掛かるキメラから身をかわし、次々に青キメラを斬り捨てる猫。一千風も先頭で舞うようにして次々にキメラを蹴り飛ばし刃を振るう。
「ひまり殿、切り替えは頼むぞ。護衛に集中したいのは山々だが、こちらも急がねばならないのでな」
「ひまりにはあたしがついてるから大丈夫だって」
 ハンフリーの声に剣を掲げて応じる井草。そうこうしている間に切り替えポイントが迫って来た。
 井草、カシェルの二名が狙撃の護衛につき、残りのメンバーは先へ進む為にキメラ殲滅を急ぐ。
「ひまりちゃん、まだ!?」
 揺れる列車の上、ひまりはぷるぷるしながら弓を構えている。
「引き付けてから撃たないと‥‥絶対に外せないから」
 とか言っている間にどんどんレバーは迫ってくる。流石にメンバーも不安になってきた。
「も、もう目の前まで来てるですよ!?」
「大丈夫‥‥ですよね?」
 わたわたと慌てる猫。恭也は冷や汗を流している。
「大丈夫だよ、昔っから射撃はとろいやつのが上手いと相場は決まってるんだから!」
「え‥‥とろいって‥‥」
 それが弓矢を射る時の言葉であった。
 矢は真っ直ぐにレバーを直撃。見事レールの切り替えに成功し、列車はギリギリで別の道へと進んでいった。
「ディレクター見てるー!?」
 手を振る井草とガッツポーズするひまり。カシェルは膝を着きながら呟いた。
「胃が痛い‥‥」
 こうして二つ目の車両を無事切り離し、傭兵達は次の車両へ向かった。

●加速
 三つ目の車両に関してはヒントから答えに確信が得られなかった事もあり不安もあった。しかし結果的には『赤』という答えで正解であった。
 最後尾からと全く同じ流れで順調に切り離しを終える傭兵達。そのまま無事に先頭車両、大型のキメラが待つ場所へ飛び移った時だ。
「‥‥っと、これは?」
「加速してるわ‥‥!」
 足元に強い衝撃が走りよろける傭兵達。列車は見る見る加速し、暴風のような風が吹きつけてくる。
『あなた達いいわぁ♪ ここまでパーフェクトだから、ご褒美に難易度アップしちゃう!』
 カメラが手にしたスピーカーから妙に上擦った男の声が聞こえてくる。
『完璧な展開も悪くないけど、ハラハラドキドキが無いとシナリオとしてはダメダメよね? この調子だと数分で街についちゃうから、是非とも頑張ってね! 応援してるわぁん♪』
 声が聞こえなくなり、僅かな沈黙が訪れる。
「ふざけてる‥‥っ」
 怒りを湛えた瞳でカメラを一瞥する一千風。恭也は苦笑を浮かべ、焦りを口にする。
「さすがに此処までやるとは‥‥いよいよ時間がありませんね」
「おまけにこの風‥‥下手に動き回れば振り落とされるぞ」
 腰を低く構えるハンフリー。正面には巨大なキメラが二体、足を車両に刺すようにして歩いてくる。
「悔しいけれどやるしかないわね。そんなに見たいなら、人間の力‥‥見せてやる!」
 立ち上がり刃を構える一千風。強烈な向かい風に髪を靡かせながら傭兵達は戦いを始める。
 蜘蛛は鎌のような鋭い無数の腕を振るい傭兵達を攻撃。これまでほぼ無傷で回避を続けてきた一千風と猫だが、思うように動く事が出来ない。
「おっと、ここから先へは行かせんぞ? お前の相手は私だ」
「防御は自分達が引き受けます。お二人は攻撃に集中して下さい」
 ハンフリーと恭也が防御に専念、無数の腕から来る攻撃を防ぎに入る。
「ここも色の制限があるです! 倒さなきゃいけないのは『赤』だけです!」
 しかし青のキメラが立ち塞がる。暴風に足を取られ苦戦している間にも景色は矢のように吹き飛んでいく。
 防御を担当する二人に練成治療を施す井草。カシェルは彼女に声をかける。
「月読さん、ひまりちゃんを支えられますか!?」
 頷く井草。更にカシェルは猫と一千風に叫ぶ。
「青のキメラを退かします! 恐らくそれが最後のチャンスです、何とか仕留めて下さい!」
 走るカシェル。立ち塞がる青のキメラが振り下ろした刃を盾で受け、巨体を強引に押し返した。
 同時期、井草は大剣を車両に突き刺しそれに背中を当て身体を固定。ひまりを背後から抱くようにして支える。
 一千風と猫が走り出した。押し返された青のキメラがその道を塞ごうとするが、そこへハンフリーと恭也が割り込む。
「行かせんと言った筈だ!」
 ついでに倒れかけたカシェルを片手で支える恭也。一千風と猫は高速移動で赤キメラへ迫る。
「手間取っている暇はない!」
「これで最後です――覚悟!」
 擦れ違い様に鋭く敵を斬りつける両名。姿勢を崩し倒れかける猫、一千風は限界を突破した動きで制動をかけ彼女に手を伸ばす。
「ひまり!」
「最後のキメラを倒すときはなんだか切ないね‥‥もし間違ってたら列車と運命を共に‥‥」
 しかし緊急事態なのでツッコミはない。ひまりは弓を構え、強風に逆らうように狙いを定める。
「大丈夫、最後はみんな一緒だよ」
 四本の矢が放たれた。それらは風に狙いを逸らされながらもキメラに突き刺さった。
 断末魔の悲鳴をあげ赤いキメラが倒れると青いキメラも力なく倒れこむ。一千風は猫の手を取り車両へ引き戻した。が――。
「まだ止まってないですよ!?」
 町が近づいてくる。
「一千風殿、ブレーキを!」
 誰の声かも確認せず一千風は車両に飛び込んだ。が、そこにあるのは未知の計器。ブレーキらしき物に手を伸ばし、一息にレバーを引いた。
 鉄を削るような轟音と共に車輪が火花を散らす。激しい衝撃が全員を襲う。
 列車は減速を始めるが間に合うかどうかは半々。見る見る町が近づいてくる。と、その時――。
 無理な加速と急停止が祟ったのか、列車は脱線。土煙を上げながら走行しつつ転倒し、派手に回転しながら止まるのであった。

●停止
「‥‥やれやれ、死ぬかと思いましたよ」
 上下逆様の状態で倒れた列車にもたれかかっていた恭也が溜息混じりに呟いた。
 列車が転倒すると同時に全員放り出され、今はそれぞれが散々な状態で倒れている。当然無傷とは行かなかったが、命に関わる重傷を負った物は幸い居なかった。
「皆さん、無事ですか‥‥?」
「不思議な事にな‥‥」
 額から血を流しながら起き上がるハンフリー。猫は立ち上がるとよろけながら列車へ向かう。
「一千風‥‥さん! 一千風さん!」
 気絶していた一千風に駆け寄りその身体を転倒した車両から引っ張り上げる猫。一千風は目を覚まし力なく笑った。
「大丈夫、生きてるわよ‥‥っつ!」
「怪我してる奴は回復するからこっちこーい」
 服の埃を叩きながら手招きする井草。ひまりはまだそのへんに転がっている。
「列車は一先ず爆発しないみたいですね。ここに放置も出来ないでしょうが」
 流石にこの有様だ、街の方も騒がしい。遠巻きに視線を送りつつカシェルは呟いた。
『ブリリアント! みんな素晴らしかったわ、お疲れ様!』
 無事なのはカメラもであった。頭に出来たたんこぶを押さえつつ奇妙な声が聞こえるスピーカーを突き出している。
『お陰でいい絵が撮れたわ。一人一人キスしてあげたい気分よ♪』
「誰だか知らないけど名監督だね。ラストホープ賞間違いなしだよ」
『あなたはちょっと目立ちすぎよ。カメラ目線すぎっていうか』
「そ、そんなぁ‥‥」
 肩を落とす井草。恭也は肩を竦め、疲れた様子で呟く。
「今度呼ぶときは普通の撮影のときに呼んでもらいたいものですが‥‥」
『普通なんてつまらないわよ? ドラマはいつも命懸けのシーンに生まれる物だから。次も期待してるわねん♪』
 通信が終わるとカメラは救急セットを置いて走り去っていった。
「本当になんなんだ、あれは‥‥」
「でも凄かったなー。まるで大列車強盗だね!」
 肩を落とすカシェルの隣で明るく笑う井草。カシェルはとても大きな溜息を漏らした。
 その後列車はUPCの手で安全に撤去される事となり、依頼は無事に完了した。
 撮影された映像はどこで公表されるでもなく、それを期待していた一部の傭兵は後でがっかりしたとか何とか。
 何はともあれ傭兵達は帰路に着く。彼らの戦いが映画になったのかどうかは分らないが、少なくとも傷ついた身体を支え合い歩くその姿は映画のヒーローに良く似ていた。