タイトル:【OF】紅蓮強襲マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/30 22:58

●オープニング本文


 プチロフは奇妙な組織だ。ウラル周辺を中心に、旧ソビエト連邦内の多数の工場施設や研究施設が複合している連合体ゆえに仕方が無いことなのかもしれないが、その全体としての意思決定プロセスは極めて複雑で、当事者ですら責任の所在が判らなくなる事も多いという。あるいは、それが国の風土なのかもしれないが。
 その日、宇宙へと打ち上げられたSES式R−7ロケットの総数すら、当初は不明だった。その先端に据えられていたのが有人の新型KVであろう事、そして成層圏を越え、低軌道に達した付近でその全機が撃破された事は、同社ではなく世界中の天文観測施設からの光学観測の報告で、まず明らかになった。
 その意図が実験であれ、威力偵察、あるいは新型のデモンストレーションであれ、結果を見れば、明らかに失敗だ。その日、同社の内部で幾人の管理者が人知れず席を去ったのか、誰も知る事は無い。ただ、数時間後に公式の場に姿を現した同社幹部は、「前任者」の汚名を雪ぐべく情報公開に務めると共に、勇敢な死者たちを無駄にせぬよう、広く協力を呼びかける、といった。
 ――墜落した残骸の多くは、同社の影響力の強くない地域に散らばっていたのだから、当然の事やも知れない。
「あー‥‥暇だな」
 S−01のコックピットの中、だるそうに腰掛けた男が徐に呟く。
 のんびり歩く三機のS−01。九頭竜小隊に所属する三名の隊員は大型のコンテナを両手で持ち上げて歩行していた。
 先日起きたプチロフの失敗だとか、宇宙に行くだとかそんな事には全く興味も関係もない彼ら。当然モチベーションなど上がるはずもない。
 宇宙に向けて様々な動きが活性化する中、九頭竜小隊は彼方此方に散らばった落下物の一つを回収する任務についていた。
 お約束のように回収しにやってきていたバグアのワーム隊ととりあえず戦闘になったものの、戦闘は傭兵の活躍で無事完了。現在は安全がある程度確保され、回収作業を手伝っている状況にあった。
「まあでもさ、こういう任務の方が俺達にはあってるじゃない」
「確かにな。戦闘は傭兵に任せて、俺達はこういう地味な作業をするのが適材適所という物だろう」
 同僚の情けない言葉に溜息をつく外山。だがしかし彼もその言葉には同感であった。
「俺達のS-01は荷物運びの為に存在しているのかもしれねぇなー」
 と、輸送ヘリの傍にコンテナを下ろす三機。その傍には膝を着いて停止している隊長のフェニックスがあった。
「あの女‥‥サボってやがる!!」
「いやー、仕事じゃないかな? そういえば隊長、たまにフラっといなくなるよね」
「だーから、サボってんだろ? けっ、ったーく‥‥こちとらこんなわけわかんねーとこまで来て荷物運びしてんのによ!」
「外山‥‥ちなみに俺達の本来の任務は回収隊の警護だぞ」
「それこそ傭兵にやらせりゃいいだろ? つえーんだからよ」
 再び墜落現場に徒歩で戻る三機。それと擦れ違いに玲子が足元を歩いて来る。
 玲子は三人に手を振った後、腕を組んだままフェニックスに向かっていった。
「そういえば中里、隊長って結局なんなのかな?」
「お、そういえばそんな話してたな。興味なくて忘れてたけどよ」
 二人の間に挟まれた中里は作業を進めつつ僅かに思案する。
「悪いが期待には沿えんかもしれん。ただの噂話だからな」
 中里はそう前置きをしてから特に表情も変えずに淡々と語り始めた。
「『デストラクト』という部隊の噂を聞いた事があるか?」
 曰く、その部隊は対バグアではなく対人間の戦闘に特化した特殊部隊であった。
 バグアに与する人間、或いは人間の中に紛れ込んだバグアを調査し、秘密裏に抹殺する‥‥そんな暗殺を請け負う部隊であると。
「高い戦闘力を持つ隊員で構成された少数精鋭の秘密部隊だ。ただ、その性質上かなりえげつない事もしていたらしい」
「あ‥‥聞いた事あるかも。『フレンドリーファイア』って言われてた部隊かな?」
「元々協調性のない集団だったらしいが、いよいよ暴走が酷くなってな。最終的には戦場で部隊内で殺し合いになり、自然消滅したという」
 中里の話が終わると微妙な沈黙が流れる。それから外山が溜息混じりに言った。
「で、その空想部隊と隊長がどう関係あるんだ?」
「ああ。だから、うちが『デストラクト』なんじゃないかって話だ」
 三機中二機の足が止まった。それから直ぐにまた動き出す。
「んなわけねーだろ! 全く少数精鋭じゃねえよ!」
「やっている事もお使いとか他部隊の支援ばかりだしね‥‥」
「厳密には『元』、だな。隊長はその部隊の生き残りで、使い捨てても構わない俺達が新しい壊滅部隊としてここに呼ばれたんだ」
 その口ぶりはまるで真実で、当然の事を語っているかのようだった。現実味を帯びた言葉に思わず黙り込む。
「噂話だからな、あくまで」
「わ、わかってるっつの! 俺は仲間を撃ったりしねえ!」
「何ムキになってるんだ? 俺はただ――」
 と、お喋りをしていた時であった。
 突然遠方に光が見え、直後三機のKVの直ぐ傍に攻撃が着弾する。光の砲弾で吹き飛んだ大地が空を舞い、三機は荷を手放し前へ。
「敵襲!? もう一通り殲滅した筈なのに!」
「クソッ、ついてねぇ‥‥来るぞ!」
 敵は少数のゴーレムに見えた。機銃を連射しながら前に出るS−01の足元、作業員達が退避して行く。
「時間を稼ぐぞ。内村、救援要請」
「真っ先にしたよ‥‥って、何だ? 見た目が違うのが居る」
 正面から突っ込んで来るゴーレムが一機。赤黒いカラーリングに塗装された機体は機銃を回避しつつ浮遊、低空を舞うように襲い来る。
「速‥‥!?」
 擦れ違い様、内村の機体が引き裂かれた。頭部、から肩にかけて装甲を削ぎ取られ、小さく爆発を起こしながら倒れこむ。
「内村‥‥てめぇっ!!」
 ブレードを振り上げ叫ぶ外山。ゴーレムは振り返りながら舞うように腕を振るい、S−01の頭部を薙ぎ払う。
 上半身が殆ど破壊されスピン気味に倒れる外山機。残った中里に敵が迫った時、側面から玲子のフェニックスが飛びついてくる。
「下がれ中里! 二人を頼む!」
 玲子のブレードを弾いて距離を取るゴーレム。左右の腕に装備した大型のクローを開き、砂を背にゆっくりと前進を開始した。

●参加者一覧

漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
天小路桜子(gb1928
15歳・♀・DG
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
ヨダカ(gc2990
12歳・♀・ER
秦本 新(gc3832
21歳・♂・HD
皆守 京子(gc6698
28歳・♀・EP

●リプレイ本文

●強襲
 ぷかぷかと浮かぶ紫煙。既に敵ワーム隊との一戦を終え、皆守 京子(gc6698)はコックピットのハッチを開いて一服している所であった。
「間もなく、回収も、完了‥‥。既に、撃退は、しましたし、割と、楽に、終わりそう、ですね」
「先の戦闘はこちらの圧勝であったと自負しているが、まだ油断は禁物だ」
 機体のコックピットで休憩するルノア・アラバスター(gb5133)にリヴァル・クロウ(gb2337)が注意を促す。事が起きたのは正にそんな会話の直後であった。
「敵襲‥‥!?」
 敵出現の報告から友軍機のシグナルがロストするまで間は殆ど無かった。文字通りの強襲に秦本 新(gc3832)は機体を旋回させる。
「こんなタイミングに‥‥いや、狙っていたのか?」
「また来たですか! 京子、煙草吸ってる場合じゃないのですよ! 急ぐのです!」
 走るヨダカ(gc2990)機からの声に慌てふためく京子。まだ火をつけたばかりの煙草を恨めしげに揉み消しハッチを閉じる。
「このタイミングで強襲してくるとはね‥‥用兵ってものが分かっているじゃないか」
「中々‥‥楽に、終わらない、ものです」
 鳳覚羅(gb3095)の声に頷きながら機体を進ませるルノア。傍に居た玲子のフェニックスが既に刃を交えているが、九頭竜小隊のS−01は既に二機撃破され無様に土の上に転がっている。
「‥‥! 撃墜されたのは九頭竜小隊の機体か」
「存外に頑張っていたからな。損傷もあったんだろう」
 リヴァルの機体に並走する漸 王零(ga2930)。ふと思い出したようにリヴァルへと告げた。
「そういや汝とのコンビは‥‥初めてか。頼むぞ、相棒」
「こちらこそ。当てにさせて貰う」
 傭兵達はそれぞれ機体を前進させる。玲子のフェニックスは紅いゴーレムに完全に圧倒されており、何とか凌いでいる状況だ。
「撃墜された機体も回収隊も敵に近すぎます。このままでは危険ですね」
「プロトン砲を撃たれれば被害は免れられませんね‥‥接近して圧力をかけます」
 紅いゴーレムの後方にノーマルタイプのゴーレムが五機。速度は先行する機体に比べれば鈍足だが、こちらに迫ってきている。
 切迫した状況を冷静に分析する天小路桜子(gb1928)。その言葉を受け新は盾を構え、ゴーレム隊へと前進する。
「アレは我らに任せておけ。さっき遊ばせてもらった分‥‥暴れさせてもらおうか」
「お願い出来ますか? では、わたくし達はゴーレム部隊を撃退します」
 紅いゴーレムへと突き進みながら微笑む王零。散開して迫るゴーレム隊へ向かいながら桜子は別方向へ進軍する。
 王零は紅いゴーレムへスラスターライフルにて攻撃。続けリヴァルもチェーンガンで攻撃しつつ玲子へ呼びかける。
「ここは我々が受け持つ。部下を救出して後退しろ。後退後は、回収部隊の支援を頼む」
「‥‥すまない、助かる!」
 玲子の撤退を支援するように構え射撃を行なうリヴァル。攻撃を左右の大型クローで受けながら突っ込んで来たゴーレムは王零へと襲い掛かる。
 突撃するゴーレムへ肩のコンテナを展開、大量のベアリング弾を放出し迎え撃つ。銀球の嵐を突き抜け高速で爪を振るうゴーレム、王零はその一撃を剣で受け止める。
 高速回転する刃が火花散らし踏み込んだ一撃がゴーレムを弾き返す。僅かに着地直前に浮遊し勢いを殺したゴーレムは左右に動きを振りつつ僅かに後退する。
「思い切りの良さだけは評価してやるか」
 微かに笑う王零。敵が下がった事により前進したリヴァルが束ねたチェーンガンの照準を合わせる。
 完全に突出した動き――それが無人機故の無謀さなのか、或いは操縦者の自信の表れなのか。
 確かに思い切りのいい攻めだった。戦術としては評価出来るだろう。だが――。
「これ以上、やらせん」
 二機が紅いゴーレムを抑えている隙にヨダカは破壊された二機へと迫っていた。
「はわっ、二人とも無事ですか! 結構派手にやられたですね‥‥」
「不思議な事に、五体満足だよ‥‥」
「クッソクソクッソ! あの野郎ナメやがってー!」
 撃破された二人の元気すぎる声に冷や汗を流すヨダカ。そこへ玲子と残った最後のS−01が合流する。
「すまないヨダカ、手間をかけるな」
「いいのですよ。実はヨダカもさっき無茶しすぎてしまったのです‥‥」
 機体の兵装を確認しつつばつの悪そうな表情を浮かべるヨダカ。先の戦闘で大暴れした所為で余力と呼べる物は残っていないようだ。
「でも、盾代わりにはなるのですよ。とりあえず巻き込まれて踏まれちゃったりしたら大変ですし、そろりそろりと引き下がるのです!」
「ああ、是非そうした方が良い」
 ヨダカ達の前に構える覚羅。情けない隊員達を横目に溜息混じりに語る。
「まったく、油断しすぎだ‥‥。君達は下がって作業員の撤退支援を。ここは、俺が抑える!」
「耳が痛いな。だが奴は強い、気をつけてな」
 玲子の声に頷く覚羅。実際、王零とリヴァルという実力者二人相手に件の敵は渡り合っている。
「あの紅いのがやはり面倒か‥‥最後まで気が抜けないね」
 撤退する味方を守るように、片膝を着き盾を構える破曉。複数の腕でチェーンガンを固定しその引き金を引く。
「これより支援射撃を行なう!」
 射程の長いチェーンガンで後方よりゴーレムを迎撃する覚羅。その横を走り抜け、紅いゴーレムと戦う二人のやや後ろで停止するのは京子だ。
「うぅ‥‥。残骸を回収するだけの簡単なお仕事だと思ってたのに‥‥」
 どんよりと重い溜息を吐き出しつつショルダーキャノンを展開。右へ左へ視線を向ける。
「あっちにもこっちにも敵‥‥それに‥‥」
 目の前で戦う三機は何やら凄い動きをしている。少しうんざりした気分になったが、気を取り直し前を向く。
「作業員の方々を守らないと。いくら稼いだって、人が死んだら後味が悪いですから――!」
 バラバラに墜落地点へ向かおうとするゴーレム達へ砲撃を開始する京子。砲弾吹き飛ばす砂と土を潜り、桜子のアッシェンプッツェルが槍を手にゴーレムへ迫る。
 加速の勢いを乗せて繰り出された一撃はゴーレムの胸に突き刺さる。そのまま僅かにゴーレムごと前進、槍を深く捻じ込んでから一気に引き抜き剣を手にする。
 桜子はゴーレムと刃を交え、その進攻を阻止。繰り出される大剣を剣で弾きつつ、周囲に視線を配る。
 高速でゴーレムへと接近、スラスターライフルによる射撃を加えつつ機槍を繰り出すルノア。
 槍はゴーレムの上半身を捕らえ、爆砕する。倒れるゴーレムから槍を引き抜き、次の敵機を目指しルノアは移動する。
「この、くらい、すぐ‥‥終わらせ、ます」
「もう一機撃破ですか。頼もしいですね」
 微笑む桜子。敵機から距離を置きアサルトライフルで攻撃すると、後方より京子の放った砲弾が命中。ゴーレムを吹き飛ばした。
「この調子ならゴーレムは問題なく殲滅出来そうですね」
 盾を構えて走る新のスレイヤー。前進しているゴーレムに側面から襲い掛かる。
「余所見をしている暇は、与えませんよ‥‥!」
 鋭く槍を振るえば緑色の軌跡を描く。振り下ろされる大剣を盾で受け流し、続けて槍を胴体に突き刺す。
 素早く後退する新と入れ替わりに覚羅の放つ弾丸が連続して着弾、がたがたと揺れながら倒れるゴーレムを横目に新は更に走る。
「自由にはさせない!」
 残るゴーレムへ覚羅が足止めしている間に駆けつける新。加速の勢いそのままにランスを繰り出すのであった。

●奇襲
「こらー! そこ何やってるですか!」
 輸送用ヘリに慌てて機材を詰め込んでいる作業員達に一喝するヨダカ。
「命あっての物種なのです! とりあえずそれは置いて逃げるのですよ!」
「しかし、これを回収するのが自分達の任務でありましてー!」
「敵をやっつけてから戻ってくればいいでしょう!」
 じたばたするペインブラッド。次の瞬間、その目の前で輸送用ヘリの一機が爆発、炎上した。
 慌てて残りのヘリに駆け寄り膝を着いて盾を構えるヨダカ。その機体を連続で弾丸が傷つけていく。
「あ‥‥うぅうっ!?」
「攻撃!? 一体どこから‥‥!?」
 振り返り走る覚羅。彼が敵の姿を捉えたのは戦線の遥か後方の岩山であった。
 走りながらチェーンガンを連射する覚羅。挟撃を仕掛けてきた敵は紅いカスタムゴーレム。手にしているのは狙撃銃だろう。
「まだ増援が居たのか‥‥! ヨダカ君!」
 ヨダカ機の損傷は決して軽くない。先の戦闘での無茶も祟り、歩かせるのがやっとの様子だ。
「‥‥くっ、これじゃヨダカもす〜ちゃんの事を言えないのですよ」
「ヨダカは私が守る。鳳君、奴を抑えられるか?」
「俺がやるしかないでしょう?」
 ヨダカ機から盾を借り、その前に構える玲子。覚羅は遥か後方の増援と射撃戦を開始する。
「やられた‥‥罠、警戒、してたのに。鳳さん‥‥!」
 二機目のゴーレムを撃破し反転するルノア。しかし更に増援が出現、一斉に放ったフェザー砲が傭兵達を襲う。
「更に前方から伏兵!?」
「敵の狙いは一体‥‥いえ、今は迎撃を」
 光の矢を盾で防ぎつつ新たなゴーレムへ向かう新。それに桜子が続く。
「出し惜しみをしていたのか」
 王零の呟きに苦々しく戦況を振り返るリヴァル。
 敵の動きは彼の策の通りには行かなかった。油断を誘う動きに敵は全く食いつかない。
 そこで状況を把握する。要するに先の戦闘も含め、初手のゴーレムはこちらの戦力把握の為の物。つまり――。
「あんたが強いのは、もう知ってるよ」
 抑揚のない男の声。大きく跳躍したゴーレムは両腕を地へ向け、無数の光の矢を一斉の放出する。
 光の雨に剣を構えて対処するリヴァル。更に回転しながら落下するゴーレムは爪を繰り出してくる。
 剣で受け、すぐさまそれを手放す。追撃の蹴りを片腕で受け、押し当てたチェーンガンの引き金を引いた。
「手を読まれていようと、機体性能だけは戦場で『掃除機』といわれる程度には良いのでな」
 後退するゴーレム。そこへ王零が追撃に向かう。
「ここは我にやらせて貰おう。幸い、先の戦闘では手の内を晒していないのでな」
 低空飛行で素早く襲い掛かるゴーレム。巨大な爪を広げる敵に対し、加速しつつ王零も拳を開く。
「逃がしはしない‥‥雷貫!」
 二機は正面から激突。王零はパワーで機体を押し込みながら拳から放電。更に拳を繰り出す。
「ブレイク・タルディ! これで‥‥終いだ!」
 繰り出した片腕でパイルバンカーが作動。連続して鋼鉄の杭を装甲に捻じ込んでいく。
 続け刃を翻し正面から鋭く突き上げる。高速回転する刃が装甲を引き裂き食い千切り、紅いゴーレムは後方に吹き飛んだ。
「‥‥己が敗北に恐怖しろ」
 ゴーレムは空中で制動、静止。片腕がもげ、胴体の半分近くが吹き飛び内部構造が露出している。
「めんどくせぇ。だから強い奴とはやりたくねぇんだ」
 片腕のフェザー砲で後方の友軍を狙うゴーレム。二人がその攻撃を弾くと同時、ゴーレムは飛び去っていった。
「紅いゴーレムは引きましたか」
 増援を射撃で迎撃する桜子が背後の戦況を横目に呟く。新は桜子が攻撃している敵へ背後から急行。高速でランスを繰り出す。
「そう簡単に‥‥通すかっ!」
 背に突き刺した槍を引き抜き横薙ぎに光を振るい首を圧し折る新。そこへ桜子の銃撃が加わり、ゴーレムは爆発する。
「りっちゃん達に、続く‥‥」
 ゴーレムのフェザー砲を高速で左右に移動し回避。ルノアは急接近し、擦れ違い様に機刀を横薙ぎに振るう。
 爆発音にも似た刃の軋みと同時に両断され沈黙するゴーレム。旋回しつつ次のゴーレムへ。
 フェザー砲を盾で弾きつつ背後に回り混み、機体毎回転する用に刀を振るう。袈裟に切り落とされたゴーレムは沈黙し、敵増援の姿は消滅した。
「‥‥こちらも引いたみたいだね」
 銃を降ろす覚羅。先程まで撃ち合いをしていたもう一機の紅も敗北を察して撤退したようだ。
「ヨダカ君、無事かい?」
「ヨダカは無事ですが‥‥」
 そう、ヘリを一機一瞬で破壊されてしまった。残りを守れたのはたまたま近くにヨダカと玲子がいたからである。
 丁度機材の積み込みを行なおうとしていた作業員の数名が負傷。死者は幸い居なかったが、輸送機を失った分持ち帰れる物も限られてしまう。
「あ、あのー‥‥」
 さてどうしたものかと首を捻っていると、そこへ京子のクノスペがのしのし歩いてくる。
「人員輸送用のコンテナを積んできたんですが、お役に立ちますか?」
 こうして二度目の戦闘が終了し、傭兵達は周囲の警戒を続けつつ再び集まるのであった。

●撤収
「一時はどうなる事かと思いましたが、何とか無事乗り切れましたね」
「そうですね‥‥」
 苦笑する新の声に桜子は口元に手をやり思案する。
 紅いゴーレムは有人機と見て間違いないが、他のゴーレムは無人機だった。しかも普通のゴーレムより『頭が悪く』感じられた。
 結局落下物には手を出さずあっさり引いた事もそうだ。何と無く目的が掴めないような、薄い疑念が残っていた。
「負傷者も一先ず無事のようで安心しました」
 今はリヴァル、ルノア、ヨダカら回復スキルを持っていた能力者が負傷者の応急処置を行なっている。それが終われば人員は京子のクノスペで、資材はヘリに押し込んで運ぶ予定だ。
「あの宇宙へ討って出る時が始まったか‥‥。そんな事考える時が来るとはね」
 膝を着いた機体の足元、回収された残骸を眺めながら呟く覚羅。そこへ玲子が片手を挙げて歩み寄る。
「鳳君、さっきは助かったよ。ありがとう」
「俺も少し油断していました。それにやはり、並の腕じゃありませんでしたね」
 あの距離からでも、あの一瞬でも、三機の輸送機を落とせたように思える。落とせなかったのか、それとも落とさなかったのか‥‥。
「だが君のお陰でヨダカも助かった」
 微笑む玲子。ヨダカは大人の男達相手にてきぱき指示を出しつつ治療を行なっている。
「大変でしたけど、無事に帰れそうで良かったですね」
 腰に片手を当て玲子に笑いかける京子。二人は何と無く見つめあう。
「ふふ、今回もボーナスは出ないがな」
「べ、別にお金ばかりじゃないんですよ? 人命救助も大事なお仕事です」
 笑いあう二人。何と無くお互い通じる物があるのか、和やかな様子だ。
「さて、君はもう一仕事だな。頼めるか?」
 頷きポケットから煙草を取り出す京子。今度の煙草も恐らくきちんと吸い終わる前に消されてしまう事だろう。
 空に微かに昇る紫煙。傭兵達は仕事を終え、星の落ちた大地から帰還するのであった。