タイトル:【酒泉】嵐の祭壇・地マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/25 05:13

●オープニング本文


――中国、酒泉市。

 この地で、大規模なバグア拠点が発見された。
 その場所はかつて中国軍が酒泉衛星発射センターが築かれており、宇宙という人類の未知なる世界の玄関口となっていた。

 
 現在、そこにはバグアの拠点として巨大なドームが聳え立つ。
 周囲に溶け込まず、異質な存在を誇示するバグアの城。

 この地に築かれた大規模拠点の目的とは何か。
 それは、まだ分からない。
 しかし、バグア拠点を黙って見過ごす訳にはいかない。

 UPC軍は――酒泉と呼ばれる地の奪還へと乗り出すのであった。



●攻城
「というわけで、攻める事になった」
 最寄の基地の会議室にお邪魔する形でミーティングを行なう九頭竜小隊。隊長の言葉に部下三人は唖然とする。
「何だその『そこに山があるから登る』みたいな言い草はっ!」
「否。そこに城があるから攻める、だ!」
「いや隊長、俺達はそういう事が言いたいのではなくて‥‥」
 相変わらず噛み付いてくる部下を宥め、玲子は咳払いを一つ。デスクの上に広げた地図に赤ペンを向ける。
「酒泉市付近には三つ、敵前線基地が存在している。規模は所詮前線基地だが、無視して進む訳にも行かない。我々はこの中の一つを攻略する作戦に参加する」
「前線基地か‥‥。この規模なら俺達にも不可能って事もないだろう」
「本気か中里。もう撤回させねーぞ」
「ちなみにこの作戦は三箇所を同時攻略するのがキモだ。よって失敗は許されん」
「やはり降りたい」
 同僚二人に同時に叩かれる中里。玲子は咳払いを一つ、仕切り直す。
「まあ例によって我々は傭兵と作戦を共にする。後方に本隊が控え、敵戦力を粗方排除した頃合を見て一気に基地を制圧するらしい」
「‥‥前から思ってたけど、俺達って本当に期待されてないよね。扱い傭兵以下じゃない‥‥?」
 内村のぼやきに玲子は資料の紙を丸め棒を作り、それで内村の頭を叩いた。
「構う事は無い。傭兵のKVと我々九頭竜小隊で十分落とせる規模だ。後の本丸攻略を考えれば戦力温存は当然だろう?」
 爽やかに笑う玲子。何と無く、この無根拠な笑顔に弱い。隊員達は渋々黙り込んだ。
「問題はこの基地が防御一辺倒と言っても過言ではない程、防衛能力に優れた基地であるという事」
 元は人類側の空軍基地であり、現在もバグアの空軍基地として稼動している目標。
 その周辺は防壁でぐるりと覆われ、プロトン砲、対空砲を備え、付近には地雷までばら撒かれている。
「うわっめんどくせっ」
「歩行形態で近づくには分が悪いな。爆撃は?」
「空軍基地だからな、HWがそこそこいる可能性がある。後は対空砲‥‥ま、歩いて近づくよりは多少マシか?」
「攻め方を少し考えた方がいいかもしれないな。他の敵戦力は‥‥」
 いつになく真面目な様子で作戦を立てる玲子と中里。玲子はいつも真面目だが、面倒臭がりの中里は珍しい。
「‥‥中里、何かあったのかな?」
「知らね。この間の負けが響いたのかもな」
「‥‥やられたの、俺と外山だけどね‥‥」
 顔を見合わせ溜息を漏らす二人。今回も楽は出来そうにない――。

●迎撃
「敵は斥候を送り込んでいますし、十中八九ここの攻略を目指し動き出す筈です」
 酒泉ドーム基地内部。作戦図を見つめ、郭源は口元に手をやり思案する。
 目立たないように動かしてきたこの基地が発見され、攻められる。それはこの地での戦いがバグアにとって劣勢に傾いてきた証かもしれない。
 この基地の持つ能力を考えれば、手放すには惜しく。そしてこのタイミングだからこそ、人類に奪われるのは避けたい。
「前線の防衛基地を三つ抜けて直接ここを攻撃するという事はないでしょう。となれば、まずはこの三つへの攻略‥‥さて」
 現地にも戦力はあるだろうが、果たして完全に任せて良い物だろうか?
 人類の持つ力、それは敬愛するドレアドルも認める所。そして郭源自身もまたこれまでの戦いでその本質に触れてきた。
 その力、認めざるを得ない。他のバグアはいざ知らず、自分は『油断』や『慢心』で敗北したくはない。そんな事は何の言い訳にもならない。
「――少し、面白くなって来ましたね」
「は‥‥?」
 傍で指示を待っていた強化人間が首を傾げる。郭源は振り返り首を横に振った。
「私のタロスの出撃準備を。我々も前線へ向かいます。今ならまだ間に合うでしょう」
「は。では我々もお供致します」
「そうですね、では二名程。残りはここの守りを磐石にお願いします」
 再び視線を作戦図へ。基地が三つ落とされれば丸裸、ここへ敵が到達するのは時間の問題になる。
 兎に角まずは前線基地を落とさせない事。策と呼ぶには及ばない至極当然の一手だが、それが成せれば進攻を遅らせる事は確実。
「少々乱暴な手‥‥それも良いでしょう」
 こんな時誓いを交わした兄弟が万全なら、三つの基地を均等に守れたのだが――無い物強請りに意味は無い。
 気を取り直し男は歩む。守る為に、今は攻めの一手を放つ為に。

●参加者一覧

飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
ヨダカ(gc2990
12歳・♀・ER
張 天莉(gc3344
20歳・♂・GD
ティナ・アブソリュート(gc4189
20歳・♀・PN
追儺(gc5241
24歳・♂・PN

●リプレイ本文

●荒野進軍
「地雷原に防壁、対空砲、プロトン砲にCWと爆装HWが複数。加えてゴーレム2機と『あの』タロスですか」
 戦闘機形態にて上空を飛行する四機のKV。飯島 修司(ga7951)は過去の戦いを思い返し、息を吐く。
「中々に厄介な状況ではありますな」
「こんなとこに何を隠してるのやら。雷光石みたいな大破壊兵器とかでないといいけど」
 修司のディアブロと肩を並べ飛行する赤崎羽矢子(gb2140)のシュテルン。彼らの視界には既に目的の基地が入っている。
 この前線基地を落とせば、この奥に控える酒泉バグアドーム基地の攻略の足掛かりとなるだろう。別働隊も既に作戦行動に入っている。失敗は、許されない。
「何の目的があってあのドームを建設したかは知らないけど‥‥とりあえず‥‥あの基地だね」
 人型形態で地上を走る鳳覚羅(gb3095)。その頭上を四機のKVが追い抜いていく。正面には荒野の城砦。遮蔽物のない道を七機のKVが走る。
「目的はどうあれ、立ち塞がるなら倒すのみだ。この面子ならやれる‥‥期待しているよ、傭兵諸君」
 フェニックスを走らせながら微笑む玲子。小隊の面々はそれに特に何も言わずただ黙って機体を走らせている。
「玲子さ‥‥九頭竜中尉、今回もよろしくお願いします」
 張 天莉(gc3344)の声にフェニックスの首が曲がる。片手を挙げ、なにやら物言いたげに距離を積めた。
「天莉君‥‥なんだか距離を感じるよ? 玲子さんでいいんだよ?」
「あの城壁、確かに守るには十分な体制ですね。一部分でも綻びを作ってこじ開ける感じでしょうか」
「天莉君‥‥天莉くーん!」
 悲鳴を上げる玲子。先行する天莉の天と入れ替わり、ヨダカ(gc2990)が機体を寄せる。
「ねぇ、きゅ〜ちゃん。やっぱり軍って機体選択の自由とかは無いのです?」
 ぱあっと瞳を輝かせる玲子。何度か頷き、楽しげに答えた。
「余っていたのを引っ張ってきたのだ。かっこいいだろう?」
「不死鳥COP二機ならシラヌイ三機買えるですのに‥‥」
 そんな二機の通信を聞きながら笑うレインウォーカー(gc2524)。地上のティナ・アブソリュート(gc4189)に声をかける。
「アレが噂の九頭竜玲子かぁ。中々面白そうな奴だな、ティナ。ボクも気に入ったよぉ」
「気に入るのは構いませんけど、だからっていじめちゃだめですよ?」
 肩を竦めるレインウォーカー。そのまま玲子に声をかけた。
「レインウォーカーだ。よろしく、隊長さん。いつもティナが世話になってるみたいだねぇ」
「むしろ世話になっているのはこちらの方だがな。傭兵諸君には全く頭が上がらんよ」
「そこに城があるから攻める、だっけ。そういうシンプルでストレートなの、嫌いじゃなよぉ」
「活路とは切り開く物。力を借りるぞ、レインウォーカー」
 上空で二人のやりとりを聞いていた追儺(gc5241)は苦笑を浮かべ、目標を見据える。
「相変わらずだな‥‥だが、その方が九頭竜らしい。力になろう、部下だけではなく、全員を守りきって勝利を掴む為に」
 正面、防壁で守られた基地からHWが上がってくるのが見える。そしてその中には指揮官機らしきタロスの姿もある。
「あの指揮官機、九州でも見たですね」
「あれは中々の実力者です。単機では仕掛けず、連携して叩きましょう」
 ヨダカの呟きに頷く修司。羽矢子はタロスを睨み、機体を加速させる。
「それじゃ、作戦開始と行きますか」

●空陸攻城
「やはり来ましたか。しかし覚悟する事です。容易く攻めさせる程、私の剣は甘くない」
 ケープ状の装甲を揺らしながら舞う郭源のタロス。先行し、基地へ向かう空戦部隊へ迫る。
「行き成り突っ込んできたか‥‥!」
 眉を潜める羽矢子。修司と共にまずは地雷原をフレア弾で焼き払う算段だったが、その為には減速し投下体勢を取る必要がある。
「奥にはCWか‥‥指揮官が単機で突っ込んで来るとは」
 CW展開していれば潰しに来るのは定石。であれば、郭源のすべき事はその妨害であるとするのが必然の流れ。
 それが結果的にフレア弾による地雷除去に対する牽制にもなっている事を彼が自覚しているのかは兎も角。
「この地は我が君の為に‥‥諸君ら仇華は、散るのが定め」
 両肩に並べたフェザー砲を連射するタロス。無数の光の矢は先行していた修司と羽矢子を襲う。
 二機はこれを回避。しかしこの調子ではフレア弾を投下している余裕など無い。
「これは、ボクと追儺で抑えるしかないねぇ?」
「‥‥ああ。集中攻撃で呼吸を乱すぞ」
 レインウォーカーと追儺が同時に郭源に仕掛ける。その隙に修司と羽矢子はフレア弾の投下にかかる。
「精密爆撃の必要はありません。隙は一瞬で十分です」
 レインウォーカーはGプラズマミサイルを発射。郭源はケープでそれを防御。続け追儺はスラスターライフルで攻撃を仕掛ける。
「今だ!」
 この隙にフレア弾が投下される。基地周辺に被らぬようにある程度絞って投下されたそれは地雷原を燃やしていく。
「地雷原を狙った爆撃‥‥となると、狙いは――」
 大地を睨む郭源。そこには遅れて到着した地上部隊の姿がある。しかし――。
「‥‥?」
 首を傾げる郭源。見ればヨダカの機体を先頭に、その後ろに九頭竜小隊のKVがぞろぞろ続いている。
「道が無ければ作ればいいのですよ!」
 ドーザーブレードで大地を耕しながら走るペインブラッド。その背中を九頭竜小隊が押している。
「手があいてるなら一緒に押して欲しいのですよ〜」
「ダセェ‥‥果てしなくダセェ」
「しかし、意外と安全に進める」
「遅いけどね‥‥」
 三者三様の意見を述べる隊員達。その更に後ろ、ティナが呟く。
「そういえば外山さんと内村さん‥‥無事で良かったです」
 振り返る二機のフェニックス。ティナは頬に手を当て微笑む。
「本当に‥‥玲子さんが悲しまずに済んで」
「ですよねー!」
 二人の声が重なる。と、そこで覚羅が基地を睨み声を上げる。
「お喋りはそこまでだ。本命のお出ましだよ」
 基地から出撃し、盾を構え低空を飛行する二機の黒いゴーレム。あまり距離をつめず停止し、そこからプロトン砲で攻撃してくる。
「ヨダカさん!」
 ティナはヨダカの前に出ると機盾槍を振るいプロトン砲を弾く。
「西洋刀に盾‥‥まるで騎士の真似事ですね。バグアに騎士道精神があるとは思えませんが――あるなら見せて頂きますよ」
 胸の前に槍と盾を翳し、構え直すティナのパラディン。その脇を抜け、地雷原を走破するのは天莉の天だ。
「自分に出来る事を確実にこなさなきゃ‥‥」
 大地を浮上し走行する事で地雷をかわして進む天の進行速度は速い。城壁を射程の捉えるが、同時に敵のプロトン砲も天莉を狙う。
 飛来する閃光を回避しながら移動、巨砲にて敵砲台を狙う。
「対艦荷電粒子砲「龍哮」‥‥これなら!」
 放たれた閃光は砲台を貫き爆発。天莉は続けて次の砲台を狙うが、ゴーレムが正面から突っ込んで来る。
 攻撃直後を狙われ、プロトン砲でダメージを受ける天。更にマントをはためかせ剣を振り上げるゴーレム、その横合いを覚羅の銃弾が殴りつける。
「生憎だけど‥‥全て薙ぎ払わせて貰う‥‥!」
 束ねた四門のチェーンガンがゴーレムに命中。ゴーレムは盾を構え天莉から距離を取る。
「‥‥味方が作った安全地帯はもう直ぐだ。そろそろ‥‥強引に行かせてもらう」
「うむ。私好みの戦略だ」
「ぶっぱは正義、キリッ! なのですよ!」
 覚羅と九頭竜小隊は射撃にて、ドーザーブレードを放ったヨダカはフォトニッククラスターにて正面を一斉攻撃する。
「出し惜しみはしないのです! お前達も地雷に巻き込まれろです!」
 断続的に響く爆発音。結果、彼らの正面には焦土が完成していた。
「なんと美しくない策‥‥しかし」
 道は開かれた。忌々しく地上を睨む郭源に修司と羽矢子が襲い掛かる。
 郭源は一度基地付近まで後退。同時にゆっくりとCWを前に出し、対空砲と重ねて傭兵達を迎撃する。
「こちらも四の五の言っている場合ではありませんね。死力を尽くすと致しましょうか」
「数で押してきたか‥‥ちっ」
 舌打ちする追儺をCWの怪音波が襲う。更に迫る無数のHW。しかし引き返し怪音波から逃れるのは簡単で、距離を取りCWを狙う。
「邪魔はしないで貰おうかぁ」
 レインウォーカーは大量のミサイルを射出。同時に複数のCWを狙い、追儺はその取りこぼしを丁寧に撃ち抜いていく。
 そうして二機がCWを処理すると羽矢子は対空砲火をかわし基地に接近。ロケット弾を発射し、施設破壊を狙う。
「行くよシュテルン! ここを制圧して、酒泉からバグアを追い出す!」
 迫るHW二機を擦れ違い様に翼で両断し、基地に炎をばら撒く羽矢子。郭源はそんな彼女を狙うが、修司の機体が立ち塞がる。
 一方地上ではある程度安全が確保された大地をそれぞれが進軍していた。
「漸く突撃出来るか。九頭竜小隊、敵施設を破壊するぞ!」
 四機編成で移動しながら砲台を攻撃する九頭竜小隊。同じく施設を攻撃するティナへ一機のゴーレムが迫る。
 ティナはゴーレムの剣を盾で受け、同じく剣で応じる。二機は互いの盾を打ち、ゴーレムはその周囲を舞うように飛びプロトン砲を放つ。
「決闘の真似事をする甲斐性はあるみたいですね」
 槍で光を弾き、マシンガンで迎撃するティナ。ゴーレムは素早く身をかわし再び斬り込んで来る。
「援護するですよ〜」
 そんなゴーレムにレーザーガンで攻撃するヨダカ。よろけたゴーレムの剣を交わし、ティナは剣を突き立てる。
「尋常の勝負とはいきませんでしたが‥‥これで!」
 刃を横に振りぬくとゴーレムは小さく爆発。飛行の勢いそのままに派手に転倒した。
「三つ‥‥四つ。これでプロトン砲は無力化しました!」
 砲台を連続して破壊した天莉。対空砲も羽矢子の手で片付き、今や基地の守りは防壁のみ。
 そんな天莉に迫るもう一機のゴーレム。天莉はプロトン砲を回避しながら弾切れの巨砲からレーザーガンに持ち変える。
「後はこいつさえ落とせば‥‥!」
 ゴーレムはレーザーガンの迎撃を盾で弾き、強引に突っ込んで来る。そのまま体当たりで吹っ飛ぶ天莉機。迫るゴーレム、しかしその足をの弾丸が貫く。
「‥‥今だよ、天莉君」
 天莉は腕に装備したクローをゴーレムに突き刺し距離を置く。次の瞬間覚羅の掃射を受けゴーレムは粉砕、爆発した。
「地上は大体片付いたみたいだねぇ」
 ミサイルを完全に打ち切ったレインウォーカー。CWは全滅、HWはまだ残っている物の数は僅かだ。
「問題は奴か‥‥」
 修司と交戦するタロスを睨む追儺。二機は時折交差しつつ空を疾走、激しく刃を交えている。
「やはりこの程度の戦力では御し切れませんか‥‥いえ、それでこそ面白い」
 機関砲を連射しながらタロスを追う修司。郭源はフェザー砲をばら撒きながら旋回、回り込んで剣を振るう。これに修司はソードウィングで応じる。
 交差する二機。眉一つ動かさぬ修司と微かに笑みを浮かべる郭源は対照的。しかしこうして交わるは二度目。
「一気に仕掛けるよ! 再生する隙は与えない!」
「左右から仕掛ける。レインウォーカーさん」
「お手並み拝見だねぇ」
 更に残りの傭兵三機が同時にタロスへ向かう。追儺が射撃で追い込み、距離をつめたレインウォーカーが真雷光破の一撃で空を焼く。
 タロスは空ごと照らす閃光をケープで掃い、接近し剣を繰り出す。ギリギリの所で身をかわし、機体を制御しつつレインウォーカーは敵を睨む。
「手強いな。だけどボクらも負けるわけにはいかないんだよ。そうだよなぁ、リストレイン」
 旋回しスラスターライフルで追儺と共に追い込みを掛ける。修司は射撃で敵を追いつつ、上昇から一気に敵目掛けて降下。
「仕掛けますよ、赤崎さん」
「これで――どうっ!?」
 二機の翼がタロスを十字に刻む。装甲を引き裂かれたタロスは空中で姿勢を制御、フェザー砲を散らしながら後退する。
「‥‥ここまでですか。認めざるを得ませんね、人の持つ輝きという物を」
「あたしは羽矢子。シュテルン乗りの赤崎羽矢子。あなたの名前は?」
「名乗る程の者ではありませんよ。私はドレアドル様の従僕。所詮、偽りの指揮官」
 微かに笑みを浮かべ、郭源は戦場を去っていく。それを羽矢子もまた追わなかった。
「縁が結べばまた会いましょう。気高き空の戦士達よ」
「相変わらずの引き際、ですか」
 遠ざかる敵を見送る修司。かくして残り僅かなHWも撃墜され、この小さな前線での戦いは幕を下ろす事となった。

●決戦の地へ
「こっちの露払いは終わったね‥‥他の2箇所はどうなったかな?」
 基地を制圧する本隊の様子を眺めながら呟く覚羅。残る二つの戦場でも恐らく決着が訪れている頃合だろう。
「順調な勝利だったな。これも君たちのお陰だ。感謝する」
 傭兵達に労いの言葉を送る玲子。そうしてコックピットのハッチを開き、遠くを見つめる。
「さて‥‥次はいよいよドームの攻略か」
「今回は運良く勝てたけどよ、次はどうなる事やら‥‥」
 泣き言をぼやく隊員達。レインウォーカーは片手をひらひらと振りながら笑う。
「お供の三人も頑張りなよぉ。負け犬になるのも犬死も嫌だろぉ。なら勝って生き残ろうじゃないか、お互いにねぇ」
 しかし三人ともあまり気乗りしない返事である。一方修司はタロスの消えた空を一瞥し、戦闘を思い返していた。
 二度交わった刃。敵も恐らくあの時同じ事を考えていただろう。三度目はない。恐らく次で、決着がつく――。
「‥‥ところで天莉君。玲子さんと。玲子さんと呼んでごらん?」
「玲子さん、まだ気にしてたんですか‥‥」
 苦笑を浮かべるティナ。こうして傭兵達は戦いを終え、それぞれ帰るべき場所へ戻っていく。それはバグアも同じ事――。

「‥‥前線基地は落ちたか。ならば奴らは直ここに雪崩れ込むだろう」
 酒泉のドーム型基地に帰還した郭源は司令室にて頭を垂れていた。
「申し訳御座いません、我が君。私が現場に居ながら‥‥」
「構わん。奴らが相応の力を持っていたというだけの事だ」
「は‥‥。次こそはこの郭源、必ずやご期待に副う戦果をご報告致します」
 彼が期待しているかどうかは兎も角、郭源にとってそれは誓いになり得る言葉であった。
 そう、次こそは――。胸に手を当てたまま、男は微かに笑う。
 何も言わず立ち去る背中。郭源は目を瞑り、踵を返す。
「次こそは、必ずや。ドレアドル様‥‥我が君よ」



 それぞれの思惑を絡め、戦いは決戦の地へと続く――。