●リプレイ本文
郁金香周辺では既に戦闘が開始され、多数のワームとUPCのKVが交戦状態に陥っている。
傭兵達はそんな銃声飛び交う戦場の中、敵の中枢へと向かっていた。
「倒せば、倒す程、いいの、です、ね‥‥」
地を駆けながら敵集団を捉え、ルノア・アラバスター(
gb5133)が呟く。一方空では乾 幸香(
ga8460)がレーダーに目をやっていた。
「味方の為に出来うる限りの時間を稼がないといけませんからね。その前提で間違いはありませんよ」
「そうと決まれば、片っ端から撃ち落としてやるのです! さあИたん、行くのです!」
「Иたんって‥‥あだ名改良されてるし」
並走する二機のペインブラッド。ヨダカ(
gc2990)の声にレインウォーカー(
gc2524)は眉を潜める。
「ティナ、怪我しないように気をつけろよぉ。まだお仕置きが済んでないんだしねぇ」
「な、なんだそのけしからん感じのやりとりは!?」
何故か食いつく玲子。ティナ・アブソリュート(
gc4189)も何とも言えない表情だ。
「‥‥来たか。先ずはあちらの出方を窺う。奴が出て来れば‥‥飯島氏、頼めるか?」
空からのリヴァル・クロウ(
gb2337)の声で飯島 修司(
ga7951)はふと顔をあげる。
「ええ。指揮官機とタロスは可能な限り早期に撃退しましょう」
物思いに耽ったのは一瞬だが、彼にはとても長い事そうしていたように感じられた。
思考の帳が落ちても警戒を緩めず機体を走らせる手足は、戦をまるで呼吸と同じ様に語る。
「我が事ながら、全く以って度し難い」
呟きは誰に語るでもなく、戦場の音に掻き消されていく。
「戦闘開始! 九頭竜少尉、そして小隊の皆さん、無事全員で帰ってきましょう!」
HWを捉え飛んでいく張 天莉(
gc3344)のリンクス。玲子は空を見上げながら剣を振る。
「階級まで下がってる! これでも中尉! あと玲子さんと!」
「玲子さん、まだその事‥‥」
ぽつりと呟くティナ。そんな微妙な緊張感の中、激戦へと身を投じるのであった。
「正面、HW三機。左右からも二機ずつ接近中です」
「さて、ワラワラ出てくるHWのお掃除ですね。数は多いですが一つずつ着実に落として行きましょう」
幸香の声にHWと交戦開始する天莉。遠距離からスナイパーライフルで仕掛ける。
「あくまで一機ずつ、戦況は膠着しているように見せかける」
それがリヴァルの策であった。地上戦力に重きを置き、一気に突破させる事で敵エース目を引く事。
幸い現状空にはHWの姿しか見えない。こちらが押しすぎなければ、敵の対応は地上に向く道理。
「どれだけの時間敵を引き付けておけるか分かりませんけれど、最善を尽くしますね」
HWの攻撃を回避しつつ飛行するリヴァル。その左に追従しつつ幸香はロックオンキャンセラーを発動する。
擦れ違い様、リヴァルと天莉は各々HWを一機ずつ撃破。しかしそれ以上の撃破に拘らず、命中の下がった敵からの攻撃をかわしながら飛び続ける。
「手加減しながらというのも、中々難しいですね‥‥!」
「先の一撃は良い手際だった。十分遂行出来ると判断する」
天莉の呟きに応じるリヴァル。そう、この作戦は信頼という軸で成り立っている。
互いにどこまで信じ、預けられるか。その言葉の真価が今、問われているのだ。
「地上班、複数のゴーレムと交戦開始。かなりの数です」
一方地上でも戦いは始まっていた。先陣を切るのはヨダカのペインブラッドだ。
「それでは掃除開始なのですよ!」
前方の敵集団目掛け、フォトニック・クラスターを使用。眩い輝きがゴーレムを飲み込んでいく。
「弱った敵ならCOPでも落とせるんだよ! おらおらー!」
「うわっ、外山が強気だ!」
「お前‥‥消えるのか?」
三者三様の面持ちで攻撃開始する小隊機。その突撃をルノアはスラスターライフルで援護する。
「小隊の、皆さんも、やる気、十分、ですね」
「覚悟を決めたみたいだな、お前の部下はぁ。いい顔してるよ、ホント」
ルノアの呟きにレインウォーカーが笑みを浮かべる。ヨダカの機体とペアを組み、敵陣へ突っ込む構えだ。
「良い事、です‥‥なので、援護、します」
無表情にサムズアップするルノア。意外と頑張る九頭竜小隊の戦いぶりに修司も関心した様子だ。
「人というものは、良くも悪くも変わるものですな」
「そうだな。強く願えば人は変われる。いつでも、どこでも」
微笑む玲子。ティナは未だにあの三人があまり好きにはなれない。だが玲子の言葉の意味はわかる気がする。
「必ず生き残って下さいね、せっかく拾った命‥‥こんな所で失くしては駄目ですよ」
陸での戦いは九頭竜小隊の期待されなかった健闘もあり、傭兵側が圧倒する形で進んだ。それに応じ、戦況も動く事になる。
「陸戦が押されている‥‥成程、再びの邂逅という訳ですか」
UPCのKVを切り裂き飛来するタロスが三機。その先陣で郭源は傭兵達の姿を捉える。
「上は一機で十分です。下の状況を打開します。私に続きなさい!」
「タロス確認。指揮官機と一機が陸に、一機がこちらに来ます。他、増援多数‥‥!」
敵の姿を捉える幸香。リヴァルは向かって来るタロスを迎撃する。
「ここからが正念場‥‥奴は俺が抑える」
「こっちは、私達、で‥‥!」
飛来するタロスを迎撃しに走るルノア。郭源のフェザー砲に剣を構えて耐えながらスラスターライフルを放つ。
「今日はこちらも加減は抜きです。これ以上、下がる所もないのでね」
両肩から無数のフェザー砲を放ちながら縦に回転する郭源。閃光で視界の全てが覆われた直後、ルノアの機体にタロスが突っ込んで来る。
「‥‥っ!」
蹴りで剣の守りを強引に開き、閃光を乱射しながら下がる郭源。そこに追いつき、修司が機槍を繰り出す。
舞うように回転しつつそれに剣で応じる郭源。槍が虚空を燃やし、剣の閃光が地を射抜く。すかさず二機は再び刃を交えた。
「また貴方ですか。フッ‥‥運命という言葉を信じたくなりますね」
距離を取り、地に足を着けるタロス。そのまま胸の前で刃を掲げる。修司は槍と剣、変則の二刀構えでそれに応じた。
「傭兵風情の身ではありますが、『竜王殺し』と言う大仰な呼び名に見合うだけの力はお見せ出来るかと」
戦士達は常に死に場所を探している。それは自らがいつか倒れる事を知っているからだ。
それは今日かもしれないし、明日かもしれない。しかしここであれと想い、祈り、刃を手に取る。
「戦とは戦士の華。我が誇りと忠義の刃を以って、貴方達を討ち滅ぼしましょう」
誰にも知られず死ぬのも良いだろう。だがせめてそこは渦中であれと願う。矜持であれと願う。誉れであれと願う。
「一騎打ち、と言うわけには参りませんが」
「然らば、尋常に‥‥!」
「――いざ、参られよ」
最期まで、戦士であれと願うのだ――。
「また敵の増援‥‥玲子さん!」
「心配するな、ちゃんと傍に居るぞ!」
新たな増援、ゴーレムに包囲される傭兵達。ティナはマシンガンで敵を迎撃しつつ玲子のフェニックスと背を合わせる。
「きゅ〜ちゃんの所は大丈夫です?」
「不思議とまだ生きてるよ!」
「それより数が多い‥‥さっきの、まだ行けるか?」
中里の声で弾数を確認するヨダカ。予定を鑑みても弾数にはまだ余力がある。
「囲いはこっちで突破しといてやる! お前達はタロスをやるんだろ? 道は作ってやるよ!」
「へぇ。出来るのかぁ?」
レインウォーカーの声に笑い声が返って来る。ヨダカは旋回し、迫る増援へ機体を向けた。
「お望み通り、ぷっぱなのです! フォトニック・クラスター!」
放たれた光が複数のゴーレムを巻き込む。それに続き九頭竜小隊のKV三機が機銃を撃ちながら突っ込んでいく。
「数撃てば俺だって!」
「流石にこれだけ撃てば落ちるだろ」
「さっさとくたばりやがれぇっ!」
三機がゴーレムの包囲網右のゴーレムを殲滅し始めると、反対側ではティナと玲子が走り出していた。
「こちらは私達でなんとかしよう」
「はい。皆で勝って‥‥生き残る為に!」
ゴーレムが放つプロトン砲を機盾槍で弾きながら前進、加速して突撃を仕掛けるティナ。
迎撃を受けながらも槍で次々に敵に打撃を与え、更にブーストしたフェニックスがそれに続く。
「乙女のエスコート、無碍には出来んよ」
ティナが槍でダメージを与えた敵機を次々にブレードで斬りつける玲子。囲いを突破した二機は振り返り、玲子は機銃を構える。
「今度はこちらでアシストする」
アッシェンプッツェルはハルバードに持ち替え、両手でこれを担いで走る。ゴーレムへ接近し、袈裟に叩き込んだ。
「はあああっ!」
槍斧で敵機を斬りつけ、勢いのままに機体を旋回させる。
「もう一撃‥‥これで!」
横薙ぎに減り込んだ刃が火を噴き加速する。鉄を引き裂く快音と共にゴーレムの上半身が吹っ飛んだ。
「やるじゃないかぁ、ティナ。九頭竜小隊も中々ねぇ」
ゴーレムを光の鎌で引き裂きながら進むレインウォーカー。後方では友軍が予想外に健闘している。
「Иたん、右から追い立てるのでよろしく頼むのですよ!」
「了解。あれをやるとするかぁ」
二機のペインブラッドは修司と戦うタロスへ背後から回り込んでいく。修司もそれを察知し、ディアブロを下がらせる。
「切り札をひとつ使うとするかぁ。いくぞ、ヨダカ」
「真のぷっぱという物を見せてやるのです!」
二機のペインブラッドは同時に郭源を狙う。
「せーのっ! Wクラスター、発射なのです!」
同時に放たれた広範囲を照らす光。郭源も逃れようとするが、いかんせん範囲が広すぎる。
「く‥‥視界がっ」
光から逃れて移動するタロス。それを修司が追撃する。
槍の一撃がタロスの肩を貫き、ケープを片腕ごとねじ切った。二機は移動しながら刃を交え、位置を変えながら接戦を繰り広げる。
「‥‥流石だな」
地上の様子に微笑むリヴァル。襲い掛かるタロスのプロトン砲を回避し、大きく旋回する。
「ロックオンキャンセラーが効いている今が好機ですよ」
「有利に動ける今なら‥‥!」
ミサイルを放ち、バルカンでタロスを牽制するイビルアイズ。天莉もこの好機を逃がさない。
「とっておきをお見せしましょう」
ミサイルから逃れようとするタロスをロックし、トリガーを引く。
「スナイプシステム起動‥‥マオ、狙い撃ちます!」
スナイパーライフルの弾丸はタロスに直撃。怯んだ所にリヴァルが一気に降下し仕掛ける。
擦れ違い様に翼で斬り付ける一撃。更に天莉、幸香が畳みかけ、これを撃破した。
「よし、後はHWを残すのみ!」
「引き続き敵機を妨害しますね」
既に加減は無用。空中ではHWの殲滅が加速度的に進行し始める。
「りっちゃん達は、やって、くれた‥‥なら‥‥!」
地上でもう一機のタロスと交戦するルノア。素早い接近、銃撃戦の応酬が続いている。
「次はこっちを援護するよぉ」
「片っ端から撃ち落としてやるのです!」
二丁拳銃でヨダカの突撃をアシストするレインウォーカー。ヨダカは何度か跳躍するように前進、側面からタロスに仕掛ける。
「貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いなのです、だから首置いてけなのですよ!」
光の鎌を翻し擦れ違うヨダカ。すかさず背後からレインウォーカーが飛びつき、練爪で敵を突き刺しつつ腕を掴み押さえ込む。
「捕まえたぁ」
「そこ、動かないで‥‥お願い」
スラスターライフルでタロスを狙い撃ちにしつつ走るルノア。接近し、ディフェンダーで斬りつけ離脱する。
「ゼロ距離照射の威力、心行くまで愉しみなぁ」
更にレインウォーカーが至近距離で真雷光破。吹っ飛んだ敵機を三機並んで滅多撃ちにする。タロスは哀れ、数秒後に爆散した。
「こんな事が‥‥」
残るタロスは郭源の一機のみ。修司はプロトン砲の光を剣で引き裂きながら最後の突撃をかける。
「しかし‥‥だとしても、私は!」
繰り出される刃を屈んで交わすディアブロ。そこから槍を構え、鋭く繰り出す。
一撃、二撃、三撃――連打、その数合計六撃。槍から薬莢を排出し、再びそれを構える。
「これで、幕です」
胴体を貫く一撃。爆発で吹き飛んだタロスは各所を誘爆させながら大地を転がる。
「く‥‥所詮、このあたりが私の器‥‥ですか」
「少々呆気ないですが‥‥戦場の幕引きとはこういうものでしょう」
ゆっくりと歩み寄るディアブロ。郭源は微かに笑みを浮かべる。
「勝手に、終わらせて貰っては‥‥困りますね」
片腕だけ、レイピアだけを持ち上げるタロス。
「しかし、余力は精々片腕程度かと」
「片腕あれば、守れる矜持もありますよ‥‥」
タロスは振り上げた刃を、自らの胸に向ける。
「去らば、我が君‥‥。貴方の従僕は、最期その時まで‥‥!」
自らの腕でコックピットを貫いたタロスは静かに光を失い動きを止める。修司はその最後を見届け目を閉じた。
「お終い‥‥でしょうか?」
「いえ、まだですよ。敵増援、更に接近中」
天莉の呟きに苦笑する幸香。タロスは倒したが、まだ敵は残っている。
「くそ、調子に乗って被弾しすぎたか‥‥!」
「やる気が、あるのは、良い事‥‥ですが」
「無理して死ぬなよぉ? お前達に死なれると色々つまらならくなるんでねぇ。絶対に全員生還するぞ。なあ、きゅーちゃん?」
背中合わせに構える小隊機。その傍にルノアが、そしてレインウォーカーとヨダカが集まる。
「おっ、お前にきゅーちゃんと呼ばれる筋合いはない! ティナ君はあげないからな!」
「れ、玲子さん‥‥」
本気で叫んでいる玲子に苦笑するティナ。修司もタロスの残骸に背を向け、刃を構え直す。
「決着までもう少しの辛抱だ」
「倒せる、だけ、倒して、帰る」
リヴァルの声にルノアが頷く。機体の損傷は決して軽微ではないが、彼らにはまだここに留まらねばならない理由があった。
空で、陸で、敵に向かって動き出す傭兵達。ここ郁金香での戦いも、間も無く決着を迎えるだろう。
その時まで、ここで戦い続ける。仲間達全員で、生きて帰る為に。
傷だらけの翼を背負い、戦士達は今日も戦場を駆けていく――。