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■オープニング本文 「花が欲しいのよねぇ」 開拓者ギルド受付嬢・深緋は通りすがりのマッチョ開拓者に呟く。 「買ってくりゃいいのか?」 対するマッチョ開拓者ももう慣れたもの。 唐突な深緋の呟きに動じる事無く小銭を確かめる。 「くれるならもらうけどぉ、欲しがってるのはアタシじゃないのよねぇ」 簪弄りながら、深緋、ちょっと不満げ。 その様子で、マッチョ開拓者はピンときた。 「あれだな。どっかのカップルとかが欲しがってんだろ」 深緋、そっぽを向いたまま頷く。 イケメン大好き簪大好きな深緋に彼氏がいないのは一目瞭然。 幸せそうなカップルを見ると、ちょっぴり不機嫌になるのだ。 もっとも流石にカップルを引裂こうとはしないのだが。 「この間の結婚式の話、覚えてる? ほら、会場が老朽化しちゃってたやつ」 「ああ、あれか。あんときゃいきなり羨ましい言われて俺の筋肉かと思ったな」 マッチョ開拓者、半月ほど前のことを思い出す。 その時が深緋に初めて話しかけられた時で、結婚式用の会場が老朽化したとかで、マッチョ開拓者も修繕に協力したのだ。 「あの会場、また壊れちまったのか?」 きっちり直したはずなんだがと首をかしげるマッチョ開拓者に、深緋は首を振る。 「あんた達のお陰で会場は以前よりも頑丈になったぐらいよぅ。問題は、会場を飾る花なの」 「‥‥買うお金がないのか?」 「お金というより、無理難題。綺麗な花を手折るのは心が痛むから、鉢植えで用意して欲しいらしいのよねぇ」 だったら造花でいいじゃないねぇと呟く深緋だが、造花はどんなに精巧でも作り物。 そこで式を挙げたら愛も作り物になってしまいそうだとか挙式予定の彼女がごねたらしい。 「銀の薔薇用意しろとかじゃなくて良かったんじゃないか?」 「なにそれ?」 虹色の薔薇だっけかとマッチョ開拓者、どこぞの童話を口にする。 童話の中でどこかのお姫様が恋人に、凶悪なドラゴンに守られた銀の薔薇を要求するのだとか。 それを取ってこれるかどうかで愛情を確かめるとか何とか。 マッチョ開拓者もよくは覚えていないらしい。 「流石に凶悪なアヤカシに守られた花じゃないけどぉ、このジルベリアで今の時期に鉢植えの花一杯集めるって、結構大変だと思うわよぅ?」 大分暖かくなってきたとはいえ、まだまだジルベリアの春は寒い。 雪道の残るこの土地で、会場一杯の鉢植えは果たしてどうだろう? そして輸送手段や会場の飾りつけも通常とは異なるだろうし、思いもよらないトラブルもあるかもしれない。 「花に囲まれて式を挙げたいって気持ちはわからんでもないよなぁ。俺の彼女も花好きだろうしさあ」 「?! ‥‥アンタにも彼女いるのぉ?!」 深緋、びっくりして簪落っことしかける。 確かに顔はそれなりに良いのだが、どこか無骨な彼に彼女がいるとは思っていなかった。 「いや、彼女が出来たらきっと花が好きだろうなあって」 未来の彼女を思ってか、マッチョ開拓者、頬を赤らめる。 「‥‥とりあえず、花集めてあげてちょーだい?」 妙な疲れを感じつつ、落としかけた簪を飾りながら深緋は依頼書を手渡すのだった。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
玄間 北斗(ib0342)
25歳・男・シ
シータル・ラートリー(ib4533)
13歳・女・サ
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)
14歳・女・陰
久藤 暮花(ib6612)
32歳・女・砂
アムルタート(ib6632)
16歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ●好みは完璧☆ 「はー、結婚式に飾る花なあ。まあ確かにせっかくの門出なんや、彩りは欲しいところやな」 天津疾也(ia0019)は照れまくる初々しいカップルを前にうんうんと頷く。 結婚式会場となるその建物は、使えないほど老朽化したことがあるとは思えないぐらい見事に補修されていて、美麗なステンドグラスが一際美しい。 「中々きれいなステンドグラスね。私の好みよ」 リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)が会場中央正面に大きく彩られたステンドグラスを会場の開け放たれたドア越しに見つめる。 「綺麗な花を手折るのは心が痛む、って気持ちはよくわからないけど」 好みの花ぐらいは聞いてあげるわよ? とリーゼロッテはカップルに向き直る。 あくまで余裕があればと付け加えながらも、特に花嫁の言葉によく耳を傾ける。 やはりこうゆう事には男性よりも女性のほうが夢を持っているようだ。 「やーれやれ‥‥ちょっとヤな事件あったしなー。まあさ、俺自身の気晴らしも兼ねてんだよな今回さ!」 軽くストレッチしてヤル気を出しながら、村雨 紫狼(ia9073)は先日の依頼を思いだしてか苦笑い。 それほどに嫌な依頼だったのなら何故受けたのか疑問に思うのだが、そこはそれ、開拓者。 意に添わぬ依頼でも受けなければならない時があるのだろう。 「ふ‥‥ふぅ、まだ、依頼の受付は間に合うかなぁ〜なのだ?」 深緋から現場を聞いて、慌てて駆けつけたのか。 手ぬぐいで長い髪を束ねた玄間 北斗(ib0342)が息を切らして到着。 膝に両手を突いて息を整えると、腰に下げたひょうたんがぷらぷら揺れた。 「大丈夫ですか‥‥? まだお時間はたっぷりあるようですよ‥‥」 まだ寒さの残るジルベリアで汗一杯で息を切らす玄間に、柊沢 霞澄(ia0067)は心配気に声をかける。 「花嫁さんの為に、お花をたくさん確保しま‥‥くー‥‥」 「おおっと〜っ?!」 花嫁に微笑んで、花を集めてくるといってる側から寝こけた久藤 暮花(ib6612)をアムルタート(ib6632)が抱き止める。 どうやら暮花は寝落ち癖があるようだ。 すぐにぱっと目を覚ましたものの、こっくりこっくり、揺らぎながら眠たげな瞳の暮花は何時また寝てしまうかわからない危なっかしさ。 「それじゃあ、お花探しに出かけますか♪」 シータル・ラートリー(ib4533)の合図で、開拓者達はそれぞれお花探しに出発☆ さてさて、50鉢ものお花は見つかるのでしょうか? ●花を求めて東へ西へ☆ まずはベタな所でジルベリアのお花屋さんを回るシータル。 「あの。お忙しい所すいませんが、よろしいかしら?」 忙しそうに切花を店先に並べる店員に声をかける。 店先と店内。 その両方をざっと見回したのだが、鉢植えは数個しか見当たらない。 切り揃えられ、色とりどりの布や紙で巻かれた切花は大量にあり綺麗だけれど、今回は不可。 50個の鉢植え在庫があるかどうか尋ねられた店員は、申し訳なさそうに首を振る。 だがそれはシータルも予想通り。 店内のスペースや売れ易さなどを考えても50鉢も常時店内に置いてあるはずがないのだ。 「それでしたら、10鉢ではどうでしょうか」 だから、店や倉庫に在庫のありそうな数に減らして交渉してみる。 店内にある3個のうち、一個はまだ花をつけておらず、花咲く時期はもうしばらく先との事で諦め。 そう、なんと結婚式は数日後に予定されているのだ。 シータルが予め飾る前の保管場所を会場の管理人に尋ねて判明。 だから、今咲いていて数日間枯れそうに無い花か、数日後に咲きそうな蕾をつけたものが望ましい。 店内の残りの二鉢は大分蕾が膨らみ始めたチューリップで、結婚式に問題なく飾れそう。 だが2鉢ではどうやっても少ない。 50鉢を集まった開拓者8人でざっと割っても一人頭6〜7個は欲しい。 「あの。大変申し訳ないのですが‥‥」 無理を承知で、シータルは事情を話して花屋の店員から仕入先を教えて頂けないか頼んでみる。 「特産品は無理でも、なにか結婚式に合うお花を分けて欲しいのだ」 ジルベリア帝国・タハル領。 玄間は以前の依頼で縁のある温室を訪ねていた。 十五棟もある温室には、色取り取りの花が咲き乱れている。 寒さの辛いジルベリアでも花屋に花が流通しているのはタハル領のような産地のおかげだろう。 玄間曰く『気のよい女将さん』に事情を話し、何とか鉢植え状態で分けて貰えないか交渉。 「慶事に因んだ花言葉の花が出来れば欲しいのだ」 結婚式という祝い事にあう花言葉なら、『幸せな愛を』という花言葉を持つ白いエリカ、『熱愛』のピンクのカーネーション、『愛』は全ての薔薇の共通で、嫉妬の意味も含んでしまう黄色以外なら式場に似合いそうだ。 女将と相談しながら、玄間はエリカ・ダーリーエンシスを選ぶ。 通年を通して咲誇るエリカは、種類によっては鈴蘭とも似ているかもしれない。 流石に只という訳には行かないので、依頼人の懐具合も考慮しつつ数株購入。 予め用意しておいた運搬用の台車には、温室から出された花達が寒さに枯れてしまわぬ様、大きなザルや籠、保温用の藁や風除けの古いシーツなど準備万端。 女将に手伝ってもらいつつ台車に鉢植えを詰め込んで、ずしりと重いそれを玄間は精一杯急いで会場へと運び出す。 「はー、色んな花があるもんだなぁ」 ジルベリアの貴族に花を卸していた商人を当たり、手八丁口八丁で仕入先を聞き出した天津は、見事な花畑に溜息を漏らす。 タハル領温室の情報も得ていたのだが、事前に玄間と連絡を取って彼がつてがある事を知り、天津はこちらを訪れた。 種類は少なくとも、ジルベリアの寒さの中育つ花も確かにある。 「紫‥‥は流石に色がきついか。綺麗な色なんやけどな、結婚式やし。この白いのとオレンジ、それとピンクがええやろ」 同じ種類でできれば統一しようと思っていた天津は、クロッカスを選ぶ。 青や紫、ピンクに白に黄色にオレンジと実にバリエーション豊かで色選びに困らない。 「どーんと50鉢お願いするで? 多いに越したことはないやろ」 仲間達も花集めに奔走しているが、足りないよりは余裕を持って。 輸送途中で花を傷めないように鉢と鉢の間に緩衝材を用いて保護し、後は軽くシートを被せて準備完了! 「結婚式か〜、いいねいいね〜楽しみだね〜♪ なら綺麗なお花、沢山集めなくっちゃね!」 ご機嫌な様子でアムルタートは天儀の花屋を見て回る。 ジルベリアはまだ寒く花の流通も少なめだけれど、天儀なら春真っ盛り。 「スズランってあるかな〜?」 見たことの無い、けれどアムルタートが聞いた噂によれば貰った人も贈った人も幸福になれる花らしい。 そして何より驚いたことに、深緋にアムルタートが新郎新婦の誕生日を尋ねたところ、スズランが花嫁の誕生花。 残念ながら花婿の誕生花はコスモスで、こちらは今の時期だと天儀でも難しい。 「それがスズランなんだね〜。白くて小さくて、一杯花がついてて幸せも沢山運んでくれそうだね〜♪」 振るとシャラシャラと音がしそうな気がするスズランの花に、アムルタートの桃色の瞳が輝く。 だが問題は鉢植えであるかどうか。 幸い、店のすぐ側にある自宅で様々な花を栽培しているとかで、スズランもまだ数株、未収穫で植わっているとの事。 切らずに根の付いたままの販売についても問題ないのだが、いかんせん、もともと鉢植えとして販売する予定の無い花だったから丁度良い鉢が無いらしい。 「それなら、土が乾かないように何か余り布で良いから根っこを包んで貰えないかな。それと、出来たら運ぶの手伝ってくれない?」 踊りを踊って客寄せをするからとウィンクするアムルタートに、店長も何だかご機嫌にOK! 「山道も楽しいものですね‥‥」 ほうっと嬉しげに溜息をつき、柊沢はジルベリアの山中を歩いていた。 山の中はほんの少し平原よりも太陽に近いせいか、心なしか街中よりも暖かい気がする。 「また見つかりました。スノードロップ‥‥」 木漏れ日を浴びて輝く白い花に、柊沢は屈んで愛でる。 六枚の花弁は小さく、花屋で売られているような華やかさには程遠い。 けれどジルベリア出身の新郎新婦の新しい門出を祝うには、この土地に咲く花が一番だと想い、柊沢は周囲の草花を傷めぬように、そっとスノードロップを掘り起こす。 山を歩く柊沢が持てる鉢はそれほど多くはない。 いくら志体持ちとはいえ、山の中を台車を引いて歩くのは困難だし、何よりそんな事をしたら一生懸命咲いているほかの花々を引いてしまいかねない。 だからこそ、一人徒歩で山を捜し歩き、その白い両手に持てる分だけのスノードロップを大き目の鉢に植える。 鉢の中には既に二つのスノードロップが植わっていて、これで三株目。 あとぎりぎり2個ぐらいは鉢に入るだろうか? 途中、沈丁花も見つけたのだが、野生で生えている沈丁花はそれはそれは大きくて、運ぶのを断念。 草ではなく木だから、無理に手に入れようとしてたら掘り起こすのも容易ではなかっただろう。 「ほんの少しだけ春を分けて下さいね‥‥」 スノードロップに語りかけ、柊沢は更に山を探し続ける。 「綺麗なお花を摘みましょう〜♪」 歌いながら、暮花は天儀の山の中をスキップ。 いや、摘んじゃったら依頼失敗でしょうと、その歌を聴いている関係者がいたら突っ込んだかもしれない。 「このお花は確か寒さに強い種だったわねぇ〜。それでこっちはぁ〜」 眠たげな感じでいながら、そこはそれ、年の功。 意外と花の種類に詳しいようで、ただ咲いている花を集めたりはせずにジルベリアの寒さにも耐えれそうな種類をチェック。 だがしかし。 「あう‥‥何、だか‥‥すぅごく、眠いで ――‥‥」 ぱたりっ。 呟きながら地面に突っ伏す暮花。 集めた花を身体の下敷きにしなかったのは奇跡かもしれない。 「この箱使えそうじゃね?」 ジルベリアで花集めをしつつ、その花を飾る材料も考慮していた村雨は、市場の露店の横に壊れた木箱を見つける。 もともと果物などを入れていたらしい雰囲気のその木箱は、釘が緩んで2、3枚板が外れているものの横半分で切って上下それぞれ板を打ち直せば長方形のプランターになりそうだった。 「この木箱さ、安く譲ってもらえね?」 依頼者たちの懐具合を考えて出来るだけ格安で譲ってもらおうとした村雨、箱の横の露店の店長に声をかける。 スキンヘッドの親父は村雨をチラリと見、もともと捨てるつもりで置きっぱなしだったから勝手に持っていけと白い歯を見せる。 「マジ? うわーっ、すっげー助かるわ〜。なんせ依頼主達新婚になるしさぁ、これから新居だのなんだのでぜってーお金かかるんだよな。無料だとマジで助かるわ」 自分の懐が痛むわけでもないのに、新郎新婦達の出費を出来るだけ抑えようとする彼に、スキンヘッド親父、ドヤ顔で一個と言わず全部持ってけ、荷台も貸してやると言い切る。 「親父さんマジ最高☆」 ぐっと親父と拳と拳を合わせて、村雨、プランター素材Get! ●結婚式は寄り添って☆ リンゴーン、リンゴーン‥‥ 見事に花で飾られた会場に、新郎新婦が現れる。 真っ白な衣装を身に纏った二人は、沢山の花で溢れた会場に喜びを隠し切れない。 鉢植えという特性上、普通の切花と同じように会場を飾り付けるのは不可能。 ではどのように飾り付けたのか? まず村雨が廃材から横長のプランターを作り、そこへ随時集まった花達を植え替え。 廃材探しの時に購入しておいた飾り布やレースでプランターを飾りそれっぽく。 飾る布はアムルタートも提供。 植え替えの時には彩りを考慮しましょうとリーゼロッテが提案して、飾る場所によってはグラデーションになるようにしたり、一番多く集まった白い花とその他の色の花を交互に植えて華やかさと統一感を演出してみたり。 整合性を求める天津も、これには賛成だった。 柊沢が集めた花は、会場の出口に配置。 色取り取りの艶やかな花で溢れた会場内から出てきた時に、ふと目を止めて和めるような、そんな場所に。 大人買いした天津のクロッカスは、赤い天鵞絨のヴァージンロードに左右それぞれ一列に配置。 ジルベリアの花屋の更に仕入先からも鉢植えを入手したシータルは、新郎新婦と相談しながら飾り付けをし、職業柄慣れているという理由で重いプランターなどもさくさく持って飾りつけ。 なんとか眠気から立ち直った暮花には危なっかしくて花を持たせることはできなかったが、会場の飾りつけ全般を担当。 何故眠りながら飾りつけが完璧なのか誰しも首をかしげた。 「幸せの花をお届けしようなのだぁ〜」 幸せ一杯の新郎新婦に喜ばれ、何時も笑顔の玄間もより一層笑顔満面。 「はりきって祝福の舞を踊らせて貰うわよ♪」 祝福の鐘の音に合わせながらアムルタートは舞う。 来客者と開拓者達。 皆が見守る中、幸せそうな二人は寄り添って。 花嫁がくるりと背を向け、手にしたブーケ代わりのキャンディーボックスを背中越しに投げる。 「ふぁ〜。あ、おはようございま‥‥あらぁ?」 暮花が眠たげな目を擦って、きょとん。 本来ならここはブーケトスだけれど、花を手折ることを嫌がる新婦はキャンディーボックスを代用。 ブーケのようにラッピングしたキャンディーボックスは眠たげな暮花の手の中にすとんと落ちた。 「何で花さんの手にキャンディーが‥‥えう? キャンディートスって何ですか?」 ブーケトスならまだしもキャンディートス。 そんな変わった結婚式は、沢山の花と祝福に包まれたのだった。 |