神無武平簪
マスター名:霜月零
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/05/19 00:58



■オープニング本文

「アヤカシ出ちゃったの?!」
 武神島簪店『神無武』を訪れた朽黄はその大きな瞳を更に見開く。
 このお店に平簪を注文したのはもう二ヶ月以上も前。
 遅くとも一ヶ月あれば作れると聞いていた平簪がいまだ届かず、先日、遅延のお詫びにと枝垂桜の簪が送られてきたのだ。
 何かあったのかと心配になり、朽黄は神無武を訪れたのだ。
 神無武の店長曰く、平簪の仕上げに使う金粉の材料は武神島の鉱山から出る金鉱を利用しているのだとか。
 そこにアヤカシが出てしまい、現在金鉱は封鎖中。
 別の金鉱から金を入手しても良いのだが、微妙な金の色合いが違うように思えて使用を躊躇ってしまうとか。
 素人目にはわからずとも、職人には職人の拘りがあるのだろう。
「金鉱が封鎖中って事は、そこで働いてた人たちだって生活困っちゃうよね‥‥。うん、うちがちょっと行って見て来るんだよ。あ、大丈夫。一人で行ったりはしないんだよ? うち弱いしね。みんなと一緒に行くから、おじさんは簪作りながらまってて欲しいんだよ。ね?」
 若い女の子が一人で行くのかと焦った店長に、朽黄はにこっと笑う。
 地図とアヤカシの情報をもらいつつ、朽黄は一緒に行ってくれる開拓者を募るのだった。
  


■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
叢雲・暁(ia5363
16歳・女・シ
ルエラ・ファールバルト(ia9645
20歳・女・志
レヴェリー・ルナクロス(ia9985
20歳・女・騎
リスティア・サヴィン(ib0242
22歳・女・吟
言ノ葉 薺(ib3225
10歳・男・志
エレナ(ib6205
22歳・女・騎


■リプレイ本文

●坑道
「さーってと‥‥お金にもなんないし、さっさと終わらせますか!」
 アヤカシが出るという問題の鉱山入り口で、鴇ノ宮 風葉(ia0799)は気合を入れる。
 だが高い攻撃力とスキルを持つ彼女だが、今回はその実力は発揮できない。
 なぜなら今回の依頼は狭い坑道内での戦闘必須。
 広範囲高威力の攻撃スキルは仲間を巻き込みかねないからだ。
「てめぇの件は知らんが、民衆の生活の障害ならば砕くまでだ」
 そして頼りない朽黄に巴 渓(ia1334)はふふんと鼻を鳴らす。
 言われた朽黄はちょっと気後れ気味だが、巴は何事にも動じなさそうな堂々とした雰囲気を漂わせていて実に頼もしそうだ。
「よもや、こんな事になっているとはね。朽黄、良くぞ知らせてくれたわ」
 レヴェリー・ルナクロス(ia9985)は緊張気味の朽黄の肩を叩いて安心させる。
「アヤカシ発生に瘴気はつきもの。金鉱に瘴気が流れてなければ良いけど‥‥」
 エレナ(ib6205)は坑道を覗き込み、瘴気を心配する。
 だが肌で感じるほどの瘴気はなく、坑道から流れてくる風も濁りを感じない。
 大分暖かくなってきたからか、それとも元々そうなのか。
 鉱山のわりには坑道入り口周辺には緑が溢れ、小さな花が咲き始めていて長閑にすら感じられる。
「まずはこの地図をみながら、どの経路で向かうか決めないといけませんね」
 ぺたんと垂れた灼狼耳を少し動かして、言ノ葉 薺(ib3225)は事前に入手しておいた鉱山坑道の地図を広げる。
 経路を決めるといっても、それほど難しい道ではない。
 二本ほどいまは使用していない坑道が残っているものの、基本的に一本道。
 そこから、数本採掘場へ枝分かれしている。
「鉱山にゴーレムが出てくるっていうのは、有る意味お約束だね〜」
 薺の広げた地図を頭に入れながら、叢雲・暁(ia5363)は明かりの少ない場所もチェック。
 自然の洞窟などと違い、ここは鉱山。
 場所柄的に坑道には要所要所に明かりとなるランプが取り付けられている。
 それを皆が用意した松明で順番に灯して行けば完全な暗闇は避けれるのだが、あくまで鉱夫が採掘場へ進む為の明かり。
 坑道の隅々を隈なく明るく照らすものではなく、叢雲の暗視は必須だろう。
「心眼も併用したほうが良さそうですね」
 リーチの長さが自慢の長柄槌「ブロークンバロウ」をルエラ・ファールバルト(ia9645)はあえて短めに持つ。
 自分の背丈よりも長い武器は広い場所ではとても有用だが、今回のような行動に制限のかかる場所では少々扱いづらそうだ。
「ティアって言うの。よろしくね☆ 朽黄はあたしの横にいてね?」
 同じ吟遊詩人同士、側にいたほうが良いだろうとリスティア・バルテス(ib0242)は朽黄の横に並ぶ。
 開拓者達はゆっくりと中に足を踏み入れる。


●暗い細道
「やはり視野が悪いですね」
 ルエラは松明で坑道に取り付けられたランプを灯しつつ、呟く。
 固い足場はごつごつと冷たく無機質。
 ランプとランプの間は手前のランプの明かりがぎりぎり届く程度の間隔で設置されており、入り口からの光が完全に届かなくなると足元が危うい。
 そして明かりに目が慣れているせいか、ランプの明かりが途切れる場所は闇がより一層深みを増して感じられる。
「この辺はまだアヤカシの出現範囲からは遠いからね。さくさく進んじゃいましょ」
 一刻も早く仕事を片付けて恋人の元に戻りたい鴇ノ宮としては、発見された現場に急ぎたい。
「いまはまだ一本道だしな。前後に注意すれば奇襲も避けれるだろう」
 こつこつと軽く壁を叩き、巴は坑道内の強度を確認。
 よほど派手な技を使わなければ鉱山破壊は防げるだろうか。
「目視でも十分だね〜」
 叢雲も松明で前方を照らす。
 特に周囲の岩にもこれといって変化はない。
「問題はこの先の地盤でしょうか‥‥」
 エレナが鉱夫から聞いた所によると、この鉱山は基本的に固い地盤で出来ており、多少の衝撃には耐えられる作りとの事。
 だが所々固さに不安の残る場所があり、その内の一箇所はアヤカシの出た採掘場付近。
 つまりこれから向かう場所である。
「怖くはないわね?」
 レヴェリーはリスティアと朽黄を振り返る。
「任せておいてよ」
 ぐっと笑顔でリスティアは余裕綽々。
 元気だけれどおっかなびっくり気味な朽黄の手を握り、前衛中衛からはぐれない様にきっちりリード。
「大分天井が低くなってきていますから、頭をぶつけないように注意しないといけませんね」
 奥に進むにつれて低くなってきている天井を指差して、薺は注意を促す。
  

●ゴーレム×ロックハンド
「これ、どうするよ」
 その現状に、流石の巴も唖然とする。
「面倒くさいし、ちゃっちゃと片付けたいとこだけど‥‥ねえ?」
 鴇ノ宮のこめかみにもほんのり冷や汗。
 正直、みんなしてどうしていいかわからない。
「見つけてしまったのだから、撃破してゆくべきとは思いますが」
 心眼で最初に見つけてしまった薺もちょっと気後れ。
 それもそのはず。
 目の前にはゆらりゆらりと歩くだけのロックハンドが無数に蠢いているのだ。
 坑道が少し広がり、採掘場に近づくとランプの明かりが隅々まで届きづらい。
 そしてそろそろアヤカシの発見された付近だということもあり、薺が心眼を用い、叢雲が暗視、鴇ノ宮が夜光虫を使おうとした矢先だった。
 転がっていた岩々が突如動き出したのだ。
 一気に開拓者達の間に緊張が走ったが、それも一瞬の事。
 大量のロックハンドはのっそりのっそりと坑道を歩き回るだけで、巨大な岩の手という姿の不気味さに目を瞑れば特に害がないというか。
「一般人からしてみたら、アヤカシというだけで十分脅威だわ。みんな、困っているのよ!」
 妙にやり辛い敵だが、レヴェリーは武神島の鉱夫達の為にもメイスを構える。
 そう、いま何もしてこないからといって、これからも何もしてこないとは限らないのだ。
 後顧の憂いを絶つべく、叢雲が手裏剣を投げる。
 動きが鈍く、でかい的であるロックハンドに当然の如く手裏剣は突き刺さる。
 だがおかしい。
「何にも感じてないのかな〜」
 岩だからだろうか。
 無痛覚らしく、のそのそと徘徊をやめもしない。
 こちらに気づいているのだろうが、いかんせん、何を考えているのかさっぱりわからない。
「ゴーレムの前に殲滅させて頂きましょう」
 エレナが眼鏡を中指でくっと押し上げ、ポイントアタックを仕掛ける。
 ものの見事にロックハンドの接続部分と思われる箇所にクリティカルヒットしたそれは、一瞬にしてロックハンドを瘴気と還した。
「側には他にアヤカシの気配はないようですね。ならば思う存分戦わせて頂きます」
 ゴーレムの奇襲を警戒していたルエラだが、ブロークンバロウを振り回す。
 瑠璃色に輝くそれはわざと短めに持っていることもあり、狭い坑道でも引っかかる事無くロックハンドを次々と粉砕!
「全方位からの奇襲でなかったことを喜ぶべきだな」
 浮遊攻撃すらも考慮していた巴の拳がロックハンドを砕く。
「えぇい、鬱陶しい!」
 のそのそするだけのロックハンドに心底鬱陶しいと怒りながら鴇ノ宮も蛇神を召還してちゃっかり攻撃。
 邪魔くさいだけという評価が一番あってしまいそうなロックハンドはまったく無抵抗に徘徊し続けるだけ。
 開拓者達の攻撃を避けようともせず、次々と瘴気に。
 むしろ開拓者達が正気を失いたくなりそうな邪魔くささ。
 一応、何匹かは攻撃をしてきていたようなのだが、いかんせん、動きが遅すぎる。
 スローモーションとでも言いたくなる動きのそれに誰一人当たるはずもない。
 全部倒しきる頃には全員に妙な疲れが溢れた。
 気を取り直して、ロックハンドがいなくなって色々すっきりとした坑道を、開拓者達は更に先に進む。
「‥‥まった」
 前衛の巴が歩みを止める。
「何か見つかったのかな」
 軽く鼻歌を歌いかけていたリスティアはレヴェリーの横から顔を出して前方確認。
「やけにこの先天井が高い」
 巴が採掘場の天井を顎で指す。
 採掘場なのだから坑道よりも広く高く開けているのは当たり前なのだが、それにしても妙なのだ。
 壁面も天井も所々崩れ、とてもつい最近まで採掘されていたとは思えない。
 ―― 薄暗い採掘場で、視界の隅が動いた。


 動く岩―― ロックゴーレムは開拓者達の進入に気づくや否や、その巨体からは想像もつかない素早さで開拓者に襲い来る!
「ああ、もぉ、めんどくさいっ‥‥あの子に喜んで貰う為に、あんた達はさっさと消えなさいよ!」
 2m越すロックゴーレムの拳を避けて、鴇ノ宮は夜光虫を発動!
 周囲が一気に明るくなった。
「♪劫火の姫巫女の誘いに、猛き大蛇が応えて飛翔♪」
 リスティアの歌声がレヴェリーとルエラに降り注ぎ、二人の知覚力がUP!
 と同時に、ゴーレムが岩の塊であるその腕を巴に向かって振り下ろす!
 巴はその攻撃をマフラーをなびかせながら回避、そのまま反撃に転じる。
 瞬脚が振り下ろされたロックゴーレムの腕に決まった。
「やはり再生してしまいますね。一気に決めましょう!」
 巴に砕かれたロックーゴーレムの腕が瞬時に回復していくのを見て、エレナは自らも打って出る。
 ロックゴーレムの振り回された腕が採掘場の壁に当たり、天井からパラパラと砂が崩れてきた。
「盾役がしっかりしてないとね」
 ブロークンアローを駆使しながらエレナはポイントアタック!
 岩と岩が再生した瞬間を狙って叩き込んだその攻撃は、ロックゴーレムが再生するより早く破壊した。
「あなたは一刻も早く瘴気へとお戻りなさい!」
 ルエラは自らの防御力を極限まで高め、瑠璃を付与した長柄槌「ブロークンバロウ」でゴーレムを攻撃!
「貴女達に毛先程の傷もつけさせないわ」
 リスティアと朽黄を守りながら、レヴェリーはスタッキング!
 その瞬間を狙って、叢雲が手裏剣を投げる。
「生身じゃないので首の刎ね甲斐が無いけどそれはそれ! 狙うのがNINJAの心意気〜!」
 レヴェリーのメイスがロックゴーレムの脇腹を貫いた瞬間を狙った叢雲の手裏剣は、ゴーレムの回復より早く粉砕!
 怒り狂ったゴーレムが再び地面に強く腕を叩きつけ、坑内が大きくグラついた。
「灼狼の連爪。耐え切れますかっ」
 暴れるゴーレムに怯む事無く、薺は精霊剣「七支刀」に瑠璃を付与して、ゴーレムの足を集中連撃!
 崩れた足からロックゴーレムが片膝をつく。
「朽黄! いくわよ。準備いい?」
 バイオリンを構え、リスティアは隣の朽黄に合図する。
 二人同時に、奴隷戦士の葛藤を歌い奏でる。
「一気に決めましょう!」
 ゴーレムの防御力が一気に下がった今こそ勝機と、エレナは再びポイントアタック!
 崩れた足で避けることもできないゴーレムはその一撃に瘴気と還ってゆく。
「‥‥ちょっと、妙な音がしませんか?」
 強敵を倒したというのに、ルエラが眉をひそめる。
「勝っても油断は禁物。まだ敵が潜んでいるのでしょうか」
 エレナも周囲を見渡す。
「‥‥冗談だろ? 全員、逃げろっ!」
 そして巴が天井に気づいて叫ぶ。
 ゴーレムの激しい動きに耐えられなかった採掘場の一部が崩れだしたのだ。
 全員、全力で外へと走り出す。 


●神無武平簪
「これで完成じゃ」
 武神島簪店『神無武』
 その店の奥の客間で簪職人柳・煤竹は簪に最後の仕上げを施す。
 銀色の軸に使われる丸く平たい金飾りに、緋色の花と白い小華を描く。
「綺麗な簪ね」
 職人から簪を受け取って、ルエラはその緋色の髪に挿してみる。
 もともと武神島は緋色の衣服が有名で、その衣装に合うように簪もデザインされていたから、赤い髪のルエラに良く似合っていた。
「出来れば二つ欲しいな」
 そうゆう鴇ノ宮の耳がほんのり赤い。
 大切な人を思っているのがバレバレである。
「わおっ、こっちも綺麗な細工をありがとう♪」
 叢雲は金紅石のお守りを受け取ってご機嫌。
 ゴーレムの側に落ちていた綺麗な石を拾っていたのだが、それを柳煤竹に見せたところ、お守りに加工してくれたのだ。
「朽黄、ありがとう。これも大事に使わせてもらうわね?」
 以前から約束していた神無武平簪を受け取り、レヴェリーは朽黄に礼を言う。
 むしろお礼をいうのは自分のほうだと朽黄は首を振る。
 皆が来てくれなかったら倒せなかったからと。
「朽黄、これもつけてあげようか?」
 リスティアが貰った簪のひとつを朽黄の髪に挿す。
 不幸中の幸い、災い転じて福と成すというか。
 なんと崩れた採掘場から新たに琥珀が見つかったのだ。
 金しか採れないものと思われていた鉱山だが、貴重な琥珀も採れるようになり、平簪と共に琥珀の簪もお礼にと手渡されていた。
「さて、帰りましょうか」
 薺は受け取った簪をひと撫でして、大切に懐に仕舞いこむ。
 それは大切な人への贈り物。
 喜んでくれる笑顔を思い浮かべ、薺は神無武を後にするのだった。