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■オープニング本文 「ちょっとそこのおにーさん、遊んでかなぁい?」 とある開拓者ギルドの受付。 呼び止められた開拓者は振り返り ―― 言葉を失った。 (どこの遊女?!) 受付に座っているのだから、受付嬢だと思うのだが、なにやら化粧の濃いおねーさまがこっちこーいこっちこーいと手招きしている。 思いっきり気づかない振りをして立ち去りたい衝動に駆られたが、ばっちり目があってしまったとあってはそうもいかない。 「僕ですか?」 出来れば、人違いで。 そんな青年開拓者の思いもむなしく一応受付嬢な深緋はにっこりと頷いた。 「もちろんよ〜ぅ。イケメン開拓者さん、ちょっといい仕事があるんだけどぉ、つきあわなぁい?」 「嫌です」 コンマ0.1秒。 即答したのに深緋はにっこり笑顔を崩さず依頼書を見せてくる。 耳が遠いのか。 「ねね? もふら様を洗ってくれるだけでいいのよ〜ぅ。しかも場所は遊郭! 簡単で楽しい仕事でしょーう?」 「断ったのが聞こえないんですか? 僕は忙しいんですよ」 遊郭とか。 ちょっと気にならないわけではないのはここだけの話。 でも逃げる。 こんな怪しげな受付嬢に関わったら、身包み剥がされそうな気がするのだ。 本能って大事。 「うー。遊郭の妹の頼みなのよぅ‥‥」 さくっと立ち去ろうとした開拓者の背中に、困った深緋の声が響く。 「妹?」 「そうよーう。なんでも上客がもふら様数十匹遊郭につれてくるらしいのよぅ。遊郭で遊んでいる間に妹達に洗っとけって。何様お客様ってもんよねぇ」 はふーっとわざとらしいため息までついて困ってますアピール。 仕方がないので開拓者が依頼書に目を通すと、遊郭に勤める深緋の妹達は遊郭の仕事もあるので数十匹ものもふら様を数時間で洗うのが困難らしい。 それはそうだろう、もふら様は大人しいとはいえ、数が多すぎる。 露天風呂付の店らしく、洗う場所には困らないようなのだが‥‥。 「もふら様を盗もうとするやつもいるかもしれないしぃ、とにかく人手が欲しいのよう。だから、ね?」 もう受けちゃってよ? そうゆう深緋に開拓者は渋々と頷くのだった。 |
■参加者一覧
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
ラシュディア(ib0112)
23歳・男・騎
燕 一華(ib0718)
16歳・男・志
マナカ(ib3114)
17歳・女・シ
宮鷺 カヅキ(ib4230)
21歳・女・シ
春陽(ib4353)
24歳・男・巫
明星(ib5588)
14歳・男・志 |
■リプレイ本文 ●もっふーりもっふーり、もふら様の、おなーりー♪ 「つーこって第一回! チキチキ!! 新春珍獣洗浄大会inどっかの遊郭〜♪」 どんどんぱふぱふ♪ そんな擬音が聞こえてきそうな勢いで村雨 紫狼(ia9073)は機嫌がいい。 ついでに鼻息もいい。 それもそのはず。 ここはジルベリアのとある遊郭・露甘楼。 綺麗なおねー様選り取り見取りのこの場所で、テンションアップは男の基本。 「‥‥独身で健康的な妙齢の成年男性ならば遊郭に反応してしまうのは自然の摂理!」 神父たるエルディン・バウアー(ib0066)ですら、その青い瞳に邪な輝きが浮かんじゃってるとか何とか。 「バウアーさん」 にっこり。 宮鷺 カヅキ(ib4230)が無言の笑みでエルディンを牽制しているのはきっと純粋な少年少女のためでしょう。 「そんな目で見ないで下さい、それとも私の美しさに見とれているのですか?」 殴られたいのでしょうか、この神父。 いかにもな聖職者スマイルがここまで胡散臭く写る日がこようとは。 手が出るのをぐっと抑えたカヅキ、あなたはきっと今回の依頼の生きた良心です、はい。 「‥‥場所が場所だから、綺麗なお姉さんたちに目を奪われてしまうのは許してくれよ〜」 一見まじめそうに見えるラシュディア(ib0112)さえもそんな事を言い出してしまうほど、遊郭の威力とは凄いものだったのか。 辺り一体、独特の甘い香りで溢れている。 「息抜きとか遊ぶとか、遊郭って遊技場があるんですかっ?」 「とても華やかな場所ですねえ。でも遊郭って何でしょう?」 オトナな男性陣が色めき立つ中、燕 一華(ib0718)と狼 明星(ib5588)は首を傾げる。 あぁ、どうか。 どうか貴方達はそのままで。 そのまま清らかな大人になってください。 「‥‥露天風呂があって、もふら様が一杯つれてこられて女の人ばっかり働いている遊郭って不思議な場所ですね」 そしてこちらは十分オトナなのですが、運良く(?)遊郭の魔力に捕りつかれずにすんだ春陽(ib4353)は、エルディン達が妙にそわそわしているのが不思議でならなかったり。 「にゃ〜。みんな、遊郭が好きにゃね〜? でもそろそろもふら様がいらっしゃるにゃ〜よ」 色めき立ったり首を傾げたりしていたみんなに、マナカ(ib3114)が通りの向こうのもふら様ご一行を指差す。 もっふーり、もっふーり。 今回遊郭で豪遊される上客だと一目でわかるお客様と、そのもふら様数十匹。 それが露甘楼目指してもっふりもっふり進んでくる。 「聞いて予想はしていたが‥‥。これだけ多いと、びっくりを通り越してワクワクしてきます」 先ほどまでエルディンを牽制していたカヅキは、その余りの多さに感情がぶっ飛んだらしい。 そう、道を埋め尽くすといって過言ではないもふら様の行進を見て、心踊らないはずがない! 「うわぁ‥‥もふら様をこんなに沢山飼ってる人がいるなんて」 いつか自分でももふら様を飼いたいと願う明星も、その数に圧倒されまくり。 1mを越す大きいもふら様からちんまりサイズまで合わせて計80匹。 ずらっと露甘楼に並んだもふら様。 皆のもの、さあ、洗うが良い! ●洗うには順番があるもっふ♪ 「はじめに風呂、男女別にあんだろ? 日中の使用スケジュール教えてくんない?」 村雨、意外とまじめ。 好みの遊女ではなく使用人と思しき妙齢の女性に声をかける。 「見分けが付くような首輪などがないようだから、迷子札など印が付けられる物を用意しておきますねっ」 村雨がスケジュールをチェックしている隙に、一華が素早く迷子札の準備を始める。 「手伝いますよ。店の名前ともふらの名前を入れておきましょう」 使用人から余り布を大量に頂いて、エルディンも迷子札の作成開始。 なんせもふら様80匹。 80枚の迷子札を作るだけでも一苦労。 その間に、春陽とラシュディアはいそいそと作業着にお着替え。 そのままの格好でいたらお客様と間違えられちゃいそうですしね? 「へー。女性客もいんのか。珍しいな」 使用人から露天風呂の時間帯を確認していた村雨が驚く。 ここ露甘楼は本館と別館に分かれており、別館はごく普通の旅館で家族連れでのお泊りも出来るそうな。 「にゃ? 今日は貸切でいいにゃか?」 女性客もいると聞き、マナカが猫耳をふにふにさせる。 もふら様が大量に来ることは判っていたので、露甘楼のほうでも開拓者が思う存分洗えるように夕方から深夜の込み合う時間帯以外は貸切にしておいてくれたらしい。 今はまだお昼前。 夕方まで十分時間がある。 「もふら様が待機できるお部屋はありますか?」 明星も大量のもふら様にわくわくしつつ、確認を取る。 これだけのもふら様なのだから、いっぺんにお風呂に入れるのは無理。 また、お風呂で洗われて出て来たもふら様もそのままにはしておけないし、待機部屋は必須。 ご用意させて頂きますと、使用人は頭を下げて去って行く。 ●ふわふわもこもこ、うーまうま? 「まあ、無心にというか、この子達は見てるだけで和むからね。癒されながらもふもふと洗っていこうかな〜」 シャツにパンツ姿のラシュディアはもふら様を一匹抱え上げる。 1m級のもふら様は既に露天風呂の中にスタンバイ。 露天風呂が男女別れているので、もふら様も男女別(?)に。 博識なエルディンが言うにはもふら様にも性別があるようで、見た目じゃまったくわからない彼らに明星が性別を確認しながらそれぞれの露天風呂に案内していく。 「すごくもふもふですね〜」 立派な水牛の角とその体躯からは想像もつかない雰囲気で、春陽はにこにこともふら様にもふりながら洗い出す。 濡らしても不思議とべったりとせずにもふもふな毛を維持する1m級もふら様は、洗ってももふもふ。 「しっかしさ、なんつーか‥‥ブサキモゆるカワキャラ?? つか犬と羊と豚のチャンポンだろこのデザイン!」 こちらは結構勢い良くざかざかともふら様を洗いまくりながら、村雨は苦笑。 これで神様といわれてもと笑う彼に、もふら様、怒りもせずに尻尾ふりふり。 手際よい洗い方が気持ちよいのだろう。 「お客さん、どこか痒いところはありませんか?」 エルディンはなぜか床屋さんごっこをはじめだす。 泡でもこもこになって更に愛らしいもふら様にご機嫌♪ 「気持ち良いですかっ? 痒い所などがあれば遠慮なく仰ってくださいねっ♪」 見張りから洗い場に交代して来た一華は、もふら様の根元から優しく毛を揉むように洗い上げる。 そしてお隣の女性用露天風呂では、マナカとカヅキが二人でもふら様を洗っていたり。 「あ、一緒についでに洗うことにするにゃ〜」 マナカが自分の相棒であるもふ銀も一緒に洗い出し、もふ銀、びっくり。 「もふ?! もふ銀も洗われるもふか?!」 うんうんと嬉しそうに頷くマナカにもふ銀、照れながらも身体をゆだねる。 そんなマナカの横で、最初はマナカの洗うもふら様を拭いたり攫われないように見張り役に徹していたカヅキも大分リラックス。 「‥‥。‥‥お客さん、こってますねー。知っていますか? 肩凝りの原因には何種類かあって、猫背だったり姿勢が悪くても凝り易いんですよ? でももふら様の場合は何ででしょうね?」 凝りやすそうな部分や、気持ち良いであろう部分をマッサージしてあげながら、どさくさに紛れてもふもふもふ。 遊郭なせいか、それとも偶然なのか。 上客の連れてきたもふら様は男の子の方が圧倒的に多くて、女の子のもふら様は少数。 だから、かなりゆっくり、もふりながら洗っても十分時間たっぷり。 「ブラッシングもしてあげるにゃ〜」 もふら洗いのプロといっても差し支えないマナカが専用ブラシでブラッシングを始めると、もふ銀はもちろんの事、上客のもふら様たちも気持ちいもふ〜と上機嫌。 「そちらの進み具合はいかがでしょうか?」 お隣の男湯から、明星が状況確認にやって来る。 男の子なので、もちろん入り口から声をかけたのだが‥‥。 「え? あの、ごめんなさい、僕は女の子じゃないですっ」 慌てて否定する明星の声が聞こえてくる。 どうやら使用人に女の子と間違えられて中に入るよう促されたらしい。 マナカとカヅキは思わず顔を見合わせた。 ●上手に出来ました♪ 「はい、とってももふもふになりました。お饅頭もありますから食べますよね?」 控え室で洗い終えたもふら様を拭きながら、春陽はみんなの前で蒸かしたお饅頭をもふら様にも勧める。 もちろん、もふら様も食べやすいように甘さ控えめ。 本当に頼れる牛さんである。 「このお饅頭美味しいにゃ♪ もふ銀も食べるかにゃ〜?」 春陽が作った饅頭を頬張り、マナカはもふ銀と二人でにっこり。 「あるところに、神父さんと仲良しのもふらがいました。一緒に困難に立ち向かい、人々を救ったり‥‥」 洗い上がったもふら様が退屈しないよう、エルディンは即興で作った御伽噺をもふら様に話て聞かせる。 やはりこういったお話で興味を引くのは子供達相手で慣れているのだろう。 もふら様達は興味深々でもっふりな耳を傾ける。 「子守唄代わりによかったら」 横笛が得意だという明星は、もふら様の為に演奏を披露する。 演奏には深緋の妹・朽黄も誘ってくれたのだが、残念、朽黄は芸妓の仕事が入っていてもふら様の所にはこれなくて。 明星の優しい演奏はお腹のいっぱいになったもふらさまの子守唄に本当にぴったりで、もふら様たち、気持ちよさそうにお昼寝。 そして部屋の外では、一華とラシュディアがならず者をこっそり追い払っていたり。 「‥‥命の予備は持っているのかな?」 部屋の中のもふら様を狙う不届き者の背後に忍び寄り、ラシュディアはその耳元にそっと囁く。 顔が笑顔なだけに、余計恐ろしい。 突き付けられたクナイに顔を引き攣らせながら不届き物は逃げてゆく。 「お仕置きですっ!」 別口のならず者には、一華の流し斬りが炸裂! 開拓者に守られたもふら様に手を出そうとは、ならず者もついてない。 一瞬で力量を悟った彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げてゆく。 ●作戦:命大事に⇒ がんがんいこうぜ? 「っしゃ! この瞬間を待ってたぜー!」 もふら様を見事洗い終え、時間のたっぷり余ったこの瞬間。 パシッと拳と手の平を合わせて村雨、やる気満々モード。 ここは遊郭。 ただ依頼をこなして帰るには余りにももったいない! 「神様、どうか私達を見守ってください」 聖職者だったような気がするエルディンまでもがその隣にいるのはキノセイでしょうか。 「楽しんでこようっと」 同居人にばれないようにと言いながら、ラシュディアも同行。 さあ、この3人の運命やいかに?! 第一ラウンド、村雨VS幼女遊女! 露間楼1F。 魅惑の間に続く渡り廊下に、その少女は佇んでいた。 白髪の少女はどう見ても10歳かそこら。 ロリ好き村雨の瞳がきらんっと輝いた。 「幼女で遊女、あると思います!!」 ぐっと拳を握り締めて駆け寄ろうとする村雨に、少女はにっこりと微笑んだ。 「ムチにする? ローソクにする? ‥‥貴方に選択権はないけどね」 村雨が何か言おうとするよりも早く、しゅぱっとムチがロープのようにしなり村雨を縛り上げる! 幼女でヤンデレ。 あると思います‥‥。 「ちょっ、まっ、えっ?!」 有無を言わさず、縛り上げた村雨を幼女はずるずると引きずってゆく。 「村雨殿、貴方の勇姿は決して忘れません」 アーメンと呟いて、助けることもせずにエルディンとラシュディアは次へ。 第二ラウンド、ラシュディアVS朽黄! 「きみ、こんな所でどうしたのかな?」 露甘楼2F。 くりくりっとした瞳でラシュディアに声をかけるのは、芸妓の朽黄。 その手には、今しがた演奏してきたばかりの二胡が握られている。 「あっと、その、道に迷って」 流石に受付の妹に手を出すのは躊躇われるので、ラシュディア、旨く誤魔化す。 ここで朽黄をやり過ごせれば魅惑の遊女と‥‥。 だがしかし、 「じゃあ、送ってあげるんだよ」 にこにこと人懐っこく懐かれては無下にも出来ず、いつの間にかエルディンは消えているしラシュディア、抜け駆け失敗で撃沈! 第三ラウンド、エルディンVSカヅキ! 「やっと、たどり着きましたね‥‥!」 露甘楼3F最上階。 村雨とラシュディアという大きな犠牲を払って辿り着いた魅惑の地。 信者や子供達の笑顔が次々と浮かんできます。 そう、さながら走馬灯のように。 「えっ? 走馬灯?」 自分の発想にドキッとして、その瞬間、凄まじい殺気にエルディンは咄嗟に身をかわす! 「バウアーさん、きみ神父でしょーが!」 ゆらり。 振り返ったそこには、修羅も逃げ出しそうな形相のカヅキが! 「ま、待ってください、誤解です。私は聖職者であり生殖者なんですー!!!」 「んな言い訳あるかああああ!」 カヅキ、遊郭という名の引力に負けたエルディンを背負投! 哀れエルディン、夜空の星になりました。 きっと、遠い空の彼方からこれからも子供達を見守ってくれることでしょう。 きらんっ☆ |