彼女の髪は長かった
マスター名:霜月零
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/12/01 18:54



■オープニング本文

「うふふふふっ♪」
 女は上機嫌だった。
 美人、といって差し支えない容姿の彼女は、髪を梳く。
 胸まである長い黒髪を、漆黒の櫛で、ゆっくりと。
 一束一束、丁寧に丁寧に……ずるっ!
「えっ」
 女の顔が強張った。
 櫛にまとわりつく長い髪。
 一束だったはずのそれは、どうみても全ての髪の塊。
 彼女は恐る恐る自分の頭に触れてみる。
 つるっ!
 嫌な感触が手に残る。
 信じたくない現実に、けれど彼女は勇気を持って向き合った。
 手鏡を取り出し、恐る恐る覗き込む。
 そこには、つるっパゲの頭が!
「いーーーーーーーーーやぁあああああああっ!!!」
 女の叫びが町にこだました。

 ジルベリア最北領スウィートホワイト。
 首都ホワイティアが機能不全に陥った為、南の町ポアリュアに臨時ギルドが設置されていた。
 ギルドでは開拓者はもちろんの事、依頼を持ち込む一般人の姿や、数人の尼僧の姿がちらほら。
「髪きり集団が出ましてね」
 開拓者ギルドで、受付係は開拓者に事態を説明する。
「ここ最近、街の若い女性の髪が次々と鬘に変えられているのです。深夜、女性の家に忍び込み、寝ている隙に髪を切り、鬘に変えているようです。鬘の出来は精巧で、見ただけでは偽物と気づけません。洗髪したり、引っ張ったりして外れることで気づく女性がほとんどだったようです」
 切られた本人すら気づけないような精巧な鬘。
 そんなものを作れるのなら、そもそも人の髪を切る必要もないような。
 女性の髪が狙われるのは、鬘を作る為に必要な場合が殆どではないだろうか。
 質の良い人毛で作られた鬘は、それはそれは高値で売れる。
 素材となる髪もまた、高値で売れる。
 だから、切られた本人が気づけないような鬘ならそれは人毛である可能性が高いし、人毛の鬘を残すのなら、素材の髪がそもそもいらないということになる。
 まったくもって謎だった。
「皆さんの疑問も当然ですね。僕も疑問に思います。僕が調べた限りでは、深夜に被害女性の家から逃げていく集団を見かけたという目撃情報がありました。その手には糸の束のような物が握られていたと。なので僕は髪きり『集団』と言わせていただきました」
 受付係は神経質そうに眼鏡を押し上げる。
「彼らの目的は不明ですが、このまま放置しておくわけにもいきません。早急な対応を求めます。まず、次に被害に合いそうな髪の綺麗な女性を数人、ピックアップさせて頂きました。こちらです」
 受付係が開拓者に資料を渡そうとする。
 と、その資料を尼僧が抑えた。
「どうかしましたか?」
 急に受付に来て資料を押さえる尼僧に、受付係は動じることなく尋ねる。
「禿げの何が悪いんですの? 便利ですのよ、禿げ。結わなくて済みますし、洗う時だって邪魔になりませんし」
 尼僧もまた、受付係の目をまっすぐに見返して言い返す。
 傍にいた開拓者は受付係と尼僧を交互に見つめる。
「そういった問題ではありませんね。これは、自分の意思とは無関係に体の一部を奪われるという事件です。便利であるかどうかは、また別問題です。手を離して頂けますか」
 禿について語る尼僧に、受付係はそっけない。
 悔しげに手を離す尼僧に一瞥をくれて、受付係は開拓者に資料を手渡す。
「必ず彼女達を守ってあげてください」
 受付係はそういうと、また別の依頼に取り掛かった。 


■参加者一覧
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
ユリア・ソル(ia9996
21歳・女・泰
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
クリスティア・クロイツ(ib5414
18歳・女・砲
八甲田・獅緒(ib9764
10歳・女・武
緋乃宮 白月(ib9855
15歳・男・泰


■リプレイ本文

●情報収集
「それでは、ギルドを訪れた尼僧は街の寺院の方々なんですね?」
 緋乃宮 白月(ib9855)はギルド受付係に確認を取る。
 受付係の情報によれば、街の東にこじんまりとした寺院が二つあり、片方が尼僧のみが集う女京院というらしい。
「ではその尼僧達が志体持ちかどうかはわかるか?」
 街の地図を借りて位置を確認しながら、琥龍 蒼羅(ib0214)が尋ねる。
「残念ながら不明ですね」 
 だが受付係はそっけなく眼鏡をかけなおす。
 開拓者として登録されているならギルドでの把握も容易だが、登録されていなければギルドに資料がない。
 志体持ちというだけで、全てが登録されているわけではないからだ。
「ならば少なくとも開拓者ではないわけだ」
 蒼羅は頷く。
 もしも尼僧達が今回の事件に何か関わっている場合でも、開拓者相手とそうでない場合には大きな違いが出る。
 主に戦闘面においてだが。
「今までの被害者宅の情報は頂けるだろうか。主に立地条件を知っておきたい」
 竜哉(ia8037)は尼僧よりも被害者達が気になるようだ。
「そうですね。彼女達はまったく別々の場所に住んでいます。共通点は髪が長く美しかった事ぐらいですね。年齢層もまちまちです」
 受付係は神経質そうに眼鏡を抑え、竜哉に地図を指しながら被害者達の家を教えていく。
(特に変わった立地ではないのか……?)
 最初の被害者宅は女京院に程近いが、一番最近の被害者宅は街の外れだし、三人前の被害者に至ってはギルドの隣に住んでいる。
 町外れは人通りも少なそうだが、ギルドの傍では目撃してくれといっているようなものだ。
 流石にギルド真正面の家ではなく、裏口側の家なのだが。
「ええ、お察しの通り。目撃情報はそのギルドの隣に住んでいる女性が被害にあったときのものですね」
 竜哉の表情から察して、受付係が頷く。
(ふむ……)
 隣家との距離や、人目。
 それを考慮して犯行に及ぶのなら、次の被害者候補である三人の自宅周辺立地を調べれば、誰が一番襲われる確立が高いか絞りやすかったのだが。
 ギルドにはもうこれといった情報はないようだ。
「これ以上被害者を出さないためにも、頑張ります」
 白月は受付に頭を下げると、白い尻尾を揺らしてポアリュアの町へ駆けてゆく。

●素敵な髪の乙女達
「あなたの指先は心地よいわ」
 豊かな青銀の髪を梳かされながら、ユリア・ヴァル(ia9996)は満足げに微笑む。
 彼女の髪を梳いているのは次の被害者候補のシェラだ。
 ユリアは美容院に客として訪れ、それとなく周囲の様子を伺っていた。
 店の外には竜哉もユリアの連れの振りをして、彼女を待つように見せかけてさり気なく佇んでいる。
 だがその眼光は絶えず周囲に気を配っていた。
 街中であることも考慮して、彼は肩にジプシークロースを巻き、一見しただけでは開拓者とわからない用意周到さ。
 ユリアと竜哉は、傍目には仲の良い友人か恋人同士にしか見えなかっただろう。
(尼僧……?)
 客の中に、尼僧がいる。
「ねぇ、彼女はなぜここに?」
 ユリアは小声で、尼僧には気づかれないようにシェラに尋ねる。
「彼女はね、この美容室でよくお悩み相談室を開いてくれてるのよ」
 なんでも尼僧達は、無料で町のあちらこちらで人々の悩みを聞いてあげているのだとか。
 寺院へは敷居が高くて相談に行きづらい些細な悩みも、街中で気軽に聞いてもらえるとなると話は別で、シェラもちょっとした悩み事を打ち明けたりしているらしい。
「あなたの悩み事、当ててみましょうか」
「えっ? わかるんですか?」
 ユリアがふふっと笑ってシェラを見つめる。
 見つめられたシェラは目を見開いてユリアの答えを待っている。
「ずばり、髪の手入れね。その見事なブロンドヘアを維持するのは相当大変でしょう? 長いと傷みやすいもの」
 ユリアは自慢の髪を指先に絡める。
 その髪はシェラに負けず劣らず艶やかな光を放ち、さらさらと流れ落ちてゆく。
 傷みなどとは到底無縁。
「大当たりです! もともとは私は余り髪の手入れってしないほうだったんですよ。でもこの職についてからは毎日欠かさず蒸しタオルをしているんですよ」
 希儀で見つかったオリーブオイルは髪に良いのか等と、いろいろと世間話をしながら交友を深め、ユリアは尼僧の様子を伺う。

「……此の花、素敵ですわね……少し店長とお話させて頂いても宜しくて……?」
 クリスティア・クロイツ(ib5414)は花屋の店先に並んだプチフルールを手に取り、店員に尋ねる。
 男性恐怖症のリリカの為か、店内の店員は全員女性。
 節目がちにしながら店先に現れた店長・リリカは、意外と年齢が高いようだった。
 見た目は30代ぐらいだろうか?
 だが手や首の皺を見ると、実年齢はもう少し上と見てよいだろう。
 店名の入ったエプロンに名札がついていることを確認し、クリスティアは尋ねる。
「このプチフルールは……リリカ様のデザインですか……?」
 尋ねられたリリカは、何か問題があるのだろうかと、不安気に頷く。
 名札を気にする必要はなかったようだ。
 見ず知らずの人間に名前を呼ばれれば誰でも驚くし、ましてや相手は事前情報によれば極度の人見知り。
 名札があれば、名前を知っていても問題ない。
 目も上手く合わせられないリリカに、クリスティアは、優しく微笑み、その手を取る。
 びくっと手を引っ込めようとするリリカの瞳を、クリスティアは逃さない。
「白と黄色の淡い色合いと……中心のピンクの小花がとても素敵ですわ……リリカ様の髪の色のようです……」
 怒られる、と思っていたリリカは、褒められていることに動揺して真っ赤になって俯いた。
「……ありがとう、ございます……。この配色は……一番好きな色合いなんです……」
 街の音にかき消されてしまいそうな小さなその声に、クリスティアは強く頷く。
「そう思いました……。こんな素敵な色は、決して失なわれてはなりません。リリカ様の髪もです……」
 小首を傾げるリリカに、クリスティアは耳打ちする。
「僭越ながら……。リリカ様は狙われています」
 びくっと身を震わす彼女に、クリスティアは強く頷く。
「心配はご無用……。わたくし達が、必ずお守り致しますわ……」
 クリスティアに握られた手を、リリカは必死に、ぎゅっと握り返した。

「あ、あの……お勧めを一つと、その、お話がぁっ」
 次に狙われる可能性のあるカーレナの勤める喫茶店で、八甲田・獅緒(ib9764)は席から立ち上がる。
 その瞬間、カーレナにぶつかった。
「うおっとー?!」
「あわ、あわわっ、ごめんなさいっ!」
「何をしているんだか」
 倒れそうになるカーレナを、獅緒に呆れながら蒼羅が支え、獅緒は平身低頭で詫びまくる。
「だいじょーぶだいじょーぶ♪ こっちのイケメンが支えてくれたからね。彼氏さん?」
「ち、ち、ち、ちがいますぅううううっ」
 ふふっと笑うカーレナに、獅緒はしどろもどろ。
 彼氏扱いされた蒼羅は「ふむ」とだけ頷き、表情が読めない。
「で、聞きたいことって?」
「ええっとぉっ、そのっ、あのっ……」
「あんたが狙われてるって話さ」
 言葉に詰まる獅緒に代わって、蒼羅が言い切る。
 カーレナの顔から笑顔が消えた。
「い、いまっ、この街で髪を切られる事件が、た、多発してるんですぅ……っ」
 まるで獅緒の髪が今にも切られそうだ。
 ピンクの髪を揺らして、もう涙目。
「オッケー。ちょっとこっちで話を伺おうじゃない。ここじゃ人目もあるしさ」
「そうだな。もう一人紹介したいやつもいるし」
 蒼羅が頷く。
 カーレナが店長に休憩をもらい、蒼羅と獅緒と共に休憩所へと歩いて行く。

「え? 尼僧さん達が睡眠薬をですか?」
 白月は薬剤師の言葉に驚きを隠せない。
 白い尻尾がぴょこんと立った。
 薬剤師が言うには、睡眠不足に悩まされる尼僧がいるとかで、定期的に買いに来ているらしい。
「いつ頃からでしょうか?」
 という白月の言葉に、薬剤師は帳簿を取り出し、確認する。
(事件が起こり始めたころですね)
 声には出さず、白月はこくっと喉を鳴らす。
 同じ薬を一つ購入し、白月は待ち合わせ場所の喫茶店へと駆けてゆく。

「さぞ、辛かったろうな……」
 被害者を前に、竜哉はかける言葉もない。
 身分を明かし、被害者に事件当時の事を聞きにきたのだが、被害女性は鬘の手入れに苦労しているらしい。
『鬘の手入れが楽だなんて思わない事ね。はっきり言って10倍手間かかるわよ。それに高価で庶民にはなかなか手を出せないわ』
 そういっていたユリアの言葉が思い出される。
 だがこれ以上の被害を食い止める為にも、竜哉は沈痛な面持ちの被害者に事情を再度尋ねる。
「……尼僧から紅茶を?」
 事件の日、被害者は街のあちらこちらで悩み相談室を開いてくれている尼僧から、紅茶を貰ったらしい。
 一回分の包みで、現物はもうないそうだが、尼僧から眠る前に飲むと疲れが取れるからと勧められたという。
「大変失礼ですが、ご自宅を確認させていただけますか」
 竜哉に促され、被害者は自宅を開ける。
(一般的な鍵のようだな。窓もこれといって特殊な構造ではない)
 ドアや窓に特殊な細工があればと思って確認した竜哉だが、構造自体はジルベリアの一般的な作りだった。
 ただ、よくよく見ると鍵穴の周辺に粘土を硬くしたような粉が付着している。
 竜哉はそれをハンカチで丁寧に拭き取った。 

●敵は果たして……
「だ、だ、大丈夫ですからねっ」
「獅緒様落ち着いてください……」
 リリカに付き添うクリスティアは、始終おろおろしている獅緒をなだめる。
「ぜ、絶対にリリカさんは守りますから安心して寝ていてくださいねぇ」
 男性が苦手という共通点から、獅緒に親しいものを感じているのだろう。
 リリカは二人に守られながら寝室へ。
「か、彼女はでも、ターゲットじゃないんですよねぇ」
 獅緒がクリスティアに確認を取る。
「竜哉様と蒼羅様の話によれば、彼女が襲われる確率は低いとの事ですが……」
 昼間、皆で情報収集をした結果、新たな事実が判明したのだ。
 その事を考えれば、リリカが今夜襲われる可能性は限りなく低い。
 だが怯えるリリカをそのままにしておくなど出来ず、守ると約束したリリカの身に、万が一があってはならない。
「気を緩めずに……」
 敵が来ないかもしれないことにほっとする獅緒に注意を促し、クリスティアは野外の警備に部屋を出てゆく。

「来ましたね」
 カーレナの自宅を路地裏から伺っていた白月は、こくっと息を呑む。
「予想通りだな」
 蒼羅が剣を抜く。
 彼らの潜む路地裏からは、今まさにカーレナの自宅に侵入しようとする犯人達の姿が。
 だが白月も蒼羅もまだ犯人を止めはしない。
 決定的な証拠を掴んでからだ。
 犯人グループの一人が、ドアの鍵を開ける。
 彼らが完全に中に入ったのを確認し、蒼羅と白月も後に続く。

「そこまでよ!」
 カーレナの寝室に侵入し、犯人達がベットに近づいた瞬間、ユリアが布団を跳ね除け床に降り立ち、思いっきり呼子笛を吹く。
「貴方達の犯行はここまでだ」
 咄嗟に逃げようとした犯人の退路を、部屋の死角に潜んでいた竜哉が塞ぎ、明かりを灯す。
 そして直ぐに、白月と蒼羅が駆けつける。
 部屋の明かりに灯された犯人達は三人。
 いずれも尼僧だ。
「くっ……っ!」
「無駄よ! 髪は女の命よ。軽んじるなんて言語道断ね。後悔させてあげるわ」
 長い髪を揺らし、逃げ場を失った犯人にユリアは鞭を片手ににじり寄る。
「これでもくらえっ!」
 追い詰められた犯人達が、なにか粉を撒き散らした。
「皆さん息を止めてください、睡眠薬です!」
 白月が気づき、自身の口と鼻を咄嗟に黒夜布レイラで塞ぐ。
 無言で蒼羅が窓を開け放つ。
 睡眠薬は部屋に篭ることなく、また開拓者達が吸い込むこともなく床に散らばった。
「まだ逃げれると思っているのか? 髪を奪われた者達の悲しみを判っているのか」
 窓から逃げようと走り出した尼僧の足に、竜哉のジプシークロースが放たれる。
 足を取られた尼僧は無様に床に転った。
 女性だと思い手加減しているものの、竜哉の目は険しい。
 昼間会った被害女性達の悲しみが、常に紳士たる竜哉をそうさせるのだろう。
「貴様もだな。往生際の悪い」
 蒼羅の手裏剣がこっそりドアに近づこうとしていた尼僧の横の壁に突き刺さる。
 尼僧は言葉にならない声を上げてその場にへなへなと座り込んだ。 
 
●禿と呼ばないで
「暗闇で髪を剃れるくらいの技能なら、まともに床屋をすればいいのよ」
 もっともな事を言い切るユリアに、竜哉も頷く。
「見事な技術があるなら、眠ってる間に散髪を終わらせる新しいスタイルの床屋が出来ただろうに」
 だが縛り上げられた尼僧たちは、つーんとそっぽを向いている。
「鍵を予め複製しておくとは。鍵屋を通さずによくも出来たものだ」
 蒼羅が呆れる。
 尼僧達は、予めターゲットの家に赴き、鍵穴から型を取って合鍵を作っていたのだ。
 竜哉が発見した粘土のような塊は、その時付着したもの。
 蒼羅が街の鍵屋に確認し、合鍵を頼まれた事がないかを確認した時に、鍵がなくとも開ける方法も確認したのだ。
 もちろん、開拓者でなくとも開けられる方法としてだ。
 そこで出てきたのが、模りの手法。
 鍵を無くしてしまった時に主に用いられるのだが、鍵穴に椿油などを流し込み滑りを良くし、そこに粘土を押し込む。
 数時間かかるが固まった粘土は数回ならそのまま合鍵として用いれるし、粘土を元にきちんとした合鍵を作ることも出来る。
 尼僧達はこの方法で粘土の合鍵を用いて被害者宅へ侵入していたのだ。
 それに気づいた開拓者達は、次の被害者であると予測された三人の自宅の鍵穴を確認し、粘土の付着が認められたカーレナの家が次の被害者だと特定できたのだ。
「じ、時間稼ぎの為に相談に乗っていたなんて、あんまりですぅ……」
 獅緒も涙目で抗議。
 粘土が固まるまでの時間は、ターゲットの悩みを親身に相談に乗って稼いでいたというのだから、呆れるばかり。
「禿げって呼んだのが悪いのよーーーっ!!!」
 拘束されながら、じたばたと喚く尼僧たち。
 そもそもの犯行の動機は、寺院近くの最初の被害者の言葉だった。
『禿げって、最悪よね』
 その聞えよがしの一言が、尼僧の中の何かを抉り出してしまったのだ。
「戯言は、裁きの場で存分に仰って下さいな……」
 呼子笛で獅緒と共に駆けつけたクリスティアは、言い訳をわめく尼僧に冷たく言い切る。
「僕、禿げを否定したりはしません。尼僧は、人々の悩みを真摯に聞いて、神様に祈りを捧げる素敵な職業だと思います。でも、今回の事はどうか反省してください」
 白月の金色の瞳は真っ直ぐで、穢れきった尼僧達には眩し過ぎた。
 ぽろぽろと涙を流す尼僧達。
 こうして。
 ポアリュアの街を騒がせた髪切り事件は幕を閉じたのだった。