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■オープニング本文 ジルベリア最北領スウィートホワイト。 その南の町ポアリュアの臨時開拓者ギルドで、妙齢の婦人がさめざめと泣いていた。 「ミケとタマが行方不明ですの……」 「ペットですか」 レースのハンカチを握り締めて泣く婦人に、受付係はペンをとる。 「いいえ! ミケとタマはペットなんかじゃありませんっ、家族なんです! この寒空の中、きっとお腹をすかせて鳴いているんですぅううううっ……」 くわっと青い瞳を見開いて叫ぶ婦人に、受付係は、 (面倒くさそうなお方ですね) と心の中だけで思い、眼鏡を押さえる。 そう、こういった思い込みの激しそうなタイプには、下手なことはいわないほうがいいのだ。 「では、『家族の』ミケとタマが行方不明なんですね。二匹の特徴を教えていただけますか」 家族といいなおし、尋ねなおす受付係。 婦人は満足げに頷き、話し出す。 「そう、ミケはとても愛らしいんです。くりくりとした大きな黒い瞳は、黒曜石のよう。撫でると毛並みはビロードの手触り。それでいて鳴声は逞しいんですのよ。わたくしが餌を持っていくと、ガオーガオーって。それは激しく鳴いて甘えてくるんですの」 ガオーガオー。 その鳴声に、受付は嫌な予感を覚えた。 正直、あまり続きを聞きたくないような。 だがしかし、これは仕事。 受付係は、婦人に先を促す。 「タマは、ちょっとやんちゃな子ですの。そう、二匹が逃げてしまったのも、そもそもタマが檻を蹴破ってしまったせいなのですわ。もっと頑丈な檻を買ってくるよう、セバスチャンにはよくよく言って聞かせないといけないわ」 セバスチャンとは、恐らく使用人の名前だろう。 それよりも、檻を蹴破るペット。 ますます聞きたくないのだが。 「ミケもタマもとっても人懐っこくて、いいこ達なの。ああ、可愛いあの子たちが、悪人に連れ去られてしまったら?! もう、夜も眠れません。今すぐ、探してくださいませ!」 折り畳んで手にしていた日傘を放り投げ、婦人はバンッとカウンターを叩く。 衝撃で受付係の眼鏡がずり落ちた。 「そうですね。今すぐ手配させていただきましょう。その為にも、もっと具体的なことを教えていただけますか? ミケとタマの大きさや、種類、それに毛色や好物の餌などですね」 眼鏡と気を取り直し、受付係はもっとも聞きたくないことを確認する。 「あら、言わなかったかしら。ミケもタマもジルベリアタイガーですの。大きさは、そうね、まだ子供だから170cmぐらいかしら。ミケがメスで、タマがオスよ。ミケは白と黒の縞々で、タマは真っ白なの。雪に溶け込みそうな美しい子達だから、直ぐにわかると思うわ。好物はそうね、あまり好き嫌いはないのだけれど、秋刀魚はとても好きね。樽一杯の秋刀魚を一瞬で平らげてしまうの」 あぁ、やっぱり。 記録係の嫌な予感、的中。 「寒空に震えるあの子達を、ぜひぜひ護ってくださいませ……っ」 涙ながらに訴える婦人に、受付は、 (震えてるのは恐怖におびえる住民ですよ) やっぱり心の中で呟いて、急ぎ、依頼書を作成するのだった。 |
■参加者一覧
小伝良 虎太郎(ia0375)
18歳・男・泰
御形 なずな(ib0371)
16歳・女・吟
綺咲・桜狐(ib3118)
16歳・女・陰
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎
紫ノ宮 莉音(ib9055)
12歳・男・砂
鹿島 綾(ic0145)
20歳・女・騎
ビシュタ・ベリー(ic0289)
19歳・女・ジ
遊空 エミナ(ic0610)
12歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●飼い主ω 「どうしてこうなった」 ビシュタ・ベリー(ic0289)は冷や汗を流しながら、この状況に戸惑いを隠せない。 同じようにでかくて獰猛なクマなら、まだ彼女には対応できるのだ。 だが、ネコ科は専門外だった。 「ん、可愛いにゃんこと戯れられると聞いて参加したのに、どうしてこうなった……です」 綺咲・桜狐(ib3118)も頷く。 タマとミケ。 そんな名前を聞けば、真っ先に想像するのは猫ではないか。 だが目の前の檻は、どう見ても巨大過ぎて、桜狐の尻尾がくるっと丸まって震え上がる。 「猫……の仲間ではあるね、一応」 トラはトラでも、こっちは随分と愛らしい小伝良 虎太郎(ia0375)が、檻の形状をよくよく確認している。 (移動は出来そうだね。同じタイプの檻の予備ってあるのかな) 壊れた檻には小さな車輪がついており、きちんとストッパーまでついていた。 (無事にミケとタマが見つかると良いな。……私達が無事に帰ってこれるかどうかを、心配したほうが良いのかもだけど) 長く黒い兎耳をふわっと揺らし、遊空 エミナ(ic0610)はそんな事を思う。 目の前でひしゃげている檻をみると、そう思うのも無理はない。 とりあえずミケとタマの事、そして状況をより詳しく知る為に、皆で依頼人の婦人の家を訪れていた。 「普段はどのように接していましたか」 鹿島 綾(ic0145)が凛とした雰囲気を漂わせながら、婦人に尋ねる。 鉄の檻を壊すレベルの、獰猛な二匹。 綾のように、常に鎧をまとっていなければ、触れ合う事など不可能ではないか? だが目の前の婦人は、ジルベリアではごくありふれたドレス姿なのだ。 「ミケもタマも、とっても良い子ですの。わたくしが側によると、すぐに喉を鳴らして、擦り寄ってきて……」 「爪の対応はどうされていましたか」 「特にしていませんわ? ミケもタマも、爪なんて立てませんのよ?」 婦人との会話だと、対策を立てられそうにない。 (この惨状だけれど、見た目自体は、婦人がここまで惚れ込むほど可愛いものなのかしら?) 名前負けの、真逆を想像してしまう綾だったが、それよりもなによりも、この婦人からミケとタマを従わせる方法を聞きだすことは難しそうだった。 「ゴロゴロ喉を鳴らすとか! ミケちゃんとタマちゃん、それはそれは可愛いのでしょうねー♪」 うっとりしている婦人に、紫ノ宮 莉音(ib9055)が嬉しそうに頷く。 集まった開拓者の中で、たぶん唯一冷や汗をかいてない。 莉音にの言葉に、ぱっと顔を輝かせる婦人。 「僕は、猛獣の可愛いところって、やっぱり太い手足と大きな肉球だと思うなあ。婦人もそうかしら?」 「わかってらっしゃるわ! えぇ、すべてが良いのよ」 熱く熱く、ミケとタマについて語る莉音と婦人。 (猫はコタツで丸くなっとればええのんに。こんな寒い日に外に飛び出してしまうとはなぁ) そんな二人の横で、御形 なずな(ib0371)はフードファー「ダブルダウン」の前を手繰り寄せる。 動きが阻害されるほどではないが、暖かいとは言いがたい気温に、軽くため息。 「おーい、みんな! 秋刀魚を山ほど買ってきたぞーーーー!」 不意に、みんなを呼ぶ声が聞こえて、全員振り向いた。 「うふふ……これだけ大量にあれば、どんなねこさんもいちころだろう」 どんっ! どどどんっ! みんなの前に、山ほどの秋刀魚が入ったバケツをどかどかと置いていくラグナ・グラウシード(ib8459)。 背中に背負ったウサギのぬいぐるみの『うさみたん』も、どやっと言わんばかりに嬉しそうに見える。 「秋刀魚……丁度良かったのです……」 婦人に調達をお願いしようとしていた桜狐は、こくこくと頷く。 でもまだ尻尾は丸まってたり。 「お腹空かせてるかもだしな。あとちょっと聞きたいんだけど、檻は予備あるかな?」 檻のチェックを終えた虎太郎も秋刀魚に頷き、壊れた檻の予備を尋ねる。 さっきまで予備を探していたのだが、部屋にはそれらしきものは存在せず。 「えぇ、もちろんですわ」 婦人が自信満々に頷く。 (嫌な予感しかせぇへんで?) 口には出さずとも、なずなはちょっと後ずさり。 「こちらですわぁ〜」 婦人が使用人に命じて持って来させた檻に、なずなは『げっ!』と言いたいのをぐっとこらえる。 予備の檻は、壊れた檻より二周りは大きくて、所々に秋刀魚の彫刻が掘られていた。 「でかいけど、車輪はついてるし、持ち運びは出来そうだよね。このままにしておくわけにもいかないし、頑張って確保しよっか!」 虎太郎がえいっと檻を動かして。 お猫様探し、スタート! ●お猫様はいずこω 「けっこう重いな」 うんしょ、うんしょ。 虎太郎が檻を運びながら呟く。 車輪がついていても、雪のせいか少しばかり運びづらい。 でもそれよりもなによりも、虎太郎の格好が凄かった。 まるごととらさんをすっぽりとかぶり、ちっこいトラになりきっているのだ。 檻には毛布がかけられ、一見檻と言うよりも箱に見えた。 「手伝うのです……受けた以上は頑張らないとです」 桜狐が、一緒に運び出す。 いくら重みがあるとはいえ、志体持ち二人にかかれば、なんて事は無い。 「かわいそうだが……必要だろうしな」 檻を見て、ラグナがポツリと呟く。 可愛いであろうジルベリアタイガーの二匹を、檻に入れることに抵抗があるようだ。 「お腹を空かせているのなら、魚が取れる川へ行ったりしそうなのだけれど。どうかしら?」 綾が聞けば、なずなが首を振る。 「この気温やから、まだ川凍っとるんちゃうかな」 「そうね。凍った川ぐらい砕けそうな子達だけど、そもそも川と縁がないかもしれないわね」 自分達の手で秋刀魚をとった事が無ければ、川へはあまり行かないかもしれない。 「うちが軽く占ってみるよ。星はまだ出ていないから、カードにしよう」 ビシュタが雪原に座り、精霊占術を用いながら自前のカードをめくる。 「なにかわかりそうかな」 毛布を背負ったエミナが、小首を傾げる。 タマとミケが温まれるように、エミナは毛布を持参したのだ。 「そうだな。まず方向は、ここから西北って出てる。二匹とも無事なようだ」 「都に花が咲いているのが嘘のように寒いもの。早く見つけてあげなくっちゃ」 ビシュタがいう西北に、莉音は目を細める。 彼女の瞳孔が輝いて、遥か遠くまで見渡せた。 「かなり遠くやけんど、鳴声らしき物が聞こえるで」 超越聴覚を使ってみたなずなも、西北に耳を澄ます。 「見つけたと思う! たぶん、あの白っぽいのと縞々っぽいのがそうだと思う!」 莉音が興奮気味に叫ぶ。 「足跡はこれね。辿れそうな感じよ」 エミナが、まだ消えていない足跡を発見する。 足跡は、左右に蛇行したり、重なり合ったりしながら、北西に向かって伸びていた。 ●お猫様ω そうっと、そうっと。 二匹のジルベリアンタガーに忍び寄る開拓者達。 (猫科の生き物って箱とか袋に入るの好きだけど、ミケとタマもそうなのかな?) じゃれあうミケとタマをみていると、大きさ以外は普通の猫と変わりなく、エミナはそんな事を思う。 「結構距離あるし、この辺でいいかな」 檻から手を放し、虎太郎は持ってきていた七輪に火を点ける。 焼くのはもちろん秋刀魚だ。 「ん、これも焼いてみるのです」 桜狐が、なぜか大好物の油揚げまでも七輪に乗せる。 秋刀魚の香ばしい匂いと、油揚げの甘みのある香りが漂いだした。 「と……虎縞のねこさんとかじゃなくって? 真っ白いお猫様の見間違いってことだったりなんか」 「ないない。正真正銘のジルベリアタイガーや」 抱えていた秋刀魚入りバケツを落しそうな勢いで目を見開いているラグナに、即座に突っ込みを入れるなずな。 「あなた……普通の猫だと思っていたんですか……」 道理で幸せそうだったと、桜狐は納得。 「い、いや、そんなことは無いぞ。ただちょっと、想定よりも育っていただけだ、うむ」 何とか自分を納得させようとするラグナ。 だがその時。 二匹のジルベリアタイガーが、ぴくぴくっと鼻をひくつかせた。 「みんな、避けて!」 ビシュタがとっさに鞭を雪原に叩きつけるのと、二匹が秋刀魚の匂いに釣られて跳躍してくるのが同時だった。 『ぐるるうるるぅ……』 怒っているのか懐いているのか。 よくわからない喉の鳴らし方をして、タマはビシュタに足止めをくらい、ミケはラグナににじり寄る。 (あ、結構側で見ると、目とかくりっくり? お髭もピンと伸びてて凛々しいし。かなりの美形さん?) 今にも食われそうな状況で、ラグナはジルベリアタイガーの魅力にちょっとくらくら。 「ミケー! タマー! こっちだぞー!!」 虎太郎が叫んで、七輪を思いっきり団扇で扇ぐ。 一気に香ばしい匂いがミケとタマに流れて行き、二匹の目が煌いた。 『ガーーーーーーーーーオーーーーーーーーーーーーー!』 二匹が鳴いて、虎太郎に突っ込んでゆく。 雪が舞い上がり、視界がかすんだ。 「ミケちゃんタマちゃん、こっちにもいらっしゃい!」 莉音がブレスレット・ベルを鳴らして、声をかける。 手首を降るたびにシャラシャラなるその音は、適当に鳴らしていても好奇心旺盛な二匹には効果十分。 虎太郎を氷のオブジェに追い詰めかけていた二匹が、くるっと方向を変えて莉音に走ってくる。 「隠れさせてもらうよ! ほらほら、こっちにもきな!」 綾の盾に守られながら、ビシュタは回避を上げて二匹を挑発。 びしびしと放たれる鞭は、二匹には縁のないものなのか、動くおもちゃと思っているのか。 ひょいひょいと、大きな前足でちょっかいをかけてくる。 (なるほど。爪は本当に出していませんね) ビシュタの鞭で遊ぶタマの手をよく観察し、綾は爪がでていないのを確認。 婦人が言っていた通りだった。 だが腕力はやはりかなりのもの。 ビシュタの鞭に興奮して、思いっきり振り下ろした前足が、狙いそれて氷のオブジェを粉々に砕いた。 タマは何が起こったのかわかっていないようだが、遊ぶのをやめる気もないようだ。 「力には自信があるけれども。だからと言って、真っ向から受け止めていい相手では無さそうね」 オーラを身にまといながら、綾は目の前で起こった事実に気を引き締める。 壊れたのが氷のオブジェだったからいいものの、これが人間だったら死にかねない。 「こっちにもはいってみるかな?」 エミナが毛布を広げる。 そして裾をエイッと持ち上げると、袋状になっていた。 毛布を二枚縫い合わせて、袋状にしてあったのだ。 ミケが首をかしげながら嬉しそうに駆け寄ってくる。 人間、大好き。 そんな雰囲気を全身から迸らせて、思いっきりアターーック! と、思いきや。 「やっぱり好きだったのね」 エミナの顔に笑みが浮かぶ。 ミケが袋の中で幸せそうに丸くなったのだ。 「お腹いっぱいになったら大人しくなるかもですし、一杯食べさせてあげましょう。次々に、焼いていきます……」 エミナに突っ込みかけたミケの目の前に、桜狐が焼き立ての秋刀魚を投げる。 もちろん、投げる時に軽く雪で粗熱とり済み! 猫舌の特性はばっちり残っていたミケは、けれど秋刀魚を一瞬で平らげた。 「うわー、おまえはっやいなぁ!」 再びタマに追いかけられた虎太郎が、瞬脚で凄まじい走りを見せる。 それでもタマは虎太郎を追いかけるのをやめない。 やはりまるごととらさん効果で、仲間にしか見えていないのかもしれない。 「後は疲れるまで動き回らせるしかないでしょうか? ……下手にじゃれられるとこちらがかなり危険そうですけど」 どんどん焼いている桜狐だが、ほんのりどころではない身の危険を感じていた。 「餌はここにもあるんやで!」 なずながお寿司を投げつける。 きゅっとユーターンして、タマは虎太郎からお寿司に浮気した。 そしてなずなは、すこしでも二匹をなだめようと、歌を歌いだす。 ♪〜 ニャンニャンニャーン ねこねこねこねこ 大きな子猫 それが虎 毛並みしっとり 舌はザラザラ 牙は鋭く 爪で切り裂き 獲物を蹴散らす。 ガオーガオーガオー〜♪ なずなが歌い終わってみると、ミケとタマがうとうとしはじめて。 「寝ちゃう前に、こっちにはいりな」 毛布をかけて、まるで箱のようになった檻に、うとうと眼の二匹を誘導する。 ●抱きしめるのは程ほどにω 何とかかんとか、捕獲に成功したミケとタマ。 檻の中というより、箱の中にいる安心感か、機嫌は良さそう。 幸せそうな寝息を立てている。 「……ち、ちょっとだけ……」 出来心に、ラグナは自分を抑えれなかった。 こそっと檻の中にはいる。 こんな巨大なお猫様に抱きつけるのは、きっといましかない! ぽふっ☆ 檻の中で、ころころとくつろぐ二匹に、ラグナがついに抱きついた。 手入れの行き届いた二匹の毛は、野生のそれとは比べ物にならないぐらい柔らかくふわふわで、ラグナは至福に頬を染める。 「ジルベリアタイガーって格好良くていいね。相棒に出来ないかなぁ?」 虎太郎が眠る二匹の頭を撫でる。 「檻……これ、丈夫な奴でしょうか? 捕まえて入れたはいいけど、また逃げたとかは勘弁です……」 どさくさにまぎれて、ミケとタマのお腹にもっふりもっふりしながら、桜狐が洒落にならないことを言う。 大きさ的に恐らく前のものよりも余裕があるし、檻の一本一本の鉄棒が太く変更されていたから、近日中に壊されることはないだろう。 「起きている時もかわいかったけれど、寝顔はまた格別ね」 莉音も嬉しげに撫でる。 「あの御婦人って、実は凄く強かったりするのかしら……」 修理は出来そうだが、べっこりと凹んだたてをみて、綾は首を傾げる。 「そろそろ睡眠薬が効いてきたんだね」 撫でられまくっても決して起きない二匹に、ビシュタは薬が良く効いていることを確認。 ここに来るまでの間に、秋刀魚にあらかじめ仕込んでおいたのだ。 (ミケとタマが逃げ出さなくて済むようしっかり見ておくか、もっとのびのび暮らさせてあげて欲しいって、ちゃんと婦人に伝えておかなくちゃ) エミナは幸せそうな二匹に、そんな事を思う。 だが次の瞬間、タマがかぷっとじゃれついた。 そう、ラグナの頭をかぷっと。 故意というより、無意識。 「きゃーーーーーーーーーーーー?!」 次々に上がる叫び声。 そして当のラグナは。 「…………だ、大丈夫だ、これぐら……い……ぐはぁっ!」 ものすごく幸せそうな顔のラグナは、タマにがっぷりと頭を齧られたまま、血反吐を吐いて気を失った。 タマを抱きしめる腕は、決してはなさい。 きっと、夢の中で二匹と戯れている事だろう。 「死なないでぇえええええっ!」 全員で、必至にラグナを檻から引きずり出して。 どうにかこうにか、人騒がせなこの依頼を解決したのだった。 |